(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
二酸化バナジウムを主成分とするメモリ層が一の面の上に形成された基板を含む第1基体であって、該基板は、該メモリ層の面の少なくとも一部を覆い該メモリ層に接している第1電極部と、該第1電極部から離間され該メモリ層の面の別の少なくとも一部を覆い該メモリ層に接している第2電極部とを有している、第1基体と、
該第1基体に対向する面の上に第3電極部を有する対向基板を含む第2基体と、
互いに対向して配置されている前記第1基体と該第2基体とに挟まれ、前記第1電極部と前記第2電極部との間において前記メモリ層に近接している電解質層と
を備えており、
前記電解質層は、前記第1電極部または前記第2電極部のいずれかまたは両方と前記第3電極部との間に印加された電圧に応じた電界を前記メモリ層に作用させて前記メモリ層の電気抵抗を変化させるものであり、
前記第1電極部と前記第2電極部とを通じ前記メモリ層の電気抵抗の状態が読み出される
メモリ素子。
二酸化バナジウムを主成分とするメモリ層が一の面の上に形成された基板を含む第1基体であって、該基板は、該メモリ層の面の少なくとも一部を覆い該メモリ層に接している第1電極部と、該第1電極部から離間され該メモリ層の面の別の少なくとも一部を覆い該メモリ層に接している第2電極部と、該メモリ層から電気的に分離されて前記基板の前記一の面の側に位置している第3電極部とを有している、第1基体と、
対向基板を含む第2基体と、
互いに対向して配置されている前記第1基体と該第2基体とに挟まれ、前記第1電極部と前記第2電極部との間において前記メモリ層に近接し、前記第3電極部に近接している電解質層と
を備えており、
前記電解質層は、前記第1電極部または前記第2電極部のいずれかまたは両方と前記第3電極部との間に印加された電圧に応じた電界を前記メモリ層に作用させて前記メモリ層の電気抵抗を変化させるものであり、
前記第1電極部と前記第2電極部とを通じ前記メモリ層の電気抵抗の状態が読み出される
メモリ素子。
前記イオン性液体の前記カチオン分子群が、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ピペリジニウム系、ピロリジニウム系、ピラゾリウム系、およびホスホニウム系のいずれか一の分子群である
請求項12に記載のメモリ素子。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0014】
<第1実施形態>
[1 メモリ素子としての動作]
[1−1 メモリ素子の構成]
図1および
図2に、本実施形態において提供されるメモリ素子の典型的な二つの構成を示す。これらのうち、
図1は、本実施形態におけるメモリ素子の典型的な一態様であるメモリ素子1000を示す模式的断面図である。メモリ素子1000は、第1基体10Aと、第2基体20Aと、第1基体10Aおよび第2基体20Aに挟まれている電解質層30とを備えている。第1基体10Aは基板12を有しており、その基板12の一の面12Sには、二酸化バナジウムを主成分とするメモリ層100Aが形成されている。
【0015】
基板12は、第1電極部110Aと第2電極部120Aとを有している。第1電極部110Aは、メモリ層100Aの面102Aの少なくとも一部を覆いメモリ層100Aに接している。また、第2電極部120Aは、第1電極部110Aから離間されており、メモリ層100Aの面102Aの別の一部を覆いメモリ層100Aに接している。これに対し、第1基体10Aと対向して配置されている第2基体20Aは対向基板22を有しており、この対向基板22には、第1基体10Aに対向する面の上に第3電極部230Aが形成されている。
【0016】
電解質層30は、第1基体10Aと第2基体20Aとに挟まれている配置において、第1電極部110Aと第2電極部120Aとの間の領域104Aにおいてメモリ層100Aに近接している。また、電解質層30には、第3電極部230Aも近接している。ここで、電解質層30は、最も典型的には、イオン性液体32が選択される。なお、「近接している」とは、全く他の層を介さずに直接接しているもののほか、実質的に直接接している状態と同様の効果を維持して、何らかの極薄い層を介在させながら近くに配置されていることを含んでいる。
【0017】
本実施形態においては、別の典型的なメモリ素子も提供される。
図2は、本実施形態における別の典型的なメモリ素子2000の構造を示す模式的断面図である。メモリ素子2000も、第1基体10Bと、第2基体20Bと、第1基体10Bおよび第2基体20Bに挟まれている電解質層30とを備えている。メモリ素子1000とメモリ素子2000の端的な相違点は、メモリ素子2000においては、第1電極部110Bと第2電極部120Bと第3電極部130Bが、一方の基板である第1基体10Bの基板12に対して形成されていることである。
【0018】
第1基体10Bの基板12は、その一の面12Sに二酸化バナジウムを主成分とするメモリ層100Bが形成されている。第1基体10Bの基板12は、第1電極部110Bと第2電極部120Bと第3電極部130Bを有している。第1電極部110Bは、メモリ層100Bの面102Bの少なくとも一部を覆いメモリ層100Bに接している。また、第2電極部120Bは、第1電極部110Bから離間されメモリ層100Bの面102Bの別の一部を覆いメモリ層100Bに接している。さらに、第3電極部130Bは、メモリ層100Bから電気的に分離されて基板12の面12Sの側に位置している。一方、第2基体20Bとなる対向基板22には動作に必須の電極は形成されていなくてよい。第1基体10Bと第2基体20Bは互いに対向して配置されている。そして、電解質層30は、第1電極部110Bと第2電極部120Bとの間の領域104Bにおいてメモリ層100Bに近接するとともに、第3電極部130Bにも近接している。
【0019】
第3電極部130Bをメモリ層100Bから電気的に分離するためには、一つには、十分な距離だけ相互に離間される。例えば、領域12R1と領域12R2との間に、分離領域12Qが形成される。さらに電気的絶縁性を高めるためには、例えば電気的絶縁壁140を設けることも有用である。この電気的絶縁壁140は、電解質層30の連通を妨げないように、例えば高さや形状が調整される。また、第3電極部130Bの配置は、メモリ層100Bから電気的に分離されて基板12の面12Sの側とされ、電解質層30に近接している限り、必ずしも面12Sに接して形成されることは要さない。また、第3電極部130Bは、例えば十分に厚い絶縁膜を介してメモリ層100Bに積層されているものとすることができる。
【0020】
メモリ素子1000の構造とメモリ素子2000の構造は、任意に選択することが可能である。メモリ素子1000の構造は、メモリ層100A、第1電極部110A、第2電極部120Aを形成する基板または基体と、第3電極部230Aを形成する基板または基体とを別のものとすることができ、例えば集積度を高める利点を有する。これに対し、メモリ素子2000の構造は、一の基体上に、メモリ層100B、第1電極部110B、第2電極部120B、第3電極部130Bを構成することができるため、第2基体20B上に第3電極を形成する加工工程がなくなり、メモリ素子を駆動する回路との接続が容易となる利点を有する。これらの別々の特質のため、メモリ素子を搭載するデバイス(集積回路など)の作製の容易性や、特に基板を複数採用する場合の位置合わせ精度など、各種の技術要因を勘案してメモリ素子1000とメモリ素子2000の構造は任意に選択することが可能である。
【0021】
[1−2 メモリ素子の動作]
メモリ素子1000およびメモリ素子2000を典型例とする本実施形態のメモリ素子の動作は、次のとおりである。メモリ素子としてメモリ素子2000(
図2)を例に、
図3および
図4を参照して説明する。
図3は、メモリ素子2000の模式的断面図に、メモリ素子として動作させる場合の例示の電気結線を示した図である。また、
図4は、メモリ素子2000の第1電極部110Bと第3電極部130Bとの間への電圧を印加した際の、第1電極部110Bと第2電極部120Bの間の電気抵抗の変化を示すグラフである。メモリ素子2000の電気特性は、
図3に示した結線により測定することが可能である。電圧の基準を第1電極部110Bとする。そして、第1電極部110Bの電位から見た第2電極部120Bへの印加電圧波形をV1(V)とし、その電圧V1が、電圧印加手段42により制御される。同様に、第1電極部110Bの電位から見た第3電極部130Bへの印加電圧波形をV2(V)とし、その電圧V2が、電圧印加手段44により制御される。
【0022】
メモリ動作の説明の前に、メモリ層100Bの示す電気抵抗の測定法について説明する。メモリ層100Bの示す電気抵抗を測定するためには、第1電極部110Bと第2電極部120Bとに接続された電圧印加手段42と電流測定手段52とを用いる。第3電極部130Bがある電圧V2となっている時点での第1電極部110Bと第2電極部120Bとの間の抵抗値を測定することを考える。このため、電圧印加手段42により第1電極部110Bと第2電極部120Bとの間に電圧V1を印加し、そのときに二酸化バナジウムのメモリ層100Bに流れる電流を電流測定手段52により測定する。
図4は、メモリ素子2000の実施例(詳細は、後述する)を測定対象として、電圧印加手段42の電圧V1と電流測定手段52による電流の実測値から算出された電気抵抗値を縦軸にプロットしている。そして、
図4の横軸は、電圧V2の値をプロットしている。
【0023】
メモリ素子2000のメモリ層100Bの電気抵抗は、
図4に示すように、電圧V2の値に対して明瞭なヒステリシスを示し、繰り返し動作によりヒステリシスループを描く。例えば1.5V以上の正の電圧V2を第3電極部130Bに印加することにより、第1電極部110Bと第2電極部120Bの間におけるメモリ層100Bの抵抗値を、
図4の紙面上右側の矢印により明示したように、高抵抗の状態から、低抵抗の状態へと変化させることができる。つまり、この例においては、電圧V2を0Vから出発し正の3.0Vまで増加させる。その間、約1.5V程度までは高抵抗となっているが、1.5Vを越すと電気抵抗の低下が見られる。そして、3.0Vまで電気抵抗は減少を続ける。次に、電圧V2を正の3.0Vから0Vを越して負の3Vまで低下させる。すると、約−2.0V程度までは低抵抗状態が維持されるが、それよりも電圧V2の電位を負にすると、今度は電気抵抗が増大し始める。そして、−3.0Vまでその電気抵抗は増加し続け、
図4の紙面上左側の矢印により明示したように、低抵抗状態から高抵抗状態に遷移してゆく。そして再び電圧V2を0V付近とすると、初期状態に近い高抵抗状態を再現することが可能となる。
【0024】
図4からは、メモリ素子2000のメモリ層100Bの高抵抗状態と低抵抗状態が、100倍を超す高い抵抗比を示すことも読み取ることができる。この場合、熱などの擾乱が存在する場合にも高い精度で電気抵抗を読み取ることが可能であり、かつ読み取りエラーが起こる可能性は低くなる。
【0025】
メモリ素子2000を1ビット分の2状態を記憶するメモリ素子とする場合の典型的な動作は、次のようなものである。まず、高抵抗状態を“0”、低抵抗状態を“1”に割り当て、“1”の書き込み動作をセット操作、“0”の書き込み動作をリセット操作とする。セット操作は、まず、第1電極部110Bからみた第3電極部130Bの電位つまり電圧V2を正にして十分に高い電圧を印加し、その後に電圧V2を0ボルト付近に戻す。これにより、その後は電圧V2を印加しなくても、低抵抗状態“1”が維持される。リセット操作は、今度は電圧V2を十分に高い負の電圧にし、その後電圧V2を0ボルト付近に戻せばよい。
図4のグラフのヒステリシスループには、このセット・リセットの操作において状態が遷移する様子を併記している。そして、読み出し動作であるリード操作は、例えばメモリ層100Bの状態に影響しない程度の電圧を第1電極部110Bと第2電極部120Bの間に印加し、それにより生じる第1電極部110Bと第2電極部120Bとの間の電流を読み取れば良い。電圧印加手段42(
図3)と同様に接続される電圧印加手段と電流測定手段52と同様に接続される電流測定手段を用いれば、読み出し動作が可能となる。なお、図示しないものの、メモリ層100Bの状態に影響しない程度の微弱な電流を第1電極部110Bと第2電極部120Bの間に流し、それにより生じる第1電極部110Bと第2電極部120Bとの間の電位差を読み取ることにより読み出し動作を行なうことも可能である。このように、
図4に示したメモリ層100Bの特性により、メモリ素子2000を不揮発性メモリとして使用することが可能となる。なお、ここでの説明には、原理的な動作を説明する目的で2状態(2値)の動作を例示した。しかし、本実施形態にて提供されるメモリ素子の動作は2状態の書き込みおよび読み出し動作のみに限定されるものではない。
【0026】
次に、メモリ素子2000においてこのような大きな抵抗変化が生じる原理について説明する。メモリ層100Bを基準にしてプラス数ボルト程度の直流電圧が第3電極部130Bに印加される。すると、イオン性液体32中の正イオンがメモリ層100Bの面102B近傍に移動し、同面102Bに非常に高い面密度の正イオンが蓄積される。その結果、その正電荷を打ち消す負電荷がメモリ層100B表面に誘起され、メモリ層100Bの材質である二酸化バナジウムの電子相が絶縁体相から金属相に相転移を起こし、メモリ層100Bは抵抗が減少した低抵抗状態に遷移する。この遷移は、斜方晶から正方晶へと結晶系が変化する構造相転移を伴ったものであるため容易に元に戻ることはない。つまり、電圧印加を解除しても、低抵抗状態は持続される。次に、メモリ層100Bを基準にしてマイナス数ボルト程度の直流電圧が第3電極部130Bに印加されるとその時はじめて、メモリ層100Bは再び高抵抗状態に遷移する。そして、その転移に伴ってメモリ層100Bの結晶系は元の結晶系つまり斜方晶に転移する。この際に作用するのは、イオン性液体32とメモリ層100Bとの界面に誘起される非常に高い面密度の負のイオンである。この高抵抗状態への遷移においても、結晶系が変化する構造相転移を伴ったものであるため容易に元に戻らず、高抵抗状態は電圧印加を解除しても維持される。
【0027】
[2 メモリ素子の作製方法]
次に、メモリ素子2000を例に、本実施形態のメモリ素子の作製方法について説明する。基板12としては、例えば二酸化チタンなどの基板を採用することができる。また、対向基板22は、例えばガラスなどを採用することができる。
【0028】
メモリ層100Bは二酸化バナジウム(VO
2)を主成分とする膜である。第3電極部130Bとしては、例えば任意の金属膜を採用する。メモリ層100Bや第3電極部130Bは、基板12の面12Sの上に任意の形成方法により形成する。ここで、メモリ層100Bは、基板12の領域12R1にのみ形成されている。このため、例えば適当なマスクによりメモリ層100Bが形成される領域を領域12R1のみに制限し、またフォトリソグラフィー工程によってパターニングすることにより、メモリ層100Bの領域を制限する。そして、同様に適当な手段により、第3電極部130Bもパターニングして形成する。メモリ層100Bや第3電極部130Bの形成方法は、例えば、パルスレーザー堆積法(PLD)や、分子線エピタキシー法(MBE)、化学気相成長堆積法(CVD)、スパッタ法、ゾルゲル法、熱蒸着法、電子線蒸着法などとすることもできる。メモリ層100Bや第3電極部130Bが形成された第1基体10Bと、第2基体20Bとなる対向基板22とは、互いに対向させて、図示しない絶縁性のスペーサーやシール材などにより電解質層30のための薄層空間を形成するようにして固定する。なお、メモリ層100Bと第3電極部130Bとの間の薄層空間を保つための絶縁性のスペーサーとしては樹脂球やレジストなどが好適である。
【0029】
第1基体10Bと第2基体20Bの間の薄層空間には、電解質層30を導入する。典型的な電解質層30は、イオン性液体32である。イオン性液体32として採用可能なイオン性液体は、典型的には、アニオンとカチオンのみからなる常温で融解している塩である。なお、本出願において、「イオン性液体(ionic liquid)」とは、イオン液体や常温溶融塩(room temperature molten salt)とも呼ばれる、室温においても液体として存在する塩をいう。こうして作製されたメモリ素子2000においては、電圧印加手段42、電圧印加手段44および電流測定手段52と接続し適当な電圧を印加することによって、例えば
図4に示したように電気抵抗を高抵抗および低抵抗状態の間で遷移させることが可能となる。こうして、
図2に示した構造のメモリ素子2000が作製される。
【0030】
メモリ素子2000を例に説明した上記作製方法は、適切な変更によって、メモリ素子1000の作製のためにも適用することが可能である。
【0031】
[3 メモリ素子としての利点]
メモリ素子1000やメモリ素子2000のメモリ素子はいくつかの利点を有している。一つは、上述したように、これまでにない構成のメモリ素子が実現されている点である。しかも、不揮発性記憶が実現されているため、記憶保持動作のためには特段の電力は消費しない。さらに、上述したように、高抵抗状態と低抵抗状態との抵抗比は十分に高く、書き込み動作のための電圧も高々数ボルト程度にすぎない。加えて、電流ではなく電圧で書き込みを行うため、書き込み動作に伴う消費電力は原理的にはゼロである。このため、メモリ素子1000やメモリ素子2000は、電子機器に一般に要求される特性を兼ね備えたものとなっている。
【0032】
[4 メモリ素子の高機能化]
以上に説明した本実施形態のメモリ素子1000やメモリ素子2000は、上述した各利点を保ち種々の改良または変形を行なうことが可能である。特に、メモリ層100A(100B)や電解質層30については、様々な高機能化を行なうことが可能である。以下、その構成について説明する。なお、以下に説明する高機能化は、いずれも、メモリ素子1000とメモリ素子2000の双方に対して適用される。ここでは、理解を助ける趣旨のみに基づいてメモリ素子2000(
図2)の構造に基づいて説明する。
【0034】
本実施形態のメモリ素子2000におけるメモリ層100Bは二酸化バナジウムを主成分として有している。しかし、二酸化バナジウムに金属元素または非金属を添加してその制御電圧によるメモリ特性を変えることができる。この場合、添加物元素をAと表示して、メモリ層100Bの組成をA
xV
1−xO
2−δと表現できる。ただし、xは0≦x≦0.1の一の数であり、δは0≦δ≦0.1の一の数である。
【0035】
例えば、Aがタングステン(W)である場合、そのメモリ閾値電圧、すなわち、
図4
により説明した低抵抗状態と高抵抗状態の相互の遷移を起こさせる電圧の絶対値が低電圧となるように調節することが可能である。しかも、タングステン濃度を調整することによりメモリ閾値電圧の範囲をある範囲で設定することが可能となる。このため、Aがタングステンである場合には、メモリ制御のための電圧V2の電圧を広い電圧範囲から選択しうる利点が生じる。
【0036】
なお、本実施形態において、添加物元素Aは、タングステンのみに限定されるものではない。メモリ制御を容易にするために、例えば、Zr、Nb、Mo、Hf、Taなどを添加することが有用である。これらはタングステンと同様に電圧V2の範囲を調整するために用いられる。
【0037】
メモリ層100Bである二酸化バナジウムが形成される基板12は、各種の材質を採用することが可能である。典型的には、基板12が二酸化バナジウムと同じ結晶構造のルチル構造を備える材料から選択され、また、二酸化バナジウムに近い結晶構造を備える材料からも選択される。ここで、「同じ結晶構造」とは、結晶構造が同種であることを含む。また、「近い結晶構造」とは、点群として指定される結晶構造は異なるものの格子整合すること、あるいは、格子定数が異なるもののコヒーレントな結晶成長がある程度可能であること、のいずれも含む。このルチル構造を有する物質は、二酸化チタン(TiO
2)、二酸化錫(SnO
2)、またはこれらの固溶体からなる物質とすることができる。二酸化バナジウムと同じまたは近い結晶構造を有する材料に対しては、二酸化バナジウムの形成が容易となる利点がある。
【0038】
上述した二酸化バナジウムに近い結晶構造を有している基板12を採用するメモリ素子2000においては、その基板12の材料として、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化シリコン(SiO
2)、酸化チタン(Ti
2O
3)、酸化鉄(Fe
2O
3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)、酸化インジウム錫(ITO)、酸化セリウム(Ce
2O
3)から選択される一の物質またはこれらから選択される少なくとも二の物質の固溶体からなる物質を用いてもよい。これらの物質または固溶体を用いれば、二酸化バナジウムの形成が容易となる利点がある。
【0039】
また、メモリ素子2000において第2基体20Bに含まれる対向基板22を、二酸化シリコン(SiO
2)を含む無機ガラス、または、高分子膜材料とすることも可能である。メモリ素子2000においては対向基板22には二酸化バナジウムが形成されないため、対向基板22の材質の選択範囲は広く、イオン性液体32等の電解質層30を保持する機能に適するこれらの材質は特に好適である。
【0040】
[4−2 電解質層の高機能化]
メモリ素子2000における電解質層30はイオン性液体を含むものとすることができる。すなわち、電解質層30は、イオン性液体を含む電解質と、水(H
2O)、非水系低分子溶媒群、および高分子溶媒群からなる溶媒群から選択される少なくとも1種の溶媒とからなるものとすることができる。また、電解質層30は、イオン性液体からなるものとすることができる。イオン性液体は、室温で液体形状を保持するととともに、100℃以上の高温においても、化学的に安定であるなどの実用上優れた特性を有するため、メモリ素子2000の電解質層30として好適である。また電解質層はイオン性液体を溶媒中に溶解または分散させた電解質でもよい。また、この場合、溶媒に高分子材料を用いれば、スピンコートした後に固化させることも可能であり、土手などの構造を形成する必要もなくなることは、実用上、重要なメリットをもっている。なお、本出願全般に「溶媒」は、必ずしも高い流動性を示すものには限定されない。
【0041】
さらに、電解質層30をリチウム(Li)イオン、ナトリウム(Na)イオンを含むカチオン分子群から選択される少なくとも1種のカチオン分子と、アニオン分子群から選択される少なくとも1種のアニオン分子とを含むものとすることができる。カチオン種とアニオン種との組み合わせは自由であり、多くの組み合わせの電解質が考えられる。
【0042】
特に、イオン性液体のカチオン分子群については、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ピペリジニウム系、ピロリジニウム系、ピラゾリウム系、およびホスホニウム系のいずれか一の分子群とすることが好適である。これらのカチオン分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0043】
さらに、イオン性液体のカチオン分子群をイミダゾリウム系の分子群とし、そのイミダゾリウム系の分子群を、1,3−ジメチルイミダゾリウム(C
5H
9N
2)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(C
6H
11N
2)、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム(C
7H
13N
2)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム(C
8H
15N
2)、1−ヘキル−3−メチルイミダゾリウム(C
10H
19N
2)、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム(C
12H
23N
2)、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム(C
14H
27N
2)、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム(C
16H
31N
2)、1−メチル−3−テトラデシルイミダゾリウム(C
18H
35N
2)、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム(C
20H
39N
2)、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム(C
22H
43N
2)、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム(C
5H
12N
2)、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C
7H
13N
2)、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(C
8H
15N
2)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C
9H
17N
2)、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム(C
11H
21N
2)、1−アリル−3−メチルイミダゾリウム(C
7H
11N
2)、1−アリル−3−エチルイミダゾリウム(C
8H
13N
2)、1−アリル−3−ブチルイミダゾリウム(C
10H
17N
2)、1,3−ジアリルイミダゾリウム(C
9H
13N
2)、1−ベンジル−3−メチルイミダゾリウム(C
11H
13N
2)、1−(2−ハイドロケシル)−3−メチルイミダゾリウム(C
6H
11N
2)、および1,3−ジデシル−2−メチルイミダゾリウム(C
24H
47N
2)のいずれか一の群とすることができる。これらのイミダゾリウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0044】
また、イオン性液体のカチオン分子群をピリジニウム系の分子群とし、そのピリジニウム系の分子群を、1−エチルピリジニウム(C
7H
10N)、1−プロピルピリジニウム(C
8H
12N)、1−ブチルピリジニウム(C
9H
14N)、1−ヘキシルピリジニウム(C
11H
18N)、1−エチル−3−メチルピリジニウム(C
8H
12N)、1−エチル−4−メチルピリジニウム(C
8H
12N)、1−プロピル−3−メチルピリジニウム(C
9H
14N)、1−プロピル−4−メチルピリジニウム(C
9H
14N)、1−ブチル−2−メチルピリジニウム(C
10H
16N)、1−ブチル−3−メチルピリジニウム(C
10H
16N)、1−ブチル−4−メチルピリジニウム(C
10H
16N)、N−(3−ハイドロキシプロピル)ピリジニウム(C
8H
12NO)、および1−エチル−3−ハイドロキシメチルピリジニウム(C
8H
12NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのピリジニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0045】
加えて、イオン性液体のカチオン分子群をアンモニウム系の分子群とし、そのアンモニウム系の分子群を、テトラメチルアンモニウム(C
4H
12N)、テトラエチルアンモニウム(C
8H
20N)、テトラプロピルアンモニウム(C
12H
28N)、テトラブチルアンモニウム(C
16H
36N)、テトラヘキシルアンモニウム(C
24H
52N)、トリエチルメチルアンモニウム(C
7H
18N)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウム(C
6H
16N)、ブチルトリメチルアンモニウム(C
6H
18N)、エチルジメチルプロピルアンモニウム(C
7H
18N)、トリブチルメチルアンモニウム(C
13H
30N)、メチルトリオクチルアンモニウム(C
25H
54NO)、2−ハイドロケシルアンモニウム(C
2H
5N)、コリン(C
5H
14NO)、およびN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メソケシル)アンモニウム(C
8H
20NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのアンモニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0046】
イオン性液体のカチオン分子群をピペリジニウム系の分子群とし、そのピペリジニウム系の分子群を、1−メチル−1−プロピルピペリジニウム(C
9H
20N)、1−ブチル−1−メチルピペリジニウム(C
10H
22N)、および1−メソケシル−1−メチルピペリジニウム(C
10H
22NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのピペリジニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0047】
イオン性液体のカチオン分子群をピロリジニウム系の分子群とし、そのピロリジニウム系の分子群を、1−1−ジメチルピロリジニウム(C
6H
14N)、1−エチル−1−メチルピロリジニウム(C
9H
16N)、1−メチル−1−プロピルピロリジニウム(C
8H
18N)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム(C
9H
20N)、1−ヘキシル−1−メチルピロリジニウム(C
11H
24N)、および1−メソケシル−1−メチルピロリジニウム(C
8H
18NO)のいずれか一の群とすることができる。これらのピロリジニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0048】
イオン性液体のカチオン分子群をピラゾリウム系の分子群とし、そのピラゾリウム系の分子群を、1−エチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C
8H
15N
2)、1−プロピル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C
9H
17N
2)および1−ブチル−2,3,5−トリメチルピラゾリウム(C
10H
19N
2)のいずれか一の群とすることができる。これらのピラゾリウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0049】
イオン性液体のカチオン分子群をホスホニウム系の分子群とし、そのホスホニウム系の分子群を、テトラメチルホスホニウム(C
4H
12P)、テトラエチルホスホニウム(C
8H
20P)、テトラプロピルホスホニウム(C
12H
28P)、テトラブチルホスホニウム(C
16H
36P)、テトラオクチルホスホニウム(C
32H
68P)、トリエチルペンチルホスホニウム(C
11H
26P)、トリエチルオクチルホスホニウム(C
14H
32P)、トリブチルメチルホスホニウム(C
13H
30P)、トリイソブチルメチルホスホニウム(C
13H
30P)、トリブチルエチルホスホニウム(C
14H
32P)、トリブチルテトラデキルホスホニウム(C
26H
56P)、およびトリヘキシルテトラデキルホスホニウム(C
32H
68P)のいずれか一の群とすることができる。これらのホスホニウム系の分子群から選択されるカチオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0050】
イオン性液体のアニオン分子群を、ブロマイド(Br)、クロライド(Cl)、アイオダイド(I)、テトラフルオロボレイト(BF
4)、過塩素(ClO
4)、ヘキサフルオロホスフェイト(PF
6)、フォルメイト(HCO
2)、アセテイト(CH
3CO
2)、デカノネイト(C
9H
19CO
2)、トリカノメタン((CN)
3C)、ラクテイト(C
3H
5O
3)、ジカナミド((CN)
2N)、トリフルオロアセテイト(CF
3CO
2)、トリフルオロメチルサルフォネイト(CF
3SO
3)、ペルフルオロブタンサルホネイト(C
4F
9SO
3)、ノナフルオロブタンサルホニルイミド((C
4F
9SO
2)
2N)、フルオロサルフォニルイミド((FSO
2)
2N)、トリフルオロメチルサルフォニルイミド((CF
3SO
2)
2N)、ペンタフルオロエタンスホニルイミド(CF
3CF
2SO
2)
2N)、チオカネイト(SCN)、ハイドロゲンサルフェイト(HSO
4)、ノナフルオロブタンスルフォニルイミド((C
4F
9SO
2)
2N)、メタンサルフオネイト(CH
3SO
3)、メチルサルフエイト(CH
3OSO
3)、n−ブチルサルフェイト(n−C
4H
9OSO
3)、エチルサルフェイト(C
2H
5OSO
3)、n−ヘキシルサルフェイト(n−C
6H
13OSO
3)、n−オクチルルサルフェイト(n−C
8H
17OSO
3)、2−(2−メソキセスオキシイ)、エチルサルフェイト(CH
3(OC
2H
4)
2OSO
3)、p−トルエンスルフオネイト(C
7H
7O
3S)、ドデシルベンゼンサルフォネイト(C
16H
29SO
3)、2,2,4−トリメチルペンチルホスフィネイト(C
16H
34O
2P)、ジカナマイド((CN)
2N)、ジハイドロジェンホスフェイト(H
2PO
4)、ジエチルフォスフェイト((C
2H
5O)
2PO
2)、トリフルオロホスフェイト((C
2F
5)
3PF
3)、オクサレイト(2−)−オーオーボレイト(C
4BO
8)、およびジメチルホスフエイト((CH
3)
2PO
2)のいずれか一の群とすることができる。これらのアニオン分子群から選択されるアニオンを用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0051】
溶媒群を非水系低分子溶媒群とし、その非水系低分子溶媒群を、プロピレンカーボネート((PC)C
4H
6O
3)、エチレンカーボネート(C
3H
4O
3)、ジエチルカーボネート(C
5H
10O
3)、ジメチルカーボネート(C
3H
6O
3)、γ―ブチロラクトン(C
4H
6O
2)、スルホラン(C
4H
8O
2S)、N,N−ジメチルホルムアミド(C
3H
7NO)、ジメチルスルホキシド(C
2H
6OS)、およびアセトニトリル(CH
3CN)のいずれか一の群とすることができる。これらの非水系低分子溶媒群から選択される溶媒を用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持することができる。
【0052】
溶媒群を高分子溶媒群とし、その高分子溶媒群を、ポリエチレンオキシド([CH
2−CH
2−O]
n)、ポリメチルメタクリレート([CH
2−C(CH
3)(COOCH
3)]
n)、ポリアクリロニトリル([CH
2−CH(CN)]
n)、ポリフッ化ビニリデン([CF
2−CH
2]
n)、およびポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体([(CF
2−CH
2)
x−(CF
2−CF(CF
3))
1−x]
n)のいずれか一の群とすることができる。これらの高分子溶媒群から選択される溶媒を用いると、イオン性液体を良好な電離状態に保持する溶媒としての作用を維持しつつ、メモリ素子から流動性の高い部材を除くことができる。
【0053】
そして、上述した各高機能化の手法は、メモリ素子2000(
図2)のみならず、メモリ素子1000(
図1)に対しても同様に適用することが可能であり、また、その場合にも同様の効果を示すものである。
【0054】
[5 実施例]
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することかできる。したがって、本発明の範囲は以下の具体例に限定されるものではない。また説明のため、実施形態において説明した図面を適宜参照する。
【0055】
[5−1 実施例1]
実施例1として、
図2に示す構造のメモリ素子2000を作製した。基板12として二酸化チタン基板(TiO
2、株式会社信光社製)を用い、その基板の一方の領域12R1にパルスレーザー堆積法(PLD法)とフォトリソグラフィーを組み合わせることにより、メモリ層100Bとして二酸化バナジウム(VO
2)の薄膜を形成した。この成膜の際の基板12の温度は390℃とし、酸素分圧10mTorr(約1.3Pa)の真空下で、10nm厚の二酸化バナジウム薄膜を形成した。メモリ層100Bの面102Bの上に、第1電極部110Bと第2電極部120Bとして、膜厚10nmのチタンと膜厚50nmの金の積層構造を電子線蒸着法で形成した。また、分離領域12Qの領域だけ離れた12R2に、第3電極部130Bとして、膜厚10nmのチタンと膜厚50nmの金の積層構造を電子線蒸着法により形成した。さらに、分離領域12Qの範囲に、電気的絶縁壁140をレジストにより形成した。
【0056】
電解質層30としてイオン性液体32を採用した。イオン性液体32はカチオン群から選択される1種のカチオン分子と、アニオン群から選択される1種のアニオン分子とを組み合わせたものとした。具体的には、カチオン分子として、アンモニウム系であるN,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メソケシル)アンモニウム(C
8H
20NO、DEME(略称))を、またアニオン分子として、トリフルオロメチルサルフォニルイミド((CF
3SO
2)
2N、TFSI(略称))を含み、これらを組み合わせたDEME−TFSIイオン性液体(株式会社関東化学社製)を用いた。
【0057】
次にイオン性液体32としてDEME−TFSIイオン性液体をメモリ層100Bの面102B、第1電極部110Bおよび第2電極部120Bの一部、さらに第3電極部130Bを覆うように滴下し、第2基体20Bを第1基体10Bに対向させることで、所定の厚みの薄層空間にイオン性液体32が配置されたメモリ素子2000のサンプルを得た。
【0058】
作製した実施例1のメモリ素子2000のサンプルに、
図3に示すように電圧印加手段42、電圧印加手段44、電流測定手段52を接続し、第1電極部110Bを基準として、第3電極部130Bの電圧を上昇させながら、第1電極部110Bと第2電極部120Bとの間の電流電圧特性から電気抵抗を算出した。その結果、
図4の測定結果を得た。こうして、メモリ素子2000により、高抵抗状態と低抵抗状態の間の遷移を利用して、不揮発性メモリを提供しうることを確認した。
【0059】
[5−2 実施例2]
次に、実施例2として、
図1に示した構造のメモリ素子1000を作製した。基板材料などは実施例1と同じである。実施例1と同様、基板12の面12Sに、PLD法により、メモリ層100Aを形成した。メモリ層100Aの面102Aの上に、第一電極部110Aと第二電極部120Aとして、膜厚10nmのチタンと膜厚50nmの金の積層構造を電子線蒸着法で形成した。また、対向基板22としてガラスを用い、第3電極部230Aとして、膜厚10nmのチタンと膜厚50nmの金の積層構造を電子線蒸着法で形成した。次に、実施例1と同様にDEME−TFSIイオン性液体を第1基体10Aと第2基体20Aとの間隙に配置した。具体的には、第1基体10Aのメモリ層100Aと第1電極部110Aおよび第2電極部120Aの一部を覆うようにDEME−TFSIイオン性液体を滴下し、次に、第2基体20Aを第3電極部230Aの面を第1基体10Aに対向させて配置した。この結果、所定の厚みの薄層空間にイオン性液体32が配置されたメモリ素子1000のサンプルを得た。実施例2として作製したメモリ素子1000においても、
図3と同様に電圧印加手段42、電圧印加手段44、電流測定手段52を接続した。そして、第1電極部110Aを基準に第3電極部230Aに電圧V2を電圧印加手段44により印加しながら、第1電極部110Aと第2電極部120Aとの間の電流電圧特性を測定し、抵抗値を得た。その結果、
図4に示したメモリ素子1000のものと同様に、明瞭なヒステリシス特性を伴う高抵抗および低抵抗状態が観察され、これらの互いの間も電圧V2により遷移可能であった。
【0060】
[6 変形例・用途]
以上述べてきたように、本実施形態において提供されるメモリ素子の典型例であるメモリ素子1000およびメモリ素子2000は、高い実用性を誇るメモリ素子といえる。本実施形態において提供されるメモリ素子は、様々な用途への適用可能性を秘めている。例えば、電解質は色素を組み込んだ有機材料とすることも可能であるが、これは発光素子となる。電解質を両側から電極で挟めば、電池として機能するし、コンデンサー素子としての作用も有する。電解質や二酸化バナジウム以外の適切な材料を選べばメモリ機能を有さない、通常のスイッチがオン、オフするスイッチ素子が作製される。本実施形態において提供されるメモリ素子に、これらの電解質発光素子、電解質トランジスタ素子を組み合わせれば、電子素子機能の役割を担ういわば電解質素子群を構成することが可能となる。ひいては、電解質素子からなる回路網を構築することも可能となる。そのような電解質素子を用いる回路網では、一つには、電解質の形状の柔軟性から、曲面構造をもった回路網が製作可能となる。さらにもう一つ、基体に高分子樹脂などを採用すれば、柔軟な構造をもったフレキシブル回路網も製作可能となる。前者すなわち曲面構造をもった回路網を利用すれば、例えば自動車のフロントガラスに道路情報などを表示する機能を与えることが可能となる。一方、後者すなわち柔軟な構造をもったフレキシブル回路網を利用すれば、例えば丸めて持ち運べるフレキシブルデイスプレイや、様々な色調に変化する光る布や衣装、カーテンなど、まったく新しい価値を創造することが可能となる。
【0061】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の実施形態、実施例および変形例は、発明を説明するために記載されたものであり、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。