特許第5716920号(P5716920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5716920
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】原子炉の炉心および原子炉
(51)【国際特許分類】
   G21C 5/00 20060101AFI20150423BHJP
   G21C 5/18 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   G21C5/00 A
   G21C5/18
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-524871(P2011-524871)
(86)(22)【出願日】2010年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2010063130
(87)【国際公開番号】WO2011013841
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年7月9日
(31)【優先権主張番号】特願2009-179686(P2009-179686)
(32)【優先日】2009年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100130133
【弁理士】
【氏名又は名称】曽根 太樹
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】関本 博
【審査官】 村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−232429(JP,A)
【文献】 特開2001−091682(JP,A)
【文献】 特開平02−206797(JP,A)
【文献】 特開2003−021692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 1/00 − 5/22
G21C 21/00 − 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを備え、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、燃焼サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部がほぼ一定の形状を保ちながら新燃料部に向かう方向に移動する原子炉の炉心であって、
新燃料は、プルトニウムを含まずに、前記少なくとも一方のウランと、トリウムおよび混合金属のうち少なくとも一方とにより構成されており、
平面視したときにほぼ円形になっている炉心を中央部と周辺部とに分割した場合に、新燃料部は、中央部の単位体積あたりのウラン重量が周辺部の単位体積あたりのウラン重量よりも小さいことを特徴とする、原子炉の炉心。
【請求項2】
新燃料部は、周辺部から中央部に向かう方向において、炉心の単位体積あたりのウラン重量が徐々に小さくなっていることを特徴とする、請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項3】
新燃料部を有する燃料集合体を備え、
中央部に装荷されている燃料集合体および周辺部に装荷されている燃料集合体のうち、少なくとも中央部に装荷されている燃料集合体は、新燃料部にウランとトリウムとの混合物を含み、
中央部に装荷されている燃料集合体の新燃料部のウランの含有率は、周辺部に装荷されている燃料集合体の新燃料部のウランの含有率よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項4】
燃料を支持するための支持体を備え、
中央部の単位体積あたりの支持体の重量は、周辺部の単位体積あたりの支持体の重量よりも大きくなっていることを特徴とする、請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項5】
中央部および周辺部には、冷却材が流れており、
中央部の単位体積あたりの冷却材の量は、周辺部の単位体積あたりの冷却材の量よりも大きくなっていることを特徴とする、請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項6】
請求項1に記載の原子炉の炉心と、
前記炉心が内部に配置されている原子炉容器とを備える、原子炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の炉心および原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉は、発電設備等に用いられている。原子炉は、高速中性子炉を含む。高速中性子炉は、主に高速中性子により核分裂性核種を核分裂させて出力を発生する原子炉であり、ナトリウム、鉛ビスマス合金等の重金属、またはガス等により炉心が冷却される。従来の技術の原子炉では、炉心全体で核分裂が生じるとともに出力が発生する。
【0003】
原子炉の炉心の臨界の維持および出力の調整は、例えば制御棒によって行われる。制御棒は、中性子を吸収しやすい物質で形成されている。燃焼サイクルの初期には制御棒を炉心に挿入しておき、燃焼が進むとともに徐々に制御棒を引き抜くことにより、出力を維持しながら臨界状態を保っている。このように、原子炉の運転においては、原子炉の臨界を維持するための制御が必要である。燃焼サイクル初期から燃焼サイクル末期まで継続的に臨界の維持のための制御を行っている。
【0004】
特許第3463100号公報においては、燃焼サイクルで臨界を維持するための制御が不要な原子炉が開示されている。この原子炉は、CANDLE(Constant Axial Shape of Neutron Flux, Nuclide Densities and Power Shape During Life of Energy Production)燃焼法と呼ばれる燃焼法を採用している。CANDLE燃焼法では、炉心をおおよそ新燃料部、燃焼部、燃焼が進んだ部分に分けることができる。燃焼部は、燃焼とともに、出力に比例した速さで新燃料部に向かって移動する。CANDLE燃焼では、一つの燃焼サイクルが終了した後、次の燃焼サイクルを行なうために燃料を交換する。燃料を交換するときには、炉心軸の方向において燃焼の進んだ燃料を取り出し、取り出した側の端部と反対側の端部に新燃料を装荷することができる。
【0005】
CANDLE燃焼法では、臨界調整を行なわなくてもよく、また、出力分布の調整をしなくても出力分布が、ほぼ一定に保たれる。このため、燃焼サイクルの初期から末期にわたって、制御棒の操作等のような炉心の反応度制御は行わなくても良いという特徴を有する。また反応度係数も変化せずに、燃焼とともに運転方法を変化させなくても良いという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3463100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉の燃料の燃焼法としてCANDLE燃焼法を採用することにより、燃焼が進行しても炉心特性をほぼ一定にすることができて運転制御が簡単になり、事故の発生確率が低い原子炉を提供することができる。また、炉心に制御棒を配置しなくても良いために、運転期間中に制御棒が誤って引き抜かれるような事故の可能性が全くなくなる。また、燃料を取り出すときの燃焼度が高いことから、廃棄物の量を低減できる。
【0008】
CANDLE燃焼法では、第2サイクル以降の新燃料として、天然ウランまたは劣化ウランだけを用いて運転を行なうことができる。これらの燃料は、未臨界であることから輸送や貯蔵が容易になる。また、濃縮や再処理を行なわずに、ウランのおよそ40%をエネルギーとして利用できることから、資源の有効利用ができる。また、第2サイクル以降の新燃料は、濃縮や再処理等が不要となることから、核拡散抵抗性が高いなどの特徴を有する。
【0009】
ところで、CANDLE燃焼法では、一般的に炉心の径方向のほぼ全体にわたって出力が生じる。このときに、従来のCANDLE燃焼法では、径方向の中央部では出力密度が高くなり、周辺部に向かうほど出力密度が低くなる。このため、周辺部では冷却能力に対して出力密度が小さくなり、冷却能力に応じた大きな出力密度を達成することができないという問題があった。
【0010】
従来のCANDLE燃焼法では、出力密度の高い径方向の中央部では燃焼の進み方が速くなる。燃料の取り出し量および新燃料の装荷量を径方向において一定にしているため、燃焼部は、周辺部よりも中央部が新燃料部の側にシフトした形状になる。このため、燃焼部を十分に炉心内に含めるためには炉心の軸方向の長さを長くしなければならないという問題があった。
【0011】
本発明は、径方向の周辺部の出力密度を中央部と同じように十分に高くすることができ、炉心の平均出力密度を高くすることができ、かつ径方向の中央部の燃料に加えて周辺部の燃料を十分に燃焼させることができ、かつ炉心の軸方向長さを短くできる原子炉の炉心およびこの炉心を備える原子炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の原子炉の炉心は、新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを備え、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、燃焼サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部がほぼ一定の形状を保ちながら新燃料部に向かう方向に移動する原子炉の炉心であって、新燃料は、プルトニウムを含まずに、上記少なくとも一方のウランと、トリウムおよび混合金属のうち少なくとも一方とにより構成されており、平面視したときにほぼ円形になっている炉心を中央部と周辺部とに分割した場合に、新燃料部は、中央部の単位体積あたりのウラン重量が周辺部の単位体積あたりのウラン重量よりも小さくなるように形成されている。
【0013】
上記発明において、新燃料部は、周辺部から中央部に向かう方向において、炉心の単位体積あたりのウラン重量が徐々に小さくなっていることが好ましい。
【0014】
上記発明においては、新燃料部を有する燃料集合体を備え、中央部に装荷されている燃料集合体および周辺部に装荷されている燃料集合体のうち、少なくとも中央部に装荷されている燃料集合体は、新燃料部にウランとトリウムとの混合物を含み、中央部に装荷されている燃料集合体の新燃料部のウランの含有率は、周辺部に装荷されている燃料集合体の新燃料部のウランの含有率よりも小さいことが好ましい。
【0015】
上記発明においては、燃料を支持するための支持体を備え、中央部の単位体積あたりの支持体の重量は、周辺部の単位体積あたりの支持体の重量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0016】
上記発明においては、中央部および周辺部には、冷却材が流れており、中央部の単位体積あたりの冷却材の量は、周辺部の単位体積あたりの冷却材の量よりも大きくなっていることが好ましい。
【0017】
本発明の第1の原子炉は、上述の第1の原子炉の炉心と、上記炉心が内部に配置されている原子炉容器とを備える。
【0018】
本発明の第2の原子炉の炉心は、新燃料が装荷されている新燃料部と、新燃料部の一方の側に配置され、中性子を発生して燃料が燃焼する燃焼部とを備え、新燃料は天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方のウランを含み、ウランが中性子を吸収して生成されたプルトニウムが核分裂することにより出力を発生し、燃焼サイクルの初期から末期にかけて、燃焼部がほぼ一定の形状を保ちながら新燃料部に向かう方向に移動する原子炉の炉心であって、新燃料部は、ウラン以外の燃料ペレットの構成物質、燃料を支持するための支持体および冷却材のうち少なくとも一つの炉心構成材を含む。平面視したときにほぼ円形になっている炉心を中央部と周辺部とに分割した場合に、新燃料部の炉心構成材は、中央部に比べて周辺部の中性子無限増倍率が大きくなるように形成されている。
【0019】
上記発明において、新燃料部の炉心構成材は、周辺部から中央部に向かう方向において中性子無限増倍率が徐々に小さくなるように形成されていることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の原子炉は、上述の第2の原子炉の炉心と、上記炉心が内部に配置されている原子炉容器とを備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、炉心の平均出力密度を高くすることができ、径方向の中央部の燃料に加えて周辺部の燃料を十分に燃焼させることができ、かつ炉心の軸方向長さを短くできる原子炉の炉心およびこの炉心を備える原子炉を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施の形態における原子炉の概略図である。
図2】実施の形態における原子炉の炉心の概略平面図である。
図3】実施の形態における燃料集合体の概略斜視図である。
図4】実施の形態における燃料棒の概略斜視図である。
図5】実施の形態における炉心の構成と燃料の燃焼状態とを説明する概略図である。
図6】CANDLE燃焼を行なうときの燃料の中性子フルエンスに対する無限中性子増倍率の変化を説明するグラフである。
図7】炉心高さと燃料の無限中性子増倍率との関係を説明するグラフである。
図8】実施の形態における炉心の出力密度の変化および燃料の取換えを説明する図である。
図9】実施の形態の炉心の燃焼部における出力密度の説明図である。
図10】比較例の炉心の燃焼部における出力密度の説明図である。
図11】比較例の炉心の構成と燃料の燃焼状態とを説明する概略図である。
図12】炉心の出力密度と炉心出口の冷却材温度とを説明するグラフである。
図13】実施の形態における他の原子炉の炉心の概略平面図である。
図14】実施の形態における更に他の原子炉の炉心の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から図14を参照して、実施の形態における原子炉の炉心およびこの炉心を備える原子炉について説明する。本実施の形態における原子炉は、主に高速中性子によりプルトニウムの核分裂を発生させる高速中性子炉である。本実施の形態における原子炉は、発電設備の原子炉であり、原子炉から流出する冷却材の熱により発電を行なっている。
【0024】
図1は、本実施の形態における原子炉の概略図である。本実施の形態における発電設備は、原子炉1を備える。原子炉1は、原子炉容器9を含む。原子炉1は、原子炉容器9の内部に配置されている炉心10を含む。本発明における炉心とは、ウランおよびトリウムのうち少なくとも一方が配置されている部分をいう。炉心には、ウランおよびトリウムから生成された生成物が含まれる場合がある。原子炉容器9の内部には、冷却材が流れている。本実施の形態における炉心10の周りには、反射体が配置されていないが、この形態に限られず、炉心10の周りに反射体が配置されていても構わない。
【0025】
冷却材は、矢印112に示すように、原子炉容器9に流入して、炉心10の内部を通過する。炉心10の熱は、冷却材に伝達される。本実施の形態における原子炉1は、冷却材が炉心10の下側から上側に向かって流れる。炉心10から流出した冷却材は、矢印111に示すように原子炉容器9から流出する。
【0026】
冷却材は、中性子の減速能力や中性子の吸収能力が小さな材料を用いることができる。本実施の形態においては、鉛−ビスマス冷却材が用いられている。本実施の形態においては、冷却材が反射体の機能を有する。原子炉の冷却材としては、鉛系冷却材(液体金属)の他に、ナトリウムを使用することができる。または、ヘリウム等のガス冷却材を用いることができる。また、鉛系冷却材としては、鉛−ビスマスの他に鉛のみや、同位体分離された鉛208を採用することができる。
【0027】
図2に、本実施の形態における原子炉の炉心の概略平面図を示す。炉心10には、燃料集合体21a〜21dが装荷されている。本実施の形態における原子炉の炉心は、燃料集合体が規則的に配列されている。本実施の形態における炉心10は、平面視したときに、ほぼ円形になるように形成されている。原子炉の炉心は、この形態に限られず、平面視したときに、ほぼ円形となる任意の幾何学形状または円形に形成することができる。
【0028】
本実施の形態における燃料集合体は、第1燃料を含む第1燃料集合体21aと、第2燃料を含む第2燃料集合体21bと、第3燃料を含む第3燃料集合体21cと、第4燃料を含む第4燃料集合体21dとを有する。
【0029】
図3に、本実施の形態における燃料集合体の概略斜視図を示す。以下については、第1燃料集合体21aについて説明するが、第2燃料集合体21b、第3燃料集合体21cおよび第4燃料集合体21dについても、燃料の成分以外は同様の構成を有する。
【0030】
第1燃料集合体21aは、複数の燃料棒22aを含む。燃料棒22aは、長手方向の端部がノズル27により支持されている。燃料棒22aは、複数の支持格子25により支持されている。ノズル27および支持格子25は、燃料棒22a同士を互いに離して支持している。本実施の形態では支持格子により燃料棒間の距離を維持しているが、この形態に限られず、支持格子の代わりにワイヤースペーサー等を用いることができる。冷却材は、燃料棒22a同士の間を流れて、燃料棒22aを冷却する。
【0031】
図4に、本実施の形態における燃料棒の概略斜視図を示す。図4では、燃焼が上側から下側に向かって移動する燃料棒を示しており、被覆材の一部を破断して示している。本実施の形態における燃料棒22aは、被覆材23aを含む。被覆材23aは、筒状に形成されている。被覆材23aは、たとえばステンレス鋼で形成されている。燃料棒22aは、第1燃料としての燃料ペレット24aa,24ab,24acを含む。燃料ペレット24aa,24ab,24acは、被覆材23aの内部に配置されている。燃料棒22aは、栓29により封止されている。燃料ペレット24aa,24ab,24acは、コイルスプリング28により押圧されている。
【0032】
図4に示す燃料棒は、燃焼サイクル初期の状態を示している。複数の燃料ペレット24aa,24ab,24acは、新燃料を含む燃料ペレット24aa、燃焼途中の燃料ペレット24ab、および燃焼が十分に進んだ燃料ペレット24acの順に配置されている。新燃料を含む燃料ペレット24aaの部分により、炉心の新燃料部が画定される。燃焼途中の燃料ペレット24abの部分により、炉心の燃焼部が画定される。燃焼が進んだ燃料ペレット24acの部分により、炉心の燃焼が進んだ部分が画定される。
【0033】
このように、本実施の形態における燃料棒22aには、燃焼度が互いに異なる燃料ペレット24aa,24ab,24acが配置されている。一つの燃焼サイクルが終了した後には、たとえば、被覆材23aを剥ぎ取り、燃焼が進んだ部分の燃料ペレットとそれ以外の燃料ペレットとを分離する。次に、新たな被覆材の内部に、新燃料を含む燃料ペレットおよび回収された燃料ペレット等を配置することにより、次の燃焼サイクルのための燃料棒を形成することができる。
【0034】
または、燃料ペレットの回収方法としては、それぞれの部分ごとに燃料棒を切断した後に、被覆材23aを剥ぎ取っても構わない。この方法によっても、燃焼部および燃焼が進んだ部分に配置されていた燃料ペレットを回収することができる。
【0035】
図2および図4を参照して、第1燃料集合体21aの新燃料部に配置される燃料ペレット24aaは、トリウムを含まずに天然ウランを含む。第2燃料集合体21b、第3燃料集合体21cおよび第4燃料集合体21dの新燃料部に配置される燃料ペレットは、一部の天然ウランの代わりにトリウムを含む。すなわち、第2燃料集合体21b、第3燃料集合体21cおよび第4燃料集合体21dの新燃料部に配置される燃料ペレットは、ウランおよびトリウムの混合物を含む。本実施の形態における燃料は、金属燃料であるが、この形態に限られず、例えば、窒化物燃料等を用いることができる。
【0036】
それぞれの燃料集合体は、新燃料のウラン重量が異なる。第1燃料集合体、第2燃料集合体、第3燃料集合体および第4燃料集合体の燃料は、この順に、新燃料の単位体積あたりのウラン重量が小さくなるように形成されている。また、第1燃料集合体、第2燃料集合体、第3燃料集合体および第4燃料集合体の新燃料は、この順に、燃料の単位体積あたりのトリウム重量が大きくなるように形成されている。
【0037】
第1燃料集合体21aは、炉心10の最外周に配置されている。第1燃料集合体21aが配置されている環状の領域の内側には、第2燃料集合体21bが配置されている。第2燃料集合体21bが配置されている環状の領域の内側には、第3燃料集合体21cが配置されている。第3燃料集合体21cが配置されている環状の領域の内側には、第4燃料集合体21dが配置されている。炉心10の軸上には、第4燃料集合体21dが配置されている。このように本実施の形態の炉心は、装荷される燃料集合体の領域が環状の領域に区画されている。
【0038】
本実施の形態においては、それぞれの燃料集合体の形状が同一であり、燃料集合体が一定の間隔で規則的に炉心に配置されている。炉心の単位体積当たりのウラン重量は、周辺部から中央部に向かう方向に沿って、徐々に小さくなっている。ここで、炉心の単位体積(中央部の単位体積または周辺部の単位体積)とは、燃料の他に被覆材や冷却材等の炉心を構成する物を含んだ単位体積である。
【0039】
図5に、本実施の形態における炉心の燃焼の進行状況を説明する模式図を示す。図5は、炉心を軸方向に沿って切断したときの概略断面図である。図5は、複数回の燃焼サイクルを行なった後の第nサイクルの初期(BOC)の炉心と、第nサイクルの末期(EOC)の炉心とを示している。また、同一のサイクル長さおよび同一の燃料取替え方法で複数サイクル運転を行なった炉心を示している。
【0040】
本実施の形態における原子炉は、燃焼サイクルの初期から末期にかけて燃焼部12が、新燃料部11に向けて移動する原子炉である。すなわち、本実施の形態における炉心は、CANDLE燃焼を行なう。燃焼部12の移動する速度は、凡そ出力密度に比例し、燃料原子数密度に反比例する。
【0041】
本実施の形態における炉心10は、新燃料部11、燃焼部12および燃焼が進んだ部分13を含む。新燃料部11は、新燃料が配置されている部分である。燃焼部12は、自発的に中性子が発生し、燃料の燃焼が生じる部分である。燃焼部12では、核分裂が発生することにより実質に出力が生じている。燃焼が進んだ部分13は、燃焼が進んで、ほとんど出力を発生していない部分である。第nサイクルの初期の炉心において、新燃料部11は、炉心10の下部に配置されている。燃焼部12は、新燃料部11の上側に配置されている。燃焼部12には、前サイクルで既に燃焼が始まっていた燃料が配置されている。本実施の形態においては、サイクル初期において炉心10に燃焼が進んだ部分13が配置されているが、この形態に限られず、燃焼が進んだ部分13が配置されていなくても構わない。
【0042】
新燃料部11には、新燃料を含む燃料ペレットが配置されている。また、前述したように、新燃料部11には炉心の周辺部から中央部に向けて、ウランの含有率が徐々に小さくなるように燃料集合体が配置されている。径方向の位置rが零の軸が炉心軸である。炉心を平面視したときに、炉心軸において炉心の単位体積当りのウラン重量が最も小さく、周辺部に向かうにつれて炉心の単位体積あたりのウラン重量が徐々に大きくなるように燃料集合体が配置されている。
【0043】
本実施の形態においては、サイクル初期に配置された燃焼部12は、燃焼を開始する部分になる。燃焼部12から燃料の燃焼が開始され、矢印101に示すように、新燃料部11に向かう方向に燃焼が進行する。第nサイクルの燃焼が進行してサイクル末期になった場合には、燃焼部12が炉心10の下端まで進行する。本実施の形態においては、新燃料部11がなくなるまで燃焼を継続している。燃焼サイクル末期では、新燃料部11が残っていても構わない。
【0044】
図6に、本実施の形態における燃料の中性子フルエンスと無限中性子増倍率との関係を説明するグラフを示す。横軸が、中性子束を時間で積分した中性子フルエンスであり、縦軸が無限中性子増倍率kinfである。中性子フルエンスは、たとえば燃料の燃焼度に対応する量である。本実施の形態においては天然ウランを燃料としている。天然ウランは、約99.3%のウラン238と、約0.7%のウラン235とを含む。ウラン238は、中性子を吸収することにより次の数1のように核変換する。ウラン238は、プルトニウム239に変換される。
【数1】
【0045】
中性子フルエンスが零の近傍では、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239が生成されることにより、無限中性子増倍率が上昇する。所定の中性子フルエンスに達すると、核分裂生成物(FP)が蓄積し、更にプルトニウム239等の存在量のウラン238の存在量に対する比が一定に近づいて、無限中性子増倍率が徐々に減少する。このように、本実施の形態における燃料は、燃焼の初期において無限中性子増倍率が増加し、その後に徐々に無限中性子増倍率が減少する特性を有する。
【0046】
また、天然ウランの未臨界度は大きいために、炉心の一部分を臨界以上にするためには、多くの中性子をウラン238に吸収させる必要がある。本実施の形態においては、このような条件を満たすように炉心の大きさを選定するとともに燃料集合体や燃料棒を設計している。
【0047】
上記のような炉心の構成を採用することにより、CANDLE燃焼を実施することができる。すなわち、炉心の径方向の全体にわたって出力が生じ、炉心の軸方向の一部の領域において燃焼部が生成される炉心を形成することができる。
【0048】
図7に、炉心高さを無限大にして燃焼を行なっているときの無限中性子増倍率のグラフを示す。横軸が炉心高さであり、縦軸が燃料の無限中性子増倍率を示している。本実施の形態においては、矢印101に示すように、燃焼部が新燃料部に向かって移動する。燃焼部は、無限中性子増倍率が1を超える領域を含む。実際の原子炉の炉心の高さは有限であり、この場合には、炉心の端部での無限中性子増倍率は、図7に示すグラフから僅かにずれる場合がある。
【0049】
図8に、本実施の形態における炉心の燃焼が進行する状態および燃料取り換えを説明するグラフを示す。図8には、第nサイクルの炉心の初期および末期のグラフと、第(n+1)サイクルの炉心の初期および末期のグラフが示されている。それぞれのグラフにおいては、炉心軸における出力密度、ウラン238の数密度および核分裂生成物の数密度が示されている。
【0050】
図5および図8を参照して、出力密度の最大点は、矢印101に示すように、新燃料部11が配置されている炉心下部に向けて移動する。
【0051】
本実施の形態における燃焼は、炉心の上端から下端に向かう方向に移動する。燃焼部が移動していく速度、すなわち、出力密度の最大点が移動する速度は、例えば、1年間に数cmである。このように、ゆっくりと燃焼部が移動する。ウラン238の数密度は、核変換されることにより燃焼部の下流側で小さくなる。また、核分裂生成物の数密度は、核分裂が生じることにより燃焼部の下流側で大きくなる。本実施の形態においては、燃焼部が、炉心のほぼ下端に達したときに燃焼を終了している。
【0052】
第(n+1)サイクルの初期の炉心では、矢印117に示すように、第nサイクルにおいて炉心の下部に配置されている燃焼部を炉心の上部に配置して、燃焼を開始する部分として使用する。第(n+1)サイクルの炉心においては、炉心の下部に新たな新燃料部11を配置する。このような燃料交換を行なうことにより、第(n+1)サイクルの炉心においても、第nサイクルの炉心と同様の燃焼を行なうことができる。
【0053】
本実施の形態における炉心には、トリウムを含む燃料が装荷されている。トリウムの核反応を次の数2に示す。
【数2】
【0054】
トリウム232は、中性子を吸収しβ崩壊を繰り返すことにより、ウラン233に変換される。ウラン233は、核分裂性核種である。ウランの代わりにトリウムを含む燃料集合体の無限中性子増倍率の最大値は、ウランだけを含む燃料集合体の無限中性子増倍率よりも小さくなる。ここで無限中性子増倍率の最大値とは、燃焼に伴って無限中性子増倍率は変化するが、その間に最大となる無限中性子増倍率である(図6参照)。新燃料に含まれるトリウムの割合が多くなるほど、無限中性子増倍率の最大値は小さくなる。トリウムの割合を調整することにより、燃料集合体の無限中性子増倍率の調整を行なうことができる。
【0055】
図9に、本実施の形態の炉心における燃焼部の出力密度のグラフを示す。図9は、炉心の軸方向に沿って切断したときの概略断面図であり、出力密度が同じ線(等高線)を示している。本実施の形態における炉心は、炉心の径方向の周辺部から中央部に向かうにつれて、炉心の単位体積当たりのウラン重量を徐々に減少させている。また、炉心の径方向の周辺部から中央部に向かうにつれて、トリウムの含有率を徐々に増加させている。このために、等高線は、いずれも炉心軸と垂直に延びてほぼ平坦になっている。出力密度は、径方向においてほぼ一定になっている。出力密度を軸方向に積分した値を径方向において平坦化することができる。すなわち、径方向の出力分布をほぼ一定にすることができる。また、燃料に対する中性子の照射量は、径方向にわたってほぼ一定になる。また、単位時間当たりの燃料の燃焼度は、径方向にわたってほぼ一定になる。
【0056】
ところで、CANDLE燃焼法においては、炉心に装荷される燃料を、全て同じ組成にすることができる。例えば、トリウムを含まずに、一定量の天然ウランを含む燃料集合体のみを用いて炉心を構成することができる。ここで、比較例として、トリウムを含まずに一定量の天然ウランを含む燃料集合体のみで構成されている炉心を取り上げて説明する。
【0057】
図10に、比較例の炉心における燃焼部の出力密度のグラフを示す。出力密度は、径方向の外側に向かうほど小さくなる。また、燃焼部の軸方向の位置は、径方向の外側に向かうほど遅れた位置、即ち上方に配置される。
【0058】
図11に、比較例の炉心の概略図を示す。比較例の炉心においては、燃焼部が進む方向に向かって凸の形状になる。このために、径方向の周辺部に配置された燃料は、十分に燃焼していないにも関わらずに取り出される。炉心の周辺部に配置された燃料の取り出し燃焼度が小さくなる。特に、炉心の高さが小さい場合には、燃料の取り出し燃焼度が小さくなってしまう。
【0059】
図9を参照して、本実施の形態の炉心では、径方向の出力密度がほぼ一定であるために、炉心の中央部から周辺部にかけて、ほぼ一様に燃料が燃焼する。燃焼部の軸方向の位置が、径方向の位置によらずにほぼ一定になる。このため、炉心の周辺部に配置されている燃料も、短い炉心高さで十分に燃焼させることができる。この結果、取り出し燃焼度を高くすることができる。
【0060】
また、CANDLE燃焼法においては、従来の燃焼法と比較したときに取り出し燃焼度が高くなる。このために、燃料集合体に対して多量の中性子が照射される。すなわち、燃料集合体が照射される高速中性子フルエンスが非常に大きくなり、燃料の支持体の中性子照射量が許容量を超える場合がある。このような場合には、一時的に燃料集合体を取り出して燃料の支持体を交換し、再び炉心に装荷することができる。燃料の支持体は、燃料を支持するための構成部材であり、被覆材や支持格子を例示することができる。
【0061】
比較例の炉心においては、一定時間の運転を行なった後では、中央部に配置されている燃料集合体の照射される高速中性子フルエンスが大きくなる一方で、周辺部に配置されている燃料集合体では、照射される高速中性子フルエンスが小さい。このため、支持体の交換を行なう場合に、周辺部に装荷されていた燃料集合体は高速中性子の照射量が小さいにも関わらず、燃料の支持体の交換を行なわなければならない。または、炉心から中央部の燃料集合体を取り出して支持体の交換を行なう際、周辺部に装荷されていた燃料集合体の支持体の交換を行わずに再装荷することも可能であるが、この場合には、所定の燃焼期間の後に、更に周辺部の燃料集合体の支持体の交換を行なわなければならない。
【0062】
これに対して、本実施の形態の炉心においては、中央部に配置されている燃料集合体と周辺部に配置されている燃料集合体とでは、照射される高速中性子フルエンスがほぼ同じになる。ほぼ同時期に支持体を交換するための高速中性子フルエンスの判定値に達する。このため、一度の取り出しで、中央部および周辺部の燃料集合体の支持体を交換することができる。または、最適な時期に支持体の交換を行なうことができる。このように、本実施の形態における炉心は、効率よく燃料の支持体を交換することができる。
【0063】
図12に、出力密度と炉心の出口における冷却材温度のグラフを示す。図12では、本実施の形態における炉心と比較例の炉心とのグラフを示している。炉心は、所定の部分の最高温度が制限される場合がある。たとえば、燃料の最高温度が制限される場合がある。このような場合には、複数の燃料集合体のうち、最も温度が高くなる燃料の温度が許容温度を超えないように、設計されたり制御されたりする。燃料が許容温度を越えないように、たとえば、炉心出口の冷却材温度が制限される場合がある。
【0064】
比較例の炉心においては、出力密度の分布が凸状になるために、冷却材流量が径方向に一定の場合、炉心軸上(r=0)において燃料温度が最も高くなる。炉心の出口における冷却材温度は、冷却材流量が径方向に一定の場合、炉心軸上で最も高くなる。比較例の炉心は、炉心軸上の冷却材の温度が許容温度を超えないように設計されたり、制御されたりする。このときに、炉心の周辺部の出力密度は、炉心軸上の出力密度よりも小さくなり、炉心全体の出力が小さくなっていた。また、炉心の周辺部の炉心の出口における冷却材温度は、冷却材流量が径方向に一定の場合、炉心軸上の炉心の出口における冷却材温度よりも低くなり、炉心全体の炉心の出口における冷却材温度(原子炉容器の出口における冷却材温度)が低くなり、発電の熱効率が低くなっていた。
【0065】
なお、冷却材流量を径方向に変化させることにより、炉心の出口における冷却材温度を径方向の全ての位置において最高許容温度にすることができる。炉心全体にわたって炉心の出口における冷却材温度を高くすることができて、発電の熱効率を高くできる。しかし、この場合でも、比較例の炉心では炉心全体の出力が小さいままである。
【0066】
これに対して、本実施の形態における炉心では、径方向の出力密度をほぼ一定にすることができるため、比較例の炉心と同じ燃料温度等の所定の制限を有していても、炉心の周辺部の出力を大きくすることができる。炉心全体の出力を大きくすることができる。この結果、炉心の単位体積あたりの出力を大きくすることができる。または、炉心の平均出力密度を高くすることができる。また、本実施の形態における炉心では、炉心の出口における冷却材温度を径方向の全ての位置において最高許容温度にすることができる。この結果、炉心全体にわたって炉心の出口における冷却材温度(原子炉容器の出口における冷却材温度)を高くできて、発電の熱効率を高くできる。
【0067】
ところで、本実施の形態における炉心のいくつかの場合では、径方向に沿って炉心の単位体積あたりのウラン重量を変化させている。ウランから生成されるプルトニウム等の核分裂性核種の密度が径方向で変化する。このために、燃焼部の進行速度が径方向の位置で異なる場合がある。たとえば、中央部の燃焼部の燃焼速度が周辺部の燃焼部の燃焼速度よりも僅かに速くなる場合がある。この結果、燃焼部の軸方向の位置が、中央部と周辺部とで僅かにずれる場合がある。
【0068】
このような炉心の場合には、燃焼部の軸方向の位置が、炉心の径方向にわたってほぼ同じになるように、燃料の取替えを行うことができる。図5および図8を参照して、新燃料部11のうち新たに装荷する部分の軸方向の長さは、燃焼が進んだ部分13のうち燃料を取り出す部分の長さと等しくなる。本実施の形態における炉心では、燃料の取替えのときに、燃料の取り出し量および新燃料の装荷量を径方向において変えることができる。たとえば、径方向の位置に依存して、燃焼が進んだ部分の取り出す燃料ペレット24acの数、および新燃料部に新たに装荷する燃料ペレット24aaの数を変えることができる。
【0069】
この燃料取替えの方法を採用することにより、燃焼部の軸方向の位置が、径方向においてずれることを抑制することができる。たとえば、炉心の中央部の燃焼速度が周辺部よりも速い場合には、中央部の取替え量を周辺部の取替え量よりも多くすることにより、燃焼部の軸方向の位置が、径方向においてずれることを抑制することができる。
【0070】
本実施の形態においては、炉心の径方向の周辺部から中央部に向かうにつれて、トリウムの含有率を徐々に増加させると同時に、炉心の単位体積当たりのウラン重量を徐々に減少させているが、この形態に限られず、図9に示すように、燃焼部において、出力密度が径方向においてほぼ一定になるように炉心が構成されていれば構わない。また、本実施の形態における炉心の第1燃料集合体の新燃料部にはトリウムが含まれていないが、この形態に限られず、第1燃料集合体にトリウムが含まれていても構わない。
【0071】
更には、平面視したときにほぼ円形になっている炉心を中央部と周辺部とに分割したときに、新燃料部は、中央部の単位体積あたりのウラン重量が周辺部の単位体積あたりのウラン重量よりも小さくなっていれば構わない。この構成を採用することにより、径方向において出力密度をほぼ一定に近づけることができる。炉心の軸方向長さを短くしても周辺部の燃料を十分に燃焼することができる。
【0072】
炉心を中央部と周辺部とに分割する方法としては、たとえば、炉心の径方向の長さのほぼ半分の位置において、中央部と周辺部とを区画することができる。このときに、中央部と外周部との境界線は、炉心を平面視したときの外形に沿って形成することができる。中央部の単位体積あたりのウラン重量は、(炉心の中央部に配置されているウランの総重量)/(炉心の中央部の体積)により算出することができる。周辺部の単位体積あたりのウラン重量も同様に算出することができる。
【0073】
図13に、本実施の形態における他の炉心の概略平面図を示す。他の炉心10においては、径方向の長さrのほぼ半分(r/2)の位置において、内側領域と外側領域とが区画されている。内側領域と外側領域との境界線は、炉心10を平面視したときの外形に沿っている。図13に示す例においては、内側領域は中央部に相当し、外側領域は周辺部に相当する。内側領域には、新燃料にウランおよびトリウムを含む第2燃料集合体21bが装荷され、外側領域には、新燃料にウランを含みトリウムを含まない第1燃料集合体21aが装荷されている。すなわち、外側領域に配置される新燃料は、トリウムの含有率が零である。
【0074】
このように燃料が装荷される領域が2分割された炉心においても、径方向において内側領域の出力密度をほぼ一定に近づけることができ、炉心の軸方向長さの短い炉心でも周辺部の燃料を十分に燃焼することができる。図13に示す炉心では、炉心を平面視したときに、炉心の径方向の長さでほぼ等分割されて内側領域と外側領域とが画定されているが、この形態に限られず、等分割されていなくても構わない。
【0075】
図14に、本実施の形態における更に他の炉心の概略平面図を示す。更に他の炉心においては、第1燃料集合体21aと、第2燃料集合体21bと、第3燃料集合体21cとが装荷されている。第1燃料集合体21a、第2燃料集合体21b、第3燃料集合体21cの燃料は、この順に、新燃料の単位体積あたりのウラン重量が小さくなるように形成されている。
【0076】
炉心の最も中央には、第3燃料集合体21cが装荷されている。図14に示す更に他の炉心では、図2に示す炉心よりも最も中央に配置される燃料の領域が大きくなっている。最も中央に配置される燃料は、径方向の出力分布がほぼ一定が保たれる限り、できるだけ大きな領域に配置されることが好ましい。この構成により、同一の組成の燃料が装荷される領域を大きくすることができる。前述のように燃料の組成の差異により、径方向において燃焼部の燃焼速度が変化することを抑制することができる。
【0077】
最も中央に配置される第3の燃料集合体21cの外側の第2燃料集合体21bの領域では、単位体積あたりのウラン重量等を調整することにより、出力密度を軸方向に積分した値が、第3の燃料集合体21cの領域と、できるだけ等しくなることが好ましい。また、最外周に配置されている第1燃料集合体21aは、炉心の単位体積あたりのウラン重量が他の燃料集合体よりも高くなるように形成されていることが好ましい。
【0078】
中央部の単位体積当たりのウラン重量を、周辺部の単位体積あたりのウラン重量よりも小さくする炉心としては、上記のようにウランに代えてトリウムを混合する他に、例えば、金属燃料において、混合金属と金属ウランとの割合を変化させることができる。例えば、燃料がジルコニウムと金属ウランから形成されている場合には、ジルコニウムの含有率を増やし、ウランの含有率を減らした燃料を採用することができる。新燃料部のウランの含有率を周辺部よりも中央部の方が小さくなるように炉心を構成することにより、中央部の単位体積あたりのウラン重量を小さくすることができる。なお、ジルコニウムは、中性子の吸収断面積が小さいという特性を有する。このために、燃料集合体におけるウランの含有量を調整するためにジルコニウムの含有率を大きくした場合にも、中性子吸収の影響を小さくすることができる。
【0079】
更に、ウラン以外の金属を2種類以上含む燃料を採用することができる。たとえば、ジルコニウムの一部をモリブデン等の他の金属に置き換えた燃料を採用することができる。ウラン以外の金属の含有率を変化させることにより、中性子吸収の効果を変化させることができる。たとえば、燃料がジルコニウムおよびモリブデンを含む場合に、中央部にモリブデンの含有率が大きくてジルコニウムの含有率が小さな燃料を採用し、周辺部にモリブデンの含有率が小さくてジルコニウムの含有率が大きな燃料を採用することにより、径方向における出力密度を一定に近づけることができる。この場合には、径方向における単位体積あたりのウラン重量の変化を小さくすることができる。この構成により、燃焼部の移動速度を径方向にわたって一定に近づけることができる。燃焼部の軸方向の位置を一定に近づけることができる。
【0080】
また、中央部の単位体積あたりの冷却材の量を、周辺部の単位体積あたりの冷却材の量よりも大きくすることができる。たとえば、中央部に配置されている燃料集合体の燃料棒の間隔を大きくすることにより、中央部の単位体積あたりの冷却材の量を多くすることができる。すなわち、中央部の冷却材の体積割合を、周辺部の冷却材の体積割合よりも大きくすることができる。中央部の単位体積あたりの冷却材の量を多くすることにより、単位体積当たりのウラン重量が少なくなって、中央部における出力密度を抑制し、径方向の出力密度をほぼ一定に近づけることができる。または、中央部の燃料集合体の燃料棒の径を周辺部の燃料集合体の燃料棒の径よりも小さくしても構わない。中央部の燃料棒の径を小さくすることにより、燃料棒同士の間の冷却材の流路を大きくすることができる。このために、単位体積当たりの冷却材の量を大きくすることができる。更に、中央部の燃料棒の径を小さくすることにより、中央部に装荷する単位体積当たりのウラン重量を少なくすることができる。
【0081】
または、径方向の出力密度を一定に近づけるために、燃料の支持体の材質または形状を変化させることができる。例えば、炉心の中央部に装荷されている燃料集合体の支持体を、周辺部に装荷されている燃料集合体の支持体よりも高速中性子の吸収断面積が大きくなる材質で形成することができる。または、中央部の単位体積当たりの支持体の重量を、周辺部の単位体積当たりの支持体の重量よりも大きく形成することができる。たとえば、炉心の中央部の被覆材の厚さを、炉心の周辺部の被覆材の厚さよりも厚く形成することができる。
【0082】
このように、新燃料部は、ウラン以外の燃料ペレットの構成物質、支持体、および冷却材のうち少なくとも一つの炉心構成材を含み、炉心構成材は、中央部に比べて周辺部の中性子無限増倍率が大きくなるように形成することができる。中性子無限増倍率は、たとえば、炉心の任意の点の周りの所定の領域を画定することにより算出することができる。炉心構成材を選定することにより、中央部の任意の点の周りの所定の領域における中性子無限増倍率よりも、周辺部の任意の点の周りの所定の領域における中性子無限増倍率を大きくすることができる。この場合に、径方向における炉心の単位体積当たりのウラン重量が、ほぼ一定である方が好ましい。この構成によっても、径方向において出力密度をほぼ一定に近づけることができる。
【0083】
ウラン以外の燃料ペレットの構成物質としては、前述のジルコニウム等の金属を例示することができる。また、燃料の支持体としては、前述の被覆材や支持格子等を例示することができる。
【0084】
また、新燃料部の炉心構成材は、周辺部から中央部に向かう方向において中性子無限増倍率が徐々に小さくなるように形成することができる。この構成により、径方向の出力分布を、より一定に近づけることができる。
【0085】
本実施の形態における燃料は、天然ウランを例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方を用いて、CANDLE燃焼を達成することができる。また、CANDLE燃焼を行なうことができる任意の高速中性子炉に、本発明を適用することができる。
【0086】
本実施の形態においては、燃焼サイクル初期において前サイクルの燃焼部を新燃料部の上側に配置したが、この形態に限られず、新燃料部は、炉心の軸方向のうち、燃焼部のいずれか一方の端部に配置することができる。さらには、燃焼部の両側に新燃料部が配置されていても構わない。
【0087】
また、本実施の形態においては、サイクル初期の燃焼を開始する部分は、前サイクルのサイクル末期において、炉心の下部に配置されている燃料を使用しているが、この形態に限られず、サイクル初期における燃焼を開始する部分は、中性子を自発的に発生するように形成されていれば構わない。たとえば、所定の濃度のプルトニウムや濃縮ウランなどを含む燃料が配置されていても構わない。更には、外部から中性子が供給されることにより、燃焼が開始されても構わない。
【0088】
また、本実施の形態における炉心は、炉心の軸方向が鉛直方向と平行になっているが、この形態に限られず、炉心の軸方向は水平方向と平行になっていても構わない。すなわち、本実施の形態における炉心を横置きにしても構わない。
【0089】
また、本実施の形態における炉心は、燃料棒に燃焼度の異なる燃料ペレットを挿入することにより、新燃料部および燃焼を開始する部分を形成しているがこの形態に限られず、燃料集合体を分割したブロックを形成して、新燃料を含むブロックおよび燃焼燃料を含むブロックを炉心の軸方向に積み上げることにより炉心を構成しても構わない。
【0090】
本実施の形態における炉心は、冷却材が流れる方向と燃焼部が進行する方向とが、互いに反対になるように形成されているが、この形態に限られず、冷却材が流れる方向と燃焼部が進行する方向とが互いに同じであっても構わない。
【0091】
本実施の形態においては、燃料の燃焼が定常になっている時に、炉心に対して反応度の制御を行わない運転方法を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、反応度制御を行っても構わない。たとえば、制御棒を配置して、反応度制御を行うことにより、炉出力の調整を行なっても構わない。または、冷却材の流量を変更することにより反応度制御を行っても構わない。また、燃焼サイクルの起動時および停止時には、反応度制御を行うことが好ましい。
【0092】
本実施の形態においては、発電設備に用いられる原子炉の炉心を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、任意の設備の原子炉に本発明を適用することができる。たとえば、船舶等の動力源として本発明の原子炉の炉心を用いることができる。
【0093】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に含まれる変更が意図されている。
【符号の説明】
【0094】
1 原子炉
10 炉心
11 新燃料部
12 燃焼部
21a 燃料集合体
21b 燃料集合体
21c 燃料集合体
21d 燃料集合体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14