(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715705
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】非熱プラズマ点火アークの抑制
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20150423BHJP
H01T 13/50 20060101ALI20150423BHJP
H01T 13/39 20060101ALI20150423BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/50
H01T13/39
F02P13/00 301J
【請求項の数】23
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-536691(P2013-536691)
(86)(22)【出願日】2011年10月24日
(65)【公表番号】特表2013-542572(P2013-542572A)
(43)【公表日】2013年11月21日
(86)【国際出願番号】US2011057438
(87)【国際公開番号】WO2012058140
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年6月16日
(31)【優先権主張番号】61/407,633
(32)【優先日】2010年10月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/407,643
(32)【優先日】2010年10月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506146389
【氏名又は名称】フェデラル−モーグル・イグニション・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】FEDERAL−MOGUL IGNITION COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リコフスキー,ジェイムズ・ディ
(72)【発明者】
【氏名】ハンプトン,キース
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー,ウィリアム・ジェイ
【審査官】
佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−513351(JP,A)
【文献】
特開昭58−087791(JP,A)
【文献】
特開昭60−212985(JP,A)
【文献】
特開昭60−235380(JP,A)
【文献】
特開2000−215963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 7/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室(28)において非熱プラズマを放射するための点火器(20)であって、
導電材料から形成されるとともに電極端子端部(36)から電極着火端部(38)に延在する電極(32)と、
前記電極(32)に沿って延在する絶縁体(22)とを含み、
前記絶縁体(22)は前記電極着火端部(38)の周りに電気的絶縁材料のマトリックス(26)を含み、点火器(20)はさらに、
前記電気的絶縁材料のマトリックス(26)に配置される複数の導電要素(24)を含み、前記導電要素(24)は、導電材料の粒子と、前記電極(32)から着火面(56)まで連続的に延在する穴とのうち少なくとも一方を含む、点火器(20)。
【請求項2】
前記絶縁体(22)は、前記電極着火端部(38)が前記電気的絶縁材料のマトリックス(26)によって前記絶縁体着火端部(42)から間隔を置くように、前記電極(32)を通過して絶縁体着火端部(42)まで延在する、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項3】
前記絶縁体(22)は、前記電極着火端部(38)に着火面(56)を提供し、前記導電要素(24)は、前記燃焼室(28)に露出されるために、前記着火面(56)に沿って配置される、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項4】
前記導電要素(24)は、前記電極着火端部(38)と前記着火面(56)との間に配置される、請求項3に記載の点火器(20)。
【請求項5】
前記絶縁体(22)の前記着火面(56)は凸状である、請求項3に記載の点火器(20)。
【請求項6】
前記電気的絶縁材料のマトリックス(26)は前記電極着火端部(38)を被覆している、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項7】
前記導電要素(24)は、前記絶縁材料のマトリックス(26)によって互いに間隔を置いている、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項8】
前記着火面(56)から間隔を置いているとともに所定長さ(l)に沿って延在する前記絶縁体(22)の部分には前記導電要素(24)が存在しない、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項9】
前記導電要素(24)は、前記絶縁材料のマトリックス(26)に埋め込まれた導電材料の粒子を含む、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項10】
前記粒子は、周期表の3族から12族のうちから選択される少なくとも1つの元素を含む、請求項9に記載の点火器(20)。
【請求項11】
前記粒子は、0.5μm〜250μmの粒径を有する、請求項9に記載の点火器(20)。
【請求項12】
前記導電要素(24)は、前記絶縁材料のマトリックス(26)において、前記電極(32)から前記着火面(56)に連続的に延在する穴である、請求項1に記載の点火器(20)。
【請求項13】
前記穴の各々は、内面(58)を提供し、前記燃焼室(28)と流体連通するために前記着火面(56)にて開口する、請求項12に記載の点火器(20)。
【請求項14】
前記電極(32)は電極直径(De)を有し、前記穴の各々は、前記電極直径(De)より小さい穴径(Dh)を有する、請求項12に記載の点火器(20)。
【請求項15】
前記穴の各々は、所定の距離(d)だけ互いに均等に間隔を置いている、請求項12に記載の点火器(20)。
【請求項16】
電圧を電源から受けるとともに、燃料および空気の混合気を内燃機関の燃焼室(28)においてイオン化するようコロナ(30)を形成する非熱プラズマを放射するための点火器(20)であって、
長手方向に電極端子端部(36)から電極着火端部(38)まで延在する電極本体部(34)を含む、エネルギーを前記電源から受けかつ前記電極着火端部(38)の周りに電界を発するための電極(32)を含み、
前記電極(32)は、前記電極(32)に亘って延びるとともに長手方向の前記電極本体部(34)と垂直な電極直径(De)を有し、
前記電極(32)は導電材料から形成され、
前記導電材料はニッケルを含み、点火器(20)はさらに、
環方向において前記電極本体部(34)の周りに配置されるとともに長手方向において前記電極本体部(34)に沿って配置され、絶縁体上端部(40)から前記電極着火端部(38)に隣接する絶縁体着火端部(42)まで延在する絶縁体(22)を含み、
前記絶縁体(22)は前記電極着火端部(38)を通過して前記絶縁体着火端部(42)まで延在し、
前記絶縁体(22)は電気的絶縁材料から形成されるマトリックス(26)を含み、
前記電気的絶縁材料はアルミナを含み、
前記電気的絶縁材料は、電荷を保持することが可能な誘電率を有し、
前記電気的絶縁材料は、前記電極(32)の前記導電材料の導電率よりも小さい導電率を有し、
前記絶縁体(22)は、前記絶縁体上端部(40)から前記絶縁体着火端部(42)に向かって延在する絶縁体第1領域(44)を含み、
前記絶縁体第1領域(44)は、長手方向の前記電極本体部(34)に略垂直に延びる絶縁体第1直径(D1)を提供し、
前記絶縁体(22)は、前記絶縁体第1領域(44)に隣接するとともに前記絶縁体着火端部(42)に向かって延在する絶縁体中央領域(46)を含み、
前記絶縁体中央領域(46)は、長手方向の前記電極本体部(34)に略垂直に延びるとともに前記絶縁体第1直径(D1)よりも大きい絶縁体中央直径(Dm)を提供し、
前記絶縁体(22)は、前記絶縁体第1領域(44)から前記絶縁体中央領域(46)まで半径方向外方に延在する絶縁体上側肩部(48)を提供し、
前記絶縁体(22)は、前記絶縁体中央領域(46)に隣接するとともに前記絶縁体着火端部(42)に向かって延在する絶縁体第2領域(50)を含み、
前記絶縁体第2領域(50)は、長手方向の前記電極本体部(34)に略垂直に延びる絶縁体第2直径(D2)を提供し、
前記絶縁体第2直径(D2)は、前記絶縁体第1直径(D1)と等しく、
前記絶縁体(22)は、前記絶縁体中央領域(46)から前記絶縁体第2領域(50)まで半径方向内方に延在する絶縁体下側肩部(52)を提供し、
前記絶縁体(22)は、前記燃焼室(28)に配置および露出されるために前記絶縁体第2領域(50)から前記絶縁体着火端部(42)まで延在する絶縁体ノーズ領域(54)を含んでおり、前記絶縁体第1領域(44)と、前記絶縁体中央領域(46)と、前記絶縁体第2領域(50)とは前記燃焼室(28)に露出されず、
前記絶縁体ノーズ領域(54)は、長手方向の前記電極本体部(34)に略垂直である、前記絶縁体着火端部(42)までテーパーする絶縁体ノーズ直径(Dn)を提供し、
前記絶縁体ノーズ直径(Dn)は、前記絶縁体第2直径(D2)よりも小さく、
前記絶縁体ノーズ領域(54)は、前記燃焼室(28)に露出されるために、前記絶縁体着火端部(42)に亘って延在するとともに前記絶縁体着火端部(42)を取り囲む着火面(56)を提供し、
前記着火面(56)は、前記燃焼室(28)の中へと下方向に向くための球面半径を有する丸く凸状のプロファイルを提供し、
前記絶縁体ノーズ領域(54)の前記絶縁材料は、前記電極(32)を前記燃焼室(28)から間隔を置かせるためのものであり、
前記電極着火端部(38)は、前記絶縁体ノーズ領域(54)に配置され、前記絶縁材料のマトリックス(26)によって前記絶縁体着火端部(42)から間隔を置いており、
前記電極着火端部(38)は、前記絶縁体着火端部(42)から0.065cmの距離(d)だけ間隔を置いており、点火器(20)はさらに、
前記着火面(56)に隣接するとともに前記絶縁体ノーズ領域(54)の前記着火面(56)に沿った前記絶縁材料のマトリックス(26)の部分の全体に亘って配置される、電界を前記電極(32)から受けるとともに前記導電要素(24)を取り囲むエリアにおいて電界を発するための複数の導電要素(24)を含み、前記導電要素(24)を取り囲むエリアにおける前記電界は、前記絶縁体ノーズ領域(54)から、コロナ(30)を形成する非熱プラズマの放射を引き起こし、
前記導電要素(24)は、前記絶縁材料のマトリックス(26)において、前記電極着火端部(38)と前記絶縁体着火端部(42)との間に配置されており、
前記導電要素(24)は、前記燃焼室(28)に露出されるために、前記着火面(56)に沿って配置され、
前記絶縁体第1領域(44)と、前記絶縁体中央領域(46)と、前記絶縁体第2領域(50)とには、前記導電要素(24)が存在せず、
前記絶縁体ノーズ領域(54)の一部には前記導電要素(24)が存在せず、
前記絶縁体ノーズ領域(54)には、前記絶縁体第2領域(50)から所定長さ(l)だけ前記着火端部に向かって延在するエリアにおいて、前記導電要素(24)が存在せず、
前記導電要素(24)は、前記絶縁材料のマトリックス(26)によって互いに間隔を置いており、
前記導電要素(24)は、導電材料の粒子と、前記電極(32)から前記着火面(56)まで連続的に延在する穴とのうち少なくとも一方を含んでおり、点火器(20)はさらに、
前記絶縁体(22)に受け入れられる端子(60)を含み、前記端子(60)は、前記電源に電気的に接続される端子線に電気的に接続されるとともに、エネルギーを前記電源から受けて前記エネルギーを前記電極(32)に送るために前記電極(32)と電気的に連通するためのものであり、
前記端子(60)は、第1の端子端部(62)から、前記電極端子端部(36)に電気的に接続される第2の端子端部(64)まで延在し、
前記端子(60)は導電材料から形成され、点火器(20)はさらに、
前記第2の端子端部(64)と前記電極端子端部(36)との間に配置されるとともに前記第2の端子端部(64)と前記電極端子端部(36)とを電気的に接続する、エネルギーを前記端子(60)から前記電極(32)に提供するための抵抗体層(66)を含み、
前記抵抗体層(66)は導電材料から形成され、点火器(20)はさらに、
前記絶縁体(22)の周りに環方向に配置されるシェル(68)を含み、
前記シェル(68)は金属材料から形成され、
前記シェル(68)は、前記絶縁体ノーズ領域(54)が下側シェル端部(72)の外側に突出するように、前記絶縁体(22)に沿って長手方向に上側シェル端部(70)から前記下側シェル端部(72)まで延在する、点火器(20)。
【請求項17】
前記絶縁体ノーズ領域(54)の一部は、前記絶縁体ノーズ領域(54)の他の部分とは別個であり、前記他の部分に取り付けられる、請求項16に記載の点火器(20)。
【請求項18】
前記絶縁体第2領域(50)と前記絶縁体着火端部(42)との間を連続的に延在する前記絶縁体ノーズ領域(54)をさらに含み、
前記絶縁体ノーズ領域(54)は前記電極(32)の前記電極着火端部(38)を被覆しており、
前記絶縁体ノーズ領域(54)の前記着火面(56)は、前記電極(32)が前記絶縁材料のマトリックス(26)によって前記燃焼室(28)から完全に分離されるように、前記電極(32)が前記燃焼室(28)との流体連通を妨げるために閉じられており、
前記導電要素(24)は、前記絶縁材料のマトリックス(26)に埋め込まれ、かつ前記着火面(56)に沿うとともに隣接する前記絶縁体ノーズ領域(54)の部分全体に亘って分散する粒子であり、
前記粒子は、前記絶縁材料のマトリックス(26)によって互いに間隔を置いており、
前記粒子は、元素の周期表の3族から12族のうちから選択される少なくとも1つの元素を含み、
前記粒子はイリジウムを含み、
前記粒子は0.5μm〜250μmの粒径を有する、請求項16に記載の点火器(20)。
【請求項19】
前記絶縁体ノーズ領域(54)の前記絶縁材料のマトリックス(26)における穴である前記導電要素(24)をさらに含み、
前記穴の各々は、前記絶縁材料のマトリックス(26)によって互いに間隔を置いており、
前記穴の各々は、前記電極(32)から前記絶縁体(22)の前記着火面(56)に連続的に延在しており、
前記穴の各々は、シリンダ形状を提供する内面(58)を有し、前記燃焼室(28)に流体連通するために、前記着火面(56)にて開口しており、
前記穴の各々の前記内面(58)は、前記電極直径(De)よりも小さい穴径(Dh)を提供し、
前記絶縁体ノーズ領域(54)は、所定の距離(d)だけ互いに間隔を置く6つの前記穴を含み、
前記穴の1つは、前記電極着火端部(38)から前記絶縁体着火端部(42)まで横断方向に延在し、前記穴の5つは、前記中心穴を取り囲み、その各々が前記電極(32)から前記着火面(56)まで延在するとともに互いに前記所定の距離(d)だけ均等に間隔を置いており、
前記穴の各々は0.016cmの穴径(Dh)を有する、請求項16に記載の点火器(20)。
【請求項20】
非熱プラズマを放射するための点火器(20)を形成する方法であって、
電極端子端部(36)から電極着火端部(38)まで延在する導電材料から形成される電極(32)を提供するステップと、
電気的絶縁材料のマトリックス(26)から形成され、複数の導電要素(24)が内部に配置される絶縁体(22)を提供するステップと、
前記絶縁体(22)を前記電極着火端部(38)の周りに配置するステップとを含み、複数の導電要素(24)が配置される絶縁体(22)を提供するステップは、導電材料の粒子と、前記電極(32)から着火面(56)まで連続的に延在する穴とのうち少なくとも一方を提供するステップを含む、方法。
【請求項21】
前記絶縁体(22)を提供するステップは、前記電気的絶縁材料の焼結プレフォームを提供するステップと、導電材料の粒子を前記電気的絶縁材料のペーストと混合するステップと、当該混合物を前記焼結プレフォームに適用するステップと、前記混合物と前記焼結プレフォームとを加熱するステップとを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記絶縁体(22)を提供するステップは、前記電気的絶縁材料の焼結プレフォームを提供するステップと、導電材料の粒子を前記焼結プレフォームに埋め込むステップとを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記絶縁体(22)を提供するステップは、前記電気的絶縁材料を導電材料の粒子と混合するステップと、当該混合物を焼結するステップとを含む、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
この出願は、本願明細書において参照により全文援用される2010年10月28日に出願された米国仮出願連続番号第61/407633号および2010年10月28日に出願された米国仮出願連続番号第61/407643号の利益を請求する。
【0002】
発明の背景
1.発明の分野
この発明は一般的に、燃焼室の燃料および空気の混合気を点火するよう非熱プラズマを放射するためのコロナ放電点火器と、当該コロナ放電点火器を製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
2.先行技術の説明
コロナ放電点火システムの例が、Freenに譲受される米国特許番号第6,883,507号に開示されている。このコロナ放電点火システムでは、点火器の電極が高い無線周波数(「RF」)電圧電位へと帯電され、強いRF電界を燃焼室において作り出す。この電界により、燃焼室における空燃混合気の一部がイオン化し、絶縁破壊を開始し、当該空燃混合気の燃焼を促進する。しかしながら当該電界は、空燃混合気が誘電特性を維持するとともに、非熱プラズマとも呼ばれるコロナ放電が発生するように制御される。電界は、電極と接地されたシリンダ壁またはピストンとの間に熱プラズマおよび電気アークを作り出すすべての誘電特性を空燃混合気が失わないように制御される。コロナ放電の電流は小さく、電極での電圧電位は、アーク放電と比較して高いままである。空燃混合気のイオン化された部分は、火炎前面を形成し、次いで当該火炎前面が自続するとともに、空燃混合気の残りの部分を燃焼する。
【0004】
当該コロナ放電点火システムの電極は典型的に、電極端子端部から電極着火端部に延在する導電材料から形成される。当該電極に沿って、電気的絶縁材料のマトリックスを含む絶縁体が延在する。コロナ放電点火システムの点火器は、電極に近接近した如何なる接地された電極要素も含まない。むしろ上で示唆したように、接地が内燃機関のシリンダ壁またはピストンによって与えられる。例示的な点火器が、LykowskiおよびHamptonに譲受される米国特許出願公開番号第2010/0083942号に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関の適用例の場合、典型的には、形成される非熱プラズマがコロナ放電の形態でイオンの複数のストリームを含むことが好ましい。このストリームは、燃焼室の全体に亘って、当該ストリームの全長に沿って空燃混合気に点火する。これにより、堅牢な点火が提供される。上記Freen特許において論じられるように、電界は好ましくは、コロナ放電が、上記電極から上記接地されたシリンダ壁部またはピストンへのアーク放電につながる電子なだれへと進まないように制御される。あるしきい値を上回る電圧が点火器に適用される場合のようなある状況では、イオンの密度が増加し、アーク放電が形成され得る。このアーク放電は、上記所望の複数のストリームではなくイオンの単一のストリームを含む。このアーク放電が燃焼室において占める空間はコロナ放電よりもはるかに小さく、これにより点火の質が低減し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明の1つの局面は、電極と、当該電極に沿って延在する絶縁体とを含むコロナ点火システムの点火器を提供する。この電極は、導電材料から形成されるとともに、電極端子端部から電極着火端部まで延在する。絶縁体は、電極着火端部の周りに電気的絶縁材料のマトリックスを含むとともに、当該電気的絶縁材料のマトリックス内に配置された複数の導電要素を含む。
【0007】
本発明の別の局面は、点火器を形成する方法を提供する。この方法は、電気的絶縁材料のマトリックスから形成され、複数の導電要素が内部に配置される絶縁体を提供するステップと、電極端子端部から電極着火端部まで延在する導電材料から形成される電極を提供するステップとを含む。この方法はさらに、電極着火端部の周りに絶縁体を配置するステップを含む。
【0008】
導電要素を有する絶縁体を含む本発明の点火器は、導電要素を有さない他の点火器と比較して、コロナ点火システムの動作時のアーキングを低減または除去する。この点火器は、コロナの形態にあるイオンの複数のストリームを含む、制御された繰り返し可能な非熱プラズマを作り出す。点火器から発せられたコロナ放電は、上記燃料混合気の迅速な点火および燃焼を提供する。これにより、内燃機関の適用例において用いられると、燃料の経済性の向上およびCO
2排出の低減といった多くの利益が得られる。
【0009】
本発明の他の利点は、以下の詳細な説明を参照して添付の図面に関連して考慮するとよりよく理解されるので、当該利点は容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】内燃機関の燃焼室に配置される、本発明の1つの局面に従った点火器の断面図である。
【
図2】本発明の別の局面に従った点火器の断面図である。
【
図2A】
図2の点火器の絶縁体ノーズ領域の拡大図である。
【
図3】本発明の別の局面に従った点火器の断面図である。
【
図3A】
図3の点火器の絶縁体ノーズ領域の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明の1つの局面は、
図1〜
図3に示されるように、コロナ点火システムのための点火器20を提供する。点火器20は、電気的絶縁材料のマトリックス26中に配置された複数の導電要素24を有する絶縁体22を含む。導電要素24の例としては、マトリックス26に埋め込まれる金属粒子か、またはマトリックス26における穴がある。
図1に示されるように、点火器20は、内燃機関の燃焼室28に配置され、電圧を電源(図示せず)から受け取る。点火器20の電極32が高いRF電圧電位へと帯電され、強いRF電界を燃焼室において作り出す。この電界は、燃焼室における燃料および空気の混合気が誘電特性を維持するように制御される。電極32は、コロナ30を形成するイオンの複数のストリームを含む非熱プラズマを放射して、当該燃料および空気の一部を燃焼室28においてイオン化する。
【0012】
点火器20の電極32は、電極端子端部36から電極着火端部38まで長手方向に延在する電極本体部34を含む。電極32は、
図2および
図3に示されるように、電極32に亘って延びるとともに長手方向の電極本体部34に垂直な電極直径D
eを有する。電極32は、ニッケル、銅、またはその合金のような導電材料から形成される。
図2および
図2Aに示される一実施例では、電極32は、ニッケル被覆によって取り囲まれる銅コア部を含む。
【0013】
点火器20の絶縁体22は、環方向において電極本体部34の周りに配置されるとともに、長手方向において電極本体部34に沿って配置される。絶縁体22は、絶縁体上端部40から電極着火端部38に隣接する絶縁体着火端部42まで延在する。
図2および
図3にもっともよく示されるように、絶縁体22は、電極着火端部38を通過して絶縁体着火端部42まで延在する。絶縁体22は、焼結アルミナまたは他のセラミックもしくはガラス材料のような電気的絶縁材料のマトリックス26を含む。当該絶縁材料は、好ましくは電荷を保持することが可能な誘電率を有する。当該電気的絶縁材料は、電極32の導電率よりも有意に小さい導電率を有する。
【0014】
図2および
図3に示されるように、一実施例では、絶縁体22は、絶縁体上端部40から絶縁体着火端部42に向かって延在する絶縁体第1領域44を含む。絶縁体第1領域44は、長手方向の電極本体部34に略垂直に延びる絶縁体第1直径D
1を提供する。絶縁体22はさらに、絶縁体第1領域44に隣接するとともに、絶縁体着火端部42に向かって延在する絶縁体中央領域46を含む。絶縁体中央領域46は、長手方向の電極本体部34に略垂直に延びる絶縁体中央直径D
mを提供する。この実施例の絶縁体中央直径D
mは、絶縁体第1直径D
1よりも大きい。絶縁体上側肩部48は、絶縁体第1領域44から絶縁体中央領域46に半径方向外方に延在する。絶縁体22はさらに、絶縁体中央領域46に隣接するとともに絶縁体着火端部42に向かって延在する絶縁体第2領域50を含む。絶縁体第2領域50は、長手方向の電極本体部34に略垂直に延びる絶縁体第2直径D
2を提供する。絶縁体第2直径D
2は典型的には、絶縁体第1直径D
1と等しい。絶縁体下側肩部52は、絶縁体中央領域46から絶縁体第2領域50まで半径方向内方に延在する。
【0015】
点火器20の絶縁体22はさらに、絶縁体第2領域50から絶縁体着火端部42まで延在する絶縁体ノーズ領域54を含む。絶縁体ノーズ領域54は典型的には、燃焼室28に配置される。
図2および
図3に示されるように、コロナ点火システムの動作時には、絶縁体ノーズ領域54は、燃焼室28において燃料および空気の混合気に露出する一方、絶縁体第1領域44、絶縁体中央領域46、および絶縁体第2領域50は、燃焼室28に露出されないエンジンブロック中にあるままである。絶縁体ノーズ領域54は、長手方向の電極本体部34に略垂直な絶縁体ノーズ直径D
nを提供する。絶縁体ノーズ直径D
nは典型的には、絶縁体ノーズ直径D
nが絶縁体第2直径D
2よりも小さくなるように、絶縁体第2領域50から絶縁体着火端部42までテーパーする。
【0016】
絶縁体ノーズ領域54は、絶縁体着火端部42に亘って延在するとともに絶縁体着火端部42を取り囲む着火面56を提供する。コロナ点火システムにおける点火器20の使用時には、着火面56は燃焼室28に露出し、コロナ30を形成する非熱プラズマを放射する。一実施例では、着火面56は、鋭いエッジのない丸く凸状のプロファイルを提供する。着火面56のこの丸い性質は、燃焼室28の中へと下方向へ向く球面半径として記載され得る。
【0017】
絶縁体ノーズ領域54ならびに他の領域44、46、および50の絶縁材料を含む絶縁体22の絶縁材料により、電極32が燃焼室28から間隔を置いている。
図2Aおよび
図3Aにもっともよく示されるように、電極着火端部38は、絶縁体ノーズ領域54に配され、絶縁材料のマトリックス26によって絶縁体着火端部42から間隔を置いている。一実施例では、電極着火端部38は、約0.06cm〜0.07cmの距離dだけ絶縁体着火端部42から間隔を置いている。
【0018】
上記のように、複数の導電要素24は、電気的絶縁材料のマトリックス26の一部に配置され、絶縁材料のマトリックス26によって互いに間隔が置かれている。導電要素24は好ましくは、少なくとも導電要素24の一部が燃焼室28に直接的に露出するように、絶縁体ノーズ領域54の着火面56に沿って、着火面56に隣接して配置される。
図2Aおよび
図3Aに示されるように、導電要素24は好ましくは、電極着火端部38と絶縁体着火端部42との間に配置される。
【0019】
コロナ点火システムにおける点火器20の使用時、電極32は、電源からエネルギーを受け取り、電極着火端部38の周りに電界を発する。導電要素24は、電極32から発されている電界を受け、次いで導電要素24を取り囲むエリアに電界を発する。導電要素24を取り囲む当該エリアにおける電界は、絶縁体ノーズ領域54の着火面56からの非熱プラズマの放射を引き起こし、
図1〜
図3に示されるコロナ30を形成する。
【0020】
絶縁体第1領域44、絶縁体中央領域46、および絶縁体第2領域50には典型的には、導電要素24が存在しない。さらに、絶縁体ノーズ領域54の一部にも典型的には導電要素24が存在しない。一実施例において、
図2Aおよび
図3Aに示されるように、絶縁体ノーズ領域54では、絶縁体第2領域50から所定長さlだけ絶縁体着火端部42に向かって延在する部分において、導電要素24が存在しない。導電要素24が存在しない絶縁体ノーズ領域54のこの部分は典型的には、絶縁体着火面56から間隔をおいている。代替的な実施例(図示せず)では、絶縁体22は、絶縁体ノーズ領域54の全体に亘って、または絶縁体22の他の領域もしくは部分において導電要素24を含む。
【0021】
一実施例では、絶縁体ノーズ領域54の一部のような導電要素24を含む絶縁体22の部分は、導電要素24が存在しない絶縁体22の部分と同質である。たとえば、導電要素24を含む絶縁体ノーズ領域54は、上で論じた所定の長さlに沿って延在する部分のような絶縁体ノーズ領域54の残部と同質である。この実施例では、絶縁体ノーズ領域54はさらに、絶縁体第2領域50、絶縁体中央領域46、および絶縁体第1領域44と同質である。
図2の実施例のような別の実施例では、絶縁体ノーズ領域54の部分のような導電要素24を含む絶縁体22の部分は、導電要素24が存在しない絶縁体22の他の部分とは別個に形成され、次いでその後、これらの部分および領域は一緒になるように取り付けられる。
【0022】
絶縁体22はさまざまなタイプの導電要素24を含み得る。1つの好ましい実施例では、導電要素24は、
図1〜
図2Bに示されるように、絶縁材料のマトリックス26に埋め込まれた粒子を含む。これらの粒子は典型的には金属を含み、好ましくは、イリジウムのような元素の周期表の3族から12族のうちから選択される少なくとも1つの元素を含む。上記粒子は、0.5μm〜250μmの粒径を有する。これらの粒子は、粒子のいくつかが直接的に燃焼室28に露出するように、着火面56に沿い、着火面56に隣接する絶縁体ノーズ領域54の部分全体に亘って分散される。
図2Bは、絶縁体22の着火面56に沿った露出した粒子の拡大図を示す図である。当該粒子は、絶縁材料のマトリックス26によって互いに間隔が置かれている。この実施例では、絶縁体ノーズ領域54は、絶縁体第2領域50と絶縁体着火端部42との間で連続的に延在し、電極32の電極着火端部38を被覆している。絶縁体ノーズ領域54の着火面56は、閉じられており、電極32が燃焼室28と流体連通するのを妨げる。したがって電極32は、絶縁材料のマトリックス26によって完全に燃焼室28から分離される。
【0023】
図2〜
図2Bの実施例では、粒子は電極32から発せられた電界を受け、次いでその周りのエリアに電界を発し、これにより絶縁体ノーズ領域54からの非熱プラズマの放射を引き起こすとともにコロナ30を形成する。この実施例の絶縁体22は、金属粒子と電極着火端部38との間に高いインピーダンスを提供する。したがって、絶縁体22は、導電要素24なしでコロナ点火システムにおいて用いられる他の絶縁体22と比較して、高密度プラズマが作られた際のアーキングの起こる可能性を低減または除去する。
【0024】
別の実施例では、導電要素24は、
図3〜
図3Bに示されるように、絶縁材料のマトリックス26において、電極32を燃焼室28に接続する穴を含む。各穴は、電極32から絶縁体22の着火面56まで連続的に延在し、これらの穴は、絶縁材料のマトリックス26によって互いに間隔が置かれている。穴の各々はさらに、内面58を有し、着火面56にて開口する。したがって、穴の内面58は、燃焼室28と流体連通するとともに、燃焼室28に直接的に露出する。
図3Bは、着火面56での穴の開口部の拡大図を示す図である。穴によって与えられる内面58はさらに、粒子と同様に、電極32から発せられる電界に露出する。したがって、絶縁体ノーズ領域54の穴は、燃焼室28内部において高勾配の電界の形成を促進する。穴の内面58は、その周りのエリアに電界を発し、これにより絶縁体ノーズ領域54からの非熱プラズマの放射を引き起こすとともにコロナ30を形成する。この実施例の絶縁体22も、導電要素24のないコロナ30点火システムにおいて用いられる他の絶縁体22と比較して、高密度プラズマが作られた際のアーキングの可能性を低減または除去する。
【0025】
一実施例では、各穴の内面58は、電極直径D
eよりも小さい穴径D
hを有するシリンダ形状を提供する。一実施例では、穴の各々は、0.016cmの穴径D
hを有する。絶縁体ノーズ領域54は、
図3Bに示されるように、所定の距離dだけ互いに等しく間隔を置かれた6つの上記穴を含み得る。これらの穴のうちの1つは、電極着火端部38から絶縁体着火端部42まで横断方向に延在し、これらの穴の5つは、中心穴を取り囲むとともに、各々が電極32から着火面56まで延在する。さらに、代替的な実施例では、図示しないが、絶縁体22は、金属粒子および穴の両方を含むか、または粒子および穴の代わりにもしくは粒子および穴に加えて他のタイプの導電要素24を含む。
【0026】
コロナ点火器20はさらに典型的には、当該技術において公知である他の要素を含む。たとえば、
図2および
図3に示されるように、導電材料から形成される端子60が、第1の端子端部62から第2の端子端部64まで延在し、絶縁体22に受け入れられる。第1の端子端部62はコロナ点火システムの電源に電気的に接続され、第2の端子端部64は、電極端子端部36に電気的に接続される。導電材料から形成される抵抗体層66が、第2の端子端部64と電極端子端部36との間に配置され、第2の端子端部64と電極端子端部36とを電気的に接続する。端子60は配線に電気的に接続され、当該配線は、コロナ点火システムの電源に電気的に接続される。コロナ点火システムの動作の間、端子60は、当該電源からエネルギーを受け取り、このエネルギーを抵抗体層66を通じて電極32に送る。点火器20はさらに典型的には、環方向において絶縁体22の周りに配される金属材料から形成されるシェル68を含む。シェル68は、
図2および
図3に示されるように、絶縁体ノーズ領域54が下側シェル端部72の外方に突出するように、絶縁体22に沿って上側シェル端部70から下側シェル端部72まで長手方向に延在する。
【0027】
本発明の別の局面は、コロナ点火システムにおいて非熱プラズマを放射するための点火器20を形成する方法を提供する。この方法は、上述したように電極32と、および内部に配置される導電要素24を有する電気的絶縁材料から形成される絶縁体22とを提供するステップを含む。
【0028】
絶縁体22を提供するステップは、さまざまな処理ステップを含み得る。一実施例では、当該方法は、導電要素24を含むようにマトリックス26を成型するステップのような、単一の処理ステップで導電要素24を有する絶縁体22を形成するステップを含む。代替的には、この方法は、絶縁体22をいくつかの処理ステップで準備するステップを含み得る。たとえば、絶縁体第1領域44、絶縁体中央領域46、絶縁体第2領域50、および絶縁体ノーズ領域54の部分の各々はまず導電要素24が存在しないよう形成され得、その後、導電要素24を有する絶縁体ノーズ領域54の部分を他の領域に取り付ける。
【0029】
一実施例では、導電要素24が金属粒子を含む場合、絶縁体22を提供するステップはまず、絶縁材料の焼結プレフォームを提供するステップを含む。次に、この方法は、粒子を電気的絶縁材料のペーストと混合し、その後当該混合物を上記焼結プレフォームに適用するステップを含む。次いで、これらの混合物および焼結プレフォームは加熱され、好ましくは焼結され、これにより当該混合物とプリフォームとを共に融合させる。代替的には、当該ペースト混合物をプリフォームとは別個に焼結し、次いでこれら二つの焼結部分を機械的または他の態様で互いに取り付けることが可能である。別の実施例では、絶縁体22を提供するステップはまず、焼結プレフォームを提供し、次いで機械的に電気的導電材料の粒子を焼結プレフォームに埋めるステップを含む。さらに別の実施例では、焼結されていない電気的絶縁材料が粒子と混合され、当該混合物が次いで焼結されて、絶縁体22が提供される。
【0030】
別の実施例では、導電要素24が絶縁材料のマトリックス26において穴を含む場合、絶縁体22を提供するステップはまず、絶縁材料の焼結プレフォームを提供し、次いで焼結プレフォームに穴を空けるステップを含み得る。代替的には、レーザまたは他の方法により、穴を焼結プレフォームに形成することができる。別の実施例では、成型装置において、絶縁体22の絶縁材料に穴が成型され、その後当該成型された材料が焼結される。さらに別の実施例では、穴を有する絶縁体22の部分は、絶縁体22の他の部分および領域とは別個に形成され、次いで機械的または別の態様で互いに取り付けられる。
【0031】
上述したように、コロナ点火システムの動作の間は、点火器20の電極32は、電源からエネルギーを受け、電界を発する。電極32からのこの電界は、導電要素24の各々の周りに電界を引き起こし、これにより、非熱プラズマを燃焼室28に引き起こす。この非熱プラズマは、コロナ30を形成し、燃焼室28において燃料および空気の混合気を点火する。導電要素24を有する本発明の点火器20を用いることにより、高密度プラズマが作られた場合であっても、導電要素24を用いないコロナ点火システムの点火器20と比較して、非熱プラズマがアーキングする可能性が低くなる。
【0032】
上記の教示に鑑みて、添付の特許請求の範囲内で、本発明の多くの修正例および変形例が可能であり、具体的に記載されたのとは異なる態様で実施されてもよいことは明らかである。これらの上記の記載は、発明の新規性がその有用性を発揮する任意の組合せをカバーすると解釈されるべきである。さらに、請求項における参照番号は単に簡便さのためのものであり、如何なる態様でも限定的に解釈されるべきではない。