(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、半導体の電気伝導の電子工学的な特性を利用した固体能動素子であり、トランジスタや集積回路(ICやLSI)などがその代表例として挙げられる。半導体素子はディスプレー、携帯電話、コンピューター等の電子機器の殆どに組み込まれており、その工学上の重要性は極めて大きく、経済効果も非常に大きいものである。
トランジスタは、電気信号の増幅やスイッチ動作性を有する半導体素子である。トランジスタは、デジタル回路では電子的なスイッチとして、半導体メモリ、マイクロプロセッサ、その他の論理回路等で広く使用されている。
【0003】
電界効果トランジスタ(FET)は、基板上の半導体材料にソース電極、ドレイン電極、及びこれらの電極と絶縁体層を介してゲート電極等を設けた構造を有している。電界効果トランジスタは、ゲート電極に電圧をかけ、チャネルの電界により電子または正孔の流れに関門(ゲート)を設ける原理で、ソース・ドレイン端子間の電流を制御するトランジスタである。電界効果トランジスタは作製や集積化が容易であることから、スイッチング素子や増幅素子として利用され、現在の電子機器で使用される集積回路では必要不可欠な素子となっている。
【0004】
電界効果トランジスタに使用される半導体素子の大部分は、半導体層にシリコンを代表とする無機系の半導体材料を用いている。しかし、シリコン等の無機系の半導体材料は、溶液に対し不溶であるため、半導体素子の製造時に真空蒸着過程が必要となる。その結果、半導体素子の製造には、高額な設備投資や、製造に多くのエネルギーを要し、半導体素子のコストが非常に高くなる。また、無機半導体材料は硬く脆いため、曲げや引っ張り応力に対する耐久性が低く、無機系半導体材料の用途は限定されていた。
【0005】
有機半導体材料は、前述の無機系半導体材料の欠点を補うことが可能であるため、近年盛んに研究が行われている。特に、一部の有機半導体材料は、溶媒に可溶であり、半導体素子作成時に塗布や印刷法などのウエットプロセスを適応することが可能である。ウエットプロセスで有機薄膜半導体を作成した場合、真空蒸着過程を省略でき、大面積の素子を容易に作成することができる。また、素子基板の材質および形状選択性が広がり、少量多品種な素子生産が可能となる。その結果、半導体素子の製造コストの低減、さらに有機化合物の柔軟性によりフレキシブルな半導体素子の作成が可能となるなど、有機系半導体として付加価値を付与することができる。
【0006】
ウエットプロセスにより有機半導体材料を用いて半導体素子を作成する手法としては、インクジェット印刷、スクリーン印刷、スプレー印刷、ドロップキャスティング印刷、ディップコート印刷、スタンプ印刷などの手法が提唱されている。各印刷方法に適合した有機半導体溶液もしくは半導体インクの開発が望まれている。
【0007】
印刷工程に適した有機半導体材料として、ペンタセン誘導体やポリ(アルキルチオフェン)などを用いたウエットプロセスによる電界効果トランジスタの作成が研究されている。しかし、トランジスタの性能を表す、電界効果キャリア移動度(以下移動度)は0.1cm
2 V
−1s
−1以下であり、従来のアモルファスシリコンの移動度である1cm
2 V
−1s
−1以上には至っていない。
【0008】
非特許文献1には、2、7−ジアルキル[1]ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン(下記一般式(3)において、X
1及びX
2が硫黄原子であり、R
1及びR
2が一般式C
nH2
n+1の飽和炭化水素で表される化合物、以下CnBTBT)を用いた電界効果トランジスタについて開示されている。CnBTBTは、種々の有機溶媒に可溶かつ、ウエットプロセスで作成した電界効果トランジスタの移動度は1cm
2 V
−1s
−1以上(トップコンタクト型の場合で)と非常に良好な特性を示す有機半導体材料である。しかし、CnBTBTを用いた電界効果トランジスタは、融点以上の熱処理により、容易に薄膜が崩壊し半導体特性を示さなくなるという欠点がある。一方で、電界効果トランジスタを用いたデバイス製造工程では150℃程度の熱がかかることが多く、CnBTBT単体では、工業プロセスによるデバイス製造は困難であり、高耐熱性材料の開発が求められている。
【0009】
【化1】
【0010】
特許文献1には、溶液プロセスを用いた縮合多環芳香族の電界効果トランジスタが開示されている。
特許文献2には、オリゴチオフェンとポリメタクリル酸メチル(PMMA)を含む溶液の調製法および、該溶液を用いた電界効果トランジスタについて開示されている。
特許文献3には、オリゴチオフェンと低分子材料からなる、電界効果トランジスタについて開示されている。
特許文献4には、ペンタセン誘導体と高分子材料からなる電界効果トランジスタについて開示されている。
非特許文献2には、高分子系有機半導体材料にポリメタクリル酸メチル(PMMA)を添加した溶液の調製法および半導体特性について開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の有機半導体組成物の好ましい態様を記載する。
本発明の有機半導体組成物(以下、便宜的に「本発明組成物」と記載)は、下記の一般式(1)で表される部分構造を有する有機半導体材料および高分子材料を含む。その他の添加物を含有してもよいが、含有しなくても本発明の効果は得られる。
【0025】
(式中、XはS、Se、またはTeを表す。)
【0026】
上記の有機半導体材料が、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0028】
XはS、Se、またはTeを表すが、Sが好ましい。R
1、R
2はそれぞれ独立に、置換基を有してもよいアルキル基を表し、m1、m2は0〜4の整数を表す。アルキル基としては、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、環状アルキル基、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、C1〜C36の直鎖アルキル基が好ましい。置換基としては、F、Cl、Brのハロゲン原子、スルホン酸基、ニトロ基、カルボン酸基が挙げられるが、無置換又はハロゲン置換基が好ましい。
【0029】
本発明組成物における有機半導体材料である上記の一般式(2)に示した化合物の好適な具体例を以下に挙げる。
【0031】
さらに、有機半導体材料(2)の例(代表例としてm1及びm2が1の場合)として下記の一般式(3)で表される化合物の具体例を、表1乃至表4に挙げる。ここで、水素原子をH、炭素原子をC、フッ素原子をF、塩素原子をCl、臭素原子をBr、硫黄原子をS、セレン原子をSe、テルル原子をTeと表記する。
【0037】
本発明の高分子材料とは、高分子化合物、もしくは高分子化合物を主要成分とし、その他に種々の素材を混合した材料である。高分子化合物とは、非常に多数の原子が化学結合してできる巨大分子のことであり、単量体の繰り返し構造単位を有する重合体も高分子化合物に含まれる。一般的に分子量が約一万以上のものは高分子材料とみなされるが、広義においてはオリゴマーと呼ばれる分子量の低い重合体も高分子材料と呼ばれる。本発明における高分子化合物とは、上記の分子量が高い化合物だけでなく、比較的分子量の小さい重合体も含まれる。
【0038】
本発明の高分子材料は、室温で固体であり、かつ溶媒に溶解する材料であることが好ましい。本発明の高分子材料の具体例としては、有機系合成高分子化合物、有機系天然高分子化合物、無機系高分子化合物に大別される。具体例として、以下に示す材料およびこれらの誘導体、共重合体、混合体が挙げられるが、下記のこれら全ての高分子化合物は一種又は二種以上を任意に組み合わせて使用することも出来る。
【0039】
有機系合成高分子化合物として、合成樹脂、プラスチック、ポリ塩化ビニル系高分子、ポリエチレン系高分子、フェノール樹脂系高分子、ポリスチレン系高分子、アクリル樹脂系高分子、アミド樹脂系高分子、エステル樹脂系高分子、ナイロン系高分子、ビニロン系高分子、ポリエチレンテレフタレート系高分子、合成ゴム系高分子、ポリイソプレン系高分子、アクリルゴム系高分子、アクリロニトリルゴム系高分子、ウレタンゴム系高分子などが挙げられるが、好ましくは合成樹脂、プラスチック、ポリ塩化ビニル系高分子、ポリエチレン系高分子、フェノール樹脂系高分子、ポリスチレン系高分子、アクリル樹脂系高分子、アミド樹脂系高分子、エステル樹脂系高分子、ナイロン系高分子、ビニロン系高分子、ポリエチレンテレフタレート系高分子などが挙げられ、さらに好ましくは合成樹脂、プラスチック、ポリ塩化ビニル系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレン系高分子、フェノール樹脂系高分子、アクリル樹脂系高分子などが挙げられる。
【0040】
有機系天然高分子として、たんぱく質、核酸、脂質、セルロース、デンプン、天然ゴム等が挙げられる。セルロースやデンプンなどがより好ましい。
無機系高分子化合物として、シリコン樹脂、シリコンゴムなどが挙げられる。
【0041】
本発明高分子材料を電気特性の観点から分類すると、導電性高分子化合物、半導体性高分子化合物、絶縁性高分子化合物に大別される。
【0042】
導電性高分子化合物とは、分子中に発達したπ電子骨格を有し、電気伝導性を示すことを特徴とする高分子化合物である。導電性高分子化合物の具体例として、ポリアセチレン系高分子、ポリジアセチレン系高分子、ポリパラフェニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリパラフェニレンビニレン系高分子、ポリエチレンジオキシチオフェン系高分子、ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホン酸の混合物(一般名、PEDOT−PSS)、核酸やこれらの誘導体が挙げられ、その多くがドーピングにより導電性が向上する。これらの導電性高分子化合物の中でも、ポリアセチレン系高分子、ポリパラフェニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリパラフェニレンビニレン系高分子などがより好ましい。
【0043】
半導体性高分子化合物とは、半導体性を示すことを特徴とする高分子化合物である。半導体性高分子化合物の具体例として、ポリアセチレン系高分子、ポリジアセチレン系高分子、ポリパラフェニレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリパラフェニレンビニレン系高分子、ポリエチレンジオキシチオフェン系高分子、核酸やこれらの誘導体が挙げられる。その具体例として、ポリアセチレン系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリパラフェニレンビニレン系高分子などがより好ましい。半導体性高分子化合物はドーピングにより導電性を発現し、そのドーピング量によって導電性を有する事もある。
【0044】
絶縁性高分子化合物とは、絶縁性を示すことを特徴とする高分子化合物であり、上記の導電性または半導体性高分子材料以外の高分子材料の大部分は絶縁性高分子材料である。その具体例として、アクリル系高分子、ポリエチレン系高分子、ポリメタクリレート系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレンテレフタレート系高分子、ナイロン系高分子、ポリアミド系高分子、ポリエステル系高分子、ビニロン系高分子、ポリイソプレン系高分子、セルロース系高分子、共重合系高分子およびこれらの誘導体などがより好ましい。
【0045】
本発明組成物で得られる効果を損なわない限りにおいて、適宜その他の添加物、例えば、キャリア発生剤、導電性物質、粘度調整剤、表面張力調整剤、レベリング剤、浸透剤、濡れ調製剤、レオロジー調整剤などを加えてもよい。
【0046】
閾値電圧とは、実質的に半導体素子が動作するのに必要な最低の電圧であり、閾値電圧は低いほど低電圧駆動の半導体素子が実現できる。そのため、実用的な半導体素子を作成するにあたり、移動度の向上だけでなく、閾値電圧の低下も重要な課題である。絶縁性高分子材料は、その電気的絶縁性から閾値電圧が上昇することが予想され、半導体性高分子材料はその電気的特性により閾値電圧を低下させることが期待される。目的に応じて、有機半導体材料、絶縁性高分子材料、半導体性高分子材料、導電性高分子材料をそれぞれ混合しても良い。
【0047】
本発明組成物における有機半導体材料の添加量は、通常5%〜99%、好ましくは20%〜98%、より好ましくは40〜97%、最も好ましくは50%〜95%の範囲で使用するのが良い。なお、該「%」は重量基準であり、以下特に断りのない限り同様である。
【0048】
本発明組成物における高分子材料の添加量は、通常0.5%〜95%、好ましくは1%〜90%、より好ましくは3%〜75%、最も好ましくは5%〜50%の範囲で使用するのが良い。
【0049】
本発明組成物における添加物の添加量は、0%〜50%、好ましくは0.1%〜30%、より好ましくは0.5%〜20%の範囲で使用するのが良い。
【0050】
有機半導体インク(以下、「本発明インク」という)は、本発明組成物および溶媒を含んでなる。その他の添加物は含有してもよいが、含有しなくても本発明の効果が得られる。印刷に用いる方法によりその濃度が異なるため、一概には言えないが、溶媒に対する本発明組成物の添加量は、通常0.01%〜70%、好ましくは通常0.1%〜50%、より好ましくは0.2%〜50%の範囲で使用するのが良い。
【0051】
本発明のインクに用いる溶媒としては、有機半導体材料および高分子材料を溶解もしくは分散せしめ、かつ適正な温度領域で液体となる溶媒であればいずれでもよい。溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、テトラクロロベンゼン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、エーテル、ヘキサン、アセトニトリル、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられるが、この限りではない。これらの溶媒は、一種又は二種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0052】
本発明組成物は、例えば、前記含有量になるように、有機半導体材料と高分子化合物を溶媒に溶解もしくは分散せしめ、それぞれの素材の溶解度に応じた熱処理および攪拌することにより調製できるが、組成物の調製方法はこの限りではない。また、前述のように、その他の添加物を使用してもしなくてもよい。前記のその他の添加物を添加する場合には、未溶解成分を残さないように適宜添加するか、または未溶解成分をろ過などの処理により除去すればよい。
【0053】
本発明の有機半導体薄膜とは、本発明組成物から形成された薄膜であり、半導体素子の一つの構成要素である。半導体薄膜の膜厚は、必要な機能を損なわない限り薄いほど好ましく、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜5μmであり、より好ましくは1nm〜3μmである。
【0054】
有機半導体薄膜の作成法としては、有機半導体素子の劣化を生じず、溶液を用いる工程であればいずれでもよく、以下の具体例の限りではない。製膜法の具体例としては、スピンコート法、ドロップキャスト法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷、樹脂凸版印刷などの凸版印刷法、オフセット印刷法、ドライオフセット印刷法、パッド印刷法、石版印刷法などの平板印刷法、グラビア印刷法などの凹版印刷法、シルクスクリーン印刷法、謄写版印刷法、リソグラフ印刷法などの孔版印刷法、インクジェット印刷法、マイクロコンタクトプリント法等が挙げられる。汎用性の観点から、スピンコート法、ディップコート法、スプレー法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、パッド印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法、インクジェット印刷法が好ましい。
【0055】
有機半導体薄膜の作成は、大気雰囲気下、水蒸気下、減圧下、真空下、窒素やアルゴンなどの不活性気体雰囲気下、あるいは水素などの活性ガス雰囲気下など、目的により適宜選択できるが、簡便な大気雰囲気下が好ましい。
有機半導体薄膜作成後は、溶媒を除去する工程を経てもよい。溶媒除去工程としては、加熱による熱処理、乾燥ガス雰囲気下、大気雰囲気下での自然乾燥など、目的により適宜選択できるが、簡便な自然乾燥が好ましい。
【0056】
本発明の電界効果トランジスタ素子(以下FETと略することがある)は、半導体に接して2つの電極、すなわちソース電極及びドレイン電極があり、その電極間に流れる電流を、ゲート電極と呼ばれるもう一つの電極に印加する電圧で制御するものである。
一般に、電界効果トランジスタはゲート電極が絶縁膜で絶縁されている構造(Metal−Insulator−Semiconductor;MIS構造)がよく用いられる。絶縁膜に金属酸化膜を用いるものはMOS構造と呼ばれる。他には、ショットキー障壁を介してゲート電極が形成されている構造(MES構造)のものもあるが、有機半導体材料を用いたFETの場合、MIS構造がよく用いられる。
【0057】
以下、図を用いて本発明の電界効果トランジスタの構造についてより詳細に説明するが、この限りではない。
図1に、本発明の電界効果トランジスタのいくつかの態様を示す。各態様において、1はソース電極、2は半導体薄膜、3はドレイン電極、4は絶縁体層、5はゲート電極、6は基板、7は保護層をそれぞれ表す。尚、各層や電極の配置は、素子の用途により適宜選択できる。A〜Dは基板と並行方向に電流が流れるので、横型FETと呼ばれる。Aはボトムコンタクト構造、Bはトップコンタクト構造と呼ばれる。また、Cは有機単結晶のFET作成によく用いられる構造で、半導体薄膜上にソース及びドレイン電極、絶縁体層を設け、さらにその上にゲート電極を形成している。Dはトップ&ボトムコンタクト型半導体と呼ばれる構造である。Eは縦型の構造をもつFET、すなわち静電誘導半導体(SIT)の模式図である。このSIT構造によれば、電流の流れが平面状に広がるので一度に大量のキャリアが移動できる。またソース電極とドレイン電極が縦に配されているので電極間距離を小さくできるため応答が高速である。従って、大電流を流す、あるいは高速のスイッチングを行うなどの用途に適用できる。なお
図1中のEには、基板を記載していないが、通常の場合、1および3で表されるソース及びドレイン電極の外側には基板が設けられる。
【0058】
図1の各態様における各構成要素を以下に説明する。
基板6は、その上に形成される各層が剥離することなく保持できることが必要である。例えば、樹脂板やフィルム、紙、ガラス、石英、セラミックなどの絶縁性材料、金属や合金などの導電性基板上にコーティング等により絶縁層を形成した物、樹脂と無機材料など各種組合せからなる材料等を使用しうる。使用しうる樹脂フィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリエーテルイミドなどが挙げられる。樹脂フィルムや紙を用いると、素子に可撓性を持たせることができ、フレキシブルで、軽量となり、実用性が向上する。基板の厚さとしては、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。
【0059】
ソース電極1、ドレイン電極3、ゲート電極5には導電性を有する材料が用いられる。例えば、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、コバルト、銅、鉄、鉛、錫、チタン、インジウム、パラジウム、モリブデン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム、カリウム、ナトリウム等の金属及びそれらを含む合金;InO
2、ZnO
2、SnO
2、ITO等の導電性酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子化合物;シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体;カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料等を使用しうる。また、導電性高分子化合物や半導体にはドーピングが行われていてもよい。その際のドーパントとしては、例えば、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF
5、AsF
5、FeCl
3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属原子等が挙げられる。ホウ素、リン、砒素などは半導体用のドーパントとして用いられている。また、上記材料にカーボンブラックや金属粒子などを分散した導電性の複合材料も用いられる。
【0060】
ソースとドレイン電極間の距離(チャネル長)が素子の特性を決める重要なファクターとなる。通常300〜0.5μm、好ましくは100〜2μmである。短ければ取り出せる電流量は増えるが、逆に短かすぎるとリーク電流などの発生が起こるため、適正なチャネル長が必要である。ソースとドレイン電極間の幅(チャネル幅)は通常5000〜10μm、好ましくは3000〜100μmとなる。またこのチャネル幅は電極の構造がくし型の構造になる時などは、さらに長いチャネル幅の形成が可能で、必要な電流量やデバイスの構造などにより適切な長さにすればよい。
【0061】
ソース及びドレイン電極それぞれの構造(形)について説明する。ソースとドレイン電極の構造はそれぞれ同じであっても、異なっていてもよい。ボトムコンタクト構造を有するときには、一般的にはリソグラフィー法を用いて作成し、直方体に形成するのが好ましい。電極の長さは前記のチャネル幅と同じでよい。電極の幅は特に規定は無いが、電気的特性を安定化できる範囲で素子の面積を小さくするために短い方が好ましい。通常は5000〜10μmで好ましくは3000〜100μmである。電極の厚さは、通常1nm〜1μmであり、好ましくは5nm〜0.5nmであり、より好ましくは10nm〜0.2μmである。各電極1、3、5には配線が連結されているが、配線も電極とほぼ同様の材料により作製される。
【0062】
絶縁体層4としては絶縁性を有する材料が用いられる。例えば、ポリパラキシリレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体;二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル等の酸化物;SrTiO
3、BaTiO
3等の強誘電性酸化物;窒化珪素、窒化アルミニウム等の窒化物;硫化物;フッ化物などの誘電体、あるいは、これら誘電体の粒子を分散させたポリマー等を使用しうる。絶縁体層4の膜厚は、材料によって異なるが、通常0.1nm〜100μm、好ましくは0.5nm〜50μm、より好ましくは1nm〜10μmである。
【0063】
半導体薄膜2の材料としては、本発明組成物が用いられる。組成物中の有機半導体材料としては、上記式(1)で表される部分構造を有する材料の中でも、アルキル誘導体である上記式(2)が好ましい。また半導体薄膜2は複数の層からなってもよい。
半導体薄膜2の膜厚は、必要な機能を失わない範囲で、薄いほど好ましい。A、B及びDに示すような横型の電界効果トランジスタにおいては、所定以上の膜厚があれば半導体素子の特性は膜厚に依存しない。その一方で、膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多い。そのため膜厚が適当な範囲にあることが好ましい。半導体が必要な機能を示すために半導体薄膜の膜厚は、通常、0.1nm〜10μm、好ましくは0.5nm〜5μm、より好ましくは1nm〜3μmである。
【0064】
本発明の電界効果トランジスタには各層の間や素子の外面に必要に応じて他の層を設けることができる。例えば、半導体薄膜上に直接または他の層を介して、保護層を形成すると、湿度などの外気の影響を小さくすることができ、また、デバイスのON/OFF比を上げることができるなど、電気的特性を安定化できる利点もある。
保護層の材料としては特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリオレフィン等の各種樹脂からなる膜や、酸化珪素、酸化アルミニウム、窒化珪素等、無機酸化膜や窒化膜等の誘電体からなる膜が好ましく用いられる。特に、酸素や水分の透過率や吸水率の小さな樹脂(ポリマー)が好ましい。近年、有機ELディスプレイ用に開発されている保護材料も使用が可能である。保護層の膜厚は、その目的に応じて任意の膜厚を採用できるが、通常100nm〜1mmである。
【0065】
また半導体薄膜が積層される基板または絶縁体層上などに予め表面処理を行うことにより、デバイスの特性を向上させることが可能である。例えば基板表面の親水性/疎水性の度合いを調整することにより、その上に成膜される膜の膜質を改良しうる。特に、有機半導体材料は分子の配向など膜の状態によって特性が大きく変わることがある。そのため、基板などへの表面処理によって、基板などとその後に成膜される半導体薄膜との界面部分の分子配向が制御されること、また基板や絶縁体層上のトラップ部位が低減されることにより、キャリア移動度等の特性が改良されるものと考えられる。トラップ部位とは、未処理の基板に存在する例えば水酸基のような官能基をさし、このような官能基が存在すると、電子が該官能基に引き寄せられ、この結果としてキャリア移動度が低下する。従って、トラップ部位を低減することもキャリア移動度等の特性改良には有効な場合が多い。このような基板処理としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュア・ブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理、機械的処理、コロナ放電などの電気的処理、又繊維等を利用したラビング処理等が挙げられる。
【0066】
電界効果トランジスタの上記各態様において各層を設ける方法としては、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等が適宜採用できる。コストや手間の問題を考慮すると、塗布法や、例えばインクジェット印刷などを用いる印刷法を使用するのが好ましい。
【0067】
次に、本発明の電界効果トランジスタの製造方法について、
図1の態様例Aに示すボトムコンタクト型電界効果トランジスタ(FET)を例として、
図2に基づき以下に説明する。
この製造方法は、前記した他の態様の電界効果トランジスタ等にも同様に適用しうるものである。
【0068】
(基板及び基板処理)
本発明の電界効果トランジスタは、基板6上に必要な各種の層や電極を設けることで作製される(
図2(1)参照)。基板には上記で説明したものが使用できる。この基板上に前述の表面処理などを行うことも可能である。基板6の厚みは、必要な機能を妨げない範囲で薄い方が好ましい。材料によっても異なるが、通常1μm〜10mmであり、好ましくは5μm〜5mmである。又、必要により、基板に電極の機能を持たせるようにしてもよい。
【0069】
(ゲート電極の形成)
基板6上にゲート電極5を形成する(
図2(2)参照)。電極材料としては上記で説明したものが用いられる。電極膜を成膜する方法としては、各種の方法を用いることが出来、例えば真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、熱転写法、印刷法、ゾルゲル法等が採用される。成膜時又は成膜後、所望の形状になるよう必要に応じてパターニングを行うのが好ましい。パターニングの方法としても各種の方法を用いうるが、例えばフォトレジストのパターニングとエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法等が挙げられる。又、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法、及びこれら手法を複数組み合わせた手法を利用し、パターニングすることも可能である。ゲート電極5の膜厚は、材料によっても異なるが、通常0.1nm〜10μmであり、好ましくは0.5nm〜5μmであり、より好ましくは1nm〜3μmである。又、ゲート電極と基板を兼ねる場合は上記の膜厚より大きくてもよい。
【0070】
(絶縁体層の形成)
ゲート電極5上に絶縁体層4を形成する(
図2(3)参照)。絶縁体材料としては上記で説明したもの等が用いられる。絶縁体層4を形成するにあたっては各種の方法を用いうる。例えばスピンコーティング、スプレイコーティング、ディップコーティング、キャスト、バーコート、ブレードコーティングなどの塗布法、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット等の印刷法、真空蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、イオンクラスタービーム法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、大気圧プラズマ法、CVD法などのドライプロセス法が挙げられる。その他、ゾルゲル法やアルミニウム上のアルマイト、シリコン上の二酸化シリコンのように金属上に酸化物膜を形成する方法等が採用される。
尚、絶縁体層と半導体薄膜が接する部分には、両層の界面で半導体を構成する分子を良好に配向させるために、絶縁体層に所定の表面処理を行うこともできる。表面処理の手法は、基板の表面処理と同様のものを用いうる。絶縁体層4の膜厚は、その機能を損なわない範囲で薄い方が好ましい。通常0.1nm〜100μmであり、好ましくは0.5nm〜50μmであり、より好ましくは5nm〜10μmである。
【0071】
(ソース電極及びドレイン電極の形成)
ソース電極1及びドレイン電極3の形成方法等はゲート電極5の場合に準じて形成することが出来る(
図2(4)参照)。
【0072】
(半導体薄膜の形成)
有機半導体材料として、上記で説明したように、本発明による前記式(1)で表される部分構造を有する化合物と高分子材料を含む組成物が用いられる。半導体薄膜2を成膜するにあたっては、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、スピンコート法等の塗布法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクト印刷法などの溶液プロセスが用いられる(
図2(5)参照)。
【0073】
(保護層の形成)
さらに、半導体薄膜2を覆う形で保護層7を形成してもよい(
図2(6)参照)。保護層の形成方法は、特に限定されず、公知の種々の方法を用いることが可能である。
【0074】
<有機半導体素子の製造工程>
以下に、本発明の一実施形態による電界効果トランジスタの製造工程を説明するが、本発明の効果を失わない限り、この限りではない。
【0075】
本発明組成物、本組成物インク、および電界効果トランジスタの作成においては、大気雰囲気下、水蒸気下、真空下、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下、あるいは水素などの活性ガス雰囲気下など、目的により適宜選択できる。簡便かつ特殊設備が不要な大気雰囲気下が最も望ましい。
【0076】
(有機半導体インクの作成)
まず、半導体特性を有する有機半導体材料を第一の溶媒に溶解して、第一の溶液を作成する。有機半導体材料は、単分子状として第一の溶媒に溶解してもよいし、コロイドやミセルなどの分子集合体として、第一の溶媒に分散していてもよい。有機半導体材料の濃度についても特に限定は無いが、溶液中に安定に溶解または分散している状態が好ましい。例えば、少しの温度変化などで有機半導体材料が沈殿するような飽和濃度近傍の濃度は好ましくない。しかし、沈殿物を形成しても、フィルターを通して通過するもののみを、次の工程で使用するようにしてもよい。フィルターを通すことによって、不溶の不純物を除くことができる。
【0077】
次に、高分子材料を第二の溶媒に溶解又は分散して第二の溶液を調製する。高分子材料は、単分子状として第二の溶媒に溶解してもよいし、コロイドやミセルなどの分子集合体として、第二の溶媒に分散していてもよい。高分子材料の濃度についても特に限定は無いが、溶液中に安定に溶解または分散している状態が好ましく、例えば、少しの温度変化などで高分子材料が沈殿するような飽和濃度近傍の濃度は好ましくない。しかし、沈殿物を形成しても、フィルターを通して通過するもののみを、次の工程で使用するようにしてもよい。フィルターを通すことによって、不溶の不純物を除くことができる。
【0078】
第一の溶液と第二の溶液とを攪拌しながら混合して、有機半導体材料および高分子材料を含む第三の溶液を形成する。一般には、溶解度の高い有機半導体材料を含む第一の溶液に、高分子材料を含む第二の溶液を添加することがより望ましい。混合時の温度は、おおむね0℃〜溶液の沸点温度以下の範囲であり、例えば15〜40℃程度が望ましい。
【0079】
さらに、第三の溶液を目的の濃度になるよう、溶媒で希釈し、本発明の組成物を含有する有機半導体インクを得ることができる。有機半導体材料と高分子材料との混合法は、有機半導体材料と高分子材料の両者が安定に溶解していればよく、この手法に限定されない。例えば、有機半導体材料の固体に、高分子材料を含む溶液を添加、混合しても同様の効果を得ることができる場合もある。
【0080】
(電界効果トランジスタの作成)
本発明インクを用いた電界効果トランジスタの作成法について以下に述べるが、本発明組成物の効果を減じない限りにおいては、以下の手法に限定されない。ゲート絶縁膜、ゲート電極を形成した基板の上に本発明による有機半導体インクを供給し、本発明の組成物を含む半導体薄膜を得る。その後、上記手法にてソースおよびドレイン電極を作成し、本発明組成物を含む電界効果トランジスタを得る。または、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソースおよびドレイン電極を形成した基板の上に本発明による有機半導体インクを供給し、本発明の組成物を含む半導体薄膜を得る。有機半導体インクを供給し、有機半導体薄膜を形成する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などが挙げられる。特に半導体特性を損なう手法でなければ、これらの手法に限定されるものではない。
【0081】
半導体薄膜を形成した後、加熱を行ってもよい。有機半導体材料、高分子材料、溶媒の物理的性質、さらに混合物の組成などにも因るが、一般に有機半導体薄膜は加熱を行うことで、性能向上が認められることが多い。また、半導体素子製造には有機半導体薄膜形成以外にも様々な工程を経る必要があり、その間、高温に晒されることが多い。高温過程を経ることで、実質的に半導体素子の性能劣化を生じない、または有機半導体材料単体では著しい性能劣化を示す温度をかけることで、半導体素子の性能向上が認められることが期待される。そのため、半導体特性を劣化させない熱処理の温度範囲を広げることは重要である。
熱処理の温度範囲としては、有機半導体材料および高分子材料の熱特性、すなわち融点、相転移温度、ガラス転移温度などに適宜調整可能であるが、20〜250℃が好ましく、50〜230℃がより好ましく、80〜200℃がさらに好ましく、100〜180℃の範囲が最も好ましい。
また、熱処理温度は高分子材料のガラス転移温度(以下Tgという)以上がより好ましく、Tg以上かつTgから150℃高い温度範囲がさらに好ましく、Tg以上かつTgから100℃高い範囲がより好ましく、Tg以上かつTgから50℃高い温度範囲がもっとも好ましい。
さらに、熱処理温度は、有機半導体材料の融点以上が好ましく、融点以上かつ融点から150℃高い温度範囲がさらに好ましく、融点以上かつ融点から100℃高い温度範囲がより好ましく、融点以上かつ融点から50℃高い温度範囲がもっとも好ましい。
加熱の際には、大気雰囲気下、真空下、窒素やアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下、あるいは水素などの活性ガス雰囲気下など、目的により適宜選択できるが、簡便かつ特殊設備が不要な大気雰囲気下が最も望ましい。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。以下の記載において、部とあるのは、特に断りのない限り、重量基準である。
【0083】
本発明の組成物に用いた材料は以下の通りであり、いずれも有機半導体材料もしくは一般工業製品として周知である。
1.有機半導体材料
1)化合物名2,7−デシル[1]ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン、化合物(319) 融点;124℃
発明者による合成品、以下「C10BTBT」と記載する。
また、その他で使用可能なアルキルBTBT(nはアルキル鎖の炭素数を示す)の融点(ホットプレート測定値)は以下の通りである。
2.高分子材料
例に記載の高分子材料の中で、ガラス転移温度50〜150℃のものを使用した。
1)化合物名ポリメタクリル酸メチルエステル
東京化成製、以下「PMMA」と記載する。絶縁性アクリル樹脂系高分子、ガラス転移温度90−115℃、溶融温度250℃以上、熱分解温度300℃以上。
2)化合物名ポリスチレン
Aldrich製、以下「PS」と記載する。絶縁性ポリスチレン系高分子、ガラス転移温度50−110℃、溶融温度200℃、熱分解温度330℃以上。
3)化合物名ポリ(スチレン・アクリロニトリル)コ・ブロック重合体
Aldrich製、以下「PS―AN」と記載する。絶縁性共重合系高分子、ガラス転移温度50−110℃、溶融温度200℃、熱分解温度330℃以上。
4)化合物名ポリ(3−ヘキシル−チオフェン)
メルク社製。以下P3HTと記載する。半導体性ポリチオフェン系高分子、ガラス転移温度約115℃、溶融温度>210℃、熱分解温度>430℃。
【0084】
例1
<本発明インクの作成>
以下の手法にて、有機半導体材料および高分子材料の濃度が異なる、本発明の各種インクを得た。
インク1の作成法は以下の通りです。
C10BTBT2.0部にクロロフォルム98.0部を添加し、30〜40℃の加熱を行うことで、C10BTBTを溶解させ、第一の溶液を得た。PMMA2.0部にクロロホルム99.0部を添加し、30〜40℃の加熱を行うことで、PMMAを溶解させ、第二の溶液を得た。第一の溶液50部に、第二の溶液15部を添加し、30〜50℃の加熱を行うことで、C10BTBTとPMMAが溶解した第三の溶液を得た。さらに、クロロホルムを35部添加することで、最終的にC10BTBTの濃度が1.0%、PMMAの濃度が0.3%であるインク1を得た。
インク2は、PMMAの代わりにPSを用いる以外はインク1と同様に調製した。
インク3は、PMMAの代わりにPS−ANを用いる以外はインク1と同様に調製した。
インク4は、PMMAの代わりにP3HTを用いる以外はインク1と同様に調製した。
インク5の作成法は以下の通りである。
インク1と同様の手法で、C10BTBTを含む第一の溶液および、PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に、第二の溶液3.5部を添加し、30〜50℃の加熱を行うことで、C10BTBTとPMMAが溶解した第三溶液を得た。さらに、クロロホルムを46.5部添加することで、最終的にC10BTBTの濃度が1.0%、PMMAの濃度が0.07%であるインク5を得た。
【0085】
インク6の作成法は以下の通りである。
インク1と同様の手法で、C10BTBTを含む第一の溶液および、PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に、第二の溶液7部を添加し、30〜50℃の加熱を行うことで、C10BTBTとPMMAが溶解した第三の溶液を得た。さらに、クロロホルム43部を添加することで、最終的にC10BTBTの濃度が1.0%、PMMAの濃度が0.14%であるインク6を得た。
インク7の作成法は以下の通りである。
実施例1と同様の手法で、C10BTBTを含む第一の溶液および、PMMAを含む第二の溶液を得た。第一の溶液50部に、第二の溶液50部を添加し、30〜50℃の加熱を行うことで、最終的にC10BTBTの濃度が1.0%、PMMAの濃度が1.0%であるインク7を得た。
【0086】
例2(比較用)
C10BTBT1.0部にクロロホルム99.0部を添加し、30〜40℃の加熱を行うことで、C10BTBTを溶解させ、比較用の溶液(以下、比較溶液と記載)を得た。
【0087】
<ボトムコンタクト素子の作成>
以下の手法にて、
図1Aに図示した構造を有するボトムコンタクト型の電界効果トランジスタ(以下、ボトム基板と記載)を作成した。ヘキサメチルジシラザン(以下、HMDSと記載)処理をした300nmのSiO
2熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)上にレジスト材料を塗布、露光パターニングし、ここにクロムを1nm、さらに金を40nm蒸着した。次いでレジストを剥離して、ソース電極及びドレイン電極を形成させた(チャネル長25μm×チャネル幅2mm×20個である櫛型電極)。
上記のインク1〜7および比較溶液の各々を、公知の処方にてHMDSによる表面処理を行ったボトム基板に、2〜3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し、スピンコート法(回転数4000rpm回転時間25秒)にて、ボトム基板上に半導体薄膜を作成することで、本発明のボトムコンタクト型の電界効果トランジスタを得た(以下、ボトム素子と略す)。
【0088】
<トップコンタクト素子の作成>
上記インク1〜7および比較溶液の各々を、HMDS処理をした300nmのSiO
2熱酸化膜付きnドープシリコンウェハー(面抵抗0.02Ω・cm以下)に、2〜3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し、スピンコート法(回転数4000rpm回転時間25秒)にて、シリコン基板上に半導体薄膜を得た。半導体薄膜を形成した基板に、下記の熱処理を施した。その後、電極作成用シャドウマスクを取り付け、真空蒸着装置内に設置し、装置内の真空度が1.0×10
−4Pa以下になるまで排気した。次いで抵抗加熱蒸着法によって、金の電極(ソース電極及びドレイン電極)を40nmの厚さに蒸着(チャネル長200μm×チャネル幅2mm)し、
図1Bに示した構造を有する、トップコンタクト型である電界効果トランジスタを得た(以下、トップ素子と略す)。
【0089】
上記のインク1〜7および比較溶液の各々から作成した、半導体薄膜を含むトップ素子または、半導体薄膜を含むボトム素子の熱処理方法は以下のように行った。大気雰囲気下にてあらかじめ所定温度にて予熱を行っていたホットプレート上に、半導体薄膜を含む素子を乗せ、10分間静置後、速やかに室温環境下に移動した。ここで室温とは、おおむね22〜25℃を示す。
【0090】
(キャリア移動度および閾値電圧の算出)
半導体のキャリア移動度(以下移動度)および閾値電圧の算出は「半導体デバイス物理特性および技術」[Sze,S.M.pp30−35,pp200−207(1985)]の記載内容に準拠して行った。移動度および閾値電圧は、半導体素子に対して、ソースおよびドレイン電圧(0〜−100V)を印加することによって測定し、半導体応答曲線の飽和ソースドレイン電流を用いて算出した。移動度および閾値電圧は3つの素子にて測定を行い、その平均値を算出した。
【0091】
例3
<耐熱性の比較>
PMMAを0.3%含有する上記インク1もしくは比較溶液から作成し、熱処理なし(室温)、118℃、および150℃の熱処理を行ったボトム素子の移動度を表5に示す。
【0092】
【表5】
【0093】
PMMAを含む本発明インクから作成した半導体素子は、熱処理を行わなくても、半導体特性を示した。さらに、PMMAを含む本発明インクから作成した半導体素子は、熱処理温度の上昇に伴い半導体特性の向上がみとめられ、特に150℃の熱処理に伴い、顕著な移動度の向上が認められたことから、有機半導体材料の融点以上の熱処理が有効であることが判明した。一方、PMMAを含まない比較溶液は、150℃の熱処理により半導体薄膜の融解が生じ、半導体素子の機能が失われることから、比較例溶液からの工業プロセスによるデバイス製造は困難であると考えられる。
【0094】
例4
<高分子材料の比較>
PMMA、PS、PS−AN、P3HTをそれぞれ0.3%含有する上記インク1乃至4および比較溶液から作成し、150℃の熱処理を施したボトム素子の電界効果トランジスタの移動度を表6に示す。
【0095】
【表6】
【0096】
前述のように、高分子材料を含有しない比較溶液から作成した半導体素子は、150℃の熱処理に伴い融解と薄膜の崩壊が生ずるため、半導体特性を示さなかった。一方、PMMA,PS,PS−ANおよびP3HTの高分子材料を含むインク1〜4は高分子材料の構造に依存せず、150℃の熱処理においても明瞭なキャリア移動度を示した。また、絶縁性高分子材料であるPMMA、PS、PS−ANを含む、本発明の電界効果トランジスタは、150℃の熱処理により高い移動度を示す。一方、半導体材料であるP3HTを含むトランジスタにおいては、閾値電圧の改善が認められ、低電圧で駆動するトランジスタとなった。
【0097】
例5
<高分子材料添加量と塗布性比較>
本発明インクのスピンコートによる製膜性について、表面をUV/オゾン処理によって親水化したSiO
2基板(以下、未処理基板)および、UV/オゾン処理後に公知の手法にてHMDSによる疎水化を行った基板(以下、HMDS処理基板)を用いて比較を行った。未処理基板又はHMDS処理基板上に、インク5乃至7および比較溶液を、2〜3mgを滴下することで基板上に半導体組成物を供給し、スピンコート法(回転数4000rpm 回転時間25秒)にて、半導体薄膜を得た。
未処理基板または処理基板上での、半導体インク5乃至7または比較溶液による、SiO
2表面上でのスピンコート製膜性を表7に示す。
【0098】
【表7】
【0099】
ここでは、基板表面上に形成した半導体薄膜の面積から濡れ性を評価し、◎は有機半導体組成物が100%基板表面を覆った状態、○は98%以上覆った状態、△は90%以上覆った状態、×は80以下しか覆えなかった状態をそれぞれ示す。
未処理基板、HMDS処理基板共に、比較溶液、インク5、インク6の順番、すなわちPMMAの含有量の増加に伴い塗布性が改善した。特に、比較溶液を用いた場合、HMDS処理基板上では明瞭な半導体薄膜の形成が認められなかったのに対し、インク6では非常に良好な半導体薄膜の形成が認められた。インク7は、スピンコート法にとっては高粘度であり塗布性が悪くなっているため、濡れ性が低下した。しかし、PMMAの添加量を調整することでスピンコート法以外の塗布法にて製膜が可能となる。
【0100】
例6
<高分子材料の比較>
PMMAの含有量が異なる上記のインク1、5〜7から作成し、室温での熱処理を施したボトム素子の電界効果トランジスタの移動度を表8に示す。
【0101】
【表8】
【0102】
PMMAの含有量をC10BTBTに対して7〜100%と広い範囲で変化させても、移動度に有意な差は認められず、良好な半導体特性を示すことから、半導体特性を維持しながら、高分子材料の添加量を広い範囲でコントロールできることが判明した。その結果、製膜性および粘度を自在に調製できるインクの作成が可能となった。
【0103】
例7
<トップコンタクト素子>
PMMAを0.3%含有する上記のインク1から作成し、150℃の熱処理を施したトップ素子の電界効果トランジスタの移動度を表9に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
本発明インクを用いたトップ素子においても、PMMAの共存下で明瞭なFET特性を示した。さらに、ボトム素子と比較して、移動度は10〜100倍以上向上し、高分子材料を含有する組成物としては高い移動度を示した。また、室温による処理と比べて、150℃の熱処理によって電界効果トランジスタ特性が飛躍的に向上した。一方、比較溶液を用いた場合には、トランジスタ特性を示さなかった。
【0106】
本発明組成物および本発明インクから作成した電界効果トランジスタは、良好な大気安定性を示した。
【0107】
比較溶液から作成した電界効果トランジスタは、熱処理温度の向上に伴い半導体特性の向上が観測されるが、融点温度以上の熱処理では融解に伴い、半導体特性を示さなくなる。しかし、本発明組成物を用いることで、150℃の熱処理においても良好な電界効果トランジスタ特性を示し、熱処理温度の向上に伴い移動度の向上が認められた。
【0108】
電界効果トランジスタを用いたデバイス製造では、種々の工程で150℃の熱がかかってしまうことも多く、耐熱性の向上は非常に重要な課題であった。しかし、本発明組成物および本発明インクを用いることにより、有機半導体特性の向上と熱処理温度の向上を、初めて両立させた。さらに、本発明インクを用いることで、製膜性や粘度などを調製することが可能となり、半導体薄膜作成用の本発明インクを用いることで、スピンコート法だけでなく、種々のウエットプロセスにて半導体薄膜が作成可能となる。