(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主体金具の先端面や接地電極の後端面の状態によっては、主体金具に対して接地電極を接合する際に、接地電極が狙いの接合位置から主体金具の径方向に沿ってずれ動いてしまうことがある。このような接地電極のずれ動きが生じてしまうと、接地電極の先端部と中心電極の先端部との対向面積が狙いの面積に対して増減してしまい、着火性及び耐久性のうちの一方が不十分となってしまうおそれがある。具体的には、対向面積が狙いの面積よりも増加してしまうと、消耗体積の増大により耐久性は向上するものの、電極により火炎核の成長が阻害されやすくなるため、着火性が低下してしまう。一方、対向面積が狙いの面積よりも減少してしまうと、火炎核が成長しやすくなり、着火性は向上するものの、消耗体積が減少し、耐久性が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗溶接により主体金具に対して接地電極を接合する際に、接地電極のずれ動きを効果的に抑制することができ、ひいては着火性や耐久性にバラツキが生じてしまうことをより確実に防止できるスパークプラグ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0008】
構成1.本構成のスパークプラグは、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
抵抗溶接により自身の後端部が前記主体金具の先端面に接合され、前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する棒状の接地電極とを備えるスパークプラグであって、
前記主体金具の先端面には、自身の幅が前記接地電極の後端部の厚さよりも大きい溝部が設けられ、
前記溝部の少なくとも一部は、自身を通るとともに前記軸線を含む断面において、前記主体金具の外周面と前記主体金具の内周面との間に配置され、
前記溝部のうち前記主体金具の外周面と前記主体金具の内周面との間に配置される部位内に前記接地電極の後端面が配置された状態で、前記主体金具の先端面に前記接地電極が接合され
、
前記軸線を含む断面における前記溝部は、前記接地電極の後端部の厚さよりも大きい幅と、前記接地電極の後端部の厚さよりも小さい幅とを有していることを特徴とする。
【0009】
上記構成1によれば、溝部のうち主体金具の外周面と主体金具の内周面との間に配置される部位内に接地電極の後端面が配置された状態で、主体金具に対して接地電極が接合されるように構成されている。すなわち、主体金具の外周側部分と主体金具の内周側部分との間に接地電極の後端面を配置した状態で、接地電極が接合されるように構成されている。従って、抵抗溶接時において、主体金具の外周側部分及び主体金具の内周側部分により、主体金具の径方向に沿った接地電極の移動を規制することができ、接地電極のずれ動きを効果的に抑制することができる。その結果、中心電極及び接地電極の対向面積をより確実に狙いの面積とすることができ、着火性や耐久性にバラツキが生じてしまうことをより確実に防止できる。
また、上記構成1によれば、溝部の幅が軸線方向後端側に向けて徐々に減少するように構成すること等により、溝部は、接地電極の後端部の厚さよりも大きい幅と、接地電極の後端部の厚さよりも小さい幅とを有している。従って、抵抗溶接時において、接地電極を主体金具の先端面(溝部を形成する面)に押し当てた際に、主体金具の先端面から接地電極に対して接地電極を挟み込む方向の力が加わることとなる。その結果、接地電極のずれ動きをより一層効果的に抑制することができる。
【0010】
構成2.本構成のスパークプラグは、上記構成1において、前記溝部の前記主体金具の周方向に沿った長さが、前記接地電極の後端部の幅よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
上記構成2によれば、抵抗溶接時において、接地電極の後端面の全域を溝部内に配置することができる。従って、抵抗溶接時における接地電極のずれ動きを一層効果的に抑制することができる。
【0012】
構成3.本構成のスパークプラグは、上記構成1又は2において、前記溝部は、前記主体金具の周方向全域に亘って設けられることを特徴とする。
【0013】
尚、溝部を主体金具の周方向全域に亘って設けた場合、「前記溝部の前記主体金具の周方向に沿った長さ」とあるのは、主体金具の径方向に沿った溝部の中心を通り、主体金具の周方向に沿って延びる線の長さをいう。
【0014】
主体金具の先端面の一部のみに溝部が形成されている場合には、主体金具に対する接地電極の接合位置が溝部の形成位置に限定されてしまう。
【0015】
この点、上記構成3によれば、主体金具の周方向全域に亘って溝部が設けられている。従って、主体金具に対する接地電極の接合位置を自由に選択することができる。
【0016】
構成4.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記溝部の前記軸線に沿った深さが0.1mm以上であることを特徴とする。
【0017】
上記構成4によれば、主体金具の外周側部分及び主体金具の内周側部分により、接地電極の移動をより確実に規制することができ、接地電極のずれ動きを一層効果的に抑制することができる。その結果、中心電極及び接地電極の対向面積を一層確実に狙いの面積とすることができ、着火性や耐久性にバラツキが生じてしまうことをより一層確実に防止できる。
【0020】
構成
5.本構成のスパークプラグの製造方法は、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の先端側に挿設された中心電極と、
前記絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、
自身の後端部が前記主体金具の先端面に接合され、前記中心電極の先端部との間で間隙を形成する棒状の接地電極とを備えるスパークプラグの製造方法であって、
前記主体金具の先端面に、自身の幅が前記接地電極の後端部の厚さよりも大きい溝部を設ける溝部形成工程と、
抵抗溶接により、前記主体金具の先端面に前記接地電極を接合する接合工程とを含み、
前記溝部形成工程において、前記溝部の少なくとも一部は、自身を通るとともに前記軸線を含む断面において、前記主体金具の外周面と前記主体金具の内周面との間に配置されるように形成され、
前記接合工程において、前記溝部のうち前記主体金具の外周面と前記主体金具の内周面との間に配置される部位内に前記接地電極の後端面が配置された状態で、前記主体金具の先端面に前記接地電極が接合され
、
前記軸線を含む断面における前記溝部は、前記接地電極の後端部の厚さよりも大きい幅と、前記接地電極の後端部の厚さよりも小さい幅とを有していることを特徴とする。
【0021】
上記構成
5によれば、上記構成1と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0022】
構成
6.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成
5において、前記溝部の前記主体金具の周方向に沿った長さが、前記接地電極の後端部の幅よりも大きいことを特徴とする。
【0023】
上記構成
6によれば、上記構成2と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0024】
構成
7.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成
5又は
6において、前記溝部は、前記主体金具の周方向全域に亘って設けられることを特徴とする。
【0025】
上記構成
7によれば、上記構成3と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0026】
構成
8.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成
5乃至
7のいずれかにおいて、前記溝部の前記軸線に沿った深さが0.1mm以上であることを特徴とする。
【0027】
上記構成
8によれば、上記構成4と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0028】
構成
9.本構成のスパークプラグの製造方法は、上記構成
5乃至
8のいずれかにおいて、前記接合工程後において、
前記接地電極の切断による前記接地電極の長さの調整を行わないことを特徴とする。
【0029】
中心電極と接地電極との対向面積を狙いの面積とするために、接地電極を切断し、接地電極の長さを調整することが考えられる。しかしながら、この場合には、接地電極を切断するための工程を別途設ける必要が生じてしまい、生産性の低下を招いてしまうおそれがある。
【0030】
この点、上記構成
5等によれば、中心電極と接地電極との対向面積をより確実に狙い面積とすることができる。そのため、上記構成
9のように、接地電極の切断による接地電極の長さ調整を不要とすることができ、生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】スパークプラグの構成を示す一部破断正面図である。
【
図2】スパークプラグの先端部の構成を示す一部破断拡大正面図である。
【
図3】主体金具の先端面等の構成を示す底面図である。
【
図4】溝部形成面等の構成を示す拡大端面図である。
【
図6】主体金具に対する接地電極の溶接態様を示す拡大断面図である。
【
図7】ねじ径をM10としたサンプル1において、各溶接位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図8】ねじ径をM14としたサンプル1において、各溶接位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図9】ねじ径をM10としたサンプル2において、各溶接位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図10】ねじ径をM14としたサンプル2において、各溶接位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図11】ねじ径をM10としたサンプル3において、各溶接位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図12】ねじ径をM14としたサンプル3において、各溶接位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図13】ねじ径をM10としたサンプル4において、各接地電極配置位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図14】ねじ径をM14としたサンプル4において、各接地電極配置位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図15】ねじ径をM10としたサンプル5において、各接地電極配置位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図16】ねじ径をM14としたサンプル5において、各接地電極配置位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図17】ねじ径をM10としたサンプル6において、各接地電極配置位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図18】ねじ径をM14としたサンプル6において、各接地電極配置位置におけるサンプルの数を示すグラフである。
【
図19】ねじ径をM10としたサンプル4〜6における、安定着火限界時期の最大値及び最小値を示すグラフである。
【
図20】ねじ径をM14としたサンプル4〜6における、安定着火限界時期の最大値及び最小値を示すグラフである。
【
図21】別の実施形態における溝部の構成を示す底面図である。
【
図22】別の実施形態における溝部の構成を示す底面図である。
【
図23】別の実施形態における溝部形成面の構成を示す拡大端面図である。
【
図24】別の実施形態における溝部形成面の構成を示す拡大端面図である。
【
図25】別の実施形態における溝部形成面の構成を示す拡大端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、
図1では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0035】
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
【0036】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0037】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って延びる軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿設されている。中心電極5は、熱伝導性に優れる金属〔例えば、銅や銅合金、純ニッケル(Ni)等〕からなる内層5Aと、Niを主成分とする合金からなる外層5Bとを備えている。また、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端部分が絶縁碍子2の先端から突出している。
【0038】
加えて、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0039】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0040】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側には座部16が外周側に向けて突出形成されており、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられている。また、主体金具3の後端部には、径方向内側に向けて屈曲する加締め部20が設けられている。
【0041】
さらに、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3に対してその後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって主体金具3に固定されている。尚、段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0042】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間には滑石(タルク)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及び滑石25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0043】
また、
図2に示すように、主体金具3の先端面26には、Niを主成分とする合金からなる棒状の接地電極27が設けられている。接地電極27は、自身の後端部が主体金具3の先端面26に溶接されるとともに、自身の中間部分が曲げ返されて、自身の先端側側面が中心電極5の先端部と対向している。また、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間には、間隙としての火花放電間隙28が形成されている。そして、当該火花放電間隙28に電圧が印加されることで、火花放電間隙28において軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0044】
さらに、主体金具3の先端面26には、自身の幅(最大幅)DWが接地電極27の後端部の厚さGTよりも大きな溝部31が形成されている。溝部31は、
図3に示すように、主体金具3の周方向全域に亘って延びる環状をなし、溝部31の主体金具3の周方向に沿った長さDLは、接地電極27の後端部の幅GWよりも大きなものとされている。尚、溝部31を主体金具3の周方向全域に亘って設けられる場合において、「溝部31の長さDL」とあるのは、主体金具3の径方向に沿った溝部31の中心を通り、主体金具3の周方向に沿って延びる環状の線LIの長さをいう。
【0045】
さらに、
図4に示すように、溝部31は、少なくとも接地電極27の後端部が配置される部位において(本実施形態では、周方向全域において)、軸線CL1に沿った深さ(最大深さ)DDが0.1mm以上とされている。
【0046】
加えて、主体金具3の先端面26のうち溝部31を形成する溝部形成面26Aは、径方向内側に向けて軸線CL1方向先端側に傾斜する内周側傾斜面26Bと、径方向外側に向けて軸線CL1方向先端側に傾斜する外周側傾斜面26Cとを備えている。内周側傾斜面26B及び外周側傾斜面26Cは、隣接するとともに、先端面26の最外周と先端面26の最内周との軸線CL1と直交する方向に沿った中心を通り軸線CL1に平行な仮想面VLを挟んで対称となるように形成されている。すなわち、溝部形成面26Aは、軸線CL1を含む断面において、V字状をなすように構成されている。
【0047】
尚、内周側傾斜面26Bや外周側傾斜面26Cは平坦状でなくてもよく、例えば、
図5に示すように、内周側傾斜面36Bや外周側傾斜面36Cが湾曲面状をなすように溝部形成面36Aを構成してもよい。すなわち、軸線CL1を含む断面において、溝部形成面36AがU字状をなしていてもよい。
【0048】
加えて、
図4に示すように、溝部31の少なくとも一部(本実施形態では、溝部31の全域)は、自身を通るとともに軸線CL1を含む断面において、主体金具3の外周面3Aと主体金具3の内周面3Bとの間に配置されている。すなわち、溝部31の少なくとも一部は、自身を通るとともに軸線CL1を含む断面において、主体金具3の外周側部分と主体金具3の内周側部分とで挟まれた状態となっている。
【0049】
また、上述の通り、溝部形成面26Aが内周側傾斜面26B及び外周側傾斜面26Cを有することから、軸線CL1を含む断面における溝部31は、接地電極27の後端部の厚さGTよりも大きい幅と、前記厚さGTよりも小さい幅とを有している。
【0050】
加えて、本実施形態では、主体金具3に対して接地電極27を接合するにあたって、溝部31のうち主体金具3の外周面3Aと主体金具3の内周面3Bとの間に配置される部位内に接地電極27の後端面が配置された状態で、抵抗溶接により主体金具3の先端面26に接地電極27が接合されるように構成されている。
【0051】
尚、本実施形態では、主体金具3の先端面26のうち接地電極27が接合された部位に溝部31が存在しているが、溶接条件によっては、接地電極27の接合時に主体金具3の先端面26が平坦状となり、主体金具3のうち接地電極27の接合部位において溝部31を確認できないことがある。しかしながら、少なくとも主体金具3に対して接地電極27を接合する際に、先端面26のうち接地電極27の接合予定部位に溝部31が形成されていればよい。
【0052】
次に、上記のように構成されてなるスパークプラグ1の製造方法について説明する。
【0053】
まず、主体金具3を予め加工しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えば、鉄系素材やステンレス素材)に対して冷間鍛造加工等を施すことにより概形を形成するとともに、貫通孔を形成する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具3を得る。
【0054】
次いで、溝部形成工程において、塑性加工や切削加工を行うことで、主体金具3の先端面26に前記溝部31を形成する。このとき、溝部31の少なくとも一部(本実施形態では、溝部31の全域)は、自身を通るとともに軸線CL1を含む断面において、主体金具3の外周面と主体金具3の外周面との間に配置されるように構成される。また、溝部31は、主体金具3の周方向全域に亘って形成される。加えて、溝部31は、少なくとも後述する接合工程において接地電極27が配置される部位(本実施形態では、周方向全域)における深さDDが0.1mm以上とされる。尚、本実施形態において、深さDDは、0.5mm以下とされる。
【0055】
さらに、主体金具3とは別にNi合金からなる直棒状(針状)の接地電極27を製造しておく。
【0056】
次いで、製造された接地電極27を主体金具3の先端面26に抵抗溶接する。より詳しくは、
図6に示すように、所定の治具JG1,JG2により接地電極27の外周を挟み込み、保持した上で、接地電極27の後端面27Eを溝部31のうち主体金具3の外周面3Aと主体金具3の内周面3Bとの間に配置される部位内に配置する。その上で、接地電極27に対して主体金具3側へと荷重を加えることにより、接地電極27の後端面27Eを主体金具3の先端面26に押圧しつつ、接地電極27及び主体金具3の接触部分に電流を流す。これにより、接地電極27が主体金具3の先端面26に溶接される。尚、接地電極27に対して主体金具3側へと荷重を加える際に、接地電極27の後端面27Eのうち主体金具3の外周側に位置する部位は、前記外周側傾斜面26Bに接触し、また、接地電極27の後端面27Eのうち主体金具3の内周側に位置する部位は、前記内周側傾斜面26Cに接触するように構成されている。
【0057】
次に、接合工程において生じた、いわゆる「ダレ」を除去した上で、転造によって主体金具3の所定部位にねじ部15を形成する。尚、ねじ部15の形成後、耐食性の向上を図るべく、接地電極27の溶接された主体金具3の表面に、亜鉛メッキやNiメッキを設けることとしてもよい。また、耐食性の更なる向上を図るべく、亜鉛メッキやNiメッキの表面に、さらにクロメート処理を施すこととしてもよい。
【0058】
一方、前記主体金具3とは別に、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用いて、成形用素地造粒物を調製するとともに、当該成形用素地造粒物を用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体が得られる。そして、得られた成形体に対し、研削加工が施され整形されるとともに、整形されたものが焼成炉で焼成されることにより、絶縁碍子2が得られる。
【0059】
また、前記主体金具3、絶縁碍子2とは別に、中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金等を配置したNi合金に鍛造加工を施すことで中心電極5を作製する。
【0060】
次に、上記のようにして得られた絶縁碍子2及び中心電極5と、抵抗体7と、端子電極6とが、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9は、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されたものが、抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に注入された後、後方から前記端子電極6で押圧しつつ、焼成炉内にて加熱されることで焼成される。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10表面には釉薬層が同時に焼成されることとしてもよいし、事前に釉薬層が形成されることとしてもよい。
【0061】
その後、上記のようにそれぞれ作製された中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、接地電極27を備える主体金具3とが固定される。より詳しくは、主体金具3に絶縁碍子2を挿通した上で、比較的薄肉に形成された主体金具3の後端側開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって絶縁碍子2と主体金具3とが固定される。
【0062】
そして最後に、接地電極27の中間部分を中心電極5側に屈曲させるとともに、中心電極5及び接地電極27間の火花放電間隙28の大きさを調整することにより上述したスパークプラグ1が得られる。
【0063】
尚、上述の通り、本実施形態では、接合工程後において、接地電極27を切断することによる接地電極27の長さの調整は行われないようになっている。
【0064】
以上詳述したように、本実施形態によれば、抵抗溶接時において、溝部31のうち主体金具3の外周面3Aと主体金具3の内周面3Bとの間に配置される部位内に接地電極27の後端面27Eが配置された状態で、主体金具3に対して接地電極27が接合されるように構成されている。従って、抵抗溶接時において、主体金具3の外周側部分及び主体金具3の内周側部分により、主体金具3の径方向に沿った接地電極27の移動を規制することができ、接地電極27のずれ動きを効果的に抑制することができる。その結果、中心電極5及び接地電極27の対向面積をより確実に狙いの面積とすることができ、着火性や耐久性にバラツキが生じてしまうことをより確実に防止できる。
【0065】
さらに、溝部31の主体金具3の周方向に沿った長さDLが、接地電極27の後端部の幅GWよりも大きなものとされている。従って、抵抗溶接時において、接地電極27の後端面27Eの全域を溝部31内に配置することができ、接地電極27のずれ動きを一層効果的に抑制することができる。
【0066】
加えて、本実施形態では、主体金具3の周方向全域に亘って溝部31が設けられているため、主体金具3に対する接地電極27の接合位置を自由に選択することができる。
【0067】
また、溝部31の深さDDが0.1mm以上とされているため、抵抗溶接時において、主体金具3の外周側部分及び主体金具3の内周側部分により、接地電極27の移動をより確実に規制することができる。その結果、中心電極5及び接地電極27の対向面積を一層確実に狙いの面積とすることができ、着火性や耐久性にバラツキが生じてしまうことをより一層確実に防止できる。
【0068】
さらに、溝部形成面26Aは、外周側傾斜面26Bと内周側傾斜面26Cとを有しており、溝部31は、接地電極27の後端部の厚さGTよりも大きい幅と、前記厚さGTよりも小さい幅とを有している。従って、抵抗溶接時において、接地電極27を主体金具3の先端面27(溝部形成面26A)に押し当てた際に、主体金具3の先端面26から接地電極27に対して接地電極27を挟み込む方向の力が加わることとなる。その結果、接地電極27のずれ動きをより一層効果的に抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態によれば、中心電極5と接地電極27との対向面積をより確実に狙い面積とすることができるため、接地電極27の切断による接地電極27の長さ調整が不要となる。従って、生産性の向上を図ることができる。
【0070】
次いで、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、ねじ部のねじ径をM10又はM14とした上で、溝部の有無、及び、溝部の深さDDを種々異なるものとした主体金具に対して、抵抗溶接により接地電極を接合してなる組立体のサンプル1〜3をそれぞれ30本ずつ作製し、各サンプルについて、接地電極の溶接部分の中心から軸線までの軸線と直交する方向に沿った距離(溶接位置)を測定した。そして、溶接位置を3.60mm又は5.10mmを中心とした0.02mm間隔で区分し、各区分におけるサンプルの数を求めた(例えば、3.58mm〜3.60mmの区分におけるサンプルの数は、溶接位置が3.58mm以上3.60mm未満となったサンプルの数を示す)。
【0071】
尚、サンプル1は、先端面を平坦状とした(つまり、溝部を形成しなかった)主体金具に対して、抵抗溶接により接地電極を接合してなる組立体のサンプルであり、比較例に相当する。また、サンプル2は、主体金具の先端面に深さDDが0.05mmの溝部を設けるとともに、溝部に接地電極の後端面を配置した状態で、抵抗溶接により接地電極を接合したサンプルであり、実施例に相当する。加えて、サンプル3は、主体金具の先端面に深さDDが0.1mmの溝部を設けるとともに、溝部に接地電極の後端面を配置した状態で、抵抗溶接により接地電極を接合したサンプルであり、実施例に相当する。
【0072】
図7に、ねじ部のねじ径をM10としたサンプル1における試験結果を示し、
図8に、ねじ径をM14としたサンプル1における試験結果を示す。また、
図9に、ねじ径をM10としたサンプル2における試験結果を示し、
図10に、ねじ径をM14としたサンプル2の試験結果を示す。さらに、
図11に、ねじ径をM10としたサンプル3の試験結果を示し、
図12に、ねじ径をM14としたサンプル3の試験結果を示す。また、
図7〜
図12には、溶接位置の標準偏差を合わせて示す。
【0073】
尚、溝部を設けたサンプルは、半数において内周側傾斜面及び外周側傾斜面を平坦状とし(すなわち、溝部形成面をV字状とし)、半数において内周側傾斜面及び外周側傾斜面を湾曲面状とした(すなわち、溝部形成面をU字状とした)。また、ねじ部のねじ径をM10としたサンプルにおいては、接地電極の後端部の厚さGTを1.1mmとし、接地電極の後端部の幅GWを1.8mmとした。さらに、ねじ部のねじ径をM14としたサンプルにおいては、接地電極の後端部の厚さGTを1.5mmとし、接地電極の後端部の幅GWを2.8mmとした(尚、接地電極のサイズは、以下の試験においても同様とした)。
【0074】
図7〜
図12に示すように、溝部を設けたサンプル2,3は、標準偏差が小さくなり、抵抗溶接時における接地電極のずれ動きが生じにくいことが明らかとなった。これは、接地電極が主体金具の外周側部分及び主体金具の内周側部分により挟まれた状態となり、接地電極の径方向に沿った移動が規制されたためであると考えられる。
【0075】
また特に、溝部の深さDDを0.1mmとしたサンプル3は、標準偏差が著しく小さなものとなり、抵抗溶接時における接地電極のずれ動きを極めて効果的に抑制できることが分かった。これは、溝部の深さDDを十分に大きくしたことで、接地電極の移動規制効果がさらに高まったためであると考えられる。
【0076】
次に、ねじ部のねじ径をM10又はM14とした上で、抵抗溶接により主体金具に対して接地電極を接合するとともに、接地電極を屈曲させたスパークプラグのサンプル4〜6をそれぞれ30本ずつ作製し、各サンプルについて、中心電極の先端面のうち接地電極の後端部から最も離間する部位から接地電極の先端面までの軸線と直交する方向に沿った距離(接地電極配置位置)を測定した。そして、接地電極配置位置を0.30mmを中心とした0.02mm間隔で区分し、各区分におけるサンプルの数を求めた(例えば、0.28mm〜0.30mmの区分におけるサンプルの数は、接地電極配置位置が0.28mm以上0.30mm未満となったサンプルの数を示す)。
【0077】
尚、サンプル4は、先端面を平坦状とした(つまり、溝部を形成しなかった)主体金具に対して、抵抗溶接により接地電極を接合してなるスパークプラグのサンプルであり、比較例に相当する。また、サンプル5は、主体金具の先端面に深さDDが0.05mmの溝部を設けるとともに、溝部に接地電極の後端面を配置した状態で、抵抗溶接により接地電極を接合したサンプルであり、実施例に相当する。加えて、サンプル6は、主体金具の先端面に深さDDが0.1mmの溝部を設けるとともに、溝部に接地電極の後端面を配置した状態で、抵抗溶接により接地電極を接合したサンプルであり、実施例に相当する。
【0078】
図13に、ねじ部のねじ径をM10としたサンプル4における試験結果を示し、
図14に、ねじ径をM14としたサンプル4における試験結果を示す。また、
図15に、ねじ径をM10としたサンプル5における試験結果を示し、
図16に、ねじ径をM14としたサンプル5の試験結果を示す。さらに、
図17に、ねじ径をM10としたサンプル6の試験結果を示し、
図18に、ねじ径をM14としたサンプル6の試験結果を示す。また、
図13〜
図18には、接地電極配置位置の標準偏差を合わせて示す。
【0079】
尚、各サンプルともに、接地電極にずれ動きが生じなかった場合において、接地電極配置位置が0.30mmとなる条件で接地電極を屈曲させた。
【0080】
図13〜
図18に示すように、溝部を設けたサンプル5,6は、中心電極の先端面に対する接地電極の先端面の配置位置にバラツキが生じにくく、中心電極と接地電極との対向面積をより確実に一定の面積にできることが分かった。
【0081】
また特に、深さDDを0.1mm以上とした溝部を設けたサンプル6は、接地電極の先端面を一層精度よく狙いの位置に配置でき、中心電極と接地電極との対向面積をより一層確実に一定の面積にできることが確認された。
【0082】
次いで、上記サンプル4〜6のうち、接地電極配置位置が最大の2本と、接地電極配置位置が最小の2本とを選択し、選択したサンプルに対して着火安定性評価試験を行った。
【0083】
着火安定性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、ねじ部のねじ径をM10としたサンプルは、排気量125ccの二輪車用単気筒エンジンに取付けた上で、空燃比(A/F)を1.45として、エンジンを1700rpmにて動作させつつ、点火時期を正規の点火時期から徐々に進角させていき、着火性能が不安定となる(エンジンを200サイクル動作させた際に、燃焼圧の波形の変動割合が10%超となる)点火時期(安定着火限界時期)を測定した。また、ねじ部のねじ部をM14としたサンプルは、排気量1.5Lの四輪車用4気筒エンジンに取付けた上で、空燃比(A/F)を1.45として、エンジンを800rpmで動作させた際における、上述の安定着火限界時期を測定した。
【0084】
図19に、ねじ部のねじ径をM10としたサンプル4〜6における、安定着火限界時期の最大値及び最小値を表すグラフを示し、
図20に、ねじ部のねじ径をM14としたサンプル4〜6における、安定着火限界時期の最大値及び最小値を表すグラフを示す。尚、
図19及び
図20には、安定着火限界時期の最大値及び最小値の差を合わせて示す。安定着火限界時期の最大値と最小値との差が小さいほど、着火性が安定しているといえる。
【0085】
図19及び
図20に示すように、主体金具に溝部を設けたサンプル5,6は、安定着火限界時期の最大値と最小値との差が小さくなり、着火性が安定していることが分かった。また特に、溝部の深さDDを0.1mm以上としたサンプル6は、安定着火限界時期の最大値と最小値との差が顕著に小さくなり、着火性がより一層安定することが確認された。
【0086】
上記試験の結果より、抵抗溶接時における接地電極のずれ動きを抑制し、着火性や耐久性のバラツキをより確実に防止するという観点から、主体金具の先端面に溝部を設け、溝部のうち主体金具の外周面と主体金具の内周面との間に配置される部位内に接地電極の後端面が配置された状態で、主体金具に接地電極を接合すること好ましいといえる。
【0087】
また、抵抗溶接時における接地電極のずれ動きを一層効果的に抑制するという観点から、溝部の軸線に沿った深さを0.1mm以上とすることがより好ましいといえる。
【0088】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0089】
(a)上記実施形態において、溝部31の深さDDは0.1mm以上とされていが、溝部31の深さDDを0.1mm未満としてもよい。
【0090】
(b)上記実施形態において、溝部31は、主体金具3の周方向全域に亘って設けられているが、
図21に示すように、主体金具3の先端面26の一部のみに(接地電極27の接合予定部位のみに)、主体金具3の周方向に沿って延びる湾曲状の溝部37を設けてもよい。
【0091】
(c)上記実施形態において、溝部31は、軸線CL1方向先端側から見たときにおいて、主体金具3の周方向に沿って延びる環状をなしているが、
図22に示すように、軸線CL1方向先端側から見たときにおいて、溝部38が主体金具3の径方向と直交する方向に延びるストレート状をなしていてもよい。尚、この場合には、溝部38の少なくとも一部(本例では、溝部38のうちその延出方向に沿った中心側に位置する部位)は、自身を通るとともに軸線CL1を含む断面において、主体金具3の外周面3Aと主体金具3の内周面3Bとの間に配置されることとなる。また、主体金具3に接地電極27を接合する際には、溝部38のうち、主体金具3の外周面3Aと主体金具3の内周面3Bとの間に配置される部位内に接地電極27の後端面27Eが配置された状態で、主体金具3に対して接地電極27が接合される。
【0092】
(d)上記実施形態における溝部形成面の形状は例示であって、溝部形成面の形状はこれに限定されるものではない。従って、例えば、
図23に示すように、溝部形成面41Aが、外周側傾斜面41B及び内周側傾斜面41Cと、両傾斜面41B,41Cを連接する平坦状の連接面41Dとを有するように構成してもよい。また、溝部形成面が前記仮想面VLを挟んだ対称形状となっている必要はなく、例えば、
図24に示すように、溝部形成面42Aが仮想面VLを挟んで非対称の形状であってもよい。
【0093】
さらに、溝部形成面は、必ずしも外周側傾斜面及び内周側傾斜面を備える必要はなく、例えば、
図25に示すように、溝部形成面43Aのうち最外周側の面43Bと最内周側の面43Cとが軸線CL1方向に延びる形状であってもよい
(但し、参考例)。
【0094】
(e)上記実施形態において、接地電極27は単一の金属により構成されているが、接地電極27の内部に良熱伝導性に優れる銅や銅合金等からなる内層を設け、接地電極27を外層及び内層からなる多層構造としてもよい。
【0095】
(f)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。