(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5716076
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】PTCデバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 17/02 20060101AFI20150423BHJP
H01C 7/02 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
H01C17/02
H01C7/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-239280(P2013-239280)
(22)【出願日】2013年11月19日
(62)【分割の表示】特願2009-528115(P2009-528115)の分割
【原出願日】2008年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-33235(P2014-33235A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2013年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2007-211343(P2007-211343)
(32)【優先日】2007年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】小山 洋幸
【審査官】
田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/052790(WO,A1)
【文献】
実開平03−076388(JP,U)
【文献】
特開平09−320802(JP,A)
【文献】
特開2000−232007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 17/02
H01C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)導電性フィラー、および
(a2)ポリマー材料
を含んで成り、対向する主表面、およびこれらの主表面の外周部を接続する側面によって規定されるポリマーPTC要素、ならびに
(B)ポリマーPTC要素の両側の主表面に配置された層状金属電極
を有して成るPTCデバイス
の製造方法であって、
ポリマーPTC要素の少なくとも一方の主表面の周囲から外向きに延在する支持部材上に液状の硬化性樹脂を供給して、メニスカス力または毛管力によって、液状の硬化性樹脂をポリマーPTC要素の側面の全体を覆うように広げる樹脂供給工程、ならびに
硬化性樹脂を硬化する工程
を含んで成る製造方法。
【請求項2】
導電性フィラーは、ニッケルまたはニッケル合金フィラーであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
支持部材上に配置された樹脂は、熱硬化した熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
少なくとも一方の層状金属電極は、ポリマーPTC要素の主表面上に位置する第1部分およびポリマーPTC要素の側面より外側に位置し、支持部材として機能する第2部分により構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
双方の層状金属電極が第1部分および第2部分により構成され、樹脂供給工程は、少なくとも一方の第2部分上に硬化性樹脂を供給して、ポリマーPTC要素の側面を第2部分の間に位置する硬化性樹脂により覆うことによって実施することを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ポリマーPTC要素は、平坦ディスク状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
支持部材は、ポリマーPTC要素の側面の縁部から外向きに突出する平坦円環状部材であることを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTCデバイスおよびその製造方法に関する。詳しくは、導電性フィラーとして金属フィラー、特に酸素雰囲気下において酸化され易いフィラーを含むポリマーPTC要素を用いるPTCデバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気または電子機器において、電源回路等に過剰に大きい電流が流れた場合に、機器を構成する重要な要素が故障するのを未然に防ぐためにポリマーPTC(Positive Temperature Coefficient)デバイスが回路保護素子として広く使用されている。このようなデバイス自体は周知であり、通常、ポリマー中で導電性フィラーが分散しているポリマー組成物でできた、通常は層状の形態のPTC要素、およびその対向する主表面に配置された金属箔電極を有して成る。
【0003】
例えば乾電池を含む電源回路または充電可能な電池パックにおいて用いられるPTCデバイスは、中央に乾電池のプラス極突出部を収容できる貫通穴を有するディスク状の形態を有する。使用に際しては、乾電池のプラス極突出部をPTCデバイスの貫通孔によって囲み、そして、PTCデバイスの一方の金属箔電極が乾電池の封口板に接触するように配置する。そして、他方の金属箔電極には例えば所定のリードを接続する。
【0004】
このようなPTCデバイスが具備すべき要件の1つとして、平常時のPTCデバイス自体の抵抗が小さい必要がある。そのような低抵抗のPTCデバイスに用いられるPTC要素には、ポリマー中に分散させる導電性フィラーとして金属フィラー、特にニッケルまたはニッケル合金のフィラーが用いられる。このような金属フィラーは、PTCデバイスの周辺雰囲気中に存在する酸素によって酸化されやすく、その結果、PTC要素の抵抗値が増える。このような抵抗値の増加は、本来的には低抵抗であるべきPTCデバイスには好ましくない。
【0005】
そこで、そのような金属フィラーを用いるポリマーPTCデバイスでは、PTC要素の露出部分が周辺雰囲気に触れないように、従って、金属フィラーの酸化を防止するために、露出部分にそれを覆う樹脂コーティングを形成する対策が採られている。PTC要素の主表面は、上述のように、金属箔電極で覆われているので、そのような露出部分は、PTC要素の専ら側面部分(即ち、層状PTC要素の厚みを規定する側面部分、従って、PTC要素の対向する主表面の外周部を接続する面)である。
【0006】
樹脂のコーティングを形成することは、PTC要素およびその主表面上にそれと同形の金属箔電極を有するPTCデバイスを得た後に、PTC要素の側面部分に硬化性樹脂を塗布し、その後、これを硬化させることによって実施している。硬化性樹脂の塗布は、露出部分に樹脂をハケ、スプレー等で塗布することによって実施できる。硬化した樹脂は基本的には絶縁性であるので、この塗布に際しては、ハケが金属箔電極上に触れて樹脂が金属箔電極の露出面に供給されないように、細心の注意を払う必要があり、従って、そのような塗布は容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO1997/06538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上述のような酸化防止のための樹脂コーティングを容易に形成できるPTCデバイスの製造方法およびそのような方法によって製造されるPTCデバイスを提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述の課題について鋭意検討を重ねた結果、PTC要素の主表面から外向きに突出する支持部材を設け、その支持部材上に硬化性樹脂を供給すると、供給した樹脂がPTC要素の側面に容易に濡れ広がり、その結果、PTC要素の露出している側面の実質的に全部が樹脂に覆われることを見出し、本発明を完成するに到った。この支持部材は、PTC要素の一方の主表面から突出しているだけであってもよいが、双方の主表面から突出しているのが特に好ましい。前者の場合は、支持部材上に供給した硬化性樹脂がメニスカス力または毛管力によってPTC要素の側面を濡らすと共に、側面の実質的に全体に広がる。また、後者の場合は、一方の支持部材の上に供給された硬化性樹脂が、あるいは双方の支持部材の間に供給された硬化性樹脂がPTC要素の側面の実質的に全体に広がる。
【0010】
いずれの場合であっても、供給された硬化性樹脂が広がる結果、硬化性樹脂はPTC要素の側面上のみに存在することはなく、それに加えて、一方または双方(双方の主表面から支持部材が突出する場合)の支持部材の内側表面(即ち、PTC要素の側面に近い側の面)の少なくとも一部分であってPTC要素の側面に近接する部分の上に存在することになる。この意味で、本発明では、支持部材が双方の主表面から支持部材が突出する場合であっても、「硬化性樹脂は支持部材上に供給される」ことになり、従って、樹脂が硬化する場合には「硬化した硬化性樹脂は支持部材上に配置されて支持されている」ことになる。
【0011】
このように側面の全体に広がった硬化性樹脂を硬化することによって、PTC要素の側面をPTCデバイスの周辺雰囲気に対してシールする、従って、PTCデバイスの周辺雰囲気中に存在する酸素がPTC要素中で(厳密には、PTC要素を構成するポリマー中で)分散している導電性フィラーにアクセスすることを可及的に抑制する樹脂コーティングを形成することができる。
【0012】
従って、第1の要旨において、本発明は、
(A)(a1)導電性フィラー、および
(a2)ポリマー材料
を含んで成り、対向する主表面、およびこれらの主表面の外周部を接続する側面によって規定されるポリマーPTC要素、ならびに
(B)ポリマーPTC要素の両側の主表面に配置された層状金属電極
を有して成るPTCデバイスであって、
PTCデバイスは、ポリマーPTC要素の少なくとも一方の主表面の周囲から外向きに延在する支持部材を有し、ポリマーPTC要素の側面は、支持部材上に配置されて支持されている硬化した硬化性樹脂によってPTCデバイスの周囲環境に対してシールされていることを特徴とするPTCデバイスを提供する。
【0013】
第2の要旨において、本発明は、
(A)(a1)導電性フィラー、および
(a2)ポリマー材料
を含んで成り、対向する主表面、およびこれらの主表面の外周部を接続する側面によって規定されるポリマーPTC要素、ならびに
(B)ポリマーPTC要素の両側の主表面に配置された層状金属電極
を有して成るPTCデバイスの製造方法であって、
ポリマーPTC要素の少なくとも一方の主表面の周囲から外向きに延在する支持部材上に硬化性樹脂を供給してポリマーPTC要素の側面を硬化性樹脂によって覆う樹脂供給工程、ならびに
硬化性樹脂を硬化する工程
を含んで成るPTCデバイスの製造方法を提供する。
【0014】
加えて、本発明は、第1の要旨のPTCデバイスまたは第2の要旨の製造方法により製造されるPTCデバイスを回路保護素子として有する電子または電気機器(例えば電池パック、Taコンデンサ等)をも提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明において、支持部材を設け、そこに硬化性樹脂を供給すると、好ましくは、PTC要素に可及的に近い、支持部材の箇所にて供給すると、硬化性樹脂が支持部材の内側表面に広がると共に、PTC要素の側面全体を覆うように容易に広がるが、硬化性樹脂がPTCデバイスの露出した、層状金属電極の表面にまで広がるのは困難であり、実質的には不可能である。そのように広がった樹脂を硬化することによってシールとして機能する樹脂コーティングを形成する。従って、酸素のアクセスを抑制する樹脂コーティングの形成が簡便かつより十分になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明のPTCデバイスの1つの態様の上面図および側面図を模式的に示す。
【
図2】
図2は、本発明のPTCデバイスのもう1つの態様の上面図および側面図を模式的に示す。
【
図3】
図3は、本発明のPTCデバイスの別の態様の上面図および側面図を模式的に示す。
【
図4】
図4は、本発明のPTCデバイスの更に別の態様の上面図および側面図を模式的に示す。
【
図5】
図5は、本発明のPTCデバイスを内蔵した乾電池を模式的断面図にて示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して本発明を説明する。尚、PTCデバイス、それを構成する種々の要素(PTC要素、導電性フィラー、ポリマー材料、層状金属電極(例えば金属箔電極)、硬化性樹脂等)に用いる材料およびPTCデバイスの製造方法自体は周知であり、本発明においても、そのような周知の事項を用いることができる。従って、本明細書においては、本発明に特有の事項(特に支持部材およびそれに関連する事項)を主として詳細に説明する。
【0018】
本発明のPTCデバイスの1つの態様の上面図(上側の図)および側面図(下側の図)を模式的に
図1に示す。図示した態様では、PTCデバイス10の一方の層状金属電極12が、PTC要素14の主表面上に位置する第1部分16とPTC要素14の側面18より外側に延在している第2部分20とから構成されている。図示した態様では、第2部分20は第1部分16の周囲の全体にわたってPTC要素14の側面18から外向きに突出している。第2部分20は、ポリマーPTC要素14の一方の主表面(図示した態様ではPTC要素14の下側の主表面)の周囲から外向きに延在する支持部材として機能する。明らかなように、第1部分16は、PTC要素14の主表面と同じ形状およびサイズであり、第2部分20は、PTC要素14の主表面から外側にはみ出た部分である。尚、図示した態様では、支持部材の外側輪郭は円形であるが、硬化性樹脂を支持できる限り、円形である必要はなく、いずれの適当な形状でもよい。例えば、外側輪郭が正方形、多角形等であってもよい。
【0019】
支持部材として機能するこの第2部分20に硬化性樹脂を供給すると、PTC要素14の側面18に対する硬化性樹脂の濡れ性および付着性、好ましくは硬化性樹脂のPTC要素14の側面18および層状金属電極22の側面との濡れ性および付着性によって、供給された樹脂24がPTC要素14の全周にわたって広がり、また、PTC要素14の側面を濡れ上がる。勿論、硬化性樹脂を供給する第2部分20の内側表面(即ち、第2部分の上側の面)に対する濡れ性および付着性によって内側表面にも広がる。これらの結果、供給された硬化性樹脂は、図示するように、メニスカス形状となる。このような樹脂を硬化させることによって、PTC要素14の側面18を覆うシール部としての樹脂コーティング24を形成できる。
図1に示す態様では、PTC要素14の上側の主表面には、層状金属電極22が位置し、この上側面が露出した状態となっているが、支持部材に供給した硬化性樹脂が、露出した上側面にまで辿り着くことは全く容易ではない。
【0020】
PTC要素14は、1つの好ましい態様では、図示するように平坦ディスク状(円板状)であり、従って、一方の層状金属電極22は、ディスクの一方の円形主表面を実質的に全部覆い、他方の層状金属電極12は、ディスクの他方の円形主表面の外周(即ち、縁)から等距離で突出した部分を第2部分20として更に有する。尚、等距離であるのが好ましいが、必ずしも必要であるわけではない。従って、層状金属電極12の直径は、金属電極22の直径より、突出した分だけ大きい。このようにPTCデバイスの一方の層状金属電極が支持部材を提供する場合、支持部材(即ち、第2部分)がPTC要素の厚さの好ましくは少なくとも0.5倍、より好ましくは少なくとも1倍、特に好ましくは少なくとも1.5倍、例えば少なくとも2倍に相当する距離でPTC要素14の側面18から突出する。後述する
図4を参照して説明する態様においても、縁状部分の突出長さについては、この態様と同様であるのが好ましい。
【0021】
尚、支持部材上への硬化性樹脂の供給は、PTC要素14の周囲の1箇所だけに実施してもよいが、好ましくはPTC要素14の周囲の複数箇所、例えばPTCデバイスの主表面の上方から眺めた状態で、対称となるように供給する。例えば、図示した態様では、矢印で示すように、直径方向から2箇所に供給する。別の態様では、PTC要素の中心を基準として等角毎に(例えば180°毎に2箇所(図示した態様)、90°毎に4箇所で、あるいは60°毎に6箇所で)供給してもよい。更に別の態様では、PTC要素14の周囲で樹脂供給口を相対的に回転させながら樹脂を供給してもよい。
【0022】
本発明のPTCデバイスの別の態様を
図2に、
図1と同様に示す。
図2に示した態様では、PTC要素14の上側の主表面に配置した層状金属電極22も、層状金属電極12と同様に、第2部分20’を有する点で、
図1に示す態様と異なる。従って、層状金属電極22は、第1部分16’および第2部分20’から構成される。即ち、PTC要素14の双方の主表面の周囲に第2部分20および20’がそれぞれ支持部材として位置する。
【0023】
その結果、第2部分20上に供給された硬化性樹脂は、PTC要素14の側面18および層状金属電極12および22の内側面(即ち、第2部分20および20’の対向する内側表面)との濡れ性および付着性によって、PTC要素14の周囲でPTC要素14の側面および層状金属電極12および22の内側面に沿って濡れ広がり、
図2に示すようなメニスカス形状となる。その後、硬化性樹脂に応じた適切な方法で樹脂を硬化させて樹脂コーティング24を形成する。尚、図示した態様では、硬化性樹脂をPTC要素14の側面18に供給してよく、具体的には側面18に接触するように供給してよい。この場合であっても、供給された樹脂は、側面18の全体および支持部材としての第2部分20および20’の対向する内側表面の少なくとも一部分(側面18と繋がっている部分)に広がる。
【0024】
尚、PTC要素14の他方の主表面に存在する層状金属電極の第2部分20’上に硬化性樹脂を供給した場合も同様のメニスカス形状となる。実際、第2部分20と第2部分20’との間に硬化性樹脂を供給することによって、供給された樹脂は、PTC要素14の側面および双方の層状金属電極の第2部分の内側面上で広がり、図示した状態となる。このようにPTCデバイスの双方の層状金属電極が支持部材を提供する場合、支持部材(即ち、第2部分)がPTC要素の厚さの好ましくは少なくとも0.3倍、より好ましくは少なくとも1倍、特に好ましくは少なくとも1.5倍、例えば少なくとも2倍に相当する距離でPTC要素14の側面18から突出する。後述する
図3を参照して説明する態様においても、縁状部分の突出長さについては、この態様と同様であるのが好ましい。
【0025】
本発明のPTCデバイスの更に別の態様を
図3に、
図1と同様に示す。
図3に示した態様では、PTC要素14の両側の主表面(即ち、対向する主表面)上にのみ延在する層状金属電極12および22(上述の第1部分16および16’に相当)が存在し、その層状金属電極自体は、PTC要素14の側面18から外向きに延在する部分としての支持部材を有さない。このようにPTC要素14およびその対向する主表面に配置された層状金属電極によってPTC素子が構成されている。
【0026】
その代わりに、そのような層状金属電極12および22の上に更に別の部材としてのプラスチックフィルム部材52が存在する。このプラスチックフィルム部材52は、層状金属電極12および22の周辺部28の上方に位置する内側部分(プラスチックフィルム部材の一部)54およびその内側部分の外周から外向きに延在する縁状部分56から構成され、この縁状部分56が支持部材としての機能を果たす。この層状金属電極12または22とプラスチックフィルム部材52とはこれらの間に位置する接着剤層58により接着されている。接着剤層58の形成には、何れの適当な接着剤を用いても、また、いずれの適当な方法を用いてもよい。例えば、エポキシ系樹脂を接着剤層に用いて、熱硬化することによって形成できる。この場合、接着剤層58が介在するという意味において、プラスチックフィルム部材52の内側部分54は、層状金属電極12および22の周辺部28の「上方に」位置する。尚、周辺部28とは、層状金属電極12および22の外周から内向きに延在する平坦な環状部分を意味し、プラスチックフィルム部材52の内側部分54の内側には開口部が形成され、そこでは層状金属電極が露出し、所定の電気要素(例えば電池の電極、リード等)に接続できるようになっている。
【0027】
別の態様において、プラスチックフィルム部材52が層状金属電極に対して接着性(または付着性)を有する場合、あるいは熱圧着できる場合、接着剤層58が存在する必要はなく、この意味において、プラスチックフィルム部材52は層状金属電極12または22の周辺部28の「上に」位置する。
【0028】
図示した態様のデバイスは、ポリマーPTC要素14の両側の主表面にその主表面と同じ大きさの層状金属電極12および22(従って、上記第1部分16および16’のみを有する金属電極)を有するPTCデバイスを予め準備しておき、層状金属電極の周辺部28の上に接着剤層58を形成し、その上にプラスチックフィルム部材52を配置し、その縁状部分56をPTC要素14の側面18から外向きに突出させる。
【0029】
その後、対向する縁状部分56の間に硬化性樹脂を供給すると、縁状部分間の距離が十分小さいと、毛管作用によってPTC要素14の全周にわたって供給された硬化性樹脂がPTC要素の側面18および厳密には接着剤層58の側面上に、また、支持部材としての縁状部分56上に濡れ広がり、PTC要素の側面全体を実質的に覆う。その後、硬化性樹脂を硬化させることによって、PTC要素がその周囲から十分に隔離され、PTC要素14に含まれる導電性フィラーの酸化を防止する。
【0030】
本発明のPTCデバイスの更に別の態様を
図4に、
図1と同様に示す。
図4に示した態様では、
図3と同様に、PTC要素14の両方の主表面上にのみ層状金属電極12および22(上述の第1部分16および16’に相当)が位置し、その層状金属電極は、PTC要素14の側面18から外向きに延在する部分としての支持部材を有さない。そのような層状金属電極の一方12のみの下方に接着剤層58を介してプラスチックフィルム部材52が配置されている。その他の構成は、
図3の態様と実質的に同じである。
【0031】
図示した態様では、プラスチックフィルム部材52の縁状部分56の上に硬化性樹脂を供給すると、
図1を参照して説明したように、硬化性樹脂は、PTC要素12の周囲に濡れ広がり、また、PTC要素14および層状金属電極22の側面上に濡れ広がる。その後、樹脂を硬化させることによってを硬化した樹脂コーティング24によりPTC要素14の側面18をシールできる。
【0032】
本発明のPTCデバイスにおいて用いる、酸化防止用樹脂コーティングを形成するための硬化性樹脂は、そのような目的のためにPTCデバイスに用いることが知られているいずれの既知の液状の樹脂であってもよい。尚、液状の樹脂とは、上述のように支持部材に供給すると、毛管力またはメニスカス力によって少なくともPTC要素の側面上に広がることができる樹脂であることを意味する。例えばエポキシ系樹脂等の硬化性樹脂を使用できる。このような硬化性樹脂は、元々液状でない場合には、溶剤によって希釈または分散された液状のものであるのが好ましい。硬化性樹脂は、必要に応じて、他の添加剤(例えば硬化剤、硬化促進剤等)を含んでよい。硬化性樹脂の硬化は、その種類に応じていずれの適当な方法で実施してもよく、例えば紫外線、電子線、加熱等によって硬化することができる。
【0033】
本発明のPTCデバイスにおいて用いる、プラスチックフィルム部材52を形成するためのプラスチックフィルムは、いずれの適当な樹脂製フィルムであってよい。例えばポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリメチレンテレフタレート等)、LCP(液晶ポリマー)等を例示できる。
【0034】
プラスチックフィルム部材52の形状は、PTC要素の層状金属電極の周辺部28に位置すると共に、PTC要素14の側面18から外向きに延在することができれば、特に限定されるものではないが、中央部分にはPTCデバイスの金属電極が露出する開口部(通常、可及的に大きいのが好ましい)を有する必要がある。例えば、図示するようにPTC要素14がディスク状である場合、プラスチックフィルム部材は、PTC要素の主表面の外周を規定する円より大きい直径を有し、その円と同心である円を外周部として有し、PTC要素の主表面の外周を規定する円より小さい直径を有し、その円と同心である円を内周部として有する、例えば
図3に示すような平坦環形状を有するのが好ましい。プラスチックフィルム部材の厚さは、硬化性樹脂を支持できる限り、いずれの適当な厚さであってもよい。
【0035】
上述のような本発明のPTCデバイスの製造は、支持部材を有するPTCデバイスを準備し、その支持部材上に硬化性樹脂を供給する樹脂供給工程およびその後に硬化性樹脂を硬化する硬化工程を含むPTCデバイスの製造方法によって実施できる。
【0036】
樹脂供給工程は、いずれの適当な方法で実施してもよい。例えば、PTC要素の厚さの半分程度の口径の吐出口を有するシリンジまたはディスペンサーを用いて支持部材上に液状の硬化性樹脂を供給することができる。硬化性樹脂の供給は、上述のように、PTC要素の側面に近い、支持部材上の1箇所または複数箇所(例えば、2箇所、3箇所、4箇所、6箇所)に供給するのが好ましい。
【0037】
2つの支持部材が対向して存在する場合、硬化性樹脂をこれらの間に位置するPTC要素の側面上に供給しても、支持部材の一方(詳細にはその内側表面)の上に供給しても、あるいは支持部材の双方(詳細にはこれらの内側表面)の上に供給してもよい。勿論、支持部材の少なくとも一方の上およびPTC要素の側面の上に供給してもよい。いずれの態様で供給しても、液状の硬化性樹脂は、2つの支持部材の間でPTC要素の周囲で濡れて広がるので、このような供給は、支持部材上に硬化性樹脂を供給することに相当する。
【0038】
2つの支持部材が対向して存在する場合、これらの間に供給された樹脂が、支持部材の縁部を経て支持部材の外側表面へ移動する可能性は非常に小さくなるので、硬化性樹脂がPTCデバイスの露出している層状金属電極の表面を覆うことを大きく抑制できる。一方の支持部材のみが存在する場合であっても、支持部材上に供給した硬化性樹脂が、PTC要素の側面を濡れ上がって層状金属電極の露出表面まで移動することは容易ではなく、また、支持部材の縁を経てその外側表面に移動することも容易ではない。従って、支持部材を設けることによって、本来電極として機能すべき層状金属電極の有効面積が硬化性樹脂によって減少することが大幅に抑制される。換言すれば、従来技術に基づいてPTCデバイスにコーティングを形成する場合と比較すると、それほどの細心の注意を払わなくても硬化性樹脂を適切に供給できる。
【0039】
上述の本発明は、PTC要素中で分散している導電性フィラーが金属フィラー、特に、銅フィラー、ニッケルフィラーまたはニッケル合金フィラー等である場合に特に有効である。このような金属フィラーは、PTCデバイスの低抵抗化に有効であるが、酸化され易く、また、酸化されると抵抗が大きくなるという性質を有するためである。ニッケル合金フィラーとしては、ニッケル−コバルト合金フィラー等を例示できる。
【0040】
本発明のPTCデバイスは、例えば電源回路に直列に配置して、回路保護素子として用いることができる。特に好ましい態様の一例を、本発明のPTCデバイスを内蔵した乾電池の断面図を
図5にて模式的に示す。
図5に示すように、乾電池100のプラス極102を規定する金属封口板104と炭素棒108との間にPTCデバイス10を配置してこれらを電気的に接続する。
【実施例1】
【0041】
ディスク状PTC素子(
図3のPTC要素14およびその両側の電極(12および22)により構成された素子、タイコエレクトロニクスレイケム社製、直径:3.45mm、PTC要素(ポリエチレン樹脂+Niフィラー)14の厚さ:0.5mm)を用いて、
図3に示す本発明のPTCデバイスを製造した。PTC要素14の両側の金属電極(ニッケル箔)12および22の上に、その周辺部28の上で一部分が重なるように、平坦な環状プラスチック部材52(PET製、外径:5mm、内径:2mm、厚さ:0.1mm)を熱圧着することによって配置した。
【0042】
その後、PTC要素14の側面から、約0.8mm突出して対向する支持部材の間の一箇所に硬化剤を含む液状のエポキシ系樹脂を硬化性樹脂としてディスペンサーによって供給すると、樹脂はPTC要素14の側面全体に広がった。その後、樹脂を熱硬化させることによって酸化防止用樹脂コーティングを形成し、本発明のPTCデバイスを製造した。また、比較のため、樹脂コーティングを形成しないPTCデバイスを製造した。
【0043】
これらのPTCデバイスを酸化加速試験(40気圧、7日間)に付した。加速試験前の抵抗値、即ち、初期抵抗値、加速試験後の抵抗値、即ち、試験後抵抗値、その後、トリップさせた後の抵抗値、即ち、トリップ後抵抗値を測定した。尚、トリップ条件は、6V/50A/5分間保持であった。トリップ後抵抗値は、トリップした後、1時間後に測定した。測定結果を次の表1および表2に示す:
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
上述の結果から明らかなように、本発明のPTCデバイスの製造方法では、容易に樹脂コーティングを形成することができ、形成された樹脂コーティングは、その機能を十分に果たしていることが分かる。より詳しくは、本発明のPTCデバイスでは、コーティングを有さないデバイスと比較して、トリップ後抵抗値の明らかに小さく、このことは、PTC要素のニッケルフィラーの酸化が十分に抑制されていることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、低抵抗のPTCデバイスを容易に製造できる。
【符号の説明】
【0048】
10…PTCデバイス、12…層状金属電極、14…PTC要素、
16,16’…第1部分、18…PTC要素の側面、20,20’…第2部分、
22…層状金属電極、24…樹脂コーティング、28…周辺部、
52…プラスチックフィルム部材、54…内側部分、56…縁状部分、
58…接着剤層。