(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水中では電磁波の減衰が大きいため、一般的に水中物体の探知には音波が利用される。音波を利用して水中物体を探知する方式として、アクティブソナーと呼ばれる方式や、パッシブソナーと呼ばれる方式がある。アクティブソナーは、波源から音を送波して物体から反射するエコー音を検出し、物体までの距離と方位を求めるものであるが、自ら音を出すために自身の存在を暴露してしまうことになる。一方、パッシブソナーは、水中物体の放射音を検出するものであり、自ら音を出さないため、秘密裏に水中物体を探知することができる。しかしながら、パッシブソナーでは、物体の方位を求めるのは容易であるが、物体までの距離を求めるためには目標運動解析やマッチドフィールド処理などによる複雑な計算が必要であった。目標運動解析では連続的な放射音により物体までの距離を推定することができるが、一時的な過渡音では物体までの距離を求めることができない。また、マッチドフィールド処理は海洋環境を事前に把握しておく必要があるが、時間空間的に変化する海洋環境の複雑な特性をデータベース化するのは困難である。
【0003】
一時的な過渡音で物体までの距離を求める方法として、音波の伝搬時間差を利用する方法が研究されている。このような方法として、非特許文献1に開示される総当たり法と称される方法がある。以下、
図7及び
図8を参照して、総当たり法について説明する。
【0004】
総当たり法は、
図7(a)に示すように、実目標hが発生する過渡音を受波器jに受信させるものであり、実目標hから反射することなく受波器jに直接到達した直接波Dhの伝搬時間と、海水面w1や海底面w2で反射して受波器jに到達した反射波Rh1,Rh2の伝搬時間との差(1),(2)が測定される(
図8(a))。そして、
図7(b)に示すように、実目標hが存在すると想定される範囲が格子化されて、各格子点上にある仮目標kが過渡音を発生するとした場合に、受波器jに直接到達する直接波Dkの伝搬時間と、海水面w1や海底面w2で反射して受波器jに到達する反射波Rk1,Rk2の伝搬時間との差(3),(4)が、総当たり的(格子点ごとに)に計算される(
図8(b))。そして、各仮目標k(各格子点)について計算された伝搬時間差(3),(4)と、実目標hについて測定された伝搬時間差(1),(2)との差が算出されて、当該差が最小となる仮目標kの位置情報(仮目標の深度、仮目標と受波器との間の距離)が、実目標hの位置を示す情報として取得される。
【0005】
また、伝搬経路の違いにより波源の位置を推定する方法が、特許文献1,2に開示されている。特許文献1,2の方法では、異なる位置に複数の音響センサが設置されて、各音響センサが、それぞれ波源からの直接波を受信する。そして、任意の2つの音響センサに受信される直接波の伝搬時間差が算出されて、上記2つの音響センサ間での伝搬時間差が一定となる双曲線が求められる。この双曲線は、任意の2つの音響センサからなる組毎に求められ、2組以上で求められた双曲線の交点が、波源の位置として推定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の総当たり法では、実目標hが存在すると想定される範囲(深度及び距離)が大きい場合や、格子の刻み幅が小さい場合には、格子点の数が多くなる。このため、格子点ごとに伝搬時間差(3),(4)を算出する計算に、長い時間を要する。この問題を改善する手法として、Simulated Annealing法やGenetic Algorism法などの確率論的解法があるが、これらの方法は、解を確実に捜索する方法とはいえない。
【0009】
また、特許文献1,2に開示される方法では、波源位置を求めるために、音響センサを複数の地点に設ける必要がある。
【0010】
本発明は、受波器を複数の地点に設けることを要さずに、短時間で波源位置を推定可能な方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1観点に係る位置推定方法は、第1境界面と第2境界面との間からパルス波を放射する波源の位置を推定するための方法であって、前記第1境界面と前記第2境界面との間に設置された受波器に、前記波源から放射されたパルス波を受信させる受信ステップと、前記波源から前記受波器に直接到達した直接波の到達時刻、前記第1境界面で1回反射して前記受波器に到達した第1反射波の到達時刻、及び前記第2境界面で1回反射して前記受波器に到達した第2反射波の到達時刻を特定する到達時刻特定ステップと、前記直接波の到達時刻と前記第1反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差を算出し、前記直接波の到達時刻と前記第2反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差を算出する経路差算出ステップと、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記受波器を通過する双曲線であって、前記波源と前記第1境界面に対する前記波源の鏡像とを焦点とする第1双曲線の式を求め、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記受波器を通過する双曲線であって、前記波源と前記第2境界面に対する前記波源の鏡像とを焦点とする第2双曲線の式を求める双曲線取得ステップと、前記第1双曲線の式と前記第2双曲線の式とを連立することで、前記波源の座標である前記第1双曲線及び前記第2双曲線の共通の焦点の座標を求める焦点座標算出ステップとを備える。
【0012】
また、本発明の第2観点に係る位置推定方法は、第1境界面と第2境界面との間からパルス波を放射する波源の位置を推定するための方法であって、前記第1境界面と前記第2境界面との間に設置された受波器に、前記波源から放射されたパルス波を受信させる受信ステップと、前記波源から前記受波器に直接到達した直接波の到達時刻、前記第1境界面で1回反射して前記受波器に到達した第1反射波の到達時刻、及び前記第2境界面で1回反射して前記受波器に到達した第2反射波の到達時刻を特定する到達時刻特定ステップと、前記直接波の到達時刻と前記第1反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差を算出し、前記直接波の到達時刻と前記第2反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差を算出する経路差算出ステップと、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記波源を通過する双曲線であって、前記受波器と前記第1境界面に対する前記受波器の鏡像とを焦点とする第1双曲線の式を求め、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記波源を通過する双曲線であって、前記受波器と前記第2境界面に対する前記受波器の鏡像とを焦点とする第2双曲線の式を求める双曲線取得ステップと、前記第1双曲線の式と前記第2双曲線の式とを連立して、前記波源の座標である前記第1双曲線及び前記第2双曲線の交点の座標を求める交点座標算出ステップとを備える。
【0013】
また、本発明の第1及び第2観点に係る位置推定方法では、前記波源は、前記第1境界面としての海水面と、前記第2境界面としての海底面との間から、前記パルス波である音波を放射するものであり、前記受波器には、当該受波器の位置における水圧を測定可能な圧力センサが設けられ、前記圧力センサが計測した水圧に基づき、前記受波器の座標を求める受波器座標算出ステップをさらに有し、前記双曲線取得ステップでは、前記受波器座標算出ステップで算出された前記受波器の座標を用いて、前記第1双曲線や前記第2双曲線の式が求められる。
【0014】
また、本発明の第3観点に係る位置推定装置は、第1境界面と第2境界面との間からパルス波を放射する波源の位置を推定するための装置であって、前記第1境界面と前記第2境界面との間に設置されて、前記波源から放射されたパルス波を受信する受波器と、前記波源から前記受波器に直接到達した直接波の到達時刻、前記第1境界面で1回反射して前記受波器に到達した第1反射波の到達時刻、及び前記第2境界面で1回反射して前記受波器に到達した第2反射波の到達時刻を特定する到達時刻特定部と、前記直接波の到達時刻と前記第1反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差を算出し、前記直接波の到達時刻と前記第2反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差を算出する経路差算出部と、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記受波器を通過する双曲線であって、前記波源と前記第1境界面に対する前記波源の鏡像とを焦点とする第1双曲線の式を求め、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記受波器を通過する双曲線であって、前記波源と前記第2境界面に対する前記波源の鏡像とを焦点とする第2双曲線の式を求める双曲線取得部と、前記第1双曲線の式と前記第2双曲線の式とを連立することで、前記波源の座標である前記第1双曲線及び前記第2双曲線の共通の焦点の座標を求める焦点座標算出部とを備える。
【0015】
また、本発明の第4観点に係る位置推定装置は、第1境界面と第2境界面との間からパルス波を放射する波源の位置を推定するための装置であって、前記第1境界面と前記第2境界面との間に設置されて、前記波源から放射されたパルス波を受信する受波器と、前記波源から前記受波器に直接到達した直接波の到達時刻、前記第1境界面で1回反射して前記受波器に到達した第1反射波の到達時刻、及び前記第2境界面で1回反射して前記受波器に到達した第2反射波の到達時刻を特定する到達時刻特定部と、前記直接波の到達時刻と前記第1反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差を算出し、前記直接波の到達時刻と前記第2反射波の到達時刻とに基づき、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差を算出する経路差算出部と、前記直接波と前記第1反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記波源を通過する双曲線であって、前記受波器と前記第1境界面に対する前記受波器の鏡像とを焦点とする第1双曲線の式を求め、前記直接波と前記第2反射波との伝搬経路差と、前記受波器の座標とに基づき、前記波源を通過する双曲線であって、前記受波器と前記第2境界面に対する前記受波器の鏡像とを焦点とする第2双曲線の式を求める双曲線取得部と、前記第1双曲線の式と前記第2双曲線の式とを連立して、前記波源の座標である前記第1双曲線及び前記第2双曲線の交点の座標を求める交点座標算出部とを備える。
【0016】
また、本発明の第3及び第4観点に係る位置推定装置では、前記波源は、前記第1境界面としての海水面と、前記第2境界面としての海底面との間から、前記パルス波である音波を放射するものであり、前記受波器に設けられて、当該受波器の位置における水圧を測定可能な圧力センサと、前記圧力センサが計測した水圧に基づき、前記受波器の座標を求める受波器座標算出部とをさらに有し、前記双曲線取得部は、前記受波器座標算出部が算出した前記受波器の座標を用いて、前記第1双曲線や前記第2双曲線の式を求める。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、波源の座標が求められるので、波源の位置を推定することができる。そして、波源の座標は、一箇所の受波器に受信される直接波と反射波との伝搬経路差に基づき求められる。このため、受波器を複数の地点に設けることを要しない。よって、受波器を複数の地点に設ける場合のように、設備コストが高額にならず、複数の受波器を設置する手間や、複数の受波器の位置を特定する手間を要しない。
【0018】
また、本発明によれば、直接波と反射波との伝搬時間差を複数の地点ごとに求める反復計算を要しない。このため、短時間で波源の位置を推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態について詳細に説明する。
図1は、第1実施形態の位置推定方法の原理を示す概要図である。
【0021】
第1実施形態は、海水面W1(第1境界面)と海底面W2(第2境界面)との間から、パルス波である音波を放射する波源Hの位置を、受波器Jを用いて推定するものである。海水面W1や海底面W2は、凹凸のない平面であり、平行である。海水面W1と海底面W2との間は、音波を伝える一様な媒質で満たされている。
【0022】
図1は、高さ方向(深さ方向)をZ軸で表し、水平方向をr軸で表すものである。以下では、
図1に示すように、受波器Jが座標(r,zr)にあるときに、波源Hの座標(0,zs)を求める場合を例に説明する。
【0023】
波源Hから音波が放射されると、受波器Jには、まず、受波器Jと波源Hとを結ぶ直線上を進んだ直接波Dが到達し、次に、海水面W1又は海底面W2で1回反射した反射波R1,R2が受波器Jに到達し、この後、海水面W1及び海底面W2での多重反射波が受波器Jに到達する。
【0024】
海水面W1で1回反射して受波器Jに到達する第1反射波R1の伝搬経路長は、海水面W1に対する波源Hの鏡像H1(以下、嘘波源H1)から直接受波器Jに到達する音波の伝搬経路長に等しい。そして、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差が一定となる軌跡は、波源Hと嘘波源H1を焦点とし、受波器Jを通過する第1双曲線S1になる。
【0025】
また、波源Hから放射された音波のうち、海底面W2で1回反射して受波器Jに到達する第2反射波R2の伝搬経路長は、海底面W2に対する波源Hの鏡像H2(以下、嘘波源H2)から直接受波器Jに到達する音波の伝搬経路長に等しい。そして、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差が一定となる軌跡は、波源Hと嘘波源H2を焦点とし、受波器Jを通過する第2双曲線S2になる。
【0026】
上述した第1双曲線S1や第2双曲線S2は、以下の式1で表すことができる。
【0028】
式1の係数aは、直接波Dと反射波Rとの伝搬経路差で表される(第1双曲線S1の式1では、係数aは、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差で表される。第2双曲線S2の式1では、係数aは、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差で表される)。式1の係数bは、係数aと、波源HのZ座標zsとから求められる。
【0029】
そして、受波器JのZ座標zrや、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差が求められる場合には、係数aやZ(=zr)を実数とし、係数bやrを未知数とする第1双曲線S1の式1を求めることができる。
【0030】
また、受波器JのZ座標zrや、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差が求められる場合には、係数aやZ(=zr)を実数とし、係数bやrを未知数とする第2双曲線S2の式1を求めることができる。
【0031】
そして、上述のように第1,第2双曲線S1,S2の式1が求められる場合には、これら2つの双曲線S1,S2の式1を連立することで、2つの未知数b,rを求めることができる。この結果、求められるrは、受波器Jと波源Hとの間の水平距離に該当する。そしてさらに、係数a,bから、第1,第2双曲線S1,2の共通の焦点である波源HのZ座標zsを求めることができる。
【0032】
以上に基づき、第1実施形態では、直接波Dが受波器Jに到達した時刻T1や、第1反射波R1が受波器Jに到達した時刻T2や、第2反射波R2が受波器Jに到達した時刻T3が特定される。
【0033】
そして、直接波Dの到達時刻T1と第1反射波R1の到達時刻T2とに基づき、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1が算出される。また、直接波Dの到達時刻T1と第2反射波R2の到達時刻T3とに基づき、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2が算出される。
【0034】
また、受波器Jの位置における水圧に基づき、受波器JのZ座標zrが求められる。
【0035】
そして、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1と、受波器JのZ座標zrとに基づき、第1双曲線S1の式1が求められる。また、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2と、受波器JのZ座標zrとに基づき、第2双曲線S2の式1が求められる。
【0036】
そして、第1双曲線S1の式1と第2双曲線S2の式1とを連立して、受波器Jと波源Hとの間の水平距離rや、第1,第2双曲線S1,2の共通の焦点のZ座標zsが求められる。
【0037】
図2は、上記の処理を実行する位置推定装置Aのハードウェア構成を示している。
【0038】
位置推定装置Aは、上述の受波器Jと、演算処理装置Eとを備える。
【0039】
受波器Jには、音圧センサ10と、圧力センサ11とが設けられる。音圧センサ10は、圧電士を備えるものであって、複数配列される。なお、音圧センサ10は、光ファイバ方式のものであってもよい。圧力センサ11は、受波器Jの位置における水圧を測定する。
【0040】
演算処理装置Eは、受波器Jの近傍あるいは受波器Jと一体的に設けられる。演算処理装置Eは、通信回線を介して受波器Jと接続されるものであり、到達時刻特定部20と、経路差算出部21と、双曲線取得部22と、焦点座標算出部23と、受波器座標算出部24とを備える。上記の各部は、例えば回路から実現される。或いは、上記の各部は、CPU(Central Processing Unit)が、外部記憶部に記憶されているプログラムに従った処理を実行することで実現される。
【0041】
また、演算処理装置Eには、海水面W1と海底面W2との間にある媒質で音が伝わる速さ(以下、音速)や、圧力センサ11が測定した水圧を入力するための入力装置(図示せず)が設けられる。また、演算処理装置Eは、音波の到来方向を判別するためのビームフォーミングと称される信号処理を実行可能である。
【0042】
次に、
図3を参照して、上記の位置推定装置Aで実行される処理を説明する。
【0043】
受波器Jの音圧センサ10は、波源Hから発されて、受波器Jに到達する音波を順次受信する(ステップS101)。そして、音圧センサ10は、音波を受信するたびに、音波をAD変換して、演算処理装置Eの到達時刻特定部20に伝送する(ステップS102)。
【0044】
到達時刻特定部20は、音圧センサ10から音波の信号を受け取るたびに、当該音波が受波器Jに到達した時刻T(以下、到達時刻T)を決定する(ステップS103)。時刻検知の方法としては、信号の立ち上がり点や最大振幅点などから検知する等種々の方法がある。
【0045】
ついで、到達時刻特定部20は、振幅の大きい3つの音波の信号を選択する。そして、到達時刻特定部20は、これら3つの音波の到達時刻Tのうち、最も早い音波の到達時刻Tを直接波Dの到達時刻T1と特定する。また、到達時刻特定部20は、直接波Dに遅れて到達した音波(2番目、3番目に到達した音波)に対して、演算処理装置E内でのビームフォーミングと称される信号処理により音波の上下の到来方向を判別する。そして、到達時刻特定部20は、上方向から到達した音波を第1反射波R1とし、下方向から到達した音波を第2反射波R2として、これら反射波R1,R2の到達時刻T2,T3を特定する(ステップS104)。
【0046】
ついで、経路差算出部21は、直接波Dの到達時刻T1と第1反射波R1の到達時刻T2との間の時間差を、直接波Dと第1反射波R1との伝搬時間差S1として算出する(ステップS105)。
【0047】
また、経路差算出部21は、直接波Dの到達時刻T1と第2反射波R2の到達時刻T3との間の時間差を、直接波Dと第2反射波R2との伝搬時間差S2として算出する(ステップS105)。
【0048】
ついで、経路差算出部21は、ステップS105で算出された伝搬時間差S1に、入力装置に入力された音速を乗じることで、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1を算出する(ステップS106)。
【0049】
また、経路差算出部21は、ステップS105で算出された伝搬時間差S2に、入力装置に入力された音速を乗じることで、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2を算出する(ステップS106)。
【0050】
ついで、受波器座標算出部24は、圧力センサ11が測定した水圧に基づき、受波器JのZ座標zr(深度)を算出する(ステップS107)。
【0051】
ついで、双曲線取得部22は、ステップS106で算出された直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1と、ステップS107で算出された受波器JのZ座標zrとに基づき、第1双曲線S1の式1を求める(ステップS108)。
【0052】
また、双曲線取得部22は、ステップS106で算出された直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2と、ステップS107で算出された受波器JのZ座標zrとに基づき、第2双曲線S2の式1を求める(ステップS108)。
【0053】
上記のステップS108で求められる第1,第2双曲線S1,S2の式1は、係数aやZ(=zr)を実数とし、係数bやrを未知数とするものである。
【0054】
ついで、焦点座標算出部23は、第1双曲線S1の式1と第2双曲線S2の式1とを連立して、未知数b,rを求める(ステップS109)。この結果、求められるrは、受波器Jと波源Hとの間の水平距離に該当する。さらに、焦点座標算出部23は、係数a,bから、第1,第2双曲線S1,S2の共通の焦点である波源HのZ座標zsを求める(ステップS109)。
【0055】
以上のように、第1実施形態によれば、波源HのZ座標zsや、受波器Jと波源Hとの間の水平距離rが求められるので、波源Hの位置を推定することができる。
【0056】
そして、上述の波源HのZ座標zsや水平距離rは、一箇所の受波器Jに受信される直接波Dと反射波R1,R2との伝搬経路差に基づき求められる。このため、受波器Jを複数の地点に設けることを要しない。よって、受波器を複数の地点に設ける場合のように、設備コストが高額にならず、複数の受波器を設置する手間や、複数の受波器の位置を特定する手間を要しない。
【0057】
また従来の総当り法のように、直接波と反射波との伝搬時間差を複数の地点ごとに求める反復計算を要しない。このため、短時間で波源の位置を推定することができる。
【0058】
また、受波器Jの圧力センサ11が計測した水圧に基づき、受波器Jの座標が求められ、当該受波器Jの座標を用いて、第1双曲線S1や第2双曲線S2の式が求められる。このため、受波器Jの位置が既知でない場合や、受波器Jが移動する場合であっても、第1双曲線S1や第2双曲線S2の式を求めて、これらの式に基づき波源Hの座標を求めることができる。
【0060】
次に、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。
図4は、第2実施形態の位置推定方法の原理を示す概要図である。
【0061】
第2実施形態も、第1実施形態と同様、海水面W1と海底面W2との間から、パルス波である音波を放射する波源Hの位置を、受波器Jを用いて推定するものである。また、第1実施形態と同様、海水面W1や海底面W2は、凹凸がない平面であり、平行である。海水面W1と海底面W2との間は音波を伝える一様な媒質で満たされる。
【0062】
以下では、
図4に示すように、受波器Jが座標(0,zr)にあるときに、波源Hの座標(r,zs)を求める場合を例に説明する。
【0063】
波源Hから発せられた音波のうち、海水面W1で1回反射して受波器Jに到達する第1反射波R1の経路長は、海水面W1に対する受波器Jの鏡像J1(以下、嘘受波器J1)に直接到達する音波の経路長に等しい。そして、波源Hから直接受波器Jに到達する直接波Dと、第1反射波R1との伝搬経路差が一定となる軌跡は、受波器Jと嘘受波器J1を焦点とし、波源Hを通過する第1双曲線S3になる。
【0064】
また、波源Hから放射された音波のうち、海底面W2で1回反射して受波器Jに到達する第2反射波R2の経路長は、海底面W2に対する受波器Jの鏡像J2(以下、嘘受波器J2)に直接到達する音波の経路長に等しい。そして、波源Hから直接受波器Jに到達する直接波Dと、第2反射波R2との伝搬経路差が一定となる軌跡は、受波器Jと嘘受波器J2を焦点とし、波源Hを通過する第2双曲線S4になる。
【0065】
上述した第1双曲線S3や第2双曲線S4は、以下の式2で表すことができる。
【0067】
式2の係数aは、直接波Dと反射波Rとの伝搬経路差で表される(第1双曲線S3の式2では、係数aは、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1で表される。第2双曲線S4の式2では、係数aは、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2で表される)。式2の係数cは、係数aと、受波器JのZ座標zrで表すことができる。
【0068】
受波器JのZ座標zrや、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1が求められる場合には、係数a,cを実数とし、Zやrを未知数とする第1双曲線S3の式2を求めることができる。
【0069】
また、受波器JのZ座標zrや、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2が求められる場合には、係数a,cを実数とし、Zやrを未知数とする第2双曲線S4の式2を求めることができる。
【0070】
そして、上述のように第1,第2双曲線S3,S4の式2が求められる場合には、これら2つの双曲線S3,S4の式2を連立することで、2つの未知数Z,rを求めることができる。この結果、求められるZは、第2双曲線S3,S4の交点である波源HのZ座標zsに該当し、求められるrは、受波器Jと波源Hとの間の水平距離(波源Hのr座標)に該当する。
【0071】
以上に基づき、第2実施形態では、第1実施形態と同様、直接波Dや反射波R1,R2の到達時刻T1,T2,T3が特定される。そして、これらの到達時刻T1,T2,T3に基づき、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1や、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2が算出される。
【0072】
そして、受波器Jの位置における水圧に基づき、受波器JのZ座標zrが求められる。
【0073】
そして、直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1と、受波器JのZ座標zrとに基づき、第1双曲線S3の式2が求められる。また、直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2と、受波器JのZ座標zrとに基づき、第2双曲線S4の式2が求められる。
【0074】
そして、双曲線S3,S4の式2を連立して、第2双曲線S3,S4の交点である波源HのZ座標zsや、受波器Jと波源Hとの間の水平距離rが算出される。
【0075】
図5は、上記の処理を実行する位置推定装置Bのハードウェア構成を示している。
【0076】
位置推定装置Bは、受波器Jと、演算処理装置Fとを備える。
【0077】
受波器Jには、音圧センサ10と、圧力センサ11とが設けられる。音圧センサ10や圧力センサ11は、第1実施形態と同様である。このため、詳細な説明を省略する。
【0078】
演算処理装置Fは、通信回線を介して受波器Jと接続されるものであり、到達時刻特定部20と、経路差算出部21と、双曲線取得部25と、交点座標算出部26と、受波器座標算出部24とを備える。上記の各部は、例えば回路から構成される。或いは、上記の各部は、CPUが、外部記憶部に記憶されているプログラムに従った処理を実行することで構成される。また、演算処理装置Fには、媒質中の音速や、圧力センサ11が測定した水圧を入力するための入力装置が設けられる。また、演算処理装置Eは、ビームフォーミングと称される信号処理を実行可能である。
【0079】
次に
図6を参照して、上記の位置推定装置Fで実行される処理を説明する。
【0080】
ステップS201,S202は、受波器Jで実行され、ステップS203,S204は、到達時刻特定部20で実行され、ステップS205,S206は、経路差算出部21で実行され、ステップS207は受波器座標算出部24で実行される。これらステップS201〜ステップS207は、
図3のステップS101〜S107と同様である。よって以下では、ステップS208以降について説明する。
【0081】
双曲線取得部25は、ステップS206で算出された直接波Dと第1反射波R1との伝搬経路差K1と、ステップS207で算出された受波器JのZ座標zrとに基づき、第1双曲線S3の式2を求める(ステップS208)。
【0082】
また、双曲線取得部25は、ステップS206で算出された直接波Dと第2反射波R2との伝搬経路差K2と、ステップS207で求められた受波器JのZ座標zrとに基づき、第2双曲線S4の式2を求める(ステップS208)。
【0083】
上記のステップS208で求められる第1,第2双曲線S3,S4の式2は、係数a,cを実数とし、Zやrを未知数とするものである。
【0084】
ついで、交点座標算出部26は、第1双曲線S3の式2と第2双曲線S4の式2とを連立して、未知数Z,rを求める(ステップS209)。この処理により、求められるZは、第1,第2双曲線S3,S4の交点である波源HのZ座標zsであり、求められるrは、受波器Jと波源Hとの間の水平距離(波源Hのr座標)である。
【0085】
以上のように、第2実施形態においても、波源HのZ座標zsや水平距離rが求められるので、波源Hの位置を推定することができる。
【0086】
また、第2実施形態においても、一箇所の受波器Jに受信される直接波Dと反射波との伝搬経路差を利用して、波源Hの位置が推定される。このため、受波器Jを複数の地点に設けることを要しない。よって、設備コストが高額にならず、複数の受波器Jを所望の位置に設置する手間や、複数の受波器Jの位置を特定する手間を要しない。また、複数点における直接波Dと反射波との伝搬時間差を求める反復計算を要しないので、短時間で波源H位置を推定可能である。
【0087】
また、受波器Jの圧力センサ11が計測した水圧に基づき、受波器Jの座標が求められるとともに、当該受波器Jの座標を用いて、第1双曲線S3や第2双曲線S4の式が求められる。このため、受波器Jの位置が既知でない場合や、受波器Jが移動する場合であっても、第1双曲線S3や第2双曲線S4の式を求めて、これらの式に基づき波源Hの座標を求めることができる。
【0088】
なお、本発明は、上記の第1,第2実施形態に限定されず、種々改変することができる。
【0089】
例えば、上記の第1,第2実施形態では、媒質中の音速が一様である例を示したが、媒質中の音速は一様でなくてもよい。この場合、音速の平均値が演算処理装置E,F(
図2,
図5)に入力される。そして、
図3のステップS106や、
図6のステップS206では、音速の平均値を伝搬時間差S1,S2に乗じることで、伝搬経路差K1,K2が算出される。
【0090】
また、第1,第2実施形態では、境界面(海水面W1や海底面W2)が平面である例を示したが、本発明は、境界面に起伏や凸凹がある場合にも適用可能である。境界面に起伏や凸凹がある場合には、その平均平面が、境界面の伸びる方向(
図1や
図4のr軸に相当)に設定される。
【0091】
また、第1,第2実施形態では、圧力センサの測定値に基づき、受波器Jの座標を求める例を示したが、受波器Jが固定されて静止するものである場合には、受波器Jの座標を演算処理装置E,Fに入力して、この入力値に基づき、第1の双曲線や第2の双曲線の式が求められてもよい。
【0092】
また、第1,第2実施形態では、波源Hが音波を出力する例を示したが、本発明は、波源が音波以外のパルス波(電磁波や弾性波等)を出力する場合にも適用可能である。
【0093】
例えば、波源が電磁波や弾性波を出力する場合には、電磁波や弾性波を受信可能な受波器が、第1境界面と第2境界面との間に設けられる。そして、
図3のステップS101や
図6のステップS201に対応する処理では、上記の受波器に、波源から直接受波器に到達した直接波や、第1境界面で1回反射して受波器に到達した第1反射波や、第2境界面で1回反射して受波器に到達した第2反射波が受信される。そして、
図3のステップS106や
図6のステップS206に対応する処理では、演算処理装置に入力された光速や弾性波の速度に基づき、直接波と第1,第2反射波との伝搬経路差が算出される。
【解決手段】海水面W1と海底面W2との間に設置された受波器Jが、波源Hから受波器Jに直接到達した直接波Dや、海水面W1で1回反射して受波器Jに到達した第1反射波R1や、海底面W2で1回反射して受波器Jに到達した第2反射波R2を受信する。そして、波源Hと第1境界面に対する波源Hの鏡像H1とを焦点とする第1双曲線S1の式や、波源Hと海底面W2に対する波源Hの鏡像H2とを焦点とする第2双曲線S2の式が求められる。そして、第1双曲線S1の式と第2双曲線S2の式とを連立することで、波源Hの座標である第1双曲線S1及び第2双曲線S2の共通の焦点の座標が求められる。