特許第5716500号(P5716500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5716500(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5716500
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 303/24 20060101AFI20150423BHJP
   C07C 305/10 20060101ALI20150423BHJP
   C07D 317/30 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   C07C303/24
   C07C305/10
   C07D317/30
【請求項の数】4
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2011-82364(P2011-82364)
(22)【出願日】2011年4月4日
(65)【公開番号】特開2012-144511(P2012-144511A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2014年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-127561(P2010-127561)
(32)【優先日】2010年6月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-283922(P2010-283922)
(32)【優先日】2010年12月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145632
【弁理士】
【氏名又は名称】小出 誠
(72)【発明者】
【氏名】石井 章央
(72)【発明者】
【氏名】名倉 裕力
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 英之
【審査官】 増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/031725(WO,A2)
【文献】 国際公開第2008/045419(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/075186(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/025169(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/047266(WO,A1)
【文献】 特開2008−007488(JP,A)
【文献】 特開2006−290870(JP,A)
【文献】 WANG, P., et al, An Efficient and Diastereoselective Synthesis of PSI-6130: A Clinically Efficacious Inhibitor of HC,The Journal of Organic Chemistry,2009年,vol.74, No.17,6819-6824
【文献】 L'HEUREUX, A., et al,Aminodifluorosulfinium Salts: Selective Fluorination Reagents with Enhanced Thermal Stability and Ea,The Journal of Organic Chemistry,2010年,vol.75, No.10,3401-3411
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 303/24
C07C 305/10
C07D 317/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基の存在下にスルフリルフルオリド(SO22)と反応させることにより、一般式[2]
【化2】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
[式中、Meはメチル基を表し、R1はアルキル基または置換アルキル基を表す。該アルキル基は、炭素数が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を表し、該置換アルキル基は、該アルキル基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換基を有する。該置換アルキル基における置換基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数が1から6の直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)のアルコキシ基である。1およびP2はそれぞれヒドロキシル基の保護基を表し、1とP2は同じ保護基または異なる保護基を採ることができ、さらにP1とP2は同時に1つの保護基を採ることもできる。+はプロトンまたはプロトン化された有機塩基を表す]
【請求項2】
一般式[1]
【化3】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基と、フッ化水素、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドから選ばれるフッ化物イオン源の存在下にスルフリルフルオリド(SO22)と反応させることにより、一般式[3]
【化4】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
[式中、Meはメチル基を表し、R1はアルキル基または置換アルキル基を表す。該アルキル基は、炭素数が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を表し、該置換アルキル基は、該アルキル基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換基を有する。該置換アルキル基における置換基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数が1から6の直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)のアルコキシ基である。1およびP2はそれぞれヒドロキシル基の保護基を表し、1とP2は同じ保護基または異なる保護基を採ることができ、さらにP1とP2は同時に1つの保護基を採ることもできる。+はプロトン、プロトン化された有機塩基、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムまたはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムを表す]
【請求項3】
一般式[4]
【化5】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基の存在下にスルフリルフルオリド(SO22)と反応させることにより、一般式[5]
【化6】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
[式中、Meはメチル基を表し、R2はメチル基またはエチル基を表し、Y+はプロトンまたはプロトン化された有機塩基を表す]
【請求項4】
一般式[4]
【化7】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基と、フッ化水素、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドから選ばれるフッ化物イオン源の存在下にスルフリルフルオリド(SO22)と反応させることにより、一般式[6]
【化8】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
[式中、Meはメチル基を表し、R2はメチル基またはエチル基を表し、X+はプロトン、プロトン化された有機塩基、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムまたはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムを表す]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の製造方法は既に幾つか報告されているが、何れの製造方法においても2位への立体選択的なフッ素原子の導入が重要な課題となっている。大量規模での製造にも適したフッ素原子の導入方法としては環状硫酸エステル体への開環フッ素化が挙げられ(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)、原料基質の1,2−ジオール類から3工程(第1工程;環状亜硫酸エステル化、第2工程;酸化、第3工程;開環フッ素化)で(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の開環フッ素化物を得ることができる[スキーム1を参照、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Xはプロトン、プロトン化された有機塩基、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムまたはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムを表し、Bzはベンゾイル基を表す]。さらに、該改良法としてスルフリルクロリドまたは1,1’−スルホニルジイミダゾールを用いることにより1,2−ジオール類を直接、環状硫酸エステル体に変換し、原料基質から2工程(第1工程;環状硫酸エステル化、第2工程;開環フッ素化)で開環フッ素化物が得られることも報告されている。しかしながら、高い収率で再現良く開環フッ素化物を得るには敢えて2工程の改良法ではなく前者の3工程から成る製造方法が好適に採用されている。
【化1】
【0003】
一方、本出願人は、スルフリルフルオリド(SO)と有機塩基の組み合わせ(必要に応じて「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の存在下に行う)によるアルコール類の脱ヒドロキシフッ素化反応を開示している(特許文献3)。
【特許文献1】国際公開2008/045419号パンフレット
【特許文献2】国際公開2006/031725号パンフレット
【特許文献3】特開2006−290870号公報
【非特許文献1】J.Org.Chem.(米国)、2009年、第74巻、p.6819−6824
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の工業的な製造方法を提供することにある。
【0005】
従来の環状硫酸エステル体への開環フッ素化を経る製造方法では、工業的な製造方法としての要件(高い収率で再現良く)を満たすと同時に短工程化することは困難であった。短工程化は操作の簡略化や廃棄物の低減に繋がり、工業的な観点から高い生産性やコストの削減を期待することができる。よって、本発明で対照とする(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の工業的な製造方法の開発においても従来の製造方法に比べて工程数の短いものが強く望まれていた。
【0006】
また、スルフリルフルオリドが本発明の原料基質である1,2−ジオール類の環状硫酸エステル化剤として作用することは報告されておらず、さらに引き続く開環フッ素化までもがドミノ反応として行えることも一切報告されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、1,2−ジオール類を有機塩基の存在下にスルフリルフルオリドと反応させることにより、(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の開環フッ素化物が製造できることを見出した。
【0008】
原料基質としては、1,2−ジオール類のエステル部位がメチルエステルまたはエチルエステルのものが好ましく、さらに4位と5位の2つのヒドロキシル基が同時にイソプロピリデン基で保護されたものが好ましく、大量規模での入手が容易である。また、さらにフッ化水素、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドから選ばれるフッ化物イオン源の存在下に反応させることが好ましく、高い収率で再現良く開環フッ素化物を得ることができる。
【0009】
ここで得られた開環フッ素化物は特許文献1、特許文献2または非特許文献1を参考にして同様の変換反応を行うことにより、所望の(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類を収率良く得ることができる。
【0010】
この様に、(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の極めて有用な製造方法を見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明4]を含み、(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の工業的な製造方法を提供する。
【0012】
[発明1]
一般式[1]
【化2】
【0013】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[2]
【化3】
【0014】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
【0015】
[式中、Meはメチル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、PおよびPはそれぞれヒドロキシル基の保護基を表し、Yはプロトンまたはプロトン化された有機塩基を表す]
[発明2]
一般式[1]
【化4】
【0016】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基と、フッ化水素、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドから選ばれるフッ化物イオン源の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[3]
【化5】
【0017】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
【0018】
[式中、Meはメチル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、PおよびPはそれぞれヒドロキシル基の保護基を表し、Xはプロトン、プロトン化された有機塩基、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムまたはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムを表す]
[発明3]
一般式[4]
【化6】
【0019】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[5]
【化7】
【0020】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
【0021】
[式中、Meはメチル基を表し、Rはメチル基またはエチル基を表し、Yはプロトンまたはプロトン化された有機塩基を表す]
[発明4]
一般式[4]
【化8】
【0022】
で示される1,2−ジオール類を有機塩基と、フッ化水素、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドから選ばれるフッ化物イオン源の存在下にスルフリルフルオリド(SO)と反応させることにより、一般式[6]
【化9】
【0023】
で示される開環フッ素化物を製造する方法。
【0024】
[式中、Meはメチル基を表し、Rはメチル基またはエチル基を表し、Xはプロトン、プロトン化された有機塩基、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムまたはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムを表す]
【発明の効果】
【0025】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0026】
本発明では、スルフリルフルオリドが1,2−ジオール類の環状硫酸エステル化剤として働き、この過程で副生したフッ化物イオン(有機塩基との塩として存在する)により開環フッ素化が連続的にドミノ反応として進行する(さらにフッ化物イオン源の存在下に反応させることにより円滑に進行する)ことを明らかにした(スキーム2を参照)。よって、原料基質の1,2−ジオール類から1工程で(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の開環フッ素化物を得ることができる。さらに、好適な原料基質と反応条件を採用することにより高い収率で再現良く開環フッ素化物を得ることができる。
【化10】
【0027】
特許文献1、特許文献2および非特許文献1に対しては、従来の製造方法に比べて工程数が短く、さらに工業的な製造方法としての要件も同時に満たしている。
【0028】
また、1,2−ジオール類の3位ヒドロキシル基をベンゾイル基で保護したアルコール類(3位保護アルコール類)を有機塩基とフッ化物イオン源の存在下にスルフリルフルオリドと反応させても対応する3位保護フッ素化物を極低収率でしか得ることが出来なかった[スキーム3および比較例1を参照、ちなみに、該3位保護アルコール類の所望の脱ヒドロキシフッ素化は3フッ化ジエチルアミノイオウ(DAST)または3フッ化ビス(2−メトキシエチル)アミノイオウ(Deoxofluor)で良好に進行することが国際公開2006/012440号パンフレットで開示されている]。この結果は、2位にフッ素原子を効率良く導入するには、本発明の原料基質である1,2−ジオール類から誘導される反応中間体としての環状硫酸エステル体の関与が必須であり、特許文献3で開示した発明の範囲を超えるものである。
【化11】
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
本発明は、一般式[1]で示される1,2−ジオール類を有機塩基の存在下にスルフリルフルオリドと反応させることにより、一般式[2]で示される開環フッ素化物を製造する方法である。反応を通して2位(脱ヒドロキシフッ素化される炭素原子)の立体化学は反転し、3位(硫酸エステルとなるヒドロキシル基が結合した炭素原子)と4位(2級ヒドロキシル基保護体が結合した炭素原子)の立体化学は保持される。
【0031】
一般式[1]で示される1,2−ジオール類のMeは、メチル基を表す。
【0032】
一般式[1]で示される1,2−ジオール類のR1は、アルキル基または置換アルキル基を表す。アルキル基は、炭素数が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。置換アルキル基は、該アルキル基の任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで置換基を有する。係る置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の低級アルコキシ基等が挙げられる。本明細書において"低級"は炭素数が1から6を意味し、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。その中でも炭素数が1から4のアルキル基または置換アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基(R2)が特に好ましい。
【0033】
一般式[1]で示される1,2−ジオール類のPおよびPは、それぞれヒドロキシル基の保護基を表す。係る保護基としては、Protective Groups in Organic Synthesis、Third Edition、1999、John Wiley & Sons、Inc.に記載されたもの等が挙げられる。PとPは同じ保護基または異なる保護基を採ることができ、さらに同時に1つの保護基を採ることもできる。その中でも同時に1つの保護基を採るものが好ましく(図1を参照)、同時にイソプロピリデン基で保護されたものが特に好ましい。
【化12】
【0034】
一般式[1]で示される1,2−ジオール類は、特許文献1、特許文献2または非特許文献1等を参考にして同様に製造することができる。
【0035】
スルフリルフルオリドの使用量は、一般式[1]で示される1,2−ジオール類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から20モルが好ましく、0.9から15モルが特に好ましい。
【0036】
有機塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、N−メチルピペリジン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン(DBN)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)等が挙げられる。有機塩基はこれらに限定されるものではなく、有機合成において一般的に用いられるものも挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンが好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンが特に好ましい。有機塩基として塩基性の強い1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンや1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンを用いると、高い収率で再現良く開環フッ素化物を得ることができる。よって、塩基性の強い1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンや1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンの使用は好ましい態様と言える。これらの有機塩基は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0037】
有機塩基の使用量は、一般式[1]で示される1,2−ジオール類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、0.8から20モルが好ましく、0.9から15モルが特に好ましい。
【0038】
フッ化物イオン源としては、フッ化水素、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」、金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドが挙げられる。これらのフッ化物イオン源は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0039】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、N−メチルピペリジン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン等が挙げられる。有機塩基はこれらに限定されるものではなく、有機合成において一般的に用いられるものも挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンが好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、2,6−ルチジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンが特に好ましい。「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基として塩基性の強い1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンや1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンを用いると、高い収率で再現良く開環フッ素化物を得ることができる場合がある。よって、塩基性の強い1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エンや1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンの使用は好ましい態様と言える。これらの「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0040】
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基とフッ化水素のモル比は、100:1から1:100の範囲で用いれば良く、50:1から1:50が好ましく、25:1から1:25が特に好ましい。アルドリッチ(Aldrich、2009−2010カタログ)から市販されている「トリエチルアミン1モルとフッ化水素3モルからなる錯体」または「ピリジン〜30%(〜10モル%)とフッ化水素〜70%(〜90モル%)からなる錯体」を用いるのが便利である。
【0041】
金属フッ化物としては、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化銀、フッ化セシウム等が挙げられる。その中でもフッ化カリウム、フッ化銀およびフッ化セシウムが好ましく、フッ化カリウムおよびフッ化セシウムが特に好ましい。
【0042】
テトラアルキルアンモニウムフルオリドは、一般式[7]
【化13】
【0043】
[式中、R、R、RおよびRはそれぞれアルキル基を表す]で示される。アルキル基は、炭素数が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。その中でも炭素数が1から6のアルキル基のものが好ましく、炭素数が1から6のアルキル基で4つ全てのアルキル基が同じものが特に好ましい。また、テトラアルキルアンモニウムフルオリドは該水和物を用いても同様の結果が得られるため、請求項に記載したテトラアルキルアンモニウムフルオリドには該水和物も含まれるものとして扱う。テトラアルキルアンモニウムフルオリド・水和物の水和数は、特に制限はなく、アルドリッチ(Aldrich、2009−2010カタログ)から市販されているテトラエチルアンモニウムフルオリド・2水和物[(CNF・2HO]またはテトラn−ブチルアンモニウムフルオリド・3水和物[(CNF・3HO]を用いるのが便利である。
【0044】
「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」のテトラアルキルアンモニウムフルオリドは、上記と同じである(好ましい態様も同じである)。
【0045】
「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」のテトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素のモル比は、100:1から1:100の範囲で用いれば良く、50:1から1:50が好ましく、25:1から1:25が特に好ましい。東京化成工業(TCI、2010−2011カタログ)から市販されているテトラエチルアンモニウムフルオリド・3フッ化水素またはテトラn−ブチルアンモニウムフルオリド・2フッ化水素を用いるのが便利である。
【0046】
トリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドは、一般式[8]
【化14】
【0047】
[式中、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14およびR15はそれぞれアルキル基を表す]で示される。アルキル基は、炭素数が1から12の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。その中でも炭素数が1から6のアルキル基のものが好ましく、炭素数が1から6のアルキル基でR、R、R、R10、R11およびR12の6つ全てのアルキル基が同じもので、且つ炭素数が1から6のアルキル基でR13、R14およびR15の3つ全てのアルキル基が同じものが特に好ましい。
【0048】
フッ化物イオン源の使用量は、一般式[1]で示される1,2−ジオール類1モルに対してフッ化物イオン(F)として0.1モル以上を用いれば良く、0.3から50モルが好ましく、0.5から25モルが特に好ましい。
【0049】
本反応は、塩基性条件下で円滑に進行するため、フッ化物イオン源の添加により反応系内が酸性になる場合は、前記の反応剤として用いる有機塩基(「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基と区別した表現)の使用量を増やして塩基性に制御して反応を行うのが好ましい。
【0050】
反応溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。その中でもn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミドおよびアセトニトリルが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0051】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示される1,2−ジオール類1モルに対して0.1L以上を用いれば良く、0.2から30Lが好ましく、0.3から20Lが特に好ましい。本反応は無溶媒(ニート)条件下で行うこともできる。
【0052】
反応温度は、−30から+200℃の範囲で行えば良く、−20から+175℃が好ましく、−10から+150℃が特に好ましい。
【0053】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0054】
本反応は、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、クラウンエーテル、ジグリム、ポリエチレングリコール等の相間移動触媒、モレキュラーシーブス等の合成ゼオライト等の添加剤の存在下に行うことにより円滑に進行する場合がある。しかしながら、好適な原料基質または反応条件を採用することにより、必ずしもこれらの添加剤の存在下に行う必要はない。
【0055】
後処理は、有機合成における一般的な操作を採用することにより、一般式[2]で示される開環フッ素化物を得ることができる。
【0056】
一般式[2]で示される開環フッ素化物のR、PおよびPは、一般式[1]で示される1,2−ジオール類のR、PおよびPと同じであり、反応を通して変わらない。
【0057】
一般式[2]で示される開環フッ素化物のYは、プロトンまたはプロトン化された有機塩基を表し、“プロトン化された有機塩基”の有機塩基は、反応剤として用いた有機塩基に由来し、前記の通りである。
【0058】
好適な反応条件または、好適な原料基質および反応条件を採用することで得られる、一般式[3]または一般式[6]で示される開環フッ素化物のXは、プロトン、プロトン化された有機塩基、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムまたはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムを表す。“プロトン化された有機塩基”の有機塩基は、反応剤として用いた有機塩基またはフッ化物イオン源の「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」の有機塩基に由来し、前記の通りである。また、金属カチオン、テトラアルキルアンモニウムおよびトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムは、フッ化物イオン源の金属フッ化物、テトラアルキルアンモニウムフルオリド、「テトラアルキルアンモニウムフルオリドとフッ化水素からなる錯体」またはトリス(ジアルキルアミノ)スルホニウムトリアルキルシリルジフルオリドに由来し、前記の通りである。
【0059】
採用した原料基質、反応条件および後処理条件によっては、開環フッ素化物の硫酸エステル部位(−OSO)が加水分解されて加水分解体(−OH)として得られる場合がある。この様な場合でも開環フッ素化物が先ず初めに生成してから副次的に加水分解体が生成するため、仮に加水分解体が主生成物として得られても本発明の請求項の範囲内として扱うことができる。
【0060】
通常の後処理操作としては、反応終了液に水、無機酸の水溶液または無機塩基の水溶液を加え、有機溶媒で抽出し、回収有機層を濃縮することにより、開環フッ素化物の粗生成物を得ることができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い純度に精製することができる。
【0061】
(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類は、得られた開環フッ素化物から特許文献1、特許文献2または非特許文献1等を参考にして同様に製造することができる(スキーム4を参照)。この際、開環フッ素化物を単離する後処理操作を省略して(必要に応じて残存するスルフリルフルオリドを反応系外にパージした後に)、該反応終了液に対して直接、加水分解または、加水分解、脱保護およびラクトン化をワンポット反応として連続的に行うこともでき、開環フッ素化物を一度単離してから(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類に変換する場合に比べてトータル収率の改善が期待できる場合がある。
【化15】
【0062】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例1から実施例7(フッ化物イオン源の存在下)を行い、これらの結果を表1に纏めた。代表例として実施例1について詳細に説明し、その他の実施例は実施例1を参考にして同様に行った。また、比較例1、実施例8(フッ化物イオン源の非存在下)と実施例9から実施例10(フッ化物イオン源の存在下)も行った。i−Prはイソプロピル基を表す。
【実施例1】
【0063】
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【化16】
【0064】
で示される1,2−ジオール類249mg(1.00mmol、1.00eq)、アセトニトリル5mL(5L/mol)、トリエチルアミン(EtN)670mg(6.62mmol、6.62eq)とテトラエチルアンモニウムフルオリド・3フッ化水素(EtNF・3HF)407mg(1.94mmol、1.94eq)を加え、スルフリルフルオリド(SO)816mg(8.00mmol、8.00eq)を−15℃でボンベより吹き込み、90℃で5時間攪拌した[同じ反応を別に行い、反応の初期に環状硫酸エステル体が生成していることをガスクロマトグラフィー分析で確認した(環状硫酸エステル体の標準品は非特許文献1に従い合成した)]。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム1.40g(10.1mmol、10.1eq)と水20mLより調製]を加え、酢酸エチル30mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル30mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化17】
【0065】
で示される開環フッ素化物[Zはプロトン、プロトン化されたトリエチルアミン、テトラエチルアンモニウムまたはカリウム(後処理の炭酸カリウム水溶液に由来)を表す]の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が660μmol含まれていた。収率は66%であった。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0066】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−8.23(m、1F)。
【0067】
上記で得られた粗生成物全量(660μmol)に、テトラヒドロフラン2mL(3L/mol)、2,2−ジメトキシプロパン1.69g(16.2mmol、24.5eq)と12N塩酸500μL(6.00mmol、9.09eq)を加え、室温で3時間攪拌した。反応終了液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液6mLを加え、酢酸エチル20mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル20mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化18】
【0068】
で示される加水分解体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0069】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−9.00(m、1F)。
【0070】
上記で得られた粗生成物全量(660μmolとする)に、エタノール4mL(6L/mol)と12N塩酸100μL(1.20mmol、1.82eq)を加え、室温で21時間攪拌した。反応終了液を減圧濃縮し、トルエン20mLで2回共沸減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化19】
【0071】
で示されるジヒドロキシラクトン体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0072】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−9.64(m、1F)。
【0073】
上記で得られた粗生成物全量(660μmolとする)に、ピリジン2.45g(31.0mmol、47.0eq)を加え、ベンゾイルクロリド750mg(5.34mmol、8.09eq)を氷冷下で加え、室温で30分間攪拌した。反応終了液に水2mLを氷冷下で加え、室温で10分間攪拌し、減圧濃縮し、残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液10mLを加え、酢酸エチル20mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル20mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化20】
【0074】
で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が380μmol含まれていた。原料基質の1,2−ジオール類からのトータル収率は38%であった。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0075】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−5.44(m、1F)。
【0076】
実施例1から実施例7の結果を表1に纏めた。
【化21】
【0077】
[比較例1]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【化22】
【0078】
で示される3位保護アルコール類179mg(508μmol、1.00eq)、アセトニトリル2.5mL(5L/mol)、トリエチルアミン158mg(1.56mmol、3.07eq)とトリエチルアミン・3フッ化水素92.0mg(571μmol、1.12eq)を加え、スルフリルフルオリド415mg(4.07mmol、8.01eq)を−15℃でボンベより吹き込み、90℃で5時間攪拌した。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム800mg(5.79mmol、11.4eq)と水10mLより調製]を加え、酢酸エチル15mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル15mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化23】
【0079】
で示される3位保護フッ素化物の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が15.2μmol含まれていた。収率は3%であった(原料基質の3位保護アルコール類が相当量回収された)。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0080】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−6.20(m、1F)。
【0081】
[実施例8]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【化24】
【0082】
で示される1,2−ジオール類4.91g(21.0mmol、1.00eq)、アセトニトリル22mL(1L/mol)と1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)7.38g(48.5mmol、2.31eq)を加え、スルフリルフルオリド(SO)6.10g(59.8mmol、2.85eq)を−15℃でボンベより吹き込み、55℃で2時間30分攪拌した[同じ反応を別に行い、反応の初期に環状硫酸エステル体が生成していることをガスクロマトグラフィー分析で確認した(環状硫酸エステル体の標準品は非特許文献1に従い合成した)]。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム4.50g(32.6mmol、1.55eq)と水30mLより調製]を加え、酢酸エチル60mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル60mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化25】
【0083】
で示される開環フッ素化物[Zはプロトン、プロトン化された1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンまたはカリウム(後処理の炭酸カリウム水溶液に由来)を表す]の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が18.5mmol含まれていた。収率は88%であった。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0084】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−8.47(m、1F)。
【0085】
上記で得られた粗生成物全量(18.5mmol)に、1,4−ジオキサン11mL(0.6L/mol)、2,2−ジメトキシプロパン8.75g(84.0mmol、4.54eq)と水380mg(21.1mmol、1.14eq)を加え、98%濃硫酸を氷冷下で滴下してpHを2から3に調整し、室温で16時間攪拌した。反応終了液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液20mLを加え、酢酸エチル40mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル30mLで再抽出し、回収有機層を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化26】
【0086】
で示される加水分解体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRを下に示す。
【0087】
19F−NMR[基準物質;C、重溶媒;CDCl]、δ ppm;−9.44(m、1F)。
【0088】
上記で得られた粗生成物全量(18.5mmolとする)に、エタノール21mL(1L/mol)と12N塩酸500μL(6.00mmol、0.324eq)を加え、室温で18時間攪拌した。反応終了液を減圧濃縮し、トルエン20mLで2回共沸減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化27】
【0089】
で示されるジヒドロキシラクトン体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRは実施例1と同様であった。
【0090】
上記で得られた粗生成物全量(18.5mmolとする)に、アセトニトリル31mL(2L/mol)とピリジン4.90g(61.9mmol、3.35eq)を加え、ベンゾイルクロリド8.72g(62.0mmol、3.35eq)を氷冷下で加え、室温で7時間攪拌した。反応終了液に水20mLを氷冷下で加え、室温で10分間攪拌し、酢酸エチル40mLで抽出し、回収有機層を10%食塩水10mLで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化28】
【0091】
で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の粗生成物を10.9g得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が15.6mmol含まれていた。原料基質の1,2−ジオール類からのトータル収率は74%であった。粗生成物の19F−NMRは実施例1と同様であった。
【0092】
上記で得られた粗生成物全量10.9g(15.6mmol)を酢酸エチル44mL(4vol)とn−ヘプタン110mL(10vol)の混合溶媒から再結晶することにより、上記式で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の精製品(微黄白色結晶)を4.87g(13.1mmol)得た。回収率は84%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は100%であった。
【0093】
[実施例9]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、下記式
【化29】
【0094】
で示される1,2−ジオール類58.7g(251mmol、1.00eq)、アセトニトリル250mL(1L/mol)、トリエチルアミン(EtN)55.6g(549mmol、2.19eq)と1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン・フッ化水素(DBU・HF)64.4g(374mmol、1.49eq)を加え、スルフリルフルオリド(SO)41.4g(406mmol、1.62eq)を0℃でボンベより吹き込み、55℃で5時間攪拌した。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム43.6g(315mmol、1.25eq)と水125mLより調製]を加え、酢酸エチル250mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル125mLで再抽出し、回収有機層を合わせて減圧濃縮し、トルエン50mLで3回共沸減圧濃縮することにより、下記式
【化30】
【0095】
で示される開環フッ素化物[Zはプロトン、プロトン化されたトリエチルアミン、プロトン化された1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンまたはカリウム(後処理の炭酸カリウム水溶液に由来)を表す]の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が定量的に含まれていた。粗生成物の19F−NMRは実施例8と同様であった。
【0096】
上記で得られた粗生成物全量(251mmolとする)に、テトラヒドロフラン125mL(0.5L/mol)、2,2−ジメトキシプロパン76.6g(735mmol、2.93eq)と水4.54g(252mmol、1.00eq)を加え、98%濃硫酸17.0g(170mmol、0.677eq)を氷冷下で滴下してpHを2から3に調整し、室温で5時間攪拌した。炭酸水素ナトリウム水溶液[炭酸水素ナトリウム39.0g(464mmol、1.85eq)と水125mLより調製]と酢酸エチル250mLの混合溶液に反応終了液を氷冷下で加え、同温度で30分間攪拌した。有機層を回収し、回収水層を酢酸エチル125mLで2回再抽出し、回収有機層を合わせて減圧濃縮し、トルエン50mLで2回共沸減圧濃縮することにより、下記式
【化31】
【0097】
で示される加水分解体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRは実施例8と同様であった。
【0098】
上記で得られた粗生成物全量(251mmolとする)に、メタノール125mL(0.5L/mol)と12N塩酸6.25mL(75.0mmol、0.299eq)を加え、室温で18時間攪拌した。反応終了液を減圧濃縮し、トルエン50mLで5回共沸減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化32】
【0099】
で示されるジヒドロキシラクトン体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRは実施例1と同様であった。
【0100】
上記で得られた粗生成物全量(251mmolとする)に、アセトニトリル250mL(1L/mol)とピリジン49.1g(621mmol、2.47eq)を加え、ベンゾイルクロリド81.2g(578mmol、2.30eq)を氷冷下で加え、室温で2時間攪拌した。反応終了液に水125mLを氷冷下で加え、室温で10分間攪拌し、酢酸エチル250mLで抽出し、回収有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液125mLで洗浄し、5%食塩水125mLで洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化33】
【0101】
で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の粗生成物を140g得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が184mmol含まれていた。原料基質の1,2−ジオール類からのトータル収率は73%であった。粗生成物の19F−NMRは実施例1と同様であった。
【0102】
上記で得られた粗生成物全量140g(184mmol)を酢酸エチル200mL(1vol)とn−ヘプタン800mL(6vol)の混合溶媒から再結晶し、濾取した結晶を氷冷したメタノール150mLで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の精製品(微黄白色結晶)を62.0g(167mmol)得た。回収率は91%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は100%であった。
【0103】
[実施例10]
ステンレス鋼(SUS)製耐圧反応容器に、アセトニトリル250mL(1L/mol)、トリエチルアミン(EtN)43.0g(425mmol、1.71eq)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)57.6g(378mmol、1.52eq)とトリエチルアミン・3フッ化水素(EtN・3HF)20.2g(125mmol、0.502eq)を加え、室温で1時間攪拌した。さらに下記式
【化34】
【0104】
で示される1,2−ジオール類58.4g(249mmol、1.00eq)を加え、スルフリルフルオリド(SO)44.0g(431mmol、1.73eq)を0℃でボンベより吹き込み、55℃で5時間攪拌した。反応終了液に炭酸カリウム水溶液[炭酸カリウム45.1g(326mmol、1.31eq)と水125mLより調製]を加え、酢酸エチル250mLで抽出し、回収水層を酢酸エチル125mLで再抽出し、回収有機層を合わせて減圧濃縮し、トルエン50mLで3回共沸減圧濃縮することにより、下記式
【化35】
【0105】
で示される開環フッ素化物[Zはプロトン、プロトン化されたトリエチルアミン、プロトン化された1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エンまたはカリウム(後処理の炭酸カリウム水溶液に由来)を表す]の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が232mmol含まれていた。収率は93%であった。粗生成物の19F−NMRは実施例8と同様であった。
【0106】
上記で得られた粗生成物全量(便宜上249mmolとする)に、テトラヒドロフラン125mL(0.5L/mol)、2,2−ジメトキシプロパン78.7g(756mmol、3.04eq)と水4.52g(251mmol、1.01eq)を加え、98%濃硫酸14.8g(148mmol、0.594eq)を氷冷下で滴下してpHを2から3に調整し、室温で2時間攪拌した。炭酸水素ナトリウム水溶液[炭酸水素ナトリウム27.5g(327mmol、1.31eq)と水125mLより調製]と酢酸エチル250mLの混合溶液に反応終了液を氷冷下で加え、同温度で30分間攪拌した。有機層を回収し、回収水層を酢酸エチル125mLで2回再抽出し、回収有機層を合わせて減圧濃縮し、トルエン50mLで2回共沸減圧濃縮することにより、下記式
【化36】
【0107】
で示される加水分解体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRは実施例8と同様であった。
【0108】
上記で得られた粗生成物全量(便宜上249mmolとする)に、メタノール125mL(0.5L/mol)と12N塩酸6.25mL(75.0mmol、0.301eq)を加え、室温で18時間攪拌した。反応終了液を減圧濃縮し、トルエン50mLで5回共沸減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化37】
【0109】
で示されるジヒドロキシラクトン体の粗生成物を得た。粗生成物の19F−NMRは実施例1と同様であった。
【0110】
上記で得られた粗生成物全量(便宜上249mmolとする)に、アセトニトリル250mL(1L/mol)とピリジン49.5g(626mmol、2.51eq)を加え、ベンゾイルクロリド79.9g(568mmol、2.28eq)を氷冷下で加え、室温で2時間攪拌した。反応終了液に水125mLを氷冷下で加え、室温で10分間攪拌し、酢酸エチル250mLで抽出し、回収有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液125mLで洗浄し、5%食塩水125mLで洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【化38】
【0111】
で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の粗生成物を106g得た。粗生成物を19F−NMR(内部標準法)で定量したところ上記式で示される目的物が193mmol含まれていた。原料基質の1,2−ジオール類からのトータル収率は78%であった。粗生成物の19F−NMRは実施例1と同様であった。
【0112】
上記で得られた粗生成物全量106g(193mmol)を酢酸エチル200mL(2vol)とn−ヘプタン800mL(8vol)の混合溶媒から再結晶し、濾取した結晶を氷冷したメタノール110mLで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示される(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類の精製品(微黄白色結晶)を66.7g(179mmol)得た。回収率は93%であった。精製品のガスクロマトグラフィー純度は99.6%であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明で対象とする(2R)−2−フルオロ−2−C−メチル−D−リボノ−γ−ラクトン類前駆体は、抗ウイルス活性を有する2’−デオキシ−2’−フルオロ−2’−C−メチルシチジンの重要中間体として利用できる。