特許第5715659号(P5715659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715659
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】生体治癒促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20150423BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   A61K35/74 A
   A61K35/74 G
   A61P17/02
【請求項の数】3
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-106024(P2013-106024)
(22)【出願日】2013年5月20日
(62)【分割の表示】特願2008-542047(P2008-542047)の分割
【原出願日】2007年10月22日
(65)【公開番号】特開2013-155203(P2013-155203A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2013年5月20日
(31)【優先権主張番号】特願2006-298478(P2006-298478)
(32)【優先日】2006年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】FERM  BP-08615
【微生物の受託番号】FERM  BP-10014
(73)【特許権者】
【識別番号】501257370
【氏名又は名称】株式会社アウレオ
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(74)【代理人】
【識別番号】100182040
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 英世
(72)【発明者】
【氏名】守屋 直幸
(72)【発明者】
【氏名】守屋 ▲祐▼生子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 浩二
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−508772(JP,A)
【文献】 特開2006−075076(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/078188(WO,A1)
【文献】 特開2002−335926(JP,A)
【文献】 特開2003−113097(JP,A)
【文献】 特表2001−520982(JP,A)
【文献】 米国特許第06168799(US,B1)
【文献】 米国特許第05980918(US,A)
【文献】 特開2005−264167(JP,A)
【文献】 特表平11−501691(JP,A)
【文献】 International Immunopharmacology,2005年,Vol.6, No.2,p.156-169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−9068
A61K 31/00−33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱火傷の治癒促進のために用いられる、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物を有効成分とすることを特徴とする生体治癒促進剤。
【請求項2】
熱火傷による紅班の治癒促進のために用いられる請求項1記載の生体治癒促進剤。
【請求項3】
前記アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が、アウレオバシジウム プルランス菌株M−1(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号FERM BP−08615)、又はアウレオバシジウム プルランス菌株M−2(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号FERM BP−10014)である請求項1又は2に記載の生体治癒促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物を有効成分とする生体治癒促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液は、飲食品や食品添加物として利用されている。この培養液中にはβグルカンが含まれており、このβグルカンは、β−1,3結合のグルコース残基を主鎖とし、このグルコース残基にβ−1,6結合グルコース残基を側鎖(分岐鎖)として有する、1,3、1,6−β−D−グルカンであることが知られている(下記非特許文献1、2参照)。
【0003】
また、下記特許文献1には、アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液が、経口的に高い抗腫瘍活性及び免疫賦活活性を有し、各種疾病に対する予防又は治療薬として利用できることが開示されている。
【0004】
しかし、アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物が、細胞及び組織の再生能を促進する作用を有することは未だ報告されていない。
【0005】
また、下記特許文献1には、アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液が各種疾病に対する予防又は治療薬として利用できることが開示され、その一例として糖尿病が挙げられているものの、糖尿病に関する予防又は治療効果を示唆する実験データは何ら記載されていない。
【0006】
また、同じ特許文献1には、アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液が、培養細胞実験系で白血病細胞の増殖を抑える効果を有することが記載されているものの、動物実験による薬理効果を示す実験データは何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Acta Chemica Scandinavia 17、 1351-1356(1963)
【非特許文献2】Agric. Biol. Chem. 47 (6)、 1167-1172(1983)
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−204687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
薬物には、効果と副作用がある。効果が高く、副作用が低ければ、一般的にはその薬物は「安全性が高い」と認識される。しかし、抗がん剤やステロイド剤のように、副作用が比較的強いことを容認しつつ投薬しなければならない薬物も少なくない。これは、毒性と有効性を安全に分離できない現在の薬物の限界ともいえる。このような状況にあって、薬物の毒性を軽減することは、生死を分かつほど重大な意義を持っている。
【0010】
抗がん剤を例にすれば、骨髄抑制、肝毒性、腎毒性などの毒性の発現のために細胞及び組織が損傷を受け、それ以上投薬できない場合でも、もう少し投薬を続けることができたら思わしい結果が得られる可能性がある。つまり、このとき抗がん剤の毒性を軽減できれば、その有効性を最大限に発揮させるかたちで投薬の続行が可能になる。これは、生きるか死ぬかの選択をしなければならない臨床現場においては切実な課題である。
【0011】
また、外科手術に伴う皮膚又は粘膜の切開や、火傷、裂傷等により生じる創傷もまた細胞及び組織の損傷といえるが、これについては、抗生物質の経口投与又は外傷への直接的な塗布による細菌感染症の予防、抗炎症剤の投与による炎症の低減、鎮痛剤投与による疼痛の軽減などの治療が行われている。
【0012】
しかしながら、これらの外科手術後の皮膚又は粘膜の創傷に対する治療は、細菌感染、炎症、疼痛などの2次的な障害を低減しようとする治療でしかなく、創傷の治癒は生体の皮膚再生能力に頼っているのが現状である。そのため、回復までに時間を要し、投薬による副作用のおそれが心配されていた。
【0013】
そこで、生体に備わる治癒能を促進する薬物の開発が進められているが、効果、安全性、製造コスト等の全てについて十分満足し得るものはなかった。
【0014】
このように、臨床の現場では、薬剤の毒性による組織損傷や火傷等による創傷の治癒を促進する生体治癒促進剤の提供が強く渇望されている。
【0015】
また、糖尿病等の疾患によって、血糖値が上昇した場合に、血糖値を正常に戻す生体治癒力を増強できる生体治癒促進剤の提供も望まれている。
【0016】
更に、長期投与しても副作用のない白血病治療のための生体治癒促進剤の提供も望まれている。
【0017】
そこで、本発明の目的は、従来の問題を解決し、薬物の毒性や創傷によって受けた細胞及び組織の損傷の治癒に関わる生体の再生能を促進し、且つ、安全性が高く、長期に投与しても副作用を生じない生体治癒促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、人体への安全性が高く、資源的に豊富に存在する生物を基源とする天然物を鋭意探索した。その過程において、アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物が、薬物の毒性や創傷によって受けた細胞及び組織の損傷の治癒に関わる生体の再生能を促進する作用を示すこと、糖尿病による血糖値の上昇を抑制する作用を示すこと、及び白血病由来がん細胞を移植したマウスに対して延命効果を付与できることを発見し、この事実に基づいて生体治癒促進剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明の1つは、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物を有効成分とすることを特徴とする生体治癒促進剤を提供するものである。
【0020】
本発明のもう1つは、生体治癒促進剤の製造に用いるという、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物の用途を提供するものである。
【0021】
本発明の更にもう1つは、生体治癒を促進させる必要性がある人又は動物に、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物を、生体治癒を促進するのに有効な量で投与することを特徴とする生体治癒促進方法を提供するものである。
【0022】
本発明の好ましい1つの態様においては、前記生体治癒促進剤は、抗癌剤の副作用を低減するために用いられる。この場合、前記抗癌剤が5-フルオロウラシル(5-FU)であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の別の好ましい態様においては、前記生体治癒促進剤は、創傷治癒促進のために用いられる。この場合、前記創傷が外科手術後の皮膚の創傷又は火傷であり、患部に塗布して用いられることが更に好ましい。
【0024】
本発明の更に別の好ましい態様においては、生体治癒促進剤は、血糖値正常化促進のために用いられる。
【0025】
本発明の更に別の好ましい態様においては、生体治癒促進剤は、白血病の病態の改善のために用いられる。
【0026】
また、本発明においては、前記アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が、アウレオバシジウム プルランス菌株M−1(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号FERM BP−08615)、又はアウレオバシジウム プルランス菌株M−2(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号FERM BP−10014)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物を有効成分とする生体治癒促進剤が提供され、この生体治癒促進剤を摂取することで、抗癌剤の副作用を低減することができる。
【0028】
また、上記生体治癒促進剤を塗布することで、火傷等の創傷治癒を促進させることができる。
【0029】
更に、上記生体治癒促進剤を摂取することで、高血糖症患者の血糖値の正常化を促進させることができる。
【0030】
更に、上記生体治癒促進剤を摂取することで、白血病の病態を改善することができる。
【0031】
このように、本発明の生体治癒促進剤によれば、細胞及び組織の損傷の治癒に関わる生体の再生能を促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】腫瘍体積の推移を示した図である。
図2】体重の推移を示した図である。
図3】白血球数の推移を示した図である。
図4】臓器重量の減少に及ぼすアウレオバシジウム培養液の効果を示した図である。
図5】施灸3日目の紅班面積を比較した図である。
図6】試験試料の投与前後における血糖値の変化を比較した図である。
図7】白血病由来がん細胞担癌マウスの生存率に与える効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0034】
先ず、本発明の「アウレオバシジウム属に属する微生物」は、環境中(例えば食品、土壌、室内等)により分離された菌株であれば、いずれでも使用できる。
【0035】
その例として好ましいものは、アウレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)に属する菌株であり、具体的にはIFO4464、IFO4466、IFO6353、IFO7757、ATCC9348、ATCC3092、ATCC42023、ATCC433023等の単菌分離された保存株で、特に、アウレオバシジウム プルランス菌株M−1(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号FERM BP−08615)は、1,3、1,6−β−D−グルカンの産生量が高い点で好ましい。
【0036】
また、単菌分離された保存株を常法に従い変異操作を実施した変異株を用いることもできる。変異操作の例としては、例えばUV照射、あるいはニトロソグアニジン、エチジウムブロマイド、メタンスルホン酸エチル、亜硝酸ナトリウム等による化学処理等が挙げられ、特に、アウレオバシジウム プルランス菌株M−2(独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター寄託番号FERM BP−10014)は、1,3、1,6−β−D−グルカンの産生量が高く、しかも培養液中への色素蓄積性が該親菌株M−1より低い点で好ましい。
【0037】
また、本発明の「アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物」は、アウレオバシジウム属に属する微生物を培養することによって得られる。上記アウレオバシジウム属に属する微生物の培養は、公知の方法(特開昭57−149301号公報等参照)に準じて行うことができる。すなわち、炭素源(例えばショ糖)0.5〜1.0質量%、N源0.1質量%、その他微量物質(例えば、ビタミン類、無機質)を加えた培地(pH5.2〜6.0)に菌を接種し、温度20〜30℃で2〜3日間通気培養、好ましくは通気撹拌培養すればよい。β−1,3−1,6−グルカンが生成されるにしたがって培養液の粘度が上昇し、粘性の高いジェル状になる。このようにして得られる培養液には、通常、0.6〜1.8質量%の固形分が含まれており、該固形分中にはβ−1,3−1,6−グルカンが5〜80質量%含まれている。本発明においては、固形分中にβ−1,3−1,6−グルカンを1質量%以上含む培養物が好ましく用いられ、固形分中にβ−1,3−1,6−グルカンを5質量%以上含む培養物がより好ましく用いられる。培養物中のβ−1,3−1,6−グルカン濃度が低すぎると、該グルカンの生理活性効果が十分に期待できない。
【0038】
なお、β−1,3−1,6−グルカンの定量は、特公平3−48201号公報に記載された方法に準じて行うことができる。すなわち、培養終了後、培養液を殺菌して、遠心分離して菌体を除去し、得られた溶液にクロロホルム/ブタノール混合液を10%(v/v)加えて振とう(Sevage法)した後、遠心処理してクロロホルムと不溶物を除去する。この操作を2回繰り返した後、エタノール沈殿により、沈殿物を回収して蒸留水に溶解し、酵素処理により、プルランを分解し、蒸留水中で透析を行い、透析液をエタノール沈殿して、沈殿物(β−1,3−1,6−グルカン)を回収して収量を求めればよい。
【0039】
本発明においては、上記のようにして得られる培養液をそのまま加熱又は加圧加熱殺菌して用いてもよく、また、必要に応じて濃縮したもの、更には乾燥したものを用いることもできる。なお、アウレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する菌の培養物は、増粘安定剤等の食品添加物として使用されているものであり、安全性は高い。
【0040】
アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物を濃縮する場合、濃縮は、低温減圧下で行うことが好ましい。また、この濃縮は乾固するまで行ってもよく、その場合には、凍結乾燥あるいは減圧噴霧乾燥がより好ましい。なお、濃縮する前に濾過し、濾液を濃縮してもよい。
【0041】
また、本発明の「アウレオバシジウム属に属する微生物を培養した培養液と菌糸体との混合物」は、精製処理に付してもよい。精製処理方法としては、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法等を単独又は組み合わせて使用する方法が挙げられる。
【0042】
例えば、クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等のいずれか又はそれらを組み合わせて使用する方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。例えば、順相クロマトグラフィーの場合にはクロロホルムーメタノール系の溶媒、逆相クロマトグラフィーの場合には、水ーメタノール系の溶媒を使用することができる。
【0043】
また、イオン交換樹脂を使用する溶離法としては、得られた抽出液を、水又は低級アルコールに希釈/溶解させ、この溶液をイオン交換樹脂に接触させて吸着させた後、低級アルコール又は水で溶離する方法が挙げられる。この際に使用される低級アルコールは、上述した通りであり、なかでもメタノールが好ましい。イオン交換樹脂としては、通常、当該分野の精製処理に使用されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、巨大網状構造で多孔性の架橋されたポリスチレン系樹脂、アーバンライト、セルローズ等が挙げられる。
【0044】
本発明の「生体治癒促進剤」は、薬物や創傷によって損傷した細胞及び組織の再生を促進する用途に用いられる。例えば、抗癌剤による骨髄抑制、肝毒性、腎毒性等の副作用によって損傷した細胞及び組織の再生を促進する用途や、外科手術に伴う皮膚又は粘膜の切開、火傷、裂傷等により生じる創傷によって損傷した組織の治癒を促進する用途が挙げられる。また、高血糖患者の血糖値の正常化を促進する用途にも有効である。更に、白血病患者の病態を改善する用途にも有効である。
【0045】
本発明の「生体治癒促進剤」は、経口摂取等により投与してもよく、皮膚等に塗布する外用剤として投与することもできる。抗癌剤の副作用を低減するため、あるいは血糖値正常化促進のため、あるいは白血病の病態を改善するために用いる場合には、経口摂取により投与することが好ましい。外科手術に伴う皮膚の切開、火傷、裂傷等により生じる創傷によって損傷した組織の治癒を促進するために用いる場合には、患部に塗布することにより投与することが好ましい。
【0046】
本発明の「生体治癒促進剤」は、そのままでも製品とすることもできるが、一般には、風味を上げたり、必要な形状とする等のために種々の成分を添加、配合し、更にフレーバーを添加して最終製品とすることができる。
【0047】
本発明の「生体治癒促進剤」に添加、混合される成分としては、各種糖質や乳化剤、甘味料、酸味料、果汁等が挙げられる。より具体的には、グルコース、シュークロース、フラクトース、蜂蜜等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット等の糖アルコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン糖脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、が挙げられる。この他にも、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類やハーブエキス、穀物成分、野菜成分、乳成分等を配合しても、優れた風味の生体治癒促進剤を得ることができる。
【0048】
また、本発明の「生体治癒促進剤」に添加することのできるフレーバーとしては、ヨーグルト系、ベリー系、オレンジ系、花梨系、シソ系、シトラス系、アップル系、ミント系、グレープ系、ペア、カスタードクリーム、ピーチ、メロン、バナナ、トロピカル、ハーブ系、紅茶、コーヒー系等のフレーバーが挙げられ、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。フレーバーの添加量は特に限定されないが、風味面から0.05〜0.5質量%、特に0.1〜0.3質量%程度が好ましい。
【0049】
以上説明した「生体治癒促進剤」は、固形状、液状等いずれの形態の製品とすることも可能である。
【0050】
本発明における「生体治癒促進剤」は、医薬的に受容な塩、賦形剤、保存剤、着色剤、矯味剤等とともに、薬物又は食品の製造分野において公知の方法によって、顆粒、錠剤、カプセル剤等の種々の形態で使用することができる。
【0051】
また、本発明における「生体治癒促進剤」は、健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味し、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的には、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、栄養飲料、スープ等が挙げられる。また、そのまま煎じて茶剤としてもよい。これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、本発明の生体治癒促進剤を混合又は塗布、噴霧などして添加して、健康食品とすることができる。
【0052】
本発明における「生体治癒促進剤」の使用量は、年齢、症状等によって異なるが、例えば、経口摂取する場合には、成人1回につきジェル状では3〜100g程度、粉末では200mg〜3g程度、抽出エキスでは精製の度合いや水分含量等に応じて50mg〜2g程度が挙げられ、食前30分位に1日3回服用するのが望ましい。また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対し、粉末の形態で、1〜100g程度の範囲で用いることが適当である。
【0053】
さらに、本発明における「生体治癒促進剤」は、ローション(化粧水)、化粧用クリーム類、乳液、化粧水、パック剤、スキンミルク(乳剤)、ジェル剤、パウダー、リップクリーム、口紅、アンダーメークアップ、ファンデーション、サンケア、浴用剤、ボディシャンプー、ボディリンス、石鹸、クレンジングフォーム、軟膏、貼付剤、ゼリー剤、エアゾール剤等種々の製品形態で皮膚外用剤に利用することもできる。
【0054】
本発明の「生体治癒促進剤」を皮膚外用剤として用いる場合には、化粧品、医薬部外品、薬物において通常用いられる、下記に示されるような各種成分や添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0055】
即ち、グリセリン、ワセリン、尿素、ヒアルロン酸、ヘパリン等の保湿剤;PABA誘導体(パラアミノ安息香酸、エスカロール507等)、桂皮酸誘導体(ネオヘリオパン、パルソールMCX、サンガードB等)、サリチル酸誘導体(オクチルサリチレート等)、ベンゾフェノン誘導体(ASL−24、ASL−24S等)、ジベンゾイルメタン誘導体(パルソールA、パルソールDAM等)、複素環誘導体(チヌビン系等)、酸化チタン等の紫外線吸収剤・散乱剤;エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、リンゴ酸、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤;サリチル酸、イオウ、カフェイン、タンニン等の皮脂抑制剤;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等の殺菌・消毒剤;塩酸ジフェンヒドラミン、トラネキサム酸、グアイアズレン、アズレン、アラントイン、ヒノキチオール、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸等の抗炎症剤;ビタミンA、ビタミンB群(B1、B2、B6、B12、B15)、葉酸、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン、ビタミンC、ビタミンD群(D2、D3)、ビタミンE、ユビキノン類、ビタミンK(K1、K2、K3、K4)等のビタミン類;アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、リジン、グリシン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、アルギニン、ピロリドンカルボン酸等のアミノ酸及びその誘導体;レチノール、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、胎盤抽出液等の美白剤;ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の抗酸化剤;塩化亜鉛、硫酸亜鉛、石炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム等の収斂剤;グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、トレハロース、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール等の糖類;甘草、カミツレ、マロニエ、ユキノシタ、芍薬、カリン、オウゴン、オウバク、オウレン、ジュウヤク、イチョウ葉等の各種植物エキス等の他、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色素等を適宜配合することができる。
【0056】
本発明の「生体治癒促進剤」を皮膚外用剤として用いる場合、その塗布量は、ジェル状では10〜1,000mg/cm程度、粉末では1〜50mg/cm程度、抽出エキスでは精製の度合いや水分含量等に応じて1〜500mg/cm程度が好ましい。
【実施例】
【0057】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0058】
なお、試験には、アウレオバシジウム プルランス菌株M−2を常法に従い培養することによって得た培養液と菌糸体との混合物(固形分1.5〜2質量%;以下、アウレオバシジウム培養液という。)を使用した。
【0059】
<実施例1> 〔抗癌剤の副作用低減試験〕
試験は、肉腫移植マウスに、抗がん剤5-FU(20 mg/kg/day)をアウレオバシジウム培養液(2 g/kg〜30 g/kg/day)とともに与え、副作用の指標として、体重、白血球数、臓器重量を測定して比較した。各試験試料は、吸水ビンに入れて飲み水として自由摂取させることにより腫瘍移植直後から経口的に投与した。表1に試験動物の割り付けと、抗がん剤及びアウレオバシジウム培養液の1日あたり平均投与量を示した。試験の結果を、図1から図4に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
・結果1〔抗がん剤による毒性死を回避する作用〕
図1の縦軸は腫瘍体積を、横軸は抗がん剤を投与しはじめてからの経過日数を示す。試験群の割り付けは、表1に示したものと同様である。試験A群でわかるように、抗がん剤治療によって腫瘍の体積は、なにも治療を施さなかった対照群と比べて顕著に抑制された。しかしながら、抗がん剤治療開始21日後には、対照群では、腫瘍の増殖こそ認められたものの1匹の死亡例もみられなかったが、抗がん剤治療を施した試験A群では、9匹中4匹が死亡した。
【0062】
これは抗がん剤の特徴を顕著に示すもので、腫瘍の増殖を抑制する一方で、その毒性のために正常な細胞までやられてしまった結果である。これでは抗がん剤治療の意味がない。ところが、抗がん剤治療にアウレオバシジウム培養液(約2 g/kg/day)を併用した試験C群では、腫瘍の増殖を顕著(p < 0.01)に抑制するだけでなく、対照群同様に1匹の死亡例もみられなかった。この2 g/kg/day投与量は、固形分換算(1.5%)では30 mg/kg/dayに相当し、投与した抗がん剤と同程度の量で効果を奏したといえる。さらに、アウレオバシジウム培養液の単独治療(29 g/kg/day)を施した試験B群でも、統計学的に有意(p < 0.05)な制がん効果が死亡例なくして認められた。
【0063】
・結果2〔抗がん剤による体重の減少を緩和する作用〕
図2の縦軸は体重を、横軸は抗がん剤を投与しはじめてからの経過日数を示す。試験群の割り付けは、表1に示したものと同様である。試験A群でわかるように、抗がん剤治療による副作用は、体重の26%減というかたちで現われた。ところが、抗がん剤治療にアウレオバシジウム培養液(約2 g/kg/day)を併用した試験C群では、この抗がん剤治療による体重の減少を13%にまで緩和することができた。この副作用による体重抑制の緩和は、抗がん剤治療のみの場合に比べて統計学的な有意差(p < 0.01)が認められた。
【0064】
・結果3〔抗がん剤による白血球数の減少を回復する作用〕
図3の縦軸は白血球数を、横軸は抗がん剤を投与しはじめてからの経過日数を示す。試験群の割り付けは、表1に示したものと同様である。試験A群でわかるように、抗がん剤治療による副作用は、白血球数の42%減というかたちで現われた。ところが、抗がん剤治療にアウレオバシジウム培養液(約2 g/kg/day)を併用した試験C群では、白血球は、抗がん剤治療7日後にまでは減少傾向を示したが、その後回復傾向に転じ、治療21日後には白血球数の減少を16%にまで緩和することができた。この副作用による白血球抑制の緩和は、抗がん剤治療のみの場合に比べて統計学的な有意差(p < 0.05)が認められた。
【0065】
・結果4〔抗がん剤による臓器萎縮を緩和する作用〕
図4の縦軸は臓器重量を、横軸は抗がん剤を投与しはじめてから21日経過後の各試験群の臓器重量を、肝臓、脾臓、腎臓で測定したものである。試験群の割り付けは、表1に示したものと同様である。試験A群でわかるように、抗がん剤治療による臓器重量の減少に及ぼす副作用が、肝臓では48%減、脾臓では72%減、腎臓では28%減というかたちで現われた。特に、リンパ球の貯蔵庫といえる脾臓の萎縮が著しく、図3で取り上げた白血球数の減少と密接に関係している。抗がん剤治療にアウレオバシジウム培養液を併用した試験C群とD群では、この抗がん剤治療による臓器重量の減少を緩和することができた。
【0066】
これらの結果より、アウレオバシジウム培養液が、抗がん剤の副作用を低減する結果、抗がん剤による毒性死を引き起こすことなく、その治療効果を引き上げることが明らかとなった。
【0067】
<実施例2> 〔火傷治癒促進試験〕
試験は、被験者12名(被験者の年齢構成を表2に示す)に対して両腕の曲池に施灸して火傷を作成し、左腕の火傷部位にアウレオバシジウム培養液を塗布し、治癒に及ぼす影響を、無処置の右腕と比較した。
【0068】
具体的には、お灸を両腕の曲池に施し、火傷を作成した後に、左腕の施灸部位には、アウレオバシジウム培養液を1.5mL滲み込ませた1.5cm x1.2cmの脱脂綿を貼り、絆創膏で固定し、乾いたら(4〜5時間後)脱脂綿を剥す処置を1日1回、3日間毎日実施した。一方、右腕の施灸部位は、無処置とした。毎日火傷による紅班を写真にとり、痛み、ヒリヒリ感、水泡、かゆみに対する自覚症状を問診した。
【0069】
【表2】
【0070】
施灸3日目の結果を図5に示す。図5Aは、被験者それぞれの紅班面積値を、また、図5Bはその平均値を示す。特に、番号3、4、5、10の被験者に顕著な差が認められ、平均値は、アウレオバシジウム培養液を塗布した左腕では、統計学的な有意差(p < 0.01)をもって、無処置の右腕の51%にまで縮小することが明らかとなった。
【0071】
これは、アウレオバシジウム培養液を塗布することで、火傷の治癒が早まったことを意味する。その考えられ得るメカニズムとは、細胞及び組織の再生を促進するというもので、それが抗がん剤の毒性で損傷した組織の再生を早めたり、火傷の治癒を早めたりするかたちで現われるものと考えられる。
【0072】
これらの結果より、アウレオバシジウム培養液が抗癌剤の副作用を低減すること、及び火傷による創傷の治癒を促進することが確認できた。
【0073】
<実施例3> 〔血糖値正常化促進試験〕
試験は、ストレプトゾトシンで糖尿病を誘発したマウスを用いて、試験試料の投与前後における血糖値を比較することにより行なった。下記表3に試験動物の割り付けを示す。ここで「正常群」とは、ストレプトゾトシンで処置しなかった正常状態における血糖値を示している。「陰性対照群」とは,ストレプトゾトシンで糖尿病にした状態の血糖値を示している。「陽性対照群」とは、ストレプトゾトシンで糖尿病にしたマウスに、インスリン分泌促進剤であるトルブタミド(200 mg/kg)を投与したときの血糖値を示している。「試験A群」と「試験B群」は、ストレプトゾトシンで糖尿病にしたマウスに、アウレオバシジウム培養液(2 g/kgおよび10 g/kg)を投与したときの血糖値を示している。なお、試験試料はいずれも腹腔内に投与した。
【0074】
【表3】
【0075】
図6にその結果を示す。図6の縦軸は血糖値を、横軸はマウスにどのような処置をしたかを群ごとに示している。また、各群の左の棒は投与前を、右の棒は投与後の血糖値の平均を示している。
【0076】
図6に明らかなように、アウレオバシジウム培養液を投与することで、用量依存的に血糖降下作用が認められた。その血糖降下率は、2 g/kg投与で15.1%(図6中の試験A群)、10 g/kg投与では47.3%(図6中の試験B群)に及んだ。ここで、アウレオバシジウム培養液を10 g/kg投与した試験B群においては、投与後の血糖値が投与前に比べて統計学的にも有意(p < 0.05)に減少し,その減少によって血糖値は正常域にまでコントロールされた。一方、陽性対照であるトルブタミド200 mg/kg投与による血糖降下率が17.4%(図6中の陽性対照群)であったことから、アウレオバシジウム培養液10 g/kg投与で、陽性対照薬よりも強い血糖降下作用が得られることが明らかとなった。この10 g/kg投与量は、固形分換算(1.5%)では150 mg/kg(そのうちβグルカンは32%含有)に相当する。したがって、アウレオバシジウム培養液には、トルブタミドと同等、あるいはそれ以上に強い有効成分が含有されている可能性が示唆された。
【0077】
<実施例4> 〔抗白血病試験〕
試験は、常法に従い、マウス腹腔に白血病由来腫瘍細胞P388を移植したマウスを用いて、試験試料を投与した後のマウスの生存率を比較することにより行った。各試験試料は、吸水ビンに入れて飲み水として自由摂取させることにより腫瘍移植直後から経口的に投与した。下記表4には試験動物の割り付けと、抗がん剤、乳酸菌(商品名「EC−12」、コンビ株式会社製)及びアウレオバシジウム培養液の1日あたり平均投与量を示す。なお、1試験試料群あたりマウス10匹を用いた。
【0078】
【表4】
【0079】
この試験の結果を図7に示す。
【0080】
図7に明らかなように、生存率を比較した結果、0.05%グリセリン脂肪酸エステルの溶媒のみを投与した対照群においては、30%の生存率しか確保できなかったが、アウレオバシジウム培養液の投与(B群)によって、移植40日後の生存率を60%にまで改善することができた。更に、アウレオバシジウム培養液と乳酸菌との併用投与(C群)によって、移植40日後の生存率を抗癌剤の投与(A群)と同程度の生存率(80%)に維持することができた。この結果から、アウレオバシジウム培養液が抗白血病効果を有することが確認された。また、乳酸菌との併用によりその効果が高められることが示唆された。があるというケースが報告されてきたが、今回の結果は、それを裏付ける結果であった。
【0081】
一方、抗癌剤とアウレオバシジウム培養液を併用した場合(D群)、あるいは更に乳酸菌を併用した場合(E群)には、アウレオバシジウム培養液単独(B群)と同程度の生存率しか確保することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、アウレオバシジウム培養液を使用することで、抗癌剤の副作用を低減すること、火傷による創傷の治癒を促進すること、血糖値の正常化を促進できること、及び白血病由来がん細胞を移植したマウスに対して延命効果を付与できることが確認された。
【0083】
このことは、抗がん剤の毒性を軽減することで、その有効性を最大限に発揮させるかたちで投薬の続行が可能になるため、生きるか死ぬかの選択をしなければならない臨床現場において非常に有用といえる。
【0084】
また、火傷等の創傷に対して、その組織損傷の治癒を早めることは、社会活動を維持するうえで非常に有用といえる。
【0085】
更に、血糖値の正常化を促進させることができるので、高血糖に伴う合併症の予防・低減するうえで非常に有用といえる。
【0086】
更に、長期間長期投与しても副作用のないので、白血病の病態の改善するうえで非常に有用であるといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7