(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記使用済ターゲットを粉砕した後、酸性溶液に溶解及び析出させ、回収した後に前記再生ターゲット原料として使用する、請求項1又は2に記載の再生ターゲットの製造方法。
基材の上方に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られる再生ターゲットを用いてレーザ蒸着法により酸化物超電導層を形成し、さらに安定化層を形成することを特徴とする超電導線材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において「ターゲット」とは、超電導体の粉末を成形して焼結させた焼結体を意味する。本発明におけるターゲットの形状は特に限定されるものではないが、板状であることが好ましい。
【0013】
[再生ターゲットの製造方法]
本発明の第一の態様の再生ターゲットの製造方法は、
(1)レーザ蒸着法による希土類元素、バリウム、銅及び酸素を含む酸化物超電導層の製造に用いられた使用済ターゲットを粉砕して、再生ターゲット原料とする工程と、
(2)前記使用済ターゲットの粉砕物の組成を分析し、前記使用済ターゲット粉砕物中の元素組成比が所望の元素組成比と異なっている場合は、前記使用済ターゲットと異なる元素組成比を有する第二の使用済ターゲットの粉砕物、又は、未使用のターゲット材料を、さらに前記再生ターゲット原料に加える工程と、
(3)前記再生ターゲット原料を成型した後焼成して、再生ターゲットを得る工程と、を有する。
本発明により製造される再生ターゲットは、レーザ蒸着法による希土類元素、バリウム、銅及び酸素を含む酸化物超電導層の製造に用いられるものであることが好ましい。
本明細書内では、上記各工程を「工程(1)」〜「工程(3)」ということがある。以下、工程ごとに説明する。
【0014】
(工程(1))
工程(1)では、レーザ蒸着法による希土類元素、バリウム、銅及び酸素を含む酸化物超電導層の製造に用いられた使用済ターゲットを粉砕して、該粉砕物を再生ターゲット原料とする。
【0015】
・使用済ターゲット
本発明において、使用済ターゲットとは、レーザ蒸着法による希土類元素、バリウム、銅及び酸素を含む酸化物超電導層の製造に用いられたものである。
レーザ蒸着法による酸化物超電導層の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば
図1に示す要部を有するレーザ蒸着装置を用いて行うことができる。
【0016】
レーザ蒸着装置の一例である
図1のレーザ蒸着装置は、真空ポンプなどの減圧装置に接続された減圧容器を備え、その内部に設置されたターゲット20に対して、減圧容器外部に設置されているレーザビームの照射装置からレーザビームBを照射できるように構成されている。また、減圧容器の内部に、供給リール21と巻取リール22とこれらの中間位置に板状の加熱装置23が設置され、供給リール21から加熱装置23を介して、テープ状の基体1を巻取リール22側に移動することができる。基体1の移動中に、レーザビームBによってターゲット20から叩き出され若しくは蒸発した構成粒子の噴流(プルーム)F1を、加熱装置23で目的の成膜温度に加熱した、ターゲット20と対向する基体1上に堆積させることにより、酸化物超電導層2が成膜できる。
【0017】
図1に示す構成のレーザ蒸着装置は、基体1を例えば2〜200m/hの搬送速度で長手方向に搬送しつつ、基体1を酸化物超電導層2の成膜温度に好適な温度(例えば700〜1000℃)に加熱しながら成膜する。また、必要に応じて減圧容器内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気として成膜を行ってもよい。
ターゲット20へのレーザビームBの照射により、ターゲット20から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子の噴流F1は、ターゲット20に対向する領域を通過中の基体1の表面に堆積し、酸化物超電導層2が形成される。
【0018】
ターゲット20としては、形成しようとする酸化物超電導層と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体又は酸化物超電導体等の板材を用いることができる。即ち、酸化物超電導層のターゲットは、希土類元素、バリウム、銅及び酸素を含む材料を用いることができる。より具体的には、高温超電導体であるRE−123系酸化物超電導体、又はRE−123系超電導体に類似した組成の材料を用いることができる。RE−123系酸化物超電導体としては、REBa
2Cu
3O
7−x(REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素を表し、好ましくはY又はGdである。xは−0.5〜0.6である。)が挙げられる。
基体11の詳細は第二の態様において後述する。
【0019】
図1に示すようなレーザ蒸着装置を用いることにより、酸化物超電導層を所望の基体上に製造することができ、酸化物超電導層製造後のターゲット20は、本発明における使用済ターゲットとなる。
酸化物超電導層を形成するに従い、レーザビームBの照射によって構成粒子が叩き出され若しくは蒸発したターゲット20の表面は徐々に分解、磨耗し、その組成も変化し得る。そのため、従来、微細な制御が必要となる酸化物超電導層の形成に使用済のターゲットが再利用されることはなく、使用済ターゲットは都度廃棄されていた。本発明では、使用済ターゲットを再利用可能とすることにより、使用済ターゲットの廃棄コスト、及び新たなターゲットの原料等のコストを低減することが可能となる。
【0020】
・再生ターゲット原料の製造
本発明では、使用済ターゲットを粉砕して、再生ターゲット原料とする。使用済ターゲットを粉砕する方法は特に限定されるものではないが、例えば、ハンマーミル、ディスクミル、ボールミル、ミキサーミル等の公知の粉砕装置を用いて行うことができる。上述したように使用済ターゲットにおいては、レーザビームが照射された表面と、その他の部位とに組成の相違が生じる場合があるため、微粉砕した後、組成が偏らないよう均一に混合しておくことが好ましい。
【0021】
また、粉砕後の使用済ターゲット粉砕物を、酸性溶液に溶解及び析出させ、回収して再生ターゲット原料とすることも好ましい。酸性溶液で溶解することにより、カーボン等の不純物を除去することができる。例えば、使用済ターゲット粉砕物を0.01〜1Mの硝酸、塩酸等の強酸溶液に溶解した後、シュウ酸等の酸を添加する、アミン等の塩基性化合物を添加して溶液を中性とする、電界を印加する等の方法により固形分を析出させ、析出物を回収する方法が挙げられる。
【0022】
(工程(2))
工程(2)ではまず、前記工程(1)で得られた使用済ターゲットの粉砕物の組成を分析する。次いで、分析によって得られた前記使用済ターゲット中の元素組成比が、所望の元素組成比と異なっている場合は、前記使用済ターゲット粉砕物と異なる組成を有する第二の使用済ターゲットの粉砕物、又は、未使用のターゲット材料を、さらに前記再生ターゲット原料に加える。
【0023】
・分析方法
使用済ターゲット粉砕物の組成を分析する方法は特に限定されるものではなく、例えば、公知の誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置等を用いて分析することができる。使用済ターゲット粉砕物の元素組成比が所望のものである場合には、工程(2)を終了して工程(3)を行う。一方、使用済ターゲット粉砕物の元素組成比が所望の元素組成比と乖離している場合には、再生ターゲット原料に他の材料を添加する。
本発明において、所望の元素組成比とは、再生ターゲットの用途、具体的には、再生ターゲットを用いて製造される酸化物超電導層の用途や、酸化物超電導層を有する線体等の要求特性に応じて適宜決定されるものである。例えば、RE−123系酸化物超電導体からなる酸化物超電導層を製造する場合であれば、RE:Ba:Cu(REは前記同様)=1:2:3が、所望の元素組成比となる。
【0024】
本発明においては、使用済ターゲットの元素組成比を確認し、元素組成比に所望の比とのずれが生じている場合には他の材料を添加して調整することにより、使用済ターゲットの元素組成比がレーザ蒸着法による酸化物超電導層製造中にずれた場合であっても、使用前(酸化物超電導層製造前)のターゲットと同じ元素組成比及び性状を有する再生ターゲットを製造することができる。蒸着中のターゲットが高温となるレーザ蒸着法では、特定の元素(例えばRE−123系であればバリウム)の割合が低下してしまうことがあるため、本発明の方法が有益となる。
また、他の材料により組成比を変更することが可能であるため、使用前のターゲットとは異なる組成を有する再生ターゲットを新たに製造することもできる。
【0025】
・第二の使用済ターゲット粉砕物
本発明において、第二の使用済ターゲットの粉砕物は特に限定されるものではなく、工程(1)において得られた使用済ターゲット粉砕物(以下、「第一の使用済ターゲット粉砕物」ということがある。)の元素組成比、及び所望の元素組成比に応じて適宜選択し、必要な元素組成比を有する粉砕物を使用することができる。
また、第二の使用済ターゲット粉砕物は、上述した工程(1)における第一の使用済ターゲット粉砕物の粉砕と同様に粉砕を行った後、工程(2)における第一の使用済ターゲット粉砕物の組成分析と同様に分析を行うことができる。
【0026】
工程(2)における第二の使用済ターゲット粉砕物の添加量は、特に限定されるものではないが、該第二の使用済ターゲット粉砕物を添加することによって、第一の使用済ターゲット粉砕物の元素組成比を所望の組成比とできる量であることが好ましい。
例えば、所望の組成比がRE:Ba:Cu=1:2:3であり、且つ、第一の使用済ターゲット粉砕物の組成比がRE:Ba:Cu=1:2.1:3である場合であれば、組成比がRE:Ba:Cu=1:1.9:3の第二の使用済ターゲット粉砕物を、第一の使用済ターゲット粉砕物と等量加えることにより、所望の組成比を有する再生ターゲット原料とすることができる。
【0027】
・未使用のターゲット材料
本発明において、未使用のターゲット材料は特に限定されるものではなく、通常の酸化物超電導層を形成するためのターゲット製造時に用いられる原料、又は、該原料を仮焼成した後の材料が挙げられる。
例えばRE−123系酸化物超電導体からなる層を形成するためのターゲットの原料としては、希土類元素とバリウムと銅とを含むもの、具体的にはY
2O
3、BaCO
3、CuOを含むものが挙げられる。また、該原料を仮焼成した後の材料としては、上記原料を混合した後、ボールミル等を用いて混合した後、仮焼成し、粉砕したものが挙げられる。
未使用のターゲット材料中の、元素組成比は特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。また、元素組成比は、工程(2)における第一の使用済ターゲット粉砕物の組成分析と同様に分析を行うことで測定できる。
工程(2)における未使用のターゲット材料の添加量は、特に限定されるものではないが、該未使用のターゲット材料を添加することにより、第一の使用済ターゲット粉砕物の元素組成比が、所望の組成比となる量であることが好ましい。
【0028】
上述したように本発明においては、使用済ターゲット原料の元素組成比を調整するために、第二の使用済ターゲット原料粉砕物、又は未使用のターゲット材料を用いるが、元素組成比の調整のみならず、使用済ターゲット原料中の不純物濃度の調整を兼ねて、第二の使用済ターゲット原料粉砕物、又は未使用のターゲット材料を用いてもよい。
ここで不純物とは、酸化物超電導層の製造に用いる前のターゲットが含有しておらず、且つ、製造に用いることによりターゲット内に混入する炭素原子等をいう。不純物の有無や含有割合は、公知の誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置等を用いて分析することができる。
例えば、不純物を含有する使用済ターゲット原料に対して、不純物を含有しない、第二の使用済ターゲット原料粉砕物、又は未使用のターゲット材料を等量用いる場合であれば、元素組成比の調整に加えて、使用済ターゲット原料の最終不純物濃度を半減させることが可能となる。
第二の使用済ターゲット原料粉砕物、又は未使用のターゲット材料を添加した後の不純物濃度や、これら添加物の添加量は特に限定されるものではなく、目的とする再生ターゲットの特性に応じて決定することができる。
【0029】
(工程(3))
工程(3)では、前記再生ターゲット原料を成型した後焼成して、再生ターゲットを得る。
【0030】
工程(1)及び(2)で得られた再生ターゲット原料の成型は常法により行うことができる。例えば、金型内に充填し、公知のプレス機等を用いて圧力を負荷して成型することにより、再生ターゲットを成型することができる。
成型後のターゲットの形状は特に限定されるものではないが、板状であることが好ましく、円盤状であることがより好ましい。
焼成の温度及び時間は特に限定されるものではないが、800〜1000℃、より好ましくは850〜990℃で、5〜100時間行うことが好ましい。
【0031】
本発明においては、工程(3)開始前に、前記再生ターゲット原料に人工ピン材料を含有させることも好ましい。
人工ピンを含有させることにより、再生ターゲット中や、製造される酸化物超電導層中に人工ピンが形成される。該人工ピンにより量子化磁束をピン止めすることができるため、超電導体の磁界中での臨界電流特性を改善される。
人工ピン材料としては、ペロブスカイト構造の一般式「ABO
3」で表される化合物を用いることができ、具体的にはBaZrO
3(BZO)、BiFeO
3(BFO)等が挙げられる。また、Y
2O
3、SnO
2、BaSnO
3等の化合物を用いることもできる。
再生ターゲット原料中の人口ピン材料の割合は、母相となる酸化物超電導層原料(例えば、RE
1Ba
2Cu
3O
7−x)に対して、10質量%以下程度が好ましい。
【0032】
また、本発明においては、工程(3)の成型前に、前記再生ターゲット原料を仮焼成及び/又は粉砕しておくことも好ましい。
仮焼成の温度及び時間は特に限定されるものではないが、800〜1000℃、より好ましくは850〜990℃で、5〜100時間行うことが好ましい。仮焼成の後、仮焼成物を粉砕してもよく、粉砕後にさらに同様の条件により、仮焼成を行ってもよい。粉砕は、使用済ターゲットの粉砕と同様に行うことができる。
【0033】
[超電導線材の製造方法]
本発明の第二の態様である超電導線材の製造方法は、基材の上方に、第一の態様の製造方法により得られる再生ターゲットを用いてレーザ蒸着法により酸化物超電導層を形成し、さらに安定化層を形成するものである。
本発明により製造される超電導線材の一例を
図2に示し、各層の材料や形成方法を
図2に基づいて以下に説明する。
【0034】
図2に示すRE123系超電導線材10は、テープ状の基材11の上方に、配向層12、キャップ層13、RE123系の酸化物超電導層2、安定化層3をこの順に積層してなる。
本実施形態のRE123系超電導線材において、基材11としては、テープ状、板状、矩形状の金属材料を適用でき、基材11の構成材料としては、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ(登録商標)、その他のニッケル系合金である。また、基材11としてニッケル合金などに集合組織を導入した配向Ni−W基板のような配向金属基板を用いてもよい。基板11の厚みは、酸化物超電導線材用などとして0.01〜0.5mm程度とすることができる。
【0035】
配向層12は、その上に形成する酸化物超電導層2の結晶配向性を制御するバッファー層として機能し、酸化物超電導層2と格子整合性の良い金属酸化物からなることが好ましい。配向層12の好ましい材質として具体的には、Gd
2Zr
2O
7、MgO、ZrO
2−Y
2O
3(YSZ)、SrTiO
3、CeO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等の金属酸化物を例示できる。配向層12は、単層でも良いし、複層構造でもよい。
配向層12は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する。)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);有機金属塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。これらの方法の中でも特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、Gd
2Zr
2O
7、MgO又はZrO
2−Y
2O
3(YSZ)からなる配向層12は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0036】
基板11と配向層12との間には加熱処理時の元素拡散防止などの目的で下地層を形成してもよい。下地層としては、拡散防止層とベッド層との複数構造、或いは、これらのうちいずれか一層からなる構造を用いることができる。
下地層として拡散防止層を設ける場合、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化アルミニウム(Al
2O
3、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいは、GZO(Gd
2Zr
2O
7)等から構成される単層構造あるいは複層構造の層が望ましく、厚さは例えば10〜400nmである。
下地層としてベッド層を設ける場合、ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減し、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、例えば、イットリア(Y
2O
3)などの希土類酸化物であり、より具体的には、Er
2O
3、CeO
2、Dy
2O
3、Er
2O
3、Eu
2O
3、Ho
2O
3、La
2O
3等を例示することができ、これらの材料からなる単層構造あるいは複層構造を採用できる。ベッド層の厚さは例えば10〜100nmである。また、拡散防止層とベッド層の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
【0037】
キャップ層13は、その上に設けられる酸化物超電導層2の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層2を構成する元素の他の層への拡散を抑制する機能などを有する。キャップ層13は、配向層12よりも更に高い面内配向度が得られる。
キャップ層13を構成する材料としては、例えば、CeO
2、LMO(LaMnO
3)、SrTiO
3、Y
2O
3、Al
2O
3、Gd
2O
3、Zr
2O
3、Ho
2O
3、Nd
2O
3等を用いるのが好ましい。キャップ層の材質がCeO
2である場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
キャップ層13の適正な膜厚は、その構成材料によって異なり、例えばCeO
2によってキャップ層13を構成する場合には、50nm〜1μmの範囲などを例示することができ、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましい。
このキャップ層13を成膜するには、PLD法、スパッタリング法等で形成することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO
2層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で成膜することができる。
【0038】
酸化物超電導層2は、第一の態様の製造方法により得られる再生ターゲットを用いて、レーザ蒸着法により形成されるものである。
酸化物超電導層2の厚みは、1〜10μmであることが好ましい。また、酸化物超電導層2は、均一な厚みであることが好ましい。
【0039】
レーザ蒸着法(パルスレーザ蒸着法(PLD法))による酸化物超電導層2の積層は、
図1のレーザ蒸着装置を用いて行うことができる。
図1中の基体1としては、
図2における基材11、配向層12、及びキャップ層13の積層体が挙げられる。
図1に示すレーザ蒸着装置のように、基材をその長尺方向に搬送しながらPLD法により成膜する方法によれば、長尺のRE123系超電導線材10を良好な生産性で製造できる。
【0040】
酸化物超電導層2の上には、
図2に示すように安定化層3が形成される。
酸化物超電導層2の上に積層される安定化層3は、酸化物超電導層2の一部領域が常電導状態に転移しようとした場合に、酸化物超電導層2を流れる電流が転流する電流のバイパス路として機能することで、酸化物超電導層2を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層3は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅又は銅合金(Cu−Zn合金、Cu−Ni合金)等からなるものが例示できる。
安定化層3は、公知の方法で積層できるが、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層3の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
安定化層3は1層構造であってもよく、2層以上の積層構造であってもよい。
【0041】
以上、本発明の超電導線材の一実施形態について説明したが、上記実施形態において、超電導線材の構成及びその製造方法は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実験例1)
Y
2O
3、BaCO
3、CuOの粉末を、Y:Ba:Cuの原子数比が1:2:3となるように準備した。これらの粉末を湿式ボールミル(ポッドアルミナφ100mm、アルミナボールφ10mm)を用い、該粉末混合物を有機溶媒(ヘキサン)中で48時間攪拌して粉砕した。その後、乾燥機を用いて、得られたスラリー中の有機溶媒を揮発させた。
次いで、酸素存在下において920℃、48時間仮焼成を行い、上記同様に湿式ボールミルを用いて粉砕した後、再度酸素存在下において920℃、48時間仮焼成を行った。
得られた仮焼粉を、円盤状の金型(φ100mm)に充填し、1ton/cm
2の圧力で一軸プレスにより成型した後、酸素存在下において920℃、48時間の本焼成を行い、ターゲットを製造した。
【0044】
(実験例2−1〜2−5)
上記実験例1のターゲットを用いて、レーザ蒸着法による酸化物超電導層の製造を行った。製造に用いた後のターゲット(使用済ターゲット)を、湿式ボールミル(ポッドアルミナφ100mm、アルミナボールφ10mm)により粉砕し、複数種の使用済ターゲット粉砕物を得た。粉砕物中の元素組成比はICP発光分析により分析した。
実験例2−1〜2−3では、表1に示す使用済ターゲット粉砕物をそのまま再生ターゲット原料として用いて、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。
実験例2−4では、実験例2−2に用いた粉砕物(Y:Ba:Cu=1:2.1:3)と、実験例2−3に用いた粉砕物(Y:Ba:Cu=1:1.9:3)とを等量ずつ混合して再生ターゲット原料を得た後、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。
実験例2−5では、実験例2−2に用いた粉砕物(Y:Ba:Cu=1:2.1:3)と、未使用のターゲット材料(Y:Ba:Cu=1:2.1:3)とを等量ずつ混合して再生ターゲット原料を得た後、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。未使用のターゲット材料は、Y:Ba:Cu=1:1.9:3である以外は上記実験例1と同様にして、仮焼成を2回行った後、粉砕したものである。
実験例2−1〜2−5において、仮焼成、粉砕、成型及び本焼成の条件は実験例1と同様である。
【0045】
(実験例3−1〜3−5)
上記実験例1のターゲットを用いて、レーザ蒸着法による酸化物超電導層の製造を行った。製造に用いた後のターゲット(使用済ターゲット)を、湿式ボールミル(ポッドアルミナφ100mm、アルミナボールφ10mm)により粉砕した。その後、粉砕物を0.1mol/LのHNO
3溶液に溶解し、少過剰のシュウ酸を添加して沈殿(共沈)させた。ここで少過剰のシュウ酸とは、金属とシュウ酸のカルボキシ基とを残らず反応させて金属のカルボキシル塩とするために必要なシュウ酸量よりも少し過剰な量を意味する。次いで、強酸性の沈殿物のpHをトリエチルアミンで中性とし、該沈殿物をろ過乾燥し、シュウ酸塩混合粉を製造した。該混合粉を970℃で24時間仮焼成し、複数の仮焼成粉(使用済ターゲット粉砕物)を得た。粉砕物中の元素組成比はICP発光分析により分析した。
実験例3−1〜3−3では、表1に示す使用済ターゲット粉砕物をそのまま再生ターゲット原料として用いて、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。
実験例3−4では、実験例3−2に用いた粉砕物(Y:Ba:Cu=1:2.1:3)と、実験例3−3に用いた粉砕物(Y:Ba:Cu=1:1.9:3)とを等量ずつ混合して再生ターゲット原料を得た後、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。
実験例3−5では、実験例3−2に用いた粉砕物(Y:Ba:Cu=1:2.1:3)と、未使用のターゲット材料(Y:Ba:Cu=1:2.1:3)とを等量ずつ混合して再生ターゲット原料を得た後、実験例1と同様に仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。未使用のターゲット材料は、Y:Ba:Cu=1:1.9:3である以外は上記実験例1と同様にして、仮焼成を2回行った後、粉砕したものである。
実験例2−1〜3−5において、仮焼成、粉砕、成型及び本焼成の条件は実験例1と同様である。
【0046】
(実験例4−1〜4−3)
上記実験例1のターゲットを用いて、レーザ蒸着法による酸化物超電導層の製造を行った。製造に用いた後のターゲット(使用済ターゲット)を、湿式ボールミル(ポッドアルミナφ100mm、アルミナボールφ10mm)により粉砕し、複数種の使用済ターゲット粉砕物を得た。粉砕物中の元素組成比はICP発光分析により分析した。また、使用済ターゲット中の不純物濃度(ppm)をICP−MSにより測定した。
実験例4−1では、表1に示す使用済ターゲット粉砕物(不純物;650ppm)をそのまま再生ターゲット原料として用いて、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。
実験例4−2では、表1に示す未使用のターゲット材料(不純物;100ppm)をそのままターゲット原料として用いて、仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、ターゲットを製造した。未使用のターゲット材料は、上記実験例1と同様にして、仮焼成を2回行った後、粉砕したものである。
実験例4−3では、表1に示す使用済ターゲット粉砕物(不純物;900ppm)と、実験例4−2に用いた材料(不純物;100ppm)とを1:3(質量比)で混合して再生ターゲット原料を得た後、実験例1と同様に仮焼成、粉砕、仮焼成、成型及び本焼成を行い、再生ターゲットを製造した。
実験例4−1〜4−3において、仮焼成、粉砕、成型及び本焼成の条件は実験例1と同様である。
【0047】
(超電導線材の製造)
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製の基材上に、スパッタ法によりAl
2O
3(膜厚150nm)を成膜した上に、イオンビームスパッタ法によりY
2O
3(膜厚20nm)を成膜し、2層からなる拡散防止層とした。次いで、この拡散防止層上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)によりMgO(中間層;膜厚10nm)を形成した上に、パルスレーザ蒸着法(PLD法)によりCeO
2(キャップ層:膜厚500nm)を成膜した。
次いでCe
2O層上に、
図2に示すレーザ蒸着装置、及び各実験例で得られたターゲットを用いて、パルスレーザ蒸着法(PLD法)により膜厚1.0μmのRE123系酸化物超電導層を成膜し、さらに、この酸化物超電導層上に厚さ10μmのAg(安定化層)をスパッタして酸化物超電導導体を作製した。なお、酸化物超電導層の成膜は、温度800℃、酸素分圧(PO
2)80Pa、レーザ出力180Wにて行った。
得られた超電導線材にについて、液体窒素温度下(77K)における臨界電流密度(Jc;MA/cm
2)を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果から、本発明の製造方法により得られた実験例2−4〜2−5、3−4〜3−5、及び4−1〜4−3のターゲットを用いた場合、実験例1の未使用のターゲットを用いた場合と同等に、良好な臨界電流特性を有する酸化物超電導線材が得られることが確認できた。