特許第5715750号(P5715750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5715750薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法並びにヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715750
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法並びにヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/31 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   G11B5/31 F
   G11B5/31 C
   G11B5/31 Q
【請求項の数】15
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2009-112227(P2009-112227)
(22)【出願日】2009年5月1日
(65)【公開番号】特開2009-295262(P2009-295262A)
(43)【公開日】2009年12月17日
【審査請求日】2011年11月29日
(31)【優先権主張番号】12/132,368
(32)【優先日】2008年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500475649
【氏名又は名称】ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】500393893
【氏名又は名称】新科實業有限公司
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100092657
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 史朗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 芳高
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】飯島 淳
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−242210(JP,A)
【文献】 特開2004−234815(JP,A)
【文献】 特開2005−182987(JP,A)
【文献】 特開2003−242609(JP,A)
【文献】 特開2006−196059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、前記媒体対向面の側において前記主磁極層に対向するライトシールド層と、前記主磁極層と前記ライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、前記ライトシールド層または前記主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有する薄膜磁気ヘッドであって、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面から離れた位置に配置されているターン部を有する第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記第1の導体層の第1のターン部と、前記第2の導体層の第2のターン部とが前記媒体対向面に沿った上下方向に重なり、かつ前記媒体対向面に近い前側面から前記媒体対向面までの前側距離の等しい等距離二段構造を有し、
前記第1のターン部と前記第2のターン部の、前記媒体対向面から離れた後側面から前記媒体対向面までの後側距離が等しく、
前記第1の導体層と、前記第2の導体層とは、前記第1のターン部の本数と第2のターン部の本数とが相違し、かつ本数の少ない方の厚さが本数の多い方よりも薄く形成されており、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面からの距離が同じ位置に配置され、かつ前記主磁極層を挟んで対向している上部導体群と下部導体群とを有し、該上部導体群および下部導体群がそれぞれ前記第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記ライトシールド層は、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面側に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の前側シールド部および第2の前側シールド部と、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面から離れた位置に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の後側シールド部および第2の後側シールド部とを有し、前記第1の導体層が前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に配置され、前記第2の導体層が前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に配置されている薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
前記第1の導体層と前記第2の導体層との間に配置され、厚さの一様な層間絶縁層を更に有する請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
前記第1の前側シールド部および第1の後側シールド部と、前記第1の導体層との間に配置されている第1の介在絶縁層と、前記第2の前側シールド部および第2の後側シールド部と、前記第2の導体層との間に配置されている第2の介在絶縁層とを更に有し、前記第1の介在絶縁層および第2の介在絶縁層の厚さが0.02μmから0.3μmに設定されている請求項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項4】
前記第1の導体層が前記第1のターン部を2つ有して前記第2の導体層が第2のターン部を1つ有し、かつ前記第2の導体層の厚さが前記第1の導体層の厚さよりも薄く形成されている請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項5】
前記第1のターン部と、前記第2のターン部とがともに2本ずつ形成されている請求項1に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項6】
前記第1の前側シールド部よりも前記媒体対向面側に配置されている第1の対向絶縁層と、前記第2の前側シールド部よりも前記媒体対向面側に配置されている第2の対向絶縁層とを更に有する請求項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項7】
前記第1の前側シールド部、前記第1の後側シールド部および前記第1の導体層の、それぞれの表面が同じ高さに形成され、かつ前記第2の前側シールド部、前記第2の後側シールド部および前記第2の導体層の、それぞれの表面が同じ高さに形成されている請求項に記載の薄膜磁気ヘッド。
【請求項8】
記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、前記媒体対向面の側において前記主磁極層に対向するライトシールド層と、前記主磁極層と前記ライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、前記ライトシールド層または前記主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、
積層体の表面に前記薄膜コイルを構成し、かつ、ターン部を有する第1の導体層を形成した後、該第1の導体層上に層間絶縁層を形成する工程と、
前記層間絶縁層上における前記第1の導体層と前記媒体対向面からの距離が同じ位置に、前記薄膜コイルを構成し、かつ、ターン部を有する第2の導体層を形成して、前記第1の導体層の第1のターン部と、前記第2の導体層の第2のターン部とを前記媒体対向面に沿った上下方向に重ねる工程とを有し、
前記第1のターン部と前記第2のターン部の、前記媒体対向面から離れた後側面から前記媒体対向面までの後側距離が等しくなるように、前記第1の導体層と前記第2の導体層とを形成し、
前記第1のターン部の本数と第2のターン部の本数とが相違し、かつ本数の少ない方の厚さが本数の多い方よりも薄くなるように、前記第1の導体層と前記第2の導体層とを形成し、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面からの距離が同じ位置に配置され、かつ前記主磁極層を挟んで対向している上部導体群と下部導体群とを有し、該上部導体群および下部導体群がそれぞれ前記第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記ライトシールド層は、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面側に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の前側シールド部および第2の前側シールド部と、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面から離れた位置に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の後側シールド部および第2の後側シールド部とを有し、前記第1の導体層が前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に配置され、前記第2の導体層が前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に配置されている、薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項9】
前記第1の導体層を形成する前に、前記ライトシールド層を構成する前記第1の前側シールド部および前記第1の後側シールド部を前記積層体の表面に形成する工程と、
前記第1の前側シールド部および前記第1の後側シールド部を被覆するようにして介在絶縁層を形成する工程とを更に有し、
前記積層体の表面における前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に前記第1の導体層を形成する請求項に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記積層体の表面における前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に前記第1の導体層を形成するときに、間隙部を1つだけ備えた間欠導体層を前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に形成する請求項に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記積層体の表面における前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に間隙部を1つだけ備えた間欠導体層を形成する工程と、
前記間欠導体層における前記間隙部に感光性樹脂層を形成した後、前記積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜を形成し、その後、前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールドが現われるまで前記積層体の表面を研磨することによって、前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に前記第1の導体層を形成する請求項に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項12】
前記第2の導体層を形成する前に、前記ライトシールド層を構成する前記第2の前側シールド部および前記第2の後側シールド部をそれぞれ前記積層体の表面における前記第1の前側シールド部および第1の後側シールド部と前記媒体対向面からの距離が同じ位置に形成する工程と、
前記第2の前側シールド部および前記第2の後側シールド部を被覆するようにして介在絶縁層を形成する工程とを更に有し、
前記積層体の表面における前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に前記第2の導体層を形成する請求項1に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に導体層を形成した後、前記積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜を形成し、その後、前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部が現われるまで前記積層体の表面を研磨することによって、前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に前記第2の導体層を形成する請求項1に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項14】
基台上に形成された薄膜磁気ヘッドと、前記基台を固定するジンバルとを備え、
前記薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、前記媒体対向面の側において前記主磁極層に対向するライトシールド層と、前記主磁極層と前記ライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、前記ライトシールド層または前記主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有し、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面から離れた位置に配置されているターン部を有する第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記第1の導体層の第1のターン部と、前記第2の導体層の第2のターン部とが前記媒体対向面に沿った上下方向に重なり、かつ前記媒体対向面に近い前側面から前記媒体対向面までの前側距離の等しい等距離二段構造を有し、
前記第1のターン部と前記第2のターン部の、前記媒体対向面から離れた後側面から前記媒体対向面までの後側距離が等しく、
前記第1の導体層と、前記第2の導体層とは、前記第1のターン部の本数と第2のターン部の本数とが相違し、かつ本数の少ない方の厚さが本数の多い方よりも薄く形成されており、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面からの距離が同じ位置に配置され、かつ前記主磁極層を挟んで対向している上部導体群と下部導体群とを有し、該上部導体群および下部導体群がそれぞれ前記第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記ライトシールド層は、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面側に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の前側シールド部および第2の前側シールド部と、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面から離れた位置に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の後側シールド部および第2の後側シールド部とを有し、前記第1の導体層が前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に配置され、前記第2の導体層が前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に配置されているヘッドジンバルアセンブリ。
【請求項15】
薄膜磁気ヘッドを有するヘッドジンバルアセンブリと、前記薄膜磁気ヘッドに対向する記録媒体とを備え、
前記薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、前記媒体対向面の側において前記主磁極層に対向するライトシールド層と、前記主磁極層と前記ライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、前記ライトシールド層または前記主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有し、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面から離れた位置に配置されているターン部を有する第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記第1の導体層の第1のターン部と、前記第2の導体層の第2のターン部とが前記媒体対向面に沿った上下方向に重なり、かつ前記媒体対向面に近い前側面から前記媒体対向面までの前側距離の等しい等距離二段構造を有し、
前記第1のターン部と前記第2のターン部の、前記媒体対向面から離れた後側面から前記媒体対向面までの後側距離が等しく、
前記第1の導体層と、前記第2の導体層とは、前記第1のターン部の本数と第2のターン部の本数とが相違し、かつ本数の少ない方の厚さが本数の多い方よりも薄く形成されており、
前記薄膜コイルは、前記媒体対向面からの距離が同じ位置に配置され、かつ前記主磁極層を挟んで対向している上部導体群と下部導体群とを有し、該上部導体群および下部導体群がそれぞれ前記第1の導体層および第2の導体層を有し、
前記ライトシールド層は、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面側に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の前側シールド部および第2の前側シールド部と、前記薄膜コイルよりも前記媒体対向面から離れた位置に配置され、かつ前記媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の後側シールド部および第2の後側シールド部とを有し、前記第1の導体層が前記第1の前側シールド部と前記第1の後側シールド部との間に配置され、前記第2の導体層が前記第2の前側シールド部と前記第2の後側シールド部との間に配置されているハードディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録方式で磁気記録動作を行う薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法並びにヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置の面記録密度が著しく向上している。特に最近ではハードディスク装置の面記録密度は、160〜200ギガバイト/プラッタに達し、更にそれを超える勢いである。これに伴い、薄膜磁気ヘッドの性能向上が求められている。
【0003】
薄膜磁気ヘッドは、記録方式により大別すると、長手磁気記録方式と垂直磁気記録方式とに分けることができる。長手磁気記録方式はハードディスク(記録媒体)の記録面内(長手)方向にデータを記録する方式であり、垂直磁気記録方式はハードディスクに形成する記録磁化の向きを記録面の垂直方向に形成してデータを記録する方式である。このうち、垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドは長手磁気記録方式に比べて格段に高い記録密度を実現できる上に、記録済のハードディスクが熱揺らぎの影響を受けにくいので、長手磁気記録方式よりも有望視されている。
【0004】
従来の垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドは、例えば、米国特許第6,504,675号明細書、米国特許第4,656,546号明細書、米国特許第4,672,493号明細書、特開2004−94997号公報等に開示されている。
【0005】
ところで、従来、垂直磁気記録方式の磁気ヘッド(perpendicular magnetic recording head:以下「PMR」ともいう)は、磁極層と薄膜コイルとを有している。磁極層は、垂直磁気記録方式によってデータを記録媒体に記録するための記録磁界を発生する。薄膜コイルは記録媒体に記録するデータに応じた磁界を発生する。
【0006】
そして、従来のPMRは、例えば磁極層とライトシールド層を連結し、媒体対向面(エアベアリング面、ABSともいう)から離れて配置される連結部を有している。このPMRの場合、薄膜コイルが連結部の周りに平面渦巻き状に巻かれている。
【0007】
この種のPMRとして、例えば図27に示す薄膜磁気ヘッド400や、図28に示す薄膜磁気ヘッド410があった。薄膜磁気ヘッド400は、ABS401と、ライトシールド層402との間に4本のターン部403a,403b,403c,403dを備えた薄膜コイル404を有している。薄膜磁気ヘッド410は、3本のターン部413a,413b,413cを備えた薄膜コイル414を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,504,675号明細書
【特許文献2】米国特許第4,656,546号明細書
【特許文献3】米国特許第4,672,493号明細書
【特許文献4】特開2004−94997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のPMRは薄膜コイルに電流を流し磁界を発生させて記録媒体にデータを記録する。薄膜磁気ヘッド400,410の場合であれば、薄膜コイル404,414に電流を流して記録媒体にデータを記録する。
【0010】
しかし、薄膜コイル404,414は電流を流すと発熱する。すると、例えば薄膜コイル404の場合は、各ターン部403a,403b,403c,403dの周囲にフォトレジスト層405が配置されているため、薄膜コイル404の発生した熱は周囲のフォトレジスト層405に伝わってしまう。フォトレジスト405層は有機物質で形成されているため、薄膜コイル404よりも熱膨張係数が大きい。そのため、フォトレジスト層405は熱が加わると膨張しやすい。フォトレジスト405層が膨張すると、ライトシールド層のABS401側の端部を押し出してしまい、その結果、下部シールド層406のABS401側の端部が突出してしまう。
【0011】
一方、薄膜コイル404,410の発生する磁界を強くするためには、ターン部の本数(ターン数)をできるだけ増やすほうが望ましい。しかし、主磁極層の媒体対向面401から、ライトシールド層402までの長さ(以下「ヨーク長」という)を同じままにして、ターン数を増やすには、薄膜コイル404の場合であれば各ターン部403a,403b,403c,403dの幅を狭くすることが考えられる。そうすると、各ターン部403a,403b,403c,403dを電流が流れ難くなり、各ターン部403a,403b,403c,403dの抵抗値が高くなるため、薄膜コイル404の発熱量が増えてしまう。
【0012】
一方、ヨーク長を長くすれば各ターン部403a,403b,403c,403dの幅を狭くしなくても済むようなるが、これでは、磁路長が長くなってしまう。磁路長は、主磁極層およびライトシールド層の薄膜コイルを挟む部分の長さで規定される。磁路長を短くすることによって、記録ヘッドの磁束立ち上がり時間(Flux Rise Time)、非線形トランジションシフト(Non−linear Transition Shift:NLTS)特性、重ね書き(Over Write特性等を改善できることが知られている。しかし、磁路長が長くなれば、これらの特性を改善することは困難となり、それゆえ、従来のPMRでは、周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが困難であった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、垂直磁気記録方式で磁気記録動作を行う薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法並びにヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置において、必要なターン数を確保しながらも磁路長を短縮でき、しかもライトシールド層の突出を抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、媒体対向面の側において主磁極層に対向するライトシールド層と、主磁極層とライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、ライトシールド層または主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有する薄膜磁気ヘッドであって、薄膜コイルは、媒体対向面から離れた位置に配置されているターン部を有する第1の導体層および第2の導体層を有し、第1の導体層の第1のターン部と、第2の導体層の第2のターン部とが媒体対向面に沿った上下方向に重なり、かつ媒体対向面に近い前側面から媒体対向面までの前側距離の等しい等距離二段構造を有する薄膜磁気ヘッドを特徴とする。
【0015】
この薄膜磁気ヘッドの場合、薄膜コイルが第1のターン部と第2のターン部との前側距離の等しい等距離二段構造を有するから、第1のターン部と第2のターン部の媒体対向面に近い前側面の位置が揃っている。
【0016】
また、上記薄膜磁気ヘッドは、第1のターン部と第2のターン部の、媒体対向面から離れた後側面から媒体対向面までの後側距離が等しいことが好ましい。
【0017】
この薄膜磁気ヘッドは、第1のターン部と第2のターン部の媒体対向面から離れた後側面の位置も揃っている。
【0018】
さらに、上記薄膜磁気ヘッドは、第1の導体層と、第2の導体層とは、第1のターン部の本数と第2のターン部の本数とが相違し、かつ本数の少ない方の厚さが本数の多い方よりも薄く形成されていることが好ましい。
【0019】
この薄膜磁気ヘッドの場合、第1のターン部と第2のターン部のうち、本数の少ない方は幅を広くとることができるから、厚さを薄くしても電流を流れを妨げないようになっている。
【0020】
そして、上記薄膜磁気ヘッドは媒体対向面からの距離が同じ位置に配置され、かつ主磁極層を挟んで対向している上部導体群と下部導体群とを有し、その上部導体群および下部導体群がそれぞれ第1の導体層および第2の導体層を有するようにすることもできる。
【0021】
この場合、上部導体群および下部導体群がいずれも等距離二段構造を有することになるから、上部導体群および下部導体群のいずれについても、第1のターン部と第2のターン部の媒体対向面に近い前側面の位置が揃うことになる。
【0022】
また、上記薄膜磁気ヘッドは第1の導体層と第2の導体層との間に配置され、厚さの一様な層間絶縁層を更に有することが好ましい。
【0023】
この層間絶縁層によって、第1の導体層と第2の導体層とを絶縁することができる。
【0024】
さらに、上記薄膜磁気ヘッドの場合、ライトシールド層は薄膜コイルよりも媒体対向面側に配置され、かつ媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の前側シールド部および第2の前側シールド部と、薄膜コイルよりも媒体対向面から離れた位置に配置され、かつ媒体対向面に沿った上下方向に重なって配置されている第1の後側シールド部および第2の後側シールド部とを有し、第1の導体層が第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に配置され、第2の導体層が第2の前側シールド部と第2の後側シールド部との間に配置されているようにすることができる。
【0025】
この場合、第1、第2の前側シールド部と、第1、第2の後側シールド部との間に第1、第2の導体層が配置されることとなる。
【0026】
また、第1の前側シールド部および第1の後側シールド部と、第1の導体層との間に配置されている第1の介在絶縁層と、第2の前側シールド部および第2の後側シールド部と、第2の導体層との間に配置されている第2の介在絶縁層とを更に有し、第1の介在絶縁層および第2の介在絶縁層の厚さが0.02μmから0.3μmに設定されているようにすることもできる。
【0027】
さらに、第1の導体層が第1のターン部を2つ有して第2の導体層が第2のターン部を1つ有し、かつ第2の導体層の厚さが第1の導体層の厚さよりも薄く形成されているようにすることもできる。
【0028】
さらにまた、第1のターン部と、第2のターン部とがともに2本ずつ形成されているようにすることもできる。
【0029】
第1の前側シールド部よりも媒体対向面側に配置されている第1の対向絶縁層と、第2の前側シールド部よりも媒体対向面側に配置されている第2の対向絶縁層とを更に有するようにすることもできる。また、薄膜磁気ヘッドは、第1の前側シールド部、第1の後側シールド部および第1の導体層の、それぞれの表面が同じ高さに形成され、かつ第2の前側シールド部、第2の後側シールド部および第2の導体層の、それぞれの表面が同じ高さに形成されていることが好ましい。
【0030】
そして、本発明は、記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、媒体対向面の側において主磁極層に対向するライトシールド層と、主磁極層とライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、ライトシールド層または主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有する薄膜磁気ヘッドの製造方法であって、以下の(1)および(2)に示す各工程を有する薄膜磁気ヘッドの製造方法を提供する。
(1)積層体の表面に薄膜コイルを構成する第1の導体層を形成した後、その第1の導体層上に層間絶縁層を形成する工程
(2)層間絶縁層上における第1の導体層と媒体対向面からの距離が同じ位置に薄膜コイルを構成する第2の導体層を形成する工程と
【0031】
この製造方法により、媒体対向面からの距離が同じ位置において重なった第1の導体層と第2の導体層を有する薄膜コイルを形成することができる。
【0032】
また、上記製造方法において、第1の導体層を形成する前に、ライトシールド層を構成する第1の前側シールド部および第1の後側シールド部を積層体の表面に形成する工程と、第1の前側シールド部および第1の後側シールド部を被覆するようにして介在絶縁層を形成する工程とを更に有し、積層体の表面における第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に第1の導体層を形成することもできる。
【0033】
こうすると、積層体の表面における第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に第1の導体層を形成し、その上に第2の導体層を形成することができる。
【0034】
さらに、上記製造方法において、積層体の表面における第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に第1の導体層を形成するときに、間隙部を1つだけ備えた間欠導体層を第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に形成することが好ましい。
【0035】
こうすると、ターン部を2本有する第1の導体層を確実に形成することができる。
【0036】
そして、積層体の表面における第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に間隙部を1つだけ備えた間欠導体層を形成する工程と、間欠導体層における間隙部に感光性樹脂層を形成した後、積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜を形成し、その後、第1の前側シールド部と第1の後側シールドが現われるまで積層体の表面を研磨することによって、第1の前側シールド部と第1の後側シールド部との間に第1の導体層を形成することもできる。
【0037】
さらに、第2の導体層を形成する前に、ライトシールド層を構成する第2の前側シールド部および第2の後側シールド部をそれぞれ積層体の表面における第1の前側シールド部および第1の後側シールド部と媒体対向面からの距離が同じ位置に形成する工程と、第2の前側シールド部および第2の後側シールド部を被覆するようにして介在絶縁層を形成する工程とを更に有し、積層体の表面における第2の前側シールド部と第2の後側シールド部との間に第2の導体層を形成することもできる。
【0038】
また、第2の前側シールド部と第2の後側シールド部との間に導体層を形成した後、積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜を形成し、その後、第2の前側シールド部と第2の後側シールド部が現われるまで積層体の表面を研磨することによって、第2の前側シールド部と第2の後側シールド部との間に第2の導体層を形成することもできる。
【0039】
そして、本発明は基台上に形成された薄膜磁気ヘッドと、基台を固定するジンバルとを備え、薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、媒体対向面の側において主磁極層に対向するライトシールド層と、主磁極層とライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、ライトシールド層または主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有し、薄膜コイルは、媒体対向面から離れた位置に配置されているターン部を有する第1の導体層および第2の導体層を有し、第1の導体層の第1のターン部と、第2の導体層の第2のターン部とが媒体対向面に沿った上下方向に重なり、かつ媒体対向面に近い前側面から媒体対向面までの前側距離の等しい等距離二段構造を有するヘッドジンバルアセンブリを提供する。
【0040】
さらに本発明は、薄膜磁気ヘッドを有するヘッドジンバルアセンブリと、薄膜磁気ヘッドに対向する記録媒体とを備え、薄膜磁気ヘッドは、記録媒体に対向する媒体対向面の側に磁極端面を有する主磁極層と、媒体対向面の側において主磁極層に対向するライトシールド層と、主磁極層とライトシールド層との間に形成されているギャップ層と、ライトシールド層または主磁極層の周りに巻回された薄膜コイルとが基板上に積層された構成を有し、薄膜コイルは、媒体対向面から離れた位置に配置されているターン部を有する第1の導体層および第2の導体層を有し、第1の導体層の第1のターン部と、第2の導体層の第2のターン部とが媒体対向面に沿った上下方向に重なり、かつ媒体対向面に近い前側面から媒体対向面までの前側距離の等しい等距離二段構造を有するハードディスク装置を提供する。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、垂直磁気記録方式で磁気記録動作を行う薄膜磁気ヘッドおよびその製造方法並びにヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置において、必要なターン数を確保しながらも磁路長を短縮でき、しかもライトシールド層の突出を抑制できるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1(a)は本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドのABSと交差する方向に沿った図1(b)のA−A線断面図、図1(b)は薄膜磁気ヘッドのABSを示す正面図である。
図2図2(a)は、下部薄膜コイルにおける第1の導体層と第1の後側シールド部を示す平面図、図2(b)は同じく第2の導体層と第2の後側シールド部とを示す平面図である。
図3図3(a)は下部薄膜コイルにおける第1の導体層の要部を示す平面図、図3(b)は、同じく第2の導体層の要部を示す平面図である。
図4図4(a)は、上部薄膜コイルにおける第2の導体層と第2の後側シールド部を示す平面図、図4(b)は、同じく第1の導体層と第1の後側シールド部とを示す平面図である。
図5図5(a)は第1の実施形態に係る薄膜磁気ヘッドの製造工程における図1(a)に対応した断面図、図5(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図6図6(a)は図5の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図6(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図7図7(a)は図6の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図7(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図8図8(a)は図7の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図8(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図9図9(a)は図8の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図9(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図10図10(a)は図9の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図10(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図11図11(a)は図10の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図11(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図12図12(a)は図11の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図12(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図13図13(a)は図12の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図13(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図14図14(a)は図13の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図14(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図15図15(a)は図14の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図15(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図16図16(a)は図15の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図16(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図17図17(a)は図16の後続の工程を示す図1(a)に対応した断面図、図17(b)は同じく図1(b)に対応した断面図である。
図18図18(a)は主磁極層のABS側部分の構造を示す斜視図、図18(b)は主磁極層と非磁性層を示す断面図である。
図19図19は2つの間隙部を備えた間欠導体層を形成したときにおける製造過程の要部を示す断面図である。
図20図20(a)はキャビティを示す平面図、図20(b)は同じく図20(a)のB−B線断面図である。
図21図21は本発明の第2の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドのABSと交差する方向に沿った図1(a)に対応した断面図である。
図22図22は本発明の第3の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドのABSと交差する方向に沿った図1(a)に対応した断面図である。
図23図23は本発明の第4の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドのABSと交差する方向に沿った図1(a)に対応した断面図である。
図24図24は本発明の第5の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドの主要な構成を示す斜視図である。
図25図25は本発明に関連する薄膜磁気ヘッドの下部薄膜コイルのターン部を示す断面図である。
図26図26は本発明の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッドを備えたハードディスク装置を示す斜視図である。
図27図27は従来の薄膜磁気ヘッドにおける薄膜コイルと、ライトシールド層とを示す平面図である。
図28図28は従来の別の薄膜磁気ヘッドにおける薄膜コイルと、ライトシールド層とを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
第1の実施の形態
(薄膜磁気ヘッドの構造)
【0044】
まず、図1(a)(b)〜図4(a)(b)を参照して本発明の第1の実施の形態に係る垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドの構造について説明する。ここで、図1(a)は、本発明の第1の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド300のエアベアリング面(以下「ABS」という)と交差する方向に沿った図1(b)のA−A線断面図、図1(b)は薄膜磁気ヘッド300のABS30を示す正面図である。また、図2(a)は、第1の導体層11と第1の後側シールド部44を示す平面図、図2(b)は、第2の導体層12と第2の後側シールド部45を示す平面図である。図3(a)は、第1の導体層11の要部を示す平面図、図3(b)は、第2の導体層12の要部を示す平面図である。図4(a)は、第2の導体層52と第2の後側シールド部66を示す平面図、図4(b)は、第1の導体層51と第1の後側シールド部65を示す平面図である。
【0045】
薄膜磁気ヘッド300は、基板1と、基板1に積層された再生ヘッドおよび記録ヘッドを有し、記録媒体に対向する媒体対向面としてのABS30を有している。なお、以下では、薄膜磁気ヘッド300の主要部の構造について説明し、主要部以外の部分の構造は後述する製造工程の中で説明する。
【0046】
再生ヘッドは、ABS30の近傍に配置された磁気的信号検出用のMR素子5を有している。また、再生ヘッドは、基板1上に形成されている絶縁層2と、磁性材料からなる下部シールド層3と、MR素子5をシールドしているシールドギャップ膜4とを有している。さらに、再生ヘッドは、シールドギャップ膜4の上に形成されている磁性材料からなる上部シールド層6と、上部シールド層6の上に形成されている絶縁層7とを有している。
【0047】
MR素子5は、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子などの磁気抵抗効果を示す感磁膜によって構成されている。
【0048】
記録ヘッドは、下部薄膜コイル10と、主磁極層26と、ギャップ層27と、下部シールド層40と、上部薄膜コイル50および上部シールド層60を有し、これらが基板1上に積層された構成を有している。
【0049】
また、記録ヘッドは、下部薄膜コイル10よりもABS30側に(ABS30に近い位置に)配置されている第1の下部対向絶縁層20と、第2の下部対向絶縁層23と、上部薄膜コイル50よりもABS30側に配置されている上部対向絶縁層37とを有している。
【0050】
さらに、記録ヘッドは下部層間絶縁層21、上部層間絶縁層35、第1の下部介在絶縁層19、第2の下部介在絶縁層22、第1の上部介在絶縁層34b、第2の上部介在絶縁層36とを有している。
【0051】
下部薄膜コイル10は、ABS30から離れた位置に配置されている第1の導体層11および第2の導体層12を有し、第1の導体層11および第2の導体層12によって下部導体群を構成している。第1の導体層11と、第2の導体層12とは、ABS30に沿って平行な方向(本実施の形態では、この方向を「上下方向」という)に配置されている。
【0052】
そして、下部薄膜コイル10は、第1の導体層11の上に下部層間絶縁層21を介して第2の導体層12が重なっている。また、下部薄膜コイル10は、第1の導体層11の前側距離と第2の導体層12の前側距離とが等しく、第1の導体層11の後側距離と第2の導体層12の後側距離も等しい等距離二段構造を有している。
【0053】
ここで、第1の導体層11の前側距離は後述するターン部11eのABS30に近い前側面11ef(図3(a)参照)からABS30までの距離である。また、第2の導体層12の前側距離はターン部12cのABS30に近い前側面12cf(図3(b)参照)からABS30までの距離である。第1の導体層11と第2の導体層12の前側距離は、いずれも図1に示すt1に第1の下部介在絶縁層19の厚さを加えた長さで約1.5μm程度である。
【0054】
第1の導体層11の後側距離は後述するターン部11cのABS30から離れた後側面11cr(図3(a)参照)からABS30までの距離である。また、第2の導体層12の後側距離はターン部12cのABS30から離れた後側面12cr(図2(a)参照)からABS30までの距離である。第1の導体層11と第2の導体層12の後側距離は、いずれも図1に示すt2から第1の下部介在絶縁層19の厚さを除いた長さで約3.7μm程度である。
【0055】
そして、図1に示すt1はABS30から第1の下部介在絶縁層19のターン部11e側部分までの距離で約1.4μm程度、t2はABS30から第1の下部介在絶縁層19のターン部11c側部分までの距離(ヨーク長)で約3.8μm程度である。
【0056】
さらに、第1の導体層11の厚さは1.1μm程度、第2の導体層12の厚さは0.7μm程度である。したがって、第2の導体層12は第1の導体層11よりも厚さが薄く形成されている。
【0057】
第1の導体層11は、図2(a)にも示すように後述する第1の前側シールド部41と、第1の後側シールド部44との間に配置されている2つのターン部11c,11eを有し、ターン部11c,11eがフォトレジスト層15を介して並んだ構造を有している。第1の導体層11は、第2の導体層12につながる接続部11aからターン部11cにつながるハーフループ部11bと、ターン部11cからターン部11eにつながるワンループ部11dと、ターン部11eからリード部13までのハーフループ部11fを有している。
【0058】
また、第1の導体層11は接続部11aからハーフループ部11fまでが一本につながることによって下部シールド層40の回りに平面渦巻き状に巻回され、全体で2ターンループを形成している。なお、図示の都合上、図1(a)では、第1の導体層11について、接続部11a、ターン部11c,11eのみが示されている。図3(a)、(b)では、絶縁層の図示を省略している。ターン部11c,11eは横幅よりも高さの高い縦長の構造を有している。
【0059】
さらに、第1の導体層11は、図3(a)に示すように、ワンループ部11dがABS30に接近するにしたがい漸次幅が狭まり、ABS30に最も近い箇所で最も幅が狭まる可変幅構造を有している。すなわち、図3(a)に示すようにして、ワンループ部11dの幅をWe1、We2、We0を定めたときにWe1>We2>We0となっている。そして、ワンループ部11dのうちの最も幅が狭まった部分がターン部11eとなっている。ハーフループ部11bもワンループ部11dと同様の可変幅構造を有し、最も幅が狭まった部分がターン部11cとなっている。ここで、ターン部11e、11cの幅は、それぞれWe0(約0.9μm)、Wc0(約0.9μm)である。また、ターン部11e、11c、フォトレジスト層15および第1の下部介在絶縁層19を合わせた部分の幅W11は約2.4μmであり、磁路長LMは約3.2μmである。ハーフループ部11fもワンループ部11dと同様の可変幅構造を有している。
【0060】
第2の導体層12は図2(b)にも示すように第2の前側シールド部42と、第2の後側シールド部45との間に配置されている1つのターン部12cを有している。第2の導体層12は、第1の導体層11につながる接続部12aからターン部12cにつながるハーフループ部12bと、ターン部12cから接続部12eにつながるハーフループ部12dとを有している。また、第2の導体層12は接続部12aからハーフループ部12dまでが一本につながることにより、下部シールド層40の回りに平面渦巻き状に巻回され、全体で1ターンループを形成している。ハーフループ部12dもワンループ部11dと同様の可変幅構造を有し、最も幅が狭まった部分がターン部12cとなっている。ターン部12cと、第2の下部介在絶縁層22を合わせた部分の幅W12は約2.4μmである。ターン部12cは高さよりも横幅が広い横長の構造を有している。
【0061】
そして、下部薄膜コイル10は第1の導体層11と第2の導体層12とが次のようにしてつながることによって、一連の3ターンループを形成している。すなわち、リード部13からハーフループ部11f、ターン部11e、ワンループ部11d、ターン部11c、ハーフループ部11bを通って接続部11aにつながり、その接続部11aが接続部12aにつながる。続いて接続部12aから、ハーフループ部12b、ターン部12c、ハーフループ部12dを通って接続部12eにつながることにより、3ターンループが形成されている。
【0062】
つまり、下部薄膜コイル10は第1の導体層11により2ターンループを形成した後、その真上に位置する第2の導体層12により1ターンループを形成することによって3ターンループを形成するという(2+1)ターン構造を有している。なお、本実施の形態において(A+B)ターン構造とは、ターン数が“A”の導体層の上にターン数が“B”の導体層が重なった構造を意味している。
【0063】
上部薄膜コイル50はABS30から離れた位置に配置されている第1の導体層51および第2の導体層52を有し、第1の導体層51および第2の導体層52によって上部導体群を構成している。第1の導体層51と、第2の導体層52とは、上下方向に配置されている。
【0064】
そして、上部薄膜コイル50は第1の導体層51の上に上部層間絶縁層35を介して第2の導体層52が重なっている。また、上部薄膜コイル50は、第1の導体層51の前側距離と第2の導体層52の前側距離とが等しく、第1の導体層51の後側距離と第2の導体層52の後側距離も等しい等距離二段構造を有している。また、第1、第2の導体層51、52の前側距離は、前述した第1の導体層11の前側距離と等しく、第1、第2の導体層51、52の後側距離は、第1の導体層11の後側距離と等しくなっている。
【0065】
さらに、第1の導体層51の厚さは0.7μm程度、第2の導体層52の厚さは1.1μm程度である。したがって、第1の導体層51は第2の導体層52よりも厚さが薄く形成されている。
【0066】
第1の導体層51は、図4(b)にも示すように後述する第1の前側シールド部62と、第1の後側シールド部65との間に配置されている1つのターン部51cを有している。第1の導体層51は、第2の導体層52につながる接続部51aからターン部51cにつながるハーフループ部51bと、ターン部51cから接続部51eにつながるハーフループ部51dとを有している。また、第1の導体層51は接続部51aからハーフループ部51dまでが一本につながることにより、上部シールド層60の回りに平面渦巻き状に巻回され、全体で1ターンループを形成している。ハーフループ部51bはワンループ部11dと同様の可変幅構造を有し、最も幅が狭まった部分がターン部51cとなっている。
【0067】
第2の導体層52は、図4(a)にも示すように後述する第2の前側シールド部63と、第2の後側シールド部66との間に配置されている2つのターン部52c,52eを有し、ターン部52c,52eがフォトレジスト層55を介して並んだ構造を有している。第2の導体層52は、第1の導体層51につながる接続部52aからターン部52cにつながるハーフループ部52bと、ターン部52cからターン部52eにつながるワンループ部52dと、ターン部52eから接続部52gにつながるハーフループ部52fと、外部につながる接続部52gとを有している。
【0068】
また、第2の導体層52は、接続部52aから接続部52gまでが一本につながることにより、上部シールド層60の回りに平面渦巻き状に巻回され、全体で2ターンループを形成している。なお、図示の都合上、図1(a)では、第1、第2の導体層51、52について、接続部51a,ターン部51cと、接続部52g、ターン部52c,52eのみが示されている。ハーフループ部52b、ワンループ部52d、ハーフループ部52fはいずれもワンループ部11dと同様の可変幅構造を有している。ワンループ部52bの最も幅が狭まった部分がターン部52c、ワンループ部52dの最も幅が狭まった部分がターン部52eとなっている。
【0069】
そして、上部薄膜コイル50は第1の導体層51と、第2の導体層52とが次のようにしてつながることによって、一連の3ターンループを形成している。すなわち、接続部51aから、ハーフループ部51b、ターン部51c、ハーフループ部51dを通って接続部51eにつながり、その接続部51eが接続部52aにつながる。続いて接続部52aから、ハーフループ部52b,ターン部52c,ワンループ部52d,ターン部52e,ハーフループ部52fを通って接続部52gにつながることにより、3ターンループが形成されている。
【0070】
つまり、上部薄膜コイル50は第1の導体層51により1ターンループを形成した後、その真上に位置する第2の導体層52により2ターンループを形成することによって、3ターンループを形成するという(1+2)ターン構造を有している。
【0071】
以上のような構成の下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル50とは一連のコイルを形成しており、電流が流れることによって記録媒体に記録するデータに応じた磁界を発生する。
【0072】
次に、主磁極層26は、図1(b)および図18(a)、(b)に示すように、ABS30側に磁極端面26aを有している。磁極端面26aは下部薄膜コイル10側よりも上部薄膜コイル50側の幅が広く、その幅が下部薄膜コイル10に近づくにつれて漸次狭まるベベル形状に形成されている。磁極端面26aの上部薄膜コイル50側の幅がトラック幅twを規定している。トラック幅twは例えば0.06〜0.12μm程度である。
【0073】
そして、主磁極層26は、磁極端面26aを有するトラック幅規定部と、トラック幅規定部よりもABS30から離れた位置に配置され、トラック幅規定部よりも、幅広の幅広部とを有している。トラック幅規定部はABS30からの距離に応じて変化しない一定の幅を有している。また、幅広部はトラック幅規定部との境界部分でトラック幅規定部と同じ大きさの幅を有するとともに、その幅がABS30から離れるにしたがい漸次広がった後、一定の大きさになっている。本実施の形態では、磁極端面26aから、幅が大きくなり始めるまでの部分をトラック幅規定部としている。
【0074】
また、主磁極層26は、トラック幅規定部に傾斜面26bと切欠部26cとが形成されている。傾斜面26bは、ABS30から離れるにしたがいABS30からの距離が漸次大きくなる上り傾斜状に形成されている。切欠部26cは主磁極層26の下面側(下部薄膜コイル10側)に形成されている。
【0075】
さらに、主磁極層26は、幅広部に上端面26dと段差部26eとが形成されている。上端面26dは、傾斜面26bよりも離れた位置にABS30と垂直な方向に沿って平坦に形成されている。段差部26eは、主磁極層26の下面側(下部薄膜コイル10側)に形成されている。
【0076】
主磁極層26には、後述する対向シールド部61と、上部ヨーク部67との間の上端面26d上に非磁性層31,32が積層されている。
【0077】
そして、主磁極層26は、下部薄膜コイル10と上部薄膜コイル50が発生した磁界に対応する磁束を通過させるとともに、垂直磁気記録方式によってデータを記録媒体に記録するための記録磁界を発生する。
【0078】
なお、前述のトラック幅規定部におけるABS30からの長さをネックハイトという。ネックハイトは例えば0.05〜0.3μm程度である。そして、主磁極層26の底面から傾斜面26bの下端部までの高さh1は0.13〜0.2μm程度、傾斜面26bの下端部から上端面26dまでの高さh2は0.05〜0.2μm程度である。
【0079】
また、後述する非磁性層31の下面におけるABS30に最も近い縁部分と、ABS30との距離がスロートハイトTHと等しい。スロートハイトTHは例えば0.08〜0.12μm程度である。
【0080】
ギャップ層27は、主磁極層26の傾斜面26bに沿って、対向シールド部61および絶縁層33と、主磁極層26および非磁性層31,32との間に形成されている。ギャップ層27は、アルミナ(Al)等の絶縁材料からなり、傾斜面26bと、非磁性層31,32とを被覆するようにして形成されている。
【0081】
下部シールド層40は、第1の前側シールド部41と、第2の前側シールド部42と、接続シールド部43と、第1の後側シールド部44と、第2の後側シールド部45とを有している。
【0082】
第1、第2の前側シールド部41、42はそれぞれ第1、第2の導体層11、12よりもABS30側に配置されている。また、第1の前側シールド部41の上に第2の前側シールド部42が重なり、第1、第2の前側シールド部41、42はABS30から離れた側の後側面からABS30までの距離の等しい二段構造を形成している。接続シールド部43は下部薄膜コイル10を跨ぐようにして形成され、第1の前側シールド部41と第1の後側シールド部44とを接続している。
【0083】
第1、第2の後側シールド部44、45はそれぞれ第1、第2の導体層11、12よりもABS30から離れた位置に配置されている。また、第1の後側シールド部44の上に第2の後側シールド部45が重なり、第1、第2の後側シールド部44、45は、ABS30に近い前側面からABS30までの距離の等しい二段構造を形成している。さらに、第1の前側シールド部41、第1の後側シールド部44および第1の導体層11のそれぞれの表面が同じ高さに形成され、第2の前側シールド部42、第2の後側シールド部45および第2の導体層12のそれぞれの表面が同じ高さに形成されている。
【0084】
上部シールド層60は対向シールド部61と、第1の前側シールド部62と、第2の前側シールド部63と、接続シールド部64と、第1の後側シールド部65と、第2の後側シールド部66と、上部ヨーク部67とを有している。
【0085】
対向シールド部61は、ABS30に臨む端面を有し、ギャップ層27を挟んで、ABS30側から順に主磁極層26、非磁性層31,非磁性層32に対向するようにして形成されている。また、対向シールド部61は上面が平坦になっていて、その上面に第1の前側シールド部62が接続されている。
【0086】
第1、第2の前側シールド部62、63はそれぞれ第1、第2の導体層51、52よりもABS30側に配置されている。また、第1の前側シールド部62の上に第2の前側シールド部63が重なり、第1、第2の前側シールド部62、63はABS30から離れた側の後側面からABS30までの距離の等しい二段構造を形成している。接続シールド部64は上部薄膜コイル50を跨ぐようにして形成され、第2の前側シールド部63と第2の後側シールド部66とを接続している。
【0087】
第1、第2の後側シールド部65、66はそれぞれ第1、第2の導体層51、52よりもABS30から離れた位置に配置されている。また、第1の後側シールド部65の上に第2の後側シールド部66が重なり、第1、第2の後側シールド部65、66はABS30に近い前側面からABS30までの距離の等しい二段構造を形成している。
【0088】
上部ヨーク部67は、第1の後側シールド部65からABS30側に、ターン部52eの分、回り込んで形成されている。上部ヨーク部67は主磁極層26の上端面26dの一部と、ギャップ層27、非磁性層31,32および絶縁層33に接触している。
【0089】
下部層間絶縁層21は、第1の前側シールド部41と、第1の後側シールド部44との間において、第1の導体層11と第2の導体層12との間に配置されている。下部層間絶縁層21は、第1の導体層11と、フォトレジスト層15の表面に直に接触し、全体にわたって一様な厚さを有している。
【0090】
上部層間絶縁層35は、第1の前側シールド部62と、第1の後側シールド部65との間において、第1の導体層51と第2の導体層52との間に配置されている。上部層間絶縁層35は、第1の導体層51の表面に直に接触し、全体にわたって一様な厚さを有している。第1の下部対向絶縁層20は第1の前側シールド部41よりもABS30側に配置されている。また、第2の下部対向絶縁層23は第2の前側シールド部42よりもABS30側に配置されている。
【0091】
以上のように、薄膜磁気ヘッド300は、下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル50を有している。下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル50とはそれぞれ(2+1)ターン構造、(1+2)ターン構造を有している。そのため、下部薄膜コイル10および上部薄膜コイル50は、1平面あたりのターン数は1本または2本と少ないながら全体で3本のターン数を確保できている。したがって、従来の薄膜磁気ヘッド400のように、各ターン部をABSから交差する方向の横並びに並べて3本のターン数を確保する場合に比べて、薄膜磁気ヘッド300はABS30からの奥行きを狭めて磁路長LMを短くすることができる。
【0092】
よって、薄膜磁気ヘッド300は記録ヘッドの磁束立ち上がり時間(Flux Rise Time)や、非線形トランジションシフト(Non−linear Transition Shift:NLTS)特性、重ね書き(Over Write)特性等を改善でき、周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが可能になる。そのため、薄膜磁気ヘッド300は、特にサーバに搭載されるハードディスク装置の記録ヘッドとして好適である。
【0093】
特に、下部薄膜コイル10と上部薄膜コイル50はともに前述した等距離二段構造を有している。この点、単に第1の導体層11の上に第2の導体層12を重ねただけの二段構造では、第1の導体層11または第2の導体層12の一部に上下に重ならない部分(非多重部分)が現われてしまう。例えば図25に示すように、第2の前側シールド部42Xと、第2の後側シールド部45Xとの間に第1の導体層11よりもABS30から離れたターン部12cが形成されると、ターン部12cに第1の導体層11と重ならない非多重部分12Xが形成されてしまう。そうすると、非多重部分12Xが存在することによって、下部薄膜コイル10のABS30からの奥行きが広くなってしまい、磁路長LMXが磁路長LMよりもWXだけ長くなってしまう。
【0094】
そこで、薄膜磁気ヘッド300では、前側距離と後側距離をともに等しくし、第1、第2の導体層11、12、第1、第2の導体層51、52の前側面と後側面の位置をともに揃えた等距離二段構造としている。こうすることにより、薄膜磁気ヘッド300は、非多重部分12Xが現われないようになるため、より一層磁路長LMを短くすることができ、記録ヘッドの磁束立ち上がり時間(Flux Rise Time)などをより一層改善できるようになっている。
【0095】
また、下部薄膜コイル10、上部薄膜コイル50がそれぞれ第1、第2の導体層11,12、第1、第2の導体層51,52による二段構造を有するため、磁路長が同じでもターン数を増やすことができる。そのため、下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル50は、各ターン部の幅を広くとることができる。そうすると、第1、第2の導体層11,12を電流が流れるときの電気抵抗が小さくなるため、第1、第2の導体層11,12の発熱量を抑制することができる。
【0096】
したがって、下部薄膜コイル10、上部薄膜コイル50に電流を流しても、下部薄膜コイル10、上部薄膜コイル50の発生する熱によってフォトレジスト層15、55が膨張し難くなる。そうすると、第1の前側シールド部41、63がABS30に向かって外側に押し出され難くなる。
【0097】
よって、薄膜磁気ヘッド300では、下部薄膜コイル10や上部薄膜コイル50の発熱に伴い下部シールド層40や、上部シールド層60が突出することを抑制することができる。そのため、薄膜磁気ヘッド300は記録ヘッドの突出に伴う破損のおそれが極めて少なくなるから、記録メディアに接近させることができる。
【0098】
そして、薄膜磁気ヘッド300は、図示しないスライダに組み込まれるが、そのスライダの記録媒体表面からの浮上量を縮小することができる。よって、薄膜磁気ヘッド300は、記録ヘッドおよび再生ヘッドの解像度(resolution)を高め、信号対雑音比を向上させることができる。また、薄膜磁気ヘッド300のような構成を備えることで、記録密度の高いPMRの歩留まりを高めることができる。
【0099】
特に、薄膜磁気ヘッド300の場合、下部薄膜コイル10では、第2の導体層12のターン数を第1の導体層11よりも少なくしたことに伴い、ターン数の少ない第2の導体層12のターン部12cの幅をターン部11cよりも広くとることができる。そうすると、ターン部12cの厚さを薄くしても電流の流れを妨げないようにでき、下部薄膜コイル10の発熱を少なくすることができる。また、上部薄膜コイル50では第1の導体層51のターン数を第2の導体層52よりも少なくしてターン部51cの幅を広くしているため、上部薄膜コイル50を流れる電流が流れやすくなっている。そのため、上部薄膜コイル50の発熱もより一層少なくなっている。さらに、ターン部51cが横長の構造を有し、横幅よりも高さが低くなっているので、第1、第2の前側シールド部62、63の全体の高さを低くすることができる。すると、図示しない記録媒体から磁束が上部シールド層60にリターンするので、実効的な磁路を短くすることができる。
【0100】
そして、下部薄膜コイル10、上部薄膜コイル50が上述のような可変幅構造を有しているから、電流の流れを妨げることが少なく、抵抗値の上昇を抑制することができる。したがって、薄膜磁気ヘッド300は、下部薄膜コイル10、上部薄膜コイル50の熱の発生を効果的に抑制することができる。下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル50とは、ターン数が等しくなっているが、下部薄膜コイル10よりも上部薄膜コイル50の方が薄膜磁気ヘッドの性能により強い影響を与え、下部薄膜コイル10はFar−Track−ATEを改善する効果がある。そのため、図示はしないが、上部薄膜コイル50のターン数を増やし、例えば4ターンすることが好ましい。なお、Far−Track−ATEとは、主磁極層26から2〜3トラック離れた位置で起きるATE(Adjacent Track Erase、記録されている磁気データを消去する現象)を意味している。
(薄膜磁気ヘッドの製造方法)
【0101】
次に、前述の図1(a)(b)とともに、図5(a)(b)〜図17(a)(b)を参照して、前述の構造を有する第1の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド300の製造方法について説明する。
【0102】
ここで、図5(a)〜図17(a)は、薄膜磁気ヘッド300の各製造工程における図1(a)に対応した断面図、図5(b)〜図17(b)は、同じく図1(b)に対応した断面図である。
【0103】
まず、アルミニウムオキサイド・チタニウムカーバイド(Al・TiC)等のセラミック材料からなる基板1を準備する。そして、図5(a)、(b)に示すように、その基板1の上に、アルミナ(Al)等の絶縁材料からなる絶縁層2と、磁性材料からなる下部シールド層3を順に形成する。次に、絶縁材料を用いて、MR素子5をシールドするようにシールドギャップ膜4を形成する。このとき、MR素子5に接続される図示しないリードを形成し、MR素子5およびリードをシールドギャップ膜4で覆う。それから、磁性材料を用いて、シールドギャップ膜4の上に上部シールド層6を形成する。
【0104】
次に、上部シールド層6の上にアルミナ(Al)等の絶縁材料を用いて、上部シールド層6と、後に形成される記録ヘッドとを分離するための絶縁層7を形成する。これまでの工程で記録ヘッドを形成するための積層体が得られる。その後、NiFeまたはCoNiFeを用いて接続シールド部43を形成するための磁性層(厚さは0.5μm程度)を形成して、積層体表面に絶縁層を形成し、CMPによって積層体表面の平坦化を行う。すると、下部対向絶縁層17と接続シールド部43が形成される。このとき、接続シールド部43はABS30から0.3μm〜1μm(本実施の形態では、0.6μm程度)離して形成する。
【0105】
続いて、積層体の表面全体にアルミナ(Al)の絶縁層18(膜厚は0.2μm〜0.3μm程度)を形成する。それから、積層体の表面全体にフォトレジストを塗布した上で、所定のフォトマスクを用いたパターニングを行い、レジストパターン(図示せず)を形成する。このレジストパターンをマスクに用いて例えばRIE等のエッチングを行い、絶縁層18を選択的に開口する。そして、フレームめっき法により、NiFeまたはCoNiFeを用いて第1の前側シールド部41,第1の後側シールド部44を厚さ2μm程度で形成する。
【0106】
次に、図6(a)、(b)に示すようにアルミナ(Al)からなる絶縁層19(膜厚は0.02μm〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm〜0.2μm程度)を第1の前側シールド部41、第1の後側シールド部44を被覆するようにして、積層体の表面全体にアトミックレイヤー法によるCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成する。絶縁層19は、後に第1の下部介在絶縁層19になる。それから、第1の前側シールド部41と第1の後側シールド部44との間にフレームめっき法によって導体層70を形成する。この導体層70は、後に第1の導体層11となるものである。導体層70は、第1の前側シールド部41と第1の後側シールド部44との間の部分に、中央に間隙部70aを備え、かつ第1の前側シールド部41と第1の後側シールド部44に絶縁層19を介して隙間なく接触するようにして形成する。導体層70は、中央に間隙部70aを1つ備えているから間欠導体層である。また、導体層70によって、後に第1の導体層11が絶縁層19を介してセルフアラインで形成される。
【0107】
その後、図7(a)、(b)に示すように、導体層70における間隙部70aにフォトレジスト層80(膜厚は2μm〜3μm程度)を形成し、アルミナ(Al)を用いて積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜20を3μm〜4μm程度の厚さで形成する。それから、第1の前側シールド部41と第1の後側シールド部44が現われるまで積層体の表面をCMPにより研摩して積層体表面の平坦化を行う。すると、図8(a)、(b)に示すように、第1の導体層11が形成される。このとき、第1の導体層11の厚さは1.2μm〜1.8μm程度とする。また、第1の前側シールド部41よりもABS30側に第1の下部対向絶縁層20も形成される。
【0108】
続いて、図9(a)、(b)に示すように、積層体の表面全体にアルミナ(Al)からなる絶縁層(膜厚は0.1μm〜0.15μm程度)を形成した後、絶縁層を選択的に開口する。この絶縁層は、後に下部層間絶縁層21となる。それから、NiFeまたはCoNiFeを用いて、フレームめっき法により、開口した部分に重ねて第2の前側シールド部42と第2の後側シールド部45とをともに厚さ0.7μm〜1.5μm程度で形成する。さらに、アルミナ(Al)からなる絶縁層22(膜厚は0.1μm〜0.15μm程度)を第2の前側シールド部42、第2の後側シールド部45を被覆するようにして、積層体の表面全体にアトミックレイヤー法によるCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成する。この絶縁層22は後に第2の下部介在絶縁層22となる。
【0109】
それから、図10(a)、(b)に示すように、積層体の表面における第1の導体層11とABS30からの距離が同じ位置に導体層71を形成する。この導体層71は後に第2の導体層12となる。さらに、アルミナ(Al)を用いて積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜23を2μm〜3μm程度の厚さで形成する。続いて、第2の前側シールド部42と第2の後側シールド部45が現われるまで積層体の表面をCMPにより研摩して積層体表面の平坦化を行う。すると図11(a)、(b)に示すように第2の導体層12が形成される。このとき、積層体の表面は、導体層71の高さが0.6〜1.2μm程度の厚さになるようにして研磨する。これまでの工程で等距離二段構造の下部薄膜コイル10が形成される。また、第2の前側シールド部42よりもABS30側に第2の下部対向絶縁層23も形成される。
【0110】
次に、図12(a)、(b)に示すように積層体の表面にアルミナ(Al)等の絶縁材料を用いて絶縁層を形成し、第2の後側シールド部45の表面等一部を開口して中間絶縁層24を形成する。それから、アルミナ(Al)等の絶縁材料を用いてベース絶縁層25を形成する。そして、積層体の表面にフォトレジストを塗布した上で、所定のフォトマスクを用いたパターニングを行い、積層体の表面を後述するキャビティ(cavity)90に対応した形状に露出させるレジストパターンを形成する。
【0111】
そして、そのレジストパターンをマスクにして反応性イオンエッチング(以下「RIE」という)を行い、積層体の表面のレジストパターンで被覆されない部分を除去する。すると、ベース絶縁層25にキャビティ90が形成される。キャビティ90は設定通りの寸法および形状で主磁極層26を形成するため、図20(a)、(b)に示すように、ベース絶縁層25の一部を主磁極層26の外形形状に対応する形状に窪ませて形成されている。
【0112】
それから、積層体の表面全体にCoNiFe、CoFe、NiFeなどの磁性材を用いて積層体の表面全体に0.5〜0.8μm程度の厚さでスパッタリングにより磁性層75を形成する。この磁性層75によって後に主磁極層26が形成される。そして、積層体の表面全体をCMPで研磨して、積層体表面の平坦化を行うと、主磁極層26が形成される。
【0113】
その後、スパッタリングにより積層体の表面全体に、Ru,NiCr,NiCu等の金属材料を用いて非磁性層72(厚さは約0.04〜1.2μm程度)を形成する。非磁性層72は後に一部がエッチングされることによって、前述の非磁性層31となる。さらに、積層体の表面全体に、アルミナ(Al)、シリコン酸化物等の無機絶縁材料を用いて非磁性層73(厚さは約0.1〜0.3μm程度)を形成する。非磁性層73は、後に一部がエッチングされることによって、前述の非磁性層32となる。
【0114】
続いて、積層体の表面全体にフォトレジストを塗布した上で、所定のフォトマスクを用いたパターニングを行い、ABS30の近傍にレジストパターン81を形成する。
【0115】
次に、レジストパターン81をマスクに用いて例えばRIE等のエッチングを行い、非磁性層73の一部を除去する。この場合のエッチングは、エッチングによって形成された溝の底部が非磁性層72の上面に到達した時点で停止するようにして行われる。そのため、非磁性層73には、非磁性層72と比べて非磁性層73をエッチングする際のエッチングレートの小さい材料を用いる。
【0116】
それからレジストパターン81を除去する。続いて、残された非磁性層73をマスクに用いて例えばIBEにより、非磁性層72の一部をエッチングして除去する。さらに、残された非磁性層72をマスクに用いて例えばIBEにより、磁性層75の一部をエッチングして除去する。この工程を経ることによって、磁性層75のABS側に傾斜面26bが形成される。
【0117】
続いて、積層体の表面全体にアルミナ(Al)等の絶縁材料や、Ru,NiCu、Ta等の非磁性導電材料を用いてスパッタ法またはCVDによってギャップ層27(厚さは約250Å〜350Å程度)を形成する。
【0118】
さらに、例えばスパッタ法により図示しないストッパ膜を形成し、その上に非磁性膜を形成する。その上で、積層体の表面全体に図示しないフォトレジストを塗布する。そして、所定のフォトマスクを用いたパターニングを行い、図示しないレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクに用いて、例えばRIE等のエッチングを行い、非磁性膜をエッチングする。このエッチングはエッチングによって形成された溝の底部がストッパ膜の上面に到達した時点で停止するようにして行われる。それから、図示しないレジストパターンを除去した後、残された非磁性膜をマスクに用いてRIE等のエッチングを行い、ギャップ層27、非磁性層72および非磁性層73の一部を除去する。ここで、ギャップ層27、非磁性層72および非磁性層73の一部を除去することによって、前述の上部ヨーク部67を形成するためのスペースを確保している。
【0119】
そして、積層体の表面全体にめっき法により、CoNiFe、CoFe、CoFeN,NiFeなどの磁性材を用いて、0.5〜1.0μm程度の厚さで磁性層を形成する。この磁性層は、後に対向シールド部61および上部ヨーク部67になる。続いて、積層体の表面全体にアルミナ(Al)等の絶縁材料を用いて絶縁層(厚さは1〜3μm程度)を形成する。さらに、積層体の表面全体をCMPにより研磨して積層体表面の平坦化を行う。そうすると、図13(a)、(b)に示すように、対向シールド部61、上部ヨーク部67および絶縁層33が形成される。このとき、対向シールド部61の厚さが0.3〜0.7μm程度になるようにして積層体の表面を研磨する。
【0120】
次に、図14(a)、(b)に示すように、積層体の表面全体にアルミナ(Al)の絶縁層34a(膜厚は0.1μm〜0.15μm程度)を形成した後、絶縁層34aを選択的に開口する。それから、NiFeまたはCoNiFeを用いて、開口した部分に、フレームめっき法によって第1の前側シールド部62と第1の後側シールド部65とをともに厚さ1.0μm〜1.5μm程度で形成する。さらに、アルミナ(Al)からなる絶縁層34b(膜厚は0.02μm〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm〜0.15μm程度)を積層体の表面全体にアトミックレイヤー法によるCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成する。絶縁層34bは後に第1の上部介在絶縁層34bとなる。
【0121】
それから、積層体の表面における第1の前側シールド部62と第1の後側シールド部65との間に導体層を形成する。この導体層は後に第1の導体層51となる。さらに、アルミナ(Al)を用いて積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜を2μm〜3μm程度の厚さで形成する。続いて、第1の前側シールド部62と第1の後側シールド部65が現われるまで積層体の表面をCMPにより研摩して積層体表面の平坦化を行う。すると、第1の導体層51が形成される。このとき、積層体の表面は、導体層の高さが0.7〜1.5μm程度の厚さになるようにして研磨する。
【0122】
次に、積層体の表面全体にアルミナ(Al)からなる絶縁層(膜厚は0.2μm〜0.3μm程度)を形成して、図15(a)、(b)に示すようにその絶縁層を選択的に開口する。この絶縁層は後に上部層間絶縁層35となる。そして、フレームめっき法により、NiFeまたはCoNiFeを用いて第2の前側シールド部63,第2の後側シールド部66を厚さ2μm程度で形成する。
【0123】
続いて、図16(a)、(b)に示すようにアルミナ(Al)からなる絶縁層36(膜厚は0.02μm〜0.3μm程度、好ましくは0.1μm〜0.2μm程度)を積層体の表面全体にアトミックレイヤー法によるCVD(Chemical Vapor Deposition)法で形成する。絶縁層36は、後に第2の上部介在絶縁層36となる。
【0124】
それから、第2の前側シールド部63と第2の後側シールド部66との間にフレームめっき法によって導体層76を形成する。この導体層76は、後に第2の導体層52となるものである。導体層76は、第2の前側シールド部63と第2の後側シールド部66との間の部分に、中央に間隙部76aを備え、かつ第2の前側シールド部63と第2の後側シールド部66に絶縁層36を介して隙間なく接触するようにして形成する。導体層76は、中央に間隙部76aを1つ備えているから間欠導体層である。
【0125】
その後、図17(a)、(b)に示すように、導体層76における間隙部76aにフォトレジスト層82(膜厚は2μm〜3μm程度)を形成し、アルミナ(Al)を用いて積層体の表面をカバーし得るカバー絶縁膜37を3μm〜4μm程度の厚さで形成する。それから、第2の前側シールド部63と第2の後側シールド部66が現われるまで積層体の表面をCMPにより研摩して積層体表面の平坦化を行う。すると、図1(a)、(b)に示すように、第2の導体層52が形成される。このとき第2の導体層52の厚さは1.2μm〜1.8μm程度とする。
【0126】
そして、積層体の表面全体にアルミナ(Al)等の絶縁材料を用いて絶縁層38を形成し、絶縁層38を部分的に開口する。さらに、絶縁層38を跨ぐようにして、フレームめっき法によって接続シールド部64を形成する。その後、アルミナ(Al)等の絶縁材料を用いて積層体の表面全体をカバーするにカバー絶縁層39を形成すると、薄膜磁気ヘッド300が完成する。
【0127】
以上のようにして製造された薄膜磁気ヘッド300は下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル50が等距離二段構造を有しているから、ターン数を多く確保しながら磁路長を短くできるようになっている。
【0128】
以上のように、薄膜磁気ヘッド300は、下部薄膜コイル10と上部薄膜コイル50とを有しているが、前述の製造工程では、下部薄膜コイル10の第1の導体層11と、上部薄膜コイル50の第2の導体層52を形成する際に、それぞれ中央に間隙部を1つだけ備えた間欠導体層70、76を形成している。
【0129】
仮に、前述した第1の導体層11を3ターンで形成するとする。この場合、図19に示すように、第1の前側シールド部41と、第1の後側シールド部44との間に2つの間隙部78a,78bを備えた間欠導体層77を形成する。間欠導体層77は、第1の下部介在絶縁層19を介して第1の前側シールド部41に接触する導体層77aと、第1の下部介在絶縁層19を介して第1の後側シールド部44に接触する導体層77cと、中央に配置された導体層77bとを有している。
【0130】
その後、間隙部78a,78bにフォトレジスト層84が形成され、その後、図示しないカバー絶縁膜を形成したのち、CMPによる積層体表面の平坦化が行われると、第1の導体層11が3ターンで形成される。
【0131】
しかしながら、この場合、フォトレジスト層84を除去するべく、積層体の表面を露光したときに、両側の導体層77a、77cから反射した光の影響が中央に配置された導体層77bに及んでしまい、導体層77bが崩れやすくなってしまう。
【0132】
そのため、第1の導体層11を複数ターンで形成するときは中央に間隙部70aを1つだけ備えた間欠導体層70を形成して2ターンにすることが好ましい。これにより、2ターンの第1の導体層11を確実に形成することができる。この点は第2の導体層52を複数ターンで形成する場合も同様である。
第2の実施の形態
【0133】
次に、図21を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドについて説明する。ここで、図21は、本発明の第2の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド310のABS30と交差する方向に沿った図1(a)に対応する断面図である。
【0134】
薄膜磁気ヘッド310は、薄膜磁気ヘッド300と同様に、基板1と、基板1に積層された再生ヘッドおよび記録ヘッドを有し、ABS30を有している。なお、薄膜磁気ヘッド310は薄膜磁気ヘッド300と一致する構成を有しているので、以下の説明では、薄膜磁気ヘッド310の薄膜磁気ヘッド300と相違する構成を中心に説明し、共通する構成の説明は省略ないし簡略化する。
【0135】
再生ヘッドは、薄膜磁気ヘッド300と同様に、基板1上に形成されている絶縁層2と、下部シールド層3と、シールドギャップ膜4と、MR素子5と、上部シールド層6および絶縁層7を有している。
【0136】
記録ヘッドは、下部薄膜コイル10と、主磁極層26と、ギャップ層27と、下部シールド層40と、上部薄膜コイル150および上部シールド層160を有し、これらが基板1上に積層された構成を有している。記録ヘッドは、第1の実施の形態に係る記録ヘッドと比較して、主に上部薄膜コイル150および上部シールド層160を有する点が相違している。
【0137】
上部薄膜コイル150は、上部薄膜コイル50と比較して第1の導体層51と第2の導体層52の上下の配置が逆になっている点で相違している。すなわち、上部薄膜コイル150は、上部薄膜コイル50と同様に、第1の導体層51および第2の導体層52を有するが、第2の導体層52の上に上部層間絶縁層35を介して第1の導体層51が重なった等距離二段構造を有している。すなわち、上部薄膜コイル150は第2の導体層52により2ターンループを形成した後、その真上に位置する第1の導体層51により1ターンループを形成することによって3ターンループを形成するという(2+1)ターン構造を有している。
【0138】
上部シールド層60は、対向シールド部61と、中間シールド部111,117と、第1の前側シールド部112と、第2の前側シールド部113と、接続シールド部64と、第1の後側シールド部115と、第2の後側シールド部116と、上部ヨーク部67とを有している。
【0139】
中間シールド部111は、第2、第1の導体層52、51よりもABS30側に配置されている。また、中間シールド部111は、ABS30に臨む端面を有し、上面に第1の前側シールド部112が接続されている。
【0140】
第1、第2の前側シールド部112、113はそれぞれ第2、第1の導体層52、51よりもABS30側に配置されている。また、第1の前側シールド部112の上に第2の前側シールド部113が重なり、第1、第2の前側シールド部112、113はABS30から離れた側の後側面からABS30までの距離の等しい二段構造を有している。
【0141】
第1、第2の後側シールド部115、116はそれぞれ第2、第1の導体層52、51よりもABS30から離れた位置に配置されている。また、第1の後側シールド部115の上に第2の後側シールド部116が重なり、第1、第2の後側シールド部115、116はABS30に近い前側面からABS30までの距離の等しい二段構造を有している。
【0142】
中間シールド部117は、第2、第1の導体層52,51よりもABS30から離れた位置に配置されている。また、中間シールド部117は、第1の後側シールド部115と、上部ヨーク部67との間に配置されている。
【0143】
さらに、薄膜磁気ヘッド310は、中間シールド部111,117の間に配置された絶縁層131と、絶縁層132と、第1の上部介在絶縁層133と、第1の上部対向絶縁層134と、第2の上部介在絶縁層136と、第2の上部対向絶縁層137と、絶縁層138と、絶縁層139を有している。
【0144】
以上のような薄膜磁気ヘッド310は、下部薄膜コイル10と、上部薄膜コイル150のいずれもが薄膜磁気ヘッド300と同様の等距離二段構造を有しており、1平面あたりのターン数は1本または2本と少ないながら全体で3本のターン数が確保されている。したがって、薄膜磁気ヘッド310は、薄膜磁気ヘッド300と同様に、ABS30からの奥行きを狭め、可能な限り磁路長を短くすることができる。よって、薄膜磁気ヘッド310は周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが可能であり、特にサーバに搭載されるハードディスク装置の記録ヘッドとして好適である。
【0145】
また、薄膜磁気ヘッド310は、下部薄膜コイル10や上部薄膜コイル150の発熱に伴う下部シールド層40や、上部シールド層160の突出を抑制できるため、記録メディアに接近させることもできる。
第3の実施の形態
【0146】
次に、図22を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドの構造について説明する。ここで、図22は、本発明の第3の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド320のABS30と交差する方向に沿った図1(a)に対応する断面図である。
【0147】
薄膜磁気ヘッド320は、薄膜磁気ヘッド310と同様に、基板1と、基板1に積層された再生ヘッドおよび記録ヘッドを有し、ABS30を有している。なお、薄膜磁気ヘッド320は前述した薄膜磁気ヘッド310と比較して、記録ヘッドの構成だけが相違している。以下の説明では、薄膜磁気ヘッド320の薄膜磁気ヘッド310と相違する構成を中心に説明し、共通する構成の説明は省略ないし簡略化する。
【0148】
記録ヘッドは下部薄膜コイル110と、主磁極層26と、ギャップ層27と、下部シールド層40と、上部薄膜コイル155および上部シールド層160を有し、これらが基板1上に積層された構成を有している。この記録ヘッドは、第2の実施の形態に係る記録ヘッドと比較して、主に下部薄膜コイル110と、上部薄膜コイル155を有する点が相違している。
【0149】
下部薄膜コイル110は、第1の導体層11および第2の導体層14を有し、第1の導体層11の上に下部層間絶縁層21を介して第2の導体層14が重なった等距離二段構造を有している。しかし、下部薄膜コイル110は下部薄膜コイル10と比較して、(2+2)ターン構造を有している点で相違している。
【0150】
第2の導体層14は、第2の導体層11と比較して、第2の前側シールド42と、第2の後側シールド45との間に配置されている2つのターン部14c、14eを有している点で相違している。また、第2の導体層14は、接続部14aを有し、2つのターン部14c、14eの間にフォトレジスト層15aを有している。そして、下部薄膜コイル110は第1の導体層11により2ターンループを形成した後、その真上に位置する第2の導体層14により2ターンループを形成することによって4ターンループを形成するという(2+2)ターン構造を有している。
【0151】
上部薄膜コイル155は、第2の導体層52および第3の導体層53を有し、第2の導体層52の上に上部層間絶縁層35を介して第3の導体層53が重なった等距離二段構造を有している。しかし、上部薄膜コイル155は上部薄膜コイル150と比較して、(2+2)ターン構造を有している点で相違している。
【0152】
第3の導体層53は、第2の前側シールド113と、第2の後側シールド116との間に配置されている2つのターン部53c、53eを有し、ターン部53c、53eの間にフォトレジスト層55aを有している。そして、上部薄膜コイル155は第2の導体層52により2ターンループを形成した後、その真上に位置する第3の導体層53により2ターンループを形成することによって4ターンループを形成するという(2+2)ターン構造を有している。
【0153】
以上のような薄膜磁気ヘッド320は、下部薄膜コイル110と、上部薄膜コイル155のいずれもが薄膜磁気ヘッド300と同様の等距離二段構造を有しており、1平面あたりのターン数は2本と少ないながら全体で4本のターン数が確保されている。したがって、薄膜磁気ヘッド320は、薄膜磁気ヘッド310と同様に、ABS30からの奥行きを狭め、可能な限り磁路長を短くすることができる。よって、薄膜磁気ヘッド320は周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが可能であり、特にサーバに搭載されるハードディスク装置の記録ヘッドとして好適である。
【0154】
また、薄膜磁気ヘッド320は、下部薄膜コイル110や上部薄膜コイル155の発熱に伴う下部シールド層40や、上部シールド層160の突出を抑制できるため、記録メディアに接近させることができる。
第4の実施の形態
【0155】
次に、図23を参照して、本発明の第4の実施の形態に係る垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドの構造について説明する。ここで、図23は、本発明の第4の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド330のABS30と交差する方向に沿った図1(a)に対応する断面図である。
【0156】
薄膜磁気ヘッド330は、薄膜磁気ヘッド320と同様に、基板1と、基板1に積層された再生ヘッドおよび記録ヘッドを有し、ABS30を有している。薄膜磁気ヘッド330は前述した薄膜磁気ヘッド320と比較して、記録ヘッドの構成だけが相違している。以下の説明では、薄膜磁気ヘッド330の薄膜磁気ヘッド320と相違する構成を中心に説明し、共通する構成の説明は省略ないし簡略化する。
【0157】
記録ヘッドは下部薄膜コイル115と、主磁極層126と、ギャップ層127と、下部シールド層40と、上部薄膜コイル156および上部シールド層170を有し、これらが基板1上に積層された構成を有している。この記録ヘッドは、第3の実施の形態に係る記録ヘッドと比較して、主に下部薄膜コイル115と、上部薄膜コイル156と、上部シールド層170を有する点が相違している。
【0158】
下部薄膜コイル115は、下部薄膜コイル110と同様に、第1の導体層11および第2の導体層14を有し、第1の導体層11の上に下部層間絶縁層21を介して第2の導体層14が重なった等距離二段構造を有している。しかし、下部薄膜コイル110は中央にフォトレジスト層15、15aを有するのに対し、下部薄膜コイル115は、ターン部11e,11cの両側およびターン部14e,14cの両側にフォトレジスト層16を有する点で下部薄膜コイル110と相違している。
【0159】
また、上部薄膜コイル156は上部薄膜コイル155と同様に、第2の導体層52および第3の導体層53を有し、第2の導体層52の上に上部層間絶縁層35を介して第3の導体層53が重なった等距離二段構造を有している。しかし、上部薄膜コイル156は、中央にフォトレジスト層55、55aを有するのに対し、上部薄膜コイル155は、ターン部52e,52cの両側およびターン部53e,53cの両側にフォトレジスト層56を有する点で下部薄膜コイル155と相違している。
【0160】
主磁極層126と、ギャップ層127は主磁極層26と、ギャップ層27と形状が相違している。主磁極層126は傾斜面および切欠部を有していない点で主磁極層26と相違している。
【0161】
上部シールド層170は、上部シールド層160と比較して、対向シールド部61と形状の異なる対向シールド部118を有する点で相違している。
【0162】
以上のような薄膜磁気ヘッド330は、下部薄膜コイル115と、上部薄膜コイル156のいずれもが薄膜磁気ヘッド320と同様の等距離二段構造を有しており、1平面あたりのターン数は2本と少ないながら全体で4本のターン数が確保されている。したがって、薄膜磁気ヘッド330は、薄膜磁気ヘッド320と同様に、ABS30からの奥行きを狭め、可能な限り磁路長を短くすることができる。よって、薄膜磁気ヘッド330は周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが可能であり、特にサーバに搭載されるハードディスク装置の記録ヘッドとして好適である。
【0163】
また、薄膜磁気ヘッド330は、下部薄膜コイル115や上部薄膜コイル156の発熱に伴う下部シールド層40や、上部シールド層170の突出を抑制できるため、記録メディアに接近させることもできる。
【0164】
特に、薄膜磁気ヘッド330の場合、下部薄膜コイル115と上部薄膜コイル156とが、ターン部の両側にそれぞれフォトレジスト層16、56を有している。フォトレジスト層16、56は、有機物質で形成されているため、下部薄膜コイル115や上部薄膜コイル156よりも膨張係数が大きい。そのため、フォトレジスト16,56は熱が加わると膨張しやすい。薄膜磁気ヘッド330は、薄膜磁気ヘッド320よりも多くのフォトレジスト層16、56を有するため、それだけ、薄膜磁気ヘッド320よりもフォトレジスト16,56の膨張によって下部シールド層40や、上部シールド層170の突出を引き起こしやすい。
【0165】
しかし、下部薄膜コイル115および上部薄膜コイル156は、磁路長を可能限り短くしておきつつも、ターン数を4本確保するとともに、各ターン部の幅を広くとることができるので、発熱量を抑制できる。そのため、薄膜磁気ヘッド330は、多くのフォトレジスト層16、56を有していても、下部シールド層40、上部シールド層170の突出を抑制できるようになっている。
第5の実施の形態
【0166】
次に、図24を参照して、本発明の第5の実施の形態に係る垂直磁気記録方式の薄膜磁気ヘッドの構造について説明する。ここで、図24は本発明の第5の実施の形態に係る薄膜磁気ヘッド340の主要な構成を示す斜視図である。なお、図24では、一部の絶縁層、フォトレジスト層の図示を省略している。
【0167】
薄膜磁気ヘッド340は、薄膜磁気ヘッド330と同様に、基板1と、基板1に積層された再生ヘッドおよび記録ヘッドを有し、ABS30を有している。薄膜磁気ヘッド340は前述した薄膜磁気ヘッド330と比較して、記録ヘッドの構成だけが相違している。以下の説明では、薄膜磁気ヘッド340の薄膜磁気ヘッド330と相違する構成を中心に説明し、共通する構成の説明は省略ないし簡略化する。
【0168】
記録ヘッドは、薄膜磁気ヘッド330の記録ヘッドと比較して、下部薄膜コイル225と、上部薄膜コイル255と、下部シールド層49および上部シールド層270を有する点で相違している。
【0169】
下部薄膜コイル225は、第1の導体層215および第2の導体層220を有し、第1の導体層215の上に下部層間絶縁層21を介して第2の導体層220が重なった等距離二段構造を有している。しかしながら、第1の導体層215および第2の導体層220は、それぞれ4本のターン部211,212,213,214およびターン部216,217,218,219を有し、主磁極層126の回りに螺旋状に巻回されている。
【0170】
上部薄膜コイル255は、第1の導体層245および第2の導体層250を有し、第1の導体層245の上に上部層間絶縁層35を介して第2の導体層250が重なった等距離二段構造を有している。しかしながら、第1の導体層245および第2の導体層250は、それぞれ4本のターン部241,242,243,244およびターン部246,247,248,249を有し、主磁極層126の回りに螺旋状に巻回されている。
【0171】
下部シールド層49は、下部シールド層40と比較して、対向シールド部46を有する点で相違している。対向シールド部46はギャップ層127を挟んで後述する対向シールド部260と対向している。
【0172】
上部シールド層270は対向シールド部260と、中間シールド部261と、第1、第2の前側シールド部262、263と、図示しない接続シールド部と、第1、第2の後側シールド部264,265とを有している。
【0173】
第1、第2の前側シールド部262、263はそれぞれ第1、第2の導体層245、250よりもABS30側に配置されている。また、第1の前側シールド部262の上に第2の前側シールド部263が重なり、第1、第2の前側シールド部262、263は二段構造を有している。
【0174】
第1、第2の後側シールド部264、265はそれぞれ第1、第2の導体層245、250よりもABS30から離れた位置に配置されている。また、第1の後側シールド部264の上に第2の後側シールド部265が重なり、第1、第2の後側シールド部264、265は二段構造を有している。中間シールド部261は、対向シールド部260と第1の前側シールド部262の間に配置されている。
【0175】
以上のような薄膜磁気ヘッド340は、下部薄膜コイル225と、上部薄膜コイル255のいずれもが薄膜磁気ヘッド300と同様に、等距離二段構造を有しているので、1平面あたりのターン数は4本でも全体で8本のターン数が確保されている。薄膜磁気ヘッド340はターン数は8本と多いながらABS30からの奥行きを狭め、可能な限り磁路長を短くすることができる。よって、薄膜磁気ヘッド340は周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが可能であり、特にサーバに搭載されるハードディスク装置の記録ヘッドとして好適である。
【0176】
なお、図示した薄膜磁気ヘッド340は、下部薄膜コイル225と、上部薄膜コイル255のいずれもが(4+4)ターン構造を有しているが、それぞれのターン数を変更してもよい。例えば、薄膜磁気ヘッド340は、(3+3)ターン構造、(3+4)ターン構造、(4+3)ターン構造にすることもできる。
(ヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置の実施の形態)
【0177】
次に、ヘッドジンバルアセンブリおよびハードディスク装置の実施の形態について説明する。
【0178】
図26は、上述の薄膜磁気ヘッド300を備えたハードディスク装置351を示す斜視図である。ハードディスク装置351は、高速回転するハードディスク(記録媒体)352と、ヘッドジンバルアセンブリ(HGA:Head Gimbals Assembly)360とを有している。ハードディスク装置351は、HGA360を作動させて、ハードディスク352の記録面に、磁気情報の記録および再生を行う装置である。ハードディスク352は、複数枚(図では3枚)のディスクを有している。各ディスクは、それぞれの記録面が薄膜磁気ヘッド300に対向している。HGA360は、薄膜磁気ヘッド300が形成された基台を有するヘッドスライダ361を搭載したジンバル362と、ジンバル362を支えるサスペンションアーム363とがディスクの各記録面に配置され、支軸364の回りに図示しない例えばボイスコイルモータによって回転可能になっている。そして、HGA360を回転させると、ヘッドスライダ361がハードディスク352の半径方向、すなわち、トラックラインを横切る方向に移動する。
【0179】
このようなHGA360およびハードディスク装置351は薄膜磁気ヘッド300を有しているから、周波数が高く変化の速い記録信号のすばやい変化に追従することが可能であり、特にサーバ用として好適である。また、ハードディスク352の表面からの浮上量を縮小し、ヘッドスライダ361をハードディスク352に近づけることができる。
【0180】
なお、上記の第1〜第4の実施形態では、ライトシールド層の周りに平面渦巻き状に巻回されているタイプ(タイプ1)の薄膜磁気ヘッドを例にとって説明している。本発明は、第5の実施形態のように、薄膜コイルが主磁極層の周りに巻回されているタイプ(タイプ2)の薄膜磁気ヘッドをついても適用がある。
【符号の説明】
【0181】
1…基板、2…絶縁層、3,6,40,60…シールド層、11,12,51,52…導体層、11c,11e,12c…ターン部、26…主磁極層、30…ABS、41〜45,61〜66…シールド部、300…薄膜磁気ヘッド、351…ハードディスク装置、352…ハードディスク、360…ヘッドジンバルアセンブリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
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