(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
煙が流入する検煙空間と、該検煙空間を横断するように形成された検煙用光路と、前記検煙空間とは分離して設けられた密閉空間と、該密閉空間を横断するように形成された補償用光路と、前記検煙用光路又は前記補償用光路に向けて発光する発光素子と、前記検煙用光路又は前記補償用光路を通過した光を受光可能に配設された受光素子と、前記発光素子から照射された光を前記検煙用光路と前記補償用光路に切換可能に案内する光路切換手段と、を有し、
前記密閉空間と前記検煙空間は上下2段に形成されており、
前記検煙空間を形成する周壁における前記光路切換手段が設置される側の第1壁は、上方に延出して前記密閉空間を形成する壁にもなっており、
前記第1壁に対向し、前記検煙空間を形成する第2壁は、上方に延出して前記密閉空間を形成する壁にもなっており、
前記光路切換手段によって切換えられた前記検煙用光路及び前記補償用光路を介して前記受光素子によって受光された受光量に基づいて火災の判別を行う火災判別手段とを備え、
前記火災判別手段は、基準状態における前記補償用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量と監視状態における前記補償用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量とに基づいて受光素子の変化率を求め、該変化率を用いて基準状態における前記検煙用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量を監視状態における煙がない状態の受光量に補正した補正値を求め、該補正値と、監視状態における前記検煙用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量とに基づいて火災判別を行うことを特徴とする減光式煙感知器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された透過光式煙感知器は、検出用光路および補償用光路という二本の光路にそれぞれ別個にパッケージングされた受光素子を配設して、各受光素子の受光信号の差に基づくことによって、単独の受光素子の、例えば埃堆積などによる経年変化を補償しようとするものである。
しかしながら、特許文献1に記載のものは、個別の2個の受光素子を用いているため、一方の受光素子で他方の受光素子の経年変化を正確に行うことはできない。なぜなら、2個の受光素子の設置位置が異なるので埃の堆積の仕方も異なることが十分考えられ、さらに温度の影響についても配設位置が異なるため、特に火災時の煙等の高温の気流の影響に差異が生ずることも考えられる。
このように、特許文献1に記載の透過光式煙感知器では、別個にパッケージングされた2個の受光素子を用いているため、高精度の補償を行うことができなかった。
【0006】
この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、光路長を長くとることが困難なスポット型の減光式煙感知器において、温度変化や埃の堆積といったノイズ源の影響を確実に排除して高精度な火災判別ができる減光式煙感知器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る減光式煙感知器は、煙が流入する検煙空間と、該検煙空間を横断するように形成された検煙用光路と、前記検煙空間とは分離して設けられた補償用光路と、前記検煙用光路又は前記補償用光路に向けて発光する発光素子と、前記検煙用光路又は前記補償用光路を通過した光を受光可能に配設された受光素子と、前記発光素子から照射された光を前記検煙用光路と前記補償用光路に切換可能に案内する光路切換手段と、該光路切換手段によって切換えられた前記検煙用光路及び前記補償用光路を介して前記受光素子によって受光された受光量に基づいて火災の判別を行う火災判別手段とを備えたことを特徴とするものである。
火災判別手段は一例として、基準状態における前記補償用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量と監視状態における前記補償用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量とに基づいて受光素子の変化率を求め、該変化率を用いて基準状態における前記検煙用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量を監視状態における煙がない状態の受光量に補正した補正値を求め、該補正値と、監視状態における前記検煙用光路を通過して前記受光素子によって受光された受光量とに基づいて火災判別を行う。
【0008】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記検煙用光路と前記補償用光路は上下2段に形成されていることを特徴とするものである。
例えば、減光式煙感知器を天井面に取り付けた状態において、天井面に近い側に補償用光路が形成され、その下方に検煙用光路が形成されている。
【0009】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記光路切換手段は、反射ミラーを備えた光路切換部材を上下動させることによって、光路を切り換えることを特徴とするものである。
より具体的な構成を示すと、以下のようなものが例示できる。
検煙用光路が形成される検煙空間を構成する箱体と、該箱体の上方に配置されて補償用光路が形成される密閉空間を構成する箱体と、これら検煙空間と密閉空間を形成する箱体の側方に、空間を介して発光素子と受光素子を配置し、発光素子及び受光素子と検煙空間及び密閉空間との間に反射ミラーを備えた光路切換部材を設置して、該光路切換部材を上下動させることで、発光素子の発光を前記検煙用光路と前記補償用光路に切り換える。
【0010】
(4)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記光路切換手段は、反射ミラーを備えた光路切換部材を回動させることによって、光路を切り換えることを特徴とするものである。
より具体的な構成を示すと以下のようなものが例示できる。
検煙用光路が形成される検煙空間を構成する検煙空間形成部材と、該検煙空間形成部材の上方に回動可能に設置されて補償用光路が形成されると共に反射ミラーを備えた光路切換部材とを備え、該光路切換部材の上方に発光素子と受光素子を配置して、発光素子の発光を、前記光路切換部材の回動によって前記検煙用光路と前記補償用光路に切り換える。
【0011】
(5)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記検煙用光路及び前記補償用光路に反射ミラーが設けられ、前記検煙用光路及び前記補償用光路は往路と復路からなることを特徴とするものである。
【0012】
(6)また、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載のものにおいて、前記火災判別手段は、受光量に基づいて減光率を演算し、該減光率に基づいて火災の判別を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の減光式煙感知器によれば、補償用光路と検煙用光路を分離して設け、発光素子から照射された光を前記検煙用光路と前記補償用光路に切換可能に案内する光路切換手段と、光路切換手段によって切換えられた検煙用光路及び補償用光路を介して受光素子によって受光された受光量に基づいて火災の判別を行う火災判別手段を備えたので、受光素子の例えば温度や埃の堆積等に起因する出力値の変化(ノイズの影響)を精度良く補償することができ、正確な火災判別を行うことができる。
また、単一の受光素子を用いているので、従来例で示した2つの受光素子を用いた場合のように、分離配設されることに起因する受光量の差異も生じることがなく、また、個体間の特性のバラツキも生じない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
図1〜
図10に基づいて本実施の形態に係る減光式煙感知器1を説明する。
本実施の形態に係る減光式煙感知器1は、筐体3内に、煙が流入する検煙空間5と、該検煙空間5を横断するように形成された検煙用光路7(
図3参照)と、検煙空間5とは分離して設けられた密閉空間8と、該密閉空間8を横断するように形成された補償用光路9(
図4参照)とを有している。
また、検煙用光路7又は補償用光路9に向けて発光する発光素子としてのLED(発光ダイオード)11と、検煙用光路7又は補償用光路9を通過したLED11の光を受光可能に配設された受光素子としてのPD(フォトダイオード)13を備えている。
また、LED11から照射された光を検煙用光路7と補償用光路9に切換可能に案内する光路切換手段15を備えている。
【0016】
また、本実施の形態に係る減光式煙感知器1は、
図5に示すように、PD13の受光信号に基づいて火災の判別を行う火災判別手段17a、LED11の発光制御を行う発光制御手段17b、光路切換機構37を制御する光路切換機構制御手段17cを構成するMPU17や、ROM19及びRAM21等が搭載された回路基板23と、火災判別手段17aによって火災発生があると判別されたときに、火災信号を火災受信機33に送信する送受信回路25を備えている。
各構成をさらに詳細に説明する。
【0017】
<筐体>
筐体3は、例えば
図1に示すように、直方体状のボックス形状、詳細には、下部に開口部27を有する断面略コ字形状からなり、大きく分けて検煙空間5と、密閉空間8と、光路切換手段15を形成する部分の3つをその内部に形成している。
【0018】
<検煙空間>
検煙空間5は、筐体3内における下部に形成され、煙が導入される空間である。
検煙空間5は、両側部及び底部に煙の導入口となる開口部27を有する箱体によって形成されている。
また、検煙空間5を形成する周壁における光路切換手段15が設置される側の第1壁29は、LED11の光を透過する部材、例えば透明体によって形成されている。第1壁29は上方に延出して密閉空間8を形成する壁にもなっている。
透明体の第1壁29に対向する第2壁31の内面にはLED11の光を反射する第1反射ミラー32が設置されている。第2壁31も第1壁29と同様に上方に延出して密閉空間8を形成する壁となっている。
【0019】
<密閉空間>
密閉空間8は検煙空間5の上方に形成され、該密閉空間8内に補償用光路9が形成される。密閉空間8を形成する周壁における光路切換手段15が設置される側の第1壁29は、上記検煙空間5の説明で述べたように、LED11の光を透過する部材、例えば透明体によって形成されている。
また、第1壁29に対向する第2壁31の内面には、検煙空間5と同様にLED11の光を反射する第2反射ミラー35が設置されている。
【0020】
<光路切換手段>
光路切換手段15は、機械的な動作によって光路を切り換える光路切換機構37と、光路切換機構37を駆動させる駆動装置(図示なし)と、該駆動装置を制御する光路切換機構制御手段17cによって構成される。
光路切換機構37は、検煙空間5及び密閉空間8の側部に形成された光路切換ブロック収容室39と、該光路切換ブロック収容室39に上下動可能に収容された光路切換ブロック41を備えている。
光路切換ブロック収容室39の天井面は、傾斜面となっていて、該傾斜面に第3反射ミラー43が設置されている。
光路切換ブロック41には、LED11の発光が出射するためのLED用窓45と、LED11の光がPD13に入射するためのPD用窓47とが設けられている。
光路切換ブロック41の上面には傾斜部が形成され、傾斜部にはLED11の光を反射する第4反射ミラー49が設置されている。
駆動装置は、例えばカムとカムを回転させるモータからなり、光路切換ブロック41の底面にカムを当接させ、該カムを回転させることで光路切換ブロック41を上下動させるようにする。なお、カム以外の駆動装置でもよい。
駆動装置の制御は、光路切換機構制御手段17cの指令により行われ、光路切換機構制御手段17cは、所定時間間隔で光路切換ブロック41を上下動させるように制御する。
【0021】
<検煙用光路>
検煙用光路7は、
図3に示すように、検煙空間5に形成される光路であって、LED11から照射された光が、光路切換ブロック41のLED用窓45、検煙空間5、第1反射ミラー32、検煙空間5、PD用窓47を通過して、PD13に至るまでの光の通過路である。
【0022】
<補償用光路>
補償用光路9は、煙が流入しない密閉空間8に形成される光路であって、
図4に示すように、LED11から照射された光が、光路切換ブロック41の第4反射ミラー49、光路切換ブロック収容室39、光路切換ブロック収容室39の第3反射ミラー43、密閉区間8、第2反射ミラー35、密閉空間8、光路切換ブロック収容室39の第3反射ミラー43、光路切換ブロック収容室39、光路切換ブロック41の第4反射ミラー49を通過して、PD13に至るまでの光の通過路である。
【0023】
<LED>
LED11は本発明の発光素子に相当するものであり、
図5に示すように、発光制御手段17bの制御信号に基づいて発光制御回路28から発信される信号によって発光が制御される。
LED11は、
図1、
図3に示すように、光路切換ブロック収容室39側に向けて発光できるように、例えば発光制御回路28が実装されたプリント基板に搭載されて、光路切換ブロック収容室39の検煙空間5等と相対する側部に設置されている。
【0024】
<PD>
PD13は本発明の受光素子に相当するものであり、LED11から照射された光を受光して受光信号を出力する。受光信号は、受光増幅回路34によって増幅されてMPU17側に送信され、A/D変換されて、MPU17に入力される。
PD13は、
図1、
図3に示すように、光路切換ブロック収容室39側からの光を受光できるように、LED11と同様、例えば受光増幅回路34が実装されたプリント基板に搭載されて設置されている。
【0025】
<回路基板>
回路基板23には、プログラムを記憶するROM19や、データの記憶と読出しができるRAM21や、ROM19に記憶されているプログラムを読み出して各種の機能手段を実現するMPU17やA/D変換器やD/A変換器等が搭載されている。火災判別手段17aや発光制御手段17bは、MPU17がプログラムを読み出して実行することによって実現される。なお、ROM19、RAM21等もMPU17の内部に設けるようにしてもよい。
【0026】
<火災判別手段>
火災判別手段17aは、基準状態において補償用光路9を通過してPD13に受光された受光量を基準値とし、該基準値と、監視状態において補償用光路9を通過してPD13に受光された受光量とに基づいて受光量の変化率を求め、当該変化率と、基準状態及び監視状態においてPD13によって受光される受光量とに基づいて火災の判別を行う。火災判別手段17aの処理動作の詳細は後述する。
なお、基準状態とは、煙のない状態であり、例えば減光式煙感知器1を設置した当初の状態をいい、監視状態とは、減光式煙感知器1を設置して火災の有無を監視している状態をいう。
【0027】
火災判別手段17aの火災判別は、煙による減光率が予め定めた閾値を超えているかどうかによって行う。煙による減光率とは、下式で定義される。
減光率[%]={1-(PD13の煙ありの受光出力)/(PD13の煙なしの受光出力)}×100
【0028】
<送受信回路>
送受信回路25は、火災判別手段17aによって火災発生ありと判別されたときに、火災信号を火災受信機33に送信する。また、火災受信機33からの各種信号を受信する。
【0029】
次に、上記のように構成された本実施の形態の減光式煙感知器1の動作を説明する。減光式煙感知器1の動作としては、減光式煙感知器1を設置した当初に基準値の取得のために行う基準値取得動作と、監視状態において基準値に基づいてPD13による受光信号の出力値の変化率を求め、この変化率を用いて火災の有無を判別する火災判別動作とがある。以下、各別に説明する。
【0030】
<基準値取得動作>
基準値取得動作は、減光式煙感知器1を設置した当初に行うものであって、受光素子であるPD13が経年あるいは温度による変化を生ずる前の基準値を取得する動作である。
図4に示すように、光路切換ブロック41を下動させた状態でLED11を発光し、補償用光路9を通過する光をPD13で受光して受光信号の出力値を求め、RAM21に記憶する。この補償用光路9を通過したときのPD13による受光信号の出力値を受光出力Aと表記し、特に基準値取得動作のときに取得された受光出力Aを基準受光出力Aと表記し、後述する監視状態において取得される受光出力Aを現在受光出力Aと表記する。
なお、基準受光出力Aの具体例としては、例えば、40mVである。
【0031】
また、
図3に示すように、光路切換ブロック41を上動させた状態でLED11を発光し、検煙用光路7を通過したときのPD13による受光信号の出力値を受光出力Bと表記する。特に基準値取得動作のときに取得された受光出力Bを基準受光出力Bと表記し、後述する監視状態において取得される受光出力Bを現在受光出力Bと表記する。
なお、基準受光出力Bの具体例としては、例えば、40mVである。
【0032】
<火災判別動作>
火災判別動作は、監視状態において、常時(例えば、5秒ごと)、火災判別手段17aによって行われるものである。
火災判別動作の処理の全体の流れは、
図6に示すように、LED11を発光させてPD13によって受光して現在受光出力A及び現在受光出力Bを記憶する受光出力入力処理(S1)を行い、基準受光出力Aと現在受光出力Aに基づいて出力変化率を算出する出力変化率算出(S2)を行う。
そして、出力変化率に基づいて、基準受光出力Bを監視状態において煙がない状態で検煙用光路7を通過したときに得られるであろう現在受光出力に補正する補正処理を行い(S3)、さらに減光率dを算出し(S4)、算出した減光率dが閾値k以上かどうかの判断を行う(S5)。
S5の判断において算出した減光率dが閾値k以上の場合には火災信号を送出する(S6)。他方、S5の判断において算出した減光率dが閾値k未満の場合にはS1の処理に戻って同様の処理を繰り返す。
以下、各処理の内容をより詳細に説明する。
【0033】
[受光出力入力処理]
受光出力入力処理の内容を、
図7に基づいて説明する。
受光出力入力処理は、光路切換ブロック41を下動させ(S11)(
図4参照)、LED11を発光し(S12)、PD13で得られた現在受光出力Aを入力し(S13)、入力された現在受光出力AをRAM21に格納する(S14)。そして、LED11は消灯する。
次に、光路切換ブロック41を上動させ(15)(
図3参照)、LED11を発光し(S16)、PD13で得られた現在受光出力Bを入力し(S17)、入力された現在受光出力BをRAM21に格納する(S18)。そして、LED11は消灯する。
以上のS11〜S18の処理を所定時間、例えば5秒間隔で繰り返す。
【0034】
PD13が経年による埃の堆積、あるいは温度による影響を受けている場合には、一例として、ここでは、埃の堆積の増加、あるいは温度上昇による影響を受けているとすると、現在受光出力Aは、設置当初の基準受光出力A(40mV)よりも低下して、例えば20mVとなる。
ここで、検煙空間5に煙が存在しない場合であって、PD13が経年による埃の堆積、あるいは温度による影響を受けている場合には、現在受光出力Bは、PD13と同様の割合で、設置当初の基準受光出力B(40mV)よりも低下して、20mVとなる。
他方、検煙空間5に煙が存在する場合であって、PD13が経年による埃の堆積、あるいは温度による影響を受けている場合には、現在受光出力Bは、ノイズ源の影響に加えて、煙の影響が加算されるため、更に低下し、例えば10mVとなる。
【0035】
なお、PD13が経年による埃の堆積、あるいは温度による影響を受けている場合とは、設置当初と比較して、埃の堆積が増加または減少しているか、あるいは温度が上昇または低下しているかということであって、上記のとおり、埃の堆積が増加あるいは温度が上昇している場合は、これらノイズ源の影響により、現在受光出力A又はBは、対応する設置当初の基準受光出力A又はBよりも低下する。一方、埃の堆積が減少あるいは温度が低下している場合は、これらノイズ源の影響により、現在受光出力A又はBは、対応する設置当初の基準受光出力A又はBよりも増加する。また、温度の影響による現在受光出力A又はBの変化は、PD13の受光量の温度特性だけに限らず、LED11の発光量の温度特性も加味された出力変化となる。
【0036】
[出力変化率算出]
出力変化率算出の処理の内容を
図8に基づいて説明する。
出力変化率算出は、基準受光出力Aと現在受光出力Aに基づいて出力変化率を算出する処理である。具体的には、基準値取得動作によってRAM21に格納されている基準受光出力A及び受光出力入力処理によってRAM21に格納された現在受光出力Aに基づいて、出力変化率α=(現在受光出力A)/(基準受光出力A)を算出し(S21)、算出した出力変化率αをRAM21に格納する(S22)。
例えば、現在受光出力A=20mV、基準受光出力A=40mVとすれば、出力変化率α=20/40=0.5となる。
【0037】
[補正処理]
補正処理は、出力変化率に基づいて、基準受光出力Bを、検煙空間5に煙が存在しない状態において検煙用光路7を光が通過したときにPD13によって得られるであろう現在受光出力Cに補正する処理である。
【0038】
補正処理の具体的な動作としては、基準値取得動作によってRAM21に格納されている基準受光出力Bを読み出して、現在受光出力C=基準受光出力B×出力変化率αを算出し(S31)、算出した現在受光出力CをRAM21に格納する(S32)。
例えば、基準受光出力B=40mV、出力変化率α=0.5とすれば、現在受光出力C=40×0.5=20mVとなる。
【0039】
[減光率dの算出]
減光率dは、受光出力入力処理によってRAM21に格納されている現在受光出力B及び補正処理によって得られた現在受光出力Cに基づいて、減光率d[%]={1-現在受光出力B/現在受光出力C}×100によって求め(S41)、求めた減光率dをRAM21に格納する(S42)。
例えば、検煙空間5に煙が存在しない場合には、現在受光出力Bは前述のように20mVとなる。また、現在受光出力Cは、前述のように20mVとなる。
したがって、この場合の減光率dは、減光率d={1-20/20}×100=0[%]となる。これは、検煙空間5に煙が存在しないという状態に一致している。
この場合、S5の判断においては、減光率dが閾値Kを超えないので、火災信号を送出しない(
図6参照)。
【0040】
他方、検煙空間5に煙が存在する場合には、現在受光出力Bは前述のように10mVとなる。また、現在受光出力Cは20mVとなる。
したがって、この場合の減光率dは、減光率d={1-10/20}×100=50[%]となる。これは、検煙空間5に煙が存在するという状態に一致している。
この場合、S5の判断においては、減光率dが閾値k(例えば、10%)を超えることになるので、火災信号を送出する(
図6参照)。
【0041】
以上のように、本実施の形態の減光式煙感知器1によれば、受光素子として単一のPD13を用い、しかも火災判別動作を行うときに、基準受光出力Aと現在受光出力Aとに基づいて、PD13による受光信号の出力変化率を求め、出力変化率に基づいてPD13の出力値を補正するようにしているので、PD13の例えば温度や埃の堆積等に起因する出力値の変化(ノイズの影響)を精度良く補償することができ、正確な火災判別を行うことができる。また、受光素子として単一のPD13を用いているので、従来例で示した2つの受光素子を用いた場合のように、分離配設されることに起因する受光量の差異も生じることがなく、また、個体間の特性のバラツキも生じない。
【0042】
また、本実施の形態においては、検煙用光路7がLED11から第1反射ミラー32に向う往路と、第1反射ミラー32からPD13に向う復路によって構成されるので、検煙用光路を長くすることができ、受光量の変化率を大きくすることができるので、スポット型の減光式煙感知器でありながら、感度に優れる。
なお、上記実施の形態においては、検煙用光路7および補償用光路9は往路と復路によって構成したが、単路としてもよい。その場合、第2壁31側にPD13をLED11と対向して配置すると共に、光路切換機構37も設けるようにする。
【0043】
なお、上記実施の形態においては、上記「煙なしの受光出力」(基準受光出力B)と上記PD13の出力変化率とに基づいて、上記「煙なしの受光出力」を、前記現在受光出力B(監視状態)と同様のノイズ源発生状態にあるときの現在受光出力C(補正基準値)に補正した。そして、当該現在受光出力C(補正基準値)と、現在受光出力B(第二の監視値)に基づいて、減光率を算出して火災の判別を行った。
しかしながら、上記「煙なしの出力」の代わりに上記「煙ありの出力」についてノイズ源に関する補正を行うようにして、これを用いて火災判別を行うようにすることもできる。つまり、上記「煙ありの受光出力」(現在受光出力B)と上記PD13の出力変化率とに基づいて、上記「煙ありの受光出力」を、前記基準受光出力B(基準状態)と同様のノイズ源発生状態にあるときの基準受光出力C(補正監視値)に補正する。そして、当該基準受光出力C(補正監視値)と、基準受光出力B(第二の基準値)に基づいて、減光率を算出して火災の判別を行うこともできる。
また、減光率を用いて火災を判別したが、煙濃度などを用いて火災判別を行ってもよい。
また、前記実施の形態において、基準状態として、減光式煙感知器1を設置した当初の状態で説明したが、これに限定されず、所定期間の現在受光出力Aおよび現在受光出力Bの移動平均値を基準受光出力Aおよび基準受光出力Bとするなど、公知の平均化処理などにより、基準受光出力Aおよび基準受光出力Bとしてもよい。
【0044】
[実施の形態2]
本発明の実施の形態2を
図11〜
図24に基づいて説明する。
本実施の形態の減光式煙感知器51が、実施の形態1と大きく異なる点は以下の通りである。実施の形態1の筐体3は直方体状であった、本実施の形態2の筐体53は略円筒形である。また、実施の形態1においては光路の切換を行う光路切換機構37において光路を切り換えるための動きの方向が上下方向であったが、本実施の形態2においては光路の切換を行うための動きの方向が回転方向である点である。
以下、本実施の形態の減光式煙感知器51を詳細に説明する。
【0045】
本実施の形態の減光式煙感知器51は、円形の有底枠体状の本体55と、本体55内に設置されてLED11、PD13及び回路等が搭載されたPC板57と、補償用光路59を形成すると共に補償用光路59と検煙用光路61を切り換る光路切換手段63と、検煙空間64を形成する検煙空間形成部材65とを備えている。
各構成をさらに詳細に説明する。
【0046】
<本体>
本体55は、
図14、
図15に示すように、有底枠体状をしており、中央部には光路切換機構81の回動軸85が挿通される挿通孔67が設けられている。
また、本体55には、
図14、
図15に示すように、PC板57を取り付けるためのネジ止め孔69が同一の円周上に4箇所設けられている。さらに、本体55の開口側の縁部には、検煙空間形成部材65の位置決めをするための切欠き71が3箇所設けられている。
【0047】
<PC板>
PC板57は本体55内に設置されて、
図16、
図17に示すように、発光方向、受光方向が下側(後述する光路切換部材83、検煙空間形成部材65側)になるようにLED11、PD13を搭載し、
図16、
図17では図示を省略しているが、その他の回路等を搭載している。PC板57に搭載される回路等は、実施の形態1において
図5に基づいて説明したものと同様であり、PD13の受光信号に基づいて火災の判別を行う火災判別手段17aを構成するMPU17や、ROM19及びRAM21等が搭載された回路基板23と、火災判別手段17aによって火災発生があると判別されたときに、火災信号を火災受信機33に送信する送受信回路25等である。
【0048】
PC板57には、
図16に示すように、PC板57を本体55に固定するための固定用ネジ孔73が4個設けられており、この固定用ネジ孔73にネジ(図示せず)を挿通して本体55にネジ固定されている。また、PC板57の中央部には光路切換部材83の回動軸85が挿通される挿通孔75が設けられている。
さらに、PC板57には、径方向に2段になるように、2本の長穴状のガイド溝77が設けられている。ガイド溝77には、光路切換部材83のガイド軸93(
図18参照)が挿入され、光路切換部材83の回動をガイドするようになっている。
【0049】
<光路切換手段>
光路切換手段63は、機械的な動作によって光路を切り換える光路切換機構81と、光路切換機構81を駆動させる駆動装置(図示なし)と、該駆動装置を制御する光路切換機構制御手段17c(
図5参照)によって構成される。
光路切換機構81は、補償用光路59が形成されると共に補償用光路59と検煙用光路61を切り換る光路切換部材83を備えてなる。
光路切換部材83は、
図18、
図19に示すように、全体の形状が円形の有底枠体状をしている。中央部には回動軸85が形成されている。また、
図18、
図19に示すように、光路切換部材83の内面側(PC板57に対向する側)には、補償用光路59が形成されている。補償用光路59は、矩形状の枠部87、その両端に形成された傾斜部に設置された第5反射ミラー89、第6反射ミラー91の2つの反射ミラーによって形成され、
図19に示すように、LED11で発光された光が第5反射ミラー89に反射され、第6反射ミラー91によってさらに反射されてPD13に入射されるという経路となる。
【0050】
補償用光路59の中程の両側の壁部には、光路切換部材83の回動を案内する2本のガイド軸93が形成されている。ガイド軸93はPC板57に形成されたガイド溝77に挿入され、ガイド溝77にガイドされてガイド溝77内を移動する。
回動軸85には、図示しない駆動装置が連結され、回動軸85を所定の回転角度の範囲、すなわちガイド軸93がガイド溝77の一端から他端まで移動できる回転角度の範囲で正逆方向に回転させる。駆動装置に例としては、例えばサーボモータのようなものでもよい。
【0051】
光路切換部材83は、補償用光路59の部分は光を透過しないように例えば着色されており、他方、補償用光路59以外の部分は光が検煙空間64側に透過するように、例えば透明になっている。
【0052】
<検煙空間形成部材>
検煙空間形成部材65は、煙を導入して検煙空間64を形成する部材であり、
図21に示すように、外形の断面形状が逆台形状になっている。外周部には、煙を導入するための開口部95が複数設けられている。
検煙空間形成部材65の底部の2箇所には、傾斜部が形成され、該傾斜部に光を反射する第7反射ミラー97、第8反射ミラー99が設置されている。また、第7反射ミラー97と第8反射ミラー99に対向する側壁には、第9反射ミラー101が設置されている。
LED11で発光した光は、光路切換部材83を透過すると、
図20、
図21に示すように、第7反射ミラー97によって反射されて対向する側壁の第9反射ミラー101で反射され、第8反射ミラー99でさらに反射されてPD13に入射する。この光路が検煙用光路61となる。
【0053】
次に、上記のように構成された本実施の形態2の減光式煙感知器51の動作を説明する。減光式煙感知器51の動作に関し、光路切換機構81の動作が、実施の形態1と異なり、その他の動作、つまり、基準値取得動作と火災判別動作は実施の形態1と同じである。
そこで、以下においては、光路切換機構81の動作を説明する。
光路切換機構81は、光路切換部材83が駆動装置によって、所定の時間間隔で所定の角度範囲を回動する。
図22に示すように、光路切換部材83のガイド軸93がガイド溝77の図中一端にあるときには、LED11及びPD13は補償用光路59から外れた状態となる。この状態においては、LED11の発光は、検煙空間64を通過することになる。より具体的に説明すると、LED11の光は光路切換部材83を透過して、
図20、
図21に示すように、第7反射ミラー97で反射され、検煙空間64を通過して、第9反射ミラー101で反射され、再び検煙空間64を通過して、第8反射ミラー99で反射されてPD13に入射する。
【0054】
他方、
図23に示すように、光路切換部材83のガイド軸93がガイド溝77の図中他端にあるときには、LED11とPD13が補償用光路59に対向する位置になる。この状態においては、LED11の発光は補償用光路59を通過することになる。より具体的に説明すると、LED11の光は、
図19(a)に示すように、補償用光路59の第5反射ミラー89で反射され、補償用光路59を通過して、第6反射ミラー91で再び反射してPD13に入射する。
【0055】
光路切換部材83の回動動作は、光路切換機構制御手段の制御信号によって制御され、所定の時間間隔で光路が、検煙用光路61と補償用光路59に切り換えられる。
本実施の形態2の光路切換機構81は、回動動作によって光路を切り換えるようにしているので、動きがスムーズになり、安定した動作が実現できる。
また、実施の形態1で得られるその他の効果も同様に得ることができる。