特許第5715779号(P5715779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5715779アルミニウムろう付け用組成物の製造方法及びインナーフィンチューブのろう付け方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715779
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】アルミニウムろう付け用組成物の製造方法及びインナーフィンチューブのろう付け方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/40 20060101AFI20150423BHJP
   B23K 35/363 20060101ALI20150423BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20150423BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20150423BHJP
   F28F 1/40 20060101ALI20150423BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20150423BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20150423BHJP
【FI】
   B23K35/40 340Z
   B23K35/363 H
   B23K35/363 F
   B23K1/19 E
   B23K1/00 330L
   F28F1/40 J
   F28F1/40 N
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-163927(P2010-163927)
(22)【出願日】2010年7月21日
(65)【公開番号】特開2012-24788(P2012-24788A)
(43)【公開日】2012年2月9日
【審査請求日】2013年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】小椋 淳弘
(72)【発明者】
【氏名】太田 康夫
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 知明
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−224496(JP,A)
【文献】 特表2005−523163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/363
B23K 35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(メタ)アクリル樹脂バインダと、
(B)フッ化物系フラックスと、
(C)有機溶剤とを含有するアルミニウム又はアルミニウム合金のろう付け用組成物において、
上記ろう付け用組成物中の成分(A)の含有率が固形分換算で成分(A)と(B)の全量に対して1〜20重量%であり、
上記ろう付け用組成物をロールミルにより混練することを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物の製造方法。
【請求項2】
ロールミルによる混練において、ろう付け用組成物を0〜10MPaで加圧したロールミルのロール間に、原料投入側のロール回転速度が6〜100rpmである条件で通過させることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムろう付け用組成物の製造方法。
【請求項3】
(メタ)アクリル樹脂バインダが、酸価10〜90mgKOH/gのメタクリル酸エステル系重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウムろう付け用組成物の製造方法。
【請求項4】
有機溶剤が引火点60℃以上の水溶性アルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウムろう付け用組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で製造したアルミニウムろう付け用組成物をインナーフィンチューブに塗布して、ろう付けすることを特徴とするインナーフィンチューブのろう付け方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法で製造したインナーフィンチューブ用アルミニウムろう付け用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウムろう付け用組成物の製造方法、並びに当該方法で製造した組成物を用いたインナーフィンチューブのろう付け方法に関して、バインダ量を抑制してろう付け性を良好に確保しながら、ろう付け用組成物のアルミニウム材への密着強度を改善でき、特にインナーフィン型のチューブのろう付けに適するものを提供する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコンに用いられる熱交換器はアルミニウム又はアルミニウム合金製が主流である。これらのアルミニウム部材をろう付けするには、酸化皮膜を除去するためのフラックスと、均一に付着させるための有機バインダとを混合したペースト材をろう付け部に塗布した後、組み付け加工し、加熱下にて接合する作業を行っている。
上記カーエアコンにあっては熱交換効率の向上が常に要請されるため、部品の小型化、複雑化が進んでおり、例えば、コンデンサーのチューブにおいては、従来の押出材よりもアルミ量を低減したインナーフィン型が開発されている。
【0003】
このインナーフィン型のチューブは、図3Bに示すように、予めろう材をクラッドした平板材を連続コ字状に折り曲げた波板構造のインナーフィン部2に、ろう付け用組成物を塗布した平板状のチューブ部3を外方から巻き付けて、図3Aのようなインナーフィンチューブ1を製造している。インナーフィン部2及びチューブ部3は共にアルミニウム又はアルミニウム合金材からなり、波板状のインナーフィン部2で区画されたチューブ部1内の矩形通路4には冷媒を流通させるが、この通路4の断面積自体はきわめて微細なものである。
この点を詳述すると、図4Aはインナーフィン型のチューブを放熱フィンを介して横向きで上下に亘り多数並設したアルミニウム熱交換器の正面図、図4Bはその熱交換器の矢印aの部分から取り出したインナーフィンチューブの斜視図、図4Cはこのチューブの拡大縦断正面図であり、当該拡大図に見るように、上側に示したメジャーの目盛りから、インナーフィン部に形成された個々の矩形通路は1辺の幅が1mm程度の微細なものであることが分かる。
従って、このインナーフィンチューブに従来の外部ろう付け用組成物を用いて内部ろう付けを行うと、当該組成物中に含まれる有機物(有機バインダ)から発生する分解ガスがインナーフィン部の微細な通路4の内部に籠もり、接合部分が黒色化してろう付け不良を起こす恐れが大きい。
そこで、上記インナーフィンチューブのような微細な構造物の内部ろう付けを良好に遂行するためには、単純に黒色化不良が起こらないようにバインダ量を減らすことが考えられるが、バインダの減量はアルミニウム母材への密着性の低下を招き、フラックスが剥がれ落ちる原因ともなるため、やはりろう付け不良の問題は解消されない。
【0004】
このバインダ量の抑制とアルミニウム材への密着性を両立させるためには、バインダ量を増やさずに密着性を向上するか、或は、バインダ量を減らしても密着性を維持するかのいずれかが必要である。
例えば、本出願人は、先に、特許文献1でイソプロピルアルコールなどの水溶性で低沸点の特定種の有機溶剤を所定濃度で使用することにより、少ないバインダ比率でアルミニウム材への密着強度を保持できるアルミニウムろう付け用組成物を開示した。同じく、特許文献2では、バインダのガラス転移温度を従来より高めに設計することで、少ないバインダ量でも密着性を確保可能な同ろう付け用組成物を開示した。
【0005】
その一方、無機粉体であるフラックスをより均一にバインダ中に分散することで上記課題を解決するという方策がある。
一般に、ペースト状の各種組成物を混練し、均一に分散させるには、従来、様々な手法が知られている。
先ず、特許文献3には、フラックスとバインダではなく、フラックスとろう材の両粉末をサンドミルを用いて混合、分散することが開示されている(段落30参照)。
また、特許文献4は3本ロールなどのロールミルを用いて分散する方法であり、銅粉と有機バインダと添加剤と溶剤を必須成分とする導電性銅ペーストにおいて、組成物を加圧したロールミル間を通過させて混練することで、脂肪酸類、アルキル安息香酸類、アルキルスルホン酸類などの添加剤の使用量を抑制し、導電性の劣化を防止する導電性銅ペーストの製造方法が開示されている(請求項1、段落2〜4、7〜9参照)。
さらに、特許文献5には、非水溶系であるビニルブチラール樹脂を有機バインダに用いて、3本ロールミル、サンドミルなどの機器で分散して、アルミニウムろう付け用組成物を製造することが開示され(特許請求の範囲の第5項、第3頁右下欄参照)、特許文献6もビニルブチラール樹脂を用いる点などで同文献5に準じる(請求項1、段落10、30参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2009−142870号公報
【特許文献2】特開2009−208129号公報
【特許文献3】特開平11−239867号公報
【特許文献4】特開平5−135619号公報
【特許文献5】特開昭62−224496号公報
【特許文献6】特表2005−523163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルミニウムろう付け用組成物を特にインナーチューブを対象とする内部ろう付けに適用する場合に、バインダ量を抑制してろう付け性を確保しながら、アルミニウム材への密着性を改善することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記特許文献4の導電性ペーストはアルミニウムろう付け用組成物と比較して、最終的にかけられる熱量、主要成分の組成比、問題にされる不具合共に全く異なるものである。また、調製したろう付け用組成物にボールミル処理を適用しても少ないバインダ量では密着性はそれほど改善されない。さらに、上記特許文献5〜6に使用されるビニルブチラール樹脂は内部ろう付けに適用するとろう付け不良を起こし易いうえ、非水溶系であるために労働衛生や環境保全の見地から好ましくない。
【0009】
そこで、本発明者らは、有機バインダとして上記特許文献1〜2に開示した(メタ)アクリル樹脂を使用するとともに、分散手法の選択により少ないバインダ量でもアルミニウム材への密着性を改善することを鋭意研究した。
その結果、有機バインダ((メタ)アクリル樹脂)の含有量を所定量以下に抑制しても、上記特許文献4〜6に記載された分散機器の中からロールミルを選択することで、前記内部ろう付けの場合であっても、ろう付け性を確保しながら密着性を改善できること、特に、ロール間圧力を特定圧以下に調整し、且つ、原料投入側の回転速度を適正範囲に調整した条件で、ロールミルにろう付け用組成物を通過させて混練すると、フラックスをより均一に有機バインダ中に分散して、ろう付け用組成物をさらに安定に塗布できることを見い出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明1は、(A)(メタ)アクリル樹脂バインダと、
(B)フッ化物系フラックスと、
(C)有機溶剤とを含有するアルミニウム又はアルミニウム合金のろう付け用組成物において、
上記ろう付け用組成物中の成分(A)の含有率が固形分換算で成分(A)と(B)の全量に対して1〜20重量%であり、
上記ろう付け用組成物をロールミルにより混練することを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物の製造方法である。
【0011】
本発明2は、上記本発明1において、ロールミルによる混練において、ろう付け用組成物を0〜10MPaで加圧したロールミルのロール間に、原料投入側のロール回転速度が6〜100rpmである条件で通過させることを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物の製造方法である。
【0012】
本発明3は、上記本発明1又は2において、(メタ)アクリル樹脂バインダが、酸価10〜90mgKOH/gのメタクリル酸エステル系重合体であることを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物の製造方法である。
【0013】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、有機溶剤が引火点60℃以上の水溶性アルコールであることを特徴とするアルミニウムろう付け用組成物の製造方法である。
【0014】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかの方法で製造したアルミニウムろう付け用組成物をインナーフィンチューブに塗布して、ろう付けすることを特徴とするインナーフィンチューブのろう付け方法である。
【0015】
本発明6は、上記本発明1〜4のいずれかの方法で製造したインナーフィンチューブ用アルミニウムろう付け用組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、(メタ)アクリル樹脂バインダとフッ化物系フラックスを主成分とするアルミニウムろう付け用組成物にロールミルを適用して混練するため、バインダ量を抑制してもフラックスとの間で充分に混合・分散することができ、ろう付け阻害となるバインダ成分の分解ガスの発生を低減して、ろう付け性を良好に確保しながら、同時にアルミニウム材への密着性を改善することができる。
殊に、ロールミルでの処理条件であるロール間圧力と回転速度を特定化してアルミニウムろう付け用組成物を通過させると、所定量以下の有機バインダとフラックスとがより均一に分散するため、アルミニウム材への密着性とろう付け性をより良好に両立でき、一般のろう付けはもとより、特に、インナーフィンチューブを対象とする内部ろう付けに好適であり、小型化、複雑化が進む熱交換器のろう付けにも円滑に対応できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、第一に、(メタ)アクリル樹脂バインダと、フッ化物系フラックスと、有機溶剤とを含有するアルミニウムろう付け用組成物であって、(メタ)アクリル樹脂バインダの含有量を20重量%以下の所定範囲に抑制し、且つ、ロールミルにより混練する当該ろう付け用組成物の製造方法であり、第二に、第一の方法で製造したアルミニウムろう付け用組成物をインナーフィンチューブに塗布するろう付け方法であり、第三に、第一の方法で製造したインナーフィンチューブ用のアルミニウムろう付け用組成物である。
上記ロールミルでの混練に際しては、加圧したロールミルのロール間に、所定以下のロール間圧力と、所定範囲に制御された原料投入側のロール回転速度によって、ろう付け用組成物を通過させて混練すると(本発明2参照)、フラックスがより均一にバインダ中に分散され、少ないバインダ量でもアルミニウム材の密着性が促進されるため、インナーフィンチューブへのろう付けに好適である。また、ロールミルの適用においては、3本ロールミルが好適である。
本発明において、アルミニウム材は純アルミニウム及びアルミニウム合金の両方を包含する概念である。
【0018】
本発明1のアルミニウムろう付け用組成物は、
(A)(メタ)アクリル樹脂バインダと、
(B)フッ化物系フラックスと、
(C)有機溶剤とを含有する。
上記(メタ)アクリル樹脂(有機バインダ)は接合部に均一に付着させるための成分であり、分解ガスの発生を防止するため、その含有量は従来より抑制する必要がある。
従って、成分(A)と(B)の合計量に対する有機バインダ(A)の含有率は1〜20重量%であり、含有量を少量側に抑制する見地から、好ましくは1〜10重量%であり、より好ましくは1〜5重量%である。
有機バインダの含有率が適正範囲の下限より少ないと密着性が低下し、逆に、上限を越えると有機バインダからのガス発生や残渣リスクが増してろう付け不良を起こし、ろう付け後の外観も悪化する。但し、上述の通り、ロールミルの適用により、有機バインダは2重量%以下でも有効な密着性を発揮できる。
有機バインダの乾燥時の酸価は10〜90mgKOH/gが好ましく、10〜50mgKOH/gがより好ましい。酸価が適正範囲の上限を越えるとろう付け後の外観が悪化し、適正範囲の下限より低いと水への溶解性が低下し、有機溶剤の使用量が増して使用時に引火や爆発の危険性があり、また、衛生上、作業環境上も好ましくない。
【0019】
上述の通り、本発明の有機バインダには(メタ)アクリル樹脂を使用する。
ブチラール樹脂、ブチルゴム、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂なども有機バインダとして公知であるが、これらの樹脂は非水溶性であり、使用時に引火や爆発の危険性があり、労働衛生上、作業環境上に問題があるため、本発明では水溶性である(メタ)アクリル樹脂を使用する。(メタ)アクリル樹脂の中では、特に、酸価10〜90mgKOH/gのメタクリル酸エステル系重合体が好ましく(本発明3参照)、その水溶性ケン化物が好適である。
上記メタクリル酸エステル系重合体は、モノマー成分として基本的に、下記の一般式(1)で表されるメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも1成分以上を含むホモポリマーか共重合体であり、或は、このメタクリル酸アルキルエステルモノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有モノマーの1成分以上とを含む共重合体である。
CH2=C(CH3)COOR …(1)
(式(1)中、Rは炭素数1から12のアルキル基である。)
【0020】
また、上記メタクリル酸エステル系重合体は、上記モノマー成分に、さらに下記の一般式(2)、一般式(3)及び一般式(4)で表される水酸基含有モノマーのうちの少なくとも1成分以上を含む共重合体であっても良い。
CH2=C(CH3)COO(CH2)nOH …(2)
(式(2)中、nは2以上4以下の整数である。)
CH2=C(CH3)COO(C24O)nH …(3)
(式(3)中、nは2以上12以下の整数である。)
CH2=C(CH3)COO(C36O)nH …(4)
(式(4)中、nは2以上12以下の整数である。)
これらの水酸基含有モノマーを使用すると、アルミニウム材へのフラックスの付着性をさらに向上させることができる。
上記メタクリル酸エステル系重合体について、乾燥時の酸価は前述の通り、10〜90mgKOH/gが好ましく、ガラス転移温度は30℃〜180℃が好ましく、30℃〜100℃がより好ましい。
上記重合体の構成モノマーであるカルボキシル基含有モノマーの含有量が多くなり過ぎると、ろう付け時に炭化物が発生し易くなるため、乾燥時の酸価は90mgKOH/gを越えない方が良い。また、同酸価が10mgKOH/g未満になると、重合体をケン化した場合に水に対する溶解性が低下する。一方、ガラス転移温度が30℃を下回ると、重合体の粘着性が増し、塗料を塗布したアルミニウム材を積層した場合に、ブロッキングを起こす恐れがあり、ガラス転移温度が180℃を越えると、樹脂の重合時に粘度が高くなり製造に支障をきたす恐れがある。
【0021】
上記メタクリル酸エステル系重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の重合法により、ラジカル重合させることにより得られる。
特に、アルコールを溶剤とする溶液重合法により、種々の重合体を得ることが好ましい。
また、前述したように、上記メタクリル酸エステル系重合体は水溶液中でカチオン性を示す化合物によって鹸化して水溶性にするのが好ましい。
上記カチオン性を示す化合物としては、アンモニア、ジエチルアミン又はトリエチルアミンなどが挙げられるが、揮発性のアミノアルコール類が適する。
メタクリル酸エステル系重合体の水溶性ケン化物としたバインダ(A)の固形分濃度は1〜40重量%程度が好ましい。
【0022】
本発明1のアルミニウムろう付け用組成物に含まれるフッ化物系フラックス(B)は、酸化皮膜を除去するための成分であり、特に制限はなく、非反応性又は反応性フラックスを問わずに任意のものが使用できる。
例えば、フルオロアルミン酸カリウム、フッ化カリウム、フッ化アルミニウム、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、又はフルオロアルミン酸カリウム−セシウム錯体やフルオロアルミン酸セシウムなどの非反応性セシウム系フラックス、或は反応性の亜鉛置換フラックス(フルオロ亜鉛酸カリウムやフルオロ亜鉛酸セシウムなど)、若しくはこれらのフッ化物系フラックスを主成分とするものなどが挙げられるが、添加剤の併用を必要としない等の処理が簡便な点から、非反応性フラックスが好ましい。
フラックスの市販品としては、Solvay社製のNocolok Flux(フルオロアルミン酸カリウム)、Nocolok Cs Flux(セシウム系フラックス)などがある。
【0023】
本発明のアルミニウムろう付け用組成物には、塗料の表面張力を低下させて、アルミニウム材への塗料の濡れ性を向上させ、アルミニウム材による水のハジキ現象を抑制するために有機溶剤が添加される。
当該有機溶剤としては各種アルコール、エーテル、ケトンなどを単用又は併用できるが、乾燥性を適度に円滑化する見地から水溶性アルコールが好ましく、引火や爆発を防止する見地から、引火点60℃以上の水溶性アルコールが好適である(本発明4参照)。
水溶性アルコールとしては、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB)、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,3−ブタンジオール、3−メトキシ−1−ブタノールなどがある。これらのうち、引火点60℃以上の水溶性アルコールとしては、MMB、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1,3−ブタンジオール、3−メトキシ−1−ブタノールなどが挙げられ、中でも、アルミニウム材への濡れ性が良好であることからMMBが好ましい。
本発明のアルミニウムろう付け用組成物では、有機溶剤、特に水溶性アルコールと水を添加して、配合組成の粘度が100〜50000mPa・sとなるように調整する。
この場合、有機バインダとフラックスと有機溶剤と水の全体量(100重量部)に対する水の配合量は3〜30重量部が好ましく、3〜10重量部がより好ましい。配合量が適正範囲の上限を越えると乾燥時のバインダの酸価が低いため、水に対するカルボキシル基の当量が不足して一部不溶化する恐れがあることから、当該組成物の安定性が悪化し、また、適正範囲の下限より少ないと引火性や臭気の恐れが増して労働衛生上、作業安全上問題である。
【0024】
本発明は、主に内部ろう付けでの分解ガスの発生を低減する見地から、有機バインダの配合量を抑制してアルミニウムろう付け用組成物を製造するに際して、ロールミルの適用によりフラックスをバインダ中に、より均一に混合することに特徴がある。
上記組成物をロールミルに通して混練する際の処理条件は基本的に任意であるが、本発明2に示すように、ロール間圧力は0〜10MPaであることが好ましく、より好ましくは0.1〜6MPa、さらに好ましくは0.1〜3MPaである。ロール間圧力が適正範囲の上限を越えると、ロール間を通過させるのに時間がかかり、単位時間当たりの処理量が少なくなり、生産上大きな問題となる。尚、隣接するロール同士が接圧ゼロで接している状態が、ロール間圧力ゼロの場合である。
また、原料投入側のロール回転速度は6〜100rpmであることが好ましく、より好ましくは10〜50rpm、さらに好ましくは30〜50rpmである。当該回転速度が適正範囲の上限を越えると、ロール間を通過する時間が速すぎて、フラックスが充分に粉砕されず、密着性が低下する。また、適正範囲の下限より小さいと、ロール間を通過する時間が遅すぎて、バインダとフラックスが充分に分散されず、やはり密着性が低下し、生産性も低くなる。
ロールミルのパス回数は1〜10回程度が好ましく、より好ましくは1〜5回であり、適正回数を越えると単位時間当たりの処理量が少なくなり、生産性が低下するとともに、密着性への効果も乏しい。
分散機器としてのロールミルには、2本ロールミル、3本ロールミル、4本ロールミル等があるが、アルミニウムろう付け用組成物の加圧通過の回数は1回より2回が良いこと、投入側と搬出側の方向が一致することから、本発明では3本ロールミルの使用が好ましい。ロールの表面材質には、高アルミナ質セラミックス、チル鋳鉄、石材などが挙げられるが、高アルミナ質セラミックスが好ましい。
つまり、本発明の好適な製造方法としては、上記フラックスと有機バインダと有機溶剤と水の混合分散液を、ロール間圧力0〜10MPaに加圧した高アルミナ質セラミック製3本ロールミルに原料投入側のロール回転速度6〜100rpmで強制的に1〜10回通過させて混練することによる、アルミニウムろう付け用組成物の製造が挙げられる。これらの条件下で混練された組成物は、3本ロールミルによるフラックスの粉砕及びバインダとの分散効果により、バインダ量を追加添加することなく塗布乾燥後の密着性に優れた組成物となる。
【0025】
本発明のろう付け用組成物を用いてろう付けするには、アルミニウム材にろう付け用組成物を塗布してフラックスを供給し、上記アルミニウム材を所定構造に組み立て、ろう付け温度に加熱することを基本原理とする。
このうち、本発明5は、本発明の方法で製造したアルミニウムろう付け用組成物を微細断面構造のインナーフィンチューブに適用したものであり(図4C参照)、当該ろう付け用組成物をインナーフィンチューブに塗布して、当該チューブをろう付けする方法である。
具体的には、冒述したように、インナーフィンチューブは連続コ字状のインナーフィン部とチューブ部からなり(図3B参照)、例えば、予めろう材をクラッドして波板構造としたインナーフィン部に、本発明の方法で得られたろう付け用組成物を塗布したチューブ部を外方から巻き付けてインナーフィンチューブを組み立て、加熱によりろう付けする。但し、インナーフィン部の方にろう付け用組成物を塗布することもあり得る。
尚、図3図4では、連続コ字状に折り曲げた波板構造のインナーフィン部を示したが、インナーフィン部の波板部分は連続三角形状(三角波状、のこぎり波状)や連続半円状(正弦波状)などの任意の構造に形成できることはいうまでもない。
本発明のろう付け方法では、有機バインダの含有率が低いながらも、ロールミルの処理により、フラックスと有機バインダが均一に分散されたろう付け用組成物を付着するため、インナーフィンチューブに対する密着性に優れるとともに、分解ガスの発生が少なく、インナーフィンチューブのろう付け性にも優れる。
即ち、本発明の方法で製造したろう付け用組成物をインナーフィンチューブに選択使用することで、優れたろう付け性と密着性を共に実現できる。本発明6は、本発明1の方法により製造した、インナーフィンチューブ用に限定したアルミニウムろう付け用組成物である。
【0026】
本発明のろう付け用組成物の塗布方法に特に制限はなく、ロールコート法、浸漬法、スプレー法などを初め、任意の方法を適用することができる。
上記ロールコート方式を適用したろう付け方法にあっては、予め部材を任意の構造に組み立てる前段階で(つまり部材が板状或は平面状態の時に)、ろう付け用組成物をアルミニウム材の表面に対して必要な量で必要とされる部位に均一且つ効率よく供給することでろう付けできるため、このプレコート方式の採用によって生産性が高まるという利点がある。
上記組成物を用いたろう付け方法においては、アルミニウム材を所定構造に組み立てた後、窒素等の不活性ガス雰囲気下でろう付け温度まで加熱してろう付けを行うが、有機バインダにメタクリル酸エステル系重合体を使用すると、通常のろう付け温度(600℃程度)よりかなり低い温度で、当該重合体が短時間で解重合して揮発性の単量体となるため、ろう付け時にはバインダが消失し、ろう付けの箇所にバインダやその炭化物が残存することが少なく、安定したろう付けを行うことができる。
【実施例】
【0027】
以下、メタクリル酸エステル系共重合体(有機バインダ)の合成例、当該バインダを含有する本発明のアルミニウムろう付け用組成物の製造実施例、当該実施例で得られたろう付け用組成物についての密着性、生産性、外部並びに内部ろう付け性の各種評価試験例を述べる。下記の合成例、実施例などの「部」、「%」は、特記しない限り重量基準である。
尚、本発明は下記の合成例、実施例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0028】
《メタクリル酸エステル系共重合体の合成例》
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、201部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB)を仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が95℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル25部、メタクリル酸2部、メタクリル酸イソブチル60部、および過酸化ベンゾイル4部の混合溶液を約1時間かけて系内に滴下し、さらに3時間同温度に保って重合を完結させ、乾燥時の酸価が15mgKOH/gのメタクリル酸エステル系共重合体を得た。
その後、MMB56部で希釈し、固形分が25%の有機バインダ(アクリル樹脂溶液)とした。
【0029】
《アルミニウムろう付け用組成物の製造実施例》
下記の実施例1〜13のうち、実施例1〜5は3本ロールミルの処理条件を固定して、有機バインダとフラックスの配合比率を変化させた例、実施例6〜9は有機バインダとフラックスの配合比率、3本ロールミルのロール間圧力を固定して、3本ロールミルの原料投入側の回転速度を変化させた例、実施例10〜13は有機バインダとフラックスの配合比率、3本ロールミルの原料投入側の回転速度を固定して、3本ロールミルのロール間圧力を変化させた例である。
実施例10はロール間圧力を負荷しない例、実施例1〜9は同圧力が小さい例である。実施例13はロール間圧力が本発明2の好ましい範囲より大きい例、実施例12は本発明2の好ましいロール間圧力の上限値(10MPa)の例である。実施例6は本発明2の好ましいロール回転速度の下限値(6rpm)より遅い例、実施例9は同じく好ましい回転速度の上限値(100rpm)より速い例である。実施例5は有機バインダの配合比率が本発明1の上限値(20%)に近い例、実施例1は同バインダの配合比率が本発明1の下限値(1%)の例である。尚、実施例1〜13は3本ロールミルでの処理前のフラックス粒子径が7μmの例である。
【0030】
また、下記の比較例1〜10のうち、比較例1〜5、9はバインダとフラックスを混合した後、3本ロールミルによる処理を行わなかったブランク例であり、有機バインダとフラックスの組成について比較例1〜5は順次、実施例1〜5と同じように変化させた例であり(例えば、比較例1と実施例1は組成が同じ)、また、比較例9は実施例3(及び比較例3)と組成が同じ例である。比較例6はロールミルの処理条件を実施例1〜5と同じに設定して、有機バインダの含有率が本発明1の適正範囲の下限(1%)より少ない例、比較例7は逆に含有率が適正範囲の上限(20%)より多い例である。比較例8〜10は夫々有機バインダとフラックスの配合比率を実施例3と同様に設定したもので、比較例8は分散機器を3本ロールミルからボールミルに変更した例、比較例10は有機バインダの種類をポリビニルブチラール樹脂に変更した例である。比較例1〜8、10は3本ロールミルでの処理前のフラックス粒子径が7μmの例であり、比較例9は同粒子径が4μmと細かい例である。
尚、実施例1〜13の各アルミニウムろう付け用組成物におけるフラックス、バインダの組成、ロール間圧力、ロール回転速度を図1の上半部にまとめた。図2の上半部は、比較例1〜10の各アルミニウムろう付け用組成物における図1の相当図である。
また、図1図2において、「フラックス粒子径」はろう付け用組成物製造前の(3本ロールミル処理前)の粒子径、「分散フラックス粒子径」は同製造後の(ロールミル処理後)の粒子径である。粒子同士が凝集するため、ロールミル処理を行わない場合には、分散フラックス粒子径は製造前の粒子径より増大する傾向にあった。
【0031】
(1)実施例1
ジエタノールアミン0.04部と、水4部と、MMB35部と、フッ化物系フラックス(フルオロアルミン酸カリウムを主成分とするSolvay社製Nocolok Flux;平均粒子径は7μm)59部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を2.3部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して1部であった。
次いで、この混合物を高アルミナ質セラミック製3本ロールミル((株)ノリタケカンパニーリミテド製のNRS-120A)を用いて、ロール間に圧力を1.0MPaで加えながら、ロール回転速度43.5rpmの速さで1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0032】
(2)実施例2
ジエタノールアミン0.06部と、水4部と、MMB34部と、フッ化物系フラックス(主成分、製造会社及び商品名、平均粒子径は上記実施例1と同じ;以下の実施例3〜13、比較例1〜10も同様)59部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を3.2部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して1.3部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0033】
(3)実施例3
ジエタノールアミン0.2部と、水4部と、MMB27部と、フッ化物系フラックス57部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を12部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して5部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0034】
(4)実施例4
ジエタノールアミン0.4部と、水4部と、MMB18部と、フッ化物系フラックス54部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を24部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して10部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0035】
(5)実施例5
ジエタノールアミン0.7部と、水4部と、MMB7部、フッ化物系フラックス50部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を38部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して16部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0036】
(6)実施例6
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから5rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0037】
(7)実施例7
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから10rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0038】
(8)実施例8
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから100rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0039】
(9)実施例9
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから150rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0040】
(10)実施例10
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから0MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。但し、ロール間の間隔は0μmとした。
【0041】
(11)実施例11
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから6MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0042】
(12)実施例12
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから10MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0043】
(13)実施例13
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから15MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0044】
(14)比較例1
上記実施例1を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0045】
(15)比較例2
上記実施例2を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0046】
(16)比較例3
上記実施例3を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0047】
(17)比較例4
上記実施例4を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0048】
(18)比較例5
上記実施例5を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0049】
(19)比較例6
ジエタノールアミン0.004部と、水4部と、MMB36部と、フッ化物系フラックス60部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を0.2部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して0.1部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0050】
(20)比較例7
ジエタノールアミン1.0部と、水4部と、フッ化物系フラックス45部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの30%溶液)を50部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して25部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0051】
(21)比較例8
粉砕媒体を3本ロールミルから高アルミナ質セラミック製のボールミル(株式会社ニッカトー製、商品名SSA-995、直径3mm)に変更した。
即ち、上記実施例3を基本として、同じ組成物をこのボールミルに適用して、組成物とボールを1:1の重量比で混合した後、ホモディスパー(プライミクス社製、商品名TKホモディスパー)にて30分間撹拌処理を行ない、80メッシュの金網(目開き:0.18mm)にて濾過して、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0052】
(22)比較例9
上記実施例3を基本として、フラックスの平均粒子径を7μmから4μmに変更し、実施例3と同じ条件でろう付け用組成物を得るとともに、3本ロールミルによる処理を行わなかった。
【0053】
(23)比較例10
1−ブタノール40部と、フッ化物系フラックス57部に、バインダとしてビニルブチラール樹脂(電気化学株式会社製、商品名デンカブチラール2000L)を3部混合し、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0054】
《アルミニウムろう付け用組成物の性能評価試験例》
そこで、上記実施例1〜13並びに比較例1〜10で得られた各アルミニウムろう付け用組成物を下記の各種評価試験に供した。
(1)密着性
上記実施例1〜13並びに比較的1〜10で得られた各ろう付け用組成物をロールコータ(望月機工製作所社製)にて、塗布量が7±3g/m2となるようにアルミニウム部材(JIS-A3003合金)に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた後、JIS(K5600-5-4)に準拠した鉛筆硬度試験を実施して、密着性の優劣を下記の基準で評価した。
尚、鉛筆硬度はH→HB→Bの順番に軟らかくなり、Bに付記される番号は大きい方が軟らかい。
評価基準は次の通りである。
◎:B以上であった。
○:B未満で3B以上であった。
△:3B未満で6B以上であった。
×:6B未満であった。
【0055】
(2)生産性
上記実施例1〜13並びに比較的1〜10で得られた各ろう付け用組成物を高アルミナ質セラミック製3本ロールミル(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製、NRS-120A)を用いて、単位時間当たりの処理量を測定した。
即ち、所定量の各ろう付け用組成物を3本ロールミルに投入して1回パスする際に、投入直後からロール間を2度通過して、もはや粉砕物が排出されなくなるまでの時間(α)を測定して、上記組成物の投入量(β)をこの時間(α)で除して、次式(a)の通り単位時間当たりの処理量を算出し、
単位時間当たりの処理量=β/α(kg/時間) …(a)
生産性の優劣を下記の基準で評価した。
◎:300kg/時以上であった。
○:100kg/時以上で300kg/時未満であった。
△:50kg/時以上で100kg/時未満であった。
×:50kg/時未満であった。
【0056】
(3)ろう付け性
ろう付け性の評価は、本発明が特に好適な対象とするインナーフィンチューブの内部ろう付けについて行うとともに、通常のろう付け(外部ろう付け)についても行った。
〔外部ろう付け評価方法〕
先ず、次の要領で実施例及び比較例の各ろう付け用組成物をアルミニウム部材に塗布することにより、ろう付け評価用の試験片を作成した。
即ち、各ろう付け用組成物を塗布したアルミニウム部材を水平材(JIS-A3003合金、60mm×25mm×0.3mm)とするとともに、アルミニウム合金にケイ素−アルミニウム合金(ろう材)をクラッドしたブレージングシートよりなる垂直材(55mm×25mm×1.0mm)を前記水平材に逆T字型に組み付けて、ステンレスワイヤーで固定し、ろう付け評価用の試験片を作成した。
なお、アルミニウムろう付け用組成物の塗布方法については、ロールコータ(望月機工製作所社製)にて塗布量が7±3g/m2となるようにアルミニウム部材(JIS-A3003合金、60mm×25mm×0.3mm)に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた。
次いで、この試験片をろう付け炉(箱型電気炉、ノリタケTCF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて600℃で加熱してろう付け試験を行って、目視観察により下記の基準でろう付け性を評価した。
〔内部ろう付け評価方法〕
冒述の図3に示すように、インナーフィン型チューブ1は、箔肉(厚さ0.2mm〜0.1mm)アルミニウム製板材を折り曲げて加工したチューブ部3と、インナーフィン部2から成る。
このチューブ部3を成す板状部材にはろう材をクラッドしていないアルミニウム部材(ベア材)を用い、上記実施例及び比較例の各ろう付け用組成物は当該ベア材に折り曲げ加工前の段階で塗布した。また、インナーフィン部2を波板状に加工する前段階の板材には表面に予めろう材をクラッドしたクラッド材を用いた。
アルミニウムろう付け用組成物の塗布方法については、ロールコータ(望月機工製作所社製)にて塗布量が7±3g/m2となるようにチューブ部3に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた。
そして、塗布・乾燥したチューブ部3を折り曲げて、インナーフィン部2に外方から巻き付けるように組み付けて、ろう付け試験用の試験片を作成した(図3B参照)。
次いで、上記試験片をろう付け炉(箱型電気炉、ノリタケTCF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて600℃で加熱してろう付け試験を行って、目視観察により下記の基準でろう付け性を評価した。
◎:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が全く見られなかった。
○:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が試験片の一部にのみ見られた。
△:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が試験片全体に見られるが、ろう付けはできていた。
×:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が試験片全体に見られ、ろう付け不良を起こしていた。
【0057】
(4)フラックス平均粒子径の測定方法
フラックスの平均粒子径がろう付け性や密着性に与える影響を調べた。
フラックスの平均粒子径D50はレーザー光回折・散乱式粒度分布測定装置MT3000II(MICROTRAC社製)を用いて測定した。溶媒はイソプロピルアルコール(IPA;屈折率1.38)を使用して、試料濃度がDV値(レーザーの前方方向に配置された検出器にて捉えた、粒子の散乱光量積算値に関連する値で、測定濃度を決定するマイクロトラックでの目安)が0.01〜1.0の範囲となるように試料(フラックス)を添加し、超音波装置(出力40W)を用いて超音波を3分間照射し、流速80%(40cc/分)で循環させながら測定(測定条件:粒子透過性…反射)を行なった。
【0058】
《アルミニウムろう付け用組成物の総合評価》
図1図2の各下寄り欄はその試験結果である。
実施例及び比較例のうち、実施例1〜5と比較例1〜5については、その同じ番号を付した例(例えば、実施例1と比較例1)では、バインダ及びフラックスの組成、ロール間圧力及び回転速度の条件の全てが共通である。この場合、3本ロールミル処理を行わなかった比較例1〜3では、バインダ量が少ないために密着不良であったが、比較例4〜5はバインダ量が増したために密着性は△〜○であり、内部ろう付け性は△〜×であった。
これに対して、3本ロールミル処理をした実施例1〜2では、バインダ量は少なめであるため内部ろう付け性は◎であり、且つ、密着性も△に改善された。同じく、実施例3〜4では密着性及び内部ろう付け性ともに良好な評価であり、バインダ量が多めの実施例5では、密着性は良好であったが、内部ろう付け性は実施例4より後退した。
以上のことから、アルミニウムろう付け用組成物に3本ロールミル処理を施すと、フラックスが有機バインダ中により均一に分散して、少ないバインダ量でも内部ろう付け性を良好に確保しながら、密着性を改善できることが確認できた。
また、実施例4〜5と比較例4〜5を対比すると、3本ロールミル処理を施すために、実施例4〜5は比較例4〜5に対して密着性で顕著な優位性がある一方で、ろう付け性では密着性の評価ほど優位性は顕著でない。特に、実施例5ではバインダ量が多めのため、分解ガスによる影響を受け易く、優位性が現れにくい傾向にあった。
尚、比較例1〜5や比較例9では、3本ロールミル処理を行わないため、その分だけ生産時間は短縮されて、当然ながら生産性は良好であった。
【0059】
適正な3本ロールミル処理をしても、バインダ量が適正範囲より多過ぎる比較例7では、やはり内部ろう付け性が不良であり、逆に、バインダ量が少な過ぎる比較例6では密着不良であり、生産性も△であった。これにより、3本ロールミル処理に際しては、ろう付け用組成物中のバインダ量が適正範囲にあることの必要性が確認できた。
一方、比較例8は実施例3とバインダ及びフラックスの組成が共通であり、3本ロールミル処理に替えてボールミル処理を施したものであるが、フラックスの有機バインダへの分散性は3本ロールミル処理の場合より悪く、密着不良であった。また、比較例9は比較例3とバインダ及びフラックスの組成が共通(従って、実施例3とも共通)であり、3本ロールミル処理を行わずに、フラックス粒子径を比較例3より微細化したものであるが(7μm→4μm)、比較例3と同様に密着不良であった。
比較例10では有機バインダをメタクリル酸エステル系共重合体からポリビニルブチラール樹脂に変更し、それ以外の条件(フラックスとバインダの組成やロールミル処理の条件)は実施例3と共通するが、その実施例3の外部及び内部ろう付け性は共に◎であったのに対して、比較例10の内部ろう付け性は×、外部ろう付け性は△であった。
【0060】
以下、実施例1〜13の評価を詳述する。
先ず、実施例1〜5は3本ロールミルの処理条件を固定して、バインダ量の適正範囲内でフラックスとバインダの組成を変化させたものであり、前述したように、密着性や内部ろう付け性を含む総合評価は概ね良好であり、特に、実施例3は密着性、ろう付け性(内部と外部)、生産性の全てにおいて優れた評価であった。但し、実施例5はバインダ量が多めなので、内部ろう付け性が実施例4より後退した。
また、実施例6〜13はフラックスとバインダの組成を固定し、3本ロールミルの処理条件を変化させたものであり、実施例6〜9のようにロール回転速度のみを変化させても、実施例10〜13のようにロール間圧力のみを変化させても、密着性〜ろう付け性の総合評価は概ね良好であり、ロール間圧力が0である実施例10についても良好な評価であった。
但し、実施例6ではロール回転速度が本発明の好ましい範囲より小さいため、ロール間の通過時間が遅くなり、密着性と生産性が実施例3より後退した。逆に、実施例9ではロール回転速度が好ましい範囲より大きいため、ロール間の通過時間が速くなり、フラックスの粉砕が充分とはいえず、密着性が実施例3より後退した。
また、実施例13ではロール間圧力が本発明の好ましい範囲より大きいため、ロール間を通過するのに時間を要し、生産性が悪かった。しかしながら、ろう付け用組成物の商品評価の点では密着性やろう付け性が重要であり、生産性はこれらの試験項目より重要度が低いため、実施例13のろう付け用組成物は商品価値として特に問題はないものと思料される。
【0061】
次に、分散フラックスの粒子径について見ると、実施例1〜13ではすべて5μm以下であった。密着性はバインダ量の影響を大きく受けるため、密着性と分散フラックス粒子径との関係は単純には評価できないが、図1図2の結果を総合すると、分散フラックス粒子径は5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下であり、分散フラックス粒子径が大きくなると密着性が低下する傾向にあった。
しかしながら、その一方、ロールミル処理に替えてボールミル処理を行った比較例8や、ろう付け用組成物製造前のフラックスとして粒子径が小さい(4μm)ものを使用してロールミル処理を行っていない比較例9を見ると、分散フラックスの粒子径は実施例とほぼ等しい値となっているが、密着性が不良であった。このことから、単に分散フラックスの粒子径を小さくしただけでは密着性は向上せず、密着性を改善する点からすれば、分散フラックスの粒子径よりも、ロールミル、特に3本ロールミルによる処理が有効であることが明確に裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1図1は実施例1〜13のアルミニウムろう付け用組成物の組成、ロール間圧力、ロール回転速度、フラックス粒子径を示すとともに、密着性、生産性、外部及び内部ろう付け性の各種試験結果を併記した図表である。
図2図2は比較例1〜10を示す図1の相当図である。
図3図3Aはインナーフィン型チューブの縦断正面図、図3Bはインナーフィン部にチューブ部を巻き付けて構成されるインナーフィン型チューブの展開斜視図である。
図4図4Aはアルミニウム熱交換器の正面図、図4Bはその熱交換器から取り外したインナーフィン型チューブの斜視図、図4Cは同チューブの拡大縦断正面図である。
図1
図2
図3
図4