【実施例】
【0031】
ここで、ポケットの位置に相当するポケットエリアに対応する対応ポケットエリアをAとして図示する。また、底面14の内側で、段差16の内側の凹面状底面18の位置に相当する内エリアに対応する対応内エリアをA1として図示する。
図1のサセプタ10の裏面(下端面)を示す模式図である
図2において、これらのエリアが円形に示されている。エリアAを規定する点線は、側壁15又は角部17の位置を反映する。また、エリアA1を規定する点線は、段差16を反映する。後述するように、エリアA内に刻印があることが好ましく、更に、エリアA1内に刻印があることがより好ましい。
【0032】
しかしながら、サセプタの肉厚は、更にエリアAの外側において厚く、エリアA内で特に薄くなる。刻印は削り込むので、肉厚を薄くする方向に働き、元々の肉厚の薄いところの方が機械的強度が低下する等、特性の劣化のおそれが高いと考えられていた。従って、好ましい刻印の位置は、エリアAの外側、エリアA内でエリアA1の外側、そして、エリアA1内の順であると考えられていた。特に、エリアA1内は、サセプタの肉厚が薄く、グラインダーのような機械加工の残留歪の影響の大きさもかなりのものであろうと予想されていた。
【0033】
そこで、後述するような実験を行い、上述のような考えが正しいかどうかを検討した。すると、意外なことに、一番肉厚の厚いエリアAの外側に刻印をしたものだけに割れが発生するという結果を得た(
図4参照)。そして、更に解析を行ったところ、思いもかけず、エリアA内に刻印があることが好ましく、更に、エリアA1内に刻印があることがより好ましいとの結果を得ることとなった。特に、エリアA1内はサセプタの肉厚が更に薄く、刻印中の損傷のおそれも考えれば、とてもそのようなところに刻印を施すことは考えられない。
【0034】
刻印位置に関する実験を以下のように行った。
図1に示すようなサセプタと同じ構造のサセプタを複数個準備し、
図2に示すように刻印位置を変えたサセプタをそれぞれ製作した。より具体的には、サセプタの裏側に位置P1からP5において、刻印文字の縦方向の最大長さが4mmの同じ刻印(「34」)をその深さ0.1mmでそれぞれ施した。これらの刻印は、それぞれ同じグラインダーを用いた機械加工により施された。
【0035】
これらのサセプタ10を、
図3に示す枚様式気相成長装置1の中に配置して実験を行った。気相成長装置1は、その内部にエピタキシャル膜の形成室2を有している。この形成室2は、上側ドーム3と下側ドーム4とドーム取り付け体5とを備えている。上側ドーム3及び下側ドーム4は、石英などの透明な材料から構成され、気相成長装置1の上方及び下方に複数配置された赤外ランプ6により、サセプタ10及び半導体ウェーハWが加熱される。サセプタ10は、サセプタ回転軸7に連なる支持アーム8によって、該サセプタの下面の外周部が水平に保持されて回転する。サセプタ10は、通常、炭素母材の表面にSiC膜をコーティングしたものが採用されている。このサセプタ10は、
図1及び2に示すような凹部を有する円柱形状で、半導体ウェーハWの裏面を支持する。
図2において述べたように、この凹部は半導体ウェーハWが収納される略円形の底壁と、これを取り囲む側壁15とにより形成されるポケットを構成する。また、サセプタ10の外周部には、その周方向に向かって、例えば120度毎に合計3本の貫通孔(リフトピン挿通用貫通孔)が形成されている。各リフトピン挿通用貫通孔には、半導体ウェーハWを昇降させるリフトピン9が遊挿されている。リフトピン9の昇降は、リフトアーム11により行われる。
【0036】
ドーム取り付け体5のうち、サセプタ10と対峙する高さ位置には、ガス供給口12とガス排出口13とが対向配置されている。ガス供給口12からは、形成室2内にSiHCl
3などのSiソースガス(原料ガス)を水素ガス(キャリアガス)で希釈し、それにドーパントを微量混合した反応ガスが、半導体ウェーハWの主表面に対して平行(水平方向)に供給される。この供給された反応ガスは、半導体ウェーハWの主表面を通過してエピタキシャル膜成長後、ガス排出口13より装置1の外に排出される。一方、サセプタ下面側には、通常、下側ドーム4を清浄に保つために、ガス供給口からキャリアガスが供給される。
【0037】
図3に示す気相成長装置(概略断面図)は、本発明の実施例であるサセプタを用いることができる一つの例である。実験は、上述する5つの種類のサセプタ10を気相成長装置1にセットして行われた。これらのサセプタの凹状ポケット内にシリコンウェーハWを装填した後、エピタキシャル成長処理を行ってシリコンウェーハW表面にエピタキシャル膜を形成した。エピタキシャル成長処理は各サセプタ10それぞれについて100回実施した。各実験ともエピタキシャル条件は共通である。具体的なエピタキシャル成長条件は、次の通りである。結晶方位(100)、p型、直径300mmのシリコンウェーハWをサセプタの凹状ポケット内(底面14表面上)に載置し、1200℃の温度でウェーハ表面を水素ベーク処理後、キャリアガスと共に原料ソースガス(SiHCl
3)、ドーパントガス(B
2H
6)を気相成長装置の炉内に供給して、赤外ランプ照射により1150℃の温度に加熱されたウェーハ表面にエピタキシャル成長を行い、シリコンウェーハ表面に厚さ4μmのエピタキシャル膜を形成する条件とした。
【0038】
その結果、刻印位置P1としたサセプタを除いては、いずれのサセプタにも割れは発生しなかった。刻印位置P1としたサセプタは、8回目のエピタキシャル成長処理後にサセプタに割れが確認された。このため、新たに刻印位置P1としたサセプタを使用して、同様の実験を再度行ったところ、35回目のエピタキシャル成長処理後にサセプタに割れが確認された。この割れの状態を
図5において模式的に示す。
【0039】
図5は、サセプタの周縁部分20の一部を取り出した部分破断した状態の裏面の模式図である。下側の水平線22は、サセプタ10の外周辺を示す。境界線24は、部分破断(図面の都合上)の破断線を模式的に示すものである。この刻印30には数字「4」が含まれており、この「4」の縦ストローク32は、サセプタ10の中心から半径方向に延びる放射状の線の1つと重なるように刻印されている。「4」の横ストローク34は、外周辺にほぼ平行に延びる。また、斜めストローク36は、前記縦ストローク32及び前記横ストローク34の一端をつなぐものである。前記縦ストローク32に重なって、割れ40が半径方向に延び、水平線22からなる外周辺にまで到達していることがわかる。この割れ40は、
図1の番号3番の位置の角部17にまで到達していた。詳細な理由は不明であるが、刻印の縦ストローク32と角部17において、いずれか若しくは両方で発生した亀裂が、つながったためにこのような割れ40となったと理解される。
【0040】
ここで、割れが発生した刻印位置P1のサセプタは、いずれも、割れ40は、刻印の「4」の縦ストローク32にのみ重なっており、半径方向に沿って延びる直線状の縦ストローク32は、割れを誘発し易いことがわかった。
【0041】
以上のような実験結果を解析するために、刻印がなされていないサセプタについて、熱応力解析を行った。その結果を
図6に示す。縦軸は残留応力であり、横軸はそれぞれの応力の位置である。残留応力の単位は任意であるが、プラス側に大きいということは、表面の引張応力が大きいということであり、マイナス側に大きいということは、表面の圧縮応力が大きいということである。そして、横軸の位置である1〜9は、
図1の各矢印により丸で囲まれた数値により示された位置である。一般に、割れ等の破壊は、表面の引張応力が大きいところで生じ易いとされるところ、
図1の角部17(又はマル1)の位置が一番割れやすいと推測される。一方、圧縮応力が高いところは、表面からの割れが生じ難いとされる。今回の解析においては、番号1〜5は、表側にあるので、上述した条件1を満足しない。そのため、この応力解析の結果からはこれらの位置は除外する。すると、番号9の位置(サセプタの裏側の中央位置)が最も圧縮応力が高いとされた。即ち、上述してきたような実験結果を説明する解析結果となった。つまり、研削による肉厚減少に伴う機械的性質の劣化と、残留応力による影響を考えた場合、残留応力による影響の方が大きかったということであろう(第3の条件の見直し)。
【0042】
刻印の深さについて考察すると、刻印が深すぎると割れの発生等の不具合を生じるおそれがあり、あまり浅すぎると、判読が極めて難しい。このことを模式的に
図7において解析する。刻印の判読は、主に刻印の段差部の明暗で行われる。これは、サセプタの場合、鏡面ではなく、梨地面であり、特定方向に向う反射光が得られ難いからである。即ち、サセプタの裏側の表面は反射光は分散光となって広がるため、表面に深さ違いに起因する反射光の微妙な角度の違いを認識できない。従って、段差で生ずる陰影による濃淡で刻印が判別されるからである。即ち、段差Dがある刻印の角部では、入射光が十分に段差の下側の表面に届かないことによる影が生じる。即ち、入射角15度以上で入る入射光がその表面を明るく照らし、その光を表面が乱反射(又は分散反射)して影を作るのに十分寄与するとすれば、影の幅Wは、W=D・tan(θ)となり、深さDに0.1mmを、θに15°を代入すると、次のようになる。
W=0.1×tan(15°)=0.027 (mm)
一方、Dに0.05mmを代入すると、W=0.013 (mm)となる。
【0043】
この幅Wは、人間が認識し易いとされる幅の0.01mmを超えているので、この程度であれば、認識可能で、且つ、割れ発生を防止可能であると考えられる。尚、斜めから光を入射して、判別するという手段を併用する場合は、その深さは更に浅くすることも可能と考えられる。尚、上述では、段差における角部のアール面取りの半径R1及びスミのアールの半径R2について、無視したが、実際には、R1はその半分の長さにおいて、深さDを実質的に減少させる効果がある。また、スミのアールではなく、スミにニゲをとった場合、バルクにキズ(欠陥)を入れることになるので好ましくない。但し、スミのアールが大き過ぎると、影ができ難くなるので、ある程度小さなアールで段差を作るのが好ましい。
【0044】
また、
図6から、サセプタの裏側のほぼ中央近傍の位置であるP5がより好ましいと考えられるが、このような位置に刻印することにより、サセプタを立てかけた場合、刻印位置は、常に安定した位置にある。即ち、エリアAの外側のように周縁近傍にあった場合、下側にこの刻印があると読み難いため、常にサセプタを回転させ刻印位置を上に持ってくる必要がある。しかし、その必要もないため生産性が向上するという思わぬ効果もある。また、裏返しに平坦に複数配置した場合、容易に把握できるサセプタの外周辺による外形から、その中央を注視するだけで容易に刻印の位置を見つけることができるという副次的な効果も得られる。特に、自動カメラ撮影によりかかる刻印を利用して、サセプタの特定をする場合は、焦点を合わせる位置が容易に判読できるので、自動カメラによる誤作動を防止し易いという効果もある。
【0045】
図8は、角部17を起点として割れが発生した場合、及び、刻印を起点として割れが発生した場合、サセプタ内に生じる割れの伸展状態を想像し模式的に示す断面図である。
図8(a)は、サセプタの外形を規定する円板の中心を通る線80を含む垂直平面で切断した断面図のうち外周近くのところを特に切り取って示す模式図である。各部位の名称・符号は
図1に共通するため、説明は省略する。半径方向のストロークを持つ刻印から、割れが発生し、底面においてその伸展が割れ線70により観察できるが、その内部の割れは、割れ面71のように広がると考えられる。一方、角部17からは、割れが発生し、上面においてその伸展が割れ線72により観察できるが、その内部の割れは、割れ面73のように広がると考えられる。これらの割れ面71、73は互いにつながりサセプタの割れを生じさせると考えられる。このように、割れが線80に平行に(又は沿って)伸展する場合は、それ以外の方向に伸展する場合よりも、より容易にサセプタの割れに導かれると考えられる。
【0046】
これに対して、例えばθ1の角度で傾いた方向に伸展する場合は、回転対象体であるサセプタにおいて、角部17でθ1という比較的大きな角度で傾いて割れが発生することが必ずしも容易であるとは考え難く、伸展しなければならない距離も増え、サセプタの割れにつながる可能性は低いと考えられる。このときの様子を
図8(b)に示す。この図は、中心から角部17に相当するところまでは、
図8(a)と同じ断面であるが、それを超えて外側に向かっては、上記傾いた割れに沿った断面を表している。
図8(a)と同様に、刻印を起点とする割れが発生するが、刻印に含まれる割れを誘引するストロークは、θ1に応じて傾いていると考えられる。底面においてその伸展が割れ線74により観察できるが、その内部の割れは、割れ面75のように広がると考えられる。一方、角部17からは、割れが発生し、上面においてその伸展が割れ線76により観察できるが、その内部の割れは、割れ面77のように広がると考えられる。これらの割れ面75、77は互いにつながりサセプタの割れを生じさせると考えられる。尚、ここで、半径方向とは、実質的な方向を指すもので、厳密な円板中心を含む平面内に含まれる方向を含み、それに若干の傾きを加味したものを含んでよい。例えば、厳密な方向から10度以下で傾いても半径方向と言うことができる。
【0047】
一方、θ2で傾く割れについては、同様の理由でθ1の場合よりも更に生じ難いと考えられる。何れの場合においても、これらの図から分かるように、角部17から上述のエリアA内に割れが伸展することは殆どないと考えられる。角部17から側壁15の内側に割れが伸展するための材料が存在しないからである。従って、角部17から伸展した割れが、そのまま伸展し刻印に到達する可能性は低いと考えられる。
【0048】
図9は、更に別の実施例のサセプタの平面図、断面図、底面図を示す。基本的に
図1のサセプタ10と同じ構造を備えるので、対応する符号を用い、重複する説明は省略する。このサセプタ10’においては、段差がなく、リフトピン用の孔55が省略せず明示されている。この孔55は、角部17で規定されるポケット内に、3箇所等回転角でリフトピンが自在に挿入できるように開けられている。
図1では、省略されていたが、サセプタ10のエリアA1内にも同様にこのような孔が設けられている。この孔55の上側には面取りが施されている。対応ポケットエリアであるエリアAは共通するが、段差が存在しないため、エリアA1に相当するものがない。このようなサセプタ10’においても、やはり同様に、好ましい刻印位置としてエリアA内が規定できる。更に、リフトピン用の3つの孔の内側にエリアA2内として、更に好ましい刻印位置が規定できることを示している。同様な位置は、
図1についても当てはまる。刻印60は、分かり易くするために特に大きく図解しているが、実際には通常の大きさで表されている。
【0049】
以上のように、本発明のサセプタは、厚みの薄いところに敢て刻印をすることにより、熱による残留応力をうまく利用することができるので、サセプタの割れを防ぐことができる。更に、その位置は、視覚による判別のし易い位置であるので、生産性の向上という副次的効果も期待できる。