【実施例】
【0027】
以下、メタクリル酸エステル系共重合体(有機バインダ)の合成例、当該バインダを含有する本発明のアルミニウムろう付け用組成物の製造実施例、当該実施例で得られたろう付け用組成物についての密着性、生産性、外部並びに内部ろう付け性の各種評価試験例を述べる。下記の合成例、実施例などの「部」、「%」は、特記しない限り重量基準である。
尚、本発明は下記の合成例、実施例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0028】
《メタクリル酸エステル系共重合体の合成例》
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、201部の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール(MMB)を仕込んだ後、窒素気流下に系内温度が95℃となるまで昇温した。
次いで、メタクリル酸メチル25部、メタクリル酸2部、メタクリル酸イソブチル60部、および過酸化ベンゾイル4部の混合溶液を約1時間かけて系内に滴下し、さらに3時間同温度に保って重合を完結させ、乾燥時の酸価が15mgKOH/gのメタクリル酸エステル系共重合体を得た。
その後、MMB56部で希釈し、固形分が25%の有機バインダ(アクリル樹脂溶液)とした。
【0029】
《アルミニウムろう付け用組成物の製造実施例》
下記の実施例1〜13のうち、実施例1〜5は3本ロールミルの処理条件を固定して、有機バインダとフラックスの配合比率を変化させた例、実施例6〜9は有機バインダとフラックスの配合比率、3本ロールミルのロール間圧力を固定して、3本ロールミルの原料投入側の回転速度を変化させた例、実施例10〜13は有機バインダとフラックスの配合比率、3本ロールミルの原料投入側の回転速度を固定して、3本ロールミルのロール間圧力を変化させた例である。
実施例10はロール間圧力を負荷しない例、実施例1〜9は同圧力が小さい例である。実施例13はロール間圧力が本発明2の好ましい範囲より大きい例、実施例12は本発明2の好ましいロール間圧力の上限値(10MPa)の例である。実施例6は本発明2の好ましいロール回転速度の下限値(6rpm)より遅い例、実施例9は同じく好ましい回転速度の上限値(100rpm)より速い例である。実施例5は有機バインダの配合比率が本発明1の上限値(20%)に近い例、実施例1は同バインダの配合比率が本発明1の下限値(1%)の例である。尚、実施例1〜13は3本ロールミルでの処理前のフラックス粒子径が7μmの例である。
【0030】
また、下記の比較例1〜10のうち、比較例1〜5、9はバインダとフラックスを混合した後、3本ロールミルによる処理を行わなかったブランク例であり、有機バインダとフラックスの組成について比較例1〜5は順次、実施例1〜5と同じように変化させた例であり(例えば、比較例1と実施例1は組成が同じ)、また、比較例9は実施例3(及び比較例3)と組成が同じ例である。比較例6はロールミルの処理条件を実施例1〜5と同じに設定して、有機バインダの含有率が本発明1の適正範囲の下限(1%)より少ない例、比較例7は逆に含有率が適正範囲の上限(20%)より多い例である。比較例8〜10は夫々有機バインダとフラックスの配合比率を実施例3と同様に設定したもので、比較例8は分散機器を3本ロールミルからボールミルに変更した例、比較例10は有機バインダの種類をポリビニルブチラール樹脂に変更した例である。比較例1〜8、10は3本ロールミルでの処理前のフラックス粒子径が7μmの例であり、比較例9は同粒子径が4μmと細かい例である。
尚、実施例1〜13の各アルミニウムろう付け用組成物におけるフラックス、バインダの組成、ロール間圧力、ロール回転速度を
図1の上半部にまとめた。
図2の上半部は、比較例1〜10の各アルミニウムろう付け用組成物における
図1の相当図である。
また、
図1〜
図2において、「フラックス粒子径」はろう付け用組成物製造前の(3本ロールミル処理前)の粒子径、「分散フラックス粒子径」は同製造後の(ロールミル処理後)の粒子径である。粒子同士が凝集するため、ロールミル処理を行わない場合には、分散フラックス粒子径は製造前の粒子径より増大する傾向にあった。
【0031】
(1)実施例1
ジエタノールアミン0.04部と、水4部と、MMB35部と、フッ化物系フラックス(フルオロアルミン酸カリウムを主成分とするSolvay社製Nocolok Flux;平均粒子径は7μm)59部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を2.3部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して1部であった。
次いで、この混合物を高アルミナ質セラミック製3本ロールミル((株)ノリタケカンパニーリミテド製のNRS-120A)を用いて、ロール間に圧力を1.0MPaで加えながら、ロール回転速度43.5rpmの速さで1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0032】
(2)実施例2
ジエタノールアミン0.06部と、水4部と、MMB34部と、フッ化物系フラックス(主成分、製造会社及び商品名、平均粒子径は上記実施例1と同じ;以下の実施例3〜13、比較例1〜10も同様)59部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を3.2部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して1.3部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0033】
(3)実施例3
ジエタノールアミン0.2部と、水4部と、MMB27部と、フッ化物系フラックス57部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を12部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して5部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0034】
(4)実施例4
ジエタノールアミン0.4部と、水4部と、MMB18部と、フッ化物系フラックス54部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を24部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して10部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0035】
(5)実施例5
ジエタノールアミン0.7部と、水4部と、MMB7部、フッ化物系フラックス50部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を38部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して16部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0036】
(6)実施例6
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから5rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0037】
(7)実施例7
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから10rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0038】
(8)実施例8
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから100rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0039】
(9)実施例9
上記実施例3を基本として、ロール回転速度を43.5rpmから150rpmに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0040】
(10)実施例10
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから0MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。但し、ロール間の間隔は0μmとした。
【0041】
(11)実施例11
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから6MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0042】
(12)実施例12
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから10MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0043】
(13)実施例13
上記実施例3を基本として、ロール間圧力を1.0MPaから15MPaに変更した以外は、実施例3と同じ条件で3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0044】
(14)比較例1
上記実施例1を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0045】
(15)比較例2
上記実施例2を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0046】
(16)比較例3
上記実施例3を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0047】
(17)比較例4
上記実施例4を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0048】
(18)比較例5
上記実施例5を基本として、3本ロールミル処理を行わなかった。
【0049】
(19)比較例6
ジエタノールアミン0.004部と、水4部と、MMB36部と、フッ化物系フラックス60部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの25%溶液)を0.2部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して0.1部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0050】
(20)比較例7
ジエタノールアミン1.0部と、水4部と、フッ化物系フラックス45部に、バインダとしてアクリル樹脂溶液(MMBの30%溶液)を50部混合して、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。この場合、乾燥後のバインダ配合量は、バインダとフラックスの合計100部に対して25部であった。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0051】
(21)比較例8
粉砕媒体を3本ロールミルから高アルミナ質セラミック製のボールミル(株式会社ニッカトー製、商品名SSA-995、直径3mm)に変更した。
即ち、上記実施例3を基本として、同じ組成物をこのボールミルに適用して、組成物とボールを1:1の重量比で混合した後、ホモディスパー(プライミクス社製、商品名TKホモディスパー)にて30分間撹拌処理を行ない、80メッシュの金網(目開き:0.18mm)にて濾過して、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0052】
(22)比較例9
上記実施例3を基本として、フラックスの平均粒子径を7μmから4μmに変更し、実施例3と同じ条件でろう付け用組成物を得るとともに、3本ロールミルによる処理を行わなかった。
【0053】
(23)比較例10
1−ブタノール40部と、フッ化物系フラックス57部に、バインダとしてビニルブチラール樹脂(電気化学株式会社製、商品名デンカブチラール2000L)を3部混合し、固形分濃度60%のろう付け用組成物を得た。
次いで、ロール間圧力とロール回転速度を上記実施例1と同様に設定し、上記混合物を3本ロールミルに1回強制的に通過させて、アルミニウムろう付け用組成物を得た。
【0054】
《アルミニウムろう付け用組成物の性能評価試験例》
そこで、上記実施例1〜13並びに比較例1〜10で得られた各アルミニウムろう付け用組成物を下記の各種評価試験に供した。
(1)密着性
上記実施例1〜13並びに比較的1〜10で得られた各ろう付け用組成物をロールコータ(望月機工製作所社製)にて、塗布量が7±3g/m
2となるようにアルミニウム部材(JIS-A3003合金)に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた後、JIS(K5600-5-4)に準拠した鉛筆硬度試験を実施して、密着性の優劣を下記の基準で評価した。
尚、鉛筆硬度はH→HB→Bの順番に軟らかくなり、Bに付記される番号は大きい方が軟らかい。
評価基準は次の通りである。
◎:B以上であった。
○:B未満で3B以上であった。
△:3B未満で6B以上であった。
×:6B未満であった。
【0055】
(2)生産性
上記実施例1〜13並びに比較的1〜10で得られた各ろう付け用組成物を高アルミナ質セラミック製3本ロールミル(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製、NRS-120A)を用いて、単位時間当たりの処理量を測定した。
即ち、所定量の各ろう付け用組成物を3本ロールミルに投入して1回パスする際に、投入直後からロール間を2度通過して、もはや粉砕物が排出されなくなるまでの時間(α)を測定して、上記組成物の投入量(β)をこの時間(α)で除して、次式(a)の通り単位時間当たりの処理量を算出し、
単位時間当たりの処理量=β/α(kg/時間) …(a)
生産性の優劣を下記の基準で評価した。
◎:300kg/時以上であった。
○:100kg/時以上で300kg/時未満であった。
△:50kg/時以上で100kg/時未満であった。
×:50kg/時未満であった。
【0056】
(3)ろう付け性
ろう付け性の評価は、本発明が特に好適な対象とするインナーフィンチューブの内部ろう付けについて行うとともに、通常のろう付け(外部ろう付け)についても行った。
〔外部ろう付け評価方法〕
先ず、次の要領で実施例及び比較例の各ろう付け用組成物をアルミニウム部材に塗布することにより、ろう付け評価用の試験片を作成した。
即ち、各ろう付け用組成物を塗布したアルミニウム部材を水平材(JIS-A3003合金、60mm×25mm×0.3mm)とするとともに、アルミニウム合金にケイ素−アルミニウム合金(ろう材)をクラッドしたブレージングシートよりなる垂直材(55mm×25mm×1.0mm)を前記水平材に逆T字型に組み付けて、ステンレスワイヤーで固定し、ろう付け評価用の試験片を作成した。
なお、アルミニウムろう付け用組成物の塗布方法については、ロールコータ(望月機工製作所社製)にて塗布量が7±3g/m
2となるようにアルミニウム部材(JIS-A3003合金、60mm×25mm×0.3mm)に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた。
次いで、この試験片をろう付け炉(箱型電気炉、ノリタケTCF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて600℃で加熱してろう付け試験を行って、目視観察により下記の基準でろう付け性を評価した。
〔内部ろう付け評価方法〕
冒述の
図3に示すように、インナーフィン型チューブ1は、箔肉(厚さ0.2mm〜0.1mm)アルミニウム製板材を折り曲げて加工したチューブ部3と、インナーフィン部2から成る。
このチューブ部3を成す板状部材にはろう材をクラッドしていないアルミニウム部材(ベア材)を用い、上記実施例及び比較例の各ろう付け用組成物は当該ベア材に折り曲げ加工前の段階で塗布した。また、インナーフィン部2を波板状に加工する前段階の板材には表面に予めろう材をクラッドしたクラッド材を用いた。
アルミニウムろう付け用組成物の塗布方法については、ロールコータ(望月機工製作所社製)にて塗布量が7±3g/m
2となるようにチューブ部3に塗布し、ギアオーブン(TABAI ESPEC社製、PH-301)で180℃、90秒の条件で乾燥させた。
そして、塗布・乾燥したチューブ部3を折り曲げて、インナーフィン部2に外方から巻き付けるように組み付けて、ろう付け試験用の試験片を作成した(
図3B参照)。
次いで、上記試験片をろう付け炉(箱型電気炉、ノリタケTCF社製、A(V)-DC-M)を用いて、窒素ガス雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)にて600℃で加熱してろう付け試験を行って、目視観察により下記の基準でろう付け性を評価した。
◎:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が全く見られなかった。
○:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が試験片の一部にのみ見られた。
△:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が試験片全体に見られるが、ろう付けはできていた。
×:バインダ樹脂分解ガス由来の黒変が試験片全体に見られ、ろう付け不良を起こしていた。
【0057】
(4)フラックス平均粒子径の測定方法
フラックスの平均粒子径がろう付け性や密着性に与える影響を調べた。
フラックスの平均粒子径D50はレーザー光回折・散乱式粒度分布測定装置MT3000II(MICROTRAC社製)を用いて測定した。溶媒はイソプロピルアルコール(IPA;屈折率1.38)を使用して、試料濃度がDV値(レーザーの前方方向に配置された検出器にて捉えた、粒子の散乱光量積算値に関連する値で、測定濃度を決定するマイクロトラックでの目安)が0.01〜1.0の範囲となるように試料(フラックス)を添加し、超音波装置(出力40W)を用いて超音波を3分間照射し、流速80%(40cc/分)で循環させながら測定(測定条件:粒子透過性…反射)を行なった。
【0058】
《アルミニウムろう付け用組成物の総合評価》
図1〜
図2の各下寄り欄はその試験結果である。
実施例及び比較例のうち、実施例1〜5と比較例1〜5については、その同じ番号を付した例(例えば、実施例1と比較例1)では、バインダ及びフラックスの組成、ロール間圧力及び回転速度の条件の全てが共通である。この場合、3本ロールミル処理を行わなかった比較例1〜3では、バインダ量が少ないために密着不良であったが、比較例4〜5はバインダ量が増したために密着性は△〜○であり、内部ろう付け性は△〜×であった。
これに対して、3本ロールミル処理をした実施例1〜2では、バインダ量は少なめであるため内部ろう付け性は◎であり、且つ、密着性も△に改善された。同じく、実施例3〜4では密着性及び内部ろう付け性ともに良好な評価であり、バインダ量が多めの実施例5では、密着性は良好であったが、内部ろう付け性は実施例4より後退した。
以上のことから、アルミニウムろう付け用組成物に3本ロールミル処理を施すと、フラックスが有機バインダ中により均一に分散して、少ないバインダ量でも内部ろう付け性を良好に確保しながら、密着性を改善できることが確認できた。
また、実施例4〜5と比較例4〜5を対比すると、3本ロールミル処理を施すために、実施例4〜5は比較例4〜5に対して密着性で顕著な優位性がある一方で、ろう付け性では密着性の評価ほど優位性は顕著でない。特に、実施例5ではバインダ量が多めのため、分解ガスによる影響を受け易く、優位性が現れにくい傾向にあった。
尚、比較例1〜5や比較例9では、3本ロールミル処理を行わないため、その分だけ生産時間は短縮されて、当然ながら生産性は良好であった。
【0059】
適正な3本ロールミル処理をしても、バインダ量が適正範囲より多過ぎる比較例7では、やはり内部ろう付け性が不良であり、逆に、バインダ量が少な過ぎる比較例6では密着不良であり、生産性も△であった。これにより、3本ロールミル処理に際しては、ろう付け用組成物中のバインダ量が適正範囲にあることの必要性が確認できた。
一方、比較例8は実施例3とバインダ及びフラックスの組成が共通であり、3本ロールミル処理に替えてボールミル処理を施したものであるが、フラックスの有機バインダへの分散性は3本ロールミル処理の場合より悪く、密着不良であった。また、比較例9は比較例3とバインダ及びフラックスの組成が共通(従って、実施例3とも共通)であり、3本ロールミル処理を行わずに、フラックス粒子径を比較例3より微細化したものであるが(7μm→4μm)、比較例3と同様に密着不良であった。
比較例10では有機バインダをメタクリル酸エステル系共重合体からポリビニルブチラール樹脂に変更し、それ以外の条件(フラックスとバインダの組成やロールミル処理の条件)は実施例3と共通するが、その実施例3の外部及び内部ろう付け性は共に◎であったのに対して、比較例10の内部ろう付け性は×、外部ろう付け性は△であった。
【0060】
以下、実施例1〜13の評価を詳述する。
先ず、実施例1〜5は3本ロールミルの処理条件を固定して、バインダ量の適正範囲内でフラックスとバインダの組成を変化させたものであり、前述したように、密着性や内部ろう付け性を含む総合評価は概ね良好であり、特に、実施例3は密着性、ろう付け性(内部と外部)、生産性の全てにおいて優れた評価であった。但し、実施例5はバインダ量が多めなので、内部ろう付け性が実施例4より後退した。
また、実施例6〜13はフラックスとバインダの組成を固定し、3本ロールミルの処理条件を変化させたものであり、実施例6〜9のようにロール回転速度のみを変化させても、実施例10〜13のようにロール間圧力のみを変化させても、密着性〜ろう付け性の総合評価は概ね良好であり、ロール間圧力が0である実施例10についても良好な評価であった。
但し、実施例6ではロール回転速度が本発明の好ましい範囲より小さいため、ロール間の通過時間が遅くなり、密着性と生産性が実施例3より後退した。逆に、実施例9ではロール回転速度が好ましい範囲より大きいため、ロール間の通過時間が速くなり、フラックスの粉砕が充分とはいえず、密着性が実施例3より後退した。
また、実施例13ではロール間圧力が本発明の好ましい範囲より大きいため、ロール間を通過するのに時間を要し、生産性が悪かった。しかしながら、ろう付け用組成物の商品評価の点では密着性やろう付け性が重要であり、生産性はこれらの試験項目より重要度が低いため、実施例13のろう付け用組成物は商品価値として特に問題はないものと思料される。
【0061】
次に、分散フラックスの粒子径について見ると、実施例1〜13ではすべて5μm以下であった。密着性はバインダ量の影響を大きく受けるため、密着性と分散フラックス粒子径との関係は単純には評価できないが、
図1〜
図2の結果を総合すると、分散フラックス粒子径は5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下であり、分散フラックス粒子径が大きくなると密着性が低下する傾向にあった。
しかしながら、その一方、ロールミル処理に替えてボールミル処理を行った比較例8や、ろう付け用組成物製造前のフラックスとして粒子径が小さい(4μm)ものを使用してロールミル処理を行っていない比較例9を見ると、分散フラックスの粒子径は実施例とほぼ等しい値となっているが、密着性が不良であった。このことから、単に分散フラックスの粒子径を小さくしただけでは密着性は向上せず、密着性を改善する点からすれば、分散フラックスの粒子径よりも、ロールミル、特に3本ロールミルによる処理が有効であることが明確に裏付けられた。