(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
RE−123系酸化物超電導導体(REBa
2Cu
3O
7−X:REはYを含む希土類元素のいずれか)は、液体窒素温度以上で優れた超電導性を示すことから、実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。このようなRE−123系酸化物超電導導体に用いる導体として、
図7に示すように、テープ状の金属基材101上に、IBAD(Ion−Beam−Assisted Deposition)法によって成膜された中間層102と、その上にキャップ層103と、酸化物超電導層104とをこの順で積層形成した構造が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
この酸化物超電導導体において、中間層102及びキャップ層103は、酸化物超電導層104の結晶配向性を制御するために設けられている。即ち、酸化物超電導体は、その結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有している。従って、この酸化物超電導体を用いて導体を構成する場合、酸化物超電導層104は、電気を流す方向にa軸あるいはb軸が配向し、c軸がその他の方向に配向している必要がある。
【0004】
ここで、この種の酸化物超電導導体に用いられる中間層102の形成技術として、IBAD法が広く知られている。このIBAD法により形成される中間層は、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が金属基材101と酸化物超電導層104との中間的な値を示す材料、例えばMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニウム)、SrTiO
3等によって構成されている。このような中間層102は、金属基材101と酸化物超電導層104との物理的特性の差を緩和するバッファー層として機能する。また、IBAD法によって成膜されることにより、中間層102の結晶は、高い面内配向度を有しており、キャップ層103の配向性を制御する配向制御膜として機能する。以下、IBAD法により形成される中間層102の配向メカニズムについて説明する。
【0005】
図8に示すように、IBAD法による中間層形成装置は、金属基材101がその長手方向に走行するための走行系と、その表面が金属基材1の表面に対して斜めに向いて対峙するターゲット201と、ターゲット201にイオンを照射するスパッタビーム照射装置202と、金属基材101の表面に対して斜め方向からイオン(希ガスイオンと酸素イオンとの混合イオン)を照射するイオン源203とを有している。これら各部は、真空容器(図示せず)内に配置されている。
【0006】
この中間層形成装置によって金属基材101上に中間層102を形成するには、真空容器の内部を減圧雰囲気とし、スパッタビーム照射装置202及びイオン源203を作動させる。これにより、スパッタビーム照射装置202からターゲット201にイオンが照射され、ターゲット201の構成粒子が弾き飛ばされて金属基材101上に堆積する。これと同時に、イオン源203から、希ガスイオンと酸素イオンとの混合イオンが放射され、金属基材101の表面に対して所定の入射角度(θ)で入射する。
このように、金属基材101の表面に、ターゲット201の構成粒子を堆積させつつ、所定の入射角度でイオン照射を行うことにより、形成されるスパッタ膜の特定の結晶軸がイオンの入射方向に固定される。これにより、c軸が金属基材の表面に対して垂直方向に配向するとともに、a軸及びb軸が面内において一定方向に配向する。このため、IBAD法によって形成された中間層102は、高い面内配向度を有する。
【0007】
一方、キャップ層103は、このように面内結晶軸が配向した中間層102の表面に成膜されることによってエピタキシャル成長し、その後、横方向に粒成長して、結晶粒が面内方向に自己配向し得る材料、例えばCeO
2によって構成される。キャップ層103は、このように自己配向していることにより、中間層102よりも更に高い面内配向度を得ることができる。従って、金属基材101上に、このような中間層102及びキャップ層103を介して酸化物超電導層104を成膜すると、面内配向度の高いキャップ層103の結晶配向に整合するように酸化物超電導層104がエピタキシャル成長する。このため、面内配向性に優れ、臨界電流密度の大きな酸化物超電導層104を得ることができる。
【0008】
図9は、前述のIBAD法を実施する場合の具体的装置の模式構造例を示す。この例のIBAD装置300の構成を以下に示す。長尺のテープ状の基材301は、第1ロール302と第2ロール303との間に複数回往復巻回される。第1ロール302と第2ロール303との間に複数列露出されている基材301に対向するように、長方形状のターゲット305が配置される。このターゲット305に対して斜め方向に対向するように、スパッタイオンソース源306が配置される。第1ロール302と第2ロール303との間に複数列露出されている基材301に所定の角度(例えば、基材301の成膜面の法線に対し45゜あるいは55゜)をもって斜め方向から対向するように、アシストイオンソース源307が配置される。
【0009】
なお、その他のイオンビームスパッタ装置として、下記特許文献2に記載のように、複数のターゲットに対応するように複数のイオンガンを備えた構成を採用し、ターゲットを備えた回転ホルダの対称位置にこれら2組を配置した構成の装置が知られている。また、複数のイオンガンを設けた構成の装置も知られている。また、下記特許文献3に示すように、1つのターゲットに対して複数のイオンガンを設けたイオンビームスパッタ装置が知られている。また、下記特許文献4に示すように、ターゲットの複数箇所にイオンビームを照射するために複数のイオンガンドライバを備えて、イオンビームの照射位置毎に電流密度分布を制御するイオンビームスパッタ装置が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図9に示すIBAD装置300は、第1ロール302と第2ロール303との間を基材301が複数回往復するので、厚い膜を形成しようとする際に有利であり、生産性を向上できるという特徴を有している。しかしながら、
図9に示すIBAD装置300は、第1ロール302と第2ロール303との間に掛け渡される複数列の基材301に均一にスパッタ粒子を飛来させるために、スパッタターゲット305を大型の長方形状としている。これに対応して、スパッタイオンソース源306も長方形状としている。このような長方形状の大型のイオンソース源306は、半導体分野などの一般的な成膜分野において常用されるものではなく、特注品となるため、極めて高価にならざるを得ないという問題を有していた。
更に、
図9に示すような大型のIBAD装置300は、膜厚及び膜質の均一性を保つために、アシストイオンビームとスパッタビームとの強度バランスを取る必要がある。この種のイオンビームスパッタ装置には、通常、アシストイオンガンとスパッタイオンガンとが1セットずつ存在するが、スパッタビームのイオン源が1つである場合、大面積に成膜しながら、更に膜厚を調整することは極めて困難であった。
【0012】
本発明は、結晶配向性の優れた酸化物超電導層を形成するための基となる中間層を有する基材であって、結晶配向性が良好かつ、膜厚が均一な中間層を有する酸化物超電導導体用基材を製造するために好適なイオンビームアシストスパッタ装置及びイオンビームアシストスパッタ方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用する。
本発明の一態様に係るイオンビームアシストスパッタ装置は、ターゲットと
、このターゲットにスパッタイオンを照射して、前記ターゲットの構成粒子の一部を叩き出すスパッタイオン源と
、前記ターゲットから叩き出された粒子を堆積させるための基材を設置する成膜領域と
、この成膜領域に設置された前記基材の成膜面の法線方向に対して斜め方向からアシストイオンビームを照射するアシストイオンビーム照射装置と
、を備えるイオンビームアシストスパッタ装置であって、前記スパッタイオン源が、スパッタイオンビームを前記ターゲットの一側端部から他側端部まで照射可能になるように配列された複数のイオンガンを有し、前記複数のイオンガンの前記スパッタイオンビームを発生させるための電流値が、それぞれ設定され
、前記複数のイオンガンのうちの両端に配置されたイオンガンの前記電流値が、これら両端に配置されたイオンガンの間に配置された他のイオンガンの前記電流値よりも4〜100%高く設定される。
【0014】
前記ターゲットが、前記成膜領域に対応するように長方形状に形成され、前記複数のイオンガンが、前記ターゲットの長手方向に沿って配置されてもよい
。
前記複数のイオンガンの前記電流値が、それぞれ調整されてもよい。
本発明の一態様に係る酸化物超電導導体の製造装置は、基材上に、中間層と、キャップ層と、酸化物超電導層とをこの順で積層した酸化物超電導導体の製造装置であって、前記中間層を形成するため、前記イオンビームアシストスパッタ装置を備える。
【0015】
本発明の別の態様に係るイオンビームアシストスパッタ方法は、ターゲットと
、このターゲットの構成粒子の一部を叩き出すスパッタイオンビームを前記ターゲットの一側端部から他側端部まで照射可能になるように配列された複数のイオンガンを有するスパッタイオン源と
、前記ターゲットから叩き出された粒子を堆積させるための基材を設置する成膜領域と
、この成膜領域に設置された前記基材の成膜面の法線方向に対して斜め方向からアシストイオンビームを照射するアシストイオンビーム照射装置と
、を備えるイオンビームアシストスパッタ装置を用いて、前記成膜領域に設置した前記基材上に、前記ターゲットの構成粒子を堆積させて前記基材上に成膜するイオンビームアシスト成膜方法であって、前記複数のイオンガンのうちの両端に配置されたイオンガンの前記スパッタイオンビームを発生させるための電流値を、これら両端に配置されたイオンガンの間に配置された他のイオンガンの前記スパッタイオンビームを発生させるための電流値よりも
4〜100%高く設定してイオンビームアシストスパッタを行う工程を備える。
前記ターゲットが、前記成膜領域に対応するように長方形状に形成され、前記複数のイオンガンが、前記ターゲットの長手方向に沿って配置されてもよい。
本発明の一態様に係る酸化物超電導導体の製造方法は、基材上に、中間層と、キャップ層と、酸化物超電導層とをこの順で積層形成した酸化物超電導導体の製造方法であって、前記イオンビームアシストスパッタ方法により、前記中間層を形成する。
【発明の効果】
【0016】
上記本発明の一態様に係るイオンビームアシストスパッタ装置及びイオンビームアシストスパッタ方法によれば、ターゲットに対応するように配列されたイオンガンのうちの、前記ターゲットの一側端部にスパッタビームを照射するイオンガンとターゲットの他側端部にスパッタビームを照射するイオンガンとが、それらのイオンガンの間に配置される他のイオンガンよりもイオンビーム発生用の電流値を高く設定する。このため、イオンビームアシストスパッタ方法により基材上に結晶配向性の良好な膜を形成する場合に、ターゲットの隅々からスパッタ粒子の発生を効率良く均一に行うことができる。この結果、基材上に結晶配向性が良好な上に膜厚ばらつきの少ない中間層を形成することができる。そのため、基材上に大面積の酸化物超電導層を成膜した場合であっても、結晶配向性に優れ、膜厚ばらつきの少ない酸化物超電導層を得ることができる。
【0017】
また、従来の矩形状のイオンガンでは位置毎の上述のような調整ができないのに対し、本発明の一態様に係るイオンビームアシストスパッタ装置では大面積のスパッタ用ターゲットを利用した大面積用の成膜処理であっても、膜厚の均一性を確保しながら、良好な配向性の膜を得るための装置を低コストで提供することができ、酸化物超電導導体の製造コストを削減できる。
更に、ターゲットの端部側に対応するイオンガンに印加する電流値をターゲットの中央側に対応するイオンガンに印加する電流値よりも4〜100%高くすることにより、ターゲットから叩き出すスパッタ粒子の均一性を向上させて均一な厚さの膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態を以下に説明する。
<酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体>
まず、本発明の一実施形態に係るイオンビームアシストスパッタ装置及びイオンビームアシストスパッタ方法によって製造される酸化物超電導導体用基材及びそれを適用した酸化物超電導導体を以下に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るイオンビームアシストスパッタ方法によって製造される酸化物超電導導体用基材及びそれを適用した酸化物超電導導体の構造を示す縦方向の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係る酸化物超電導導体用基材1は、金属基材2上に成膜したイオンビームアシストスパッタ方法による中間層3と、その上に成膜したキャップ層4とを備えた積層構造を有しており、酸化物超電導導体5は、前述の酸化物超電導導体用基材1のキャップ層4の上に、酸化物超電導層6を形成した基本構造を有する。なお、金属基材2の上に拡散防止層や下地層などを一端形成した上で中間層3を形成した構造についても、本発明を支障なく適用することができる。酸化物超電導層6の上に安定化層を積層した構造であっても、本発明を支障なく適用することができる。以下、前記各層を構成する材料について詳述する。
【0020】
<金属基材>
金属基材2を構成する材料としては、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ、その他のニッケル系合金である。あるいは、これらに加えて、セラミック製の基材、非晶質合金の基材などを用いても良い。
【0021】
<中間層>
中間層3は、IBAD法によって形成された蒸着膜であり、金属基材2と酸化物超電導層6との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能するとともに、この上に形成されるキャップ層4の配向性を制御する配向制御膜として機能する。この中間層3を成膜する場合に、本発明に係るイオンビームアシストスパッタ装置を用いてイオンビームアシストスパッタ方法を実施するが、それらの説明については後述する。
中間層3を構成する材料としては、これらの物理的特性が金属基材2と酸化物超電導導体膜6との中間的な値を示すものが用いられる。このような中間層3の材料としては、例えば、イットリア安定化ジルコニウム(YSZ)、MgO、SrTiO
3、Gd
2Zr
2O
7等を挙げることができる。その他、パイロクロア構造、希土類−C構造、ペロブスカイト型構造又は蛍石型構造あるいは岩塩構造を有する適宜の化合物を用いることができる。これらの中でも、中間層3の材料としては、YSZ、Gd
2Zr
2O
7、あるいはMgOを用いることが好ましい。特に、Gd
2Zr
2O
7やMgOは、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、中間層の材料として特に適している。
【0022】
中間層3の膜厚は、例えば、5nm〜2000nmの範囲が好ましく、50nm〜1000nmの範囲がより好ましいが、これらの範囲のみに限定されない。
中間層3の膜厚が1000nmを超えると、中間層3の成膜方法として用いるIBAD法の成膜速度が比較的低速であることから、中間層3の成膜時間が長くなる。中間層3の膜厚が2000nmを超えると、中間層3の表面粗さが大きくなり、酸化物超電導導体5の臨界電流密度が低くなる可能性がある。
一方、中間層3の膜厚が5nm未満であると、中間層自身の結晶配向性を制御することが難しくなり、この上に形成されるキャップ層4の配向度制御が難しくなり、さらにキャップ層4の上に形成される酸化物超電導層6の配向度制御も難しくなる。その結果、酸化物超電導導体5の臨界電流が不十分となる可能性がある。
本実施形態の中間層3は、1層構造である必要はなく、例えば、
図1に示す例では、基材2側にMgOの第一層3Aとその上に積層されたGd
2Zr
2O
7の第二層3Bとからなる2層構造を有するが、その他の複層構造であっても差し支えない。
【0023】
<キャップ層>
キャップ層4は、その上に設けられる酸化物超電導層6の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層6を構成する元素の中間層3への拡散や、成膜時に使用するガスと中間層3との反応を抑制する機能などを有する。
キャップ層4としては、中間層3の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て成膜されたものであるものが好ましい。このように選択成長しているキャップ層4は、中間層3よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層4を構成する材料としては、このような機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、例えば、CeO
2、Y
2O
3等を用いるのが好ましい。
キャップ層4の構成材料としてCeO
2を用いる場合、キャップ層4は、全体がCeO
2によって構成されている必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
【0024】
キャップ層4の適正な膜厚は、その構成材料によって異なる。例えば、CeO
2によってキャップ層4を構成する場合には、キャップ層4の膜厚は、50nm〜5000nmの範囲が好ましく、100nm〜5000nmがより好ましい。キャップ層4の膜厚がこれらの範囲から外れると、十分な配向度が得られない場合がある。
【0025】
<酸化物超電導層>
酸化物超電導層6の材料としては、RE−123系酸化物超電導体(REBa
2Cu
3O
7−X:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)を用いることができる。RE−123系酸化物として好ましいのは、Y123(YBa
2Cu
3O
7−X)又はGd123(GdBa
2Cu
3O
7−X)等である。
【0026】
<酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体の製造方法>
次に、前述の構造の酸化物超電導導体用基材の製造方法について説明する。
まず、前述の材料からなるテープ状などの長尺の金属基材2を用意し、この金属基材2上に、IBAD法によって前述の材料からなる中間層3を形成する。また、この中間層3上に、金属ターゲットを用いる反応性DCスパッタ法などによってキャップ層4を形成する。
本実施形態の説明では、以下、イオンビームアシストスパッタ装置とそれを用いたイオンビームアシストスパッタ方法により中間層3を成膜する場合について説明する。
【0027】
<イオンビームアシストスパッタ装置>
図2は、本発明の第1実施形態に係るイオンビームアシストスパッタ装置を示す概略構成図である。
図2に示すイオンビームアシストスパッタ装置10は、テープ状の基材などが配置される略長方形状の成膜領域11に面するように長方形状のターゲット12が配置され、このターゲット12に対して斜め方向に対向するようにスパッタイオンソース源13が配置されるとともに、成膜領域11の法線に対し所定の角度で(例えば45゜あるいは55゜など)斜め方向から対向するようにアシストイオンソース源15を配置し構成されている。
この例のイオンビームアシストスパッタ装置10は、真空チャンバに収容される形態で設けられる成膜装置である。この装置の成膜領域11は、具体的には例えば
図5に示すように、テープ状の基材17が対向配置された第1のロール18と第2のロール19とに複数回往復巻回されて成膜領域11を往復走行される構造などを例示することができるが、
図5の装置構造のみに限るものではない。なお、
図5では
図2の構成に対し、ターゲット12の位置と成膜領域11の上下位置関係が逆転しているが、これらの上下関係は任意で良い。ターゲット12と成膜領域11との上下位置関係に合わせて、スパッタイオンソース源13がターゲット12に対向し、アシストイオンソース源15が成膜領域11に対向するように、これらの上下位置関係を調整して装置全体が構成される。
本実施形態で用いる真空チャンバは、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有するとともに、内部が高真空状態とされるため耐圧性を有する。この真空チャンバには、真空チャンバ内にキャリアガス及び反応ガスを導入するガス供給手段と、真空チャンバ内のガスを排気する排気手段が接続されている。
図2では、これら供給手段と排気手段を略し、各装置の配置関係のみを示している。
ここで用いるターゲット12とは、前述した材料の中間層3を形成する場合に適した組成のターゲットとすることができる。
【0028】
本実施形態で用いるスパッタイオンソース源13は、従来装置では
図4に示すように長方形状のスパッタイオンソース源14とされていたのに対し、丸型のイオンガン16を4基横一列に設置された構造を有する。
このイオンガン16は、例えば
図6に示すように円筒状容器の内部に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成されている。そして、ガスの原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。ガスをイオン化する方法には、高周波励起方式、フィラメント式等の種々のものがある。フィラメント式は、タングステン製のフィラメントに通電加熱して熱電子を発生させ、高真空中でガス分子と衝突させてイオン化する方法である。また、高周波励起方式は、高真空中のガス分子を高周波電界で分極させてイオン化する方法である。
本実施形態において、例えば、
図6に示す構造のイオンガン16を用いることができる。この例のイオンガン16は、筒状の容器27の内部に、引出電極28とフィラメント29とArガス等の導入管20とを備えて構成され、容器27の先端からイオンをビーム状に平行かつ照射領域を円状に照射できるものである。
【0029】
これら4基のイオンガン16は、4基が一列に並ぶことで従来構造の長方形状のイオンソース源14と略同等の幅及び奥行きの領域にイオンビームを照射できるような大きさに形成されている。例えば、4基の配列により従来構造の長方形状のイオンソース源と対比して90%程度以上の面積をカバーできるように配置することができる。
【0030】
これら4基のイオンガン16のうち、配列方向内側に配置されている全てのイオンガンは、それぞれ個別に出力を調整できるように構成されている。
ここでイオンガン16の出力とは、引出電極28に印加する加速電圧と、イオンビームの電流値との積を意味する。
【0031】
中央の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値よりも両端側の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値を4〜100%向上した範囲とするならば、好適な状態でターゲット12から均一にスパッタ粒子を叩き出すことができる。
4基のイオンガン16に均等な電流値を印加した場合、中央側のイオンガン16がターゲット12に照射するイオンビームの拡散の状態により、中央側のイオンガン16がターゲット12に照射するイオンビームが重なって照射される結果、ターゲット12からのスパッタ粒子発生効率は高くなる。一方、両端側のイオンガン16がターゲット12の端部側に照射するイオンビームの領域では、イオンビームの重なりが生じないためにスパッタ効率が低下する。この結果、成膜レートが低下する問題があり、均等なスパッタ粒子の発生を望むことができない。これに対し、両端側の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値を上述のように4〜100%アップした範囲とすれば、拡散したイオンビームの重なりが少なく、両端でのスパッタ粒子量の低下を防ぐことが出来る。このため、両端側のイオンガン16がイオンを照射する領域のターゲット12から効率良く均等にスパッタ粒子の発生を行うことができる。この結果、ターゲット12の端部側に対応する位置の成膜領域11に対し目的の量のスパッタ粒子の堆積を行うことができるので、長方形状のターゲット12に対応した広い領域の成膜領域11に均一な粒子を堆積できる。
【0032】
ここで、
図2に示す構成のイオンビームアシストスパッタ装置10を作動させてイオンビームアシストスパッタ方法により成膜する場合を説明する。
図1に示す基材2を成膜領域11に設置する。この状態で4基のイオンガン16を作動させ、中央の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値よりも両端側の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値を上述のように4〜100%向上した範囲として、
図3に示すようにスパッタビームをターゲット12に照射してスパッタ粒子を叩き出すスパッタを行う。このようにして、成膜領域11に対してスパッタ粒子を飛来させて成膜領域11に設置した基材2にスパッタ粒子の堆積を行うとともに、
図2に示すようにアシストイオンソース源15からイオンビームを成膜領域11の基材2に対し斜め方向所定角度から照射しつつ先のスパッタ粒子の堆積を行なう。
以上の操作により、ターゲット12から発生させたスパッタ粒子を良好な結晶配向性かつ均等な膜厚で、基材2の上に成膜することができる。この結果、結晶配向性に優れた中間層3を堆積できる。
【0033】
なお、イオンビームアシスト法では、基材2上におけるスパッタ粒子とアシストイオンビームとの到達比率が重要であり、それによって得られる膜の配向性が変わる。従って、大面積では成膜にあたり、全ての領域面積において、最適比率に近付ける必要がある。
上記に示したケースは、アシストイオンビームが均一に照射されている場合であり、スパッタ粒子も成膜領域全体に均一に供給する必要があるケースである。勿論、アシストイオンビームが何らかの原因で場所による分布が生じている場合、本構造の装置によれば、アシストイオンビームの強度分布に応じてスパッタイオンガンの出力の比率を適宜コントロールできる。これにより、成膜面積におけるスパッタ粒子とアシストイオンビームとの到達比率を最適比率に近付けることができる。よって、個々のアシストイオンガンの電流値を個別に設定出来ることも重要である。
【0034】
また、中央の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値よりも両端側の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値を上述のように4〜100%向上した範囲としてスパッタを行うことにより、成膜領域11に設置した基材2の表面側に均一な厚さの膜を堆積できる。更に、本実施形態で用いる丸型の4基のイオンガン16を長方形状の大面積のイオンガン14と対比すると、ターゲット12の長方形状の領域に対応するように長方形状の大面積のイオンガン14を用いる場合は、特別にイオンガン製造をしなくてはならない。一方、丸型のイオンガンであれば、半導体分野などの一般的な成膜分野において使用する汎用のイオンガンを用いることができる。このため、適用するイオンガンを廉価な構造とすることが容易にできる。よって、長方形状のイオンガンを特別に製造していた従来構造のイオンビームアシストスパッタ装置と対比し、イオンビームアシストスパッタ装置全体のコストダウンにつながる効果がある。
更に、中央の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値よりも両端側の2基のイオンガン16のイオンビームを発生させる際の電流値を上述のように4〜100%向上した範囲とすることにより、生成できる膜の配向性を向上させることができる。配向性の向上は、超電導特性の向上の面で有利となる。
【0035】
なお、基材1の上に、MgOの第一層3AとGd
2Zr
2O
7の第二層3Bとからなる2層構造の中間層3を形成できる。この場合、
図2に示すイオンビームアシストスパッタ装置においてターゲット12をMgOのものとして1回成膜し、
図2に示す構成と同等の構成の他のイオンビームアシストスパッタ装置によって、第一層上にGd
2Zr
2O
7層を成膜できる。もしくは、
図2に示すイオンビームアシストスパッタ装置において、MgOのターゲットをGd
2Zr
2O
7層生成用の他のターゲットに交換した後、第二層3Bの成膜を同様に行える。また、第二層3の上にキャップ層4をIBAD法により成膜する場合、同様に4基のイオンガンを用いたイオンビームアシストスパッタ装置により、キャップ層4を構成することができる。
以上の説明から、例えば幅1m程度の長方形状の大型のイオンガン14に代えて、1/4程度のサイズの丸型の複数のイオンガン16の組み合わせを同等面積のターゲットの照射に用いることができる。この場合、装置のコストを削減することができる。さらに、長方形状の大型のイオンガン14に対し丸型の複数のイオンガン16の組み合わせでスパッタすることで、より強力なスパッタリングレートを確保することができ、成膜時の効率を向上させることができる。なお、丸型のイオンガンであれば、グリッドの形状からイオンビームを集束させることができ、ビームの強度を上げることができるので有利となる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
まず、長尺テープ状のハステロイ金属基材上に、
図2に示す構成のイオンビームアシストスパッタ装置により厚さ250nmのGd
2Zr
2O
7膜を30分間かけて形成した。この成膜の際、イオンガンはいずれも照射口径16cmのものを4基、横に一列に並べた構成の装置を用い、長手方向(イオンガンの配列方向)に4箇所サンプルの測定を行った。これらイオンガンの引出電極の加速電圧を1500Vに設定した。4基のイオンガンのうちの、中央側2基のイオンガンの電流値を200mAに設定し、両端側2基のイオンガンの電流値を300mAに設定した。
これに対し、先の4基のイオンガンの代わりに、幅16cm、長さ1.1mの長方形状の照射径を有するイオンガンを用い、加速電圧を1500V、電流値を1000mAに設定し、他の条件は同等として中間層の成膜を行った。
更に比較のために、先の4基のイオンガンにおいて、加速電圧を1500V、電流値を全て250mAに設定し、他の条件は同等として中間層の成膜を行った。得られた各膜について、先の例と同等位置での膜厚測定を行った。
【0037】
以上の結果を、以下の表1に示す。
「表1」
イオンガン形状: 矩形イオンガン(1基)
電流値: (均一)1000mA
膜厚: 313nm−520nm−517nm−326nm
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: (均等)250mA×4
膜厚: 530nm−710nm−702nm−552nm
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:300mA
膜厚: 746nm−753nm−760nm−738nm
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:280mA
膜厚: 632nm−718nm−722nm−625nm
【0038】
表1に示すように、矩形イオンガンを用いて成膜した場合、膜厚のばらつきが大きい。また、円形イオンガンを4基用いて成膜した場合も、電流値が均等な場合は、膜厚のばらつきが大きい。これに対し、円形イオンガンを4基用いて中央側2基:250mA:両端側2基:300mAあるいは280mAとして両端側のイオンガンの電流値を20%あるいは12%向上させて成膜した場合、より均一性の高い膜を得られることが明らかになった。
【0039】
「表2」
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:600mA(+140%)
配向度:(ΔΦ) 30.5゜−15.3゜−15.2゜−22.3゜
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:500mA(+100%)
配向度:(ΔΦ) 13.2゜−13.3゜−12.2゜−13.4゜
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:280mA(+12%)
配向度:(ΔΦ) 11.3゜−10.1゜−10.2゜−11.0゜
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:260mA(+4%)
配向度:(ΔΦ) 11.9゜−10.9゜−10.8゜−12.2゜
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:250mA
配向度:(ΔΦ) 13.5゜−11.3゜−11.2゜−14.2゜
イオンガン形状: 円形イオンガン(4基)
電流値: 中央側2基:250mA:両端側2基:300mA(+20%)
配向度:(ΔΦ) 13.3゜−10.9゜−11.8゜−12.2゜
【0040】
以上の結果から、両端側のイオンガンの数値を上げることが、膜厚均一性及び結晶配向性のいずれの指標においても有利であることが判る。また、配向度の指標であるΔΦの値から、4〜100%の範囲で向上させることが好ましく、4〜20%の範囲で向上させることがより好ましいことも判明した。