(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5716029
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子集積体
(51)【国際特許分類】
C01B 25/08 20060101AFI20150423BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20150423BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20150423BHJP
C09K 11/70 20060101ALI20150423BHJP
C01B 19/04 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
C01B25/08 A
C09K11/08 GZNM
C09K11/88CPA
C09K11/70CQF
C01B19/04 C
C01B19/04 H
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-530551(P2012-530551)
(86)(22)【出願日】2011年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2011055993
(87)【国際公開番号】WO2012026149
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2013年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-190352(P2010-190352)
(32)【優先日】2010年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 優
(72)【発明者】
【氏名】高梨 健作
(72)【発明者】
【氏名】星野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】権田 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】武田 元博
(72)【発明者】
【氏名】大内 憲明
【審査官】
植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−281019(JP,A)
【文献】
特開2010−090356(JP,A)
【文献】
特開2010−132906(JP,A)
【文献】
特表2008−510852(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/086189(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/08
C01B 19/04
C09K 11/08
C09K 11/70
C09K 11/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子集積体であって、
前記半導体ナノ粒子間がアミド結合によって結合し、
前記半導体ナノ粒子のコア部を形成するためのコア部形成素材が、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSe、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、又はInAsの半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれ、
前記半導体ナノ粒子のシェル部を形成するためのシェル部形成素材が、II−VI族、III−V族、又はIV族の元素を含む無機半導体から選ばれることを特徴とする半導体ナノ粒子集積体。
【請求項2】
前記コア部形成素材が、InP、Si、CdTe又はCdSeの半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の半導体ナノ粒子集積体。
【請求項3】
前記シェル部形成素材が、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSe、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、InAs、ZnS、又はSiO2の半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体ナノ粒子集積体。
【請求項4】
前記シェル部形成素材が、ZnS、又はSiO2の半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体。
【請求項5】
前記半導体ナノ粒子間がアミド結合によって結合している半導体ナノ粒子集積体が、アミノ基末端のコア/シェル半導体ナノ粒子とカルボキシル基末端のコア/シェル半導体ナノ粒子を反応させて形成されることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体。
【請求項6】
前記コア部形成素材が、InP、CdSe、又はCdTeの半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体。
【請求項7】
平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光輝度の高い半導体ナノ粒子集積体に関する。
【背景技術】
【0002】
標識剤として蛍光発光する半導体ナノ粒子を用いる場合、一粒子当たりの輝度が大きいほど感度が高くなることから、一粒子当たりの輝度のより高い粒子が望まれている。
蛍光発光する半導体ナノ粒子としては、II−VI族、及びIII−V族の半導体ナノ粒子が広く知られている。これらの半導体ナノ粒子を蛍光診断薬として使用するとなると、一粒子当たりの輝度がまだまだ足りないというのが現状である。
一方、一般的に、コア/シェル構造を有する半導体ナノ粒子に比べ、コア半導体ナノ粒子だけでは粒子の輝度は非常に低い。コア粒子よりもバンドギャップの広い半導体材料をシェルとして用いることにより、量子井戸が形成され量子閉じ込め効果により輝度は著しく向上する。
したがって、高輝度化する方法として、コア/シェル半導体ナノ粒子を集積させ一粒子当たりの輝度を上げる方法が考えられる。
しかし、高密度で半導体ナノ粒子を集積させると、粒子間の距離が近くなりすぎてしまい濃度消光が起こる。ここでの濃度消光はコア/シェル粒子が接触することにより電子移送が起こり、量子閉じ込め効果が低くなることが原因であると考えられる。
また、一方、このような半導体ナノ粒子については、水溶液中で合成する方法と非水溶液中で合成する方法が開発されている。しかしながら、溶液中で合成した半導体ナノ粒子は、合成した直後から、次第に粒子の凝集等が起こって発光特性が劣化し、また、特に非水溶液中で合成したナノ粒子は、水分に弱く、微量の水分の共存によって蛍光が急速に衰え、さらに、ナノ粒子の溶液のままでは材料として工学的に応用しにくいという問題があった。
そのため、半導体ナノ粒子を透明なガラス等のマトリックス中に分散固定する形で閉じ込め、種々の環境下で長期にわたって高輝度発光特性を示す工学的応用に適した固体材料とする技術が提案されている。
例えば、非特許文献1には、シリカビーズ表面をシランカップリング処理することにより末端をアミノ基化し、カルボキシル基末端の半導体ナノ粒子を反応させることで、シリカビーズと半導体ナノ粒子間がアミド結合で結合させる技術が開示されている。しかしながら、シリカビーズ表面にしか量子ドットが集積されていないため、それほど高濃度に半導体ナノ粒子を集積させることは出来ない。
さらに例えば、特許文献1には、逆ミセル法と、ガラスの前駆体として分子の末端に半導体ナノ粒子への吸着性が良い有機官能基を有する有機アルコキシシランとアルコキシドの混合物を用いたゾル−ゲル法とを組み合わせることにより、半導体ナノ粒子を内部に分散固定したガラス蛍光体が開示されている。しかしながら、ゾル−ゲル法における反応の影響により発光効率の低下が見られる。また、有機アルコキシシラン及びアルコキシドの加水分解生成物を含むため、半導体ナノ粒子間の距離が長くなってしまい、それほど高濃度に半導体粒子を集めることはできないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−281019号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. Chen et al. Chemical Communication, 2009, 2670.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、蛍光発光する半導体ナノ粒子を高密度に集積させても濃度消光せず、発光輝度の高い半導体ナノ粒子集積体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。 1.コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子集積体であって、
前記半導体ナノ粒子間がアミド結合によって結合し
、 前記半導体ナノ粒子のコア部を形成するためのコア部形成素材が、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSe、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、又はInAsの半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれ、 前記半導体ナノ粒子のシェル部を形成するためのシェル部形成素材が、II−VI族、III−V族、又はIV族の元素を含む無機半導体から選ばれることを特徴とする半導体ナノ粒子集積体
。 2.前記コア部形成素材が、InP、Si、CdTe又はCdSeの半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする第1項に記載の半導体ナノ粒子集積体。 3.前記シェル部形成素材が、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSe、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、InAs、ZnS、又はSiO2の半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする第1項又は第2項に記載の半導体ナノ粒子集積体。 4.前記シェル部形成素材が、ZnS、又はSiO2の半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれることを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体。【0007】
5.前記半導体ナノ粒子間がアミド結合によって結合している半導体ナノ粒子集積体が、アミノ基末端のコア/シェル半導体ナノ粒子とカルボキシル基末端のコア/シェル半導体ナノ粒子を反応させて形成されることを特徴とする
第1
項から第4項までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体
。【0008】
6.前記コア部
形成素材が
、In
P、CdS
e、又はCdTe
の半導体、若しくはこれらを形成する原料から選ばれ
ることを特徴とする
第1項
から第5項までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体
。【0009】
7.平均粒径が、50〜500nmの範囲内であることを特徴とする
第1
項から第6項までのいずれか一項に記載の半導体ナノ粒子集積体
。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蛍光発光する半導体ナノ粒子を高密度に集積させても、濃度消光せず、発光輝度の高い半導体ナノ粒子集積体を提供することができる。
一般に、半導体ナノ粒子を高密度に集積させると、集積反応時の半導体ナノ粒子の輝度の劣化、濃度消光などを起こし、コア/シェル半導体ナノ粒子の個数分の輝度にはならない。しかし、本発明のように、コア/シェル半導体ナノ粒子をアミド結合で結合することにより、集積反応時の輝度劣化、集積による濃度消光が起こる程度を少なくすることを可能とし、コア/シェル半導体ナノ粒子間の距離が適正に保たれることにより、濃度消光が起こらなくなったと推察される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る半導体ナノ粒子集積体について説明する。
(半導体ナノ粒子集積体)
本発明の半導体ナノ粒子集積体は、コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子を含有する半導体ナノ粒子集積体であって、当該半導体ナノ粒子間がアミド結合によって結合されている。
本発明の実施態様としては、アミノ基末端の半導体ナノ粒子とカルボキシル基末端の半導体ナノ粒子を反応させることが好ましい。さらに、当該コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子のコア部を構成する素材が、リン化インジウム(InP)、ケイ素(Si)、セレン化カドミウム(CdSe)、及びテルル化カドミウム(CdTe)からなる群から選ばれる単体又は化合物であることが好ましい。
【0012】
本願において、「コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子」とは、後述する半導体形成材料(素材)を含有するナノサイズ(1〜40nm)の粒径を有する粒子であって、コア部(芯部)とそれを被覆するシェル部(被覆部)で構成される多重構造を有する粒子をいう。
【0013】
本発明において、半導体ナノ粒子集積体の平均粒径は、5〜1000nmの範囲内であることが好ましく、さらに50〜500nmの範囲内であることが好ましい。ここで、平均粒径を50〜500nmとしたのは、50nm未満とした場合には、半導体ナノ粒子の内包数が少なくなり大きな輝度を持つ半導体ナノ粒子集積体とならなくなり、500nmを超えると、生体物質標識剤として用いた際に、半導体ナノ粒子集積体の大きさ、重さにより抗原-抗体反応が起こりにくくなったり、一度結合した抗原と抗体が解離したりするためである。
【0014】
コア/シェル構造を持つ半導体ナノ粒子及び半導体ナノ粒子集積体の粒径の測定方法は、動的光散乱法による粒度分布より計算して求めている。半導体ナノ粒子の粒度分布はMalvern社のZetasizerを用いて計測している。
半導体ナノ粒子の内包数の計算は以下のようにして行っている。まず、半導体ナノ粒子の元素比をICP-AES(ICPS-7500 島津製作所)を用いて計測し乾燥重量からモル数を算出する。また、吸光度を測定することにより、モル吸光係数を求める。その後、半導体ナノ粒子集積体の乾燥重量を計算し、吸光度を測定する。半導体ナノ粒子の密度は既知なので、上記動的光散乱法で計算した平均粒径、半導体ナノ粒子集積体の吸光度と合わせて内包数を見積もることが可能である。
【0015】
<コア部形成素材>
本発明に係るコア部(「コア粒子」ともいう。)を形成するための素材としては、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSe、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、InAsなどの半導体又はこれらを形成する原料を用いることができる。
本発明においては、特に、InP、Si、CdTe、CdSeがより好ましく用いられる。
【0016】
<シェル部形成素材>
本発明に係るシェル部を形成するための素材としては、II−VI族、III−V族、IV族の無機半導体を用いることができる。例えば、Si、Ge、InN、InP、GaAs、AlSe、CdSe、AlAs、GaP、ZnTe、CdTe、InAsなどの各コア部形成無機材料よりバンドギャップが大きく、毒性を有さない半導体又はこれらを形成する原料が好ましい。
より好ましくは、InP、CdTe、及びCdSeにはZnSが、SiにはSiO
2がシェルとて適用される。
【0017】
(半導体ナノ粒子の製造方法)
本発明に係る半導体ナノ粒子の製造方法としては、液相法又は気相法による方法を採用できる。
液相法の製造方法としては、沈殿法、共沈法、ゾル−ゲル法、均一沈殿法、還元法などがある。そのほかに、逆ミセル法、超臨界水熱合成法、などもナノ粒子を作製する上で優れた方法である(例えば、特開2002−322468号、特開2005−239775号、特開平10−310770号、特開2000−104058号公報等を参照。)。
なお、液相法により、半導体ナノ粒子の集合体を製造する場合においては、当該半導体の前駆体を還元反応により還元する工程を有する製造方法であることも好ましい。
また、当該半導体前駆体の反応を界面活性剤の存在下で行う工程を有する態様が好ましい。なお、本発明に係る半導体前駆体は、上記の半導体材料として用いられる元素を含む化合物であり、たとえば半導体がSiの場合、半導体前駆体としてはSiCl
4などが挙げられる。その他半導体前駆体としては、InCl
3、P(SiMe
3)
3、ZnMe
2、CdMe
2、GeCl
4、トリブチルホスフィンセレンなどが挙げられる。
反応前駆体の反応温度としては、半導体前駆体の沸点以上かつ溶媒の沸点以下であれば、特に制限はないが、70〜110℃の範囲が好ましい。
【0018】
(半導体ナノ粒子集積体の製造方法)
本発明に係る半導体ナノ粒子集積体の製造方法としては、カルボジイミドを用いたアミド基形成法を用いることが出来る。具体的には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の存在化で、アミノ基末端の半導体ナノ粒子と、カルボキシル基末端の半導体ナノ粒子を混合し、半導体ナノ粒子間をアミド結合で介した半導体ナノ粒子集積体を製造する。
半導体ナノ粒子集積体の粒径は、アミノ基末端の半導体ナノ粒子とカルボキシル基末端の半導体ナノ粒子の混合比により決定され、アミノ基末端の半導体ナノ粒子とカルボキシル基末端の半導体ナノ粒子の混合比が、1:1に近くなるほど粒径が大きくなる傾向がある。
【0019】
<還元剤>
半導体前駆体を還元する還元剤としては、従来周知の種々の還元剤を反応条件に応じて選択し用いることができる。本発明においては、還元力の強さの観点から、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウム(LiBH(sec−C
4H
9)
3)及び水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム、水素化トリエチルホウ素リチウムなどの還元剤が好ましい。特に、還元力の強さから水素化アルミニウムリチウム(LiAlH
4)が好ましい。
【0020】
<溶媒>
半導体前駆体の分散用溶媒としては、従来周知の種々の溶媒を使用できるが、エチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、トルエン、デカン、ヘキサンなどの炭化水素類溶媒を使用することが好ましい。本発明においては、特に、トルエン等の疎水性の溶媒が分散用溶媒として好ましい。
【0021】
<界面活性剤>
界面活性剤としては、従来周知の種々の界面活性剤を使用でき、陰イオン、非イオン、陽イオン、両性界面活性剤が含まれる。なかでも第四級アンモニウム塩系である、テトラブチルアンモニウムクロリド、ブロミド又はヘキサフルオロホスフェート、テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB)、またはトリブチルヘキサデシルホスホニウムブロミドが好ましい。特に、テトラオクチルアンモニウムブロミドが好ましい。
【0022】
なお、液相法による反応は、液中の溶媒を含む化合物の状態により大きく変化する。単分散性の優れたナノサイズの粒子を製造する際には、特に注意を要する必要がある。例えば、逆ミセル反応法では、界面活性剤の濃度や種類により、反応場となる逆ミセルの大きさや状態が変わってくるため、ナノ粒子が形成される条件が限られてしまう。したがって、適切な界面活性剤は溶媒との組み合わせが必要となる。
【0023】
気相法の製造方法としては、(1)対向する原料半導体を電極間で発生させた第一の高温プラズマによって蒸発させ、減圧雰囲気中において無電極放電で発生させた第二の高温プラズマ中に通過させる方法(例えば特開平6−279015号公報参照。)、(2)電気化学的エッチングによって、原料半導体からなる陽極からナノ粒子を分離・除去する方法(例えば特表2003−515459号公報参照。)、(3)レーザーアブレーション法(例えば特開2004−356163号参照。)、(4)高速スパッタリング法(例えば特開2004−296781号参照。)などが用いられる。また、原料ガスを低圧状態で気相反応させて、粒子を含む粉末を合成する方法も、好ましく用いられる。
なお、半導体ナノ粒子の凝集体及び半導体ナノ粒子集積体の製造方法の概要については、上述したが、具体的方法は、実施例の説明において詳述する。
【0024】
(応用例)
以下において、本発明に係る半導体ナノ粒子集積体の代表的な応用例について説明する。
<生体物質標識剤とバイオイメージング>
本発明の半導体ナノ粒子集積体は、生体物質蛍光標識剤に適応することができる。標的(追跡)物質を有する生細胞もしくは生体に、生体物質標識剤を添加することで、標的物質と結合もしくは吸着し、当該結合体もしくは吸着体に所定の波長の励起光を照射し、当該励起光に応じて蛍光半導体微粒子から発生する所定の波長の蛍光を検出することにより、上記標的(追跡)物質の蛍光動態イメージングを行うことができる。すなわち、生体物質標識剤は、バイオイメージング法(生体物質を構成する生体分子やその動的現象を可視化する技術手段)に利用することができる。
【0025】
《半導体ナノ粒子集積体の親水化処理》
上述した半導体ナノ粒子集積体表面は、一般的には、疎水性であるため、例えば生体物質標識剤として使用する場合は、このままでは水分散性が悪く、半導体ナノ粒子集積体が凝集してしまう等の問題があるため、半導体ナノ粒子集積体の表面を親水化処理することが好ましい。
親水化処理の方法としては例えば、表面の親油性基をピリジン等で除去した後に半導体ナノ粒子集積体表面に表面修飾剤を化学的および/または物理的に結合させる方法がある。表面修飾剤としては、親水基として、カルボキシル基・アミノ基を持つものが好ましく用いられ、具体的にはメルカプトプロピオン酸、メルカプトウンデカン酸、アミノプロパンチオールなどがあげられる。具体的には、例えば、Ge/GeO
2型ナノ粒子10
-5gをメルカプトウンデカン酸0.2gが溶解した純水10ml中に分散させて、40℃、10分間攪拌し、シェルの表面を処理することで無機ナノ粒子のシェルの表面をカルボキシル基で修飾することができる。
【0026】
《生体物質標識剤》
生体物質標識剤は、上述した親水化処理された半導体ナノ粒子集積体と、分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0027】
《分子標識物質》
生体物質標識剤は分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合および/または反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
当該分子標識物質としては、例えば、ヌクレオチド鎖、抗体、抗原及びシクロデキストリン等が挙げられる。
【0028】
《有機分子》
生体物質標識剤は、親水化処理された半導体ナノ粒子集積体と、分子標識物質とが有機分子により結合されている。当該有機分子としては半導体ナノ粒子集積体と分子標識物質とを結合できる有機分子であれば特に制限はないが、例えば、タンパク質中でも、アルブミン、ミオグロビンおよびカゼイン等、またタンパク質の一種であるアビジンをビオチンと共に用いることも好適に用いられる。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着および化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
具体的には、半導体ナノ粒子集積体をメルカプトウンデカン酸で親水化処理した場合は、有機分子としてアビジンおよびビオチンを用いることができる。この場合親水化処理されたナノ粒子のカルボキシル基はアビジンと好適に共有結合し、アビジンがさらにビオチンと選択的に結合し、ビオチンがさらに生体物質標識剤と結合することにより生体物質標識剤となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
1.[実施例1〜7]:本発明
(1)InP/ZnSコア/シェル構造半導体ナノ粒子の合成
InPコア粒子の合成は、下記の加熱溶液法によって行った。
三つ口フラスコに6mlのオクタデセンを入れ、その溶媒中に1mlのオクタデセンに溶解させたIn(acac)
3とトリス(トリメチルシリル)ホスフィンをInとPの比がIn/P=1/1となるように加え、アルゴン雰囲気中で300℃、1h反応させInPコア粒子(分散液)を得た。
InP/ZnSコア/シェル粒子の合成は、300℃、1h反応後のInPコア粒子分散液を80℃まで放冷した後、その分散液に1mlのオクタデセンに溶解させたステアリン酸亜鉛+硫黄をIn、P、Zn、Sの比がIn/P/Zn/S=1/1/1/1となるように加え、80℃から230℃に昇温し、30分反応させることにより得た。このようにして得られたInP/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子は630nmに極大発光波長を持った粒子であった。
【0030】
(2)カルボキシル基末端、アミノ基末端InP/ZnS半導体ナノ粒子の合成
カルボキシル基末端のInP/ZnSは上記反応後の分散液を放冷し、室温まで冷却した後にZnSの10倍モル量の2−メルカプトプロピオン酸を加え、超純水を加え合成した。
アミノ基末端のInP/ZnSは上記のようにして得られたカルボキシル基末端InP/ZnSに10倍モル量の(3−アミノプロピル)−トリメトキシシランを反応させアミノ基末端InP/ZnSを合成した。
【0031】
(3)半導体ナノ粒子集積体形成
EDC存在下で、カルボキシル基末端InP/ZnSとアミノ基末端InP/ZnSを混合し12h強撹拌して半導体ナノ粒子集積体を得た。カルボキシル基末端InP/ZnSとアミノ基末端InP/ZnSの量比はそれぞれ1:100(実施例1)、1:50(実施例2)、1:10(実施例3)、1:1(実施例4)、10:1(実施例5)、50:1(実施例6)、100:1(実施例7)とした。
【0032】
2.[実施例8〜14]:本発明
(1)CdSe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子の合成
CdSe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子の合成は以下のように行った。
Ar気流下、トリ−n−オクチルホスフィンオキシド(TOPO)7.5gに、ステアリン酸2.9g、n−テトラデシルホスホン酸620mg、及び、酸化カドミニウム250mgを加え、370℃に加熱混合した。これを270℃まで放冷させた後、トリブチルフォスフィン2.5mlにセレン200mgを溶解させた溶液を加え、減圧乾燥し、TOPOで被覆されたCdSeコア半導体ナノ粒子を得た。
CdSe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子合成は得られたCdSeコア粒子に、TOPO15gを加えて加熱し、引き続き270℃でトリオクチルホスフィン10mlにジエチルジチオカルバミン酸亜鉛1.1gを溶解した溶液を加え、CdSe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子を得た。
【0033】
(2)カルボキシル基末端、アミノ基末端CdSe/ZnS半導体ナノ粒子の合成
カルボキシル基末端のCdSe/ZnSは上記反応後の分散液を放冷し、室温まで冷却した後にZnSの10倍モル量の2−メルカプトプロピオン酸を加え、超純水を加え合成した。アミノ基末端のCdSe/ZnSは上記のようにして得られたカルボキシル基末端CdSe/ZnSに10倍モル量の(3−アミノプロピル)−トリメトキシシランを反応させアミノ基末端CdSe/ZnSを合成した。
(半導体ナノ粒子集積体形成)
EDC存在下で、カルボキシル基末端CdSe/ZnSとアミノ基末端CdSe/ZnSを混合し12h強撹拌して半導体ナノ粒子集積体を得た。カルボキシル基末端CdSe/ZnSとアミノ基末端CdSe/ZnSの量比はそれぞれ1:100(実施例8)、1:50(実施例9)、1:10(実施例10)、1:1(実施例11)、10:1(実施例12)、50:1(実施例13)、100:1(実施例14)とした。
【0034】
3.[実施例15〜21]:本発明
(1)CdTe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子の合成
CdTe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子に関しては特開2005−281019号公報の実施例1に従い合成した。
CdTeコア粒子については、ヒェミー、100巻、1772頁(1996)による方法に従って合成した。
すなわち、アルゴンガス雰囲気下、界面活性剤としてのチオグリコール酸(HOOCCH
2SH)の存在下で25℃、pH=11.4に調整した過塩素酸カドミウム水溶液を激しく撹拌しながら、テルル化水素ガスを反応させた。この水溶液を大気雰囲気下で6日間還流することにより、CdTeコア粒子を得た。
このようにして得られたCdTeコア粒子は640nmに極大発光波長を持った粒子であった。
CdTe/ZnSコア/シェル粒子の合成は、この水溶液を80℃まで加熱した後、その溶液に1mlの水に溶解させたステアリン酸亜鉛+硫黄をCd、Te、Zn、Sの比がIn/P/Zn/S=1/1/1/1となるように加え、80℃から230℃に昇温し、30分反応させることにより得た。
【0035】
(2)カルボキシル基末端、アミノ基末端Cd
Te/ZnS半導体ナノ粒子の合成
カルボキシル基末端のCd
Te/ZnSは上記反応後の分散液を放冷し、室温まで冷却した後にZnSの10倍モル量の2−メルカプトプロピオン酸を加え、超純水を加え合成した。
アミノ基末端のCd
Te/ZnSは上記のようにして得られたカルボキシル基末端Cd
Te/ZnSに10倍モル量の(3−アミノプロピル)−トリメトキシシランを反応させアミノ基末端Cd
Te/ZnSを合成した。
【0036】
(3)半導体ナノ粒子集積体形成
EDC存在下で、カルボキシル基末端Cd
Te/ZnSとアミノ基末端Cd
Te/ZnSを混合し12h強撹拌して半導体ナノ粒子集積体を得た。カルボキシル基末端Cd
Te/ZnSとアミノ基末端Cd
Te/ZnSの量比はそれぞれ1:100(実施例8)、1:50(実施例9)、1:10(実施例10)、1:1(実施例11)、10:1(実施例12)、50:1(実施例13)、100:1(実施例14)とした。
【0037】
4.[実施例22〜24]:比較例
特開2005−281019号公報記載の実施例1に従い、シリカマトリックス中にそれぞれInP/ZnS、CdSe/ZnS、CdTe/ZnSが存在する半導体ナノ粒子集積体を作成した。
InP/ZnS、CdSe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子分散液を25℃、pH=10の条件下、界面活性剤としてチオグリコール酸を加えることにより水溶化した。その後、疎水性有機溶媒としてのイソオクタン(2,2,4−トリメチルペンタン)25mlに、逆ミセル(逆マイクロエマルジョン)を形成させるために必要な界面活性剤ビス(2−エチルヘキシル)スルホこはく酸ナトリウム(エーロゾルOT)(「AOT」とも表記する。)1.1115gを溶解し、次に、この溶液を撹拌しながら、水0.74mlと、上記の水溶化InP/ZnS、CdSe/ZnS、CdTe/ZnSコア/シェル半導体ナノ粒子溶液0.3ml加えて溶解した。次に、この溶液を撹拌しながら、ゾル−ゲルガラスの前駆体として、アルコキシドであるテトラエトキシシラン(TEOS)0.399ml、および、有機アルコキシシランである3−アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)0.079mlを加えた。
この分散液を2日間撹拌することによりシリカマトリックス中にそれぞれInP/ZnS、CdSe/ZnS、CdTe/ZnSが存在する半導体ナノ粒子集積体とした。
【0038】
以上で得た各種半導体ナノ粒子集積体についての内容と輝度測定の結果をまとめて下記表1に示す。
なお、輝度測定は、光源として146nmの真空紫外線ランプ(ウシオ社製)を使用し、真空チャンバー内にサンプルをセットし、真空度1.33×10Paにて一定距離から照射し励起発光を輝度計で測定した。輝度の値については実施例1のInP/ZnSコア/シェル粒子を1としたときの相対値で示した。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の半導体ナノ粒子集積体の発光輝度は、比較例の半導体ナノ粒子集積体の発光輝度に比べて、優れていることが分かる。つまり、本発明の半導体ナノ粒子集積体は、半導体ナノ粒子を高密度に集積させても濃度消光せずに、発光輝度が高いことが認められる。