特許第5717072号(P5717072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5717072マルチクラッチトランスミッションを駆動する方法と、該マルチクラッチトランスミッション制御システムと、前記駆動する方法を実行するためのコンピュータプログラム製品及び前記方法を実行するコンピュータ可読プログラムコードを含む記憶媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717072
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】マルチクラッチトランスミッションを駆動する方法と、該マルチクラッチトランスミッション制御システムと、前記駆動する方法を実行するためのコンピュータプログラム製品及び前記方法を実行するコンピュータ可読プログラムコードを含む記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/16 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   F16H61/16
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-545095(P2012-545095)
(86)(22)【出願日】2009年12月21日
(65)【公表番号】特表2013-515215(P2013-515215A)
(43)【公表日】2013年5月2日
(86)【国際出願番号】EP2009009168
(87)【国際公開番号】WO2011076225
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2012年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】500277711
【氏名又は名称】ボルボ ラストバグナー アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄
(74)【代理人】
【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(72)【発明者】
【氏名】ラザズネジャド,ベルーズ
(72)【発明者】
【氏名】エリクッソン,アンダース
(72)【発明者】
【氏名】ビイェルネトゥン,ヨハン
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−209659(JP,A)
【文献】 特開2007−170559(JP,A)
【文献】 特開平10−089455(JP,A)
【文献】 特開平07−224923(JP,A)
【文献】 特開昭63−203950(JP,A)
【文献】 特開平02−296062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた駆動用原動機に駆動接続可能なマルチクラッチトランスミッションを駆動する方法であって、
−少なくとも前記原動機及び前記トランスミッションを管理する制御ユニット(45)は、
−前記トランスミッションについての連続した出力シフトを含む少なくとも一つのシミュレーションシフトシーケンスの予測モデルを提供するステップと、
−前記少なくとも一つの予測モデルを利用して、前記トランスミッションの1回目の出力アップシフトと2回目の出力アップシフトの間、又は1回目の出力ダウンシフトと2回目の出力ダウンシフトの間の時間(Δt,Δtadapted)を予測するステップと、
−前記トランスミッションの前記1回目の出力アップシフト/ダウンシフトと前記2回目の出力アップシフト/ダウンシフトの間の予測時間が所定の時間制限よりも短い場合に、前記トランスミッションを駆動する少なくとも一つのパラメータを変更するステップであって、前記トランスミッションを駆動する前記パラメータは、前記1回目の出力アップシフト/ダウンシフトの第1シフト速度限界、及び前記2回目の出力アップシフト/ダウンシフトの第2シフト速度限界であるステップとを含み、
前記トランスミッションを駆動する前記パラメータは、
−前記第1シフト速度限界(Sshift1 lowered)を低くするステップ、及び
−前記第2シフト速度限界(Sshift2 increased)を高くするステップ、
のうちの少なくとも一方を実行することによって変更され、
前記シフト速度限界は、前記原動機が依然として前記原動機の最大トルク範囲内に維持される最大限まで変更できるときのみ前記連続した出力アップシフト/ダウンシフトを実行し、前記予測時間が前記所定の時間よりも短い場合であっても、前記シフト速度限界が前記原動機の最大トルク範囲を超えるときは、スキップアップ/ダウンシフトが選択される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
エンジン回転数、車両速度、及びアクセル位置に関する情報、並びに道路情報を前記制御ユニットに提供するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の時間制限は1秒未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
1回目のアップシフト/ダウンシフトと2回目のアップシフト/ダウンシフトの間の時間の前記予測は、前記制御ユニットによる実時間シミュレーションによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1回目の出力アップシフト/ダウンシフト及び前記2回目の出力アップシフト/ダウンシフトは連続した出力シフトである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスミッションを駆動する前記パラメータは、少なくとも2つのシフトシーケンスである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも2つのシフトシーケンスは、
−連続した出力アップシフトと2段以上のスキップアップシフト、及び
−連続した出力ダウンシフトと2段以上のスキップダウンシフト、
のうちの一方を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
マルチクラッチトランスミッションを制御するように構成された制御ユニット(45)を含むトランスミッション制御システムであって、前記制御ユニットは、請求項1記載のステップを実行するようにプログラムされることを特徴とするトランスミッション制御システム。
【請求項9】
コンピュータ可読媒体に格納されたプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム製品であって、前記プログラム製品がコンピュータ上で実行されると請求項1記載の全てのステップを実行する、コンピュータプログラム製品。
【請求項10】
コンピュータ環境で用いられるコンピュータメモリ(520)や、不揮発性データ記憶媒体(550)等の記憶媒体であって、前記メモリが、請求項1記載の方法を実行するコンピュータ可読プログラムコードを含む記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の前文に係るマルチクラッチトランスミッションを駆動する方法及びトランスミッション制御システムに関する。
【0002】
本発明は、いずれも前記方法を実行するコンピュータで利用されるトランスミッション制御システム、コンピュータプログラム製品、及びコンピュータの記憶媒体にも関する。
【背景技術】
【0003】
車両用の自動及び半自動の機械式トランスミッションシステムは背景技術において周知である。一般に、このようなシステムは、多速度機械式変速トランスミッション、エンジンとトランスミッションの間に駆動的に介装される少なくとも一つの摩擦クラッチ、及びセンサからの入力信号を受け取って、トランスミッションを駆動するアクチュエータにコマンド出力信号を送信する中央処理装置又は制御装置を含む。
【0004】
自動/半自動トランスミッションのスキップシフト、すなわち2つ以上の割り当て段への直接シフトも、例えば、背景技術の特許文献1において知られている。
【0005】
デュアルクラッチトランスミッション(DCT:Dual Clutch Transmission)等のマルチクラッチトランスミッションにおいて、出力シフトは、ほとんどの状況において推奨され得る。
【0006】
DCTが搭載された車両の特定の車両動作状態において、車両のオペレータは、既に係合しているギヤ比から所望の係合比へのスキップシフトを命令できる。一般に、スキップアップシフトは、車両が比較的軽負荷状態で平坦な土地又は下り坂を走行している状況において、強力な車両加速が実行される場合に求められる。これは、このような状態において、出力アップシフト後のエンジン速度が、アップシフト速度を上回るか、又はアップシフト速度近くになり得、その結果、連続した複数回のアップシフトの間の時間が短くなり、且つ、ギヤシフトの回数が増えることに起因する。スキップシフトは、望ましいより低いギヤ比(高速ギヤ)に直接シフトすることによって、一連の素早い単一のアップシフトを回避するために利用される。このようなスキップシフト方式は、クラッチ寿命を延ばすことができると共に、運転の快適さを向上させ得る。
【0007】
対応する車両動作状態は、急勾配の登り坂で車両が重い等の道路条件において車両を駆動しているときに生じ得るもので、この状態においては、車両の走行抵抗が非常に高い、すなわち、DCTが複数回の連続した出力ダウンシフトを迅速に実行することになる。その結果、クラッチの摩耗が激しくなり、運転の快適さが低下することを伴う同様の問題が生じる。
【0008】
スキップシフトの作動は、例えば、車両のオペレータがスキップシフトボタンを押すことによって可能である。車両のオペレータが直面する他の作業のせいで、スキップシフトボタンが、結局のところ駆動されなかったり、又はタイミングが不適切であったりするため、スキップシフト機能を備える利点が結果的に損なわれる可能性がある。上記のシステムに関わる問題は、オペレータにスキップシフトボタンを駆動するという負担をかけることである。特許文献2は、添付の請求項1の前文に規定されるような従来技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,576,065号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102005028551号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、車両のオペレータからの同時入力に因らずにマルチクラッチトランスミッションを制御する、改善された方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、独立請求項の特徴によって達成される。他の請求項及び明細書は、本発明の有利な実施形態を開示する。
【0012】
本発明の第1の態様において、車両に設けられた駆動用原動機に駆動接続可能なマルチクラッチトランスミッションを駆動する方法が提供され、本方法は、
−少なくとも電動機及びトランスミッションを管理する制御ユニットを設けるステップと、
−トランスミッションについての少なくとも一つのシミュレーションシフトシーケンスを含む予測モデルを提供するステップとを含み、本方法は、
−少なくとも一つの予測モデルを利用して、トランスミッションの1回目の出力アップシフトと2回目の出力アップシフトの間、又は1回目の出力ダウンシフトと2回目の出力ダウンシフトの間の時間を予測するステップと、
−トランスミッションの1回目の出力アップシフト/ダウンシフトと2回目の出力アップシフト/ダウンシフトの間の予測時間が、所定の時間制限よりも短い場合に、トランスミッションを駆動する少なくとも一つのパラメータを修正するステップとを更に含むことを特徴とする。
【0013】
前記方法は、トランスミッションを駆動するパラメータが、下記のステップのうちの少なくとも一つを実行することによって変更される。
−第1シフト速度限界を低くするステップ。
−第2シフト速度限界を高くするステップ。
【0014】
本発明の更に他の実施形態によれば、方法は、エンジン回転数、車両速度、及びアクセル位置に関する情報、並びに道路情報を制御ユニットに提供するステップを更に含む。
【0015】
本発明の他の実施形態において、所定の時間制限は1秒未満である。
【0016】
本発明の更に他の実施形態において、1回目のアップシフト/ダウンシフトと2回目のアップシフト/ダウンシフトの間の時間の予測は、制御ユニットによる実時間シミュレーションによって実行される。
【0017】
本発明の他の実施形態において、1回目の出力アップシフト/ダウンシフト及び2回目の出力アップシフト/ダウンシフトは、連続した出力シフトである。
【0018】
本発明の更に他の実施形態において、トランスミッションを駆動するパラメータは、1回目の出力アップシフト/ダウンシフトの第1シフト速度限界、及び2回目の出力アップシフト/ダウンシフトの第2シフト速度限界である。
【0019】
本発明の更なる実施形態において、2段以上の従来のアップ/ダウンシフトは、シフト速度限界が最大限に変更されたとしても、予測時間が所定の時間よりも長い場合に選択される。
【0020】
本発明の他の実施形態において、トランスミッションを駆動するパラメータは、少なくとも2つのシフトシーケンスである。ここに記載した実施形態の更に他の実施形態において、少なくとも2つのシフトシーケンスは、下記のうちの一つを含む。
−連続した出力アップシフトと2段以上のアップシフト。
−連続した出力ダウンシフトと2段以上のダウンシフト。
【0021】
また、更に他の実施形態において、2段以上のアップシフト/ダウンシフトは、1回目の出力アップシフトと2回目の出力アップシフト、又は1回目の出力ダウンシフトと2回目の出力ダウンシフトの予測時間が所定の時間制限よりも短い場合に選択される。
【0022】
また、マルチクラッチトランスミッションを制御するように構成される制御ユニットを含むトランスミッション制御システムも提供され、制御システムは、制御ユニットが、最初に記載した方法の実施形態のステップを実行するようにプログラムされることを特徴とする。
【0023】
本発明の利点は、走行の快適さが向上し、クラッチの摩耗が抑制されることである。
【0024】
本発明は、上記及び他の目的、並びに上記及び他の利点と共に、実施形態についての下記の詳細な説明から最もよく理解されるであろうが、これらの実施形態に限定されるものではない。これらの実施形態は下記の図に模式的に示される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】既知の技術に係る制御ユニットへの入力部の概要を示す図である。
図2】異なるシミュレーションギヤシフトシーケンスについて、時間の関数としてエンジン速度を示す、本発明の異なる実施形態を模式的に説明するグラフ図である。
図3】異なるシミュレーションギヤシフトシーケンスについて、時間の関数としてエンジン速度を示す、本発明の異なる実施形態を模式的に説明するグラフ図である。
図4】エンジンの最大トルク範囲と共に、エンジン速度に対応するエンジントルクを模式的に示したグラフ図である。
図5】異なるシミュレーションギヤシフトシーケンスについて、時間の関数としてエンジン速度を示す、本発明の異なる実施形態を模式的に説明するグラフ図である。
図6】コンピュータ構成に適用された本発明を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面において、同一又は同様の要素は、同じ参照番号で示される。図面は、単なる模式的表現であり、本発明の特定のパラメータを描写することを意図したものではない。また、図面は、本発明の典型的な実施形態のみを描画することを意図したものなので、本発明の範囲を限定するものであると見なされるべきではない。
【0027】
図1に、シミュレーション又は予測モデル及び入力部を模式的に示す。ここで、制御ユニット45は、コンピュータシミュレーションを生成できなければならない。予測モデルは、原動機(例えば、エンジン)を有する車両において実施可能であり、この原動機は、制御ユニット45によって制御されるマルチクラッチトランスミッション(DCT等)に駆動接続される。また、車両において、DCTからの出力シャフトを、その車両の従動輪に駆動接続できる。一つの制御部300は、手動又は自動の制御パラメータ重み付けを、運転者によって選択された駆動基準に基づいて行うもので、この制御部300を用いて、シミュレーションを制御できる。運転者は、例えば、低燃費(例えば、経済的運転用)、一定車両速度(例えば、高速の平均速度での高速運転用)、特定の排出レベル(環境に配慮した運転用)、又はこれらの制御パラメータの組み合わせ(加重組み合わせ)を優先させることを選択できる。自動の制御パラメータ重み付けでは、制御ユニットに格納されているモデルが利用される。この重み付けには、スロットル開位置及び車両の質量等の各種のパラメータが考慮される。ギヤ速度が異なると、制御パラメータの重み付けも異なったものになる。
【0028】
例えば、低燃費は高速ギヤの場合に優先順位が高く、上り坂を走行する重い車両については、平均速度に高い重み付けがなされる。スイッチ300は、制御ユニット45と通信するように適合される。ペダルマップ310、すなわち、各種のスロットル開位置について回転数の関数としてエンジントルクを表したものは、制御ユニット45内に格納される。例えば、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)に格納された電子地図320は、コンピュータシミュレーションに必要な地域のトポロジー、すなわち、経路についての、例えば、海面高さを基準とした、少なくとも勾配又は標高の値の情報、及び経路における制限速度に関する各種の情報を含む。コンピュータシミュレーションには、既知の技術に従って計測器及びセンサ360から送信されたパラメータ330が利用される。このパラメータは、少なくとも車両又は列車の重量、瞬間車両速度、ギヤ比、効率、エンジン回転数、スロットル開位置(更にはスロットル開位置の変化)、瞬間位置、道路傾斜(電子地図から取得したのではないもの)、環境温度(燃料/空気混合に影響する温度)、駆動抵抗、及びエンジン原動力から成る。駆動抵抗は、瞬間エンジントルク、瞬間車両加速度、及び質量を表す信号に応じて制御ユニットによって算出される値で、道路傾斜、順風又は逆風、及び車両の転がり抵抗の指標を構成する。また、前方を走行する車両の速度についての情報も考慮できる。制御ユニット45には、定常状態トルクを含むエンジンモデルが存在し、この定常状態トルクは、所定の動作ポイントにおいてエンジンが安定供給できるトルク、すなわち動作ポイントに到達するまでのいわゆる過渡状態を除外したトルクである。必要な情報を用いて、制御ユニット45は、シミュレーション及び時間増分で方程式を解くことによって、異なるシフトスケジュールに含まれる一連の異なるギヤについて、特に、燃料消費量、平均速度、排出量(排気及び騒音排出の両方)を演算(或る一定の所定時間に亘ってシミュレーション)する。最良のシフトスケジュールは、算出された燃料消費量、平均速度、及び排出量、又はこれらの組み合わせを比較することによって選択され、この比較は、運転者によって選択された基準に基づいて、制御ユニット45に格納されたマトリクスを用いて行われる。また、図1に、GPS(登録商標)350の図示符号を示した。GPS(登録商標)350は、制御ユニットと通信するが、この通信は、センサ360を介して行われてもよい。制御ユニット45からの出力として、決定340、すなわち選択されたシフトスケジュールに応じたギヤ選択が送信される。
【0029】
GPS(登録商標)及び電子地図の代わりに、例えば、経路識別情報を利用できる。
【0030】
次に、例えば、前述したようなシミュレーション又は予測モデルに基づいて、本発明に係る実施形態を説明する。アップシフトについての図示した実施形態において、3つの異なるアップシフトシーケンスをシミュレーションできる。このアップシフトシーケンスは下記を含む。
(i)2回の連続した出力アップシフトが予測される1+1段の出力シフトシーケンス。図2図3、及び図5において、このシーケンスは、「(1,1)出力シフト」として示されている。括弧内の最初の数字は1回目のギヤシフトを表し、2番目の数字は次に行うギヤシフトを表す。
(ii)1段の出力遮断アップシフトシーケンス(図2図3、及び図5における(1,0)PCOシフト)。このシーケンスは、レンジギヤのシフト時に出力シフトを行えない場合に、レンジを超えるギヤシフト(例えば、遊星レンジギヤを備えるDCT)で主に使用される。
(iii)2段の出力遮断アップシフトシーケンス(図2図3、及び図5における(2,0)スキップシフト)。このシーケンスを利用して、快適な運転状況及び強力な車両加速での出力シフトを回避できる。
【0031】
前述した異なるギヤシフト予測を取得することで、複数の関心のあるパラメータを推測できる。本発明によれば、スキップシフト方式における最も重要なパラメータは、(1,1)出力シフトシーケンスで得られる2回の連続した出力シフトの間の推定時間(図中のΔt)である。この推定時間が所定の時間制限(通常は1秒)より短い場合は、快適な運転状況であることを表し、この場合、制御ユニット45を、連続したギヤを用いる出力シフトを回避するようにプログラムできる。代わりに、2段のアップシフト、すなわち、スキップシフトが選択されるが、この場合、スキップシフトのシーケンスが許可されたギヤシフトシーケンスであることが条件である。この条件は、シフト後のエンジン速度が所定のエンジン速度限界よりも高速になること、シフト後に良好な加速が得られること、及び次回のギヤシフトまでの時間が十分に長いことが予測される場合に満たされる。
【0032】
本発明に係るスキップシフト方式を更に詳しく説明するため、2つの異なる予測例シナリオの結果をグラフにして図2及び図3に示した。これら両方のケースには、スロットル全開及び平坦地形であることが考慮されている。本例では、12速のDCTを利用する(このDCTは、6速の基本変速装置及びレンジ変速装置を含むことで、6×2ギヤを提供する)。他の構成のマルチクラッチトランスミッションも本発明で利用できる。
【0033】
第1(図2)の例の車両条件において、係合ギヤは、ギヤ3、すなわち、かなり高いトルクが駆動系から伝達される低レンジギヤである。図から判るように、2回の連続した出力アップシフトの間の推定時間Δtは、約0.6秒で、この時間は、例えば、1秒の所定の時間制限よりも短い。また、前述した複数の条件を基準とすると、2段の従来的出力遮断シフトは、許容されたシフトシーケンスである。したがって、予測の結果として、推定されたΔtが所定の時間制限以内であることが提示されるため、制御ユニット45は、本発明の一実施形態に従って、出力シフトではなく2段のシフト((2,0)スキップシフト)を実行するようにプログラムされる。
【0034】
第2(図3)の車両条件において、係合ギヤはギヤ8、すなわち、駆動系から伝達されるトルクがあまり高くない高レンジギヤである。この場合、2回の連続した出力シフトの間の推定時間Δtは約3秒で、この時間は、前述した所定の時間制限よりも長い。2段の出力遮断ギヤシフト((2,0)スキップシフト)は許容されたギヤシフトであるが、制御ユニットは、本発明に従って、出力シフト((1,1)出力シフト)を実行するようにプログラムされる。
【0035】
本発明の更に他の実施形態において、前述した予測又はシミュレーションは、上記の3つのシフトシーケンスのうちの2つのみ、すなわち、(1,1)出力シフト及び(2,0)スキップシフトを利用して実行することもできる。このため、2回の連続した出力アップシフトの間の時間Δtを推定するステップは、前の実施形態の場合と同様である。
【0036】
本発明の更に他の実施形態によれば、対応する予測をダウンシフトに利用できる。例えば、重い負荷のかかった車両が急勾配の上り坂を走行する場合は、DCTが複数回の迅速なダウンシフトを行って、速やかに低下する車両速度にギヤ比を適合させる必要のある車両条件が生じ得る。2回の連続した出力シフト(図示しない(−1,−1)出力シフト)の間の推定時間Δtが、例えば、1秒の所定の時間制限よりも短いことが予測される場合、制御ユニット45は、2段のダウンシフト(許可される場合)を実行するようにプログラムされてよい。この場合も、走行の快適さの向上と、クラッチの摩耗の抑制とが達成される。
【0037】
本発明の更に他の実施形態において、2回の連続した出力アップシフトの間の推定時間Δtに基づいて、適合スキップシフト方式を実施できる。簡潔に述べると、本発明のこの実施形態によれば、シフト速度は、シフト間の許容可能な時間が実現されるように変化する。このことは、複数のシミュレーションを実行するようにプログラムされた制御ユニット45によって実現できる。当然ながら、出力の損失を避けるためには、シフト速度が、最大エンジントルク範囲内に存在しなければならない。図4に、ナローバンド(narrow−band)エンジンの最大エンジントルク範囲の例を示す。図4を見ると判るように、エンジン回転数及びエンジントルクは、基本的に、ダウンシフト速度及びアップシフト速度(それぞれ高レンジ及び低レンジ)の印を付けた領域内に存在しなければならない。
【0038】
適応スキップシフト方式を詳しく説明するため、図5に開示した、2回の連続した出力アップシフトの間の時間Δtが短いシフト動作の場合について検討する。まず、1回目のギヤアップシフトのシフト速度(Sshift1)を、Sshift1 loweredまで下げることができる。これは、トルクが遮断されないために、エンジンは出力シフト中に加速するという事実を考慮したものである。次に、2回目の出力シフトでのアップシフト速度(Sshift2)は、2回の連続した出力アップシフトの間の許容可能時間(Δtadapted)に達するまで継続して上昇させることができる。許容可能時間に達したときに、アップシフト速度はSshift2 increasedまで上昇している。したがって、制御ユニットは、前述した予測を実行して、2回の連続したパワーアップシフトの間の許容可能時間を実現できるシフト速度を選択するようにプログラムされる。ただし、アップシフト速度が、最大エンジントルク曲線(例えば、図4を参照)から得られる最大速度性能を超えて上昇し、シフトの間の時間が、依然として所定の時間制限(通常は1秒)よりも短いということを制御ユニットが予測した場合、制御ユニット45は、2段のギヤシフト、すなわちスキップシフトを実行するようにプログラムされる。2回の連続したパワーアップシフトの間の時間が長くなる本実施形態による利点は、主に、走行の快適さが向上することである。
【0039】
図4及び図5を用いて説明した実施形態において、前述した予測又はシミュレーションは、説明した3つのシフトシーケンスのうちの2つのみ、すなわち、(1,1)出力シフト)及び(2,0)スキップシフトのみを利用して実行することもできる。
【0040】
また、図4及び図5に記載した実施形態において、ダウンシフトに、対応する方式の予測を実行できる。したがって、この場合、最初のダウンシフト速度がより早い時点で実行され、すなわち、シフト速度が上昇し、更に、2回目のダウンシフト速度をより遅い時点で実行できる、すなわち、シフト速度が低下する。
【0041】
本発明の更に他の実施形態において、制御ユニット45を、まず、上記で説明した図5に係る方式を試みるようにプログラムできると共に、2回の連続した出力アップシフトの間の時間Δtに適合できない場合に、制御ユニット45を、図2及び図3を用いて説明した実施形態に従って予測及び制御を行うようにプログラムできる。
【0042】
図示した例の実施形態において、2段の出力遮断アップシフト((2,0)スキップシフト)のみが開示されている。更に他の実施形態において、他のスキップシフト、例えば、3段のスキップシフトや、4段のスキップシフトや、それ以上のスキップシフトもシミュレーション又は予測できる。
【0043】
図6に、本発明の一実施形態に係る装置500を示す。この装置500は、不揮発性メモリ520、処理装置510、及び読み書き用メモリ560を含む。メモリ520は、装置500を制御するコンピュータプログラムが格納される第1記憶部530を有する。装置500を制御する記憶部530内のコンピュータプログラムは、オペレーティングシステムであってよい。
【0044】
装置500は、例えば、制御ユニット45等の制御ユニット内に格納される。データ処理装置510には、例えば、マイクロコンピュータを含むことができる。
【0045】
メモリ520は、本発明に係る、目的とするギヤ選択機能を制御するプログラムが格納される第2記憶部540も有する。代替の実施形態において、マルチクラッチトランスミッションを制御するプログラムは、独立した不揮発性データ記憶媒体550、例えば、CDや、交換可能半導体メモリ等に格納される。プログラムは、実行可能な形式、又は圧縮状態で保存できる。
【0046】
下記において、データ処理装置510が特定の機能を実行すると言う場合、データ処理装置510は、メモリ540に格納されたプログラムの特定の部分、又は不揮発性記録媒体550に格納されたプログラムの特定の部分を実行することは明らかであろう。
【0047】
データ処理装置510は、データバス514を介してメモリ550と通信するように適合される。データ処理装置510は、データバス512を介してメモリ520とも通信するように適合される。また、データ処理装置510は、データバス511を介してメモリ560と通信するように適合される。データ処理装置510は、データバス515を利用して、データポート590とも通信するように適合される。
【0048】
本発明に係る方法は、データ処理装置510によって、メモリ540に格納されたプログラム、又は不揮発性記録媒体550に格納されたプログラムを実行するデータ処理装置510によって実行可能である。
【0049】
本発明は、上記で説明した実施形態に限定されると見なされるべきではなく、むしろ、多くの他の変更及び修正も下記の発明の請求項の範囲内であると考えることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6