(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5716096
(24)【登録日】2015年3月20日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】多重モード弾性波素子
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/145 A
H03H9/145 D
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-540155(P2013-540155)
(86)(22)【出願日】2013年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2013000609
(87)【国際公開番号】WO2013121734
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2013年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-30274(P2012-30274)
(32)【優先日】2012年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514250975
【氏名又は名称】スカイワークス・パナソニック フィルターソリューションズ ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小松 禎也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 城二
(72)【発明者】
【氏名】鶴成 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】西村 和紀
【審査官】
橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−252678(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/131227(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/001651(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/024876(WO,A1)
【文献】
特開2008−035092(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/083503(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板の上に配置された第1、第2反射器と、
前記圧電基板の上にあって前記第1、第2反射器の間に弾性波の伝播方向に沿って、前記第1反射器から前記第2反射器に以下の順に配置された第1のIDT電極と、第2のIDT電極と、第3のIDT電極と、第4のIDT電極と、第5のIDT電極と、を備え、
前記第1から第5のIDT電極はそれぞれ電極指ピッチが実質的に等しいピッチ一定領域を有し、
前記第1のIDT電極の電極指ピッチ平均と前記第5のIDT電極の電極指ピッチ平均は、前記第2のIDT電極の電極指ピッチ平均と前記第4のIDT電極の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さい、多重モード弾性波素子。
【請求項2】
前記第3のIDT電極の電極指ピッチ平均は、前記第2のIDT電極の電極指ピッチ平均と前記第4のIDT電極の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さい、請求項1記載の多重モード弾性波素子。
【請求項3】
前記第1反射器における、前記第1のIDT電極に近い第1領域での隣り合う電極指ピッチの変化率は、前記第1領域よりも前記第1のIDT電極から遠い第2領域での隣り合う電極指ピッチの変化率より大きい、請求項2記載の多重モード弾性波素子。
【請求項4】
前記第2反射器における、前記第5のIDT電極に近い第3領域での隣り合う電極指ピッチの変化率は、前記第3領域よりも前記第5のIDT電極から遠い第4領域での隣り合う電極指ピッチの変化率より大きい、請求項3記載の多重モード弾性波素子。
【請求項5】
前記第1反射器の電極指ピッチが前記第1、第5のIDT電極に近い領域で極大、極小を有する、請求項2記載の多重モード弾性波素子。
【請求項6】
前記第2反射器の電極指ピッチが前記第1、第5のIDT電極に近い領域で極大、極小を有する、請求項5記載の多重モード弾性波素子。
【請求項7】
前記第3のIDT電極の電極指ピッチ平均は前記第1のIDT電極の電極指ピッチ平均と前記第5のIDT電極の電極指ピッチ平均のいずれよりも大きい、請求項1記載の多重モード弾性波素子。
【請求項8】
前記第1反射器の電極指ピッチ平均と前記第2のIDT電極の電極指ピッチ平均の比の値は、1.02以上、1.035以下である、請求項1記載の多重モード弾性波素子。
【請求項9】
前記第2反射器の電極指ピッチ平均と前記第4のIDT電極の電極指ピッチ平均の比の値は、1.02以上、1.035以下である、請求項8記載の多重モード弾性波素子。
【請求項10】
前記第1、第2反射器がそれぞれ少なくとも3種類の電極指ピッチを有する、請求項1記載の多重モード弾性波素子。
【請求項11】
前記第1〜第5のIDT電極において、隣り合う2つのIDT電極の間で隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは、前記第1〜第5のIDT電極のそれぞれの最小電極指ピッチより大きい、請求項1記載の多重モード弾性波素子。
【請求項12】
前記第1のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと、前記第3のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと、前記第5のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチとは、前記第2のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと、前記第4のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチとのいずれより小さい、請求項1記載の多重モード弾性波素子。
【請求項13】
圧電基板と、
前記圧電基板の上に配置された第1、第2反射器と、
前記圧電基板の上にあって前記第1、第2反射器の間に弾性波の伝播方向に沿って、前記第1反射器から前記第2反射器に以下の順に配置された第1のIDT電極と、第2のIDT電極と、第3のIDT電極と、第4のIDT電極と、第5のIDT電極と、を備え、
前記第1から第5のIDT電極はそれぞれ電極指ピッチが実質的に等しいピッチ一定領域を有し、
前記第1のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと、前記第3のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと、前記第5のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチとは、前記第2のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと、前記第4のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチとのいずれより小さく、
前記第1、第2反射器はそれぞれ電極指ピッチが実質的に等しいピッチ一定領域を有し、前記第2のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチと前記第4のIDT電極の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチとは、前記第1、第2反射器の前記ピッチ一定領域の電極指ピッチのいずれよりより大きい、多重モード弾性波素子。
【請求項14】
前記第1反射器の電極指ピッチ平均と前記第2のIDT電極の電極指ピッチ平均の比の値は、1.02以上、1.035以下である、請求項13記載の多重モード弾性波素子。
【請求項15】
前記第2反射器の電極指ピッチ平均と前記第4のIDT電極の電極指ピッチ平均の比の値は、1.02以上、1.035以下である、請求項13記載の多重モード弾性波素子。
【請求項16】
前記第1反射器の電極指ピッチが前記第1、第5のIDT電極に近い領域で極大、極小を有する、請求項13記載の多重モード弾性波素子。
【請求項17】
前記第2反射器の電極指ピッチが前記第1、第5のIDT電極に近い領域で極大、極小を有する、請求項16記載の多重モード弾性波素子。
【請求項18】
前記第1、第2反射器がそれぞれ少なくとも3種類の電極指ピッチを有する、請求項13記載の多重モード弾性波素子。
【請求項19】
前記第1〜第5のIDT電極において、隣り合う2つのIDT電極の間で隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは、前記第1〜第5のIDT電極のそれぞれの最小電極指ピッチより大きい、請求項10記載の多重モード弾性波素子。
【請求項20】
圧電基板と、
前記圧電基板の上に配置された第1、第2反射器と、
前記圧電基板の上にあって前記第1、第2反射器の間に弾性波の伝播方向に沿って、前記第1反射器から前記第2反射器に以下の順に配置された第1〜第nのIDT電極と、を備え、
nは7以上の奇数であり、
前記第1のIDT電極の電極指ピッチ平均と前記第nのIDT電極の電極指ピッチ平均は、前記第2のIDT電極の電極指ピッチ平均と前記第n−1のIDT電極の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さい、多重モード弾性波素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として移動体通信機器等において使用される多重モード弾性波素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の技術的進歩により、携帯電話等の通信装置は目覚しく小型化、軽量化されている。このような通信装置に用いられるフィルタとしては、小型化が可能な弾性表面波装置や弾性境界波装置などの弾性波装置が用いられている。また、移動体通信システムとしてはCDMA(Code Division Multiple Access)等の同時送受信する通信システムが急増しデュプレクサの需要が急増している。さらに近年、受信端が平衡動作するデュプレクサが多く使用されるようになってきている。
【0003】
これらの状況によって、デュプレクサの受信側のフィルタとして不平衡−平衡変換機能を有する多重モード弾性波素子が使用されている。さらには移動通信システムの変化に伴い、デュプレクサの要求仕様がより厳しくなっている。すなわち、従来に比して広帯域でより矩形に近く、急峻性に優れた通過帯域特性を持つ多重モード弾性波素子が必要となっている。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術としては、例えば、特許文献1から特許文献3に開示された技術が知られている。
【0005】
特許文献1には3つのIDT電極を有する多重モード弾性波素子に対し、スプリアスの抑制と急峻性を両立するために反射器の電極周期に変化パターンを持たせる技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には3つのIDT電極を有する多重モード弾性波素子に対し、通過帯域近傍のスプリアスを抑制し、良好な減衰特性を得るために、反射器として周期の異なる反射器群を複数用いる技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には5つのIDT電極を有する多重モード弾性波素子に対し、通過帯域近傍の急峻性を向上するために、IDT電極の境界部の狭ピッチ部を工夫した技術が開示されている。すなわち、IDT電極の境界部の狭ピッチ部を順に第1から第4の狭ピッチ部としたとき、第2の狭ピッチ部の電極指ピッチより第1の狭ピッチ部の電極指ピッチが小さく、第3の狭ピッチ部の電極指ピッチより第4の狭ピッチ部の電極指ピッチが小さくされている。この構成により、弾性波の励振する変位分布が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−258595号公報
【特許文献2】特開2001−332954号公報
【特許文献3】国際公開第2009/001651号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、より矩形で急峻な減衰特性を有する多重モード弾性波素子を提供する。
【0010】
本発明における第1の多重モード弾性波素子は、圧電基板と、第1、第2反射器と第1のIDT電極と、第2のIDT電極と、第3のIDT電極と、第4のIDT電極と、第5のIDT電極とを有する。第1、第2反射器と第1〜第5のIDT電極は圧電基板の上に配置されている。第1〜第5のIDT電極は第1、第2反射器の間に弾性波の伝播方向に沿って、第1反射器に近い側から順に配置されている。第1のIDT電極の電極指ピッチ平均と第5のIDT電極の電極指ピッチ平均は、第2のIDT電極の電極指ピッチ平均と第4のIDT電極の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さい。
【0011】
本発明における第2の多重モード弾性波素子は、圧電基板と、第1、第2反射器と第1のIDT電極と、第2のIDT電極と、第3のIDT電極と、第4のIDT電極と、第5のIDT電極とを有する。第1、第2反射器と第1〜第5のIDT電極は圧電基板の上に配置されている。第1〜第5のIDT電極は第1、第2反射器の間に弾性波の伝播方向に沿って、第1反射器に近い側から順に配置されている。第1から第5のIDT電極はそれぞれ電極指ピッチが実質的に等しいピッチ一定領域を有している。そして、第1のIDT電極のピッチ一定領域の電極指ピッチと、第3のIDT電極のピッチ一定領域の電極指ピッチと、第5のIDT電極のピッチ一定領域の電極指ピッチとは、第2のIDT電極のピッチ一定領域の電極指ピッチと、第4のIDT電極のピッチ一定領域の電極指ピッチとのいずれより小さい。
【0012】
このいずれかの構成により、弾性波の定在波の変位分布を第2、第4のIDT電極の配置領域より反射器側に集中させることができる。その結果、特性が反射器の影響を受ける。そのため、反射器を用いて、通過帯域の低域側近傍の周波数において高次の縦モード共振を抑制することができ急峻な減衰特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の実施の形態における多重モード弾性波素子の上面模式図である。
【
図2A】
図2Aは
図1に示す多重モード弾性波素子の電極指ピッチ定義の説明図である。
【
図2B】
図2Bは
図1に示す多重モード弾性波素子の電極指ピッチ定義の説明図である。
【
図3】
図3は
図1に示す多重モード弾性波素子の電極指ピッチの説明図である。
【
図4A】
図4Aは比較例の多重モード弾性波素子の上面模式図である。
【
図5】
図5は
図3に示す多重モード弾性波素子と、
図4Bに示す多重モード弾性波素子との特性比較図である。
【
図6】
図6は本発明の実施の形態におけるさらに他の多重モード弾性波素子の上面模式図である。
【
図7】
図7は
図6に示す多重モード弾性波素子の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態の説明に先立ち、従来の構成における課題を説明する。従来の5つのIDT電極を有する5電極型の多重モード弾性波素子においては、0次の共振モードと隣り合う2つのIDT電極の隣接部に変位分布が集中するIDT−IDTモードといわれる共振モードが結合してフィルタの通過帯域が形成される。同時に2次モード、4次モードなどの高次の縦モード共振が通過帯域近傍の低域側周波数に存在する。そのため、フィルタの通過帯域の低域側の急峻性が得られにくい。通過帯域の低域側周波数において急峻な特性を有するフィルタを得るためには、0次モード共振と結合しない程度にこれらの高次の縦モード共振を十分弱くする必要がある。
【0015】
以下、本発明の実施の形態における弾性波装置について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態における多重モード弾性波素子100の構造を示す図である。なお、多重モード弾性波素子とは、例えばDouble Mode SAW素子のことであり、複数のモードによる弾性波を励振させることで、所望の帯域通過特性を形成する弾性波素子のことである。
【0016】
多重モード弾性波素子100は、圧電基板101と、第1反射器102と、第2反射器108(以下、反射器102、108と称す)と、第1のIDT電極103と、第2のIDT電極104と、第3のIDT電極105と、第4のIDT電極106と、第5のIDT電極107(以下、IDT電極103〜107と称す)とを有する。反射器102、108およびIDT電極103〜107は圧電基板101の上に配置されている。IDT電極103〜107は、反射器102と、反射器108との間に弾性波の伝播方向に沿って、反射器102に近い側から順に配置されている。すなわち、IDT電極103が反射器102に最も近く、IDT電極107が反射器108に最も近い。
【0017】
圧電基板101はタンタル酸リチウム或いはニオブ酸リチウムなどで形成されている。IDT電極103〜107はそれぞれ、一対の櫛電極(インターディジタルトランスデューサ電極)から構成されている。反射器102、108やIDT電極103〜107は、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金、またはクロムからなる単体金属、若しくはこれらを主成分とする合金で構成されている。またはこれらを積層した構造を有する。この構成により、多重モード弾性波素子100は、主要波として、例えばSH(Shear Horizontal)波やレイリー波等の弾性表面波を励振させる。なお
図1では反射器102、108、IDT電極103〜107を模式的に示しており、櫛電極の本数は
図1に限定されない。
【0018】
図2Aに示すように、電極指ピッチPは弾性波の伝播方向に隣り合う電極指21、22の中心間距離で定義される。実測する際には、
図2Bに示す様に、電極指ピッチPは隣り合う電極指21、22の一方の端同士の距離P1と他方の端の距離P2の加重平均P=(P1+P2)/2で求めることができる。
【0019】
反射器102は例えば、74本の電極指より構成され、電極指の中心間距離で定義される電極指ピッチ平均は2.055μmである。反射器108もまた74本の電極指より構成され電極指ピッチ平均は2.055μmである。なお電極指ピッチ平均は、電極指ピッチ寸法の総和を電極指本数−1で除して求められる。
【0020】
IDT電極103は35本(17.5対)の電極指より構成され、電極指ピッチ平均は1.936μmである。IDT電極104は35本(17.5対)の電極指より構成され、電極指ピッチ平均は2.005μmである。IDT電極105は58本(29対)の電極指より構成され、電極指ピッチ平均は1.946μmである。IDT電極106は35本(17.5対)の電極指より構成され、電極指ピッチ平均は2.005μmである。IDT電極107は35本(17.5対)の電極指より構成され、電極指ピッチ平均は1.936μmである。IDT電極105は伝播方向の中央部で2つの領域に分割され、この2つの領域で位相が180度異なるよう櫛電極が配設されている。
【0021】
このように、IDT電極103の電極指ピッチ平均と、IDT電極107の電極指ピッチ平均は、IDT電極104の電極指ピッチ平均と、IDT電極106の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さい。この構成により、弾性波の定在波の変位分布をIDT電極104、106の配置領域より反射器102、108側であるIDT電極の配置領域103、107に集中させることができる。これにより特性が反射器102、108の影響を受ける。このような構成により、多重モード弾性波素子100は、反射器102、108を用いて、通過帯域の低域側近傍の周波数において高次の縦モード共振を抑制することができ急峻な減衰特性を得ることができる。すなわち、高次の縦モード共振を抑圧でき、通過帯域の低域側近傍の急峻性の優れたフィルタ特性を得ることができる。
【0022】
また、IDT電極105の電極指ピッチ平均は、IDT電極104の電極指ピッチ平均とIDT電極106の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さいことが望ましい。これにより、弾性波の低在波の変位分布をIDT電極104、106の配置領域より中央部であるIDT電極105の配置領域に集中させることができ、通過帯域の高域側の挿入損失を低減することができる。
【0023】
したがって、IDT電極103の電極指ピッチ平均とIDT電極105の電極指ピッチ平均とIDT電極107の電極指ピッチ平均は、IDT電極104の電極指ピッチ平均とIDT電極106の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さいことが好ましい。この構成により、反射器102、108に近い側に定在波の変位分布を集中させ、反射器102、108を用いて挿入損失を損なわず通過帯域の低域側において急峻な特性を有するフィルタを作製できる。なお、IDT電極103の電極指ピッチ平均とIDT電極107の電極指ピッチ平均がIDT電極105の電極指ピッチ平均より小さいことがさらに好ましい。この構成によって特性が反射器102、108の影響をより受け易くなり、矩形で減衰特性の優れたフィルタ特性を得る効果が高くなる。すなわち急峻な特性を実現しやすくなる。
【0024】
また、反射器102の電極指ピッチ平均Pr1とIDT電極104の電極指ピッチ平均Pi2との比の値Pr1/Pi2は、1.02以上、1.035以下であることが好ましい。同様に反射器108の電極指ピッチ平均Pr2とIDT電極106の電極指ピッチ平均Pi4との比の値Pr2/Pi4は、1.02以上、1.035以下であることが好ましい。Pr1/Pi2またはPr2/Pi4が1.02より小さいと通過帯域の低周波側においてフィルタの挿入損失が増加してしまう現象が生じる。Pr1/Pi2またはPr2/Pi4が1.035より大きいと高次の縦モード共振の抑圧が不十分であり、通過帯域の低域側近傍の急峻性が低下する。
【0025】
図3は多重モード弾性波素子100の電極指ピッチ構成をさらに詳細に示した図である。すなわち、
図3は、各部位で電極指ピッチがどのようになっているかを詳細に示している。
【0026】
図3の横軸は
図1において左側に位置する反射器102の左端の電極指とその右隣の電極指の電極指間の間隙の番号(以下、電極指ピッチ番号という)を1とし、左から右へ順に電極指間の間隙に付与した番号を示している。すなわち、
図3は、反射器102、IDT電極103、IDT電極104、IDT電極105、IDT電極106、IDT電極107、反射器108まで順次電極指の間隙に付与された番号の各々における電極指ピッチ(μm)を縦軸に示している。
図3中の一点鎖線は反射器とIDT電極の境界または、IDT電極とIDT電極の境界を示し、便宜上、どの範囲がどの反射器またはIDT電極の位置かを符号で示している。
【0027】
図3から判るように反射器102、108において、IDT電極103またはIDT電極107に比較的近い領域で最大値2.095μm、最小値1.987μmの極大、極小を持つように電極指ピッチが設定されている。また、IDT電極103またはIDT電極107から比較的遠い領域では2.058μmでほぼ一定に電極指ピッチが設定されている。
【0028】
前述のように、IDT電極103の電極指ピッチ平均とIDT電極105の電極指ピッチ平均とIDT電極107の電極指ピッチ平均は、IDT電極104の電極指ピッチ平均とIDT電極106の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さい。この構成において、反射器102、108におけるIDT電極103またはIDT電極107に比較的近い領域での隣り合う電極指ピッチの変化率をIDT電極103またはIDT電極107に比較的遠い領域での隣り合う電極指ピッチの変化率より高めることが好ましい。これにより高次の縦モード共振を抑制でき、通過帯域低域側の急峻性に優れたフィルタ特性を実現することができる。
【0029】
なお、電極指ピッチの変化率を変えるには、反射器102、108をそれぞれ3つ以上の領域に分け、それぞれの領域では等ピッチの電極指ピッチを有し、各領域の電極指ピッチ平均が異なるように設定しても良い。すなわち、反射器102、108がそれぞれ少なくとも3種類の電極指ピッチを有することが好ましい。
【0030】
また、
図3に示すように、IDT電極103から07は、電極指ピッチがほぼ等しい領域を有している。すなわちその領域(ピッチ一定領域)では電極指ピッチが実質的に一定である。ピッチ一定領域での電極指ピッチの寸法は、IDT電極103では1.980μm、IDT電極104では2.094μm、IDT電極105では1.985μm、IDT電極106では2.094μm、IDT電極107では1.980μmである。
【0031】
すなわち、IDT電極103のピッチ一定領域の電極指ピッチとIDT電極105のピッチ一定領域の電極指ピッチとIDT電極107のピッチ一定領域の電極指ピッチは、IDT電極104のピッチ一定領域の電極指ピッチとIDT電極106のピッチ一定領域の電極指ピッチのいずれよりも小さい。この構成も、反射器102、108に近い側に定在波の変位分布を集中させ、反射器102、108を用いて挿入損失を損なわず通過帯域の低域側において急峻な特性を実現することに寄与する。したがって、先に説明した、IDT電極の電極指ピッチ平均の大小関係とは別にピッチ一定領域の電極指ピッチの大小関係を設定してもよい。
【0032】
さらに、IDT電極104のピッチ一定領域の電極指ピッチとIDT電極106のピッチ一定領域の電極指ピッチとが、反射器102のピッチ一定領域の電極指ピッチと反射器108のピッチ一定領域の電極指ピッチより大きいことが好ましい。この構成によって、通過帯域の低域側減衰量を小さくすることができる。
【0033】
なお、隣り合う2つのIDT電極の間で隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは
図3の一点鎖線上にプロットされている。具体的には、IDT電極103とIDT電極104の隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは2.030μm、IDT電極104とIDT電極105の隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは1.924μm、IDT電極105とIDT電極106の隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは1.924μm、IDT電極106とIDT電極107の隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは2.030μmである。そして、IDT電極103内の最小電極指ピッチが1.752μm、IDT電極104内の最小電極指ピッチが1.796μm、IDT電極105内の最小電極指ピッチが1.690μm、IDT電極106内の最小電極指ピッチが1.796μm、IDT電極107内の最小電極指ピッチが1.752μmである。
【0034】
このように、隣り合う2つのIDT電極の間で隣接する櫛電極同士の電極指ピッチは、IDT電極103からIDT電極107のそれぞれの最小電極指ピッチより大きく設定されていることが好ましい。この構成により耐電力性が向上する。このような効果は、多重モード弾性波素子100においてもっとも破壊されやすい2つのIDT電極が隣接した電極指への変位分布の集中が緩和されるためと考えられる。
【0035】
次に、以上説明した構成による効果を説明する。なお、比較例として、
図4A、
図4Bに示す構成の5電極型の多重モード弾性波素子50の特性と合わせて、
図5に多重モード弾性波素子100のフィルタ特性を示す。
図4Aは多重モード弾性波素子50の上面模式図である。なお圧電基板の図示は省略している。
図4Bは多重モード弾性波素子50の電極指ピッチの説明図である。
【0036】
反射器52、58における電極指ピッチは2.058μmで一定である。第1のIDT電極53の電極指ピッチ平均は1.958μm、第2のIDT電極54の電極指ピッチ平均は1.921μm、第3のIDT電極55の電極指ピッチ平均は1.965μm、第4のIDT電極56の電極指ピッチ平均は1.921μm、第5のIDT電極57の電極指ピッチ平均は1.958μmである。すなわち、IDT電極53の電極指ピッチ平均とIDT電極57の電極指ピッチ平均は、IDT電極54の電極指ピッチ平均とIDT電極56の電極指ピッチ平均より大きい。またIDT電極55の電極指ピッチ平均はIDT電極54の電極指ピッチ平均とIDT電極56の電極指ピッチ平均より大きい。
【0037】
図5において、実線で示す曲線(a)は多重モード弾性波素子100のフィルタ特性を示し、破線で示す曲線(b)は多重モード弾性波素子50のフィルタ特性を示している。
図5より、通過帯域低域側において多重モード弾性波素子100は非常に急峻な減衰特性を有することがわかる。
【0038】
なお多重モード弾性波素子50の構成は特許文献3に開示されている。特許文献3においては、IDT電極53とIDT電極54との境界部の最小電極指ピッチと、IDT電極56とIDT電極57の境界部の最小電極指ピッチとが、IDT電極54とIDT電極55との境界部の最小電極指ピッチと、IDT電極55とIDT電極56との境界部の最小電極指ピッチのいずれよりも小さければ通過帯域低域側周波数において急峻な特性が得られることが開示されている。しかしながら、多重モード弾性波素子100はさらに優れた効果を示している。
【0039】
本実施の形態では、多重モード弾性波素子の一例として5電極型の多重モード弾性波素子100について説明したが、例えば7電極型の多重モード弾性波素子など5電極以上の多重モード弾性波素子に、以上説明した電極構成を適用すれば効果を奏する。
【0040】
例えば、第1、第2反射器に挟まれるように弾性波の伝播方向に順に第1〜第7のIDT電極を有する7電極型の多重モード弾性波素子を想定する。第1のIDT電極は第1反射器に隣接し、第7のIDT電極は第2反射器に隣接している。この構成において、第1のIDT電極の電極指ピッチ平均と第7のIDT電極の電極指ピッチ平均を、第2のIDT電極の電極指ピッチ平均と第6の電極指ピッチ平均のいずれよりも小さく設定する。この構成により弾性波の定在波の変位分布を第2、第6のIDT電極の配置領域より反射器側である第1、第7のIDT電極の配置領域に集中させることができる。その結果、特性が反射器の影響を受ける。このような構成により、7電極型の多重モード弾性波素子は、反射器を用いて、通過帯域の低域側近傍の周波数において高次の縦モード共振を抑制することができ急峻な減衰特性を得ることができる。
【0041】
IDT電極が7つ以上の奇数個の場合も同様である。すなわち、第1、第2反射器に挟まれるように弾性波の伝播方向に順に第1〜第nのIDT電極を有する多重モード弾性波素子を想定する。nは5以上の奇数である。第1のIDT電極は第1反射器に隣接し、第nのIDT電極は第2反射器に隣接している。この構成において、第1のIDT電極の電極指ピッチ平均と第nのIDT電極の電極指ピッチ平均を、第2のIDT電極の電極指ピッチ平均と第n−1の電極指ピッチ平均のいずれより小さく設定すればよい。
【0042】
次に、多重モード弾性波素子100を含む2つの多重モード弾性波素子を縦続接続する場合について、
図6、
図7を参照しながら説明する。
図6は本実施の形態における縦続接続型多重モード弾性波素子の構成を示す図である。なお
図6では圧電基板は省略している。
図7は
図6に示す多重モード弾性波素子の特性を示している。
【0043】
5電極型の第1多重モード弾性波素子200と5電極型の第2多重モード弾性波素子300とは縦続接続されている。第1多重モード弾性波素子200は入力端子11に接続され、第2多重モード弾性波素子300は出力端子12、13に接続されバランス動作するように構成されている。第1多重モード弾性波素子200と第2多重モード弾性波素子300のうち、一方は前述の多重モード弾性波素子100であり、他方は例えば、多重モード弾性波素子50である。
【0044】
図7において、曲線(a)は通過帯域低域側で急峻な減衰特性を有している。この曲線は多重モード弾性波素子100の特性を示している。また曲線(b)は多重モード弾性波素子50の特性であり、通過帯域低域側で比較的緩やかなスロープの減衰特性を有している。この場合、曲線(
c)に示すように、減衰極が曲線(a)の減衰特性の跳かえり(サイドローブ)にほぼ合うように設定すると良い。
【0045】
このように設定することで低ロスかつ通過帯域低域側の減衰特性良好なフィルタ特性が得られる。すなわち、917MHz付近の減衰極は曲線(a)では40dB程度であるが、第1多重モード弾性波素子200のフィルタ特性と第2多重モード弾性波素子300を縦続接続した曲線(c)では917MHz付近で77dB程度減衰している。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明に係る多重モード弾性波素子は、より矩形で急峻な減衰特性を有するので、特にアンテナ共用器の受信フィルタなどの用途に用いられる通過帯域低域側の減衰特性に優れたフィルタとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
11 入力端子
12,13 出力端子
21,22 電極指
50,100 多重モード弾性波素子
101 圧電基板
52,102 第1反射器(反射器)
58,108 第2反射器(反射器)
53,103 第1のIDT電極(IDT電極)
54,104 第2のIDT電極(IDT電極)
55,105 第3のIDT電極(IDT電極)
56,106 第4のIDT電極(IDT電極)
57,107 第5のIDT電極(IDT電極)
200 第1多重モード弾性波素子
300 第2多重モード弾性波素子