(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717104
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】浮遊物回収用ポンプ装置および回収船の吸込流路形状
(51)【国際特許分類】
E02B 15/00 20060101AFI20150423BHJP
F04D 5/00 20060101ALI20150423BHJP
B63B 35/32 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
E02B15/00 A
F04D5/00 Z
B63B35/32 E
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-155045(P2012-155045)
(22)【出願日】2012年7月10日
(65)【公開番号】特開2014-15793(P2014-15793A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】709003735
【氏名又は名称】田篭 雅
(72)【発明者】
【氏名】田篭 雅
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−007524(JP,A)
【文献】
米国特許第06174436(US,B1)
【文献】
特開昭47−017050(JP,A)
【文献】
特開昭56−067691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 15/00
B63B 35/32
F04D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車形状が長円筒状で多翼の貫流ポンプ(クロスフロ−ポンプ)を組込んだ浮遊物回収用のポンプ装置および回収船におけるポンプ吸込み流路において、ポンプ羽根車の直前部から吸込みケーシング上流の流路断面が略一定になるところまでの所定の長さの間の水面下に、高さ方向が羽根車中心と羽根車外径上端の間の位置に、水平仕切板を流路幅に渡って、略水平に横設し、流路を上下に分離することによって、浮遊物を取り込む上側水面側流路の水深を浅くした水深一定の所定の長さの流路を形成し、よどみのない活性化した流れにして、当該流路に安定した二次元流れを供給できるようにして水面に浮かぶ浮遊物を羽根車に容易に取り込めるようにしたことを特徴とする浮遊物回収用ポンプ装置および回収船の吸込流路形状
【請求項2】
請求項1に記載の水平仕切板の後半の羽根車直前の部分を羽根車に向かって水平面に対して、+3°〜10°程度傾斜させた形状にした合成仕切板を水面下に設置し、吸込み口へ向かう水面近傍の流れを増速し、水面によどみのない微小波を発生させることによって、浮遊物の取り込みを容易にしたことを特徴とする浮遊物回収用ポンプ装置および回収船の吸込流路形状
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水面に浮かぶ流出油やアオコ・スカムおよびゴミなどの浮遊物を吸引ポンプを組込んだ浮遊物回収装置により取り込み、分離タンクで浮遊物を回収する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、海洋において、流出油事故が発生した場合、オイルフェンスを張り、油吸着材で回収するか油処理剤などで分散・分解する方法がある。流出油の処理装置としては、双胴船の双胴間に下端が水面下に没する回転翼車(水車)を設け、ゲル化剤との混合攪拌による油物質のゲル化を促進し、回収するもの(特許文献1)もあるが、装置が大掛かりで、小回りもきかず、回収しても、再利用は難しい。また、ポンプを吸引力として利用した浮遊物を回収する方法として、特許文献2や特許文献3および特許文献4もあるが、ポンプへの吸込み流れが不安定で浮遊物をスムーズに取り込難いなどの問題がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−156890号公報
【特許文献2】特開昭59−230887号公報
【特許文献3】特開平4−266588号公報
【特許文献4】特開2012−7524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
浮遊物の回収技術向上のためには、水面付近において一様で幅広の層状的な吸込み流れを強めて確実に浮遊物を取り込む必要がある。また、流出油などの浮遊物を再利用のための直接回収が求められる。
【0005】
本発明は従来技術の問題点を解決するために、浮遊物を直接取り込むことが出来る貫流ポンプを組み込んだ浮遊物回収装置の吸込み流路において、貫流ポンプの流れの特性を生かして、ポンプ吸込み口へ向かう水面近くの一様で幅広の吸込み流れを作り、浮遊物を効率良くポンプを通して取り込めるようにした浮遊物回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、貫流ポンプ(クロスフロ−ポンプ)を組込んだ浮遊物回収船(装置)におけるポンプ吸込側の流路形状および吸込み流れを制御するガイドの形状に関する。
図1に貫流ポンプを組込んだ浮遊物回収装置のポンプ付近の構造を示す。(a)は平面図、(b)は側断面図である。貫流ポンプ50の本体は、基本的には円筒状の多翼の羽根車7を収容したポンプケ−シング30と流れを制御する舌部8から構成され、羽根車回転軸2によって駆動用モ−タ12に接続されている。
【0007】
ポンプ部の流れは
図1(b)のポンプ断面図に示すように吸込み側9から吐出し側10に向って2回羽根6を通過する。即ち流れは吸込み側9では、羽根車7の外側から内側へ、吐出し側10では内側から外側へ流出して羽根車7を横断して吐出される。羽根車7は幅方向に長くとれ、吸込み流れは二次元的で一様な流れとなって、ポンプに吸い込まれる。
【0008】
吸込み流路64に流れ込んだ流出油などの浮遊物Fを効率よく羽根車7に取り込むためには、水面14付近の流れをポンプ吸込み口へ向かう層状で安定した流れを必要とする。このような流れを確実に得るためには、図(b)のポンプ近傍の構成図に示すように基本的に吸込み流路の水面下に水平仕切り板21を流路幅に渡って横設し、流路を上下に二分して、浮遊物Fを取り込む水面側の流れと板の下側の底面側の流れに分離する必要がる。この手法により、該浮遊物を水面側の安定した吸込み流れと共に確実に羽根車へ取り込むことが可能となる。
【0009】
本願の吸込流路構の成は、
図1に示すように水平仕切り板21を羽根車直前部から吸込みケーシング15の上流側の流路断面が略一定になる所までの
所定の長さの間の水面下に流路幅に渡って略水平に
横設し、流路を上下に分離することによって浮遊物を取り込む上側水面側流路の水深を浅くした水深一定の所定の長さの流路を形成したものである。これにより、水面側流路の流れは、よどみのない活性化した流れになり、水面に浮かぶ浮遊物を羽根車に容易に取り込むことができるようになる。水平仕切り板21の高さ方向の位置は羽根車7の中心と羽根車外径上端の間において、浮遊物の種類によって高さ位置を調整する。該水平仕切り板21の後端と羽根車7の外径部との隙間は羽根車直径Dの1/5〜3/5程度が適当である。
【0010】
引例のように、流路に水平仕切板21がないと、吸込み流路64と吸込みケーシング部15の接続部付近での急な
流路拡大部分において、水路近寄り流速の
減速によるくぼみなどの水位変動やよどみが生じ、水面14付近に浮かぶ浮遊物をスムーズにポンプに取り込み難くなる。
本願
請求項1に係る図1の
水路構成であれば、同図(b)に示すように吸込流路の断面形状が変化しても、水平仕切板21を底面とする水面側流路の流れは、水深一定で浅い流路なので、二次元的
流れになり、水位変動やよどみもなく、浮遊物は流れとともにスムーズにポンプへ取り込まれるようになる。
【0011】
図2は
請求項2の発明に
係る吸込流路の構成を示す。これは、本図に示すように該水平仕切り板21の後端
部に羽根車に向かって水平面に対して、+3°〜10°程度上向きになるようにした形状の傾斜流入ガイド22を
接続して、水平仕切板21と傾斜流入ガイド22を一体化して水面下に横設した流路構成である。この形状ではポンプへの近寄り流れが増速され、水面によどみのない微小波を発生することになる。これにより、水面に油膜様の膜を張らないようになり、粘度の高い浮遊液の取り込みも容易になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、吸込み流路の水面付近の流れを二次元的でよどみのない層状で安定した流れを流路幅に渡って供給でき、その水面付近の理想的吸込み流れによって、流出油や多様な浮遊物をポンプに容易に取り込むことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は浮遊物を取り込む貫流ポンプ(クロスフロ−ポンプ)の吸込み側流路に水平仕切り板21を設置した基本構造を示す。(a)は装置の平面図、(b)は側断面図である。
【
図2】
図2は
図1の吸込み流路部に新技術を加えた構造を示す。(a)は装置の平面図、(b)は側断面図である。
【
図3】
図3は吸込み流路において、水平仕切り板21に接続して傾斜流入ガイド22を取り付けた浮遊物回収用ポンプ装置を船にセットし、一体化した浮遊物回収船の構造を示す。(a)は平面図、(b)は側断面図である。(実施例1)
【
図4】
図4は
図3とは異なり、縦置きの貫流ポンプを使用した別形態の実施例で、ポンプ直前の縮流水路に水平仕切り板21を設置した場合の構造を示す。(a)は平面図、(b)は側断面図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を
図3、
図4を参照して説明する。
【実施例1】
【0015】
図3は本発明の第1実施例で、請求項1
及び請求項2に記載の新技術を組込んだ浮遊物回収用ポンプ装置全体を船にセットし、一体化したときの浮遊物回収船40の形態を示し、流出油などの浮遊物回収に利用される。(a)は平面図、(b)は側断面図である。本発明の基本的構造は貫流ポンプを中心にして、吸込み側には船首の取水口部に開閉式流入ガイド60、吸込み流路64に水平仕切り板21とその後端に上向きの傾斜ガイド22を接続した構成にしている。
【0016】
水平仕切り板21の先端は、水面付近において、安定した吸込み流れを得るように吸込みケーシング上流の流路断面が略一定で流速の変化がないところまで上流に伸ばす必要がある。本実施例では傾斜流入ガイド22部の流路側壁は縮流になるようにしている。
【0017】
ポンプ吐き出し側には吐出しダクト55に接続した浮遊物分離タンク82が設置されている。浮遊物分離タンク内では、比重差により浮遊物は水面側に集まり、余分の水はタンク底部の後壁側開放口74から船尾開放口80を通じて外部(海、川)へ自然流出し、浮遊物分離タンク82の水位バランスが保たれる。
【0018】
この実施の形態による流出油などの浮遊物回収では、まず船58の先首も兼ねた開閉式流入ガイド60を開いて水面付近に漂う流出油などの浮遊物を吸込み流路64の入口に導く。吸込み流路64においては、水平仕切り板21によって上下に分けられた上側の水面側流路の流れは二次元的で安定した流れとなって吸込み口へ向かう。さらに上向きの傾斜流入ガイド22および縮流型流路側壁24によって吸込み口へ向かう水面14付近の流れを増速させるとともに、局部的に水面付近のみを活性化させ、微小な水面波を発生させる。この手法により、油などの浮遊物が水面に幕を張ることなく、浮遊物のポンプへの取り込みを容易にすることが出来る。
【実施例2】
【0019】
図4は本発明の第2実施例の浮遊物回収船41の形態を示す。(a)は平面断面図、(b)は側断面図である。本実施例では浮遊物吸引用の貫流ポンプ51の据付けが第1実施例とは異なり、縦置きになっているのが特徴である。縦置きでは、横置きのように幅方向に長く取れないが、駆動用モ−タ12bが水面上に設置できることから、据付およびメンテナンスが容易である。縦置きは小規模の浮遊物回収に対して有効である。また、水面近くの流れのみの流入が得られるので浮遊物を確実に取り込むことが出来る。
【0020】
ポンプ吸込み流路64の形状は
図4(a)に示すように、取水口からポンプ吸込み口に向かって縮流型流路側壁24構造とし、取水口部の流路には水平仕切り板21を設置した構造にしている。水平仕切り板21によって分けられた上側の水面側流路の流れは前述の第1実施例と同様に二次元的で安定した流れとなって吸込み口へ向かう。この流れにより浮遊物は容易にポンプに取り込まれる。
【0021】
浮遊物を回収する浮遊物回収タンク87の船尾側は全面的に開放されていて外海や河川と通じている。浮遊物回収タンク87に取り込まれた浮遊物を含む流れは、浮遊物回収スクリ−ン94において浮遊物のみ回収される。
【0022】
本発明は主にアオコや浮遊ゴミなどの小浮遊物を対象にしたもので、油類の回収装置に比べるとシンプルな装置となる。ダム湖などでの浮遊物回収の使用にも適している。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の浮遊物回収用ポンプ装置で使用する浮遊物吸引用の貫流ポンプは構造的に物が詰りにくいことから、浮遊物を直接ポンプに取り込み回収できるため、流出油やアオコおよび浮遊ゴミなどの多様な浮遊物回収に適している。特に本装置を船にセットして一体化した走行型の浮遊物回収船は、流出油を直接回収して再利用できるなど優れたメリットがある。
【符号の説明】
【0024】
2 羽根車回転軸
6 貫流ポンプの羽根
7 羽根車
8 ケーシング舌部
9 ポンプ吸込側
10 ポンプ吐出側
12 駆動用モータ
12b 縦型駆動用モ−タ
14 水面
14b 液面
15 ポンプ吸込み側ケーシング
21 水平仕切り板
22 傾斜流入ガイド
23 流路側壁(直線型)
24 縮流型流路側壁
30,31 ポンプケーシング
40 浮遊物回収船
41 ポンプ縦置き型浮遊物回収船
50 貫流ポンプ
51 縦置きの貫流ポンプ
55、56 吐出しダクト
58、59 船
60、61 開閉式流入ガイド
63 バースクリーン
64 吸込み流路
68 タンク水平方向導入ガイド
69 浮遊物分離ガイド
71 浮遊物回収導入パイプ
73 浮遊物回収容器
74 浮遊物分離タンク後壁側開放口
80 船尾開放口
82 矩形型浮遊物分離タンク
87 浮遊物回収タンク
94 浮遊物回収スクリーン
F 浮遊物