(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715711
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】スポーツ用ウエア
(51)【国際特許分類】
A41D 13/00 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
A41D13/00 G
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-551076(P2013-551076)
(86)(22)【出願日】2011年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2011080211
(87)【国際公開番号】WO2013098938
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2014年6月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(72)【発明者】
【氏名】森 洋人
(72)【発明者】
【氏名】勝 眞理
(72)【発明者】
【氏名】春田 勝
【審査官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−263362(JP,A)
【文献】
特開2001−288606(JP,A)
【文献】
特開2011−021291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも胴体を覆う領域を備えるスポーツ用ウエアにおいて、少なくとも臍と上前腸骨棘との間の一部分の全周にわたって着圧を作用させる着圧部が、肋骨に達しない領域に設けられ、上記の着圧部における周方向の伸縮性が、着圧部以外の身頃部分における周方向の伸縮性よりも低く、且つ着圧部における丈方向の伸縮性が、着圧部における周方向の伸縮性よりも低いことを特徴とするスポーツ用ウエア。
【請求項2】
上記の着圧部が経編地で構成され、経編地における経方向が着圧部の周方向になっており、この経編地を構成する弾性糸の少なくとも1本がくさり編みされている請求項1に記載のスポーツ用ウエア。
【請求項3】
上記の着圧部が、少なくとも臍と肋骨下端との間の中点位置から臍と上前腸骨棘との間の中点位置の範囲を含むように設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のスポーツ用ウエア。
【請求項4】
上記の着圧部が、着圧部以外の身頃部分よりも伸長応力の強い素材で構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のスポーツ用ウエア。
【請求項5】
前記の着圧部が一定幅の帯状である請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のスポーツ用ウエア。
【請求項6】
上記の着圧部と着圧部以外の身頃部分との境界が無縫製で連続している請求項1〜請求項5の何れか1項に記載のスポーツ用ウエア。
【請求項7】
上記の着圧部の肌面側に摩擦抵抗を高める加工が施されている請求項1〜請求項6の何れか1項に記載のスポーツ用ウエア。
【請求項8】
上記の着圧部における着圧が0.7〜1.2kPaの範囲である請求項1〜請求項7の何れか1項に記載のスポーツ用ウエア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、少なくとも胴体を覆う領域を備えるスポーツ用ウエアに係り、特に、運動動作中における体幹姿勢を安定させるスポーツ用ウエアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、体幹は全ての運動動作の基本となる部位として一般に知られており、種々の運動動作時における体幹の前後への屈曲や左右への倒れこみ等の動揺を抑制することによって、運動全体のパフォーマンスが向上することが知られている。
【0003】
これに基づく一つの作用として、腹腔内圧の上昇による腰椎の安定化作用が知られている。ここで、腹腔内圧とは、腹筋・背筋群により囲まれる腹部内にある空間内の圧力を示すものであり、腹筋、特に内外腹斜筋と腹横筋の活動により上昇する。そして、腹腔内圧が上昇すると、腹腔が腰椎を背側へと押す作用が加わって腰部帯の剛性が増大するということが、スポーツ医学的・バイオメカニクス的観点から証明されており、それに伴って運動時における体幹の姿勢安定性が高まることが様々な実験により確認されている。
【0004】
体幹の姿勢安定は、走投跳といった基本動作は勿論のこと、球技などに見られるカッティング動作やターン動作のパフォーマンスにも貢献し、スポーツ動作において極めて重要な要素である。
【0005】
このため、従来においては、ベルト状のサポーターを腹部に強く巻きつけたり、腹部に伸縮性テーピングを施したりして、腹腔内圧上昇時の体幹安定効果を得ることが行われている。
【0006】
しかし、ベルト状のサポーターを腹部に巻きつける方法では、重量の増加に加え、体幹部の運動にベルト状のサポーターが追従しないために、特に体幹を捻るような動作において自然な運動を妨げる要因となるという問題があった。一方、腹部に伸縮性テーピングを施す方法では、テーピングの施術は専門的な知識・技術が必要とされ、また自分自身の腹部にテーピングを施すことは物理的に困難を伴うため、常に施術者が別途必要となるという問題があった。
【0007】
また、近年においては、ベルト状のサポーターの装着やテーピングの施術をすること無く、着用するだけで類似の効果が得られるコンプレッションウエアと呼ばれる衣服が数多く販売されている。
【0008】
ここで、コンプレッションウエアとは、任意の部位における生地の伸縮性を変化させ、着圧をコントロールすることによって、静脈還流促進による疲労軽減や、関節周辺のサポートによる障害予防や、軟部組織の形状補正に基づく痩身・整容効果等の様々な効果を期待するものである。そして、これらのコンプレッションウエアの中でも、体幹部への着圧により、運動パフォーマンスの向上効果を期待したものが存在している。
【0009】
例えば、特許文献1においては、二目編の編成によって経緯方向へ等方性の性質を有したまま任意に生地の弾性率を調整する方法を用い、シームレスに弾性率を変化させた弾性経編地を使用したスポーツウエアが提案されている。
【0010】
そして、この特許文献1においては、上記のようなスポーツウエアの中の1つの上半身用スポーツウエアとして、その
図6において、腹部の前面と背部上部とに上記の弾性経編地を用い、体型補整機能を持ちながら、運動パフォーマンスを高めるようにしたものが示されている。
【0011】
しかし、このような上半身用スポーツウエアの場合、上記の弾性経編地を体幹の前面における腹部の前面にだけ配置しているだけであるため、内外腹斜筋以外では、腹腔内圧の上昇にほとんど無関係とされる腹直筋に作用するだけであり、運動動作において重要とされる腹横筋・内外腹斜筋・脊柱起立筋に代表される腹筋/背筋群双方の活動に基づく下部体幹全体に対して十分に着圧を作用させることができず、運動動作中における体幹姿勢を十分に安定させることは困難であった。
【0012】
また、特許文献2においては、腹部前面等に難伸縮性領域を格子状に編成した上衣が提案されている。
【0013】
そして、この特許文献2においては、上記の上衣における腹部前面に格子状に編成された難伸縮性領域により、筋活動が増大されて、リハビリテーションや脂肪燃焼に適していることが示されている。
【0014】
しかし、特許文献2に示されている上衣においても、難伸縮性領域が腹部前面に設けられているだけであるため、上記の特許文献1のものと同様に、内外腹斜筋以外では、腹腔内圧の上昇にほとんど無関係とされる腹直筋に作用するだけであって、運動動作において重要とされる下部体幹全体に対して十分に着圧を作用させることができず、運動動作中における体幹姿勢を十分に安定させることは困難であった。
【0015】
また、特許文献3においては、腹部前面や腰から臀部に至る背下部の領域に、ベース層の内面にストレッチ可能な伸縮性のある生地からなる内部コア層を設けた水着などの衣類が提案されている。
【0016】
そして、この特許文献3においては、腹部前面や腰から臀部に至る背下部の領域におけるベース層の内面に上記のような内部コア層を設けることにより、腹部及び臀部を平滑化することを助け、形状抵抗を低減し、さらなるサポートを与えて体幹の安定性を改善することが示されている。
【0017】
しかし、特許文献3に示されている水着などの衣類においても、体幹の中心部の全周にわたって上記のような内部コア層を設けるようにはなっておらず、体幹の中心部の全周が適切に着圧されず、運動動作中における体幹姿勢を十分に安定させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2010−70876号公報
【特許文献2】特開2010−95818号公報
【特許文献3】特開2008−150768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
この発明は、少なくとも胴体を覆う領域を備えるスポーツ用ウエアにおける上記のような問題を解決することを課題とするものであり、特に、運動動作中における体幹姿勢を十分に安定させることができるスポーツ用ウエアを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明においては、少なくとも胴体を覆う領域を備えるスポーツ用ウエアにおいて、少なくとも臍と上前腸骨棘との間の一部分の全周にわたって着圧を作用させる着圧部を、肋骨に達しない領域に設けるようにした。
【0021】
この発明のスポーツ用ウエアのように、臍と上前腸骨棘との間の一部分の全周にわたって着圧を作用させる着圧部を設けると、この着圧部によって少なくとも体幹の中心部の全周が着圧されるようになり、運動動作において重要とされる腹横筋・内外腹斜筋・脊柱起立筋に代表される腹筋/背筋群双方の活動に基づく下部体幹全体に対して着圧が十分に作用し、運動動作中における下部体幹の前後及び左右への動揺が軽減されるようになる。また、着圧部が肋骨に達しない領域になっているため、上部体幹は殆ど着圧されず、呼吸や腕振り動作が制限されるということがない。
【0022】
また、下部体幹全体に対して着圧をより十分に作用させるようにするためには、上記の着圧部を、臍と肋骨下端との間の中点位置から臍と上前腸骨棘との間の中点位置の範囲を含むように設けることができる。
【0023】
また、上記の着圧部において着圧を作用させるにあたっては、この着圧部を着圧部以外の身頃部分よりも伸長応力の強い素材で構成させるようにすることができ、例えば、着圧部をそれ以外の身頃部分よりも低伸縮性の素材で構成し、着圧部における伸縮性が、着圧部以外の身頃部分における伸縮性よりも低くなるようにして、着圧部における着圧を、着圧部以外の身頃部分よりも強くすることができる。
【0024】
また、着圧部における周方向の弾性変形範囲が丈方向の弾性変形範囲よりも大きくなるようにしたり、上記の着圧部における周方向の伸縮性を、着圧部以外の身頃部分における周方向の伸縮性よりも低くすると共に、着圧部における丈方向の伸縮性が、着圧部における周方向の伸縮性よりも低くなるようにすると、このスポーツ用ウエアの着用時には、着圧部以外の身頃部分に比べて、着圧部の周方向に強い伸長応力が生じ、着圧部を適切に着圧を作用させることができるようになる。一方、このスポーツ用ウエアの着脱時には、着圧部が丈方向に伸びるのが抑制され、スポーツ用ウエアの着脱が容易に行えるようになる。
【0025】
ここで、上記のように着圧部における丈方向の伸縮性が着圧部における周方向の伸縮性よりも低くなるようにするにあたっては、例えば、経編地における経方向が着圧部の周方向になるようにして、この着圧部を経編地で構成すると共に、この経編地を構成する弾性糸の少なくとも1本をくさり編みさせるようにすることができる。
【0026】
また、上記のスポーツ用ウエアに、着圧部と着圧部以外の身頃部分とを設けるにあたり、着圧部と着圧部以外の身頃部分とを縫製させるようにすると、この縫製部の凹凸が皮膚にすれて擦過傷を起こしたり、他のウエアにすれてピリング等の原因となったりする可能性がある。また、樹脂系コーティング剤を塗布し、或いは予め含浸させた樹脂の部分的抜蝕等の方法により、着圧部とそれ以外の身頃部分との伸縮性に差を付与する場合には、加工コストや生産工程が増加すると共に、通気性や透水性や摩擦係数の変化によって着用時における快適性が低下する可能性がある。さらに、これらの場合、上記の縫製部や樹脂コーティング部分の境界において急激に着圧の変化が生じるため、その境界と体型が合わない場合には、望まない着圧分布を生じる可能性がある。このため、上記のスポーツ用ウエアに、着圧部と着圧部以外の身頃部分とを設けるにあたっては、着圧部と着圧部以外の身頃部分とを連続した経編地で構成し、着圧部と着圧部以外の身頃部分との境界を無縫製で連続させるようにすることが好ましい。
【0027】
また、このように着圧部と着圧部以外の身頃部分とを連続した経編地で構成する場合、編成が容易に行えるようにするため、着圧部を一定幅の帯状に形成することが好ましい。
【0028】
また、上記のスポーツ用ウエアにおいては、着圧部の肌面側に摩擦抵抗を高める加工を施すことが好ましい。このようにすると、このスポーツ用ウエアの着用時に、着圧部と皮膚との間の摩擦抵抗が大きくなって、着圧部と皮膚との間のズレが減少し、着圧部による着圧が適切な位置において安定して作用するようになる。なお、着圧部の肌面側に摩擦抵抗を高める加工を施すにあたっては、例えば、着圧部を構成する素材に摩擦係数を高いものを用いるようにしたり、着圧部の肌面側に樹脂をプリントさせたり、着圧部を構成する経編地の肌面側に編成によって凹凸を形成させたりすることができる。
【0029】
また、上記の着圧部における着圧が小さいと、着圧による上記のような作用を十分に得ることが困難になる一方、着圧部における着圧が大きくなりすぎると、着圧部が圧迫されて着用感が悪くなる。このため、着圧部における着圧を0.7〜1.2kPaの範囲にすることが好ましく、より好ましくは、1.0kPa付近になるようにする。なお、上記の着圧の値は、エアパック式のセンサーを使用し、接触圧測定器AMI3037−10(エイエムアイ・テクノ社製)を用いて測定した値である。
【発明の効果】
【0030】
本発明におけるスポーツ用ウエアにおいては、上記のように臍と上前腸骨棘との間の一部分の全周にわたって着圧を作用させる着圧部を、肋骨に達しない領域に設けたため、運動動作において重要とされる腹横筋・内外腹斜筋・脊柱起立筋に代表される腹筋/背筋群双方の活動に基づく下部体幹全体に対して十分に着圧が作用し、運動動作中における下部体幹の前後及び左右への動揺が軽減され、運動動作中における体幹姿勢を十分に安定させることができるようになると共に、上部体幹は殆ど着圧されず、呼吸や腕振り動作が制限されるということもない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、着圧部を設ける場合における体の各部位を示した概略正面図である。
【
図2】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、臍と肋骨下端との間の中点位置から臍と上前腸骨棘との間の中点位置の領域の全周にわたって一定幅の着圧部を設けた状態を示し、(A)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略正面図、(B)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略背面図である。
【
図3】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、着圧部と着圧部以外の身頃部分とを経編地で構成する場合の編組織の例を示した図である。
【
図4】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、着圧部の肌面側に凹凸を設けた状態を示し、(A)はスポーツ用ウエアの肌面側の部分平面図、(B)はスポーツ用ウエアの部分側面図である。
【
図5】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、前面の腹部における着圧部の幅を他の部分よりも大きくした変更例を示し、(A)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略正面図、(B)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略背面図である。
【
図6】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、背面の腰部における着圧部の幅を他の部分よりも大きくした変更例を示し、(A)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略正面図、(B)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略背面図である。
【
図7】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、両側部における着圧部の幅を他の部分よりも大きくした変更例を示し、(A)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略正面図、(B)はこのスポーツ用ウエアを着用した状態の概略背面図である。
【
図8】上記の実施形態に係るスポーツ用ウエアにおいて、ファスナーを左右脊柱起立筋の間に配置させた状態を示した概略背面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、この発明の実施形態に係るスポーツ用ウエアを添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、この発明に係るスポーツ用ウエアは、特に下記の実施形態に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0033】
図1は、スポーツ用ウエア10に着圧部11を設ける場合における人体Xの胴体の各位置を示しており、Lは肋骨下縁のラインを、P1は臍の位置を、P2は肋骨下端のラインを、P3は上前腸骨棘のラインを、P12は臍と肋骨下端との間の中点位置のラインを、P13は臍と上前腸骨棘との間の中点位置のラインを示している。
【0034】
そして、
図2(A),(B)に示す実施形態のスポーツ用ウエア10においては、着圧を作用させる着圧部11を、臍と肋骨下端との間の中点位置のラインP12と、臍と上前腸骨棘との間の中点位置のラインP13との間の全周にわたって一定幅の帯状に設け、このスポーツ用ウエア10を着用した場合に、着圧部11における着圧が0.7〜1.2kPaの範囲になるようにし、着圧部11以外の身頃部分よりも大きな着圧が作用するようにしている。
【0035】
このようにすると、臍と肋骨下端との間の中点位置のラインP12と、臍と上前腸骨棘との間の中点位置のラインP13との間の全周にわたって設けられた着圧部11によって体幹の中心部の全周が着圧されるようになり、運動動作において重要とされる下部体幹全体が十分に着圧されるようになり運動動作中における下部体幹の前後及び左右への動揺が軽減されて、運動動作中における体幹姿勢が十分に安定されるようになると共に、この着圧部11が肋骨に達していないため、上部体幹は殆ど着圧されず、呼吸や腕振り動作が制限されるということがない。
【0036】
また、この実施形態のスポーツ用ウエア10においては、着圧部11における着圧が、着圧部11以外の身頃部分よりも大きくなるようにするにあたり、着圧部11を着圧部11以外の身頃部分よりも低伸縮性の素材で構成し、着圧部11における伸長応力が着圧部11以外の身頃部分よりも大きくなるようにしている。特に、着圧部11における周方向の伸縮性が、着圧部11以外の身頃部分における周方向の伸縮性よりも低くなることにより、このスポーツ用ウエア10の着用時には、着圧部11の周方向に強い張力が生じ、下部体幹全体に対して十分な着圧を作用させることができるようになる。
【0037】
また、この実施形態のスポーツ用ウエア10においては、上記の着圧部11における周方向の弾性変形範囲が丈方向の弾性変形範囲よりも大きくなると共に、着圧部11における丈方向の伸縮性が周方向の伸縮性よりも低くなるようにしている。このようにすると、このスポーツ用ウエア10の着脱時に、着圧部11が丈方向に伸びて着脱しにくくなるのが抑制され、スポーツ用ウエア10の着脱が容易に行えるようになる。
【0038】
ここで、上記のように着圧部11における周方向の弾性変形範囲が丈方向の弾性変形範囲よりも大きくなると共に、着圧部11における丈方向の伸縮性が周方向の伸縮性よりも低くなったスポーツ用ウエア10を得るにあたっては、例えば、
図3に示すように、3枚筬の経編機を用い、着圧部11以外の身頃部分においては、フロント筬に44デシテックスのPET糸を用いてコード編みを、バック筬に33デシテックスのポリウレタン弾性糸を用いてデンビー編みを行う一方、着圧部11においては、着圧部11以外の身頃部分と同様に、フロント筬に44デシテックスのPET糸を用いてコード編みを、バック筬に33デシテックスのポリウレタン弾性糸を用いてデンビー編みを行うと共に、ミドル筬に44デシテックスのポリウレタン弾性糸を用いてくさり編みを行い、このように編成された経編地の経方向が周方向になるようにする。
【0039】
このようにすると、着圧部11の部分にだけ編成されたポリウレタン弾性糸によるくさり編みにより、着圧部11における周方向の伸縮性が、着圧部11以外の身頃部分における周方向の伸縮性よりも低くなると共に、着圧部11における丈方向の伸縮性が周方向の伸縮性よりも低くなったスポーツ用ウエア10を得られるようになる。
【0040】
また、上記のように3枚筬の経編機を用いることで、着圧部11を一定幅の帯状に設けることが可能となり、着圧部11と着圧部11以外の身頃部分との境界が無縫製で連続するようにして同時に編成させることが容易に行えるようになる。
【0041】
そして、このように着圧部11と着圧部11以外の身頃部分との境界を無縫製で連続して編成させると、着圧部11と着圧部11以外の身頃部分を縫製する場合のように、縫製部の凹凸が皮膚にすれて擦過傷を起こしたり、他のウエアにすれてピリング等の原因となったりするということがなく、また縫製部を境界にして着圧が急激に変化して、着用感が損なわれたりするのが防止される。
【0042】
また、この実施形態のスポーツ用ウエア10においては、
図4(A),(B)に示すように、上記の着圧部11の肌面側に編成による凹凸11aを設け、この凹凸11aによって、着圧部11の肌面側における摩擦抵抗を高めるようにしている。このように着圧部11の肌面側における摩擦抵抗を高めると、着用して運動動作を行った場合における着圧部11と皮膚との間のズレが減少し、着圧部11による着圧が適切な位置において安定して作用するようになる。また、上記のように編成によって凹凸11aを設けるようにした場合、着圧部11の肌面側に樹脂をプリントさせて摩擦抵抗を高める場合のように、着用時に違和感が生じるということもない。
【0043】
なお、上記の実施形態におけるスポーツ用ウエア10においては、着圧を作用させる着圧部11を、臍と肋骨下端との間の中点位置のラインP12と、臍と上前腸骨棘との間の中点位置のラインP13との間の全周にわたって一定幅の帯状に設けるようにしたが、上記の肋骨下縁のラインLよりも下の位置で、少なくとも臍と上前腸骨棘との間の一部分を含む範囲においては、その幅を大きくしたり、小さくしたりすることができる。
【0044】
また、このスポーツ用ウエア10を着用して行う運動の種類に応じて、上記の着圧部11の幅を周方向において適宜変化させることも可能であり、例えば、
図5(A),(B)に示すように、前面の腹部における着圧部11の幅を他の部分よりも大きくしたり、
図6(A),(B)に示すように、背面の腰部における着圧部11の幅を他の部分よりも大きくしたり、
図7(A),(B)に示すように、両側部における着圧部11の幅を他の部分よりも大きくしたりすることも可能である。
【0045】
また、上記のようなスポーツ用ウエア10の着脱が容易に行えるようにするため、ファスナーを設けることも可能であり、この場合、ファスナーが肌に直接触れて擦過傷が生じないようにするため、
図8に示すように、ファスナー12を左右脊柱起立筋の間に配置させることが好ましい。
【0046】
また、この実施形態においては、ノースリーブのスポーツ用ウエア10の例を示したが、袖が設けられたものであってもよい。
【0047】
次に、上記の実施形態に示すように、着圧を作用させる着圧部を、臍と肋骨下端との間の中点位置のラインP12と、臍と上前腸骨棘との間の中点位置のラインP13との間の全周にわたって一定幅の帯状に設けたスポーツ用ウエアを用い、このスポーツ用ウエアを着用した場合には、このスポーツ用ウエアを着用しなかった場合に比べて、運動動作時における前後方向及び左右方向の動揺が抑制されることを、実験に基づいて明らかにする。
【0048】
ここで、上記のスポーツ用ウエアを着用した場合において、上記の着圧部における着圧が1.0kPa、着圧部以外の身頃部分における着圧が0.3kPaであった。
【0049】
そして、全力疾走動作において最も体幹の動揺が大きいとされるスタートから約10m地点の加速局面において、肋骨下端より下の腹部と、肋骨下端より上の胸部とにおける動揺量として、それぞれ前後方向及び左右方向への角度変化を、上記のスポーツ用ウエアを着用した場合と、着用しなかった場合とにおいて測定し、その結果を下記の表1に示した。なお、前後方向及び左右方向への角度変化については、光学反射式モーションキャプチャーシステムVicon(Vicon Motion systems Inc. 製)を用い、1秒間に250コマの測定を行った。
【0050】
【表1】
【0051】
この結果、体幹上部の胸部における前後方向及び左右方向の動揺量は、スポーツ用ウエアを着用した場合と着用しなかった場合とにおいてほとんど差がなかったが、運動動作において重要とされる下部体幹の腹部における前後方向及び左右方向の動揺量を比較すると、スポーツ用ウエアを着用した場合は、着用しなかった場合に比べて、前後方向及び左右方向の何れの動揺量も大きく減少して、両者の間に十分な有意差が生じており、運動動作中における体幹姿勢を十分に安定させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0052】
10 スポーツ用ウエア
11 着圧部,11a 肌面側の凹凸
L 肋骨下縁のライン
P1 臍の位置
P2 肋骨下端のライン
P3 上前腸骨棘のライン
P12 臍と肋骨下端との間の中点位置のライン
P13 臍と上前腸骨棘との間の中点位置のライン
X 人体