(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5715961
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】バリスタセラミック、バリスタセラミックを含む多層構成要素、バリスタセラミックの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/453 20060101AFI20150423BHJP
H01C 7/10 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
C04B35/00 P
H01C7/10
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-546867(P2011-546867)
(86)(22)【出願日】2010年2月1日
(65)【公表番号】特表2012-516824(P2012-516824A)
(43)【公表日】2012年7月26日
(86)【国際出願番号】EP2010051185
(87)【国際公開番号】WO2010089276
(87)【国際公開日】20100812
【審査請求日】2013年1月11日
(31)【優先権主張番号】102009007235.7
(32)【優先日】2009年2月3日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102009023847.6
(32)【優先日】2009年6月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】エプコス アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】EPCOS AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピバー,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】グリューンビヒラー,ヘルマン
【審査官】
國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−226304(JP,A)
【文献】
特開昭54−025494(JP,A)
【文献】
特開2008−218665(JP,A)
【文献】
特開2009−021301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/453
H01C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の材料:
Znを主成分として、
Prを0.1〜3原子%の割合で、
Coを0.1〜10原子%の割合で、
Caを0.001〜5原子%の割合で、
Siを0.001〜0.5原子%の割合で、
Alを0.001〜0.01原子%の割合で、
Crを0.001〜5原子%の割合で、
Bを0.001〜5原子%の割合で、含み、
セラミックはその他の金属を含んでおらず、アルカリ金属化合物を有していないバリスタセラミック。
【請求項2】
Zn2+を主成分として、
Pr3+/Pr4+を0.1〜3原子%の割合で、
Co2+/Co3+を0.1〜10原子%の割合で、
Ca2+を0.001〜5原子%の割合で、
Si4+を0.001〜0.5原子%の割合で、
Al3+を0.001〜0.1原子%の割合で、
Cr3+を0.001〜5原子%の割合で、
B3+を0.001〜5原子%の割合で、
含む、請求項1に記載のバリスタセラミック。
【請求項3】
ESD防護のための設計形態を有する、請求項1または2に記載のバリスタセラミックを含む多層構成要素。
【請求項4】
次の方法ステップ:
a)未加工セラミック材料の焼成、
b)スラリーの製造、
c)グリーンシートの作成、
d)グリーンシートのバインダ除去、
e)d)のグリーンシートの焼結、
を含む、請求項1または2に記載のバリスタセラミックの製造方法。
【請求項5】
ホウ素酸化物は、ホウ素酸化物前駆物質から遊離するか、またはホウ素含有ガラスの形態で添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップe)における焼結温度が900〜1200℃の間である、請求項4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項1に基づくバリスタセラミックが記載される。
【背景技術】
【0002】
バリスタは電圧依存的な抵抗器であり、過電圧防護として利用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
バリスタセラミックの広く知られている1つの課題は、高い電流領域(ESD,8/20)における切換耐久性を高め、それと同時に、十分に急傾斜の特性曲線を得るとともに、同時に低くて安定した漏れ電流を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、請求項1に記載のバリスタセラミックによって解決される。バリスタセラミックのその他の実施形態はその他の請求項の対象であり、またこのバリスタセラミックを含んでいる多層構成要素、およびバリスタセラミックの製造方法である。
【0005】
本発明の1つの実施形態は、次の材料:
− Znを主成分として、
− Prを0.1〜3原子%の割合で、
を含むバリスタセラミックに関するものである。
【0006】
1つの実施形態では、ZnはZn
2+として、PrはPr
3+/Pr
4+として存在している。
【0007】
1つの実施形態では、Coの割合は0.1〜10原子%の範囲内であり、該Coは好ましくはCo
2+/Co
3+として存在する。
【0008】
1つの実施形態では、Caの割合は0.001〜5原子%の範囲内であり、該Caは好ましくはCa
2+として存在する。
【0009】
1つの実施形態では、Siの割合は0.001〜0.5原子%の範囲内であり、該Siは好ましくはSi
4+として存在する。
【0010】
1つの実施形態では、Alの割合は0.001〜0.1原子%の範囲内であり、該Alは好ましくはAl
3+として存在する。
【0011】
1つの実施形態では、Crの割合は0.001〜5原子%の範囲内であり、該Crは好ましくはCr
3+として存在する。
【0012】
1つの実施形態では、Bの割合は0.001〜5原子%の範囲内であり、該Bは好ましくはB
3+として存在する。
【0013】
酸化亜鉛を主成分として用い、これにプラセオジム(0.1〜3原子%)およびコバルト(0.1〜10原子%)の酸化物がドーパントとして添加され、さらにカルシウム(0.001〜5原子%)、ケイ素(0.001〜1原子%)、アルミニウム(0.001〜0.1原子%)、クロム(0.001〜5原子%)が酸化物の形態で、ならびにホウ素(0.001〜5原子%)が固定された形態で添加される、多層バリスタに好適な材料組成に基づいて、1つの実施形態が技術的な課題を解決する。
【0014】
このとき、アルミニウムは0.001〜0.01原子%の範囲が好ましい。
このようにして、従来の水準に比べて改善された非線形性、再現性、および高電流領域(ESD,8/20)における安定性が実現され、それと同時に、高い粒子境界抵抗に基づいて低減された漏れ電流が実現される。上述した利点は、実施形態の中で詳細に説明される。
【0015】
このバリスタセラミックは適当なプロセス管理で、多層構成要素に加工することができ、この多層構成要素は、非線形性、再現性、ESD安定性、サージ電流安定性、および漏れ電流に関して従来の解決法を凌駕する。
【0016】
1つの実施形態では、バリスタセラミックは、材料システムZnOをベースとして、またプラセオジム(0.1〜3原子%)およびコバルト(0.1〜10原子%)の酸化物をドーパントとして、さらにカルシウム(0.001〜5原子%)、ケイ素(0.001〜0.5原子%)、アルミニウム(0.001〜0.1原子%)、クロム(0.001〜5原子%)を酸化物の形態で、ならびにホウ素(0.001〜5原子%)を固定された形態で含む。
【0017】
このとき、アルミニウムは0.001〜0.01原子%の範囲が好ましい。
1つの実施形態では、バリスタセラミックは、ZnOを主成分として、Pr
3+/Pr
4+を0.1〜3原子%の割合で、Co
2+/Co
3+を0.1〜10原子%の割合で、Ca
2+を0.001〜5原子%の割合で、Si
4+を0.001〜0.5原子%の割合で、Al
3+を0.001〜0.1原子%の割合で、Cr
3+を0.001〜5原子%の割合で、およびB
3+を0.001〜5原子%の割合で含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】多層バリスタの製造プロセスを模式的なフローチャートとして示しており、A1の定量、A2の予備粉砕、A3の乾燥、A4のふるい、A5の焼成、A6の再粉砕、A7の乾燥、A8のふるい、B1のスラリー形成、B2のグリーンシート、C1の導電性ペーストの印刷、C2の積層、C3のカッティング、D1の脱炭、D2の焼結、E1の外部終端の塗布、E2の焼き付けの各方法ステップを含んでいる。
【
図2】内部電極(1)と、バリスタセラミック材料(2)と、外部終端(3)とを含む多層バリスタの構造を模式的に示している。1つの実施形態では、多層バリスタのセラミック体はモノリシックなセラミック体として存在している。
【
図3】左側にESDパルスの特性曲線、右側に8/20パルスの特性曲線をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
多層バリスタの製造は
図1に示すようにして行うことができる。
1つの実施形態では、バリスタ材料の各元素の比率は97.8原子%のZn、1.5原子%のCo、0.1原子%のCr、0.02原子%のSi、0.02原子%のCa、0.002原子%のB、および0.006原子%のAlである。これらの成分は、酸化された形態または固定された形態で上に挙げた比率で定量され(A1)、予備粉砕され(A2)、乾燥され(A3)、ふるいにかけられ(A4)、引き続いて400℃〜1000℃の間で焼成され(A5)、再粉砕され(A6)、噴霧乾燥され(A7)、ふるいにかけられる(A8)。
【0020】
このようにして製作された粉末から、結合剤、分散剤、ならびに溶剤の添加によってスラリーが製作され(B1)、これから5〜60μmの層厚を有するシートが作成され(B2)、次いで、
図1のプロセスチャートに示すようにこれが多層バリスタに加工され:このときグリーンシートに導電性ペーストが印刷され(C1)、積層され、次いでカッティングされる(C2,C3)。
【0021】
以後の脱炭ステップ(D1)で、180℃〜500℃の間の温度でグリーンシートから燃焼により結合剤が除去され、1100〜1400℃の間の温度で各成分が焼結される(D2)。次いで、外部終端層(E1)が塗布され、この層が600℃〜1000℃の間の温度で焼き付けられる(E2)。
【0022】
図2は、多層構成要素を模式的な側面図として示している。ここでは内部電極(1)とバリスタセラミック材料(2)の層とが交互に相上下して連続している。内部電極(1)はそれぞれ交互に一方または他方の外部終端(3)と結合されている。中央領域では、それぞれの内部電極(1)が重なり合っている。
【0023】
図2は、0402多層バリスタの典型的な構造(寸法1.0mm×0.5mm×0.5mm)を示しているが、内部電極(2)の重なり合い面積、ならびに内部電極の個数は、希望する電気構成部分特性に合わせて適合化することができる。
【0024】
構成部分の電気的な特徴づけは、漏れ電流、バリスタ電圧、非線形性係数、8/20パルス安定性、ESDパルス安定性、1Aでの8/20端子電圧(U
K)の判定によって行われる。
【0025】
図3は、左と右にそれぞれパルス推移を示している。ここでは電流Iが時間tに対してそれぞれプロットされている。
【0026】
バリスタ電圧U
Vは1mAで判定され、漏れ電流I
Lは3.5Vの電圧で測定される。ESD安定性は
図3のパルスによって判定され:そのために、構成部分を+/−10のESDパルス(
図3の右側参照)により負荷した。パルスの前後におけるU
Vの百分率変化、およびパルスの前後における漏れ電流の百分率変化をパーセントで計算して、10%を超える百分率変化を有していてはならない。さらに、8/20ロバスト性試験(パルス形状は
図3の右側参照)を実施した。ここでは構成部分を8/20パルス(
図3の右側参照)により1A、5A、10A、15A、20A、および25Aで負荷し、ならびに、バリスタ電圧と漏れ電流の百分率変化を負荷後に判定した。
【0027】
非線形性係数は次の各式に従って判定した:
α1(10μA/1mA) = log(1
*10
−3/10
*10
−6)/log(V
1mA/V
10μA)
α2(1mA/1A) = log(1/1
*10
−3)/log(V
1A/V
1mA)
α3(1mA/20A) = log(20/1
*10
−3)/log(V
20A/V
1mA)
安定性試験は80%AVRの条件下で125℃で実施した。漏れ電流I
Lは、この条件のもとでは増加特性を有していないほうがよい。
【0029】
表1は、6.1Vのバリスタ電圧と<1μAの漏れ電流とを有する、検査した構成部分の電気的な測定値を示している。非線形性係数α
1は13であり、α
2は8.5、α
3は7.0であった。8/20パルスで判定した1Aのときの8/20端子電圧U
Kは15Vよりも低く、構成部分は、漏れ電流領域ならびにバリスタ電圧の領域で特性曲線が10%を超えて変化することなく、25Aの8/20パルスに耐えた。漏れ電流およびバリスタ電圧の変化なしに、人体モデルに基づく30kVのESDパルスにより構成部分を負荷することができた。上に掲げた条件のもとでの安定性試験は、500時間の負荷時間について、等しく保たれる、または若干低下する漏れ電流特性を示していた。バリスタパラメータU
VおよびI
Lの中間測定と最終測定は、125℃と80%のAVRのもとでの構成部分の負荷後に、2%よりも低い値の百分率変化を示していた。
【0030】
ケイ素濃度、コバルト濃度またはプラセオジム濃度、およびアルミニウム含有量の変化は、定量時の変動に対するセラミック組成のロット再現性ならびにロバスト性を示していた。セラミック組成の3つすべての態様において、バリスタセラミックの化学組成の変化は、電流/電圧特性曲線の電気特性値や、8/20パルスおよびESDパルスに関わる耐久性のわずかな変化しか引き起こさない。表2と表4の組成態様、ならびにこれに対応する表3と表5の電気特性量は、このことを証明している。
【0035】
1つの実施形態では、酸化物として適用されるZnの割合は好ましくは90原子%よりも大きい。
【0036】
1つの実施形態では、Prの割合は好ましくは0.5〜0.6原子%の範囲内である。
1つの実施形態では、Coの割合は好ましくは1.5〜2.0原子%の範囲内である。
【0037】
1つの実施形態では、Caの割合は好ましくは0.01〜0.03原子%の範囲内である。
【0038】
1つの実施形態では、Siの割合は好ましくは0.01〜0.15原子%の範囲内である。
【0039】
1つの実施形態では、Alの割合は好ましくは0.005〜0.1原子%の範囲内であり、特に好ましくは0.005〜0.01原子%の範囲内である。
【0040】
1つの実施形態では、Crの割合は好ましくは0.05〜0.2原子%の範囲内である。
【0041】
1つの実施形態では、Bの割合は好ましくは0.001〜0.01原子%の範囲内である。
【0042】
1つの実施形態では、バリスタセラミックは、900〜1200℃の間の焼結温度を有しており、焼結温度は好ましくは1100℃〜1200℃の範囲内である。
【0043】
アルカリカーボネート添加剤が回避される結果として、工業プロセスの過程で高い再現性を実現することができる。
【0044】
調合からアルカリ化合物が回避されることによって、湿式化学の加工ステップにおけるプロセス管理の再現性に関して、大幅な改善が実現される。その結果として、個々の製品の少ないばらつきと同時に、改善されたロット再現性がもたらされる。焼結補助剤としてのホウ素酸化物から比較的高い温度で初めて遊離するホウ素化合物を適用することで、アルカリ酸化物の添加物なしに、1200度以下までへの焼結温度の引き下げが実現され、それにより、管理された空中での冷却時に形成される、定義された障壁の構造を粒子境界領域に有している好都合な組織形成が成立する。
【0045】
製造方法においては、組織構成を制御する目的のために、酸化ホウ素を焼結補助剤として、気化損失をほぼ回避しながら、高い温度領域で適当な前段階から遊離させることができる。
【0046】
設計形態0402および0201の多層バリスタは、漏れ電流、ESD安定性、8/20ロバスト性、長期安定性、および非線形性の結果が卓越しているという特徴がある。
【0047】
主成分とは少なくとも50原子%の割合を意味する。Znの割合は好ましくは70原子%を超える。
【0048】
バリスタセラミックの製造方法の1つの変更例では、製造方法は次の方法ステップ:a)未加工セラミック材料の焼成、b)スラリーの製造、c)グリーンシートの作成、d)グリーンシートのバインダ除去、e)d)のグリーンシートの焼結を含む。
【0049】
製造方法の別の変更例では、製造方法は方法ステップd)とe)の間に追加的に方法ステップd1)構造の組立を含む。
【0050】
製造方法の1つの変更例では、ホウ素酸化物は、ホウ素酸化物前駆物質から遊離するか、またはホウ素含有ガラスの形態で添加される。
【符号の説明】
【0051】
1) 内部電極
2) バリスタセラミック材料
3) 外部終端