特許第5715939号(P5715939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5715939被成形ガラス素材の浮上搬送装置、及びガラス光学素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715939
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】被成形ガラス素材の浮上搬送装置、及びガラス光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 11/00 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   C03B11/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-277684(P2011-277684)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-126934(P2013-126934A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 浩市
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−238171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B7/00−7/22,11/00−11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成形ガラス素材を浮上させた状態で保持する一対の浮上皿分割体を有する浮上皿と、
前記浮上皿に浮上用ガスを供給するガス供給路が内部に設けられ、かつ、前記各浮上皿分割体を接離可能に支持する一対のアーム分割体を有する支持アームとを備え、
前記一対の浮上皿分割体のうち一方の浮上皿分割体が、当該浮上皿分割体を支持する一方のアーム分割体に固定されるとともに、
前記一対の浮上皿分割体のうち他方の浮上皿分割体が、当該浮上皿分割体を支持する他方のアーム分割体に、付勢部材によって前記一方の浮上皿分割体側に付勢された状態で、前記一対の浮上皿分割体が互いに接離する方向に沿って摺動可能に取り付けられていることを特徴とする被成形ガラス素材の浮上搬送装置。
【請求項2】
前記浮上皿が、前記一対の浮上皿分割体を突き合わせた際に凹陥状に形成される受け部を有し、
前記ガス供給路が、前記一方のアーム分割体に固定された側の前記一方の浮上皿分割体と、当該一方のアーム分割体とに連通して形成され、前記受け部の底面側に開口する噴出口から前記浮上用ガスが噴出する請求項1に記載の被成形ガラス素材の浮上搬送装置。
【請求項3】
前記浮上皿が、前記支持アームの長手方向に沿って複数支持され、前記アーム分割体に固定される側の前記浮上皿分割体の位置を、前記支持アームの長手方向に沿って交互に入れ替えた請求項1又は2に記載の被成形ガラス素材の浮上搬送装置。
【請求項4】
前記浮上皿がカーボン材からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の被成形ガラス素材の浮上搬送装置。
【請求項5】
互いに対向する成形面を有する下型と上型とを用い、加熱により軟化した被成形ガラス素材を連続的にプレス成形する光学素子の製造方法において、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の被成形ガラス素材の浮上搬送装置により、
加熱により軟化した前記被成形ガラス素材を前記下型上に落下供給することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
前記被成形ガラス素材の粘度で10〜1012dPa・sとなる温度に前記下型と前記上型とを予熱するとともに、
前記被成形ガラス素材の加熱温度を粘度が10dPa・s未満となる温度として、
加熱により軟化した前記被成形ガラス素材を前記下型上に落下供給し、前記下型と前記上型とを近接させることによりプレス成形した後に、前記被成形ガラス素材の粘度で1012dPa・sに相当する温度以下に冷却し、次いで、前記上型と前記下型とを離間して成形体を取り出す請求項5に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、得ようとする光学素子の形状にもとづいて精密加工された成形型を用いて、被成形ガラス素材を成形するにあたり、被成形ガラス素材を浮上させた状態で加熱により軟化させてから成形型に搬送する被成形ガラス素材の浮上搬送装置と、そのような装置を用いたガラス光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズなどのガラス光学素子を製造するにあたり、被成形ガラス素材(プリフォーム)を加熱して軟化させ、予熱した成形型で被成形ガラス素材をプレス成形することにより、成形型の成形面形状を被成形ガラス素材に転写して、ガラス光学素子を製造するモールドプレス成形方法が実用化されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、プリフォームを気流により浮上させながら加熱することによりプリフォームの予熱を行い、かつ、予熱により軟化したプリフォームを予熱した成形型に移送し、次いで、押圧成形するガラス光学素子の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、プリフォームを気流により浮上させながら加熱する浮上治具を用いて、所定粘度に軟化させたプリフォームを、浮上治具が分割することにより成形型上に落下供給して、プリフォームを押圧成形するガラス光学素子の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、被成形ガラス素材を気流により浮上させながら加熱することにより軟化させ、成形型に落下供給した被成形ガラス素材をプレス成形して、冷却後に成形型からガラス成形体を離型するガラス光学素子の成形方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、複数の被成形ガラス素材を、アーム上の浮上皿で浮上させながら加熱軟化した後、前記アームを分割して加熱軟化された複数の被成形ガラス素材を成形型の成形面に落下供給し、被成形ガラス素材を前記複数の成形面で同時にプレス成形するガラス光学素子の製造方法が開示されている。
【0007】
ここで、特許文献4は、本出願人によるものであり、アームの先端側に浮上皿を有し、アーム内を貫通して設けられているガス供給路を介して、窒素などの非酸化性ガスが浮上皿に供給され、これによって浮上皿上で被成形ガラス素材の浮上保持を可能とした浮上搬送装置における次のような不具合を改善しようとするものである。
【0008】
すなわち、上記アームの一形態として、複数の被成形ガラス素材を同時に浮上させることができるように、一つアームに複数の浮上皿を設けたものが知られている。このアームは、浮上皿の並びに沿って分割可能な一対のアーム分割体で構成され、浮上皿も各アーム分割体に支持される浮上皿分割体で構成される。
浮上皿分割体は、対向するアーム分割体を相互に突き合わせることにより浮上皿を構成し、一体化したアーム分割体を分割することによって、二つのアーム分割体及び各浮上皿分割体の隙間から浮上皿上の被成形ガラス素材を下型の成形面に落下供給するが、浮上皿上で被成形ガラス素材を安定して浮上させるためには、浮上皿内に安定した流量の浮上用ガスを供給する必要がある。このため、アーム分割体を互いに突き合せたときに、対向する浮上皿分割体が隙間なく突き合わされるようにして、浮上皿以外に浮上用ガスが漏れることを防止しなければならない。
【0009】
しかしながら、アーム分割体が突合せ面で隙間なく突き合わせた状態で、アームを外側から加熱すると、アームの表面付近は加熱により次第に昇温する。これに対し、アームの内部は、浮上ガスがアーム内を貫通して設けられているガス供給路を流通しており、かつ、このガスは加熱温度よりも低いため、アーム表面付近よりも低温となる。このため、アーム内部と表面付近の間に温度差が生じ、アーム駆動手段から遠いアームの先端では、各アーム分割体が突合せ面に対する反りを生じる。その結果、浮上皿分割体の突合せ面にも隙間ができてしまい、この隙間から浮上用ガスが漏れて、アームの先端寄りの浮上皿上では被成形ガラス素材の安定した浮上保持が困難になり、被成形ガラス素材が浮上皿に融着してしまう場合もある。特に、この現象は、アームの長手方向に設けられる浮上皿の数が多くなり、アームが長くなればなるほど顕著になる。
【0010】
このような不具合を解決するために、本出願人は、特許文献4において、被成形ガラス素材を加熱軟化する際においても、浮上皿分割体の突合せ面に隙間を生じることなく、浮上皿上で被成形ガラス素材を安定して浮上保持できるガラス光学素子の製造方法を提案した。
具体的には、被成形ガラス素材を浮上状態で保持する浮上皿と、前記浮上皿に浮上ガスを供給する供給路を備え、かつ幅方向に分割可能な突合せ面を有する一対のアーム分割体から構成され、当該突合せ面で前記浮上皿を分割可能に支持するアームと、前記一対のアーム分割体の一端を支持し、前記一対のアーム分割体を相互に分割し、又は突き合わせるアーム駆動手段とを有する被成形ガラス浮上保持装置において、前記被成形ガラスの軟化温度において、前記一対のアーム分割体を突き合わせたとき、前記一対のアーム分割体の前記突合せ面どうしが隙間なく接触するように、室温において、前記一対のアーム分割体の前記アーム駆動手段に支持される側の末端が所定の隙間を有して前記アーム駆動手段に支持されることを特徴とする保持装置、およびそれを用いたガラス光学素子の製造方法を提案した。
【0011】
この方法によれば、室温においてアーム駆動手段に支持されている側のアーム末端の突合せ面が所定の隙間を有し、かつ、反対側の末端の突合せ面が隙間なく突き合せられるような状態で、アーム分割体をアーム駆動手段に支持し、この状態でアームを外側から加熱すると、被成形ガラス素材の加熱軟化温度付近において各アーム分割体の対向する突合せ面の隙間がほぼゼロになる。その結果、被成形ガラス素材の加熱軟化時の浮上用ガスの漏出を防止でき、安定した浮上保持が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−133765号公報
【特許文献2】特開平8−133758号公報
【特許文献3】特開平10−67525号公報
【特許文献4】特開2003−238171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、成形に供される被成形ガラス光学素子は、求められる屈折率や分散値などの光学特性によってガラス成分が異なり、ガラス成分が異なれば、その硝材ごとに温度特性も相違する。このため、被成形ガラス素材をアーム分割体により浮上状態で加熱する温度や、プレス成形時の成形型の温度を各硝材に適した温度に設定しなければならない。そして、被成形ガラス素材の加熱温度が異なれば、熱膨張に起因してアーム分割体の対向する突合せ面に生じる隙間の間隔が変化するので、特許文献4で提案した方法にあっては、各硝材の加熱温度に基づいて、常温時のアーム末端の突合せ面の隙間を設定する必要がある。
つまり、同一のアームを用いて異なる硝材からなるガラス光学素子を製造(量産)する場合、硝材ごとにアーム分割体の突合せ面の隙間の調整が必要となり、生産性の向上を阻害していた。
【0014】
また、アーム分割体の双方の突合せ面が接触する時に両者が衝突するため、生産回数が増加するに連れて衝突回数も増えて、衝突により両アーム分割体の位置関係が微妙にずれて、両者間に隙間が生じ、浮上用ガスの漏出を招来するという問題もあった。
【0015】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされた発明であって、異なる硝材からなるガラス光学素子を成形する場合であっても、硝材ごとの調整を不要とし、被成形ガラス素材の加熱軟化時の浮上用ガスの漏出を確実に防止できる被成形ガラス素材の浮上搬送装置、及びそのような装置を用いて精度の高い光学素子をより効率よく製造することができるガラス光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の被成形ガラス素材の浮上搬送装置は、被成形ガラス素材を浮上させた状態で保持する一対の浮上皿分割体を有する浮上皿と、前記浮上皿に浮上用ガスを供給するガス供給路が内部に設けられ、かつ、前記各浮上皿分割体を接離可能に支持する一対のアーム分割体を有する支持アームとを備え、前記一対の浮上皿分割体のうち一方の浮上皿分割体が、当該浮上皿分割体を支持する一方のアーム分割体に固定されるとともに、前記一対の浮上皿分割体のうち他方の浮上皿分割体が、当該浮上皿分割体を支持する他方のアーム分割体に、付勢部材によって前記一方の浮上皿分割体側に付勢された状態で、前記一対の浮上皿分割体が互いに接離する方向に沿って摺動可能に取り付けられている構成としてある。
【0017】
また、本発明におけるガラス光学素子の製造方法は、互いに対向する成形面を有する下型と上型とを用い、加熱により軟化した被成形ガラス素材を連続的にプレス成形する光学素子の製造方法において、上記したような被成形ガラス素材の浮上搬送装置により、加熱により軟化した前記被成形ガラス素材を前記下型上に落下供給する方法としてある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被成形ガラス素材を加熱する際の浮上用ガスの漏出をより確実に防止して、被成形ガラス素材を安定に浮上させた状態で保持しつつ、加熱により軟化させてから成形型まで搬送することが可能になる。加えて、異なる硝材からなるガラス光学素子を製造する場合であっても、硝材ごとにアーム分割体の突き合わせ面の隙間を調整する必要がないので、複数の硝材に対して共通の浮上搬送装置を用いて安定した搬送が実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の要部の概略を示す平面図である。
図2】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の要部の概略を示す平面図である。
図3】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の動作を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の動作を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置において、浮上皿と支持アームとを分離して示す説明図である。
図6図2のC−C断面図である。
図7図2のD−D断面図である。
図8】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の要部の概略を示す平面図である。
図9】本発明の実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
[被成形ガラス素材の浮上搬送装置]
まず、本実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置について説明する。
図1及び図2は、本実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の要部について、その概略を示す平面図である。また、図3及び図4は、本実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の動作を示す説明図であり、図3の浮上搬送装置1は、図1のA−A断面の概略を示し、図4の浮上搬送装置1は、図2のB−B断面の概略を示している。
【0022】
これらの図に示すように、浮上搬送装置1は、被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持する一対の浮上皿分割体2a,2bを有する浮上皿2と、この浮上皿2に浮上用ガスを供給するガス供給路35が内部に設けられ、かつ、対になる浮上皿分割体2a,2bをそれぞれ接離可能に支持する一対のアーム分割体3a,3bを有する支持アーム3とを備えている。
【0023】
このような構成とされる浮上搬送装置1は、被成形ガラス素材Pを成形型4によりプレス成形して所定の光学素子を製造するにあたり、被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持しつつ、加熱により軟化させてから成形型4まで搬送するためのものである。このため、支持アーム3の内部に設けられたガス供給路35を経て浮上皿2に供給され、浮上皿2側に設けたガス供給路29に導かれて噴出口28から噴出する浮上用ガスによって、被成形ガラス素材Pが浮上皿2内で僅かに浮上しながら搬送されるようになっている(図3参照)。
【0024】
支持アーム3は、例えば、ステンレス合金などの耐熱性の高い金属によって長尺状に成形されている。この支持アーム3は、図示しない駆動手段に取り付けられており、その長手方向に直交する方向に各アーム分割体3a,3bが平行に往復動することによって開閉するようになっている。
なお、図1は、支持アーム3が閉じて近接した浮上皿分割体2a,2bが突き合わされた状態を示しおり、図2は、支持アーム3が開いて浮上皿分割体2a,2bが離間した状態を示している。
【0025】
このような支持アーム3の開閉動作によって、各アーム分割体3a,3bに支持された浮上皿分割体2a,2bが接離する。これにより、加熱により軟化した被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持する支持アーム3が、被成形ガラス素材Pをプレス成形する成形型4が型開きして待機する下型4aの上方に到達すると(図3参照)、支持アーム3が開いて、下型4a上に被成形ガラス素材Pを落下供給することができるようになっている(図4参照)。
なお、特に図示しないが、浮上搬送装置1は、下型4a上に被成形ガラス素材Pを落下供給した後は、下型4aと上型4bとを近接させてプレス成形をする妨げとならないように、支持アーム3を閉じて退避し、次の成形に備える。
【0026】
浮上皿2は、支持アーム3の開閉動作によって、対になる浮上皿分割体2a,2bが突き合わされた際に凹陥状に形成される受け部25を有しており、この受け部25に投下された被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持する。被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持する上で、受け部25は、図示するように、噴出口28が開口する底面側からテーパー部を経て開口部へと至るすり鉢状とするのが好ましいが、受け部25の具体的な形状や寸法は、搬送対象となる被成形ガラス素材Pに応じて適宜変更することができる。
【0027】
このような浮上皿32の材質としては、加熱により軟化した被成形ガラス素材Pとの融着を防ぐために、例えば、高密度カーボン、グラッシーカーボンなどのカーボン材を用いることができる。このようなカーボン材は、熱伝導性にも優れているという点からも浮上皿2の材質として好ましい。
【0028】
また、浮上皿2は、図5に示すように、対となる浮上皿分割体2a,2bが互いに突き合わされる突き合わせ面22a,22bとはそれぞれ反対側に張り出す張り出し部23a,23bと、張り出し部23a,23bの下方に突出する底部24とを有している。これとともに、支持アーム3には、支持アーム3が閉じたときにアーム分割体3a,3bが突き合わされる部位を跨いで、浮上皿2を支持する支持部31が設けられている。さらに、この支持部31には、浮上皿2の底部24が挿通可能な貫通孔32が穿設されている。
【0029】
このようにすることで、浮上皿2は、支持部31に穿設された貫通孔32に、その底部24を挿通しつつ、張り出し部23a,23bの下面を支持部31に支持させた状態で、支持アーム3に取り付けられるようになっている。
なお、図5は、浮上皿2と支持アーム3とを分離して示す説明図である。図5において、支持アーム3については、図1のA−A断面に相当する断面の概略を示しており、分割皿2については、その側面の概略を示している。
【0030】
このようにして浮上皿2を支持アーム3に取り付けると、浮上皿2の底部24の下面側が開放された状態で、浮上皿2が支持アーム3に支持されることになり、被成形ガラス素材Pを下型4a上に落下供給する際の落下距離D1(浮上皿2の受け部25の最下点から下型4aの成形面4sの中心部までの距離)を短くすることができる(図3及び図4参照)。すなわち、浮上皿2の底部24の下面側が支持アーム3で覆われていると、浮上皿2の底部24の下面側に位置する支持アーム3の厚みの分だけ被成形ガラス素材Pの落下距離が長くなってしまうが、この分の距離をなくすことができる。
これにより、被成形ガラス素材Pを下型4a上に落下供給する際に、その落下距離を短くして被成形ガラス素材Pが反転してしまうなどの不具合を有効に回避し、下型4a上に被成形ガラス素材Pを正確に供給することが可能になる。
【0031】
ここで、図示する例では、浮上皿2の底部24の下面と支持アーム3の下面とが面一となるようにしているが、下型4aと干渉しない範囲で浮上皿2の底部24を下型4aに近づけて、被成形ガラス素材Pを下型4a上に落下供給する際の落下距離を短くする上での妨げにならなければ、浮上皿2の底部24の下面は、支持アーム3の下面よりも突出していてもよく、支持アーム3の支持部31に穿設された貫通孔32内に位置していてもよい。
なお、下型4a上に落下供給される被成形ガラス素材Pの反転をより有効に回避するには、その落下距離D1が被成形ガラス素材Pの半径D2よりも短くなるように、各部の形状や寸法などを適宜調整するのが好ましい。
【0032】
また、図示する例において、支持アーム3の先端側に位置する浮上皿20は、対となる浮上皿分割体20a,20bのうち一方の浮上皿分割体20aが、これを支持するアーム分割体3aに固定されている。そして、アーム分割体3aの内部に設けられたガス供給35が、アーム分割体3aに固定された側の浮上皿分割体20aに設けたガス供給路29に連通し、これによって、ガス供給路29に導かれてきた浮上用ガスが、受け部25の底面側に開口する噴出口28から噴出するようになっている。もう一つの浮上皿21についても同様に、一方の浮上皿分割体21aが、これを支持するアーム分割体3bに固定されており、アーム分割体3bの内部に設けられたガス供給35が、アーム分割体3bに固定された側の浮上皿分割体21aに設けたガス供給路29に連通している。
【0033】
アーム分割体3a,3bに固定される側の浮上皿分割体20a,21aにガス供給路29を設けて、当該浮上皿分割体20a,21aのそれぞれが固定されるアーム分割体3a,3bの内部に設けられたガス供給路35に連通させるようにすれば、その途中に可動部がないため、ガス供給路35,29内の気密性を高めることが容易となる。このため、浮上用ガスが供給される経路の途中で漏れ出すことなく、浮上用ガスをより確実に噴出口28まで導くことができる。
【0034】
また、図示する例にあっては、アーム分割体3a,3bに固定される側の浮上皿分割体20a,21aの位置を、支持アーム3の長手方向に沿って交互に入れ替えている。すなわち、支持アーム3の先端側に位置する浮上皿20にあっては、固定される側の浮上皿分割体20aを図中左側に位置するアーム分割体3aに支持させ、もう一つの浮上皿21にあっては、固定される側の浮上皿分割体20aを図中右側に位置するアーム分割体3bに支持させている。
このような態様は、アーム分割体3a,3bの内部にガス供給路35を設けるにあたり、その混み合いを低減するとともに、両者の内部構造を近似させて熱的な影響を均等化することができるため好ましい。
【0035】
浮上皿分割体20a,21aをアーム分割体3a,3bに固定するにあたり、その具体的な手段は特に限定されない。例えば、図6に示すように、アーム分割体3aに螺設した雌ネジ孔52と同軸となるように、浮上皿分割体20aに挿通孔51を穿設し、この挿通孔51に挿通させたネジ50をアーム分割体3aに螺設した雌ネジ孔52にネジ締めするなどすればよい。
なお、図6は、図2のC−C断面図である。
【0036】
一方、支持アーム3の先端側に位置する浮上皿20における他方の浮上皿分割体20bにあっては、これを支持するアーム分割体3bに、付勢部材6によって一方の浮上皿分割体20a側に付勢された状態で、対となる浮上皿分割体20a,20bが互いに接離する方向に沿って摺動可能となるように取り付けられている。もう一つの浮上皿21についても同様に、他方の浮上皿分割体21bが、付勢部材6によって一方の浮上皿分割体21a側に付勢された状態で、これを支持するアーム分割体3aに摺動可能に取り付けられている。
ここで、浮上皿分割体20b,21bの摺動可能な方向は、相互に平行であって、且つ、突き合わせ面22a,22bに対して直交するように構成されている。かかる構成により、温度環境や経時変化などに伴って支持アーム3に変形が生じたとしても、それぞれ対となる浮上皿分割体(20aと20b、21aと21b)は、付勢部材6によって互いに隙間なく密接するため、被成形ガラス素材Pの安定的な浮上を実現できる。
【0037】
付勢部材6としては、図示するようなコイルバネのほか、板ばねなどを用いることができる。付勢部材6の材質は、耐熱性に優れ、高温に曝されてもばね弾性が失われ難いものであればよい。例えば、ジルコニア、窒化ケイ素などのファインセラミックス類を用いることができる。このような付勢部材6は、例えば、コイルバネとした場合には、図示する例のように、浮上皿分割体20aに設けたガイド部26にガイドさせて、浮上皿分割体20aを支持する支持部31の側壁との間に収納されるようにすることができる。
【0038】
浮上皿分割体20b,21bを摺動可能となるようにアーム分割体3b,3aに取り付けるにあたり、その具体的な手段も特に限定されない。例えば、図7に示すように、浮上皿分割体20bに長穴56を穿設し、この長穴56に挿通されたネジ55をスリーブ58やワッシャー59を介してアーム分割体3bに螺設した雌ネジ孔57にネジ締めするなどすればよい。
なお、図7は、図2のD−D断面図である。
【0039】
このように、一方の浮上皿分割体20a,21aを、それぞれを支持するアーム分割体3a,3bに固定するとともに、他方の浮上皿分割体20b,21bを、それぞれを支持するアーム分割体3b,3aに、付勢部材6によって一方の浮上皿分割体20a,21a側に付勢された状態で摺動可能に取り付けることで、一方の浮上皿分割体20a,21aと、他方の浮上皿分割体20b,21bとの突き合わせ面22a,22bに隙間が生じることなく、これらの突き合わせ面22a,22bが互いに密着した状態を維持できるようになる。すなわち、浮上皿2に保持した被成形ガラス素材Pを加熱により軟化させる際には、支持アーム3も熱に曝され、その熱膨張によって、図8に示すように、アーム分割体3a,3bの突き合わせ面に隙間Wが生じてしまうが、このような隙間Wが生じても、一方の浮上皿分割体20a,21aと、他方の浮上皿分割体20b,21bとの突き合わせ面22a,22bに隙間が生じないようにすることができる。
なお、図8は、図1及び図2と同様に、本実施形態に係る被成形ガラス素材の浮上搬送装置の要部の概略を示す平面図であり、アーム分割体3a,3bの突き合わせ面に隙間Wが生じても、一方の浮上皿分割体20a,21aと、他方の浮上皿分割体20b,21bとの突き合わせ面22a,22bが互いに密着した状態にあることを示している。
【0040】
しかも、前述した特許文献4で提案した方法にあっては、異なる硝材からなる被成形ガラス素材Pをプレス成形する場合には、各硝材に適した加熱温度に基づいてアーム末端の突き合わせ面の隙間を設定する必要があるが、本実施形態にあっては、そのような必要はない。付勢部材6によって浮上皿分割体2a,2bの突き合わせ面22a,22bが互いに密着した状態を維持しているため、被成形ガラス素材Pの加熱温度が異なることに起因して、アーム分割体3a,3bの突き合わせ面に熱膨張によって生じる隙間Wの間隔が違ってきても、浮上皿分割体2a,2bの突き合わせ面22a,22bに隙間が生じるのを防止することができる。さらに、アーム分割体3a,3bの双方の突き合わせ部が繰り返し衝突し、経時的にアーム分割体3a,3bの位置にずれが生じたとしても、浮上皿分割体2a,2bの突き合わせ面22a,22bに隙間が生じないようすることができる。
したがって、本実施形態によれば、被成形ガラス素材Pを加熱する際の浮上用ガスの漏出をより確実に防止して、被成形ガラス素材Pを安定に浮上させた状態で保持しつつ、加熱により軟化させてから成形型4まで搬送することが可能になる。
【0041】
[ガラス光学素子の製造方法]
次に、上記したような浮上搬送装置1を用いる本発明のガラス光学素子の製造方法の実施形態について説明する。
【0042】
本実施形態におけるガラス光学素子の製造方法は、互いに対向する成形面を有する下型4aと上型4bとからなる成形型4によって、被成形ガラス素材Pをプレス成形して所定のガラス光学素子を製造するものであり、プレス成形に先立って、上記した浮上搬送装置1により被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持しつつ、加熱により軟化させてから型開きして待機する成形型4まで搬送する。
【0043】
被成形ガラス素材Pとしては、所望の性質を有する光学ガラスを平板状、柱状、球状、平凸形状、平凹形状、又は両凸形状などの形状に加工したものとすることができるが、得ようとする光学素子の形状に近似した形状に溶融ガラスを予備成形したものであってもよい。
また、被成形ガラス素材Pに用いる硝材に特に制限はなく、通常、この種のプレス成形に用いられる各種のものを用いることができる。
【0044】
被成形ガラス素材Pを浮上させた状態で保持するにあたり、浮上皿2に形成された受け部25の底面側に開口させた噴出口28から浮上用ガスを噴出させるが、浮上用ガスとしては、例えば、窒素ガスなどの非酸化性ガスを用いることができる。浮上用ガスを噴出口28から噴出させるに際し、その流量は、噴出口28の形状や、被成形ガラス素材Pの形状及び重量などを考慮して適宜調整するが、通常は、0.005〜20リットル/分程度とすることができる。
【0045】
浮上搬送装置1により浮上した状態で保持された被成形ガラス素材Pは、公知の加熱装置を用いて加熱により軟化させるが、下型4a上に落下供給する際の被成形ガラス素材Pの温度は、その粘度が10dPa・s未満となる温度であることが好ましい。このような温度とすることで、得られる光学素子の十分な面精度を確保することができる。
【0046】
また、下型4aと上型4bは、プレス成形を開始するに際し、加熱して所定の温度に維持しておく。プレス成形時における下型4aと上型4bの温度は、被成形ガラス素材Pの温度とほぼ同一であってもよいが、サイクルタイムの短縮のためには被成形ガラス素材Pの温度よりも低いことが好ましく、具体的には、被成形ガラス素材Pの粘度で10〜1012dPa・sとなる温度に予熱しておくのが好ましい。
なお、下型4aと上型4bを予熱する際の温度は同一でもよく、差を設けても良い。得ようとする光学素子の形状や、用いた硝材などに応じて適宜調整することができる。
【0047】
下型4a上に被成形ガラス素材Pを落下供給すると浮上搬送装置1は退避し、次いで、下型4aと上型4bとを接近させることにより、被成形ガラス素材Pプレス成形する。そして、プレス成形開始後の任意の時点で、冷却を開始し、被成形ガラス素材Pの粘度で1012dPa・sに相当する温度以下になったときに、下型4aと上型4bとを離間して成形された光学素子(成形体)を取り出す。
【0048】
以上のような本実施形態の光学素子の製造方法は、前述したような浮上搬送装置1を用いることで、被成形ガラス素材Pを加熱する際の浮上用ガスの漏出をより確実に防止して、型開きして待機する成形型4の下型4a上に被成形ガラス素材P落下供給するまでの間、被成形ガラス素材Pを安定に浮上させた状態で保持することが可能になる。しかも、被成形ガラス素材Pを下型4a上に落下供給する際には、その落下距離を短くして被成形ガラス素材Pが反転してしまうなどの不具合を有効に回避し、下型4a上に被成形ガラス素材Pを正確に供給することが可能になる。このため、本実施形態によれば、精度の高い光学素子をより効率よく製造することが可能になる。
【0049】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0050】
例えば、前述した実施形態では、支持アーム3の長手方向に沿って二つの浮上皿2が一列に配置された例を示して説明したが、支持アーム3に支持させる浮上皿2は一つであっても、三つ以上であってもよい。支持アーム3に支持させる浮上皿2の数は、搬送すべき被成形ガラス素材Pの数に応じて適宜変更することができる。また、アーム分割体3a,3bに固定される側の浮上皿分割体2aの位置を、支持アーム3の長手方向に沿って交互に入れ替えるのが好ましいのは、三つ以上の浮上皿2を支持アーム3に支持させる場合も同様である。
【0051】
また、前述した実施形態では、支持アーム3の支持部31に穿設された貫通孔32に、浮上皿2の底部24を挿通しつつ、張り出し部23a,23bの下面を支持部31に支持させた状態で、支持アーム3に浮上皿2を取り付けた例を示したが、支持アーム3に浮上皿2を取り付ける態様はこれに限られない。
一方の浮上皿分割体が、当該浮上皿分割体を支持する一方のアーム分割体に固定されるとともに、他方の浮上皿分割体が、当該浮上皿分割体を支持する他方のアーム分割体に、付勢部材によって一方の浮上皿分割体側に付勢された状態で、一対の浮上皿分割体が互いに接離する方向に沿って摺動可能に取り付けられていればよい。具体的には、支持アーム2に貫通孔32を設けるのを省略するとともに、浮上皿2にあっても底部24を設けるのを省略して、図9に示すような態様とすることもできる。
なお、図9は、上記態様について、前述した実施形態における図1のA−A断面に相当する断面の概略を示す断面図であり、前述した実施形態に対応する構成部位については、同じ符号を付すことで、その説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、得ようとする光学素子の形状にもとづいて精密加工された成形型を用い、被成形ガラス素材をプレス成形する精密モールドプレス成形技術に適用される。
【符号の説明】
【0053】
1 浮上搬送装置
2(20,21) 浮上皿
2a(20a,21a) 浮上皿分割体
2b(20b、21b) 浮上皿分割体
22a,22b 突き合わせ面
23a,23b 張り出し部
24 底部
25 受け部
28 噴出口
29 ガス供給路
3 支持アーム
3a,3b アーム分割体
35 ガス供給路
6 付勢部材
P 被成形ガラス素材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9