【実施例1】
【0012】
実施例1のプーリシーブ面加工方法及びプーリシーブ面加工用ラッピング装置を、「技術背景」、「プーリシーブ面加工方法」、「フィルムラッピング加工処理の各工程概要」、「フィルムラッピング加工処理の各工程詳細」、「プーリシーブ面加工用ラッピング装置構成」、「装置動作プロセス」、に分けて説明する。
【0013】
[技術背景]
無段変速機の入力側プーリのシーブ面と出力側プーリのシーブ面に掛け渡される金属伝達部材としては、主に、エレメントを多数積層した金属ベルト、あるいは、ピンにより多数の連結プレートを結合した金属チェーンといったものが使用される。一方の金属ベルトは、エレメントフランク面がプーリシーブ面と摩擦接触して動力を伝達する。他方の金属チェーンは、ピン端面がプーリシーブ面と摩擦接触して動力を伝達する。
【0014】
この金属ベルトと金属チェーンを比較すると、
(a) 金属ベルトが用いられる無段変速機の場合、プーリシーブ面と摩擦接触するエレメントフランク面に溝が設けられ、このエレメントフランク面の溝により、潤滑及び油排出効果と油皮膜形成を両立させ、摩擦接触による伝達効率を確保している(例えば、特許第4641319号公報参照)。
これに対し、金属チェーンが用いられる無段変速機の場合、プーリシーブ面と摩擦接触するピン端面に溝が設けられていない。このため、金属チェーンが用いられる無段変速機の場合、金属ベルトが用いられる無段変速機に比べ、摩擦接触による伝達効率の確保が難しいことが分かった。
【0015】
(b) 金属チェーンが用いられる無段変速機において、摩擦接触による伝達効率を満足させるために、実験を重ねていった。この結果、エレメントフランク面の溝による作用効果と同様な作用効果を得るには、溝深さと平坦面積率に代表されるプーリシーブ面の表面粗さプロフィールを精度良く管理する必要があることを知見した。
【0016】
(c) そこで、溝深さ1μm以上、平坦率90%以下を表面粗さの目標値とし、この目標値を安定的に満足する加工技術を開発することを課題とした。この開発課題に対し、従来のベルト式無段変速機用プーリの製造方法(特開2005−273866号公報参照)やプーリ生産設備を流用しつつ、プーリシーブ面の表面粗さプロフィールの管理が可能なプーリシーブ面加工方法及びプーリシーブ面加工用ラッピング装置を、本願により提案する。
【0017】
[プーリシーブ面加工方法]
図1は、プーリシーブ面加工方法が適用される無段変速機の一例を示す。以下、
図1に基づき、本加工方法の適用対象となるプーリシーブ面を説明する。
【0018】
実施例1のプーリシーブ面加工方法が適用される無段変速機CVTは、プライマリプーリ1(入力側プーリ)のシーブ面11,12と、セカンダリプーリ2(出力側プーリ)のシーブ面21,22に金属チェーン3(金属伝達部材)を掛け渡して変速する。
【0019】
この無段変速機CVTに用いられる固定プーリと可動プーリによるプライマリプーリ1のシーブ面11,12と、固定プーリと可動プーリによるセカンダリプーリ2のシーブ面21,22が、実施例1のプーリシーブ面加工方法の適用対象となる。なお、以下の説明において、プライマリプーリ1のシーブ面12を、4つのシーブ面11,12,21,22の代表とし、「プーリシーブ面12」と表記する。
【0020】
図2は、プーリシーブ面加工方法の工程ブロック図であり、
図3は、フィルムラッピングによるプーリシーブ面加工方法を示す基本図である。以下、
図2及び
図3に基づき、プーリシーブ面加工方法の工程流れを説明する。
【0021】
実施例1のプーリシーブ面加工方法は、浸炭焼き入れ工程4(CQT:carburizing quenching and temperingの略)→仕上げ旋盤加工処理工程5→研削加工処理工程6→マイクロショット加工処理工程7→フィルムラッピング加工処理工程8と進む流れとなる。
【0022】
前記浸炭焼き入れ工程4は、浸炭焼き入れ焼き戻しにより、プーリシーブ面12の表面を硬化する表面硬化処理を施す工程である。
【0023】
前記仕上げ旋盤加工処理工程5は、プーリシーブ面12の表面を荒仕上げする旋盤加工処理を施す工程である。
【0024】
前記研削加工処理工程6は、総形砥石によりプーリシーブ面12の表面を仕上げする研削加工処理を施す工程である。
【0025】
前記マイクロショット加工処理工程7は、プーリシーブ面12にマイクロ粒を噴射することで表面硬さを与える処理を施す工程である。ショットは、噴射する砥粒粒径・噴射圧力・噴射時間・噴射距離などで硬度と粗さが変わる。ここでは、表面硬さとして所定値以上の要求される硬さを得るために、通常のショットではなく、粒径が小さいマイクロ粒を噴射する。このマイクロショット加工処理は、粒径が小さい分、面圧が高くて硬度が入りやすいが、一方では、表面粗さがばらついてしまう。
【0026】
前記フィルムラッピング加工処理工程8は、
図3に示すように、砥粒を付着させたラッピングフィルム9の砥粒面9aを、プーリシーブ面12に押し付けるラッピング処理により無数の同心円溝を外観的にレコード溝の如く施工する工程である。このフィルムラッピング加工処理工程8は、第一工程81と第二工程82と第三工程83を有する。
【0027】
[フィルムラッピング加工処理の各工程概要]
溝深さRzは、最大深さであり、
図4は、平坦面積率Rmrの説明図である。以下、
図4に基づき、フィルムラッピング加工処理工程8の各工程81,82,83の概要を説明する。
【0028】
前記第一工程81は、プーリシーブ面12に表面硬さを施すマイクロショット加工処理工程7(前処理工程)の後、プライマリプーリ1のシーブ表面粗さのバラツキを平準化する工程である。この第一工程81により、マイクロショット加工処理工程7による表面粗さのバラツキが、ある限られたバラツキ領域内に安定化(平準化)される。よって、第一工程81の以降に施工される第二工程82(溝加工)及び第三工程83(平坦加工)において、表面粗さパラメータRz,Rmrが所定の目標値に入る歩留まりが良くなり、加工効率が高められる。
【0029】
前記第二工程82は、シーブ表面に形成された溝の深さ度合いを評価する表面粗さパラメータを、所定の目標値となるように施工する工程である。具体的には、シーブ表面粗さのパラメータの一つであるシーブ表面の頂部と谷部の距離である溝深さRzを、油排出性の確保により過剰な油膜形成を妨げるのに必要な下限値(例えば、1μm)以上の領域内に含まれる目標値となるように施工する。
【0030】
前記第三工程83は、シーブ表面に形成された凹凸による平坦度合いを評価する表面粗さパラメータを、所定の目標値となるように施工する工程である。具体的には、
図4に示すように、シーブ表面粗さのパラメータの他の一つであるシーブ表面の山頂線に平行な線で切断したときの切断面の平坦面積の比率をあらわす平坦面積率Rmrを、シーブ面摩滅を防止するのに必要な上限値(例えば、90%)以下の領域内に含まれる目標値となるように施工する。
【0031】
ここで、平坦面積率Rmrの考え方を、
図4に基づき説明する。
鋸歯形状による表面粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、この抜き取り部分の粗さ曲線を、山頂線に平行な切断レベルで切断したときに得られる切断長さの和(c1+c2+c3+…)を求める。そして、切断長さの和(c1+c2+c3+…)を基準長さLにより除算し、その値を%であらわしたものである。このとき、切断レベルは、基準長さLでの最大粗さRTの頂点から数%の位置までを評価外範囲ΔR1とし、この位置での切断長さの和(b1+b2+b3+…)は用いない。そして、評価外範囲ΔR1と、車両に搭載したときの初期摩耗量に相当する範囲ΔR2と、を加え(ΔR1+ΔR2)、最大粗さRTの頂点から(ΔR1+ΔR2)だけ下げた位置を、山頂線に平行な切断レベルとする。初期摩耗量に相当する範囲ΔR2を加えた理由は、車両に搭載したとき、初期摩耗量までは短時間にて摩耗が進行するが、初期摩耗量以上の摩耗については、摩耗進行速度が極端に遅くなることによる。
【0032】
このように、フィルムラッピング加工処理工程8では、第一工程81において、前処理工程によるプーリのシーブ表面粗さのバラツキが平準化(安定化)される。次の第二工程82では、所望の摩擦係数を確保するように油溜まりのための溝が形成され、次の第三工程83では、耐摩耗性を確保するようにプーリのシーブ表面がならされる。
【0033】
つまり、フィルムラッピング加工処理工程8を、バラツキ平準化機能を持つ第一工程81と、溝加工による摩擦係数管理機能を持つ第二工程82と、平坦加工による耐摩耗性管理機能を持つ第三工程83と、に分ける構成を採用している。したがって、粗さバラツキを平準化する第一工程81により、続いて施工される第二工程82と第三工程83での表面粗さパラメータが所定の目標値に入る歩留まりが良くなる。そして、異なる表面粗さパラメータを用いた第二工程82と第三工程83により、摩擦係数と耐摩耗性がそれぞれ分けて精度良く管理される。この結果、プーリシーブ面の表面粗さのプロフィールが、摩擦係数と耐摩耗性を確保するプロフィールとなるように安定的に加工される。
【0034】
[フィルムラッピング加工処理の各工程詳細]
図5は、実施例1のフィルムラッピング加工処理工程を構成する各工程でのフィルムグリッドサイズ・オシレーション・フィルム移送・主軸回転数を示す工程表図である。
【0035】
実施例1のフィルムラッピング加工処理工程は、「第一工程」、「第一工程-2」、「第二工程」、「第三工程」により構成される。
「第一工程」は、フィルムグリッドサイズが粗粒度で、オシレーション有り、フィルム移送有り、主軸回転数は定常回転数である。
「第一工程-2」は、フィルムグリッドサイズが粗粒度で、オシレーション有り、フィルム移送無し、主軸回転数は定常回転数である。
「第二工程」は、フィルムグリッドサイズが粗粒度で、オシレーション無し、フィルム移送有り、主軸回転数は定常回転数である。
「第三工程」は、「第一工程」と「第二工程」の砥粒よりも細かいフィルムグリッドサイズが細密粒度で、オシレーション有り、フィルム移送有り、主軸回転数は高速回転数である。
【0036】
なお、「フィルムグリッドサイズ」とは、ラッピングフィルムに付着させた砥粒の大きさをいう。「オシレーション」とは、押し付けたラッピングフィルムをシーブ面の径方向に往復運動させる振動をいう。「フィルム移送」とは、押し付けたラッピングフィルムをローラ回転によりシーブ面の周方向に移送させることをいう。「主軸回転数」とは、加工対象であるプーリをチャック締めにより固定したプーリ回転支持主軸31(
図10参照)の回転数をいう。
以下、
図5及び
図6〜
図9に基づき、「第一工程」、「第一工程-2」、「第二工程」、「第三工程」の詳細を説明する。
【0037】
(第一工程)
前記第一工程は、
図6に示すように、グリッドサイズが粗粒度の砥粒を付着させた第1ラッピングフィルム91の砥粒面91aを、プーリシーブ面12に押し付け、第1ラッピングフィルム91をオシレーションしながらフィルム移送させて施工する。
【0038】
すなわち、第一工程は、
図5に示すように、フィルムグリッドサイズが粗粒度というようにグリッドサイズを第三工程に比べて大きくしているため、グリッド単位の研削面積が大きくなり、表面の除去量を多くすることができる。
【0039】
第一工程は、
図5に示すように、オシレーション有りとしているため、プーリシーブ面12の径方向に高速で砥粒が往復運動し、砥粒のシーブ表面への接触が分散され、均一な表面を得ることができる。
【0040】
第一工程は、
図5に示すように、フィルム移送有りとしているため、シーブ表面に対し常に新しい研削面を与えることができ、加工抵抗が増加し、研削性がアップし、安定した研削ができる。
【0041】
第一工程は、
図5に示すように、主軸回転数が定常回転数というように主軸回転数を第三工程に比べて遅くしているため、動摩擦係数が増加し、加工抵抗が増加することで、表面の除去量を多くすることができる。
【0042】
したがって、第一工程では、特に、グリッドサイズを大きくし、オシレーションを加えることにより砥粒のシーブ表面への接触が分散されることで、マイクロショット加工処理工程7による表面粗さのバラツキが、ある限られたバラツキ領域内に安定化(平準化)される。
【0043】
(第一工程-2)
前記第一工程-2は、第1ラッピングフィルム91をオシレーションしながらフィルム移送させて施工する第一工程の最終段階で、
図7に示すように、第1ラッピングフィルム91のフィルム移送を停止するスパークアウトを入れる。
【0044】
すなわち、第一工程-2は、
図5に示すように、フィルム移送無しとしているため、第1ラッピングフィルム91に砥粒の目詰まりが発生し、加工抵抗の低下となり、研削性が悪化する。しかし、第一工程の最終段階で短時間だけスパークアウトを入れて研削量を下げていくと、バラツキの大きな部分だけを研削し、既にバラツキが小さくなっている部分の研削が抑えられることで、表面粗さのバラツキ低減に効果がある。
【0045】
したがって、第一工程-2では、第一工程のフィルム移送を停止することにより砥粒に目詰まりを起こさせ、意図的に研削性を低下させることで、第一工程で高い研削性により平準化された表面粗さのバラツキが、さらに限られたバラツキ領域内に収まるように安定化される。
【0046】
(第二工程)
前記第二工程は、
図8に示すように、第1ラッピングフィルム91のオシレーションを禁止し、第1ラッピングフィルム91の砥粒面を、プーリシーブ面12に押し付け、第1ラッピングフィルム91をフィルム移送させてシーブ面に溝を施工する。
【0047】
すなわち、第二工程は、
図5に示すように、フィルムグリッドサイズが粗粒度というようにグリッドサイズを第三工程に比べて大きくしているため、グリッド単位の研削面積が大きくなり、表面に深い凹凸(溝)を作ることができる。
【0048】
第二工程は、
図5に示すように、オシレーションを禁止しているため、砥粒のシーブ面への接触が固定され、加工抵抗が増加し、シーブ表面に深い凹凸(溝)を作ることができる。
【0049】
第二工程は、
図5に示すように、フィルム移送有りとしているため、シーブ表面に対し常に新しい研削面を与えることができ、加工抵抗が増加し、研削性がアップする。
【0050】
第二工程は、
図5に示すように、主軸回転数が定常回転数というように主軸回転数を第三工程に比べて遅くしているため、動摩擦係数が増加し、加工抵抗が増加することで、シーブ表面に深い凹凸(溝)を作ることができる。
【0051】
したがって、第二工程では、特に、グリッドサイズを大きくし、オシレーションを禁止することにより、大きい砥粒によってシーブ表面に溝を彫り込む加工が可能となり、シーブ表面に深い凹凸(溝)が形成される。
【0052】
(第三工程)
前記第三工程は、
図9に示すように、第一工程と第二工程の砥粒(グリッドサイズが粗粒度)よりも細かい砥粒(グリッドサイズが細密粒度)を付着させた第2ラッピングフィルム92の砥粒面92aを、プーリシーブ面12に押し付け、第2ラッピングフィルム92をオシレーションしながらフィルム移送させてシーブ表面に平坦面を施工する。この第三工程では、第2ラッピングフィルム92が押し付けられるプーリシーブ面12の回転速度(=主軸回転数が高速回転数)を、第一工程と第二工程におけるプーリシーブ面12の回転速度(=主軸回転数が定常回転数)よりも速くしている。
【0053】
すなわち、第三工程は、
図5に示すように、フィルムグリッドサイズが細密粒度というようにグリッドサイズを第一工程と第二工程に比べて小さくしているため、グリッド単位の研削面積が小さくなり、表面の除去量を少なくすることができると共に、表面粗さを良くすることができる。
【0054】
第三工程は、
図5に示すように、オシレーション有りとしているため、プーリシーブ面12の径方向に高速で砥粒が往復運動し、砥粒のシーブ表面への接触が分散され、均一な表面を得ることができる。
【0055】
第三工程は、
図5に示すように、フィルム移送有りとしているため、シーブ表面に対し常に新しい研削面を与えることができ、加工抵抗が増加し、研削性がアップし、安定した研削ができる。
【0056】
第三工程は、
図5に示すように、主軸回転数が高速回転数というように主軸回転数を第一工程や第二工程に比べて主軸回転数を高くしているため、動摩擦係数が低減し、加工抵抗が減少する。よって、細かい砥粒との相乗作用により、微細な加工が可能となり、シーブ表面の凸部先端に、均一で、且つ、平坦な面を作ることができる。
【0057】
したがって、第三工程では、特に、グリッドサイズを小さくし、主軸回転数を高くしたことで、シーブ表面の凸部先端のみを削り取るという微細な加工が可能となり、シーブ表面の凸部先端に、均一で、且つ、平坦な面が作られる。
【0058】
[プーリシーブ面加工用ラッピング装置構成]
図10は、実施例1のフィルムラッピング加工処理工程に用いられるプーリシーブ面加工用ラッピング装置を示す。以下、
図10に基づき、プーリシーブ面加工用ラッピング装置の概略構成を説明する。
【0059】
プーリシーブ面加工用ラッピング装置Aは、
図10に示すように、プーリ回転支持主軸31(プーリ回転支持部)と、左フィルムヘッド32(第一移動部)と、右フィルムヘッド33(第二移動部)と、上部センタ34と、備える。
【0060】
前記プーリ回転支持主軸31は、シーブ面とプーリ軸部を有するプーリ(可動プーリ、固定プーリ)を装置軸部に、軸心合わせを行うチャック締めにより固定し、回転可能な固定板に保持する。
このプーリ回転支持主軸31は、右フィルムヘッド33により第三工程を施工するときの回転速度(=主軸回転数が高速回転数)を、左フィルムヘッド32により第一工程と第二工程を施工するときの回転速度(=主軸回転数が定常回転数)よりも速くする。
【0061】
前記左フィルムヘッド32は、プーリシーブ面に対向する左上方位置に、円錐状のシーブ面に対して直角方向に移動可能に配置される。左フィルムヘッド32には、グリッドサイズが粗粒度の砥粒を付着させた砥粒面91aを有する第1ラッピングフィルム91をシーブ面に押し付ける第1回転ローラ35が装着されている。
この第1回転ローラ35には、第1ラッピングフィルム91を回転移送するか回転移送を禁止するかの回転切り替え機能と、回転移送方向に直交する回転軸方向にオシレートする機能と、を有する第1フィルム支持部36が設けられる。この左フィルムヘッド32により、第一工程と第二工程を施工する。
【0062】
前記右フィルムヘッド33は、プーリシーブ面に対向する右上方位置に、円錐状のシーブ面に対して直角方向に移動可能に配置される。右フィルムヘッド33には、第1ラッピングフィルム91よりも細かいグリッドサイズが細密粒度の砥粒を付着させた砥粒面92aを有する第2ラッピングフィルム92をシーブ面に押し付ける第2回転ローラ37が装着されている。
この第2回転ローラ37には、第2ラッピングフィルム92を回転移送するか回転移送を禁止するかの回転切り替え機能と、回転移送方向に直交する回転軸方向にオシレートする機能と、を有する第2フィルム支持部38が設けられる。この右フィルムヘッド33は、第三工程を施工する。
【0063】
前記上部センタ34は、プーリ回転支持主軸31の上部に対向する位置に昇降可能に配置され、被加工対象が長い中実軸部を有する固定プーリであるとき、下降して固定プーリをチャック締めとセンタ押さえにより支持する。なお、被加工対象が短い中空軸部を有する可動プーリ(
図6〜
図9参照)であるときには、チャック締めのみによりプーリ回転支持主軸31に支持する。
【0064】
[装置動作プロセス]
プーリシーブ面加工用ラッピング装置Aによりフィルムラッピング加工処理工程を行う際の動作プロセスを説明する。動作プロセスは、「前処理」→「第一工程加工」→「第一工程加工-2」→「第二工程加工」→「第三工程加工」であり、1台のプーリシーブ面加工用ラッピング装置Aを用いて行われる連続した流れである。
【0065】
前記前処理は、被加工対象であるプーリをプーリ回転支持主軸31に乗せ、上部センタ34を下降し(固定プーリのみ)、チャック締めをし、
図10に示すように、左右のフィルムヘッド32,33を、プーリに近い待機位置まで移動する。
【0066】
前記第一工程加工(左フィルムヘッド32)は、主軸回転を定常回転数とし、左フィルムヘッド32のオシュレーションをONとし、左フィルムヘッド32のフィルム移送をONとし、左フィルムヘッド32を加工位置まで移動して行われる。
【0067】
前記第一工程加工-2(左フィルムヘッド32)は、左フィルムヘッド32のフィルム移送をON→OFFとし、スパークアウトさせることで行われる。
【0068】
前記第二工程加工(左フィルムヘッド32)は、左フィルムヘッド32のオシュレーションをON→OFFとし、左フィルムヘッド32のフィルム移送をOFF→ONとして行われる。
【0069】
前記第三工程加工(右フィルムヘッド33)は、主軸回転を高速回転数とし、右フィルムヘッド33のオシュレーションをONとし、右フィルムヘッド33のフィルム移送をONとし、右フィルムヘッド33を加工位置まで移動して行われる。
【0070】
前記第三工程加工が終了すると、主軸回転を停止し、チャックを緩め、上部センタ34を上昇し(固定プーリのみ)、加工処理後のプーリ仕上げ加工品を取り出すことで動作プロセスが完了する。
【0071】
次に、効果を説明する。
実施例1のプーリシーブ面加工方法及びプーリシーブ面加工用ラッピング装置Aにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0072】
(1) 入力側プーリ(プライマリプーリ1)のシーブ面11,12と出力側プーリ(セカンダリプーリ2)のシーブ面21,22に金属伝達部材(金属チェーン3)を掛け渡して変速する無段変速機CVTに用いられるプーリ1,2において、
前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22に表面硬さを施す前処理工程(マイクロショット加工処理工程7)の後、前記プーリ1,2のシーブ表面粗さのバラツキを平準化する第一工程81と、
前記シーブ表面に形成された溝の深さ度合いを評価する表面粗さパラメータ(溝深さRz)を、所定の目標値となるように施工する第二工程82と、
前記シーブ表面に形成された凹凸による平坦度合いを評価する表面粗さパラメータ(平坦面積率Rmr)を、所定の目標値となるように施工する第三工程83と、
を備える(
図1及び
図2)。
このため、プーリシーブ面の表面粗さのプロフィールが、摩擦係数と耐摩耗性を確保するプロフィールとなるように安定的に加工するプーリシーブ面加工方法を提供することができる。
【0073】
(2) 前記前処理工程は、前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22にマイクロ粒を噴射することで表面硬さを与えるマイクロショット加工処理により施工し(マイクロショット加工処理工程7)、
前記第一工程81と前記第二工程82と前記第三工程83は、砥粒を付着させたラッピングフィルム9の砥粒面9aを、前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22に押し付けるラッピング処理により施工する(フィルムラッピング加工処理工程8:
図3)。
このため、(1)の効果に加え、マイクロショット加工処理によるバラツキの大きな表面粗さのプロフィールを、摩擦係数と耐摩耗性を確保する表面粗さのプロフィールへ変貌させる加工を、フィルムラッピング処理のみを用い、前処理による表面硬さを保ちながら、簡単、且つ、安定的に行うことができる。
ちなみに、マイクロ粒を噴射することで圧縮残留応力を高めて表面硬さが与えられるが、表面硬さが与えられたシーブ表面を切削により取り除くと、前処理により与えた表面硬さが低下する。
【0074】
(3) 前記第二工程82は、シーブ表面粗さのパラメータの一つである前記シーブ表面の頂部と谷部の距離である溝深さRzを、油排出性の確保により過剰な油膜形成を妨げるのに必要な下限値以上の領域内に含まれる目標値となるように施工し、
前記第三工程83は、シーブ表面粗さのパラメータの他の一つである前記シーブ表面の山頂線に平行な線で切断したときの切断面の平坦面積の比率をあらわす平坦面積率Rmr(
図4)を、シーブ面摩滅を防止するのに必要な上限値以下の領域内に含まれる目標値となるように施工する。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、溝深さRzにより摩擦係数管理を行うことで高トルク領域での使用に耐え得るプーリ1,2を製造できると共に、平坦面積率Rmrにより耐摩耗性管理を行うことで耐久性に優れたプーリ1,2を製造できる。
【0075】
(4) 前記第一工程は、砥粒を付着させた第1ラッピングフィルム91の砥粒面91aを、前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22に押し付け、前記第1ラッピングフィルム91をオシレーションしながらフィルム移送させて施工する(
図5、
図6)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、前処理工程(マイクロショット加工処理工程7)による表面粗さのバラツキを、ある限られたバラツキ領域内に安定化(平準化)することができる。そして、表面粗さのバラツキが安定化されることにより、第一工程に続く、第二工程と第三工程での加工効率を良くすることができる。
【0076】
(5) 前記第一工程は、前記第1ラッピングフィルム91をオシレーションしながらフィルム移送させて施工する最終段階で、前記第1ラッピングフィルム91のフィルム移送を停止するスパークアウトを入れる(第一工程-2:
図5、
図7)。
このため、(4)の効果に加え、砥粒に目詰まりを起こさせて意図的に研削性を低下させることで、安定化された表面粗さのバラツキが、さらに限られたバラツキ領域内に収まるように安定化の度合いを向上させることができる。
【0077】
(6) 前記第二工程は、前記第1ラッピングフィルム91のオシレーションを禁止し、前記第1ラッピングフィルム91の砥粒面91aを、前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22に押し付け、前記第1ラッピングフィルム91をフィルム移送させてシーブ面に溝を施工する(
図5、
図8)。
このため、(1)〜(5)の効果に加え、砥粒によってシーブ表面に溝を彫り込む加工となり、シーブ表面に深い凹凸(溝)を形成することができる。
【0078】
(7) 前記第三工程は、前記第一工程と前記第二工程の砥粒よりも細かい砥粒を付着させた第2ラッピングフィルム92の砥粒面92aを、前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22に押し付け、前記第2ラッピングフィルム92をオシレーションしながらフィルム移送させてシーブ表面に平坦面を施工する(
図5、
図9)。
このため、(1)〜(6)の効果に加え、シーブ表面の凸部先端を削り取ることで、シーブ表面の凸部先端に平坦な面を作ることができる。
【0079】
(8) 前記第三工程は、前記第2ラッピングフィルム92が押し付けられる前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22の回転速度を、前記第一工程と前記第二工程における前記プーリ1,2のシーブ面11,12,21,22の回転速度よりも速くした(
図5)。
このため、(7)の効果に加え、シーブ表面の凸部先端のみを削り取るという微細な加工となり、シーブ表面の凸部先端に、均一で、且つ、平坦な面を作ることができる。
【0080】
(9) シーブ面とプーリ軸部を有するプーリを装置軸部に固定し、回転可能な固定板に保持するプーリ回転支持部(プーリ回転支持主軸31)と、
前記プーリのシーブ面に対向する位置に、円錐状のシーブ面に対して直角方向に移動可能で第1ラッピングフィルム91をシーブ面に押し付ける第1回転ローラ35が装着された第一移動部(左フィルムヘッド32)と、
前記プーリのシーブ面に対向する位置に、円錐状のシーブ面に対して直角方向に移動可能で第2ラッピングフィルム92をシーブ面に押し付ける第2回転ローラ37が装着された第二移動部(右フィルムヘッド33)と、を備え、
前記第1回転ローラ35には、砥粒面91aを有する第1ラッピングフィルム91を回転移送するか回転移送を禁止するかの回転切り替え機能と、前記回転移送方向に直交する回転軸方向にオシレートする機能と、を有する第1フィルム支持部36を設け、
前記第2回転ローラ37には、前記第1ラッピングフィルム91よりも細かい砥粒による砥粒面92aを有する第2ラッピングフィルム92を回転移送するか回転移送を禁止するかの回転切り替え機能と、前記回転移送方向に直交する回転軸方向にオシレートする機能と、を有する第2フィルム支持部38を設けた(
図10)。
このため、プーリシーブ面の表面粗さのプロフィールが、摩擦係数と耐摩耗性を確保するプロフィールとなるように安定的に加工するプーリシーブ面加工用ラッピング装置Aを提供することができる。そして、一連の動作プロセスにより安定的にフィルムラッピング処理加工することで、省スペース化と効率化を図ることができる。
【0081】
(10) 前記第一移動部(左フィルムヘッド32)は、前記第一工程と前記第二工程を施工し、
前記第二移動部(右フィルムヘッド33)は、前記第三工程を施工する。
このため、(9)の効果に加え、1台のプーリシーブ面加工用ラッピング装置Aにより、フィルムラッピング加工処理工程8の第一工程81と第二工程82と第三工程83を行うことで、省スペース化と効率化を図ることができる。
【0082】
(11) 前記プーリ回転支持部(プーリ回転支持主軸31)は、前記第二移動部(右フィルムヘッド33)により前記第三工程83を施工するときの回転速度を、前記第一移動部(左フィルムヘッド32)により前記第一工程81と前記第二工程82を施工するときの回転速度よりも速くした。
このため、(9)又は(10)の効果に加え、プーリの加工位置決め精度を保ちながらの主軸回転数制御により、シーブ表面の凸部先端のみを削り取るという微細な加工となり、シーブ表面の凸部先端に、均一で、且つ、平坦な面を作ることができる。
【0083】
以上、本発明のプーリシーブ面加工方法及びプーリシーブ面加工用ラッピング装置Aを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0084】
実施例1では、シーブ表面に形成された溝の深さ度合いを評価する表面粗さパラメータとして、溝深さRzを用いる例を示した。しかし、シーブ表面に形成された溝の深さ度合いを評価する表面粗さパラメータであれば、溝深さRz以外のパラメータを用いる例であっても良い。
【0085】
実施例1では、シーブ表面に形成された凹凸による平坦度合いを評価する表面粗さパラメータとして、平坦面積率Rmrを用いる例を示した。しかし、シーブ表面に形成された凹凸による平坦度合いを評価する表面粗さパラメータであれば、平坦面積率Rmr以外のパラメータを用いる例であっても良い。
【0086】
実施例1では、本発明のプーリシーブ面加工方法を行うにあたり、1台のプーリシーブ面加工用ラッピング装置Aにより、フィルムラッピング加工処理工程8の第一工程81と第二工程82と第三工程83を行う例を示した。しかし、フィルムラッピング加工処理工程8の第一工程81と第二工程82と第三工程83は、加工対象物であるプーリの加工位置を移動させて、2つの工程(第一、第二工程と第三工程)あるいは3つの工程(第一工程と第二工程と第三工程)により行うような例としても良い。
【0087】
実施例1では、金属伝達部材として金属チェーン3を用い、プライマリプーリ1のシーブ面11,12とセカンダリプーリ2のシーブ面21,22に掛け渡して変速する無段変速機CVTに適用する例を示した。しかし、金属伝達部材として金属ベルトを用いた無段変速機のプーリシーブ面の加工方法として適用しても勿論良い。この場合、エレメントフランク面の溝を省略することも可能である。さらに、エレメントフランク面の溝とシーブ面の溝とにより摩擦係数管理と耐摩耗性管理を行うことで、管理精度をさらに向上させて摩擦特性と耐摩耗性を高次元で両立させることも可能である。