(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715685
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】表面改変鉱物材料を調製する方法、得られた生成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C09C 3/06 20060101AFI20150423BHJP
C09C 1/02 20060101ALI20150423BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20150423BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20150423BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20150423BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20150423BHJP
C01F 11/18 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
C09C3/06
C09C1/02
C09C1/28
C09C3/10
C09C3/08
C09D17/00
C01F11/18 G
C01F11/18 H
【請求項の数】34
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-504201(P2013-504201)
(86)(22)【出願日】2011年4月7日
(65)【公表番号】特表2013-525516(P2013-525516A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011055405
(87)【国際公開番号】WO2011128242
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2012年11月27日
(31)【優先権主張番号】61/343,128
(32)【優先日】2010年4月23日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10160235.7
(32)【優先日】2010年4月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505018120
【氏名又は名称】オムヤ インターナショナル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビンマー,ギユンター
(72)【発明者】
【氏名】シエルコツプ,ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】バイツエル,ハンス−ヨアヒム
【審査官】
仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−013780(JP,A)
【文献】
特表2011−503370(JP,A)
【文献】
特開昭57−110329(JP,A)
【文献】
特表2006−521194(JP,A)
【文献】
特開昭60−166221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/06
C09C 3/08
C09C 1/02
C09C 1/28
C01F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドロマイト、炭酸カルシウム、モンモリロナイト、タルク、マグネサイト、マグネシウム含有緑泥石、カオリンクレー、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の鉱物材料の表面の少なくとも一部を改変する方法であって、以下のステップ:
ステップa)5から10の間のpHを有する水性ケーキまたは懸濁液の形態で、少なくとも1種の鉱物材料を提供するステップ、
ステップb)ステップa)の前記鉱物材料に、少なくとも1種の作用物質を添加するステップ、
ステップc)ステップa)の前記鉱物材料の等電点が7を超える場合は、7を超え10未満であるpHを有し、ステップa)の前記鉱物材料の等電点が7以下の場合は、前記等電点を超えるpHを有する、前記鉱物材料の懸濁液を得るステップ、を含み、
前記作用物質が、
6未満のpHを有する水溶液または安定な水性コロイドの形態であり、
水性環境中で、少なくとも1種のホスホン酸含有化合物を、1種または複数の金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物と混合することによって形成され、ここで、前記ホスホン酸含有化合物は、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、メチレンジホスホン酸(MDP)、ヒドロキシメチレンジホスホン酸(HMDP)、ヒドロキシシクロメチレンジホスホン酸(HCMDP)、および1−ヒドロキシ−3−アミノプロパン−1,1−ジホスホン酸(APD)からなる群から選択され、前記金属は、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物からなる群から選択され、前記ホスホン酸含有化合物と前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物は、ホスホナートのヒドロキシル基:金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物のモル比が10:1から2:1となるように調合され、
ステップb)において、鉱物材料の総面積のm2当たり乾燥重量で0.04から1mgの作用物質に対応する量で供給されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップa)の前記懸濁液またはケーキが、7から10の間のpHを有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記懸濁液またはケーキのpHが8から9の間であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記鉱物材料が炭酸カルシウムであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップa)の前記水性懸濁液またはケーキが、乾燥鉱物材料の重量に対して0.1重量%未満のポリアクリレートベースの分散剤を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記鉱物材料が、5から150m2/gの間のBET比表面積を有することを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記鉱物材料が、5から60m2/gの間のBET比表面積を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記鉱物材料が、10から50m2/gの間のBET比表面積を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記鉱物材料が、0.2から5μmの間の重量中央粒径(d50)を有することを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記鉱物材料が、0.5から2μmの間の重量中央粒径(d50)を有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記水性懸濁液が、懸濁液の重量に対して1から85重量%の間の固体含量を有することを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記水性懸濁液が、懸濁液の重量に対して10から80重量%の間の固体含量を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ケーキが、ケーキの重量に対して20から80重量%の間の固体含量を有することを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ケーキが、ケーキの重量に対して40から75重量%の間の固体含量を有することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ケーキが、ケーキの重量に対して50から70重量%の間の固体含量を有することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記作用物質が、鉱物材料の総表面のm2当たり、乾燥重量で0.1から0.75mgの作用物質に対応する量で添加されることを特徴とする、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記作用物質が、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.1から5%に対応する量で添加されることを特徴とする、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記作用物質が、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.15から0.75%に対応する量で添加されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記作用物質が、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.15から0.5%に対応する量で添加されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記作用物質が、0から5の間のpHを有する水溶液の形態で提供されることを特徴とする、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記作用物質が、0.5から4.5の間のpHを有する水溶液の形態で提供されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップb)の前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物の金属が、アルミニウムおよびジルコニウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
塩基(塩基B)が、前記作用物質の前および/または後に添加されることを特徴とする、請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
塩基Bが、ケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アルミン酸ナトリウム、塩基性ポリホスファート、塩基性ホスホナート、およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
塩基Bが、塩基性ポリホスファートまたは塩基性ホスホナートであることを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記塩基性ポリホスファートが、ピロホスファートのカリウム塩であり、前記塩基性ホスホナートが、HEDPのナトリウムおよび/またはカリウムおよび/またはリチウム化合物であることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
塩基Bが、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.1%以上の量で添加されることを特徴とする、請求項23から26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
塩基Bが、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.2から0.5%の量で添加されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1から28のいずれかに記載の方法によって得られる懸濁液。
【請求項30】
ステップc)の懸濁液が、ろ過媒体でろ過されて、表面改変鉱物材料のろ過ケーキを形成し、遠心分離されて、表面改変鉱物材料の遠心分離ケーキを形成しまたは熱的方法または力学的方法によって濃縮されることを特徴とする、請求項1から28のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法によって得られるろ過ケーキまたは遠心分離ケーキ。
【請求項32】
請求項29に記載の懸濁液または請求項31に記載のろ過ケーキもしくは遠心分離ケーキを乾燥させることによって得られる乾燥表面改変鉱物材料。
【請求項33】
請求項29に記載の懸濁液、請求項31に記載のろ過ケーキまたは遠心分離ケーキ、または請求項32に記載の乾燥表面改変鉱物材料の、紙、プラスチック、シーリング材、塗料、コンクリートまたは化粧品における使用。
【請求項34】
5から10の間のpHを有する鉱物材料の水性懸濁液中における、少なくとも1種の作用物質の添加剤としての使用であって、前記作用物質が、
6未満のpHを有する水溶液または安定な水性コロイドの形態であり、
水性環境中で、少なくとも1種のホスホン酸含有化合物を、1種または複数の金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物と混合することによって形成され、ここで、前記金属は、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物からなる群から選択され、および前記ホスホン酸含有化合物と前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物は、ホスホナートのヒドロキシル基:金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物のモル比が10:1から2:1となるように調合され、
および鉱物材料の総表面のm2当たり乾燥重量で0.04から1mgの作用物質に対応する量であり、
前記鉱物材料が、ドロマイト、炭酸カルシウム、モンモリロナイト、タルク、マグネサイト、マグネシウム含有緑泥石、カオリンクレー、およびこれらの混合物からなる群から選択され、
前記ホスホン酸含有化合物が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、メチレンジホスホン酸(MDP)、ヒドロキシメチレンジホスホン酸(HMDP)、ヒドロキシシクロメチレンジホスホン酸(HCMDP)、および1−ヒドロキシ−3−アミノプロパン−1,1−ジホスホン酸(APD)からなる群から選択され、
前記添加剤が懸濁液の脱水を促進する、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物材料の表面を改変するために、特に、これらの脱水および脱水後の適用を促進するために実行される技術の分野に関する。
【0002】
本発明の第1の目的は、作用物質が、
6未満のpHを有する水溶液または安定な水性コロイドの形態であり、
水性環境中で、少なくとも1種のホスホン酸含有化合物を、1種または複数の金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物と混合することによって形成され、ここで、前記金属は、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物からなる群から選択され、前記ホスホン酸含有化合物と前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物は、ホスホナートのヒドロキシル基:金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物のモル比が10:1から2:1となるように調合され、
ステップb)において、鉱物材料の比表面積のm
2当たり乾燥重量で0.04から1mgの作用物質に対応する量で供給される
ことを特徴とする、以下のステップ:
5から10の間のpHを有する水性ケーキまたは懸濁液の形態で、少なくとも1種の鉱物材料を提供する、ステップa)、
ステップa)の前記鉱物材料に、少なくとも1種の前記作用物質を添加する、ステップb)、
10未満であり、ステップa)の前記鉱物材料の等電点が7を超える場合は7を超え、前記等電点が7以下の場合は、ステップa)の前記鉱物材料の等電点を超えるpHを有する前記鉱物材料の懸濁液を得る、ステップc)
を含む、少なくとも1種の鉱物材料の表面の少なくとも一部を改変する方法である。
【0003】
本発明の第2の目的は、本発明の方法によって得られた生成物である。
【0004】
本発明の第3の目的は、本発明の方法で懸濁液の形態で得られた生成物が脱水されて、低容量のろ過ケーキまたは遠心分離ケーキを形成する方法である。
【0005】
本発明の第4の目的は、5から10の間のpHを有する鉱物材料の水性懸濁液中の添加剤として、
この添加剤が、懸濁液を脱水した際に低容量で高固体含量のろ過ケーキまたは遠心分離ケーキまたは沈降ケーキの形成をもたらすことを特徴とする、
6未満のpHを有する水溶液または安定な水性コロイドの形態の、
水性環境中で、少なくとも1種のホスホン酸含有化合物を、1種または複数の金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物と混合することによって形成され、ここで、前記金属は、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物からなる群から選択され、前記ホスホン酸含有化合物と前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物は、ホスホナートのヒドロキシル基:金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物のモル比が10:1から2:1となるように調合された、
鉱物材料の総表面のm
2当たり乾燥重量で0.04から1mgの作用物質に対応する量の
少なくとも1種の作用物質の使用に関する。
【0006】
本発明の目的では、鉱物材料の等電点は、鉱物材料の表面が電荷を持っていないpHであり、以降の実施例の節に提供された測定方法によって評価される。
【0007】
本出願の目的では、ホスホン酸は少なくとも1個のPO(OH)
2基を含み、この基は共有P−C結合を介して残りの分子と結合されている。ホスホン酸は、非ポリマー性であっても、または懸垂ホスホン酸基がポリマー鎖に沿って(例えばホスホン酸基を含有するモノマーを介してそこに取り込まれて)現れてもよい。
【0008】
本出願の目的では、鉱物材料の平衡pHは、以下の実施例の節に提供された測定方法に従って25℃で測定される。他のすべてのpH値も以降の実施例の節に提供された測定方法に従って25℃で同様に測定される。
【0009】
水性鉱物材料含有懸濁液の固体含量を調整するため、またはより一般的に、体積関連または重量関連の輸送コストを制限するために、水性鉱物材料含有懸濁液は、ろ過、遠心分離または蒸発工程によって部分的にまたは全体的に脱水されることが多い。
【0010】
ろ過工程は、液体のみが通過することができる材料を間に置くことによって、固体成分から液体を分離する機能を持つ。この材料を通る液体の通過は、懸濁液に対してろ過媒体の方向に圧力を適用することによって、またはフィルターから下流への真空を作ることによって援助してもよい。
【0011】
ろ過が、液体がろ過媒体を通してさらに通過しない程度まで実施された場合でさえ、フィルター上に残留した固体材料は液体の一部をなお含むことがある。ろ過された鉱物材料の含水量の低減およびケーキの緻密度の上昇は、例えばフィルターチャンバーからの回収の改良、輸送および取扱いコストの低減および後続の熱乾燥のエネルギーコストの低減等の多くの理由により、望ましいことがある。
【0012】
他方、ろ過ステップに続いてケーキの形態で鉱物材料が回収された後、この材料はある種の特性を示さなければならない。水性環境中にこれが再導入された場合、鉱物材料は迅速に湿らせることができなければならない。鉱物材料表面で任意の反応が行われる場合、この表面環境はこれらの反応を援助するように適合しなければならない。
【背景技術】
【0013】
本出願人は、この鉱物材料の水性懸濁液のろ過後にフィルター上に回収された鉱物材料は、以下のメカニズムにより水を保持することを確認している。
【0014】
第1に、鉱物材料粒子が任意の細孔を特徴とする場合、水はこの材料の細孔容積中で保持され得る。このような水は、「粒子細孔内水」と称される。
【0015】
第2に、炭酸カルシウム等の鉱物材料は、十分な量の水分の存在下で表面水和層を生み出すまたは保持していることがよく知られている。水和層中の水は、水分子が鉱物材料の表面に沿って規則的なプラスまたはマイナスの電荷を補正するためにそれ自体配向して、鉱物材料の有効表面エネルギーを低下させるので、局在性の引力によって表面に保持され得る。この点について、Dr.Joachim Scholkopf(Plymouth大学、2002)による「Observation and Modelling of Fluid Transport into Porous Paper Coating Structures」と題する博士号学位論文が参照される。このような水は「水和層水」と称される。
【0016】
第3に、毛細管力および他の力によって、高密度な粒子マトリックス中の水は、粒子間に存在する空間によって物理的に形成された細孔中に保持される。このような水は「粒子間細孔水」と称される。
【0017】
本出願人は、ある種の後続の応用に適した鉱物材料を得ながら効率的なろ過を実施するためには、水和層を保持しながら、高密度ケーキ中の粒子間細孔水の最大限の除去を促進することが有利であり得ることを理解している。
【0018】
実際、最近の科学的出版物、例えば、FUJI MASAYOSHIら(Inorganic Materials,6巻;282号、348−353頁(1999))による「Change in Surface Properties of Heavy Calcium Carbonate with Surface Hydration」およびJ.Baltrusaitisら(Surface Science(2009年7月5日))による「Calcite(101 ̄4) surface in humid environments」によれば、表面水和層は、炭酸カルシウム等の鉱物材料の表面において、添加剤の吸着を持続させるためにしばしば必要なことが分かる。さらに、水和層の水は、ある種の表面反応を触媒するまたは可能にするのに必要であり得る。さらに、表面水和層をすでに含む鉱物材料粒子は、完全に乾燥した粒子よりはるかにより容易に水性環境中に導入される。
【0019】
本出願人は、驚くべきことに、選択されたホスホン酸ベースの添加剤を提供する本発明の方法によって調製することができる鉱物材料の水性懸濁液は、脱水されて、粒子上の有効表面水和層を保持しながら高固体含量を有する容積の小さいろ過ケーキまたは遠心分離ケーキを形成し得ることを見出した。
【0020】
鉱物材料の水性懸濁液の脱水に言及している従来技術には、US 4,207,186があり、これは、得られたろ過ケーキの残存含水量を有意に低下させるために、8から18個の炭素原子を有する疎水性アルコールと、特にアルコールエトオキシラートである非イオン性界面活性剤との相乗的混合物を用いた鉱物濃縮物の脱水に言及している。
【0021】
WO85/03065も同様に、エチレンオキシドとブチレンオキシドの比較的低分子量のブロックコポリマーを基材とするある種の非イオン性界面活性剤を用いて、水相から鉱物粒子を分離することに言及している。
【0022】
US 6,123,855も、炭酸カルシウムスラリーの脱水助剤として非イオン性界面活性剤を挙げており、このような界面活性剤は、特にポリアルキレングリコールエーテル、アルコールアルコキシラートまたはアルキルフェノールヒドロキシポリオキシエチレンである。
【0023】
US 2002/0096271には、炭酸ナトリウム含有石灰泥からの水の除去を促進するためのアルキレンアミン添加剤を提供する方法が記載されている。
【0024】
本発明において意図する脱水剤は、清澄剤、凝集剤または凝固剤(これらは異なるメカニズムに従って作用し、異なる結果をもたらす。)と混同しないように留意されたい。このような清澄薬品、凝集薬品または凝固薬品は、懸濁された固体を大きな凝集された粒子に凝固または凝集させ、次いで、重力によって沈降し、さもなければケーキを形成する。大きなフロックの充填度は一般に低いので、このようなケーキは高密度でない傾向があり、大きなフロック間細孔容積を示唆している。
【0025】
本発明の特定の作用物質の添加は、懸濁液の清澄化および形成されたフロックの重力沈降による自発的なケーキの形成をもたらさない。本発明の利点は、本発明の方法による選択されたホスホナート系統の添加に続いて、懸濁液がろ過されて、粒子が表面水和層を保持している、低容量の高固体含量ろ過ケーキを形成する場合に見られ得る。
【0026】
それにもかかわらず、本発明は、ろ過ステップを実施することが必要であると理解されるべきものではない。本出願人は、本発明の方法から生じた材料には、それ自体より広い興味があり、脱水の改良は、得られる生成物の多くの起こり得る有利な特性の1つであるに過ぎないと考える。
【0027】
ホスホン酸、およびこれらの塩は、既知の金属キレート剤であり、適当な量で、またエステルの形態で添加された場合、カルシウム塩の沈殿を抑制することによって水性系中のスケール防止剤としての役割を果たすことがあり、例えば、US 4,802,990(この場合、水性環境中でこの目的ために、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)を第2の酸と組み合わせて使用する。)、またはUS 2005/0096233(この場合、懸垂ホスホナート基を特色とするポリマーを提供することによって、油井中の炭酸カルシウムおよび硫酸バリウムの堆積が抑制される。)に見られる。US 4,802,990は、無機塩を溶解するためのこれらの使用に言及している。これらの腐食抑制剤としての応用も一般的である。これらは肥料の成分として見出されることがある。例えばWO02/089991によれば、オルガノホスホナートは、鉱物浮選剤としてさらに知られている。EP 1151966によれば、ある種のホスホナートまたはホスホノカルボン酸は、沈殿工程を通して部分的に添加された場合、沈降炭酸カルシウムの形態に影響を及ぼし得る。このような化合物は、FR 2393037、DE 4404219、FR 2393037およびFR 2765495に記載されたように、流動化系にさらに使用し得る。
【0028】
この後者の技術的問題に言及している文献の中で、FR 7816616は、30から80重量%の固体含量を有する懸濁液を得るために、顔料と、水性環境中の分散剤としての0.01から5重量%のホスホノカルボン酸またはその塩との混合物に言及している。この特許出願の実施例1において、二酸化チタンが、酸化アルミニウムで処理され、次いで粉砕され、いくつかの添加剤(この中には2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸がある。)と混合されて、経時的に安定な高固体含量懸濁液を形成する。この出願人は、酸化アルミニウムで二酸化チタンの表面処理をするのに使用される最新の方法は、通常、アルミン酸ナトリウム等のアルミニウム塩と組み合わせて強酸を提供することを必要とし、このような処理は炭酸カルシウム等の酸の影響を受けやすい材料に対しては選択肢ではないことを最初に言及していよう。さらに、酸化アルミニウムは、酸性条件下でさえ水溶性ではなく、したがって、FR 7816616の二酸化チタン表面上のいずれの酸化アルミニウムも、本発明による水溶性キレート錯体を形成する付加物として使用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許第4207186号明細書
【特許文献2】国際公開第85/03065号
【特許文献3】米国特許第6123855号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/0096271号明細書
【特許文献5】米国特許第4802990号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0096233号明細書
【特許文献7】国際公開第02/089991号
【特許文献8】欧州特許第1151966号明細書
【特許文献9】仏国特許発明第2393037号明細書
【特許文献10】独国特許発明第4404219号明細書
【特許文献11】仏国特許発明第2765495号明細書
【特許文献12】仏国特許発明第7816616号明細書
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】Dr.Joachim Scholkopf(Plymouth大学、2002)、「Observation and Modelling of Fluid Transport into Porous Paper Coating Structures」
【非特許文献2】FUJI MASAYOSHIら、「Change in Surface Properties of Heavy Calcium Carbonate with Surface Hydration」、Inorganic Materials,6巻;282号、348−353頁(1999)
【非特許文献3】J.Baltrusaitisら、「Calcite(101 ̄4) surface in humid environments」、Surface Science(2009年7月5日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
したがって、上記文献のいずれも、本発明の特定のおよび有利な方法ならびに生成物を開示または示唆さえしていない。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の第1の目的は、作用物質が、
6未満のpHを有する水溶液または安定な水性コロイドの形態であり、
水性環境中で、少なくとも1種のホスホン酸含有化合物を、1種または複数の金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物と混合することによって形成され、ここで、前記金属は、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物からなる群から選択され、前記ホスホン酸含有化合物と前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物は、ホスホナートのヒドロキシル基:金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物のモル比が10:1から2:1となるように調合され、
ステップb)において、鉱物材料の総表面のm
2当たり乾燥重量で0.04から1mgの作用物質に対応する量で供給される
ことを特徴とする、以下のステップ:
5から10の間のpHを有する水性ケーキまたは懸濁液の形態で、少なくとも1種の鉱物材料を提供する、ステップa)、
ステップa)の前記鉱物材料に、少なくとも1種の作用物質を添加する、ステップb)、
10未満であり、ステップa)の前記鉱物材料の等電点が7を超える場合は7を超え、前記等電点が7以下の場合はステップa)の前記鉱物材料の等電点を超えるpHを有する前記鉱物材料の懸濁液を得る、ステップc)
を含む、少なくとも1種の鉱物材料の表面の少なくとも一部を改変する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
いかなる理論にも束縛されることは望まないが、本出願人は、本発明で使用される作用物質が、5を超えるpHを有する鉱物材料の環境と接触すると、キレート錯体の中間体形成を経由して鉱物材料の表面上に好都合な形で堆積物を形成するものと考える。本出願の目的では、「キレート錯体」とは、キレート剤が少なくとも2個のリガンド基を介して金属イオンまたは金属含有カチオン性化合物に配位され、そのため、金属カチオンまたはカチオン性化合物の形態の金属を含む原子の環が存在する錯体を表すものと理解される。ホスホン酸含有化合物、またはこの塩もしくはエステルは、これが2または多ホスホン酸基含有化合物である場合、またはホスホン酸基に加えて1種または複数のさらなるリガンド(カルボキシル基等の)が存在し、これが金属−リガンド結合を形成する場合、キレート剤である。
【0034】
ステップa)
本発明のステップa)は、5から10の間のpHを有する水性ケーキまたは懸濁液の形態で、少なくとも1種の鉱物材料を提供することに関する。
【0035】
前記懸濁液は、粉末の形態で提供された前記鉱物材料を懸濁させることによって形成され得る。
【0036】
ケーキとは、少なくとも1種の鉱物材料の水性懸濁液のろ過に続いてろ過媒体上に、遠心分離に続いて、または沈降およびデカンテーションに続いて形成されたケーキを表すものと理解される。
【0037】
好ましい実施形態において、前記懸濁液またはケーキは、7から10の間のpHを有する。さらに好ましくは、このpHは8から9の間である。
【0038】
前記鉱物材料は、好ましくはカルシウムおよび/またはマグネシウム含有鉱物材料である。
【0039】
前記鉱物材料は、好ましくは炭酸塩および/または石膏および/またはドロマイトである。さらに好ましくは、前記鉱物材料は炭酸塩である。
【0040】
詳細には、前記鉱物材料は、ドロマイト、炭酸カルシウム、モンモリロナイトおよびタルク等のIIA族および/またはIIIA族元素含有層状ケイ酸塩、マグネサイト、マグネシウム含有緑泥石、カオリンクレー、およびこれらの混合物からなる群から好ましくは選択される。
【0041】
前記鉱物材料は、最も好ましくは炭酸カルシウムである。炭酸カルシウムは、粉砕天然炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、表面反応炭酸カルシウム、またはこれらの混合物であってもよい。
【0042】
本発明の意味における「粉砕天然炭酸カルシウム」(GNCC)は、石灰岩、大理石またはチョーク等の天然の供給源から得られ、粉砕する、ふるいにかけるおよび/または例えばサイクロンまたは分級器により細分する等の、湿式および/また乾式処理で処理された炭酸カルシウムである。
【0043】
本発明の意味における「沈降炭酸カルシウム」(PCC)は、通常、水性環境中における二酸化炭素と石灰の反応に続く沈殿によって、または水中でカルシウムイオンとカルボナートイオン供給源の沈殿によって得られた合成材料である。PCCは、準安定なバテライト、安定な方解石またはアラレ石であってもよい。
【0044】
前記GNCCまたはPCCは、表面反応炭酸カルシウムを形成するために表面反応されてもよく、これは、GNCCおよび/またはPCCおよび炭酸カルシウムの少なくとも一部の表面から延びる不溶性の(少なくとも部分的に結晶性の)非炭酸カルシウム塩である。このような表面反応生成物は、例えば、WO00/39222、WO2004/083316、WO2005/121257、WO2009/074492、出願番号09162727.3の未公開欧州特許出願、出願番号09162738.0の未公開欧州特許出願に従って調製してもよい。
【0045】
ステップa)の前記水性懸濁液またはケーキは、乾燥鉱物材料の重量に対して0.1重量%未満のポリアクリレートベースの分散剤を好ましくは含む。
【0046】
前記鉱物材料は、以下の実施例の節に記載された測定方法に従って測定して、5から150m
2/gの間、好ましくは5から60m
2/gの間、より好ましくは10から50m
2/gの間のBET比表面積を好ましくは有する。
【0047】
前記鉱物材料は、以下の実施例の節に記載された測定方法に従って測定して、0.2から5μmの間、好ましくは0.5から2μmの間の重量中央粒径(d
50)を好ましくは有する。
【0048】
水性懸濁液の場合、固体含量は、以降の実施例の節に提供された方法に従って測定して、懸濁液の重量に対して1から85重量%の範囲であってもよく、しかし好ましくは10から80重量%の間である。
【0049】
ケーキの場合、固体含量は、通常20から80重量%の間であり、好ましくは40から75重量%の間であり、さらに好ましくは50から70重量%の間である。
【0050】
ステップb)
ステップb)は、ステップa)の前記鉱物材料に少なくとも1種の作用物質を添加することに関し、前記作用物質が、
6未満のpHを有する水溶液または安定な水性コロイドの形態であり、
水性環境中で、少なくとも1種のホスホン酸含有化合物を、1種または複数の金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物と混合することによって形成され、ここで、前記金属は、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物からなる群から選択され、前記ホスホン酸含有化合物と前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物は、ホスホナートのヒドロキシル基:金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物のモル比が10:1から2:1となるように調合され、
ステップb)において、鉱物材料の総表面のm
2当たり乾燥重量で0.04から1mgの作用物質に対応する量で供給される。
【0051】
本発明の目的では、安定な水性コロイドは、少なくとも1つの相が微細に分布されるが、この系が構造的に安定であるような方法で他の相内に分子的に溶解はしていない、即ち、沈降、集塊、凝集、浮遊選鉱が生じない多相系である。通常、水性コロイドは光を散乱させる。
【0052】
好ましくは、前記作用物質は、鉱物材料の総表面のm
2当たり乾燥重量で0.1から0.75mgの作用物質に対応する量で添加される。
【0053】
別の実施形態において、前記作用物質は、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.1から5%、より好ましくは0.15から0.75%、さらに好ましくは0.15から0.5%に対応する量で好ましくは添加される。
【0054】
好ましくは、前記作用物質は、0から5の間、より好ましくは0.5から4.5の間のpHを有する水溶液の形態で提供される。
【0055】
前記作用物質の金属カチオンは、化合物の一部であり得る。
【0056】
アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、コバルト、クロム、鉄、銅、スズ、チタンおよびこれらの混合物から選択されるある種の金属カチオンについて、当業者であれば、新たに合成された水酸化物は有利に使用され得ることを認識する。硝酸、硫酸、シュウ酸または他の適当な緩衝液系で緩衝された金属カチオンを用いると、さらに利点が認められ得る。チタンの場合、チタニルスルファートの形態で提供されることが好都合である。
【0057】
前記ホスホン酸含有化合物は、好ましくはアルキルジホスホン酸であり、特に好ましいアルキルジホスホン酸は1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)である。
【0058】
本発明で使用し得る他のジホスホン酸には、メチレンジホスホン酸(MDP)、ヒドロキシメチレンジホスホン酸(HMDP)、ヒドロキシシクロメチレンジホスホン酸(HCMDP)、および1−ヒドロキシ−3−アミノプロパン−1,1−ジホスホン酸(APD)が含まれる。
【0059】
前記ホスホン酸含有化合物は、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)等のトリホスホン酸、またはジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP)等の、より多数のホスホン酸基を含む1種または複数の化合物であってよい。
【0060】
前記ホスホン酸含有化合物に関して、カルボン酸基等の他の基を含むことも可能である。このようなホスホン酸含有化合物の一例は、ホスホノコハク酸(PSA)である。
【0061】
好ましい実施形態において、前記金属カチオンまたは金属含有カチオン性化合物の金属は、アルミニウムおよびジルコニウムからなる群から選択される。
【0062】
最も好ましい実施形態において、前記作用物質は、好ましくは水酸化物の形態で提供されるアルミニウムおよび/またはジルコニウムカチオンをHEDPと混合することによって形成される(それぞれ、Al−HEDPおよびZr−HEDPを形成する。)。
【0063】
好ましい実施形態において、前記作用物質は、5から70%の乾燥重量を有する水溶液またはコロイド状懸濁液の形態で提供される。
【0064】
Al−HEDPおよびZr−HEDPは、例えば、対応する水酸化アルミニウムまたは水酸化物ジルコニウム(場合によって粉末の形態で)を、HEPDを含む水溶液中に添加することによって形成され得る。一実施形態において、この溶液は、溶液の重量に対して乾燥重量で5から20%のHEDPを含む。このような場合、水酸化アルミニウムまたは水酸化物ジルコニウムは、総溶液重量に対して、1から25当量部のアルミニウムまたはジルコニウムを有する作用物質の最終溶液を形成するような量で添加される。
【0065】
好ましい一実施形態において、Al−HEDPは、Al(OH)
3:HEDPを1:5か1:8の重量比で調合することによって形成される。
【0066】
アルカリ−HEDP塩(例えば、Na−HEDPまたはK−HEDP)等の、塩基性を有する他の添加剤も、前記作用物質に加えて存在してもよく、ただし、前記作用物質は、本方法に導入された場合、6未満のpHを有する水性環境中にあるものと理解される。
【0067】
ステップb)は、ステップc)において、95:5から10:90の好ましい水:鉱物材料比に合わせるためにさらに水の添加を実行してもよい。水が添加される場合、前記作用物質と組み合わせて添加されてよく、実際、前記作用物質の水性溶媒を意味してもよい。
【0068】
ステップb)は、好ましくは混合下で実施される。
【0069】
代替の一実施形態において、前記作用物質は、鉱物材料懸濁液中においてインサイチュで形成されてもよい。しかし、鉱物材料懸濁液に添加する前に前記作用物質を形成することがより好ましい。
【0070】
塩基B
ステップb)で提供された前記作用物質は酸性であるので、7を超えており、いずれの場合もステップa)の前記鉱物材料の等電点より高くなければならず、および10未満であるステップc)の最終懸濁液のpH範囲に該当するように、前記作用物質を添加する前および/または間および/または後に塩基(以下「塩基B」)を添加することが必要であり得る。
【0071】
本発明の目的において、「酸」および「塩基」は、それぞれ、ブレンステッドの酸−塩基理論による酸および塩基を表すものと理解するべきである。即ち、酸はプロトン供与体であり、塩基はプロトン受容体であり、水中に溶解された場合、それぞれ、pH低下およびpH増加となる。
【0072】
塩基Bは、前記作用物質と共に同時に添加されてもよいが、この経路はあまり好ましくないことに留意されたい。
【0073】
塩基Bが前記作用物質の前に添加される場合、前記作用物質は、塩基Bの添加に続いて一旦pHを安定させた後で好ましくは添加される。
【0074】
同様に、前記作用物質が初めに添加される場合、塩基Bは、懸濁液pHが安定した後で好ましくは添加される。
【0075】
一部の塩基Bは、すべてまたは一部の前記作用物質の前に添加され、およびすべてまたは一部の前記作用物質の添加の後に、残りの塩基Bが添加されることも可能である。
【0076】
塩基Bは、ケイ酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アルミン酸ナトリウム、塩基性ポリホスファート、塩基性ホスホナート、およびこれらの混合物から好ましくは選択され、より好ましくは塩基性ポリホスファートまたは塩基性ホスホナートであり、前記塩基性ポリホスファートは、好ましくはピロホスファート、特にピロホスファートのカリウム塩であり、前記塩基性ホスホナートは、好ましくは、HEDPのナトリウムおよび/またはカリウムおよび/またはリチウム化合物等のHEDPのアルカリ化合物である。
【0077】
すべての塩基Bが前記作用物質の前に添加される場合、塩基Bは、10を超える鉱物材料ケーキまたは懸濁液のpHに達するような量で添加されることが好ましい。
【0078】
塩基Bは、鉱物材料の乾燥重量に対して、乾燥重量で0.1%以上、好ましくは乾燥重量で0.2から0.5%の量で好ましくは添加される。
【0079】
塩基Bは、6.5から10の間のpHに達するまでに比較的多量の酸性作用物質が添加され得るように、高い緩衝能を示すことが有利なことがある。
【0080】
特に好ましい実施形態において、塩基Bは、水溶液の形態のピロリン酸カリウムまたはHEDPのナトリウムおよび/もしくはカリウムおよび/もしくはリチウム化合物である。
【0081】
他のプロセスステップ
本発明の方法の一実施形態において、鉱物材料は、前記作用物質および/または前記塩基Bの添加の前に、その間に、またはその後で粉砕されてもよい。
【0082】
得られた懸濁液中鉱物材料
本発明の方法によって得られた懸濁液は、好ましくは7.5から9.0の間のpHを有する。
【0083】
一実施形態において、この懸濁液は、引き続いてろ過媒体でろ過されて、表面改変鉱物材料のろ過ケーキを形成してもよい。例えば、懸濁液は3μmの孔径を有するろ紙でろ過されてもよい。
【0084】
あるいは、この懸濁液は、遠心分離されて、表面改変鉱物材料の遠心分離ケーキを形成してもよい。
【0085】
あるいは、この懸濁液は、熱的方法または力学的方法によって濃縮されてもよい。
【0086】
得られたろ過ケーキまたは遠心分離ケーキは、好ましくは40から80重量%の間の固体含量を有する。
【0087】
得られたろ過ケーキまたは遠心分離ケーキは、乾燥表面改変鉱物材料を形成するためにさらに乾燥されてもよい。このような乾燥表面改変鉱物材料は、以降の実施例の節に示された測定方法に従って測定された、0.3から1.0%の間、好ましくは0.3から0.5%の間の吸水量を特徴とする。
【0088】
得られた懸濁液または乾燥生成物は、他の用途の中でも、紙(原紙および/または紙塗工を含めて)、プラスチック(特に熱可塑性樹脂)、シーリング材(シリコーンシーリング材等)、塗料、コンクリートおよび化粧品において用途を見出すことができる。当業者であれば、懸濁液または乾燥生成物には、油性生成物を基材としていないという一般利点があることが分かる。プラスチック用途が実行される場合、この乾燥生成物は、プラスチック工業の典型的な温度、即ち、150から300℃で処理する時に揮発性生成物の放出を引き起こさない。
【0089】
得られた懸濁液または乾燥生成物は、さらに処理される中間体生成物として、さらに使用され得る。例えば、得られた懸濁液または乾燥生成物は、WO2006/008657に記載されたように、結合剤等の他の材料と共に粉砕され得る。
【実施例】
【0090】
測定方法
懸濁液または分散体の固体含量(重量%)
固体含量は、LP16 IRドライヤーを装備したMettler LP16 PM100質量天秤を用いて決定した。
【0091】
懸濁液または分散体のpH
懸濁液または分散体のpH値は、Toledo製Seven Multi計測器を用いて25℃で測定した。
【0092】
微粒子物質の比表面積(SSA)(m
2/g)
比表面積は、窒素を用いるISO 9277によるBET法により、250℃で30分間加熱することによって試料を状態調節した後、Micrometrics製Gemini V計測器を用いて測定した。
【0093】
微粒子物質の粒径分布(X未満の直径を有する粒子の質量%)および重量中央粒径(d
50)
微粒子物質の重量中央粒径および粒径質量分布を、沈降法(即ち、重力場における沈降挙動の解析)により決定した。測定はSedigraph(登録商標)5120で実施する。
【0094】
この方法および計測器は当業者には知られており、充填剤および顔料の粒子サイズを決定するのに一般的に使用されている。測定は、0.1重量%Na
4P
2O
7の水溶液中で実施された。試料は高速撹拌機および超音波を用いて分散された。
【0095】
鉱物材料の等電点
鉱物材料の等電点は、Malvern Zetasizer Nano ZS計測器を用いて25℃の脱イオン水中で評価された。
【0096】
微粒子物質の吸水量
微粒子物質の吸水量は、先ず物質を110℃のオーブン中で一定の重量まで乾燥させ、その後乾燥された物質を相対湿度80%の雰囲気に20℃の温度で60時間暴露させることによって決定した。吸水量は、乾燥された物質の重量に対する、湿性環境への曝露後の物質の重量増加%に対応する。
【0097】
材料
沈降炭酸カルシウム(PCC)は、乾燥重量で約15%の固体含量を有し、0.05から1%の間の消化添加剤を含む13から15℃の石灰の縣濁液を通してCO
2ガスをバブリングすることによって得られた。得られたPCC縣濁液は、乾燥重量で約17%の固体含量を有し、PCC材料は10から12m
2/gの間の比表面積を有していた。
【0098】
表面反応炭酸カルシウム(SRGCC)を10m
3の反応器中で調製した。乾燥重量で10%の固体含量を有する縣濁液を形成するために、1μmのd
50を有する乾燥天然炭酸カルシウムを水と一緒に容器中に充填した。次いで、25%のリン酸(乾燥/乾燥で計算して、前記リン酸は30%の溶液の形態で供給された。)を60分間にわたって撹拌下で容器に添加した。その後、20kgの石灰縣濁液(10%縣濁液200L)を容器中に導入した。
【0099】
水酸化カリウム(KOH)は、顆粒の形態でFlukaから入手した。
【0100】
ピロリン酸カリウム(K
4P
2O
7)は、乾燥重量で60%水溶液の形態でChemische Fabrik Budenheimから入手した。
【0101】
1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)は、乾燥重量で60%水溶液の形態でChemische Fabrik Budenheimから入手した。
【0102】
ピロリン酸ナトリウム(Na
4HEDP)は、乾燥重量で25%水溶液の形態でChemische Fabrik Budenheimから入手した。
【0103】
水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)(粉末の形態で商品名Martinal((登録商標)OL−107として販売されている。)は、Martinswerkから入手した。
【0104】
カリウムHEDP(K
4HEDP)は、HEDPの60重量%水溶液108gに200gの水を添加することによって予め形成されたHEDPの水溶液に撹拌下、KOH90gを添加することによって合成した。得られた透明な溶液は、12.0のpHおよび33.5g/水100gのK
4HEDPの濃度を有していた。
【0105】
リチウムHEDP(Li
4HEDP)は、HEDPの7%水溶液2200gに113gのLiOHを撹拌下で添加することによって合成した。得られた懸濁液は11.6のpHを有していた。
【0106】
Al−HEDPキレート錯体は、Al(OH)
3:HEDPの重量比が1:5、1:8および1:10である水性コロイド溶液の形態で、以下の通り調製された:60%HEDP溶液に水酸化アルミニウム粉末を所望の重量比に関して必要な量だけ、均一な白色懸濁液が得られるまで撹拌しながら添加した。次いで、この懸濁液をコロイド状懸濁液が成熟するまで継続的に撹拌しながら(およそ500rpmで)加熱した。次いで、溶液温度をおよそ23℃まで放置させておいた。それぞれのコロイド状懸濁液の最終乾燥重量は62から65%であり、最終pH1.8であった。
【0107】
Sn−HEDPキレート錯体は、Sn(OH)
2:HEDPの重量比が1:4である水性コロイド溶液の形態で、以下の通り調製された:水100g中のSnSO
420gの水溶液にアンモニア75mLを添加することによってSn(OH)
2を新たに合成した。得られた懸濁液をブフナー漏斗フィルターでろ過してろ過ケーキを得た。次いで、このろ過ケーキを、60%HEDP水溶液100gに均一な懸濁液が得られるまで撹拌しながら添加した。引き続いて懸濁液を、乳状のコロイド状懸濁液が成熟するまで500rpmで撹拌しながら、90から95℃の間の温度まで加熱した。次いで、懸濁液の温度を約23℃まで冷却させておいた。最終コロイド状懸濁液は、乾燥重量で67%の固体含量を有し、最終pHは0.9であった。
【0108】
Co−HEDPキレート錯体は、Co(OH)
2:HEDPの重量比が1:10である水溶液の形態で、以下の通り調製された:Co(OH)
29.3gを、60%HEDP水溶液155gに均一な懸濁液が得られるまで撹拌しながら添加した。次いで懸濁液を、乳状ペーストが成熟するまで500rpmで撹拌しながら90から95℃の間の温度まで加熱した。次いでペーストを、乾燥重量で27%まで水で希釈した。得られた溶液は紫色を有しており、23℃まで冷却させておいた。溶液のpHは0.85であった。
【0109】
Ti−HEDPキレート錯体は、Ti(SO
4)
2:HEDPの重量比が1:5である水性コロイド溶液の形態で、以下の通り調製された:60%チタニルスルファート溶液15gを、60%HEDP溶液150gに透明なコロイド状懸濁液が成熟するまで撹拌および95から98℃までの加熱下で添加した。次いで懸濁液を、およそ23℃まで冷却させておいた。懸濁液の最終固体含量は乾燥重量で60%であり、最終pHは1未満であった。
【0110】
[実施例1]
実験室規模の実施例
この実施例では、本発明の方法を従来技術の方法と比較した。
【0111】
以下の表に挙げた添加剤系統を、約9の等電点およびおよそ11m
2/gの比表面積を有し、乾燥重量で75%の粒子が1μm未満の直径を有する、非分散の粉砕天然炭酸カルシウム150gの水性懸濁液に、IKA RW 20撹拌機を用いて500rpmで撹拌しながら添加した。この懸濁液の初期固体含量は乾燥重量で20%である。
【0112】
その後、表1のそれぞれの懸濁液を、Vacuubrand GmbH製M7 2Cダイアフラム真空ポンプ(吸込容量:2.4m
3/h)を介して接続された1Lの真空フラスコを装備したブフナー漏斗フィルター(直径70mm、高さ30mm)中に配置された3μm孔径のRotilabo円形フィルターを用いて、30分間にわたってろ過した。
【0113】
得られたろ過ケーキの固体含量を表1に示す。次いで、ろ過ケーキ中に回収された物質を乾燥させ、吸水値を決定した。
【0114】
【表1】
上記の表は、無処理の炭酸カルシウムに比較して、得られたろ過ケーキが、有意に高い固体含量をもたらすだけでなく、本発明の方法(試験4)によって処理されて得られた炭酸カルシウム材料はさらに、50%多くの程度の吸水量を有して、より多くの天然水和層を立証していることを示す。試験2および3をさらに比較すると、キレート剤単独の代わりにキレート錯体を提供する本発明の方法のみが所望の結果をもたらすことを示す。
【0115】
[実施例2]
実験室規模の実施例
この実施例は、本発明の様々な実施形態を例示する。
【0116】
以下の表2および3に挙げた添加剤系統を、約9の等電点およびおよそ11m
2/gの比表面積を有し、75重量%の粒子が1μm未満の直径を有する、非分散の粉砕天然炭酸カルシウム500gの水性懸濁液に、Dispermat溶解機を用いて1500rpmで撹拌しながら添加した。この懸濁液の初期固体含量は乾燥重量で70から75%である。
【0117】
その後、表2および3のそれぞれの懸濁液を、Vacuubrand GmbH製M7 2Cダイアフラム真空ポンプ(吸込容量:2.4m
3/h)を介して接続された1Lの真空フラスコを装備した、ブフナー漏斗フィルター(直径70mm、高さ30mm)中に配置された3μm孔径のRotilabo円形フィルターを用いて、30分間にわたってろ過した。すべての場合において、鉱物が水和層を保持している、緊密な高固体含量のろ過ケーキが得られた。
【0118】
【表2】
【0119】
【表3】
【0120】
【表4】
【0121】
[実施例3]
実験室規模の実施例
この実施例は、本発明の様々な実施形態を例示する。
【0122】
以下の表5に挙げた添加剤系統を、示された鉱物材料500gの水性懸濁液に、Dispermat溶解機を用いて1500から5000rpmで撹拌しながら添加する。この懸濁液の初期固体含量は乾燥重量で40から42%である。
【0123】
その後、表6のそれぞれの懸濁液を、Vacuubrand GmbH製M7 2Cダイアフラム真空ポンプ(吸込容量:2.4m
3/h)を介して接続された1Lの真空フラスコを装備したブフナー漏斗フィルター(直径70mm、高さ30mm)中に配置された3μm孔径のRotilabo円形フィルターを用いて、30分間にわたってろ過した。すべての場合において、鉱物が水和層を保持している、緊密な高固体含量のろ過ケーキが得られた。
【0124】
【表5】