(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被処理油は、酸化変質油を含み、前記固体状の不純物には、前記酸化変質油と金属ナトリウムとが反応して生成した反応生成物も含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理装置。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていたが、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油などについても、平成13年に制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」により、平成28年7月までに処理を完了することが義務付けられている。
【0003】
PCBの脱塩素化技術は、これまでに多くの方法が提案されており、幾つかの方法は実用化されている。金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化させる方法は、PCB含有絶縁油の無害化処理に使用され、処理プラントも稼働中である。金属ナトリウムとPCB含有絶縁油とを反応させるとPCBが脱塩素化された処理済油が得られる。通常、金属ナトリウムとPCB含有絶縁油とを反応させる際には、PCB濃度を十分に低下させる又は反応時間を短縮させるために金属ナトリウムは過剰に添加される。このため処理済油には、金属ナトリウムとPCBとが反応して生成した塩化ナトリウム、ビフェニル、ビフェニル重合物、水酸化ナトリウムなどの反応生成物のほか、未反応の金属ナトリウムが残存する。
【0004】
未反応の金属ナトリウムは活性が高いため、これを含む処理済油は、保管、貯蔵、さらには再利用する上で種々の困難が付きまとう。このため通常、処理済油に水を加え、金属ナトリウムを水でクエンチングする操作が行われる(例えば特許文献1、2参照)。この様なクエンチング操作は、金属ナトリウム以外の他のアルカリ金属を反応剤とし、油中の多塩素化芳香族化合物を脱塩素化するプロセスにおいても行われている(例えば特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
処理済油に水を加えて残存する未反応のアルカリ金属をクエンチングする方法は、簡便な方法ではあるが、処理済油を再利用するには、添加した水と処理済油とを分離する必要がある。水と処理済油との分離は、大まかには静置分離で行うことができるが、処理済油に含まれる水を十分に分離するには蒸留操作が必要となり、多くのエネルギーを必要とする。さらに装置も大掛かりとなる。水に代え、アルコール等を使用しアルカリ金属をクエンチングする方法もあるが、アルコールと処理済油との分離には、やはり蒸留操作が必要であり、水を使用する場合と同様の課題がある。さらに通常、水でクエンチングする場合、クエンチング後の水は中和処理が必要であり、中和処理を行うことで多量の廃棄物が発生する。
【0007】
処理済油を再利用する場合、処理済油に含まれる未反応のアルカリ金属を取り除くことができれば、必ずしもアルカリ金属をクエンチングする必要はない。処理済油に残存するアルカリ金属は、固体状であるので、機械的に分離することも考えられる。特許文献1及び特許文献3では、未反応のアルカリ金属のみの除去を目的としたものではないが、処理済油に含まれる未反応のアルカリ金属及び反応生成物を遠心ろ過により分離する方法が提案されている。処理済油に含まれる未反応のアルカリ金属を機械的に分離する方法は、処理済油を再利用する上で有効な方法の一つと考えられるが、PCBの分解に使用されるアルカリ金属の平均粒子径が、通常、5〜6μm程度であることを考えれば機械的分離には限界がある。
【0008】
本発明の目的は、PCB混入絶縁油など油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで無害化し、得られる脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムを少ないエネルギーで効率的に除去することができるハロゲン化合物含有油
の無害化処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応槽と、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を機械的分離法で分離する不純物分離手段と、表面に水酸基を有し油に不溶な固体からなる固体クエンチング剤を内蔵し、前記固体クエンチング剤と前記不純物分離手段により固体状の不純物が分離された前記脱ハロゲン油とを接触させ、該脱ハロゲン油に残存する未反応の金属ナトリウムと前記固体クエンチング剤の水酸基とを反応させ、前記金属ナトリウムをクエンチングするクエンチング器と、を含
み、前記固体クエンチング剤が、粒状、ペレット状、又はボール状であり、前記クエンチング器が、流動層であり、前記流動層に未反応の金属ナトリウムが残存する前記脱ハロゲン油を供給し、前記固体クエンチング剤を流動化させながら前記金属ナトリウムをクエンチングし、破過した前記固体クエンチング剤を比重差により分離し流動層から抜き出すことを特徴とす
るハロゲン化合物含有油の無害化処理装置である。
【0010】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理
装置は、脱ハロゲン油中の固体状の不純物を機械的分離法で
分離する不純物分離手段と、さらに機械的分離法で除去しきれず脱ハロゲン油に残存する未反応の金属ナトリウムを、固体のクエンチング剤でクエンチングする
クエンチング器とを備えるので、脱ハロゲン油に含まれる未反応の金属ナトリウムを少ないエネルギーで効率的に除去することができる。また本方法は、水又はアルコールを使用したクエンチング法
と異なり、クエンチング後の後処理が不要である。また本発明で使用する
クエンチング器は、化学反応を伴うものであるから、未反応の金属ナトリウムを確実にクエンチングすることができる。
クエンチング装置は、クエンチング時間を短縮させる点から脱ハロゲン油に残存する未反応の金属ナトリウムと固体クエンチング剤とを効率的に接触させることができる装置であることが好ましい。本発明では、クエンチング装置に流動層形式のクエンチング器を用いるので、未反応の金属ナトリウムと固体クエンチング剤との接触効率を高くすることができる。固体クエンチング剤と金属ナトリウムとが反応して生成した水酸化ナトリウムは、固体クエンチング剤の表面に吸着された状態であるので、このような固体クエンチング剤は、未反応の固体クエンチング剤に比較して重くなる。これにより比重差を利用した反応済の固体クエンチング剤の抜出しが可能となり、新規固体クエンチング剤を供給しながら連続運転を行うことができる。
【0011】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理
装置は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理
装置において、前記固体クエンチング剤が、植物及び/又は動物由来の固体、合成樹脂からなることを特徴とする。
【0012】
本発明で使用する固体クエンチング剤は、表面に水酸基を有し油に不溶な固体であり、金属ナトリウムと水酸基とを反応させ金属ナトリウムをクエンチングできればよく、このような固体クエンチング剤として、植物及び/又は動物由来の固体クエンチング剤、合成樹脂からなる固体クエンチング剤を使用することができる。
【0013】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理
装置は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理
装置において、前記被処理油は、酸化変質油を含み、前記固体状の不純物には、前記酸化変質油と金属ナトリウムとが反応して生成した反応生成物も含まれることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、被処理油には、酸化変質油が含まれていてもよいので、例えばPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液を含むようなPCB混入絶縁油も被処理油とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のハロゲン化合物含有油
の無害化処理装置を用いることで、PCB混入絶縁油など油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで無害化し、得られる脱ハロゲン油に残存する未反応の金属ナトリウムを少ないエネルギーで効率的に除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置1の概略的構成を示す図である。
図2は、PCB混入絶縁油無害化処理装置1の処理手順を示すフローチャートである。以下、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とする場合を例にとり、PCB混入絶縁油無害化処理装置1の構成及び処理手順について説明する。
【0026】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、SPプロセス(soduim pulverulent dispersion)法を用いてPCB混入絶縁油を無害化する装置であり、金属ナトリウムと絶縁油に混入するPCBとを反応させPCBを脱塩素化し、脱塩素化された絶縁油(処理済油)に含まれる固体状の不純物をろ過により分離した後、さらに残存する未反応の金属ナトリウムを固体クエンチング剤を用いてクエンチングする。
【0027】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、被処理油を貯留する貯留タンク11、被処理油に含まれる水を除去する減圧蒸留槽13、PCBを金属ナトリウムと反応させ脱塩素化する反応槽15、PCBの脱塩素化を確認するための分解確認槽17、処理済油に含まれる固体状の不純物を分離するろ過器21、ろ過器21により固体状の不純物が分離された処理済油にさらに残存する未反応の金属ナトリウムをクエンチングするクエンチング装置23、残存する未反応の金属ナトリウムがクエンチングされた処理済油を貯留する処理済油タンク37を備える。
【0028】
被処理油は、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物であり、これらは貯留タンク11に貯留された後(受入工程:ステップS1)、減圧蒸留槽13に送られる。なお、被処理油はこれに限定されるものではなく、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油のみを被処理油としてもよく、さらにPCBを多く含む絶縁油を被処理油とすることができる。
【0029】
減圧蒸留槽13は、ジャケット付き攪拌槽であり、ジャケットに加熱した熱媒を供給することで被処理油を加熱する。また減圧蒸留槽13は、槽内を減圧し被処理油に含まれる水を蒸発させ凝縮し回収する減圧装置(図示を省略)を備え、貯留タンク11から送られた被処理油は、ここで90℃程度に加熱、0.0142Mpa程度に減圧され、被処理油に含まれる水が除去される(脱水工程:ステップS2)。減圧蒸留槽13で水分が除去された被処理油は反応槽15に送られる。
【0030】
反応槽15は、ジャケット付き攪拌槽であり、ここで減圧蒸留槽13で水分が除去された被処理油に金属ナトリウムが添加される。金属ナトリウムは、絶縁油中に金属ナトリウムの微粒子を分散させた金属ナトリウム分散体(SD:soduim dispersion)として反応槽15に添加される。SD中の金属ナトリウムの大きさは、平均粒子径が約6μmである。ここでは、PCBを十分に脱塩素化し、かつ分解速度(脱塩素化速度)を速めるため、PCBを脱塩素化するに必要な金属ナトリウム量を上回る量の金属ナトリウムが添加される。被処理油と金属ナトリウムとは、攪拌されながらジャケットに供給される加熱した熱媒により90℃程度まで加熱され、PCBは金属ナトリウムと反応し脱塩素化し、被処理油は無害化される(反応工程:ステップS3)。なお、金属ナトリウム分散体を添加し所定の時間経過後に、反応促進剤として所定量の水が添加される。
【0031】
本実施形態では、被処理油にPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液を含むため、被処理油中にC=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれる。C=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれるのは、柱上変圧器に紙、木が含まれ、これらの乾留物が回収絶縁油に含まれることによる。
図3は、紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。紙木類乾留物を含む絶縁油にはC=Oのピーク1750cm
−1が強く表れている。C=O結合を含む酸化変質油としては、カルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトンがある。よって、本実施形態では、PCBと金属ナトリウムとの反応の他、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応する。以下、反応槽15での代表的な反応を示す。
【0033】
以上の反応式からも分かるようにPCBが脱塩素化された被処理油(処理済油)には、反応生成物である塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、ビフェニル、ポリビフェニルの他、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応して生成した反応生成物が含まれる。さらに反応槽15には金属ナトリウムが過剰に添加されるため、処理済油には、未反応の金属ナトリウムも残存している。上記反応生成物、未反応の金属ナトリウムは、固体状となって処理済油中に分散しており、これらが固体状の不純物である。
【0034】
反応槽15でPCBが脱塩素化された処理済油は、分解確認槽17に送られ、サンプリングライン18を介してサンプリングされ、処理済油中のPCB濃度が所定の濃度以下になっているか確認される(確認工程:ステップS4)。ここでPCBが所定濃度以下に達していないことが確認されると、処理済油を反応槽15に返送し再度、PCBの脱塩素化を行う。処理済油は、PCB濃度が所定の濃度以下であることが確認されると(確認工程:ステップS5)、送油ポンプ19を介してろ過器21に送られる。分解確認槽17からろ過器21への送油に際し、処理済油を冷却するなどの温度調整操作は不要である。
【0035】
ろ過器21は、ろ材22を内蔵し処理済油に含まれる固体状の不純物である反応生成物、未反応の金属ナトリウムをろ過する(ろ過工程:ステップS6)。ろ過器21は、特定のろ過器に限定されるものではなく、固体状の不純物の粒径に対応したろ材を内蔵するろ過器を用いることができる。必要に応じてろ過助剤を用いてもよいが、スプリングフィルタ又はスプリングろ過器を使用すれば、ろ過助剤を用いなくても小さい粒径のものまで十分にろ過できる。またスプリングフィルタ又はスプリングろ過器は逆洗が容易であり好ましいろ過器と言える。もちろんスプリングフィルタ又はスプリングろ過器以外のろ過器も使用可能であり、ろ過器21は、必要に応じて2基設置し、交互に切換え運転可能としてもよい。
【0036】
柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油とPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とした場合の分解確認槽17出口でサンプリングした処理済油に含まれる固体状の不純物の大きさの一例を示せば、粒径2〜11μm、平均粒径9μmであり、目開きが1μmのろ材でろ過すれば95%以上、0.1μmのろ材でろ過すれば99%以上分離することができる。また処理済油中の固体状の不純物濃度は、約0.2重量%程度であり、固体状の不純物のうち未反応の金属ナトリウムは、約10%である。このような処理済油に含まれる固体状の不純物を、ろ過器21で迅速かつ完全に分離することができれば好ましいが、小さな粒径の固体状の不純物まで完全に分離することは、粒径、処理速度の点から現実的ではない。
【0037】
本PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、ろ過器21とろ過器21の後段に配置するクエンチング器25とで、処理済油に含まれる未反応の金属ナトリウムを除去する。粒径の大きい未反応の金属ナトリウムは、クエンチング器25でクエンチングするよりも、ろ過器21で分離する方が迅速に分離することが可能であり効率的である。一方、粒径の小さい未反応の金属ナトリウムをろ過器21で分離しようとすると、ろ材22の目開きを小さくする必要があり、ろ過速度は大幅に低下する。このような粒径の小さい未反応の金属ナトリウムは、ろ過器21で分離するよりもクエンチング器25でクエンチングする方が効率的である。以上のようにろ過器21とクエンチング器25とでは、特性が異なるので、処理済油に含まれる未反応の金属ナトリウムの粒径、濃度、さらに必要に応じて反応生成物の粒径、濃度を考慮の上、2つの装置の仕様を決定し、これら装置の特性を活かし、全体として短時間内にまた完全に未反応の金属ナトリウムを除去することができるようにすべきである。
【0038】
固体状の不純物を含む処理済油をろ過器21に通すと、固体状の不純物の大部分は分離されるが、固体状の不純物を完全に分離することはできないので、反応生成物、未反応の金属ナトリウムが僅かながら残存する。この残存した未反応の金属ナトリウムを除去するためろ過器21を通過した処理済油は、クエンチング装置23に送られる。ろ過器21からクエンチング装置23への送油に際し、処理済油を冷却するなどの温度調整操作は不要である。クエンチング装置23に送られた処理済油は、ここで処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムがクエンチングされ(クエンチング工程:ステップS7)、その後、処理済油タンク37に送られる(貯留工程:ステップS8)。
【0039】
クエンチング装置23は、固体のクエンチング剤を用いて処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムをクエンチングする。クエンチング装置23は、クエンチング器25とクエンチング器25に処理済油を圧送する送油ポンプ27とを有する。クエンチング器25は、処理済油タンク37と結ぶ出口ライン29の他、出口部と送液ポンプ27の吸入部とを結ぶ循環ライン31を備え、クエンチング器25の入口部には、圧力検出器33が装着されている。
【0040】
クエンチング器25は、ろ過器タイプの装置であり、内部にフィルター形状の固体クエンチング剤35を内蔵している。固体クエンチング剤35は、コットン製の不織布が底有り筒状に形成され、処理済油が通過可能で、処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムが固体クエンチング剤35と接触できる目開きを有する。固体クエンチング剤35を形成するコットン製の不織布は、表面に水酸基(OH基)を有するので、処理済油が固体クエンチング剤35を通過するとき、処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムが接触すると、金属ナトリウムは水酸基と反応し、水酸化ナトリウムとなる。なお、処理済油はパラフィン系の油であり、固体クエンチング剤35とは反応しない。
【0041】
本発明では、固体クエンチング剤35と未反応の金属ナトリウムとを接触させ、固体クエンチング剤35の表面の水酸基と金属ナトリウムとを反応させることで未反応の金属ナトリウムをクエンチングさせる。このため固体クエンチング剤35は、処理済油に溶解せず、表面に水酸基(OH基)を有する固体材料であればよく、金属ナトリウムとの反応性を考えれば、材料表面に多くの水酸基を有するものがより好ましい。さらに本実施形態のように固体クエンチング剤35をフィルター形状とすれば、固体クエンチング剤35と金属ナトリウムとを効率的に接触させることが可能であり好ましく、不織布以外に織物、紙、多孔質材などを使用することができる。なお、固体クエンチング剤35の形状を維持するための補強材が設けられていてもよく、フィルターの形状も特定の形状に限定されるものではない。
【0042】
このような固体クエンチング剤35には、植物及び動物由来のもの、合成樹脂由来のものがある。具体的には、セルロース、セルロースを主成分とする木、綿、麻、デンプン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、動物性蛋白質、アセテートレーヨン、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系プラスチック、ポリビニルアルコール、生分解性プラスチック、これらを原材料又はこれらを主成分とする繊維、布、紙などが例示される。
【0043】
固体クエンチング剤35として使用可能か否かの簡便な判断指標として、固体クエンチング剤35にSDを少量滴下し、そのときの発熱具合を利用することができる。たとえば、床にこぼれたSDをセルロース系の布で拭き取ると激しく発熱するが、水酸基を有していないポリプロピレン製の布で拭き取っても発熱しない。
【0044】
固体クエンチング剤35の目開きの大きさを大きくし過ぎると、処理済油が通過し易くなり、未反応の金属ナトリウムも固体クエンチング剤35と接触することなく、固体クエンチング剤35を通過してしまう。一方、固体クエンチング剤35の目開きの大きさを小さくすると未反応の金属ナトリウムが固体クエンチング剤35の表面に捕捉される。未反応の金属ナトリウムが固体クエンチング剤35の表面に捕捉されることは、未反応の金属ナトリウムと固体クエンチング剤35の表面の水酸基との反応の点からは好ましいが、処理済油が固体クエンチング剤35を通過する際の抵抗が大きくなり、処理速度が低下するため、固体クエンチング剤35の目開きの大きさを極端に小さくすべきではない。
【0045】
未反応の金属ナトリウムと固体クエンチング剤35の表面の水酸基との反応により生成する水酸化ナトリウムは、固体クエンチング剤35の表面に吸着されたままであるので、クエンチングが進行するに従って、固体クエンチング剤35の目開きが小さくなり、目が詰まってくる。以上の点から固体クエンチング剤35の目開きの大きさは、処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムの平均粒径に1〜5μmを加算した大きさが好ましく、処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムの平均粒径に2〜3μmを加算した大きさがより好ましい。なお、本PCB混入絶縁油無害化処理装置1では、ろ過器21で固体状の不純物の大部分が分離された処理済油がクエンチング器25に送られるため、クエンチング器25でクエンチングすべき未反応の金属ナトリウムの量は非常に少ない。
【0046】
クエンチング装置23の使用方法の一例を示す。ろ過器21で固体状の不純物の大部分が分離された処理済油を、送油ポンプ27を介してクエンチング器25に送る。クエンチング器25に送られた処理済油は、固体クエンチング剤35を通過し、出口部から排出される。処理済油が、固体クエンチング剤35を通過するとき、処理済油に含まれる未反応の金属ナトリウムが、固体クエンチング剤35と接触し、未反応の金属ナトリウムは、固体クエンチング剤35表面の水酸基と反応し、水酸化ナトリウムとなり固体クエンチング剤33の表面にそのまま止まる。
【0047】
クエンチング器25を一度通過させただけでは全ての未反応の金属ナトリウムをクエンチングできない場合は、循環ライン31を通じてクエンチング器25に戻せばよい。予め予備実験を行い、循環の必要の有無、循環回数、循環量などを取得しておくことが望ましい。
【0048】
クエンチング器25を通過する処理済油が増加すると共に、あるいは処理時間が増加すると共に、固体クエンチング剤35表面の水酸基の数が減少し、逆に水酸化ナトリウムの付着量が増加し、クエンチング器25を通過する際の圧力損失が上昇する。このためクエンチング器25入口部の圧力と固体クエンチング剤35の残存する水酸基の量あるいは割合との関係を取得することで、いわゆる固体クエンチング剤35の破過曲線を得ることができる。固体クエンチング剤35の破過曲線を得ておけば、クエンチング器25入口部の圧力から、固体クエンチング剤35の破過状態、より具体的には固体クエンチング剤35の残存する水酸基の量あるいは割合を把握することができる。
【0049】
上記のように本実施形態では、処理済油に含まれる固体状の不純物をろ過器21で分離した後、さらに処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムを固体クエンチング剤35を用いて、クエンチングするので、従来の水を使用したクエンチングに比較して操作が非常に簡単である。また2つの特性の異なる装置を通じて処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムを除去するので、未反応の金属ナトリウムを効率的に除去することができる。また分解確認槽17からろ過器21、さらにはろ過器21からクエンチング器25に処理済油を送るに際し、冷却等の温度操作が不要なためPCBの無害化処理を短時間で行うことができる。また水を使用したクエンチング法のようにクエンチング後の処理済油の後処理が不要であり、消費エネルギーも少ない。さらに無害化処理装置の構成が簡便であり装置全体をコンパクトにすることができる。通常、水を使用したクエンチング法の場合、クエンチング後の水を中和するために中和剤が添加される。添加した中和剤は、廃棄物の一部となるため、廃棄物量が増加するが、本実施形態の場合、中和操作が不要なため廃棄物量が増加しない。なお本実施形態の固体クエンチング剤35が破過したときは、そのまま廃棄処分するか、水で洗浄、乾燥させ再生させることもできる。
【0050】
上記実施形態では、クエンチング器25を1基使用する例を示したが、2基のクエンチング器25を並列に配置し、交互に切換えながら運転してもよい。またクエンチング器25を直列に配置し、ワンパスで完全に未反応の金属ナトリウムをクエンチングできるようにしてもよい。また循環ライン31の戻りを分解確認槽17としてもよい。
【0051】
図4は、他のクエンチング装置24の概略的構成を示す図である。
図1に示すクエンチング装置23と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。クエンチング装置24は、先に示したクエンチング装置23と同様に、固体クエンチング剤を用いて、ろ過器21を通過した処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムをクエンチングする。クエンチングのメカニズムもクエンチング装置23と同じであるが、クエンチング器41及び固体クエンチング剤43の形態が異なる。
【0052】
クエンチング装置24で使用するクエンチング器41は、流動層タイプであり、クエンチング器41は、底部に処理済油の入口部45、頂部に出口部47を有し、内部に粒状の固体クエンチング剤43が充填されている。クエンチング器41の底部から処理済油を供給し、固体クエンチング剤43を流動化させながら、処理済油に残存する未反応の金属ナトリウムと接触させ、未反応の金属ナトリウムをクエンチングする。
【0053】
固体クエンチング剤43は、未反応の金属ナトリウムと反応することで水酸基の数が減少するが、同時に反応して生成した水酸化ナトリウムが固体クエンチング剤43の表面に止まるので重量も徐々に重くなる。このため未反応の金属ナトリウムと十分に反応した固体クエンチング剤43と、未反応の固体クエンチング剤43あるいは殆ど反応していない固体クエンチング剤43とを比重差により分離することができる。これを利用して上部から未反応の固体クエンチング剤43を供給し、下部から反応済みの固体クエンチング剤43、いわゆる破過した固体クエンチング剤43を取り出すことで連続運転が可能となる。内部に充填する固体クエンチング
剤43の形態は、特に限定されないので粒状以外に、ペレット状、円柱状、ボール状のものを使用してもよい。基本的に粒径は、小さいほど比表面積が増加するので好ましいが、分離性も考慮し決定することが好ましい。極端に小さくすると処理済油との分離が難しくなる。
【0054】
上記実施形態では、処理済油に含まれる固体状の不純物を分離する装置としてろ過器21を示したが、ろ過器21に代え、遠心分離機を用いることも可能である。さらには液体サイクロン、液体サイクロン+ろ過装置を用いてもよい。要すれば処理済油に含まれる固体状の不純物を機械的分離法で効率的に分離できる装置であればよい。また上記実施形態では、ろ過器タイプ、流動層タイプのクエンチング器25、41を使用した固体クエンチング装置23、24を示したが、クエンチング器の型式は特に限定されるものではなく、固定層、充填層、移動層形式であってもよい。固体クエンチング装置は、上流側に位置する固体状の不純物を分離する装置の分離性能に応じて、仕様を決定することが好ましい。
【0055】
また上記実施形態では、PCB混入絶縁油無害化処理装置1を示したが、本発明は、脱ハロゲン油中の固体状の不純物を機械的分離法で分離し、さらに機械的分離法で除去しきれず脱ハロゲン油に残存する未反応の金属ナトリウムを、固体のクエンチング剤でクエンチングする点に特徴があり、PCB混入絶縁油以外にも、ハロゲン化合物を含有する油を金属ナトリウムで脱ハロゲン化するプロセスに本発明を好適に使用することができる。なお上記実施形態において、SD中の金属ナトリウムの大きさ、処理済油中の固体状の不純物の大きさ、量を数値で示したが、これは一例であり本発明は、この数値に限定されるものではない。