(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717178
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】特発性間質性肺炎の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20060101AFI20150423BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20150423BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20150423BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20150423BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20150423BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20150423BHJP
【FI】
C12Q1/68 AZNA
C12Q1/02
G01N33/68
G01N33/53 D
G01N33/15 Z
!C12N15/00 A
【請求項の数】16
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2010-515954(P2010-515954)
(86)(22)【出願日】2009年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2009060567
(87)【国際公開番号】WO2009148184
(87)【国際公開日】20091210
【審査請求日】2012年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2008-147822(P2008-147822)
(32)【優先日】2008年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(73)【特許権者】
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149010
【弁理士】
【氏名又は名称】星川 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】出原 賢治
(72)【発明者】
【氏名】太田 昭一郎
(72)【発明者】
【氏名】白石 裕士
(72)【発明者】
【氏名】相澤 久道
(72)【発明者】
【氏名】星野 友昭
(72)【発明者】
【氏名】岡元 昌樹
【審査官】
北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/077934(WO,A1)
【文献】
臨床病理,2007年,Vol.55, No.4,p.369-374
【文献】
Proc Natl Acad Sci USA,2007年,Vol.104, No.37,p.14765-14770
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
G01N 33/48−33/98
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の検出を補助する方法。
【請求項2】
特発性間質性肺炎が、特発性肺線維症、または非特異性間質性肺炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非特異性間質性肺炎が線維性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
測定が免疫測定法によるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
生体試料が肺組織および/または血液である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)正常者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)正常者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも高いときに、特発性間質性肺炎である、または特発性間質性肺炎が疑われると判断することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
特発性間質性肺炎が、特発性肺線維症、または非特異性間質性肺炎である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非特異性間質性肺炎が線維性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
測定が免疫測定法によるものである、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
(i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも低いときに、候補物質を選択することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ペリオスチン遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも21塩基の長さを有するポリヌクレオチドを含む、特発性間質性肺炎の検出用キット。
【請求項15】
ペリオスチンタンパク質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を含む、特発性間質性肺炎の検出用キット。
【請求項16】
ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を含む、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特発性間質性肺炎の検出方法、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法、およびこれらの方法に使用するキットに関する。
【背景技術】
【0002】
特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonia;IIP)は肺組織の線維化を特徴とする原因不明の疾患であり、その発症及び進行を予測することは非常に困難である。
特発性間質性肺炎は、組織学的分類により特発性肺線維症(あるいは、通常型間質性肺炎ともいう)(idiopathic pulmonary fibrosis;IPF/usual interstitial pneumonia;UIP)、および非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia;NSIP)などいくつかの病型に分類され、IPF/UIP患者とNSIP患者とで特発性間質性肺炎患者全体の80−90%以上を占める。NSIPは、さらに線維性(fibrotic)NSIPとcellular NSIPとに分類される。特発性間質性肺炎には現在のところ有効な治療法が存在しない。特発性間質性肺炎は診断からの平均生存期間が2−4年と予後が悪く、一方、NSIPの予後はIPF/UIPに比べると良い。その中でもcellular NSIPはfibrotic NSIPに比べてさらに予後は良くなっている。このように病型によって患者の予後が異なるため、特発性間質性肺炎の病型を決定することは、患者の予後を予測する上で重要である。
特発性間質性肺炎の診断はX線写真やCTによる画像的診断方法や生理的肺機能検査などが中心であり、肺組織の生体検査による組織的診断方法により確定診断を行ってきた。しかし、画像的診断方法は、組織的診断方法ほど診断の正確性は高くなく、また高度でかつ専門的な診断技術を伴う。さらに、定量的に診断することが困難である。
したがって、画像的診断法の他に非侵襲的な診断法の開発が求められる。
ここで、文献1には、ペリオスチン遺伝子の発現レベルを指標として、アレルギー性疾患を検査することが記載されている。
また、文献2には、ペリオスチン(骨芽細胞特異因子2)が、IL−4またはIL−13による刺激に応答して線維芽細胞で産生され、気管支喘息患者の肺線維症に関与する可能性があることが示されている。
(文献)
1.WO2002/052006
2.G.Takayama et al.,J Allergy Clin Immunol,vol.118,98−104,2006
【発明の開示】
【0003】
このような状況の下、マーカーを利用した特発性間質性肺炎の検出方法などが求められていた。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特発性間質性肺炎患者由来の生体試料においてペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が高いこと、ペリオスチンをマーカーとして利用することで特発性間質性肺炎を検出できること、等の知見に基づき本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法、およびこれらの方法に使用するキットを提供する。
(1) 生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法。
(2) 特発性間質性肺炎が、特発性肺線維症、または非特異性間質性肺炎である、上記(1)に記載の方法。
(3) 非特異性間質性肺炎が線維性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)である、上記(2)に記載の方法。
(4) 測定が免疫測定法によるものである、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5) 生体試料が肺組織および/または血液である、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6) (i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7) (i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも高いときに、特発性間質性肺炎である、または特発性間質性肺炎が疑われると判断することを含む、上記(6)に記載の方法。
(8) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法。
(9) 特発性間質性肺炎が、特発性肺線維症、または非特異性間質性肺炎である、上記(8)に記載の方法。
(10) 非特異性間質性肺炎が線維性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)である、上記(9)に記載の方法。
(11) 測定が免疫測定法によるものである、上記(8)〜(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12) 生体試料が肺組織および/または血液である、上記(8)〜(11)のいずれか1項に記載の方法。
(13) (i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行うことを含む、上記(8)〜(12)のいずれか1項に記載の方法。
(14) (i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の非存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量よりも低いときに、候補物質を選択することを含む、上記(13)に記載の方法。
(15) ペリオスチン遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも21塩基の長さを有するポリヌクレオチドを含む、特発性間質性肺炎の検出用キット。
(16) ペリオスチンタンパク質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体を含む、特発性間質性肺炎の検出用キット。
(16a) 特発性間質性肺炎が、特発性肺線維症、または非特異性間質性肺炎である、上記(15)または(16)に記載のキット。
(16b) 非特異性間質性肺炎が線維性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)である、上記(16a)に記載のキット。
(17) ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を含む、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング用キット。
(17a) 特発性間質性肺炎が、特発性肺線維症、または非特異性間質性肺炎である、上記(17)に記載のキット。
(17b) 非特異性間質性肺炎が線維性非特異性間質性肺炎(fibrotic NSIP)である、上記(17a)に記載のキット。
本発明により、新規マーカーを利用した特発性間質性肺炎の検出方法などが提供される。本発明の好ましい態様によれば、検出結果を、特発性間質性肺炎の確定診断の補助にできる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、肺組織におけるペリオスチンの組織免疫染色の結果を示す写真である。(a)IPF/UIP、(b)fibrotic NSIP、(c)cellular NSIP、および(d)正常。
図2は、血中ペリオスチンレベルのELISA測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2008−147822号の特許請求の範囲、明細書、および図面の開示内容を包含する。
1.本発明の概要
本発明は、生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法である。
本発明者らは、特発性間質性肺炎の検出に利用できるマーカーを求めて鋭意検討を重ねた。その結果、特発性間質性肺炎患者は、肺組織および血液などにおいてペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が高いことを見出した。
具体的には、特発性間質性肺炎患者由来の肺組織を用いて組織染色法によりペリオスチンタンパク質量を測定した。その結果、23人のIPF/UIP患者と23人のfibrotic NSIP患者全てにおいてペリオスチンタンパク質量が高かった(
図1(a)および(b))。尚、4人のcellular NSIP患者ではペリオスチンタンパク質量がきわめて低かった(
図1(c))。一方、対照群として用いた6人の正常肺組織においてはいずれもペリオスチンタンパク質量はきわめて低かった(
図1(d))。
また、特発性間質性肺炎患者から採取した血液を用いて免疫測定法によりペリオスチンタンパク質量を測定した。13人のIPF/UIP患者と12人の正常者とで比較した結果、有意差を持ってIPF/UIP患者において血液中のペリオスチンタンパク質量が上昇していた(
図2)。
以上のように、特発性間質性患者由来の組織においては、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が高いことから、本発明者らは、ペリオスチンが、特発性間質性肺炎を検出するためのマーカーとして有用であることを見出した。
また、本発明は、ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法も提供する。
上記のようにペリオスチン遺伝子は、特発性間質性肺炎の患者由来の組織で発現レベルが増加し、患者由来の組織中のペリオスチンタンパク質レベルが高いので、患者に投与することにより組織でのペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩、例えば、発現を阻害する化合物またはその塩(ペプチド、タンパク質、合成化合物、もしくは抗ペリオスチン抗体、またはそれらの塩など)は、特発性間質性肺炎の予防・治療剤として使用し得る。
さらに、本発明は、上記特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法、または特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法に使用するキットも提供する。
2.ペリオスチン
ペリオスチン(periostin)は、骨芽細胞特異因子2とも呼ばれる、約90kDaのタンパク質である(OSF2os;Horiuchi K,Amizuka N,Takeshita S,Takamatsu H,Katsuura M,Ozawa H,Toyama Y,Bonewald LF,Kudo A.;Identification and characterization of a novel protein,periostin,with restricted expression to periosteum and periodontal ligament and increased expression by transforming growth factor beta.J Bone Miner Res.1999 Jul;14(7):1239−49.)。ペリオスチンには、alternative splicingによるC末側の長さの違いで区別できるいくつかの転写物が存在することが知られている。ここで、配列番号1に、ヒトのペリオスチン遺伝子の全てのエクソンによる転写産物のDNA配列を示す(Accession No.D13666)。また、ヒトのペリオスチンのその他のsplicing variantのDNA配列の例を、配列番号3、5に示す(それぞれ、Accession Nos.AY918092、AY140646)。また、配列番号2、4、6に、それぞれ、配列番号1、3、5のポリヌクレオチドによってコードされるペリオスチンのアミノ酸配列を示す。
本発明の好ましい態様では、配列番号2で表されるアミノ酸配列から派生するvariant(例えば、配列番号2、4または6で表されるアミノ酸配列からなるペリオスチン)を含むペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定する。
3.本発明の特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法
ペリオスチン遺伝子またはペリオスチンタンパク質量は、特発性間質性肺炎の患者由来の組織で発現が増加しているので、被験者由来の生体試料におけるペリオスチンは、特発性間質性肺炎を検出または診断するためのマーカーとして利用し得る。すなわち、本発明は、生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、特発性間質性肺炎の検出方法を提供する。より具体的には、例えば、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行う。具体的には、ペリオスチンタンパク質量またはペリオスチンをコードするmRNA量を測定して比較する。発現レベルまたはタンパク質量の測定に用いる生体試料としては、例えば、被験者由来の、肺組織、血液、喀痰、呼気凝縮液、肺胞洗浄液、または気管支鏡等を用いて採取した気道被覆液等を用いることができる。好ましくは、被験者由来の肺組織または血液を用いる。肺組織、血液、喀痰、呼気凝縮液、肺胞洗浄液、または気管支鏡等を用いて採取した気道被覆液等を採取する方法は、公知である。正常細胞は、例えば、特発性間質性肺炎を患っていない者由来の細胞である。生体試料が肺組織および喀痰等である場合には、発現レベルまたはタンパク質量の測定に利用するために、例えば、そのライセートを調製すること、またはmRNAを抽出することが好ましい。ライセートの調製およびmRNAの抽出は、公知の方法で行うことができ、例えば市販のキットを使用して行う。また、生体試料が、血液および肺胞洗浄液等の液状のものである場合には、例えば、緩衝液等で希釈してペリオスチンをコードするmRNA量の測定などに利用するのが好ましい。ペリオスチンタンパク質量の測定は、例えば、免疫測定法などにより行うことができる。好ましくは、免疫測定法で行う。免疫測定法としては、放射免疫測定法(RIA)、免疫蛍光測定法(FIA)、免疫発光測定法、酵素免疫測定法(例えば、Enzyme Immunoassay(EIA)、Enzyme−linked Immunosorbent assay(ELISA))、またはWestern blot法などが挙げられる。RIAで標識に用いる放射性物質としては、例えば、
125I、
131I、
14C、
3H、
35S、または
32Pを利用することができる。FIAで標識に用いる蛍光物質としては、例えば、Eu(ユーロピウム)、FITC、TMRITC、Cy3、PE、またはTexas−Redなどの蛍光物質を利用することができる。免疫発光測定法で標識に用いる発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等を用いることができる。酵素免疫測定法で標識に用いる酵素としては、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホファターゼ(ALP)、グルコースオキシダーゼ(GO)等を用いることができる。さらに、抗体または抗原と、これらの標識物質との結合にビオチン−アビジン系を用いることもできる。mRNA量の測定は、公知の方法、例えば、ペリオスチン遺伝子の塩基配列またはその一部を含有するポリヌクレオチドを用いて行うことができる。より具体的には、例えば、配列番号1,3,もしくは5またはその一部を含有するポリヌクレオチドを固定したDNAチップ、プローブとして配列番号1,3,もしくは5またはその一部を含有するポリヌクレオチドを用いるノーザンハイブリダイゼーション、あるいはプライマーとして配列番号1,3,もしくは5またはその一部を含有するポリヌクレオチドを用いるPCR法を用いて行うことができる。そして、例えば、(i)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、(ii)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上高い場合に特発性間質性肺炎が疑われると判断できる。上記方法で検出できる特発性間質性肺炎の病型は、例えば、特発性肺線維症/通常型間質性肺炎(IPF/UIP)、または非特異性間質性肺炎(NSIP)であり、具体的には、IPF/UIP、またはfibrotic NSIPである。
また、免疫組織化学により、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定するようにしても良い。より具体的には、例えば、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と、(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量との比較を行う。具体的には、免疫組織化学によりペリオスチンまたはペリオスチンをコードするmRNAを可視化し、ペリオスチンタンパク質量またはmRNA量を比較する。生体試料としては、肺組織などが挙げられる。免疫組織化学としては、具体的には、酵素標識抗体法、または蛍光抗体法などが挙げられる。酵素標識抗体法としては、例えば、直接法、間接法、アビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体法(ABC法)、もしくはストレプトアビジン・ビオチン化抗体法(SAB)法などの標識抗体法、またはペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ法(PAP法)などの非標識抗体法が挙げられる。蛍光抗体法としては、直接法、または間接法が挙げられる。標識に用いる酵素または蛍光物質としては、前記と同様のものが挙げられる。そして、例えば、(i)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、(ii)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して高い場合、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、または約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上高い場合に特発性間質性肺炎が疑われると判断できる。上記方法で検出できる特発性間質性肺炎の病型は、例えば、特発性肺線維症/通常型間質性肺炎(IPF/UIP)、または非特異性間質性肺炎(NSIP)であり、具体的には、IPF/UIP、またはfibrotic NSIPである。
ここで、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の差は、特発性間質性肺炎の検出または診断の臨界値となるものであり、例えば次のように設定しても良い。先ず、2例以上の特発性間質性肺炎(例えば、IPF/UIP、またはfibrotic NSIP)患者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定し、その平均値(A)を求める。このとき、対象となる患者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、または100例以上である。一方、2例以上の健常者由来の細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定し、その平均値(B)も求める。このとき、対象となる健常者の例数は2例以上であり、例えば、5例以上、10例以上、50例以上、または100例以上である。そして、求めた平均値AおよびBから[(A−B)/B]×100(%)を計算して、特発性間質性肺炎患者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の平均値が健常者由来の細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の平均値と比較して何%高いかを求める。このようにして求めた値を、(i)被験者由来の生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の差(臨界値)として設定する。すなわち、(i)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量が、(ii)の場合のペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して求めた差以上に高い場合(例えば、統計的に有意に高い場合)に、特発性間質性肺炎である、または特発性間質性肺炎が疑われると判断できる。尚、本発明の特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法では、生体試料におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定するので、測定値を平均値(A)および(B)に組み入れて、対象となる患者の例数および対象となる健常者の例数を増やすのが好ましい。例数を増やすことにより、特発性間質性肺炎の検出または診断の精度を高めることができる。また、求めた健常者由来の細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の平均値(B)を、「(ii)正常細胞におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量」としても良い。
上記特発性間質性肺炎の検出結果または診断結果は、例えば特発性間質性肺炎の確定診断を行う場合の補助とすることができる。特発性間質性肺炎の確定診断を行う場合には、上記検出結果に加えて、理学所見の結果、血清学的検査の結果(例えば、血清のKL−6、LDH、またはSC−A等)、呼吸機能検査の結果、胸部X線画像所見の結果、および胸部HRCT画像所見の結果の結果からなる群から選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断するようにしても良い。
4.本発明の特発性間質性肺炎の検出用キットまたは診断用キット
本発明は、上記特発性間質性肺炎の検出方法または診断方法に使用することができるキットを提供する。
本発明の一つの態様によれば、前記キットは、ペリオスチン遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号1、3もしくは5の塩基配列)またはその一部を含有するポリヌクレオチドを含む。好ましくは、前記キットは、ペリオスチン遺伝子の塩基配列を含むポリヌクレオチド、またはその相補鎖に相補的な塩基配列を有する少なくとも21塩基の長さを有するポリヌクレオチドを含む。より好ましくは、前記キットは、DNAチップ上に固定された上記ポリヌクレオチドを含有し得る。
本発明の別の態様によれば、前記キットは、ペリオスチンタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号2、4もしくは6のアミノ酸配列)を含むペプチドを認識する抗体、より好ましくは、特異的に認識する抗体を含む。前記抗体はモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよく、限定されるものではない。抗体は、当分野において周知の方法により製造することができる。
抗体の製造法は、例えば、ポリクローナル抗体を作製する場合は、抗原をアジュバントとともにウサギ等の哺乳動物に投与して所定期間免疫を行い、抗血清を得る。抗体価の測定は、通常の、酵素免疫測定法(ELISA法、又はEIA法)等を採用することができる。
また、モノクローナル抗体を作製する場合は、抗原で免疫した動物から採取された免疫担当細胞(脾細胞など)とミエローマ細胞とを融合させ、HAT培地などの選択培地によりスクリーニングして目的とする抗体を産生するハイブリドーマを取得する。このハイブリドーマを培養することにより目的のモノクローナル抗体を得ることができる。
前記抗体は、放射性物質、蛍光物質、酵素等で標識されていてもよい。また、前記キットは、標識された二次抗体を含有していてもよい。
前記キットは、上記の他に、容器およびラベルを含んでいてもよい。容器上のまたは容器に伴うラベルには、キットが特発性間質性肺炎の検出または診断に使用されることが示されていてもよい。また、他のアイテム、例えば、使用説明書等がさらに含まれていてもよい。
5.本発明のスクリーニング方法
ペリオスチン遺伝子は、特発性間質性肺炎の患者由来の組織で発現が増加しているので、投与したときに患者の組織でペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩、例えば、発現を阻害する化合物またはその塩は、特発性間質性肺炎の予防・治療剤として使用し得る。すなわち、本発明は、ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合におけるペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定することを含む、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を減少させる化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。より具体的には、例えば、(i)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の存在下で培養した場合と、(ii)ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を候補物質の非存在下で培養した場合との間でペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量の比較を行う。比較は、例えば、(i)と(ii)の場合における、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定して、比較する。具体的には、(i)と(ii)の場合における、ペリオスチンタンパク質量またはペリオスチンをコードするmRNA量を測定して比較する。ペリオスチンを産生する能力を有する細胞としては、例えば、ペリオスチンをコードするDNAを含有するベクターで形質転換された細胞が挙げられる。形質転換する細胞としては、例えば、CHO細胞、HEK293細胞、および293細胞などが挙げられる。形質転換された細胞の培養は、公知の方法で行うことができる。候補物質としては、例えば、ペプチド、タンパク質、合成化合物、またはそれらの塩などが挙げられる。ペリオスチンタンパク質量の測定は、例えば、前記した免疫測定法またはプロテインチップ法により行うことができる。mRNA量の測定は、公知の方法、例えば、ペリオスチン遺伝子の塩基配列またはその一部を含有するポリヌクレオチドを用いて行うことができる。より具体的には、例えば、配列番号1,3,もしくは5またはその一部を含有するポリヌクレオチドを固定したDNAチップ、プローブとして配列番号1,3,もしくは5またはその一部を含有するポリヌクレオチドを用いるノーザンハイブリダイゼーション、あるいはプライマーとして配列番号1,3,もしくは5またはそれらの一部を含有するポリヌクレオチドを用いるPCR法を用いて行うことができる。そして、例えば、(i)の場合のペリオスチンの発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を、(ii)の場合のペリオスチンの発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量と比較して減少させる、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上、または約100%以上減少させる候補物質を、ペリオスチン遺伝子の発現を阻害する化合物またはその塩として選択することができる。
6.本発明のスクリーニング用キット
本発明は、上記特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニング方法に使用することができるキットを提供する。具体的には、前記キットは、ペリオスチンを産生する能力を有する細胞を含む。「ペリオスチンを産生する能力を有する細胞」は、前記本発明のスクリーニング方法で説明した通りである。前記キットは、さらに、細胞培養用培地、培地に添加する抗生物質、血清(ウシ胎児血清等)などを含んでいても良い。
また、前記キットは、ペリオスチン遺伝子の発現レベルまたはペリオスチンタンパク質量を測定するための成分を含んでいても良い。そのような成分として、例えば、ペリオスチン遺伝子の塩基配列またはその一部を含有するポリヌクレオチド、ペリオスチンタンパク質のアミノ酸配列を含むペプチドを認識する抗体などが挙げられる。これらのポリヌクレオチドおよび抗体は、前記と同様である。
前記キットは、上記の他に、容器およびラベルを含んでいてもよい。容器上のまたは容器に伴うラベルには、キットが特発性間質性肺炎の予防・治療剤のスクリーニングに使用されることが示されていてもよい。また、他のアイテム、例えば、使用説明書等がさらに含まれていてもよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0006】
(1)ウサギポリクローナル抗ペリオスチン抗体の作製
ペリオスチン(ヌクレオチド配列:配列番号1、Accession No.D13666;アミノ酸配列:配列番号2、Accession No.BAA02837)にV5エピトープ/Hisタグを付加させたリコンビナントタンパク質を昆虫細胞であるS2細胞において発現させた上で精製した。
具体的には、S2細胞の形質転換体は次のように作製した。pMT/Bip/V5−HisAプラスミド(Invitrogen,Carlsbad,CA)にペリオスチンの上記部分をコードするcDNAを挿入して、これをpMT/Bip/V5−HisA−periostinとした。S2細胞にpMT/Bip/V5−HisA−periostin及びハイグロマイシン耐性遺伝子を発現するプラスミドであるpCoHygro(Invitrogen)を公知の方法で共導入し、形質転換した。ハイグロマイシンにより形質転換体を選択し、安定形質転換体を得た。
そして、S2細胞の形質転換体では、V5エピトープ/Hisタグの結合したペリオスチンを発現させた。
リコンビナントタンパク質の精製は次のように行った。ペリオスチン遺伝子安定形質転換体S2細胞の培地に硫酸銅を加えることにより、リコンビナントタンパク質の発現を誘導した。これにより、リコンビナントタンパク質は培養上清中に発現分泌された。この培養上清をPBSに透析した後、ニッケルレジン(Ni−NTA Agarose,Qiagen,Hilden,Germany)と混合して、リコンビナントタンパク質をレジンに結合させた。レジンを洗浄して夾雑物を取り除き、イミダゾール含有緩衝液にてリコンビナントタンパク質を溶出した。溶出されたリコンビナントタンパク質をPBSに透析し、これを動物の免疫原とした。
次に、これらのリコンビナントタンパク質をCFA(完全フロイントアジュバント)(Sigma社製のFreund’s Adjuvant,Complete)と混合してラビットに免疫し、その後血清を採取した。
具体的な手順は次の通りである。ラビットとして、New Zealand Whiteラビット,雌、体重1.5−2kg(ケービーティーオリエンタル、鳥栖)を用いた。
これらのラビットは、免疫原であるリコンビナントペリオスチンとCFAの混合物をラビット背部皮下数カ所に注射することにより免疫した。
免疫の5〜7週後、免疫ラビットの耳静脈より注射針と注射器を用いて採血し、血清を得た。
最後に、血清からIgGを次のように精製した。すなわち、採取した血清に二倍量の50mM酢酸ナトリウム(pH4.0)を加えた後、塩酸でpHを4.0に調整した。血清を攪拌しながら、血清の1/15量のカプリル酸を加え、30分攪拌した後、9200gで10分間遠心した。上清をPBSに透析して、精製IgGとした。
(2)ラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体の作製
KLH(スカシガイヘモシアニン)結合ヒトペリオスチンペプチド(20−50μg/ラット)またはS2リコンビナントペリオスチンタンパク(20−50μg/ラット)をCFA(完全フロイントアジュバント)またはTiterMax Gold(化学合成アジュバント)と混合して一対の相互に結合したものを免疫原とした。
具体的な手順は次の通りである。Sigma社に依頼してFmoc法で作製したペリオスチンペプチド(CPVRKLQANKKVQGSRRRLR:配列番号7)にmaleimide基を持ったKLHを混合して結合させることによりKLH結合ヒトペリオスチンペプチドを作製した。
次に、S2リコンビナントペリオスチンタンパクは、次のように作製した。先ず、ペリオスチン遺伝子安定形質転換体S2細胞の培地に硫酸銅を加えることにより、リコンビナントペリオスチンタンパク質の発現を誘導した。これにより、リコンビナントペリオスチンは培養上清中に発現分泌された。この培養上清をPBSに透析した後、ニッケルレジン(Ni−NTA Agarose,Qiagen,Hilden,Germany)と混合して、リコンビナントペリオスチンをレジンに結合させた。レジンを洗浄して夾雑物を取り除き、イミダゾール含有緩衝液にてS2リコンビナントペリオスチンタンパクを溶出した。
CFAは、Sigma社製のFreund’s Adjuvant,Completeを用いた。TiterMax Goldは、Funakoshi Co.,Ltd.から購入した。そして、KLH結合ヒトペリオスチンペプチド溶液またはS2リコンビナントペリオスチンタンパク溶液1容に対して、CFAまたはTiterMax Goldを1容の割合で混合した。
次に、雌ラットの足蹠に免疫原として20−50μgのKLH結合ヒトペリオスチンペプチド溶液またはS2リコンビナントペリオスチンタンパク溶液とCFAまたはTiterMax Goldとの混合物を皮下注射し、10日〜2週間後、再度ラットの足蹠に免疫原として20−50μgのKLH結合ヒトペリオスチンペプチド溶液またはS2リコンビナントペリオスチンタンパク溶液とCFAまたはTiterMax Goldとの混合物を皮下注射した。ここで、ラットは、Wistarラット、雌、6−8週齢(日本チャールズリバー、横浜)を用いた。
最終免疫より3−4日後、免疫したラットの膝窩・鼠径・腸骨リンパ節内の細胞と、ミエローマ細胞を1対1から10対1の割合で混合し、一般的な方法でポリエチレングリコールを加えて細胞融合させ、ハイブリドーマコロニーを選別した。
具体的には、細胞融合は次のように行った。混合したリンパ節細胞とミエローマ細胞を遠心して上清を除き、室温でポリエチレングリコール(PEG1500、Roche、Switzerland)1mlに1分間かけて懸濁した後、37度で1分間攪拌した。血清不含培地1mlを1分間かけて加え、その後血清不含培地10mlを1分間かけて加えた。細胞を数回洗浄した後、96穴プレートに分注して37度5%CO
2存在下で培養した。
選別の方法としては、細胞融合から7−14日後、抗原に使用したペプチドまたはタンパクを固相化し、融合細胞培養上清を一次抗体としたELISAの系にて行った。ELISAは具体的には、次のように行った。1μg/mlのペプチドまたはタンパクを96穴プレートに分注し、数時間固相化させた。固相化溶液を洗浄した後、融合細胞培養上清を各ウェルに加え、1時間室温に静置した。融合細胞培養上清を洗浄して、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ラットIgG抗体(GE Healthcare、Little Chalfont、UK)を加え1時間室温に静置した。二次抗体を洗浄後、ABTSペルオキシダーゼ基質(KPL、Gaithersburg、Maryland)を加えて発色させ、405nmの吸光度を測定した。
そして、選別したハイブリドーマ細胞からIgGを次のように精製した。ハイブリドーマ細胞をICR−SCIDマウス、雌、6−8週齢(日本クレア、東京)の腹腔内に注射し、7−10日後に貯留した腹水を採取した。採取した腹水に二倍量の50mM酢酸ナトリウム(pH4.0)を加えた後、塩酸でpHを4.0に調整した。血清を攪拌しながら、血清の1/15量のカプリル酸を加え、30分攪拌した後、9200gで10分間遠心した。上清をPBSに透析して、精製IgGとした。
(3)血中ペリオスチンレベルのELISA測定
ラビットポリクローナル抗ペリオスチン抗体をプレート上で固相化し、標準物質、あるいは生体試料(サンプル)を添加した。
具体的には、固相化は次のように行った。10μg/mlの非標識ラビットポリクローナル抗ペリオスチン抗体を96穴プレートに分注し、4度で一晩固相化した。
標準物質としては、S2リコンビナントペリオスチンタンパク質を用い、0−1000ng/mlの濃度で50μl/wellの量で添加した。サンプルとしては、13人のIPF/UIP患者から採取した血液と、12人の正常者から採取した血液を用いた。血液は、真空採血管を用いて末梢静脈より
で保管した。測定時に解凍し、遠心分離して血清を回収し、10倍希釈した後50μl/wellの量で添加した。
その上にビオチン標識ラビットポリクローナル抗ペリオスチン抗体(1μg/ml)を一次抗体として50μl/wellの量で添加し、50μl/wellのEu(ユーロピウム)標識ストレプトアビジン、あるいは50μl/wellのHRP標識ストレプトアビジンを添加した後、蛍光あるいは発色をプレートリーダー(ARVO MX、Perkin Elmer社製)にて測定し、標準物質の測定値より作製した標準曲線にサンプル測定値を当てはめて計算することにより、サンプル中のペリオスチン量(ng/ml)を求めた。
結果を
図2に示す。
図2に示すように、IPF/UIP患者由来の生体試料(IPF)では、正常者由来の生体試料(Healthy Control)と比較して、ペリオスチン量が多かった(有意差あり、p<0.001)。さらに、平均値を比較すると、IPF/UIP患者由来の生体試料(IDF/UIP)の方が、正常者由来の生体試料(Healthy Control)よりも、ペリオスチンタンパク質量が約95%([(IPFペリオスチン量平均値−Healthy Controlペリオスチン量平均値)÷Healthy Controlペリオスチン量平均値]×100(%)=[(491−252)/252]×100(%))多かった。
(4)ペリオスチンの組織免疫染色
一般的なABC法と呼ばれる組織免疫染色法により行った。
生体試料としてパラフィン包埋肺組織を用いた。パラフィン包埋肺組織は、23人のIPF/UIP患者、23人のfibrotic NSIP患者、4人のcellular NSIP患者、および6人の正常者から、それぞれ採取し、作製しておいたものである。これに、脱パラフィン、内因性ペルオキシダーゼ活性の阻害、ブロッキングといった処理を施した。具体的には、これらの操作は次のように行った。組織をメタノール+3%H
2O
2で15−30分間処理した後、Protein Block Serum−Free(DAKO、Glostrup、Denmark)で5−10分間処理した。
上記作成したラビットポリクローナル抗ペリオスチン抗血清、あるいはラットモノクローナル抗ペリオスチン抗体を、それぞれ1000倍希釈あるいは10μg/mlの濃度で一次抗体として加えた。その後、HRP標識された一次抗体に対する抗体(Envision、DAKO社から購入)を二次抗体として加え、DAB(diaminobenzidine)(Sigma社)にて発色させた。
さらに、核染色、脱水、封入などの操作を行った。具体的には、これらの操作は次のように行った。100μlの一次抗体を組織上にのせ、室温で60分間静置した。一次抗体を洗浄した後、100μlの二次抗体を組織上にのせ、室温で60分間静置した。二次抗体を洗浄した後、DAB基質溶液中に組織スライドを浸して、1−20分間発色させた。ヘマトキシリンで核染色した後、公知の方法で脱水、封入した。
この結果、23人のIPF/UIP患者と23人のfibrotic NSIP患者全てにおいてペリオスチン遺伝子の発現レベルが高かった(
図1(a)および(b))。尚、4人のcellular NSIP患者ではペリオスチン遺伝子の発現レベルがきわめて低かった(
図1(c))。一方、対照群として用いた6人の正常肺組織においてはいずれもペリオスチン遺伝子の発現レベルはきわめて低かった(
図1(d))。
以上、実施例に示した通り、ペリオスチン遺伝子は、特発性間質性肺炎の患者由来の組織で発現が増加しているので、被験者由来の生体試料におけるペリオスチンは、特発性間質性肺炎を検出または診断するためのマーカーとして利用し得る。
また、ペリオスチン遺伝子は、特発性間質性肺炎の患者由来の組織で発現が増加しているので、ペリオスチン遺伝子の発現を阻害する化合物またはその塩は、特発性間質性肺炎の予防・治療剤として使用し得る。
【配列表フリーテキスト】
【0007】
配列番号7:合成構築物
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