特許第5716188号(P5716188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5716188砒素化合物の除去方法および除去装置、並びに脱硝触媒の再生方法および再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5716188
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】砒素化合物の除去方法および除去装置、並びに脱硝触媒の再生方法および再生装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 38/04 20060101AFI20150423BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20150423BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20150423BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   B01J38/04 AZAB
   B01J23/30 A
   B01D53/36 102E
   B01D53/36 102C
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-507282(P2013-507282)
(86)(22)【出願日】2012年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2012054538
(87)【国際公開番号】WO2012132683
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2013年9月27日
(31)【優先権主張番号】61/468,788
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】清澤 正志
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬古
【審査官】 後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−037635(JP,A)
【文献】 特開平01−139146(JP,A)
【文献】 特開昭64−080444(JP,A)
【文献】 特許第4574851(JP,B2)
【文献】 特開平04−161230(JP,A)
【文献】 特開2009−226388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/88
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、還元雰囲気下で、CHを除く炭化水素化合物または含酸素炭素化合物に曝露させつつ、所定温度で加熱処理する砒素化合物の除去方法。
【請求項2】
前記炭化水素化合物及び前記含酸素炭素化合物が、前記所定温度にて気体である請求項1に記載の砒素化合物の除去方法。
【請求項3】
前記所定温度を、300℃より高く600℃以下とする請求項1または請求項2に記載の砒素化合物の除去方法。
【請求項4】
前記砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、製品形状のまま、または粉砕処理により粒子形状とした後、前記炭化水素化合物または前記含酸素炭素化合物に曝露させる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の砒素化合物の除去方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の砒素化合物の除去方法にて砒素化合物を除去する脱硝触媒の再生方法。
【請求項6】
砒素を除去した前記脱硝触媒を、酸素雰囲気において250℃以上で加熱処理する請求項5に記載の脱硝触媒の再生方法。
【請求項7】
砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、還元雰囲気下で、CHを除く炭化水素化合物または含酸素炭素化合物に曝露させつつ、所定温度で加熱処理する処理部を備えた砒素化合物の除去装置。
【請求項8】
前記処理部は、前記炭化水素化合物及び前記含酸素炭素化合物が、前記所定温度にて気体である請求項7に記載の砒素化合物の除去装置。
【請求項9】
前記所定温度は、300℃より高く600℃以下である請求項7または請求項8に記載の砒素化合物の除去装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、製品形状のまま、または粉砕処理により粒子形状とした後、前記炭化水素化合物または前記含酸素炭素化合物に曝露させる請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の砒素化合物の除去装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の砒素化合物の除去装置にて砒素化合物を除去する脱硝触媒の再生装置。
【請求項12】
砒素を除去した前記脱硝触媒を、酸素雰囲気において250℃以上で加熱処理する加熱処理部を備えた請求項11に記載の脱硝触媒の再生装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素化合物の除去方法、脱硝触媒の再生方法、並びに、脱硝触媒に関するものである。特に、燃焼排ガス中の窒素酸化物を除去するための触媒に吸着した砒素化合物を脱硝触媒から除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石灰焚きボイラをはじめとして、重油焚きボイラ、各種化学装置に付設する燃焼炉を稼働すると、窒素酸化物(以下NOxと略す)を含む排ガスが排出される。NOxは、光化学スモッグや酸性雨を発生させる大気汚染物質であるため、排ガスをプラント外へ排出する前に、排ガス中から除去する必要がある。排ガス中のNOxを除去する方法として、選択的接触還元法が挙げられる。選択的接触還元法は、還元触媒を用い、NOxをアンモニアと反応させて分解し、無害化する方法である。選択的接触還元法は、最も経済的で、且つ、効果的な方法として広く工業化されている。
【0003】
図4に、選択的接触還元法を用いた脱硝装置の構成を例示する。図4において、ボイラ1で発生した燃焼排ガスが、スーパーヒータ2、エコノマイザ3を介して煙道4に至り、脱硝反応器6に導かれる。煙道4にはアンモニア注入器5が設けられており、アンモニア注入器5から該脱硝反応に必要なアンモニアガスが煙道4に注入される。燃焼排ガス中のNOxは、脱硝反応器6内に配置された触媒層7を通過する間に窒素と水に分解される。その後、燃焼排ガスはエアヒータ8、電気集塵器9、燃焼排ガスファン10を通り、煙突11から大気中に放出される。
【0004】
脱硝反応器6内に配置される触媒層7は、格子状または板状などの形をしたガス並行流型触媒が主体である。ガス並行流型触媒の形式では、燃焼排ガスは脱硝触媒面に沿って平行に流れる。そのため、燃焼排ガス中の煤塵が脱硝触媒面に接触する機会が少なく、脱硝触媒面への煤塵の付着が少ないという利点がある。従って、石炭焚き用脱硝装置をはじめ、重油焚き用脱硝装置などに広く採用されている。
【0005】
このような脱硝装置に採用されている脱硝触媒は、酸化チタン(TiO)を基材とする。該基材には、五酸化バナジウム(V)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)などの活性成分が担持されている。
【0006】
上記脱硝触媒は、広い温度範囲にわたって高い脱硝性能を得ることができるが、長時間使用することにより徐々に脱硝性能が低下するという問題がある。脱硝性能が低下する原因としては、(1)脱硝触媒表面に煤塵が付着してガスの通過孔を閉塞させる、(2)脱硝触媒表面に付着した煤塵中の被毒成分が脱硝触媒内に拡散して脱硝触媒を被毒させる、(3)燃料中に含まれる触媒毒となる物質が炉内でガス化し、物理的に脱硝触媒に吸着したり、あるいは触媒成分と化学的に反応して、脱硝反応の進行を妨げること、などが挙げられる。
【0007】
上記(1)及び(2)のように、脱硝触媒表面の煤塵付着に起因する性能低下は、触媒層7の燃焼排ガス入口側に除塵装置を設けることにより、煤塵の触媒層7への到達量を減らして、脱硝性能低下を抑制することが期待できる。
これに対して、上記(3)のように、ガス状成分によって脱硝触媒が被毒される場合は、触媒層7への被毒成分の飛来を防ぐ策がないのが現状である。そのため、脱硝触媒の耐久性は、燃料中に含まれる有害物質の種類や、その量によって大きく左右されることとなる。
【0008】
石炭焚きボイラでは、燃料として石炭が使用される。石炭は、産地によって品質が大きく異なり、砒素を多く含むものもある。砒素は、被毒成分であり、触媒毒としての作用が強い。砒素をppmオーダーで含む石炭を燃料として使用した場合、脱硝触媒の活性点に砒素が付着し、数万時間で活性点を不活化してしまう。従って、石炭焚きボイラなどでは、脱硝設備を設置する上で、砒素対策が重要となる。
【0009】
燃料中の砒素は、燃料が炉内で燃焼する際に大部分がガス化され、三酸化砒素(As)の形態で存在する。Asガスは、脱硝装置が設置されている付近の温度域において熱力学的に(I)式あるいは(II)式の反応が進むと予想される。
As+O→As・・・・・・(I)
3CaO+As+O→Ca(AsO・・・・・・(II)
【0010】
(I)式では、Asが周囲の酸素と反応し、固体状態の五酸化二砒素(As)に変化する。
(II)式では、Asが煤塵中に含まれるCaOと反応して固体状態の砒酸カルシウム(Ca(AsO)に変化する。
【0011】
(I)式及び(II)式で生成されたAs及びCa(AsOは、固体の粒子状形態になっている。そのため、脱硝触媒の表面に付着することがあったとしても、内部に取り込まれる可能性は小さく、脱硝触媒の活性に与える影響も少ないはずである。しかしながら、実際には砒素による触媒劣化が起きている。上記を踏まえると、(I)式の反応速度は遅く、触媒層7付近においても砒素の相当量が、依然としてAsのガス状の形態で存在しているものと考えられる。
【0012】
上記砒素による触媒劣化の対策として、脱硝触媒充填層の上流の燃焼排ガス通路に、砒素化合物を吸着除去する吸着剤充填層を設けて、脱硝触媒の劣化を防止する方法が提案されている(特許文献1、及び特許文献2参照)。
【0013】
特許文献3及び特許文献4では、pH4以下の酸水溶液及び水酸化第4アンモニウムにより湿式で脱硝触媒を洗浄する方法が提案されている。
【0014】
特許文献5では、還元剤を含有させたAr,N及びHe等の不活性ガスを用いて、脱硝触媒から砒素を分離する方法が提案されている。特許文献5では、還元剤はH,CO又はCHとされ、不活性ガス中に2%(volベースで)含有させる。特許文献5において、還元剤を含む不活性ガスによる処理は、500℃以上、好ましくは700℃から900℃の温度条件で行われる。
【0015】
特許文献6では、SO,CO,H,CH,NHなどにHClを加え、還元処理した後に多官能の錯体形成物で洗浄処理する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭63−65937号公報
【特許文献2】特公平07−029049号公報
【特許文献3】特開2005−87901号公報
【特許文献4】特開2004−66101号公報
【特許文献5】米国特許5,942,458号
【特許文献6】米国特許6,596,661号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1及び特許文献2に記載の方法は実用化されておらず、長時間使用された石炭焚きボイラの脱硝触媒は、砒素が原因で脱硝性能が低下するため、消耗品として取替えが行われている。
【0018】
特許文献3及び特許文献4に記載の方法は、湿式で洗浄するため、洗浄後の砒素を含む洗浄水の処理等が問題となる。湿式で脱硝触媒から砒素を分離するためには、触媒1立方メートルに対して3〜4倍の洗浄水が必要となる。詳細には、100立方メートルの脱硝触媒に対して400トン程度の洗浄水が必要となる。そのため、廃棄コストなどを考慮し、使用済みの脱硝触媒は廃棄されているのが現状である。
【0019】
特許文献5に記載の方法は、高温条件で脱硝触媒を処理するため、脱硝触媒が劣化し、脱硝性能の低下が生じる。よって、実用化には至っていない。
【0020】
特許文献6には、還元剤を用いた方法ではAsの処理が出来ないため、多官能の錯体形成物で洗浄処理する必要があると記載されている。すなわち、特許文献3及び特許文献4と同様に、湿式での洗浄工程が必須となる。
【0021】
上記のように、砒素を脱硝触媒から分離する実用的な技術が無いことから、砒素が原因で性能低下した脱硝触媒は廃棄されていた。しかしながら、脱硝触媒には、二酸化チタン、タングステン、モリブデン、バナジウム等のレアーメタルが多く含まれており、このレアーメタルを回収してリサイクル利用する技術が望まれている。
【0022】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、使用済みの砒素で汚染された脱硝触媒から、乾式で砒素化合物を分離する実用的な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記のように、現状の技術ではAsを分離する為には700℃以上の高温で処理する、または、洗浄する必要があり、低温で、且つ、乾式での処理については今まで提案されていなかった。本願発明者らは、鋭意研究の結果、低温で、且つ、乾式プロセスで脱硝触媒から砒素化合物を分離する方法を発明した。
【0024】
上記課題を解決するために、本発明は、砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、還元雰囲気下で、CHを除く炭化水素化合物または含酸素炭素化合物に曝露させつつ、所定温度で加熱処理する砒素化合物の除去方法および砒素化合物の除去装置を提供する。
【0025】
上記発明によれば、炭化水素化合物(但しCHは除く)または含酸素炭素化合物に、砒素化合物で汚染された脱硝触媒を曝して加熱処理することで、脱硝触媒から砒素化合物を分離・除去することができる。
【0026】
上記発明の一態様において、前記炭化水素化合物及び前記含酸素炭素化合物が、前記所定温度にて気体であることが好ましい。
【0027】
上記発明の一態様によれば、砒素化合物で汚染された脱硝触媒は、気体状態の炭化水素化合物または含酸素炭素化合物に曝すと良い。それによって、従来不可能であった乾式プロセスにより、低温で砒素化合物を分離・除去することが可能となる。
【0028】
上記発明の一態様において、前記所定温度を、300℃より高く600℃以下とすることが好ましい。
【0029】
上記発明の一態様によれば、砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、炭化水素化合物(但しCHは除く)または含酸素炭素化合物に曝すため、600℃以下の低温で加熱処理した場合でも脱硝触媒から砒素化合物を分離・除去することが可能となる。加熱処理の温度が低すぎると、脱硝触媒から砒素化合物を分離・除去することができない。
【0030】
上記発明の一態様において、前記砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、製品形状のまま、または粉砕処理により粒子形状とした後、前記炭化水素化合物または前記含酸素炭素化合物に曝露させても良い。
【0031】
上記発明の一態様によれば、砒素化合物で汚染された脱硝触媒は、実機で使用されていた製品形状のまま、または、製品を粉砕処理して作製した粒子形状のいずれの形状であっても、所定温度で加熱して、炭化水素化合物または含酸素炭素化合物に曝すことで、脱硝触媒から砒素化合物を分離・除去することができる。
【0032】
本発明は、上記の砒素化合物の除去方法にて砒素化合物を除去する脱硝触媒の再生方法および脱硝触媒の再生装置を提供する。
長時間使用した脱硝触媒は、砒素化合物で汚染され、触媒性能が低下する。上記発明によれば、上記方法により砒素化合物を除去することで、脱硝触媒を消耗品として廃棄せずに、再生利用することが可能となる。上記発明によれば、乾式プロセスにより砒素化合物を分離・除去することができるため、砒素を含有する洗浄液を廃棄処理する必要がない。上記発明によれば、低温で処理するため、脱硝触媒の劣化を抑制しつつ、脱硝触媒から砒素化合物を除去することができる。上記発明によれば、脱硝触媒に含まれている、二酸化チタン、タングステン、モリブデン、バナジウム等のレアーメタルを廃棄することなく再利用することができる。
【0033】
上記発明の一態様において、砒素化合物を除去した前記脱硝触媒を、酸素雰囲気において250℃以上で加熱処理することが好ましい。それによって、従来不可能であった乾式プロセスにより、低温で砒素化合物を分離・除去することが可能となる。
【0034】
上記発明の一態様によれば、砒素化合物を除去する際に脱硝触媒に付着した余剰の炭素系化合物を除去することができる。余剰炭素は、触媒にとって不純物であるため、該不純物を取り除くことで性能低下を防止することができる。
【0035】
本発明の一態様は、上記脱硝触媒の再生方法で再生された脱硝触媒を提供する。
上記のように再生された脱硝触媒は、触媒性能が改善されているため、脱硝触媒として再利用することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、実用的な方法で、使用済みの砒素化合物で汚染された脱硝触媒から、乾式プロセスにより低温で砒素化合物を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】試験装置の概略図である。
図2】Cガスにより処理した時の揮発成分中の砒素比率を示す図である。
図3】固体炭素を添加しNガスにより処理した時の揮発成分中の砒素比率を示す図である。
図4】選択的接触還元法を用いた脱硝装置の構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明に係る砒素化合物の除去方法、脱硝触媒の再生方法、並びに該再生方法で再生された脱硝触媒の一実施形態について説明する。
【0039】
本実施形態では、砒素化合物で汚染された脱硝触媒を、還元雰囲気下で、炭化水素化合物(但しCHは除く)または含酸素炭素化合物に曝露させつつ、所定温度で加熱処理する。これによって、脱硝触媒から砒素化合物を分離・除去することができる。砒素化合物を除去した脱硝触媒は、酸素雰囲気下、250℃以上で加熱処理すると良い。それにより、脱硝触媒に余剰に付着した炭素系化合物を脱硝触媒から除去することができる。
【0040】
脱硝触媒は、レアーメタルである二酸化チタン(TiO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)及び五酸化バナジウム(V)のいずれかの成分を含む。
本実施形態において、脱硝触媒は、砒素を含む石炭を燃料とする石炭焚きボイラで長時間使用されたものとする。砒素を含む石炭を燃料とする石炭焚きボイラにおいて、長時間使用した脱硝触媒は、煤塵中に含まれる砒素化合物で汚染される。砒素は、脱硝触媒にとって被毒成分である。脱硝触媒が砒素化合物で汚染されると、脱硝触媒の触媒性能が低下する。ここで「砒素化合物で汚染される」とは、砒素化合物が脱硝触媒の表面に物理的に付着した状態、あるいは、砒素または砒素化合物が脱硝触媒の表面に化学的に結合した状態を指す。
【0041】
炭化水素化合物(但しCHは除く)または含酸素炭素化合物(アルコール類)は、還元剤として作用する。炭素数を2以上とすることで、還元剤としての反応性を確保することが可能となる。炭化水素化合物(但しCHは除く)または含酸素炭素化合物は、所定温度で加熱処理する際に、気体で存在する特性を有することが好ましい。例えば、炭素数はC〜C18が好ましく、C〜Cが更に好ましい。詳細には、炭化水素化合物(但しCHは除く)は、エタン(C)、プロパン(C)、シクロプロパン(C)、プロペン(C)、ブタン(C10)、シクロブタン(C)、ブテン(C)、メタノール(CHOH)、エタノール(CO)、プロパノール(CO)、ブタノール(C10O)などから選択されると良い。
【0042】
脱硝触媒は、製品形状または粒子形状とされると良い。例えば、脱硝触媒の製品形状はハニカム状とされる。粒子形状の脱硝触媒は、脱硝触媒の製品を適当な方法で粉砕して作製することができる。粒子の大きさなどは特に限定されないが、製品を細かく粉砕することで、反応面積を増やすことができる。
【0043】
加熱処理の際の所定温度は、300℃より高く600℃以下、好ましくは350℃以上600℃以下、更に好ましくは400℃以上500℃以下とされる。所定温度が低すぎると、脱硝触媒から砒素を除去することができない。所定温度が脱硝触媒の焼成温度よりも高すぎると、脱硝触媒が劣化し、触媒性能が低下する。
【0044】
加熱処理の時間は、脱硝触媒の形状、脱硝触媒の量、加熱処理温度、加熱ガス組成などに応じて適宜設定する。
【0045】
上記工程により脱硝触媒から砒素を除去することで、脱硝触媒に含まれるレアーメタルを回収することが可能となる。また、本実施形態に従って砒素が除去された脱硝触媒は、脱硝性能が改善され、再び脱硝触媒として利用することが可能となる。
【0046】
(実施例1)
脱硝触媒Aとして、表1に示す組成の触媒を使用した。脱硝触媒Aの組成は、ICP(Induced Coupled Plasma Emission Spectroscopy)により分析した。脱硝触媒Aは、石炭焚きボイラの実機中の脱硝装置で、実際に3500時間使用された触媒である。脱硝触媒Aは、五酸化二砒素を3.5wt%の割合で含む。
【0047】
【表1】
【0048】
まず、脱硝触媒Aをミルで粉砕し、200mesh以下の粒子Aを作製した。次に、0.2gの粒子Aをシリカチューブの反応管に入れた。該反応管を用いて電気炉で下記条件の試験を実施し、触媒からの砒素の脱離状況を調査した。
【0049】
<試験条件1>
温度;100℃〜500℃
温度上昇率;10℃/min
処理ガス;C(プロペン)
処理ガス流量;100NTP−mL/min(NTP:標準状態、normal temperature and pressure)
【0050】
図1に、試験装置の概略図を示す。反応管を電気炉内に入れて、電気炉を毎分10℃の昇温速度で上昇させながら、上記処理ガス流量で気体状の炭化水素化合物(Cガス)を電気炉内に供給した。電気炉内に充満したCガスは、砒素成分を吸収可能な吸収液を備えたトラップを経由して電気炉外に排気される。試験は、試験ごとに新しい試料粉末を反応管にいれて、室温〜100℃、室温〜200℃、室温〜300℃、室温〜400℃、室温〜500℃の5回の試験を実施した。揮発量は、試験後の粉末について、砒素の含有量を、ICP(発光分光分析装置)を用いて計測し、処理前の濃度との差から算出した。
【0051】
図2に、Cガスにより処理した時の揮発成分中のヒ素比率を示す。同図において、横軸が温度、縦軸が砒素除去率である。砒素除去率は、処理前の粒子Aに含まれる砒素成分をすべて除去した場合を100とした。
【0052】
図2によれば、Cガス雰囲気下、300℃を超える温度から500℃程度までの範囲の温度で砒素含有触媒を加熱処理することで、砒素成分が気化し、粒子Aから分離することが分かった。すなわち、脱硝触媒から砒素化合物を分離・除去できることが示された。
【0053】
また、脱硝触媒Aを粉砕前のハニカム形状のまま、還元雰囲気下で、CHを除く炭化水素化合物に曝露した場合でも、実施例1と同様の結果が得られた。
【0054】
(比較例1)
脱硝触媒Aは実施例1と同様のものを使用した。実施例1と同様に、脱硝触媒Aを粉砕し、200mesh以下の粒子Aを作製した。0.2gの粒子Aに、還元剤としてフェノールフタレインを炭化させて作製した粒状の固体炭素を等量(重量ベースで)混合し、この混合粒子をシリカチューブの反応管に入れた。該反応管を用いて電気炉で下記条件の試験を実施し、触媒からの砒素の脱離状況を調査した。
【0055】
<試験条件2>
温度;100℃〜500℃
温度上昇率;10℃/min
処理ガス;N
処理ガス流量;100NTP−mL/min(NTP:normal temperature and pressure)
詳細には、粒子Aに固体炭素の粒子を混合させ、処理ガスをNとした以外は、実施例1と同様に処理し、揮発成分中の砒素含有量を測定した。
【0056】
図3に、Nガスにより処理した時の揮発成分中のヒ素比率を示す。同図において、横軸が温度、縦軸が砒素除去率である。砒素除去率は、処理前の粒子Aに含まれる砒素成分をすべて除去した場合を100とした。
【0057】
図3によれば、Nガス雰囲気下、砒素化合物を含有する触媒に固体炭素を混合して加熱処理(〜500℃)しても、砒素化合物の除去が出来ないことが示された。
【符号の説明】
【0058】
1 ボイラ
2 スーパーヒータ
3 エコノマイザ
4 煙道
5 アンモニア注入器
6 脱硝反応器
7 触媒層
8 エアヒータ
9 電気集塵器
10 燃焼排ガスファン
11 煙突
図1
図2
図3
図4