(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715757
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】大腿静脈保護機能を持つ安全ベルト
(51)【国際特許分類】
B60R 22/12 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
B60R22/12
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2009-544395(P2009-544395)
(86)(22)【出願日】2008年1月2日
(65)【公表番号】特表2010-514626(P2010-514626A)
(43)【公表日】2010年5月6日
(86)【国際出願番号】EP2008000002
(87)【国際公開番号】WO2008080997
(87)【国際公開日】20080710
【審査請求日】2010年12月24日
【審判番号】不服2013-14641(P2013-14641/J1)
【審判請求日】2013年7月31日
(31)【優先権主張番号】102007001017.8
(32)【優先日】2007年1月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509186258
【氏名又は名称】アインハウス,マルコ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】アインハウス,マルコ
【合議体】
【審判長】
丸山 英行
【審判官】
平田 信勝
【審判官】
氏原 康宏
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0045420(US,A1)
【文献】
特開2001−145672(JP,A)
【文献】
特開2006−103447(JP,A)
【文献】
米国特許第3757893(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の両足用として2本の懸垂脚部ベルトを有する人体保持用の安全ベルトであって、
前記懸垂脚部ベルトの少なくとも一方はパッドを備え、
前記パッドは、大腿静脈領域が少なくとも部分的に前記パッドによる圧迫を受けないように凹部を有し、
前記パッドの材料厚さは、大腿静脈領域において大腿静脈の方向に50mm〜150mmの長さに亘って前記凹部を形成するよう構成され、前記パッドの前記材料厚さは、大腿静脈から両側方向の少なくとも50mmの大腿静脈領域が少なくとも部分的に前記パッドによる圧迫を受けないように選択される、
安全ベルト。
【請求項2】
前記パッドは圧縮性素材を含む、請求項1に記載の安全ベルト。
【請求項3】
前記パッドは合成物質を含む、請求項1又は2に記載の安全ベルト。
【請求項4】
人体に当該安全ベルトが装着された場合でさえ、大腿静脈を通る血液の流れが維持されるように前記凹部が構成されている、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の安全ベルト。
【請求項5】
前記凹部の少なくとも一部にゲル材が満たされている、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の安全ベルト。
【請求項6】
医療分野での懸垂ベルトにも前記凹部の適用が可能である、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の安全ベルト。
【請求項7】
前記凹部がスカイダイビング用ベルト、クライミングスポーツ用ベルト、サイロ内運搬装置用ベルト、救助安全ベルトおよび/または宇宙技術活動用ベルトまたは宇宙防護服用ベルトに適用することができる、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の安全ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転落に対する人身保護装備、特に、懸垂性外傷の発生に到るまでの懸垂時間の延長を図る大腿静脈保護機能を持つ安全ベルトを含めた、保持機能および懸垂機能を持つすべてのベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
安全ベルトは、例えば米国公開特許出願第2005/0045420 A1号から公知である。前記の公知安全ベルトの場合、脚部ベルトにはそれぞれ、鼠径部領域での移動を可能にする
パッドが配置されている。
パッドは、鼠径部に作用する締め付けによる衝撃力に起因する損傷の危険を緩和するためのものである。前記の公知
パッドの場合では、鼠径部へのフィット性の改善のため中央に薄膜ヒンジが装備されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
安全ベルトは改良型のもの、特に鼠径部の血流にあまり影響を及ぼさないタイプのものが要望される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この要望は、独立請求項に記載された特徴を持つ安全ベルトによって実現されうる。それ以外の実施形態は従属請求項に記載されている。
本発明の一側面は、人間の両足用として2本の脚部ベルトを有する人体保持用の安全ベルトであって、脚部ベルトの少なくとも一方に、大腿静脈の少なくとも一部が自由空間に置かれるような配置で開口部が設けられている、安全ベルトである。
また、両脚部ベルトに前記開口部が設けられている安全ベルトである。
また、クッションが発泡物質を含む安全ベルトである。
また、前記クッションが合成物質を含む。
別の側面は、人体に当該安全ベルトが装着された場合でさえ、大腿静脈を通る血液の流れが維持されるように前記開口部が構成されている安全ベルトである。
また、前記開口部の少なくとも一部にゲル材が満たされている。
また、医療分野での懸垂ベルトにも前記開口部の適用が可能である。
別の側面は、前記開口部がスカイダイビング用ベルト、クライミングスポーツ用ベルト、サイロ内運搬装置用ベルト、救助安全ベルトおよび/または宇宙技術活動用ベルトまたは宇宙防護服用ベルトに適用することができる安全ベルトである。
また、別の側面は、直立位によるショックまたは懸垂性外傷の発生までの懸垂可能時間の延長のための使用方法である。
【0005】
本発明による安全ベルトにより、現状技術の安全ベルトが抱える下記問題は軽減されうる。市販の安全ベルトを装着して安全態勢に入った場合、従来の医学的知識によると約20分で直立位によるショック、いわゆる「懸垂性外傷」を蒙ることになる。
【0006】
本発明による安全ベルトは、例えば以下の領域、すなわち建設、組立作業、医療および医療技術、パラシュート、採掘、クライミングスポーツ、クライミング、サイロ内運搬装置、救助、救護(例えば、ロープ式救護車)または宇宙技術、宇宙防護服の領域で使用することができる。
【0007】
大腿静脈保護機能を持つ新タイプの当該安全ベルトにより、救助活動に対して非常に重要な懸垂時間を延ばすことができるということは明白である。
【0008】
新タイプの当該安全ベルトは、脚部ベルトの少なくとも一方に、大腿静脈の少なくとも一部が自由空間に置かれるような配置で開口部が設けられていることを特徴としている。
【0009】
安全ベルトの骨盤領域での位置決めは、鼠径部大腿静脈の血流に及ぼす外部からの影響が回避されるように、例えば各側にそれぞれ圧縮性素材から成る脚部ベルト用クッションを2つずつ利用して行う。クッションは同一材料または異なった材料から作製することができる。
【0010】
人間の解剖学上の構造によれば、中央鼠径部の大腿静脈は脚部周囲の大きさの如何により上前腸骨棘から約100〜200mm離れたところにある。したがって、人間工学面からの
パッド調整により、懸垂状態でもできる限り自由に心臓への血液環流が可能になるように、ベルト作用力を棘(腸骨棘)および隆起(坐骨結節)を通じて逸らさなければならない。そのためには、厚さ>30mmである脚部
パッドを大腿静脈領域では長さ約50〜150mmに亘って中断させる。脚部
パッドの厚さは30mmも可能であるが、好ましくは40mm、特に好ましくは35mmとする。当業者は素材、適用領域および脚部周囲の大きさの如何によって最適の厚さを選択する。すなわち、大腿静脈から両側方向に少なくとも50mmは圧迫を受けないことが確保されていなければならない。
【0011】
そのようにして達成された鼠径部の負担軽減により、静脈内血液環流の低下を極僅かに抑えることができ、それが懸垂時間の大幅な延長に寄与し、その結果救助前の時点における死亡率を低下させている。ここで紹介した製品/装置によれば、直立位によるショックの発生時期を大幅に遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による脚部ベルトのモデル実施例を示している。
【
図2】脚部ベルトおよび胸部ベルト付きの本発明による安全ベルトのさらに別のモデル実施例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明による脚部ベルトの実施例を図解したものである。特に
図1は、人間の身体を、その内部器官およびそれに属する静脈系と共に図解したもので、図中番号7、8、9、22、23、24、25、26、27、28、31、32、33および34は種々の器官、静脈および動脈を示している。図中番号9が大腿静脈を表わしている。
図1では縞模様の面1および2として描かれている人体用安全ベルトは、2本の人体脚部に対して2つの脚部ベルトを有している。しかし、脚部ベルトの少なくとも一方には、大腿静脈の少なくとも一部が自由空間に置かれるような配置で開口部が設けられている。これを具体的に示すために、
図1では右足については従来型安全ベルトの脚部ベルト1が描かれているが、それに対し左足には本発明の実施例による脚部ベルト2が装着されている。それより、右の脚部ベルト(従来様式)は大腿静脈9を圧迫していて、それに対し本発明による左の脚部ベルトは大腿静脈を圧迫していないのが見て取れる。
【0014】
図2は、脚部ベルトおよび胸部ベルト付きの本発明による安全ベルトのさらに別の実施例を図解したものである。
図1に描かれた実施例との原理的な違いは、本安全ベルトには胸部ベルト3が追加装備されているところである。
【0015】
図3は安全ベルトの写真であるが、それによると右脚部には2つの脚部
パッドによって形成された
凹部が認められる。これらの両脚部
パッド間には間隔があって、
凹部になっており、それが大腿静脈の圧迫を防止する役目をなすか、あるいは少なくとも圧迫の危険を抑制している。