特許第5717035号(P5717035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717035
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】多層バリアフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/04 20060101AFI20150423BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20150423BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   B32B9/04
   B32B27/20 Z
   B05D7/24 303B
【請求項の数】27
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-513908(P2012-513908)
(86)(22)【出願日】2010年6月2日
(65)【公表番号】特表2012-528747(P2012-528747A)
(43)【公表日】2012年11月15日
(86)【国際出願番号】SG2010000204
(87)【国際公開番号】WO2010140980
(87)【国際公開日】20101209
【審査請求日】2013年5月17日
(31)【優先権主張番号】61/183,223
(32)【優先日】2009年6月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ラマダス, センティル クマー
(72)【発明者】
【氏名】チュア, スー ジン
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/057045(WO,A1)
【文献】 特開2005−335094(JP,A)
【文献】 特開2005−342995(JP,A)
【文献】 特開2005−288851(JP,A)
【文献】 特表2008−532814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層バリアフィルムであって、
・片側がバリア層でコーティングされた基材層であって、前記バリア層が金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物および金属酸窒化物からなる群から選択される材料で構成される層と、
・前記バリア層上に配列されたナノ構造化金属化合物層であって、該ナノ構造化金属化合物がナノ構造化金属酸化物であり、前記ナノ構造化金属化合物層のナノ構造が、ナノワイヤ、単結晶ナノ構造、二結晶ナノ構造、多結晶ナノ構造および非晶質ナノ構造からなる群から選択される層と、
・前記ナノ構造化層上に配列された平坦化層であって、前記平坦化層がポリマー性結合剤中に分配されたナノ構造化材料を含み、前記ナノ構造化材料が、炭素、または金属もしくは金属酸化物あるいは上述の物質の混合物で構成され、かつ、200nm未満の長さを有する層と
を含む、多層バリアフィルム。
【請求項2】
金属炭化物、金属、金属窒化物、金属酸窒化物および金属酸化物の前記金属が、周期表の2〜14族からの金属からなる群から独立して選択される、請求項1の多層バリアフィルム。
【請求項3】
前記周期表の2〜14族からの金属が、アルミニウム、ガリウム、インジウム、インジウムドープされたスズ、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、クロム、タングステン、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、イットリウム、およびバナジウムならびにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項4】
前記金属酸化物が、TiO、Al、ZrO、ZnO、BaO、SrO、CaOおよびMgO、VO、CrO、MoO、LiMn、スズ酸カドミウム(CdSnO)、インジウム酸カドミウム(CdIn)、スズ酸亜鉛(ZnSnOおよびZnSnO)、酸化亜鉛インジウム(ZnIn)ならびにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の多層バリアフィルム。
【請求項5】
前記金属窒化物が、TiN、AlN、ZrN、Zn、Ba、Sr、CaおよびMg、VN、CrNおよびMoNからなる群から選択される、請求項1に記載の多層バリアフィルム。
【請求項6】
前記金属酸窒化物が、TiO、AlON、ZrON、Zn(N1−x2−y、SrON、VON、CrON、MoONおよびこれらの化学量論的等価物からなる群から選択される、請求項1に記載の多層バリアフィルム。
【請求項7】
前記ナノ構造化金属化合物層が、バリア層に含まれる欠陥に延びるまたは欠陥を(部分的にまたは完全に)充填する、請求項1〜のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項8】
前記平坦化層中に含まれる前記ナノ構造化材料がロッド形状である、請求項1〜のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項9】
前記ロッド形状が、10nm〜50nmの直径おび5以上のアスペクト比である、請求項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項10】
前記平坦化層のナノ構造化材料が、1/g〜200m/gの表面積対重量比を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項11】
前記ポリマー性結合剤が、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエポキシド、パリレン、ポリシロキサンおよびポリウレタンからなる群から選択される材料である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項12】
前記平坦化層中のナノ構造化材料の量が、ポリマー性結合剤のモノマーの総重量に関して0.0000001重量%〜50重量%である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項13】
前記平坦化層がさらにUV吸収有機化合物を含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項14】
前記UV吸収有機化合物が、4−メチルベンジリデンカンファー、イソアミルp−メトキシシンナメート、2−ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−フェニルトリアジンおよびオキサルアニリドからなる群から選択される、請求項1〜13のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項15】
前記基材が有機ポリマーまたは無機ポリマーあるいはこれらの混合物である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項16】
前記有機ポリマーが、ポリアセテート、ポリプロピレン、セロファン、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシラート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(4−メチル−2−ペンチン)、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン(PES)、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリジメチルフェニレンオキシド、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、ポリオレフィン、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、ニトロセルロース、セルロースまたはアセテートからなる群から選択される、請求項15に記載の多層バリアフィルム。
【請求項17】
前記無機ポリマーが、シリカ(ガラス)、ナノクレイ、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ビスシクロペンタジエニル鉄、酸化インジウムスズ、ポリホスファゼンおよびこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項15に記載の多層バリアフィルム。
【請求項18】
前記ポリマーが透明または半透明または不透明である、請求項15に記載の多層バリアフィルム。
【請求項19】
前記バリア層、ナノ構造化金属化合物層および平坦化層が前記基材の両側に配列される、請求項1〜18のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項20】
さらなるバリア層が平坦化層上に配列される、請求項1〜19のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項21】
前記基材が1μm〜3mmの厚さを有する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項22】
前記バリア層が5nm〜500nmの厚さを有する、請求項1〜21のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項23】
前記ナノ構造化金属化合物層が、200nm〜10μmの厚さを有する、請求項1〜22のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項24】
前記平坦化層が200nm〜1μmの厚さを有する、請求項1〜23のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか一項に記載の多層バリアフィルムを製造する方法であって、
・バリア層コーティングされた基材を提供するステップと、
・有機溶媒中に溶解した金属粒子前駆体の溶液をバリア層上に適用してシード層を得るステップと、
・溶媒熱方法を介して金属ナノ結晶を成長させ、ナノ構造化金属化合物層を得るステップと、
・ナノ構造化金属化合物層上に平坦化層を堆積させるステップと
を含む方法。
【請求項26】
前記シード層が、スピンコーティング、インプリント方法およびロール−ツー−ロールコーティング方法からなる群から選択される方法のいずれかによって適用される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の方法によって得られる請求項1から24のいずれか一項に記載の多層バリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願との相互参照]
[001]本願は、2009年6月2日に出願された米国仮出願第61/183,223号の優先権の利益を享受し、この文献の内容全体があらゆる点から本明細書に参照により組み入れられる。
[発明の分野]
【0002】
[002]本発明は、一般にバリアフィルムの分野、より詳細には光学段階的バリアフィルムの分野に関する。
[発明の背景]
【0003】
[003]可撓性有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイは、次世代のディスプレイ技術と考えられている。これらのディスプレイは、軽量、高い衝撃耐性および機械的可撓性といった新しい特性をディスプレイに与える。OLEDディスプレイ構造および他のポリマー性デバイスは、酸素および湿分の存在下で劣化する。OLEDディスプレイが10,000時間を超える寿命を有する信頼性のある性能を有するためには、活性物質の周りのカプセル封入構造が、10−5cc/m/日未満の酸素透過率(OTR)ならびに39℃および95%RHにおいて約10−6g/m/日の水蒸気透過率(WVTR)を有すべきであると見積もられる。
【0004】
[004]ポリマーフィルムは、このフィルムのバリア特性を改善するために金属酸化物コーティングでコーティングされている場合であっても、通常、高いバリア性能(39℃および95%RHにおいて、10−5〜10−6cc/m/日未満の水蒸気透過性)を示さない。
【0005】
[005]堆積されたバリア層、例えば金属酸化物コーティングの一体性は、全体のガスバリア性能を決定する際の極めて重要な因子であり、酸化物層内のマクロな欠陥を制御することが重要な要件である。実際、バリア層、例えば金属酸化物コーティングされたポリマーフィルムの性能が、可撓性有機発光ディスプレイにおけるブレークスルーに向けての技術的に大きなハードルである。ポリマーフィルム110は、このフィルムのバリア特性を改善するために金属酸化物コーティング106でコーティングされている場合であっても、これらのフィルムが金属酸化物層における不完全性、例えばピンホール103、クラック102、粒界に生じるギャップ101を被る場合には、通常高いバリア性能を示さないことは周知である(図6参照)。
【0006】
[006]故に、本発明の目的は、改善されたバリア特性を有する高いバリア基材システムを提供することである。
[発明の概要]
【0007】
[007]第1の態様において、本発明は、多層バリアフィルムを対象とする。多層バリアフィルムは、
・バリア層で片側がコーティングされた基材層であって、バリア層が、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物および金属酸窒化物からなる群から選択される材料で構成される層、
・このバリア層上に配列されたナノ構造化金属化合物層、および
・このナノ構造化層上に配列された平坦化層であって、この平坦化層がポリマー性結合剤中に分配されたナノ構造化材料を含み、このナノ構造化材料が、炭素、金属または金属酸化物あるいは上述の物質の混合物で構成される層
を含む。
【0008】
[008]さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載されるような多層バリアフィルムを製造する方法を対象とする。この方法は、
・バリア層コーティングされた基材を提供するステップと、
・バリア層上に有機溶媒中に溶解した金属粒子前駆体の溶液を適用してシード層を得るステップと、
・溶媒熱方法を介して金属ナノ結晶を成長させ、ナノ構造化金属化合物層を得るステップと、
・ナノ構造化金属化合物層上に平坦化層を堆積させるステップと
を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
[009]本発明は、非限定的な例および添付の図面と関連させて考慮される場合に詳細な説明を参照してより良く理解される。
図1】[010]図1は、本発明の実施形態の多層バリアフィルムの構造を示す。図1aは、多層バリアフィルムを形成する層の連続を示す。図1Bは、バリア層に生じる欠陥を示す多層バリアフィルムの特定部分を拡大している。これらのクラック、ピンホールまたは粒界におけるギャップは、こうした層の製造プロセス、例えばスパッタリングプロセス中に生じ、避けることができない。本明細書に記載されるように、本発明者らは、2ステップ方法(シード層の堆積ステップと熱溶媒方法におけるシード層の成長ステップ)にてナノ構造化金属化合物層51を堆積させることによって、こうした欠陥を閉じる方法を見出したが、ここでナノ構造化金属化合物層のナノ構造化材料は、バリア層中の欠陥を覆うだけではなくむしろ欠陥に栓をする(バリア層51に示される欠陥において灰色の充填された部分)。図1Aにおいて、基材層50の後には、欠陥に栓をするナノ構造化金属化合物層60と直接連通したバリア層51が続くことが示されている。ナノ構造化金属化合物層60の後には、平坦化層70が続く。
図2】[011]図2は、図1に言及された基本構造を示すさらなる実施形態を示す。加えて、図2には、平坦化層70に堆積されたさらなる層80が示されている。層80は、本明細書に概要されるようにないずれの種類のさらなるバリア層であることができる。層80は、例えばバリア層51と同じまたは異なる材料で構成された別のバリア層であることができる。層80はまた、バリア層、ナノ構造化金属化合物層および場合により平坦化層の別の連続、すなわちさらなる多層構造であることができ、または層80は、当該技術分野において既知のいずれの種類のバリア層であることができる。
図3】[012]図3は、本明細書に記載される多層バリアフィルムの製造プロセスを例示する。
図4】[013]図4は、カルシウムセンサ304を用いて、製作されたバリアフィルムのバリアフィルム特性の調査を行うための設定を示す。
図5】[014]図5は、本明細書に記載される多層バリアフィルムと比較した従来のバリアスタックのカルシウム分解試験の結果を示す。
図6】[015]図6は、当該技術分野において既知のバリアフィルムの作動方法およびこうしたバリアフィルムの制限を例示する。このバリアフィルムは、3つの異なる層を含む。2つの金属酸化物層106は、ポリマー層110が介入している。金属酸化物層は、バリア特性を改善するためにポリマー層の上部および底部に適用される。ポリマーに比べて、金属酸化物は、ポリマーフィルムよりも相当良好に水蒸気を吸着することが知られている(矢印107によって示される吸着)。しかし、導入部分で既に説明したように、金属酸化物層は、固有の構造上の欠陥、例えば金属酸化物層を形成する金属粒の境界に生じる欠陥101、可撓性バリアフィルムが曲げられるときに形成され得るクラック102、およびピンホール103を含む。水分子108および酸素分子(図6には図示せず)は、これらの欠陥を通って金属酸化物層を通過する場合があり、ポリマー層110を通って拡散し(斜線矢印104によって示される拡散)、金属酸化物層106の表面からまたは表面を通って保護されるべき湿分感受性デバイスが位置する領域に放出(脱着)される。
図7】[016]図7は、バリア層(A)、シード層(B)、シードの成長中(C)および成長後(D)のナノ構造化金属化合物層(C&D)および平坦化層(E)の表面トポグラフィー特性を示すSEM写真を示す。
図8】[017]図8は、異なる酸化亜鉛の濃度および異なるスピン速度のナノ構造化金属化合物層の製造における影響を例示する。画像の第1行は、ナノ構造化金属化合物層を示しており、この層は、3000rpmのスピン速度でのエレクトロスピニングを介して得られたZnOナノロッドで構成される。第2行において、スピン速度は、4000rpmであり、第3行においてスピン速度は5000rpmであった。第1欄において、スピンコーティングのための溶液に使用されるZnOナノ粒子の濃度は、0.075Mであり、第2欄において濃度は0.0093Mであり、第3欄において濃度は0.0068Mであった。
図9】[018]図9は、異なる酸化亜鉛の濃度およびスピン速度のナノ構造化金属化合物層の製造における影響を例示する。画像の第1行は、3000rpmのスピン速度でのエレクトロスピニングを介して得られたZnOナノロッドで構成されるナノ構造化金属化合物層を示している。第2行において、スピン速度は4000rpmであった。第1欄において、スピンコーティングのための溶液に使用されるZnOナノ粒子の濃度は、0.075Mであり、第2欄において濃度は0.0057Mであった。
【0010】
[発明の詳細な説明]
[019]第1の態様において、本発明は、多層バリアフィルムを対象とする。多層バリアフィルムは、
・バリア層で片側がコーティングされた基材層であって、このバリア層が金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物および金属酸窒化物からなる群から選択される材料で構成される層、
・このバリア層上に配列されたナノ構造化金属化合物層、および
・このナノ構造化層上に配列された平坦化層であって、この平坦化層が、ポリマー性結合剤中に分配されたナノ構造化材料を含み、このナノ構造化材料が、炭素、金属または金属酸化物あるいは上述の物質の混合物で構成される層
を含む。
【0011】
[020]このバリアフィルム構成において、基材上にコーティングされたバリア層に存在するいずれかの欠陥は、ナノ構造化金属化合物層を堆積させることによって密封される。図1は、こうした構成の例を例示する。基材50は、図1の挿絵にてより詳細に例示されるような欠陥を含むバリア層51でコーティングされる。バリア層に続くナノ構造化金属化合物層60は、バリア層の欠陥に伝搬するが、バリア層の欠陥を覆うのみの別の層を単に創製するのではない。こうして、湿分および酸素に対して効率の良いバリア作用を、実験項に例示されるように得ることができる。酸素透過率(OTR)を10−5cc/m/日未満および水蒸気透過率(WVTR)を10−6g/m/日未満にさらに低下させるためにさらなるバリア層がバリアフィルム上に堆積されることが意図される場合に、平坦化層を適用することによりさらに表面を平滑にできる。
【0012】
[021]加えて、ナノ構造化層は、光散乱によって入射光を拡散できる。この光散乱は、バリアフィルムを使用して太陽電池および有機/無機放出デバイスを湿分および/または酸素から保護する用途に有用であり得る。
【0013】
[022]基材またはバリアフィルムに使用される可撓性基材は、ポリマー、例えば有機ポリマーまたは無機ポリマーで構成できる。有機ポリマーの例としては、ポリアセテート、ポリプロピレン、セロファン、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシラート)(PEN)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(4−メチル−2−ペンチン)、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン(PES)、エポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリジメチルフェニレンオキシド、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、ポリオレフィン、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ナイロン、ニトロセルロース、セルロースまたはアセテートが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態において、基材は、如何なる金属性材料も含んでいない。こうした金属性材料の例としては、金属粒子または金属酸化物粒子を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0014】
[023]ポリカーボネートは、塑性エレクトロニクス製作プロセスと適合性があるので、有用な基材である。ポリカーボネートはまた、透明でもあり、いずれの所望の寸法に切断できる。空気圧で操作される中空ダイパンチ切断装置またはいずれの他の従来のスリッティング機を使用して、所望の寸法にサンプルを細長く切ることができる。
【0015】
[024]基材は、外部環境に面するように配列されてもよく、およびまたは基材は、段階的バリアフィルムでカプセル封入された環境に面してもよい。食品包装において、基材は、食品と接触する内面に面してもよい一方で、段階的バリアフィルムが大気条件と接触した外面を形成する。
【0016】
[025]無機基材の例としては、シリカ(ガラス)、ナノクレイ、シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ビスシクロペンタジエニル鉄、酸化インジウムスズ、ポリホスファゼンおよびこれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態において、使用される基材は、透明であることができ、または半透明または不透明であることができる。基材層は、約1μm〜約3μm、または約1μmまたは約1.5μm、または約2μm、または約2.5μmまたは約3μmの厚さを有することができる。
【0017】
[026]基材層にコーティングされたバリア層は、既知のバリア材料で構成できる。バリア層のための材料は既知であり、一般にこれらの材料は、湿分および/または酸素との相互作用が可能であるものが選択され、それゆえ低いガス透過性が達成される。バリア層は、材料、例えば金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物または金属酸窒化物で構成できる。バリア層は、約5nm〜約500nm、または約5nm〜約250nmまたは約5nm〜約100nm、または約5nm〜約50nm、または約20nm〜約100nm、または約50nm〜約500nmまたは少なくとも5nmまたは少なくとも10nm、または少なくとも50nmの厚さを有することができる。
【0018】
[027]金属炭化物、金属スルファイト、金属ホスフェート、金属、金属窒化物、金属酸窒化物の基礎として使用される金属は、周期表2〜14族(IUPAC;2006年までのIUPAC推奨に従う;Wi1ey−VCH Ver1ag GmbH&Co.KGaA,Weinheim,第4版、2007によって公開されている周期システム)からの金属を含むことができる。こうした金属の例としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、インジウムドープされたスズ、タリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、クロム、タングステン、亜鉛、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、タンタル、イットリウム、およびバナジウムおよびこれらの合金が挙げられるが、これらに限定されない。一部の好ましい金属としては、2、4、10、12、13および14族(IUPAC)からの金属が挙げられる。例えば、これらの金属は、Al、Mg、BaおよびCaから選択されてもよい。反応性の遷移金属、例えばTi、Zn、Sn、Ni、およびFeを含む金属も使用できる。
【0019】
[028]例えばバリア層、ナノ構造化金属化合物層ならびに平坦化層のために使用できる金属酸化物の例としては、TiO、Al、ZrO、ZnO、BaO、SrO、CaOおよびMgO、VO、CrO、MoO、およびLiMnが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態において、金属酸化物は、透明伝導性金属酸化物を含んでもよく、この金属酸化物としては、スズ酸カドミウム(CdSnO)、インジウム酸カドミウム(CdIn)、スズ酸亜鉛(ZnSnOおよびZnSnO)、および酸化亜鉛インジウム(ZnIn)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0020】
[029]使用できる金属窒化物の例としては、TiN、AlN、ZrN、Zn、Ba、Sr、CaおよびMg、VN、CrNまたはMoNが挙げられるが、これらに限定されない。使用できる金属酸窒化物の例としては、TiO、例えばTiON、AlON、ZrON、Zn(N1−x2−y、SrON、VON、CrON、MoONおよびこれらの化学量論的等価物が挙げられるが、これらに限定されない。金属炭化物の例としては、炭化ハフニウム、炭化タンタルまたは炭化ケイ素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
[030]基材層上にコーティングされたバリア層は、一部の不可避欠陥、例えばピンホール、クラックおよび使用される金属性バリア層材料の粒界に生じるギャップを含む(図6も参照)。バリア層上に堆積されるナノ構造化金属化合物層は、下層バリア層における欠陥がマスクされるまたは覆われるだけでなく、ナノ構造化金属化合物層に使用されるナノ構造化金属化合物により完全にまたは部分的に充填されるように製造される。故に、水および酸素は、金属酸化物層の欠陥を通過したらナノ構造化金属化合物層の材料によって効果的にブロックされるだけでなく、水および酸素分子は、バリア層に堆積したナノ構造化金属化合物層のバルクに入り込まないように既に止められている。
【0022】
[031]ナノ構造化金属化合物層は、金属スルファイト、金属ホスフェート、金属、金属窒化物、金属酸窒化物または金属酸化物で構成できる。
【0023】
[032]有用な金属、金属窒化物、金属酸窒化物または金属酸化物の例は、既に上記で開示されている。金属スルフィドの例としては、CdS、ZnSまたはPbSが挙げられるが、これらに限定されない。金属ホスフェートの例としては、InPおよびGaPが挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施形態では、ナノ構造化金属化合物層は、金属酸化物、例えばZnOで構成される。
【0024】
[033]ナノ構造化金属化合物層に使用される金属化合物のナノ構造は、金属化合物のシード層を堆積するための従来のコーティング方法および金属化合物シードに基づくナノ構造を成長させるための溶媒熱方法の組み合わせを用いて得られる。こうした方法を用いて得られたナノ構造は、ナノワイヤ、単結晶ナノ構造、二結晶ナノ構造、多結晶ナノ構造および非晶質ナノ構造であることができる。
【0025】
[034]ナノ構造化金属化合物層における金属化合物のナノ構造、例えばナノワイヤは、約200nm〜1μmの範囲の少なくとも1つの寸法を含んでもよいが、別の寸法は、約200mm〜約1μmの範囲であってもよい。
【0026】
[035]ナノ構造化金属化合物層は、約200nm〜約10μmの厚さを有することができる。別の実施形態において、この厚さは、約200nm〜約5μm、または約200nm〜約2μmまたは約200nm〜約1μm、または少なくとも200nmであってもよい。ナノ構造化金属化合物層の厚さは、部分的には、ナノ構造化金属化合物層におけるナノ構造の成長が規則的でないという事実のために、均一ではない。
【0027】
[036]故に、バリアフィルムはさらに、ナノ構造化金属化合物層の表面に堆積した平坦化層を含むことができる。平坦化層は、炭素、または金属、または金属酸化物あるいは上述の物質の混合物で構成されるナノ構造化材料を含むことができる。金属または金属酸化物は、上記で言及された金属または金属酸化物のいずれをも含むことができる。
【0028】
[037]平坦化層は、一般にナノ構造化粒子が分配される層を指す。層は、ナノ構造化粒子を保持するためのいずれかの好適な種類の結合剤、例えば純粋なポリマー、ポリマー溶液およびポリマー複合体を含んでもよい。ナノ構造化材料は、化学反応(例えば加水分解または酸化)によって、または物理的もしくは物理化学的相互作用(例えば毛細管作用、吸着、親水性引力、またはナノ粒子と水/酸素との間の他のいずれかの非共有結合相互作用)を経るいずれかによって湿分および/または酸素と相互作用でき、先述の層を浸透するガスから湿分および酸素を除去できる。
【0029】
[038]1つの実施形態において、平坦化層のナノ構造化材料は、ナノ構造化炭素材料、例えば炭素ナノチューブ、ナノリボン、ナノ繊維および任意の規則的または不規則形状のナノスケール寸法を有する炭素粒子を含む、またはこれらからなる。炭素ナノチューブに関して、単一壁または複数壁の炭素ナノチューブが使用されてもよい。本発明者らが行った研究において、炭素ナノチューブ(CNT)は、乾燥剤として作用し得ることを見出した。炭素ナノチューブは、毛細管作用を介した低い表面張力液体、特に表面張力が約200Nm−1を超えない液体によって湿潤され得る(Nature,801頁,412号,2001)。原理上、これは、水分子が毛細管吸引によって端部が開口した炭素ナノチューブに引き込まれ得ることを意味している。水分子は、炭素ナノチューブ内で準一次元構造を形成でき、それによって小体積の酸素および水分子を吸収および保持するのに役立つことが示唆される。
【0030】
[039]不活性ナノ粒子は、ナノ構造化材料と共に存在する平坦化層に含まれることができる。本明細書で使用する場合、「不活性ナノ粒子」とは、湿分および/または酸素と全く相互作用しない、またはナノ構造化材料に比べて低い程度で反応するナノ粒子を指す。こうした不活性ナノ粒子は、酸素および/または湿分の浸透を妨害するために平坦化層に含めることができる。不活性粒子の例としては、米国特許第5,916,685号明細書に記載されるナノクレイを含む。
【0031】
[040]不活性ナノ粒子のための他の好適な材料としてはまた、金属、例えば銅、白金、金および銀、鉱物またはクレイ、例えばシリカ、珪灰石、ムライト、モンモリロナイト、レアアース元素、シリケートガラス、フルオロシリケートガラス、フルオロボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、カルシウムシリケートガラス、カルシウムアルミニウムシリケートガラス、カルシウムアルミニウムフルオロシリケートガラス、炭化チタン、炭化ジルコニウム、窒化ジルコニウム、炭化ケイ素、または窒化ケイ素、金属スルフィド、およびこれらの混合物またはこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0032】
[041]また、平坦化層におけるナノ構造化材料の異なるタイプの組み合わせも使用できる。故に、平坦化層は、少なくとも2つのタイプのナノ構造化材料を含むことができる。異なるタイプのナノ構造化材料の吸収/反応特徴を試験することによって、単一タイプの材料を用いて可能な場合よりも強いバリア作用を達成するために、相互補完するナノ構造化材料の組み合わせを選択できる。
【0033】
[042]故に、平坦化層は、炭素ナノチューブおよびナノ構造化金属および/または金属酸化物の組み合わせを含んでもよい。1つの代表的な実施形態は、ナノ構造化金属酸化物、例えばTiO/Alならびに炭素ナノチューブの両方を含むことを対象とする。代表的な実施形態において、存在するナノ構造化金属酸化物の量は、炭素ナノチューブの量の500〜15000倍(重量による)である。低原子量を有する金属酸化物に関して、低い比を使用できる。例えば、ナノ構造化TiOは、炭素ナノチューブと組み合わせて使用でき、炭素ナノチューブとTiOとの重量比は約1:10〜約1:5であるが、これらに限定されない。
【0034】
[043]平坦化層におけるナノ構造化材料の濃度は変動し得る。1つの実施形態において、平坦化層の形成のためにモノマー溶液に添加されるナノ構造化材料の量は、平坦化層のポリマー性結合剤中に存在するモノマーの重量に対して約0.0000001体積%、約0.0001体積%、約0.001体積%、約0.01体積%、約0.1体積%、または約1.0体積%〜約10、20、30、40または50体積%の範囲である。他の実施形態において、平坦化層を形成するためのモノマー溶液に添加されるナノ粒子の量は、ポリマー性結合剤に存在するモノマーの重量に対して約10体積%、約20体積%、約30体積%または約40体積%である。炭素ナノチューブの場合、炭素ナノチューブはまた、存在するモノマーの約0.01重量%〜約10重量%、約20重量%、約30重量%、約40重量%または約50重量%までの量で使用できる。1つの例示実施形態において、炭素ナノチューブは、存在するモノマーの重量に対して約0.01体積%〜約10体積%の量で添加される。
【0035】
[044]平坦化層におけるナノ構造化材料は、平坦化層中の水蒸気および酸素と接触し得る表面積を最大限にできる形状を有してもよい。これは、ナノ粒子が大きい表面積対体積比、または表面積対重量比を有するように設計できることを意味する。1つの例において、ナノ粒子は、約1m/g〜約50または100または200m/gの表面積対重量比を有する。この要件は、異なる形状、例えば2、3またはそれ以上の異なる形状を有するナノ粒子を用いることによって達成できる。平坦化層中のナノ粒子の少なくとも1つの寸法は、約20nm〜約60nmである。ナノ粒子が想定できる可能な形状としては、球状形状、棒状形状、楕円形状またはいずれかの不規則形状が挙げられる。平坦化層における棒状形状のナノ構造化材料の場合、ナノ構造化材料は約20nm〜50nmの直径、50〜200nmの長さ、および5を超えるアスペクト比を有することができるが、これらに限定されない。
【0036】
[045]平坦化層のナノ構造化材料は、ポリマー性結合剤に分散される。ポリマー性結合剤は、少なくとも1つの重合性基を有するいずれの好適な重合性化合物(前駆体)から得ることができる。この目的に好適な重合性化合物の例としては、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエポキシド、パリレン、ポリシロキサンまたはポリウレタン、または他のポリマーが挙げられるが、これらに限定されず、これらの対応するモノマー化合物から誘導されてもよい。
【0037】
[046]平坦化層の厚さは、ナノ構造化金属化合物層中のナノ構造の高さに依存し、厚さはナノ構造化金属化合物層を形成するナノ構造を覆うのに十分でなければならない。そのため、1つの実施形態では、平坦化層は、約200nm〜1μmの厚さを有する。
【0038】
[047]1つの実施形態において、平坦化層中のポリマー性結合剤は、紫外(UV)光硬化性モノマーから誘導される。UV硬化性モノマーを用いる利点は、硬化時間がほぼ瞬間的であり、UV硬化性モノマーから得られた平坦化層は優れた化学耐性を有することである。UV光硬化性モノマーの例としては、多官能性モノマー、例えば二官能性または三官能性モノマーが挙げられる。こうした多官能性モノマーの好適な例としては、アルキレンジオールジ(メタ)アクリレート、例えば1,6−ヘキサンジオールジアクリレートおよびネオペンチルグリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメチロールジアクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、例えばトリエチレングリコールジアクリレート、エーテル変性モノマー、例えばプロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、および多官能性モノマー、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、およびペンタエリスリトールテトラアクリレートなど、ならびにこれらの多官能性モノマーの組み合わせが挙げられるが、限定されない。UV硬化性モノマーとは別に、標準ハロゲン光硬化ユニットに曝されることで重合可能な他のタイプのモノマーが同様に使用されてもよい。例えば、400nm以上の波長にて青色スーパーブライト発光ダイオードからの光に曝されることで硬化できるポリマーも使用できる。
【0039】
[048]UV硬化性モノマーに関して、ナノ構造化層の硬化を促進するために、光開始剤を、モノマーを含有する前駆体混合物に含ませてもよい。好適な光開始剤の例としては、ベンゾインエーテル、例えばベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテルなど;アルキルベンゾイン、例えばメチルベンゾイン、エチルベンゾインなど、;ベンジルジメチルケタールを含むベンジル誘導体;2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾールダイマー、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾールダイマー、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾールダイマー、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾールダイマー、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾールダイマー、2,4−ジ(p−メトキシフェニル)−5−フェニルイミダゾールダイマー、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾールダイマーなどを含む2,4,5−トリアリールイミダゾールダイマー;アクリジン誘導体、例えば9−フェニルアクリジンおよび1,7−ビス(9,9'−アクリジニル)ヘプタン;N−フェニルグリシン、;芳香族ケトン、例えばトリメチルベンゾフェノン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノン、2−クロロおよび2−エチル−チオキサントン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパノン、オリゴ−[2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−アセトフェノン、および2−エチル−ヒドロキノン;ホスフィンオキシド、例えば2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ならびにこれらの組み合わせが挙げられるが、限定されない。
【0040】
[049]1つの実施形態では、平坦化層はさらに、UV吸収有機化合物を含むことができる。こうした化合物は、4−メチルベンジリデンカンファー、イソアミルp−メトキシシンナメート、2−ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−フェニルトリアジンまたはオキサルアニリドを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0041】
[050]1つの実施形態では、基材は、(この順で)バリア層、ナノ構造化金属化合物層および平坦化層を両面にコーティングされる。
【0042】
[051]別の実施形態において、さらなるバリア層が平坦化層上に配列でき、すなわち平坦化層はバリア層でコーティングされる。バリア層の組成は、基材上にコーティングされたバリア層と同一または異なることができる。代表的な実施形態を図2に例示する。図2は、第1のバリア層51でコーティングされた基材50を示す。ナノ構造化金属化合物層60は、第1のバリア層上に配列される。平坦化層70は、ナノ構造化金属化合物層60上に配列される。平坦化層70は、第2のバリア層が続く。第2のバリア層の代わりに、上述の場合のようなバリア特性(水および酸素に対する)を有する他の既知の層配列を平坦化層上にコーティングすることも可能である。
【0043】
[052]さらなる実施形態において、平坦化層70または第2のバリア層80は、機械的損傷から本明細書に記載の多層バリアフィルムを保護する最終層でコーティングされる。故に、多層バリアフィルムは、最終保護層でキャップされるまたはオーバーレイされてもよい。最終層は、良好な機械的強度を有する任意の材料を含んでもよく、引掻耐性である。1つの実施形態では、最終層は、LiFおよび/またはMgF粒子が分配されたアクリル系フィルムを含む。
【0044】
[053]さらに別の実施形態において、図2に例示されるような層の構成が提供される。ここで、第2のバリア層を第2のナノ構造化金属化合物層、続いて第2の平坦化層でコーティングすることも可能である。故に、下層バリア層における欠陥を閉じるためにナノ構造化金属化合物層を堆積するプロセスが繰り返される。しかし、この場合、さらなる平坦化層の適用は任意であり、平坦化層上に次いでコーティングされるさらなる層が続くかどうかに依存する。
【0045】
[054]別の態様において、本発明は、本明細書に記載の多層バリアフィルムを製造する方法を対象とする。こうした方法は、
・バリア層でコーティングされた基材を提供するステップと、
・有機溶媒中に溶解した金属粒子前駆体の溶液をバリア層上に適用してシード層を得るステップと、
・溶媒熱方法を介して金属ナノ結晶を成長させてナノ構造化金属化合物層を得るステップと、
・ナノ構造化金属化合物層上に平坦化層を堆積するステップと
を含む。
【0046】
[055]バリアフィルムでコーティングされた基材を製造する方法は当該技術分野において既知である。一般に、基材の表面は、基材の表面からマクロスケールで吸着された粒子を除去するために洗浄される。こうしたプロセスは、基材をアルコール、例えばイソプロピルアルコール(IPA)ですすぎ、続いて不活性ガス、例えば窒素で表面を吹込み乾燥することによって行うことができる。表面の吹込み乾燥後、基材から任意の吸収された湿分または酸素を除去するために真空チャンバーに基材を置くことができる。真空処理は、表面汚染物質を除去するためにプラズマ処理が続く場合がある。
【0047】
[056]バリア層は、当該技術分野において既知のスパッタリング技術を用いて基材層上にコーティングできる。
【0048】
[057]スパッタリングは、当該技術分野において既知である供給源から基材への原子の制御可能な移動により薄フィルムを堆積させる物理的プロセスである。基材は、ターゲットと呼ばれる供給源材料と共に真空チャンバー(反応チャンバー)中に置かれ、不活性作用ガス(例えばアルゴン)が低圧で導入される。ガスプラズマは、内部ガス中に放出された無線周波数(RF)または直流(DC)グロー(二次電子の放出)において突き当たり、ガスがイオン化する。このプロセス中に形成されたイオンは、ターゲットの表面に向かって加速され、これにより供給源材料の原子が蒸気形態でターゲットから離れ、基材上で濃縮される。
【0049】
[058]RFおよびDCスパッタリングの他、マグネトロンスパッタリングは、第3のスパッタリング技術として既知である。マグネトロンスパッタリングに関して、DC、パルスDC、ACおよびRF電源が、反応性スパッタリングが所望される場合はターゲット材料および他の因子によっては、使用できる。ターゲット表面でのプラズマ閉じ込めは、ターゲット表面の背後に永久磁石構造を位置させることによって達成される。得られた磁場は、電子トラップとして作用する閉鎖環状経路を形成し、ターゲットから放出された二次電子の軌道をサイクロイド経路に再形成し、閉じ込め区域内のスパッタリングガスのイオン化の可能性を大きく増大させる。このプラズマからの正に帯電したアルゴンイオンが負に電圧をかけたターゲット(カソード)に向かって加速され、結果として材料がターゲット表面からスパッタリングされる。
【0050】
[059]マグネトロンスパッタリングは、バランスド・マグネトロン・スパッタリングとアンバランスド・マグネトロン・スパッタリングとに区別される。「アンバランスド」マグネトロンは、簡単には、「バランスド」マグネトロンにおいては、磁極間の磁束が等しいのに対して、ターゲットの背後に位置する一方の磁極からの磁束が他方に対して大きく異なるような設計である。バランスド・マグネトロン・スパッタリングに比べて、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリングは、基材イオン電流を増大させ、ひいては基材コーティング密度を増大させる。
【0051】
[060]故に、1つの実施形態において、スパッタリング技術、例えばRFスパッタリング、DCスパッタリングまたはマグネトロンスパッタリングが使用されて、基材層上にバリア層を堆積させる。マグネトロンスパッタリングとしては、バランスドまたはアンバランスド・マグネトロン・スパッタリングを挙げることができる。1つの実施形態において、バリア層は、スパッタリングされたバリア層である。
【0052】
[061]純粋な金属層以外のバリア層、例えば異なる金属の混合物または金属酸化物層、または金属窒化物層または金属酸窒化物層を得るために、不活性反応ガス、例えばアルゴンを、スパッタリングデバイスの反応チャンバーにて、酸素(金属酸化物のために)、または窒素(金属窒化物のために)、または酸素および窒素(金属酸窒化物のために)と混合する。金属炭化物のバリア層は、金属炭化物(例えば炭化ハフニウムまたは炭化タンタルまたは炭化ケイ素)で構成されたターゲットを用いることによって得ることができる。
【0053】
[062]基材層上にバリア層を堆積させた後、ナノ構造化金属化合物層を形成する。こうしたナノ構造化金属化合物層を製造するために使用できる異なる方法は、当該技術分野において既知であり、例えばYiamsawas,D.,Boonpavanitchakul,K.,et al.(2009、Journal of Microscopy Society of Thailand,23巻,1号,75頁)、Shah,M.A.(2008,African Physics Review,2巻:0011,106頁)またはHossain、M.K.,Ghosh、S.C.,et al.(2005,J.of Metastable and Nanocrystalline Materials,23巻,27頁)に記載されている。
【0054】
[063]ナノ構造化金属化合物層の形成は、2つの異なるプロセスステップを含んでもよい。第1のステップにおいて、金属化合物のシード層は、バリア層上に堆積されている。この初期層における金属化合物シードは、約5nm〜200nmのサイズを有する。シード層の厚さは、一般に約2〜50nmである。初期シード層の堆積を、従来のコーティング方法、例えばスピンコーティング、スロット・ダイ・コーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷または他のインプリント方法を用いて行う。ロール−ツー−ロール方法、例えばティップコーティングも使用できる。
【0055】
[064]例えば、エレクトロスピニングにおいて、固体繊維は、帯電ジェット(高度に粘稠なポリマー溶液で構成される)として生じ、表面電荷と溶媒の蒸発との間の静電反発力により連続的に延伸される。この繊維がコレクター表面に向かって移動するとき、ポリマーが溶解した溶媒の蒸発が生じ、繊維は通常、コレクター表面に到達するときは乾燥している。この場合は、コレクターはバリア層である。
【0056】
[065]シード層の製造のための実施形態の1つでは、金属化合物ナノ粒子の懸濁液を、塩基、例えばKOH、および金属前駆体、例えばZnO−アセテートをメタノールまたはエタノール中に含有する溶液を、高温、例えば60℃で、十分な時間、例えば2時間撹拌することによって調製した。これらのナノ粒子シードのサイズは、通常直径10〜20nmである。次いで、バリア層コーティングされた基材は、これらの金属化合物ナノ粒子シードを用いて、2000〜約5000rpmにて数秒間、例えば30秒間で数回スピンコーティングされる。この後、高温、例えば150℃にて数分間、または窒素雰囲気にて熱アニールされ、金属化合物シード層が形成される。
【0057】
[066]バリア層上に金属化合物のシード層を堆積させた後、シード成長、ひいてはナノ構造化層の成長は、溶媒熱経路によって開始される。
【0058】
[067]バリア層の表面に金属化合物のシード層(予備調製された構造)を、例えばエレクトロスピニングにより与えた後、金属化合物シードの成長は、異なる方法を用いて開始できる。1つの方法において、金属化合物前駆体、例えば酢酸亜鉛は、おおよそ室温で水中に溶解される。この後、溶液を、例えば水酸化アンモニウムの添加により塩基性にする。得られた懸濁液をオートクレーブに移す。予備調製された構造をオートクレーブ中に置かれた溶液に含浸させ、熱水処理に供する。温度は、約70〜150℃または約80〜90℃の範囲であるように選択できる。オートクレーブ中の熱水処理は、ナノ構造の成長を可能にする時間行われ、ナノ構造化金属化合物層を形成する。熱水処理の時間は、約5分間〜約2時間または約5分間〜約60分間、または約60分間であることができる。この後、オートクレーブは、室温まで冷却させる。
【0059】
[068]別の方法において、バリア層上に堆積したシード層を含むバリアコーティングされた基材(予備調製された構造)は、金属前駆体および塩基の脱イオン水溶液に供される。こうするために、予備調製された構造は、ホルダーに固定されて、予備調製された構造の基材が金属前駆体および塩基を含む溶液とは離れるように向けるようにする。この後、得られるべきナノ構造化の長さによって、溶液を約60℃〜約85℃の温度に、約30分から3時間供する。
【0060】
[069]金属化合物粒子の成長のために使用できる別の熱水方法は、水を使用せず、Yiamsawas,D.,Boonpavanitchakul,K.,et al.(2009,上記)に記載される方法に従って行われる。この文献では、ZnOの合成が、80℃で溶媒熱プロセスによって行われた。ポリ(ビニルピロリドン)PVP30Kは、室温で撹拌しながら無水エタノール中に溶解させ、次いで酢酸亜鉛二水和物を徐々に溶液に添加した。結果として、固体NaOHを反応混合物中に入れた。得られた溶液を数分間撹拌した。次いで溶液をポリプロピレン容器に移し、次いで密封し、80℃に温度制御されたオートクレーブ中で24時間加熱した。室温まで冷却した後、白色粉末を沈殿させ、次いで無水エタノールで数回洗浄し、他の不純物を溶解した。最後に、粉末を減圧下、60℃で一晩乾燥させ、これらの構造、モルホロジーおよび光学特性の観点で決定した。エチレングリコールおよび無水エタノールの混合溶媒もポリマーテンプレートなしで調査した。
【0061】
[070]平坦化層は、従来のポリマーコーティング技術によって形成されてもよい。使用できる方法としては、例えば上述のようなスピンコーティング、CVDまたはプラズマ重合方法またはウェブ・フライト・コーティングが挙げられる。
【0062】
[071]「からなる(consisting of)」とは、「からなる」という語句に続くものは如何なるものであってもこれらを含み、およびこれらに限定されることを意味する。故に「からなる」という語句は、列挙された要素が必須または強制的であること、およびこうした要素以外は存在し得ないことを示す。
【0063】
[072]「含む(comprising)」とは、「含む」という語に続くものは如何なるものであってもこれらを含むが、これらに限定されないことを意味する。故に、「含む」という用語の使用により、列挙された要素が必須または強制的であるが他の要素は任意であり、存在してもしなくてもよいことを示す。
【0064】
[073]本明細書に例示される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない、1つのまたは複数の要素、1つのまたは複数の限定の不存在下で好適に実施され得る。故に、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」などの用語は、広い意味で読まれ、限定を含まない。加えて、本明細書に使用される用語および表現は、説明用語として使用され、限定用語としては使用されておらず、こうした用語および表現の使用には示され、記載された特徴の等価物またはこれらの一部を排除することは意図されておらず、特許請求された本発明の範囲内では、種々の変更が可能であることを認識する。故に、本発明は好ましい実施形態および任意の特徴によって具体的に開示されたが、開示された本明細書に組み込まれた本発明の変更および変形は当業者によって再分類されてもよく、こうした変更および変形は、本発明の範囲内であると考えられると理解されるべきである。
【0065】
[074]本発明は、本明細書において広く一般的に記載されている。一般的な開示の範囲内にあるより狭い種および亜属のグループ分けのそれぞれが本発明の一部を形成する。これは、削除される材料が本明細書に具体的に列挙されているかどうかに拘わらず、属から主題を除くという但し書きまたは負の限定を伴う場合の本発明の一般的な記載を含む。
【0066】
[075]他の実施形態は次の特許請求の範囲および非限定的な実施例内である。加えて、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群で記載される場合に、当業者は、本発明がそれによって、マーカッシュ群の要素のうちいずれかの個々の要素またはサブグループによって記載されることを認識する。
[実験]
【0067】
[076]<基材の表面調製>
【0068】
[077]段階的バリアフィルムのための支持体構造として使用される基材を、イソプロピルアルコール(IPA)ですすぎ、窒素で吹込み乾燥する。これらのプロセスは、基材表面のマクロスケールで吸着された粒子を除去するのに役立つ。アセトンおよびメタノール洗浄またはすすぎは、行われてもよいが推奨はされない。
【0069】
[078]続いて、吸収された湿分または酸素を脱気するために、基材を10−1mbarの圧力にて真空オーブン中に置く。真空オーブンは、真空ポンプから真空オーブンに炭化水素油が戻るのを防止するために、前線トラップを備える。
【0070】
[079]脱気直後、基材はプラズマ処理チャンバー(例えば、ULVAC SOLCIET,Cluster Tool)に移す。無線周波数(RF)アルゴンプラズマを使用して、低エネルギーイオンをバリアフィルムの表面に衝突させ、表面汚染物質を除去する。チャンバー中のベース圧力は、4×10−6mbar未満に維持した。アルゴン流量は、70sccm(116.210−3Pa/s)。RF出力は、200Wに設定し、表面条件に依存して通常5〜8分の最適処置時間を使用した。
【0071】
[080]<バリア層での基材コーティング>
【0072】
[081]スパッタリング技術を、金属酸化物バリア層を堆積させるために使用した。アンバランスド・マグネトロン・スパッター・システムを使用して、高密度酸化物バリアフィルムを成長させた。このスパッタリング技術において、通常いくつかの単層の金属層がアンバランスドマグネトロンから堆積される。続いて、酸素をシステムに導入して酸素プラズマを創製し、これを基材に向けて、アルゴンおよび酸素イオン衝突を行い、高充填密度の酸化物フィルムを得る。このプラズマはまた、成長フィルム表面に対する酸素の反応性を増大させ、より望ましい構造を与える。過剰の内部応力を導入することなく高密度フィルムを堆積させるために、低エネルギー(25eV以内)酸素およびアルゴンイオンの高流束(2mA/cmを超える)を使用して、成長中のバリア酸化物フィルムに衝突させる。
【0073】
[082]連続フィードバック・コントロール・ユニットを使用して、反応性スパッタリングプロセスを制御する。マグネトロンレーストラックの非常に強いプラズマ中にスパッタリング金属によって放出された光は、金属スパッタリング速度および酸素分圧の指標の1つである。この指標を使用して、プロセスを制御でき、ひいては正確な酸化物フィルム化学量論を達成できる。プラズマ放出モニターからの連続フィードバック・コントロール・ユニットを用いることによって、再現可能なフィルムおよび所望のバリア特性が得られる。
【0074】
[083]窒化ケイ素(SiN)、酸化アルミニウム(Al)、および酸化インジウムスズ(ITO)を含む種々のバリア層を、従来のアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング技術によって調製した。
【0075】
[084]<ナノ構造化金属化合物層の形成のためのシード層堆積>
【0076】
[085]ヘキサンジオールジアクリレートまたはイソボルニルアクリレートまたはトリプロピレングリコールジアクリレート中に分散した酸化亜鉛または酸化チタンの市販のナノ粒子分散液を使用して、スピンコーティングを用いてバリア層上にZnOまたはTiOナノドット(20〜50nm)を堆積できる。ヘキサンジオールジアクリレートまたはイソボルニルアクリレートまたはトリプロピレングリコールジアクリレート中に分散された酸化亜鉛または酸化チタンの市販のナノ粒子分散液を使用して、スピンコーティングを用いてバリア層上にZnOまたはTiOナノドット(20〜50nm)を堆積できる。ナノ粒子分散液は、総分散液の約35重量%の濃度でナノ粒子を含んでいた。
【0077】
[086]堆積後、残存溶媒を80℃での熱アニーリングを数分間行う際に除去できる。異なるスピン速度の影響を3000、4000および5000rpmのスピン速度を用いることによって評価している。図8からわかるように、異なるスピン速度は、得られたZnO結晶の構造に影響しない。
【0078】
[087]シード層を適用する代替方法(方法2)において、ZnOナノ粒子の懸濁液を、水酸化カリウムおよび酢酸亜鉛(5〜10mg)を含有するメタノール(10ml〜20ml)、またはエタノール中の溶液を60℃で2時間撹拌することによって調製した。これらのナノ粒子のサイズは、通常直径10〜20nmである。次いで、基材は、これらのZnOナノ粒子を用いて2000〜5000rpmにて30秒間3〜5回スピンコーティングされる。これに続いて、150℃で数分間の熱アニールまたは周囲窒素により、ZnOシード層を形成する。
【0079】
[088]<ナノ構造化金属化合物層を形成するための金属化合物シードの成長>
【0080】
[089]溶媒熱経路を使用して、亜鉛ナノドットを含むシード層を酢酸亜鉛および水酸化アンモニウムを含む溶液に曝すことによって酸化亜鉛ナノドットを成長させる。酢酸亜鉛は、室温にて脱イオン水に溶解させた。この後、水酸化アンモニウムを添加して、約10のpHを得た。得られた懸濁液をTeflon裏打ちされたステンレススチール製オートクレーブに移した。次いで、「ナノ構造化金属化合物層の形成のためのシード層堆積」にて上記で記載された予備調製された構造を、オートクレーブ中の懸濁液中に含浸させ、熱水処理に供した。熱水処理は、約80〜90℃の温度にて約60分間行った。この後、オートクレーブを室温まで冷却させた。熱水処理中、酸化亜鉛ナノドットを、60℃〜120℃の温度にてナノロッドモルホロジーに5分〜60分間熟成させる。別の実施形態において、60℃の温度が使用され、酢酸亜鉛および水酸化アンモニウムの溶液を用いるシード層のためのインキュベーション時間は5分である。核としてのナノドットの使用は、より高いアスペクト比のナノロッドの制御された成長を可能にする手法の1つである。いくつかの溶媒熱経路および加水分解プロセスは、バリア層に亜鉛ナノロッドを成長させるために使用できるものが存在する。ナノドット(シード層)およびナノ構造(成長後)の原子間力顕微鏡(AFM)写真を図7Bおよび7Cにそれぞれ示す。
【0081】
[090]シード層は上記で記載された方法2に従って堆積される場合、シードの成長は次のように行われる。
【0082】
[091]ZnOナノロッドの成長は、室温で調製された酢酸亜鉛二水和物(0.27M〜0.0079M)および水酸化アンモニウム(0.00069M)からなる脱イオン水中の溶液中で行われる。基材は、瓶の底から離れて下方に向いたサンプルホルダーを用いて溶液中に懸濁させる。この瓶を密封し、60〜85℃の成長温度範囲の水浴中にロッド要件の長さに依存して30分から3時間置く。成長後、基材を瓶から取り出した。
【0083】
[092]<平坦化層の堆積>
【0084】
[093]機能化(有機シラン)ナノ粒子をまず、分散液のための2−メトキシエタノール(2MOE)およびPGME(1−メトキシ−2−プロパナール)の溶液混合物に添加した。2MOE対PGMEの比は1:1であり、両方の構成成分がアクリル系ポリマーに均一に分散される。1つの実施形態では、ポリマー中のナノ構造化材料の総濃度は、異なる金属対金属酸化物ナノ粒子比、例えば約10(金属酸化物):1(金属)にて、総ポリマーの34重量%に維持した。アクリル系ポリマー溶液に分散したナノ粒子を未処理のナノ構造化金属化合物層上にスピンコーティングした。1つの実施形態では、平坦化層の薄フィルムの合成および製作は、窒素分圧(700mbar)を有するグローブボックス中で行った。酸素および水蒸気含有量は、グローブボックス中で1ppmレベル未満に制御された。グローブボックス下のスピンコーティング、CVDまたはプラズマ重合方法、ウェブ・フライト・コーティング方法または他の好適な堆積方法を使用して、これらの層を堆積できる。
【0085】
[094]<多層バリアフィルム上でのカルシウム分解試験>
【0086】
[095]多層バリアフィルムを、減圧下での真空蒸発チャンバー(熱蒸発)に移す。次いで多層バリアフィルムを、国際公開第2005/095924号パンフレットに記載のカルシウムセンサを用いてこれらのバリア特性について評価する。国際公開第2005/095924号パンフレットに言及されるカルシウムセンサにより、定性的評価および定量的評価が可能である。定性的評価を可能にするカルシウムセンサの例を図4に例示する。
【0087】
[096]定性的評価において、図4に示されるような試験セルは、製作された多層バリアフィルムを用いて形成される。簡単には、2cm×2cmの寸法を有する2つの金属トラックを製作する。1cm長さ、2cm幅および150nm厚さの寸法を有するセンシング素子を、2つの電極間に形成する。センシング素子の測定された抵抗は、0.37Ω−cmである。堆積プロセス後、ロード・ロック・システムを使用して、サンプルを周囲圧力で乾燥窒素下でのグローブボックスに移す。カルシウム堆積303後、100nm銀保護層301を図4に示される試験セルに定性的分析のために堆積させた。
【0088】
[097]図4に示された試験セルは、試験されるべき多層バリアフィルム305でコーティングされた基材306を含む。既に記載されたように、カルシウムセンサ303は、銀層301でコーティングされ、側面にUV硬化性エポキシ樹脂302を有する孤立したチャンバー中に配列され、ガラススライド307を用いて上部を密閉する。ゲッター材料308は、カバーガラススライドに取り付けられ、エポキシシーリングを通したガス処理または浸透の結果として生じた水蒸気を吸着する。
【0089】
[098]浸透試験を加速させるために、サンプルをそれぞれ60℃および90%相対湿度(RH)の一定温度および湿度にて湿度チャンバーに配置した。サンプルはサンプル定性的分解試験および欠陥分析のために一定の間隔で光学観察した。
【0090】
[099]図4に例示されるカルシウム試験セル構造を用いるカルシウム分解試験(CDT)により、浸透した水蒸気が基材および1つ(複数)のバリア層の欠陥を通して拡散し、カルシウムセンサと反応するので、欠陥、例えばピンホール、クラックおよびナノポアに関する視覚的な定性的情報を与える。透明コーティング中のミクロポアおよびサブミクロンサイズのポア、例えばピンホールおよびクラックは、最新式の表面顕微鏡技術(例えばSEM)によってさえも識別するまたは研究するのが非常に困難である。本実験において、酸化されたカルシウムと酸化されていないカルシウムとの対比を、定性的分析のために使用した。分解は、光学顕微鏡を用いてモニターした。画像は、通常数時間の間隔で撮影した。画像から、カルシウム腐食したスポットは、バリアフィルムの欠陥に直接関連し得る。さらに、カルシウム腐食の成長動力学は、バリア特性の定性的情報を与える。図5の画像では、試験されたAおよびBフィルムおよび前に記載したようなバリア構造について示された欠陥の性質を強調している。
【0091】
[0100]図5の定性的カルシウム分解試験(CDT)画像は、フィルムBが従来のバリアスタックAに比べて大きなバリア特性を示したことを示す。フィルムBについて最初のカルシウムセンサ分解は55時間で示されており、酸化成長は非常に遅い。カルシウムセンサの290時間の画像は、分解があまり成長しないことを示す。全体のカルシウム分解は570時間前であった。しかし、従来のバリア構造フィルムA上に製作されたセンサは、5.5時間にて最初の分解を示し、22時間で全体のカルシウムが分解した。
【0092】
[0101]バリアスタックBの組成:
基材層:ポリカーボネート(188μm厚さ)
バリア層:Al(50nm厚さ)
ナノ構造化金属化合物層:ZnO(約250nm〜500nm厚さ)
平坦化層:アクリル系ポリマーに分散したAl(2μm厚さ)(34重量%Al粒子)の20〜40nmの直径を有する球状ナノ粒子。
バリアスタックAの組成:
基材層:ポリカーボネート(188μm厚さ)
第1のバリア層:ITO(50nm厚さ)
未処理アクリル系ポリマーのポリマー層(2μm厚さ)
第2のバリア層:ITO(50nm厚さ)
図1
図2
図3
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図7
図8
図9