(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施の形態1)
図1から
図13を参照して、実施の形態1における原子炉および発電設備について説明する。本実施の形態における原子炉の炉心は、主に高速中性子によりプルトニウムの核分裂を発生させる高速中性子炉である。本実施の形態における原子炉は、発電設備に配置されており、原子炉から流出する冷却材の熱を用いて発電を行なっている。
【0023】
図1は、本実施の形態における発電設備の概略図である。本実施の形態における発電設備は、原子炉1を備える。原子炉1は、原子炉容器9と原子炉容器9の内部に配置されている炉心10とを含む。炉心10には、燃料が装荷されている。本実施の形態における炉心10は、鉛直方向が炉心の軸方向に相当する。原子炉1の内部には冷却材が供給され、炉心10の内部を冷却材が流れることにより、炉心10の熱が冷却材に伝達される。
【0024】
本実施の形態における冷却材は、中性子の減速能力や中性子の吸収能力が小さな材料を用いることができる。本実施の形態においては、冷却材として液体のナトリウム51が用いられている。原子炉の冷却材としては、ナトリウム冷却材の他に、鉛−ビスマス冷却材等の鉛系冷却材や、ヘリウム等のガス冷却材等を用いることができる。また、本実施の形態においては、中間熱交換器2から蒸気発生器3に熱を伝達する熱媒体としても液体のナトリウム52が用いられている。
【0025】
発電設備は、炉心10を流れる冷却材の熱を用いて、タービン4を回転させる蒸気を生成するための中間熱交換器2および蒸気発生器3を備える。冷却材の熱は、中間熱交換器2を介して蒸気発生器3に伝達される。
【0026】
ポンプ41を駆動することにより、冷却材として機能する1次系のナトリウム51は、矢印112に示すように原子炉容器9の内部に流入する。冷却材は、炉心10の内部を流通することにより温度が上昇する。温度が上昇した冷却材は、矢印111に示すように、中間熱交換器2に送られる。冷却材は、中間熱交換器2にて熱交換を行なった後に、ポンプ41により原子炉容器9の内部に供給される。
【0027】
中間熱交換器2から蒸気発生器3に熱を伝達する2次系のナトリウム52は、ポンプ42が駆動することにより、矢印114に示すように中間熱交換器2に供給される。2次系のナトリウム52は、冷却材と熱交換を行って温度が上昇する。温度が上昇した2次系のナトリウム52は、矢印113に示すように、蒸気発生器3に供給される。
【0028】
本実施の形態における蒸気発生器3は、2次系のナトリウム52の熱により水53を加熱する。ポンプ43が駆動することにより、矢印116に示すように蒸気発生器3に水が供給される。蒸気発生器3において、2次系のナトリウム52と水とが熱交換を行なうことにより水蒸気が生成される。蒸気発生器3において熱交換を行った2次系のナトリウム52は、ポンプ42により中間熱交換器2に供給される。
【0029】
本実施の形態における発電設備は、タービン4よび発電機5を備える。蒸気発生器3にて生成された水蒸気は、流量調整弁44を通って、矢印115に示すようにタービン4に供給される。流量調整弁44の開度を調整することにより、タービンに供給する蒸気流量を調整することができる。水蒸気は、タービン4を回転させる。タービン4の回転力が発電機5に伝達されることにより、発電機5が発電する。
【0030】
タービン4から流出する水蒸気および凝縮水は、復水器6に流入する。復水器6は、熱交換器6aを含む。熱交換器6aには、矢印118に示すように海水等の冷却水が供給されている。水蒸気は、復水器6において水53に戻される。復水器6から流出する水53は、ポンプ43により、蒸気発生器3に供給される。
【0031】
図2に、本実施の形態における原子炉の炉心の概略平面図を示す。
図2は、炉心の4分の1を示している。本実施の形態における炉心10は、平面形状がほぼ正六角形状に形成されている。原子炉の炉心は、この形態に限られず、平面視したときに、ほぼ円形となる任意の形状または円形に形成することができる。
【0032】
本実施の形態における炉心10は、燃料体としての燃料集合体21を含む。本実施の形態においては、複数の燃料集合体21が規則的に配列されている。本実施の形態における複数の燃料集合体21には、同一の新燃料が装荷されている。本実施の形態においては、新燃料として劣化ウランが装荷されている。本実施の形態における炉心10の周りには、反射体が配置されていないが、この形態に限られず、炉心10の周りに反射体が配置されていても構わない。
【0033】
図3に、本実施の形態における燃料集合体の概略斜視図を示す。燃料集合体21は、複数の燃料棒22を含む。燃料棒22は、長手方向の端部がノズル27により支持されている。または、燃料棒22は、燃料集合体21の内部に配置され、ノズル27に固定されている固定部材により支持されている。また、燃料棒22は、複数の支持格子25a,25bにより支持されている。支持格子25a,25bは、燃料棒22同士を互いに離して支持している。冷却材は、燃料棒22同士の間を流れて燃料棒22を冷却する。本実施の形態では支持格子により燃料棒同士の間の距離を保っているが、この形態に限られず、支持格子の代わりにワイヤースペーサー等を用いることができる。
【0034】
図4に、本実施の形態における燃料棒の概略斜視図を示す。
図4では、燃料の燃焼が上側から下側に向かって移動する燃料棒を示している。また、被覆材の一部を破断して示している。本実施の形態における燃料棒22は、被覆材23を含む。被覆材23は、筒状に形成されている。被覆材23は、たとえばステンレス鋼で形成されている。燃料棒22は、燃料ペレット24a,24b,24cを含む。燃料ペレット24a,24b,24cは、被覆材23の内部に配置されている。燃料棒22は、栓29により封止されている。燃料ペレット24a,24b,24cは、コイルスプリング28により押圧されている。
【0035】
図4に示す燃料棒は、運転サイクルの初期の状態を示している。複数の燃料ペレット24a,24b,24cは、新燃料を含む燃料ペレット24a、燃焼途中の燃料ペレット24b、および燃焼が十分に進んだ燃料ペレット24cの順に配置されている。新燃料を含む燃料ペレット24aの部分により、炉心の新燃料部が画定される。燃焼途中の燃料ペレット24bの部分により、炉心の燃焼部が画定される。燃焼が進んだ燃料ペレット24cの部分により、炉心の燃焼が進んだ部分が画定される。
【0036】
このように、本実施の形態における燃料棒22には、燃焼度が互いに異なる燃料ペレット24a,24b,24cが配置されている。一つの運転サイクルが終了した後には、たとえば、被覆材23を剥ぎ取り、燃焼が進んだ部分の燃料ペレットとそれ以外の燃料ペレットとを分離する。次に、新たな被覆材の内部に、新燃料を含む燃料ペレットおよび回収された燃料ペレット等を配置することにより、次の運転サイクルのための燃料棒を形成することができる。
【0037】
または、燃料ペレットの回収方法としては、それぞれの部分ごとに燃料棒を切断した後に、被覆材23を剥ぎ取っても構わない。この方法によっても、燃焼部および燃焼が進んだ部分に配置されていた燃料ペレットを回収することができる。
【0038】
図2から
図4を参照して、本実施の形態における燃料集合体21の新燃料部に配置される燃料ペレットは、劣化ウランを含む。本実施の形態における燃料は、金属燃料であるが、この形態に限られず、例えば、窒化物燃料等を用いることができる。
【0039】
次に、本実施の形態における炉心の出力運転について説明する。本実施の形態においては、出力運転中に出力がほぼ一定に保たれる例について説明する。
【0040】
図5に、本実施の形態における炉心の燃焼の進行状況を説明する模式図を示す。
図5は、炉心を軸方向に沿って切断したときの概略断面図である。
図5は、複数回の運転サイクルを行なった後の第nサイクルの初期(BOC)の炉心と、第nサイクルの末期(EOC)の炉心とを示している。また、同一のサイクル長さおよび同一の燃料取替え方法で複数サイクル運転を行なった炉心を示している。径方向の位置rが零の軸が炉心軸である。
【0041】
本実施の形態における原子炉の炉心10は、運転サイクルの初期から末期にかけて燃焼部12が、新燃料部11に向けて移動する。すなわち、本実施の形態における炉心は、CANDLE燃焼を行なう。燃焼部12の移動する速度は、凡そ出力密度に比例し、燃料原子数密度に反比例する。
【0042】
本実施の形態における炉心の出力密度は、炉心の中央において高くなる。炉心の外周においては、中性子の漏れが多くなるために、径方向の外側に向かうほど出力密度が小さくなる。このため、燃焼部の軸方向の位置は、径方向の外側に向かうほど遅れた位置に配置される。
【0043】
本実施の形態における炉心10は、新燃料部11、燃焼部12および燃焼が進んだ部分13を含む。新燃料部11は、新燃料が配置されている部分である。燃焼部12は、自発的に中性子が発生し、燃料の燃焼が生じる部分である。燃焼部12では、核分裂が発生することにより実質に出力が生じている。燃焼が進んだ部分13は、燃焼が進んで、ほとんど出力を発生していない部分である。
【0044】
第nサイクルの初期の炉心において、新燃料部11は、炉心10の下部に配置されている。燃焼部12は、新燃料部11の上側に配置されている。燃焼部12には、前サイクルで既に燃焼が始まっていた燃料が配置されている。
【0045】
本実施の形態においては、運転サイクルの初期に配置された燃焼部12は、燃焼を開始する部分になる。燃焼部12から燃料の燃焼が開始され、矢印101に示すように、新燃料部11に向かう方向に燃焼が進行する。第nサイクルの燃焼が進行して運転サイクルの末期になった場合には、燃焼部12が炉心10の下端まで進行する。本実施の形態においては、新燃料部11がほとんどなくなるまで燃焼を継続している。運転サイクルの末期では、新燃料部11が残っていても構わない。
【0046】
図6に、本実施の形態における燃料の中性子フルエンスと無限中性子増倍率との関係を説明するグラフを示す。横軸が、中性子束を時間で積分した中性子フルエンスであり、縦軸が無限中性子増倍率kinfである。中性子フルエンスは、たとえば燃料の燃焼度に対応する量である。本実施の形態においては劣化ウランを燃料としている。劣化ウランは、たとえば、約99.8%のウラン238と、約0.2%のウラン235とを含む。ウラン238は、中性子を吸収することにより次の数1のように核変換する。ウラン238は、プルトニウム239に変換される。
【数1】
【0047】
中性子フルエンスが零の近傍では、ウラン238が中性子を吸収してプルトニウム239が生成されることにより、無限中性子増倍率が上昇する。所定の中性子フルエンスに達すると、プルトニウム239等の存在量のウラン238の存在量に対する比が一定に近づき、更に核分裂生成物(FP)が蓄積して、無限中性子増倍率が徐々に減少する。このように、本実施の形態における燃料は、燃焼の初期において無限中性子増倍率が増加し、その後に徐々に無限中性子増倍率が減少する特性を有する。
【0048】
また、劣化ウランの未臨界度は大きいために、炉心の一部分を臨界以上にするためには、多くの中性子をウラン238に吸収させる必要がある。本実施の形態においては、このような条件を満たすように炉心の大きさを選定するとともに燃料集合体や燃料棒を設計している。
【0049】
上記のような炉心の構成を採用することにより、CANDLE燃焼を実施することができる。すなわち、炉心の径方向の全体にわたって出力が生じ、炉心の軸方向の一部の領域において燃焼部が生成される炉心を形成することができる。
【0050】
図7に、炉心高さを無限大にして燃焼を行なっているときの無限中性子増倍率のグラフを示す。横軸が炉心高さであり、縦軸が燃料の無限中性子増倍率を示している。本実施の形態においては、矢印101に示すように、燃焼部が新燃料部に向かって移動する。燃焼部は、無限中性子増倍率が1を超える領域を含む。実際の原子炉の炉心の高さは有限であり、この場合には、炉心の端部での無限中性子増倍率は、
図7に示すグラフから僅かにずれる場合がある。
【0051】
図8に、本実施の形態における炉心の燃焼が進行する状態および燃料取り換えを説明するグラフを示す。
図8には、第nサイクルの炉心の初期および末期のグラフと、第(n+1)サイクルの炉心の初期および末期のグラフが示されている。それぞれのグラフにおいては、炉心軸における出力密度、ウラン238の数密度および核分裂生成物の数密度が示されている。
【0052】
図7および
図8を参照して、出力密度の最大点は、矢印101に示すように、新燃料部11が配置されている炉心下部に向けて移動する。本実施の形態における燃焼は、炉心の上端から下端に向かう方向に移動する。燃焼部が移動していく速度、すなわち、出力密度の最大点が移動する速度は、例えば、1年間に数cmである。このように、ゆっくりと燃焼部が移動する。ウラン238の数密度は、核変換されることにより燃焼部の下流側で小さくなる。また、核分裂生成物の数密度は、核分裂が生じることにより燃焼部の下流側で大きくなる。本実施の形態においては、燃焼部が、炉心のほぼ下端に達したときに燃焼を終了している。
【0053】
第nサイクルが終了すると燃焼が進んだ部分の一部の燃料を取り出す。第(n+1)サイクルの初期の炉心では、矢印117に示すように、第nサイクルにおいて炉心の下部に配置されている燃焼部を炉心の上部に配置して、燃焼を開始する部分として使用する。第(n+1)サイクルの炉心においては、炉心の下部に新たな新燃料部11を配置する。このような燃料交換を行なうことにより、第(n+1)サイクルの炉心においても、第nサイクルの炉心と同様の燃焼を行なうことができる。
【0054】
図9に、本実施の形態における炉心の概略部分断面図を示す。本実施の形態における炉心10は、バッフル板34の内部に配置されている。燃料集合体21は、長手方向が炉心10の軸方向とほぼ平行になるように配置されている。本実施の形態における原子炉1は、炉心内を流れる冷却材の温度が変化したときに、炉心10の出力を変更可能な反応度が印加される反応度印加機構を備える。
【0055】
炉心10の下端部には、集合体下端支持部材32が配置されている。燃料集合体21の下端は、集合体下端支持部材32に固定されている。集合体下端支持部材32は、燃料集合体21を固定すればよいために、構造材として優れた材質を採用することができる。炉心10の上端部には、集合体上端支持部材33が配置されている。集合体上端支持部材33は、燃料集合体21の上端を移動可能に支持するように形成されている。燃料集合体21の上端は、外側に向かって移動可能なように集合体上端支持部材33に支持されている。
【0056】
本実施の形態における炉心10は、複数の燃料集合体21同士を互いに支持する間隔調整部材としての間隔調整板31を備える。間隔調整板31は、複数の支持格子25a,25bのうち、支持格子25aの部分に配置されている(
図3参照)。間隔調整板31が配置されていない部分においては、互いに隣り合う燃料集合体21の支持格子25b同士の間には隙間が形成されている。
【0057】
図10に、本実施の形態における間隔調整板の概略平面図を示す。
図9および
図10を参照して、間隔調整板31は、燃料集合体21が挿入される穴部31aを有する。間隔調整板31の穴部31aは、燃料集合体21の支持格子25aに嵌合するように形成されている。本実施の形態における間隔調整板31は、炉心10に含まれる全ての燃料集合体21を支持するように形成されている。穴部31aに、燃料集合体21の支持格子25aが配置されることにより、隣り合う燃料集合体21同士を互いに拘束することができる。複数の燃料集合体21同士の間隔が定められる。
【0058】
本実施の形態における間隔調整板31は、温度が上昇すると膨張する材質により形成されている。間隔調整板31は、熱膨張率が大きな材質にて形成されている。また、本実施の形態における間隔調整板31は、集合体下端支持部材32よりも熱膨張率の大きな材質にて形成されている。熱膨張率の大きな材質としては、ステンレス鋼を例示することができ、たとえばステンレス鋼のうちSUS304またはSUS316(日本工業規格(JIS)に基づく)を採用することができる。
【0059】
図9には、炉心の概略図に加えて、炉心の軸方向の出力密度および冷却材温度が示されている。実線により運転サイクルの初期(BOC)の状態が示されており、破線により運転サイクルの末期(EOC)の状態が示されている。出力密度の分布および冷却材温度の分布は、運転サイクルの初期から末期にかけて、矢印101に示すように、炉心の下端に向かって移動する。冷却材の温度は、炉心10の下端から上端に向かうにつれて上昇している。
【0060】
本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期に燃焼部の領域に配置されている。特に、本実施の形態においては、運転サイクルを通して燃焼部の領域に配置されている。すなわち、間隔調整板31は、運転サイクルの初期においても末期においても、燃焼部の領域の内部に配置されている。間隔調整板31は、運転サイクルの期間中を通して冷却材の温度が高くなる領域に配置されている。
【0061】
更に、本実施の形態における間隔調整板31は、炉心の軸方向において、運転サイクルの初期に出力密度がほぼ最大になる位置に配置されている。または、本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期において、炉心入口から炉心出口に向かう方向の冷却材の温度上昇が緩やかになった位置に配置されている。
【0062】
図11に、本実施の形態における炉心の他の概略部分断面図を示す。炉心10においては、冷却材が間隔調整板31に接触する。このため、冷却材の温度上昇に伴って、間隔調整板31の温度も上昇する。間隔調整板31は、温度が上昇すると矢印120に示すように、径方向の外側に向かって膨張する。
【0063】
燃料集合体21は、間隔調整板31により拘束されている。また、本実施の形態の炉心10は、燃料集合体21の下端が集合体下端支持部材32に固定されている。間隔調整板31が膨張すると、矢印121に示すように、燃料集合体21の上端が径方向の外側に向かう。それぞれの燃料集合体21の上端の移動距離は、炉心軸(r=0)を中心として、径方向の外側に向かうにつれて徐々に大きくなる。
【0064】
このように、冷却材の温度が上昇すると、それぞれの燃料集合体21同士の間隔が大きくなるために中性子の漏れが多くなる。炉心10の実効中性子増倍率を1未満にすることができて、炉心10に印加される反応度を負にすることができる。すなわち、本実施の形態における炉心10では、冷却材の温度が上昇したときには負の反応度が印加される。
【0065】
また、冷却材の温度が低下したときには、それぞれの燃料集合体21同士の間隔が小さくなるために中性子の漏れが少なくなる。炉心10には正の反応度が印加される。このように、本実施の形態における炉心10は、冷却材に関する温度係数を負にすることができる。
【0066】
燃料の温度係数は、ドップラー効果等により容易に負になるが、その絶対値は小さい。本実施の形態における冷却材に関する温度係数は、絶対値の大きな負の値にすることができる。本実施の形態の冷却材に関する温度係数は、燃料の温度係数よりも非常に大きな負の値にすることができる。このために、他の構造材等の温度係数が正であっても、炉心全体の温度係数を容易に負にすることができる。
【0067】
また、本実施の形態における炉心は、炉心の形状を変化させて冷却材に関する温度係数を小さくしているために、燃料集合体の本数が多い大型の炉心においても、冷却材に関する温度係数を負にすることができる。
【0068】
図9を参照して、本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期に燃焼部に含まれる領域に配置されている。この構成により、出力や冷却材流量等が変化して冷却材の温度が変化したときに、冷却材の温度変化幅の大きな領域に間隔調整板31を配置することができて、間隔調整板31の膨張量を大きくすることができる。間隔調整板31が膨張したときの燃料集合体21同士の間隔を大きくすることができて、冷却材に関する温度係数をより負の値にすることができる。
【0069】
例えば、間隔調整板31を炉心10の下端の近傍に配置した場合には、運転サイクルの初期において間隔調整板31が燃焼部の外側に配置される。炉心10の下端の近傍では、核分裂による熱が冷却材に伝達されていないために、冷却材の温度変化幅が小さくなる。このために、間隔調整板31を十分に膨張させることができない。本実施の形態のように、間隔調整板31を燃焼部の領域に配置することにより、冷却材の温度が比較的高い領域に間隔調整板31を配置することができる。この領域では、冷却材の温度変化幅が大きくなるために、間隔調整板31を大きく膨張させることができる。冷却材に関する温度係数をより負の値にすることができる。
【0070】
また、間隔調整板31を燃焼部の領域に配置することにより、冷却材の温度変化幅が大きくなるために、間隔調整板31の体積が変化する速度が速くなる。冷却材の温度変化に応答性良く追従して、燃料集合体21同士の間隔を大きくしたり小さくしたりすることができる。すなわち、冷却材の温度変化に対する反応度の応答速度を向上させることができる。
【0071】
更に、本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期において冷却材温度が炉心出口の冷却材温度に近い値になる炉心の軸方向の位置に配置されている。冷却材温度は、主に燃焼部の出力密度が高くなる領域において、炉心入口から炉心出口に向けて大きく上昇する。
図9を参照して、炉心は、炉心入口から炉心出口に向かって冷却材の温度が上昇する高上昇率領域131と、高上昇率領域131よりも温度の上昇率が小さくなる低上昇率領域132とを有する。低上昇率領域132は、高上昇率領域131よりも下流に配置される。
図9には、運転サイクルの初期の高上昇率領域131および低上昇率領域132が示されている。
【0072】
本実施の形態における間隔調整板31は、運転サイクルの初期において冷却材の温度上昇が緩やかになる低上昇率領域132に配置されている。この構成を採用することにより、運転サイクルの初期から末期にかけて、間隔調整板31を低上昇率領域132内に配置することができる。運転サイクルの期間中に燃焼部が移動しても、間隔調整板31における冷却材温度があまり変化せず、膨張量も変化しない。このため、燃料の燃焼に伴う実効中性子増倍率の変化を抑制することができて、理想的なCANDLE燃焼を実現できる。また、燃料の燃焼に伴う冷却材に関する温度係数の変化を小さくすることができる。
【0073】
更に、間隔調整板31は、冷却材温度が炉心出口の冷却材温度に近い値になる範囲のうち、燃料集合体21同士の間隔が不変の集合体下端支持部材32に近い位置に配置することが好ましい。本実施の形態においては、炉心入口に近い位置に配置することが好ましい。たとえば、間隔調整板31は、運転サイクルの初期において低上昇率領域132の炉心入口側の端部に配置されることが好ましい。この構成により、間隔調整板31が膨張したときに燃料集合体同士の間隔を大きくすることができて、冷却材に関する温度係数をより負の値にすることができる。なお、間隔調整板31の位置は、この形態に限られず、たとえば、炉心出口に配置されていても構わない。
【0074】
本実施の形態における炉心は、燃料集合体の下端が集合体下端支持部材により固定されているが、この形態に限られず、燃料集合体体の下端は、燃料集合体の上端と同様に、径方向に移動可能に支持されていても構わない。たとえば、集合体下端支持部材は、冷却材の温度に応じて熱膨張するように形成されていても構わない。燃料集合体の下端に配置される集合体下端支持部材は、間隔調整部材と同様の材質で形成されていても構わない。
【0075】
本実施の形態において、間隔調整部材により間隔が調整される燃料体は燃料集合体を含むが、この形態に限られず、燃料体として燃料棒が採用されていても構わない。燃料棒を束にした燃料集合体が構成されておらずに、冷却材の流路が確保されるように燃料棒が直接的に間隔調整部材に支持されていても構わない。また、本実施の形態における間隔調整部材は、炉心に含まれる複数の燃料体のうち、全ての燃料体を支持するように形成されているが、この形態に限られず、一部の燃料体を支持するように形成されていても構わない。
【0076】
本実施の形態における間隔調整部材は、板状に形成されている間隔調整板を含むが、この形態に限られず、間隔調整部材は、互いに隣り合う燃料体同士の距離を温度に応じて調整するように形成されていれば構わない。たとえば、間隔調整部材は、線状に形成されたワイヤ等の部材を含んでいても構わない。または、間隔調整部材は、燃料集合体に取り付けられた熱膨張する塊状の部材であっても構わない。たとえば、間隔調整部材は、支持格子の外面に取り付けられた直方体状の部材を含み、燃料集合体が炉心に装荷されたときに、隣り合う燃料集合体の直方体状の部材同士が接触するように形成することができる。
【0077】
また、本実施の形態においては、炉心の軸方向の1箇所の位置に間隔調整板が配置されているが、この形態に限られず、複数の位置に間隔調整部材が配置されていても構わない。
【0078】
本実施の形態における原子炉1は、炉心10内を流れる冷却材の温度が変化したときに、絶対値の大きな反応度を印加することができる。本実施の形態における原子炉1は、炉心10に流入する冷却材の温度を変化させる冷却材温度調整制御を行うことにより、炉心の出力を調整する。本実施の形態の炉心10は、冷却材に関する温度係数が絶対値の大きな負の値を有している。このために、炉心10に流入する冷却材の温度を上昇させることにより、絶対値の大きな負の反応度を炉心10に印加することができて、炉心10の出力を低下させることができる。または、炉心10に流入する冷却材の温度を低下させることにより、大きな正の反応度を炉心10に印加することができて、炉心10の出力を上昇させることができる。特に、本実施の形態においては、炉心の出力を数%程度変更する微調整のみではなく、たとえば、炉心の出力を数10%変更する粗調整を行うことができる。
【0079】
本実施の形態においては、炉心10に流入する冷却材の温度を変化させるために、原子炉に接続されている装置の負荷を変化させる制御を行う。
図1を参照して、本実施の形態における発電設備では、発電電力を変更する制御を行う。
【0080】
例えば、炉心10に流入する冷却材の温度を上昇させる場合には、負荷を小さくするために発電電力を減少させる。流量調整弁44の開度を小さくすることにより、タービン4に供給する蒸気流量が少なくなり、発電電力は小さくなる。蒸気発生器3における熱交換の熱量が小さくなる。中間熱交換器2と蒸気発生器3とを循環する2次系のナトリウム52の温度が上昇する。2次系のナトリウム52の温度が上昇することにより、中間熱交換器2から流出する1次系のナトリウム51(冷却材)の温度も上昇する。炉心10に流入する冷却材の温度が上昇し、炉心10の内部を流れる冷却材の温度が上昇する。または、炉心入口よりも炉心出口の方が冷却材の温度が高くなるが、炉心内の平均的な冷却材の温度が上昇する。平均的な冷却材の温度としては、炉心軸の方向に平均した冷却材の温度を例示することができる。炉心10は、冷却材に関する温度係数が負の値であるために、冷却材の温度が上昇すると、炉心10には負の反応度が印加される。この結果、炉心10の出力を低下させることができる。
【0081】
また、炉心10に流入する冷却材の温度を低下させる場合には、負荷を大きくするために、発電電力を増大させる。流量調整弁44の開度を大きくすることにより、タービン4に供給する蒸気流量が多くなり、発電電力が大きくなる。蒸気発生器3にて熱交換を行う熱量が多くなる。このため、2次系のナトリウム52および1次系のナトリウム51(冷却材)の温度が低下する。炉心10に流入する冷却材の温度が低下して、炉心10には正の反応度が印加される。この結果、炉心10の出力を上昇させることができる。
【0082】
このように、本実施の形態においては、原子炉1に接続される装置が消費する熱量を小さくすることにより、炉心10に流入する冷却材の温度を上昇させることができて、炉心10の出力を低下させることができる。また、原子炉1に接続される装置が消費する熱量を大きくすることにより、炉心10に流入する冷却材の温度を低下させることができて、炉心10の出力を上昇させることができる。
【0083】
このように、本実施の形態における原子炉は、制御棒を用いなくても炉心の出力を変更することができる。なお、原子炉としては、この形態に限られず、制御棒による反応度調整を併用しても構わない。
【0084】
本実施の形態においては、タービンに供給する蒸気流量を調整することにより、炉心に流入する冷却材の温度を変化させているが、この形態に限られず、原子炉に供給する冷却材の温度を調整することができる任意の装置を採用することができる。例えば、
図1を参照して、1次系のナトリウム51の循環流路、2次系のナトリウム52の循環流路および水および水蒸気の循環流路のうち、少なくとも1つの流路に熱交換器等を配置して熱媒体の温度を調整しても構わない。
【0085】
図12に、本実施の形態における冷却材温度調整制御のタイムチャートを示す。
図12には、炉心の出力を低下させる制御を例示している。本実施の形態における原子炉は、通常の運転制御では、炉心の出力がほぼ一定になるように運転されている。
【0086】
図12には、実線にて炉心入口の冷却材温度をステップ状に上昇した場合を記載している。時刻t1までは、定常的な運転を行なっている。また、炉心に流入する冷却材の流量は、炉心の出力の変更期間中にも、ほぼ一定に保たれている。
【0087】
時刻t1において、発電電力を減少させる制御を行っている。炉心入口の冷却材温度はステップ状に上昇している。燃料温度および炉心出口の冷却材温度は、炉心入口の冷却材温度の上昇に伴って上昇する。燃料の温度は、冷却材の温度上昇に伴って炉心入口から炉心出口に向かって徐々に上昇するが、
図12に示す燃料温度は、炉心10内の平均的な温度を示している。燃料の平均的な温度としては、冷却材の平均的な温度と同様に、炉心軸の方向に燃料温度を平均した値を例示することができる。
【0088】
炉心入口の冷却材温度が上昇するために、炉心内の冷却材の平均的な温度も上昇する。本実施の形態における炉心では、冷却材に関する温度係数が絶対値の大きな負の値を有するために、炉心には負の反応度が印加される。このため、臨界が維持されている状態から未臨界の状態になり、炉心の出力は低下する。
【0089】
炉心の出力の低下に伴って、一時的に上昇した燃料の温度が低下し、所定の温度でほぼ一定になる。また、炉心の出力の低下に伴って、一時的に上昇した炉心出口の冷却材温度も低下し、所定の温度でほぼ一定になる。炉心に印加される反応度は、一時的に低下するが、冷却材出口の温度の低下および燃料温度の低下に伴って、ほぼ零に戻る。すなわち、炉心は、未臨界状態から臨界状態に戻る。炉心の出力が低下した状態で、再び臨界状態に移行する。このように、炉心入口の冷却材温度を上昇することにより、炉心の出力を低下させることができる。
【0090】
図12には、破線にて炉心入口の冷却材温度を徐々に上昇した場合を記載している。炉心入口の冷却材温度を徐々に上昇させるためには、例えば、発電電力を徐々に低下させることができる。炉心入口の冷却材温度を徐々に上昇した場合には、炉心の出力を徐々に低下させることができる。炉心に印加される反応度は、ほぼ一定の零の状態が継続する。すなわち、炉心がほぼ臨界の状態を維持しながら炉心の出力を変更することができる。燃料温度および炉心出口の冷却材温度も、急激に変更せずに徐々に変化する。
【0091】
この様に、炉心に流入する冷却材温度を変化させる冷却材温度調整制御としては、炉心に流入する冷却材温度をステップ状に変化させたり、徐々に変化させたりすることができる。炉心の出力を上昇させる場合には、上記の制御の例とは反対に、炉心入口の冷却材温度をステップ状に低下させたり、徐々に低下させたりすることができる。
【0092】
本実施の形態の反応度印加機構は、冷却材の温度変化により間隔調整部材が膨張したり収縮したりすることにより、冷却材に関する温度係数が絶対値の大きな負の値になるように形成されている。反応度印加機構としては、この形態に限られず、炉心の出力が変更可能な反応度が印加される任意の機構を採用することができる。たとえば、反応度印加機構は、冷却材に関する温度係数を絶対値がより大きな負の値にするために、鉛の同位体のうち
208Pbを主成分とする冷却材を採用することが好ましい。
【0093】
鉛は、高速中性子の散乱断面積が大きいことや捕獲断面積が小さいために高速炉の冷却材としては好適である。鉛は、鉛204、鉛206、鉛207、および鉛208の4つの同位体を有する。鉛208は、これらの同位体の中でも中性子の捕獲断面積が他の鉛の同位体よりも小さいために冷却材としては好適である。更に、鉛208は、他の鉛の同位体よりも冷却材に関する温度係数をより負側の値にすることができる。
【0094】
図13に、鉛の同位体の非弾性散乱断面積のグラフを示す。横軸および縦軸は、対数目盛りで示されている。それぞれの鉛の同位体の非弾性散乱断面積は、所定の閾値を有する。例えば、鉛204および鉛206は、中性子エネルギが10
6eV程度のところで閾値を有する。この閾値よりも大きければ中性子は非弾性散乱されて減速される。
【0095】
高速炉の中性子スペクトルは、10
6eVよりも少し低い中性子エネルギにおいてピークを有する。たとえば、冷却材として鉛204および鉛206を用いた場合には、多くの中性子が冷却材により非弾性散乱されて減速される。このために、冷却材温度が上昇して冷却材の密度が減少した場合には、中性子の非弾性散乱の減速の効果が非常に小さくなる。中性子スペクトルが硬化して反応度が正側に変化する。
【0096】
これに対して、冷却材として鉛208を用いた場合には、非弾性散乱断面積の中性子エネルギの閾値が大きいために、中性子を非弾性散乱させる効果が鉛204等よりも小さい。このために、冷却材の温度が上昇して冷却材の密度が減少しても、中性子スペクトルが硬化する作用を鉛204等よりも小さくすることができる。反応度が正側に移行する作用を鉛204等よりも小さくすることができる。このため、冷却材として鉛208を用いた場合には、他の鉛204等を冷却材として用いた場合に比べて、冷却材に関する温度係数をより負側の値にすることができる。
【0097】
このため、冷却材としては、鉛を同位体分離等することにより鉛208の含有率を高めた鉛208を主成分とする冷却材を採用することが好ましい。更に、冷却材に含まれる鉛のほぼ全てが鉛208であることが好ましい。この構成により、冷却材に関する温度係数を絶対値のより大きな負の値にすることができる。また、炉心の出力を容易に変更することができる。
【0098】
本実施の形態における燃料は、炉心に装荷する新燃料として劣化ウランを例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、天然ウランおよび劣化ウランのうち少なくとも一方を用いて、CANDLE燃焼を達成することができる。または、CANDLE燃焼を行なうことができる任意の高速中性子炉に、本発明を適用することができる。
【0099】
本実施の形態においては、運転サイクルの初期において前サイクルの燃焼部を新燃料部の上側に配置したが、この形態に限られず、新燃料部は、炉心の軸方向のうち、燃焼部のいずれか一方の端部に配置することができる。さらには、燃焼部の両側に新燃料部が配置されていても構わない。
【0100】
また、本実施の形態においては、運転サイクルの初期の燃焼を開始する部分は、前サイクルの運転サイクルの末期において、炉心の下部に配置されている燃料を使用しているが、この形態に限られず、運転サイクルの初期における燃焼を開始する部分は、中性子を自発的に発生するように形成されていれば構わない。たとえば、所定の濃度のプルトニウムや濃縮ウランなどを含む燃料が配置されていても構わない。更には、外部から中性子が供給されることにより、燃焼が開始されても構わない。
【0101】
また、本実施の形態における炉心は、炉心の軸方向が鉛直方向と平行になっているが、この形態に限られず、炉心の軸方向は水平方向と平行になっていても構わない。すなわち、本実施の形態における炉心を横置きにしても構わない。
【0102】
本実施の形態においては、発電設備に用いられる原子炉の炉心を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、任意の設備の原子炉に本発明を適用することができる。たとえば、船舶等の動力源として本発明の原子炉を用いることができる。
【0103】
(実施の形態2)
図14を参照して、実施の形態2における原子炉および発電設備について説明する。本実施の形態における原子炉および発電設備の構造は、実施の形態1と同様である。本実施の形態においては、炉心に流入する冷却材の流量を変化させる冷却材流量調整制御を行うことにより、炉心に印加される反応度を変化させて、炉心の出力を変更する。
【0104】
図1を参照して、炉心10に流入する冷却材の温度が一定のときに、炉心10に流入する冷却材の流量を変化させることにより、炉心出口の冷却材の温度を変化させることができる。この場合に、炉心10内の冷却材の平均的な温度が変化する。たとえば、炉心入口から炉心出口まで炉心の軸方向に冷却材の温度を平均した値が変化する。この結果、炉心10に対して正または負の反応度を印加することができる。
【0105】
たとえば、炉心10に流入する冷却材の流量を減少させることにより、炉心10内の冷却材温度を上昇させることができる。本実施の形態における原子炉の炉心は、絶対値の大きな負の冷却材に関する温度係数を有するために、炉心10内の冷却材温度を上昇させることにより、炉心10に対して負の反応度を印加することができる。この結果、炉心10の出力を低下させることができる。また、炉心10に流入する冷却材の流量を増加することにより、炉心10に対して正の反応度を印加することができて、炉心10の出力を上昇させることができる。
【0106】
本実施の形態においては、炉心10に冷却材を供給するポンプ41の出力を変更することにより、炉心10に流入する冷却材の流量を変更している。また、本実施の形態においては、炉心10に流入する冷却材の流量を変更しても、炉心10に流入する冷却材の温度がほぼ一定になるように、原子炉に接続されている負荷を調整している。すなわち、発電電力を調整している。
【0107】
図14に、本実施の形態における冷却材流量調整制御のタイムチャートを示す。
図14には、炉心の出力を低下させる制御を例示している。
図14では、実線にて炉心に流入する冷却材の流量をステップ状に変更した場合を記載している。時刻t1までは、定常的な運転を行なっている。
【0108】
時刻t1において、炉心10に流入する冷却材の流量をステップ状に減少させている。炉心出口の冷却材温度は、炉心10の内部を流れる冷却材の流量が減少するために、一時的に上昇する。炉心内の冷却材の平均的な温度も上昇する。燃料温度は、冷却材の平均的な温度の上昇に伴って、一時的に上昇する。
図14に示す燃料温度は、炉心内の平均的な温度を示している。
【0109】
本実施の形態における炉心10は、冷却材に関する温度係数が絶対値の大きな負の値であるために、炉心10には負の反応度が印加されて、炉心10の出力が低下する。炉心10の出力の低下に伴って、炉心出口の冷却材温度および燃料温度が低下して、ほぼ一定の温度になる。反応度は、炉心内の冷却材温度の低下および燃料温度の低下に伴って正側に移行し、ほぼ零に戻る。すなわち、炉心は一時的に未臨界状態になり、その後に臨界状態に戻る。炉心の出力は、時刻t1から低下して、所定の出力でほぼ一定になる。
【0110】
このように、本実施の形態における原子炉の炉心は、炉心に供給する冷却材の流量を減少させることにより、炉心の出力を低下させることができる。
【0111】
図14には、破線にて冷却材の流量を徐々に変更した場合を示している。冷却材の流量を徐々に変更した場合には、炉心の反応度は、ほぼ零の値に保たれる。炉心がほぼ臨界状態を維持しながら、炉心の出力を低下させることができる。冷却材流量を徐々に変化させると共に、炉心出口の冷却材温度および燃料温度も徐々に変化する。このように、炉心に流入する冷却材の流量を徐々に変化させても、炉心の出力を変更することができる。
【0112】
炉心の出力を上昇させる場合には、上記の制御の例とは反対に、炉心に流入する冷却材の流量をステップ状に増加させたり、徐々に増加させたりすることができる。
【0113】
本実施の形態においては、炉心に冷却材を供給するポンプの出力を変更することにより、炉心に流入する冷却材の流量を変化させているが、この形態に限られず、任意の機構により炉心に流入する冷却材の流量を変化させることができる。例えば、原子炉容器の内部に冷却材の流量を調整する装置を配置したり、燃料集合体の端部に冷却材の流量を調整する装置を配置したりしても構わない。
【0114】
その他の構成、作用および効果等については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0115】
上記の実施の形態1の冷却材温度調整制御および実施の形態2の冷却材流量調整制御は、組み合わせて行うことができる。たとえば、冷却材流量調整制御を主制御として炉心の出力の変更を行っている期間中に、補助制御として冷却材流量調整制御を行うことができる。
【0116】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。