(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明のギヤ油組成物における潤滑油基油は、少なくとも(A)100℃における動粘度が2〜6mm
2/s、%C
Aが0.5以下、3級炭素分が7%以上の鉱油系潤滑油基油(以下(A)成分という。)に(B)100℃における動粘度が10〜70mm
2/sの溶剤精製鉱油系潤滑油(以下(B)成分という。)が含有されてなるものである。好ましくはさらに(C)100℃における動粘度が2〜10mm
2/sのエステル系基油(以下(C)成分という。)が配合される。
【0014】
(A) 成分の潤滑油基油は100℃における動粘度が、2mm
2/s以上であることが必要であり、好ましくは2.5mm
2/s以上、さらに好ましくは3mm
2/s以上である。また6mm
2/s以下であることが必要であり、好ましくは5mm
2/s以下、より好ましくは4.5mm
2/s以下、さらに好ましくは4mm
2/s以下である。(A) 成分の潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm
2/s未満の場合は、極圧性やベアリングの疲労寿命が著しく低下することにより装置の信頼性が低下するため好ましくない。一方、6mm
2/sを超えると粘度増加により省エネ性が低下するとの観点より好ましくない。
【0015】
(A) 成分の潤滑油基油の%C
Aは0.5以下であることが必要であり、0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。(A)成分の潤滑油基油の%C
Aを0.5以下とすることで、酸化安定性に優れた組成物を得ることができる。
なお、本発明でいう%C
Aとは、ASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。
【0016】
(A) 成分の潤滑油基油の3級炭素分は7%以上であることが必要である。ここで、3級炭素分とは、構成炭素の全量に占める3級炭素の割合のことであり、
13C−NMRにより測定される、全炭素の積分強度の合計に対する3級炭素(>CH−)の炭素原子に起因するシグナルの積分強度の合計の割合を意味する。
なお、本発明では、
13C−NMRの測定の際に、サンプルとして試料0.5gに重クロロホルム3gを加えて希釈したものを使用し、測定温度を室温、共鳴周波数を100MHzとした。また、測定方はゲート付でカップリング法を使用した。ただし、同等の結果が得られるのであればその他の方法を用いてもよい。
本発明においては、(A) 成分の潤滑油基油の構成炭素の全量に占める3級炭素の割合が7.0〜11.0%であることが好ましく、より好ましくは7.5〜10.0%である。3級炭素の割合を上記範囲内とすることで、粘度温度特性及び熱・酸化安定性に優れた潤滑油基油を得ることができる。
【0017】
(A) 成分の鉱油系潤滑油基油としては、100℃における動粘度、%C
Aおよび3級炭素分が上述の要件を具備する限り特に限定されるものではないが、水素化分解鉱油系基油が好ましい。また、石油系あるいはフィッシャートロピッシュ合成油等のワックスを50質量%以上含む原料を異性化して得られるワックス異性化イソパラフィン系基油も好ましく用いられる。これらは、単独でも任意に混合して使用することができるが、ワックス異性化基油を単独で使用することが好ましい。なおワックス異性化基油の場合、%C
Aは実質的に0である。
【0018】
(A)成分の潤滑油基油の粘度指数については格別の限定はないが、90以上であることが好ましく、より好ましくは110以上、特に好ましくは120以上であり、通常200以下、好ましくは160以下である。粘度指数を90以上とすることによって、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示す組成物を得ることができる。一方、粘度指数が高すぎると疲労寿命に対して効果が小さい。
【0019】
また、(A)成分の潤滑油基油の硫黄含有量については格別の限定はないが、0.05質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましい。(A)成分の硫黄含有量を低減することで酸化安定性により優れた組成物を得ることができる。
【0020】
基油中の(A)成分の含有量は、基油組成物全量基準で、40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、特に好ましくは60質量%以上であり、また好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
(A)成分の含有量は、疲労寿命ならびに低温粘度特性を最も優れた性能にするため、(B)成分および後述する(C)成分とのバランスにより適宜決定し得る。
【0021】
本発明のギヤ用潤滑油組成物における(B)成分の潤滑油基油は、100℃における動粘度が10〜70mm
2/sの溶剤精製鉱油系潤滑油である。100℃における動粘度は10mm
2/s以上であり、好ましくは20mm
2/s以上、さらに好ましくは30mm
2/s以上である。また70mm
2/s以下であり、好ましくは60mm
2/s以下、さらに好ましくは55mm
2/s以下である。
【0022】
(B)成分の溶剤精製鉱油系潤滑油としては、パラフィン系あるいはナフテン系原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、溶剤脱ろう等の溶剤精製処理を行って得られる潤滑油が挙げられる。また、溶剤精製に加えて、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせてもよい。
【0023】
(B)成分の潤滑油基油の硫黄含有量については格別の限定はないが、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。また1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが特に好ましい。これは、硫黄分が少なすぎると疲労寿命への効果が不足し、高すぎると組成物の酸化安定性を阻害するためである。
【0024】
基油中の(B)成分の含有量は、基油組成物全量基準で、2質量%以上であり、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは15質量%以上である。また40質量%以下、好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。(B)成分の含有量は、ギヤ油組成物の疲労寿命特性を大きく左右するため、前述の組成であることが必須である。また低温粘度特性、さらには酸化安定性を最も優れた性能にするため、(A)成分ならびに後述する(C)成分とのバランスにより適宜決定するのが好ましい。
【0025】
本発明のギヤ用潤滑油組成物においては、基油として前記(A)成分および(B)成分に加え、さらに(C)成分として100℃における動粘度が2〜10mm
2/sのエステル系基油を配合することが好ましい。
【0026】
ここでいうエステルは有機酸エステルであり、具体的には、以下に示す1価アルコール類又は多価アルコールと1塩基酸又は多塩基酸とのエステル等が例示される。
(a)1価アルコールと1塩基酸とのエステル
(b)多価アルコールと1塩基酸とのエステル
(c)1価アルコールと多塩基酸とのエステル
(d)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(e)1価アルコール及び多価アルコールとの混合物と、多塩基酸との混合エステル
(f)多価アルコールと、1塩基酸及び多塩基酸の混合物との混合エステル
(g)1価アルコール及び多価アルコールとの混合物と、1塩基酸及び多塩基酸の混合物との混合エステル
【0027】
上記1価アルコール又は多価アルコールとしては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜18の炭化水素基を有する1価アルコール又は多価アルコール類が挙げられる。
また、上記1塩基酸又は多塩基酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数4〜20、より好ましくは炭素数6〜18の炭化水素基を有する1塩基酸又は多塩基酸類が挙げられる。
ここでいう炭素数1〜30の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等の炭化水素基が挙げられる。
【0028】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数4〜20のアルキル基、特に好ましくは炭素数6〜18のアルキル基である。
【0029】
アルケニル基としては、ビニル基、直鎖又は分枝のプロペニル基、直鎖又は分枝のブテニル基、直鎖又は分枝のペンテニル基、直鎖又は分枝のへキセニル基、直鎖又は分枝のヘプテニル基、直鎖又は分枝のオクテニル基、直鎖又は分枝のノネニル基、直鎖又は分枝のデセニル基、直鎖又は分枝のウンデセニル基、直鎖又は分枝のドデセニル基、直鎖又は分枝のトリデセニル基、直鎖又は分枝のテトラデセニル基、直鎖又は分枝のペンタデセニル基、直鎖又は分枝のヘキサデセニル基、直鎖又は分枝のヘプタデセニル基、直鎖又は分枝のオクタデセニル基、直鎖又は分枝のノナデセニル基、直鎖又は分枝のイコセニル基、直鎖又は分枝のヘンイコセニル基、直鎖又は分枝のドコセニル基、直鎖又は分枝のトリコセニル基、直鎖又は分枝のテトラコセニル基等の炭素数2〜30のアルケニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数4〜20のアルケニル基、特に好ましくは炭素数6〜18のアルケニル基である。
【0030】
また、上記1価アルコール類としては、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール(1−プロパノール、2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール)、ペンタノール(1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール)、ヘキサノール(1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,2−ジメチルブタノール)、ヘプタノール(1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−メチル−1−ヘキサノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−メチル−3−ヘキサノール、5−メチル−2−ヘキサノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、4,4−ジメチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ヘキサノール、4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、2−エチルペンタノール)、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−メチル−3−ヘプタノール、6−メチル−2−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキサノール、2−メチル−1−ヘプタノール、2,2−ジメチル−1−ヘキサノール)、ノナノール(1−ノナノール、2−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、5−メチルオクタノール等)、デカノール(1−デカノール、2−デカノール、4−デカノール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、2,4,6−トリメチルヘプタノール等)、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール等)、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、トリコサノール、テトラコサノール等の炭素数1〜30の1価アルキルアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良い。);エテノール、プロペノール、ブテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、オクタデセノール(オレイルアルコール等)等炭素数2〜40の1価アルケニルアルコール類(これらアルケニル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、二重結合の位置も任意である。)等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0031】
上記多価アルコール類としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ヘプタデカンジオール、1.16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−イコサデカンジオール等の炭素数2〜30の2価のアルキル又はアルケニルジオール類(これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルケニル基の二重結合の位置は任意であり、ヒドロキシル基の置換位置も任意である。);グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等のトリメチロールアルカン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等、及びこれらの重合体又は縮合物(例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のグリセリンの2〜8量体等、ジトリメチロールプロパン等のトリメチロールプロパンの2〜8量体等、ジペンタエリスリトール等のペンタエリスリトールの2〜4量体等、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等の縮合化合物(分子内縮合化合物、分子間縮合化合物又は自己縮合化合物))等が挙げられる。
【0032】
また、上記アルコール類は、炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルキレンオキサイドあるいはその重合体又は共重合体を付加させ、アルコール類のヒドロキシル基をハイドロカルビルエーテル化又はハイドロカルビルエステル化したものを用いても良い。炭素数2〜6のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン(α−ブチレンオキサイド)、2,3−エポキシブタン(β−ブチレンオキサイド)、1,2−エポキシ−1−メチルプロパン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。これらの中では、低摩擦性に優れる点から、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドがより好ましい。なお、2種以上のアルキレンオキサイドを用いた場合には、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよい。また、ヒドロキシル基を2〜6個有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加させる際、全てのヒドロキシル基に付加させてもよいし、一部のヒドロキシル基のみに付加させてもよい。
【0033】
また、上記1塩基酸としては、メタン酸、エタン酸(酢酸)、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸、イソ酪酸等)、ペンタン酸(吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸等)、ヘキサン酸(カプロン酸等)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸等)、ノナン酸(ペラルゴン酸等)、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸等)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸等)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸等)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸等)、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸等の炭素数1〜30の飽和脂肪族モノカルボン酸(これら飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でも良い。);プロペン酸(アクリル酸等)、プロピン酸(プロピオール酸等)、ブテン酸(メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等)、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸等)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の炭素数1〜30の不飽和脂肪族モノカルボン酸(これら不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。)等が挙げられる。
【0034】
また、上記多塩基酸としては、エタン二酸(シュウ酸)、プロパン二酸(マロン酸等)、ブタン二酸(コハク酸、メチルマロン酸等)、ペンタン二酸(グルタル酸、エチルマロン酸等)、ヘキサン二酸(アジピン酸等)、ヘプタン二酸(ピメリン酸等)、オクタン二酸(スベリン酸等)、ノナン二酸(アゼライン酸等)、デカン二酸(セバシン酸等)、プロペン二酸、ブテン二酸(マレイン酸、フマル酸等)、ペンテン二酸(シトラコン酸、メサコン酸等)、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸等の炭素数2〜30の飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。);プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、ヘプタントリカルボン酸、オクタントリカルボン酸、ノナントリカルボン酸、デカントリカルボン酸等の飽和又は不飽和脂肪族トリカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。);飽和又は不飽和脂肪族テトラカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である。)等が挙げられる。
【0035】
本発明における(C)成分のエステル系基油としては、上記規定を満たす1種又は2種以上のエステル系基油を混合して用いることができ、また、混合物が上記規定を満たす限り、上記規定を満たす1種又は2種以上のエステル系基油と上記規定を満たさないエステル系基油を混合して用いても良い。
【0036】
本発明における(C)エステル系基油としては多価アルコールエステル系基油が好ましく、最も好ましいものとしては、炭素数6〜18、好ましくは炭素数12〜18の1価の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(これら脂肪酸は、直鎖状でも分枝状でもよく、二重結合位置は任意である。)と多価脂肪族アルコールとのエステルから選ばれることが特に好ましい。
【0037】
(C)成分のエステル系基油の100℃における動粘度は2〜10mm
2/sであることが好ましく、3〜8mm
2/sであることがより好ましい。100℃における動粘度が2〜10mm
2/sのエステル系基油を配合することによりベアリング疲労寿命、ギヤの疲労寿命が著しく向上する。
【0038】
なお、本発明において、前記(C)成分の他には、100℃における動粘度が6mm
2/sを超え10mm
2/s未満の基油を含まないことが好ましい。この基油を含むと疲労寿命が低下する傾向にあるためである。
【0039】
(C)成分のエステル系基油の流動点については特に制限はないが、好ましくは−20℃以下であり、より好ましくは−30℃以下、特に好ましくは−40℃以下である。流動点を−20℃以下とすることで、低温領域における低摩擦性にも優れ、始動性あるいは始動直後の省燃費性能にも優れた組成物を得ることができる。
【0040】
また、本発明において(C)成分のエステル系基油の含有量は特に制限はないが、基油全量基準で5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。一方、シール材膨潤性能の観点から、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましい。
【0041】
本発明のギヤ用潤滑油組成物における潤滑油基油は、100℃における動粘度が3mm
2/s以上、好ましくは4mm
2/s以上、さらに好ましくは5mm
2/s以上、また8mm
2/s以下、好ましくは7mm
2/s以下、さらに好ましくは6.5mm
2/s以下に調整してなる潤滑油基油であることが好ましい。
基油の粘度は疲労寿命に大きく影響し、高いほうが、基本的に寿命が長くなるが、低温粘度が悪化するため適正な粘度範囲が存在する。
【0042】
本発明のギヤ用潤滑油組成物は、(D)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下(D)成分という。)を必須成分として含有する。ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては次の一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
上記一般式(1)中、R
1、R
2、R
3およびR
4は、別個に、炭素数1〜18の炭化水素基を示し、そうした炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖または分枝のペンチル基、直鎖または分枝のヘキシル基、直鎖または分枝のヘプチル基、直鎖または分枝のオクチル基、直鎖または分枝のノニル基、直鎖または分枝のデシル基、直鎖または分枝のウンデシル基、直鎖または分枝のドデシル基、直鎖または分枝のトリデシル基、直鎖または分枝のテトラデシル基、直鎖または分枝のペンタデシル基、直鎖または分枝のヘキサデシル基、直鎖または分枝のヘプタデシル基、直鎖または分枝のオクタデシル基などの炭素数1〜18のアルキル基である。
【0045】
(D)成分のジアルキルジチオリン酸亜鉛として特に好ましい具体例を例示すると、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、およびこれらの混合物などを挙げることができる。これらの中でもジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛等のジ−sec−アルキルジチオリン酸亜鉛が好ましい。
【0046】
本発明のギヤ油組成物における(D)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、亜鉛金属量として、その下限値が0.02質量%以上、好ましくは0.1質量%以上であり、一方、その上限値は0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。(D)成分の含有量が0.02質量%未満の場合は、際だった寿命延長効果や耐摩耗性が得られず、0.5量%を超える場合は、酸化安定性に悪影響を与えるため、それぞれ好ましくない。
【0047】
本発明のギヤ用潤滑油組成物は、(E)塩基価が100mgKOH/g以上のアルカリ土類金属系清浄剤(以下(E)成分という。)を必須成分として含有する。かかるアルカリ土類金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート、アルカリ土類金属ホスホネート、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0048】
アルカリ土類金属スルホネートとしては、より具体的には、例えば分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられ、アルキル芳香族スルホン酸としては、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。
【0049】
石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンを原料とし、これをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常発煙硫酸や硫酸が用いられる。
【0050】
アルカリ土類金属フェネートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと元素硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0051】
アルカリ土類金属サリシレートとしては、より具体的には、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状又は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が好ましく用いられる。
【0052】
また、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートには、アルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物、アルキルサリチル酸等を、直接、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性塩(正塩)だけでなく、さらにこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩(正塩)をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)も含まれる。なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われる。
【0053】
中でも本発明のギヤ油組成物における(E)成分としてはアルカリ土類金属スルホネートまたはアルカリ土類フェネートが好ましい。最も好ましくはアルカリ土類金属スルホネートである。これは、(E)成分の金属系清浄剤の中では、スルホネートが最も摩耗防止性能に優れており、ついでフェネートが優れていることによる。
【0054】
さらに本発明のギヤ油組成物における(E)成分は中性塩より過剰の金属塩たとえば炭酸塩をふくむ、過塩基性金属系清浄剤が好ましい。具体的には、金属比、すなわちアルカリ土類金属のモル数に価数2をかけたものを金属系清浄剤の石鹸基のモル数で割った値が2.5以上であることが好ましい。
【0055】
本発明においては、アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート等から選ばれる金属系清浄剤を1種又は2種以上併用して使用することができる。
【0056】
本発明のギヤ油組成物における(E)成分のアルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価は、100mgKOH/g以上であることが必要であり、好ましくは140mgKOH/g以上であり、さらに好ましくは200mgKOH/g以上である。また500mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは450mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは400mgKOH/g以下である。塩基価が100mgKOH/g未満では疲労寿命延長効果が認めらない。また塩基価が500mgKOH/gを超えると潤滑油組成物として安定性に欠ける。なお、ここでいう全塩基価とは、JISK2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味する。
【0057】
本発明において、(E)成分の含有量については特に制限はないが、通常、組成物全量基準で、金属元素換算量で0.5質量%以下であることが好ましく、組成物の硫酸灰分が1.2質量%以下となるようにその他の添加剤と合わせて調整することが好ましい。そのような観点から金属系清浄剤の含有量の上限値は、より好ましくは組成物全量基準で、金属元素換算量で0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.25質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。また、その下限値には特に制限はないが0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。
【0058】
なお、金属系清浄剤は通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また、入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0059】
本発明のギヤ用潤滑油組成物は、(F)ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤(以下(F)成分という。)を含有するのが好ましい。本発明において用いられるポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤としては、下記一般式(2)で表されるモノマーから誘導される構造単位を実質的に含有するポリ(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0061】
一般式(2)において、R
1は水素又はメチル基、好ましくはメチル基、R
2は炭素数1から30の炭化水素基を示す。ただし、ポリ(メタ)アクリレートの構造単位には、少なくともR
2の炭素数が20以上の炭化水素基の構造単位を含むことが必要である。
炭素数1から30の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜30のアルキル基等が挙げられる。
【0062】
本発明における(F)成分は、下記一般式(3)や(4)で表されるモノマーから誘導される構造単位を含むこともできる。
【化3】
【0063】
一般式(3)において、R
3は水素又はメチル基、好ましくはメチル基、R
4は炭素数1〜30のアルキレン基、E
1は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、aは0又は1の整数を示す。
【化4】
【0064】
一般式(4)において、R
5は水素又はメチル基であり、E
2は窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。
【0065】
一般式(3)および(4)におけるE
1およびE
2で表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、およびピラジノ基等が例示できる。
【0066】
E
1およびE
2の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0067】
(F)成分のポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤としては、具体的には、一般式(2)で示される下記(Fa)〜(Fd)から選ばれる(メタ)アクリレートを下記で示す配合割合で重合して得られるポリ(メタ)アクリレート、またはさらに一般式(3)および/または(4)で表される(Fe)極性基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。
(Fa)炭素数1〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリレート
(Fb)炭素数5〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリレート
(Fc)炭素数12〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリレート
(Fd)炭素数20以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレート
(Fe)極性基含有モノマー
【0068】
なお、(Fa)〜(Fe)のモノマーの構成比は、モノマー全量基準で、以下の通りであることが好ましい。
(Fa)成分:好ましくは10〜60モル%、より好ましくは20〜50モル%、
(Fb)成分:好ましくは0〜50モル%、より好ましくは0〜20モル%
(Fc)成分:好ましくは10〜60モル%、より好ましくは20〜40モル%、
(Fd)成分:好ましくは1〜20モル%、より好ましくは5〜10モル%、
(Fe)成分:好ましくは0〜20モル%、より好ましくは0〜10モル%、特に好ましくは0〜5モル%
【0069】
この組成のポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤を配合することにより、潤滑油組成物の低温粘度特性と疲労寿命延長効果を両立させることができる。
【0070】
本発明における(F)成分の重量平均分子量は、特に制限はなく、通常5千〜15万であるが、疲労寿命向上効果により優れる点で、好ましくは1万〜6万、より好ましくは1.5万〜3万、特に好ましくは1.5万〜2.4万である。
なお、ここでいう重量平均分子量は、ウォーターズ社製150−C ALC/GPC装置に東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0071】
上記ポリ(メタ)アクリレートの製造法は任意であるが、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下で、目的とするポリ(メタ)アクリレートを形成し得るモノマー(Fa)〜(Fe)の混合物をラジカル溶液重合させることにより容易に得ることができる。
【0072】
本発明の潤滑油組成物においては、粘度指数向上剤として、前記した(F)成分のポリ(メタ)アクリレートのほか、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、ポリアルキルスチレンおよび構造式(1)で表される(メタ)アクリレートモノマーとエチレン/プロピレン/スチレン/無水マレイン酸のような不飽和モノマーとの共重合体等の粘度指数向上剤をさらに用いることができる。
【0073】
本発明の潤滑油組成物における(F)成分のポリ(メタ)アクリレート系添加剤の配合量は、潤滑油組成物の100℃における動粘度が3〜8mm
2/s、好ましくは4.5〜6mm
2/s、かつ潤滑油組成物の粘度指数が95〜200、好ましくは120〜190、より好ましくは150〜180となるような量であり、より具体的には、その配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1〜15質量%が好ましく、より好ましくは2〜12質量%、特に好ましくは3〜8質量%である。(F)成分の配合量が0.1質量%より少なくなると、粘度指数向上効果や製品粘度の低減効果が小さくなり、省燃費性の向上が図れなくなるおそれがある。また、15質量%を超える場合、配合量に見合う疲労寿命向上効果が期待できないだけでなく、せん断安定性に劣り、初期の極圧性を長期間維持しにくいため好ましくない。
【0074】
本発明のギヤ用潤滑油組成物は、(G)硫化オレフィン(以下(G)成分という。)を含有するのが好ましい。かかる硫化オレフィンとしては、例えば下記一般式(5)で示される化合物を挙げることができる。
R
11−S
x−R
12 (5)
一般式(5)において、R
11は炭素数2〜15のアルケニル基、R
12は炭素数2〜15のアルキル基またはアルケニル基を示し、xは1〜8の整数を示す。
この化合物は炭素数2〜15のオレフィンまたはその2〜4量体を硫黄、塩化硫黄等の硫化剤と反応させることによって得ることができる。オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブテン、ジイソブテンなどが好ましく用いられる。
【0075】
また硫化オレフィンの別の形態としてジヒドロカルビルポリスルフィドが挙げられる。ジヒドロカルビルポリスルフィドは、下記一般式(6)で示される化合物である。
R
13−S
y−R
14 (6)
一般式(6)において、R
13及びR
14は、それぞれ個別に、炭素数1〜20のアルキル基(シクロアルキル基も含む)、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアリールアルキル基を示し、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、yは2〜8の整数を示す。
【0076】
上記R
13及びR
14の例としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、及びフェネチル基などを挙げることができる。
【0077】
ジヒドロカルビルポリスルフィドの例の好ましいものとしては、具体的には、ジベンジルポリスルフィド、ジ−tert−ノニルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、ジ−tert−ブチルポリスルフィド、ジオクチルポリスルフィド、ジフェニルポリスルフィド、及びジシクロヘキシルポリスルフィドなどが挙げられる。
【0078】
本発明における(G)硫化オレフィンの添加量は、潤滑油組成物全量基準で0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上、また2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5質量%以下である。0.1質量%未満では耐焼付き性の向上効果が認められず、また2質量%を超えると組成物の酸化安定性が大幅に低下する。
【0079】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、(E)成分の過塩基性金属塩以外の金属系清浄剤、無灰分散剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0080】
(E)成分の過塩基性金属塩以外の金属系清浄剤として、アルカリ金属/アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属/アルカリ土類金属フェネート、およびアルカリ金属/アルカリ土類金属サリシレート等の正塩または塩基性塩を挙げることができる。アルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられるが、マグネシウムまたはカルシウムが好ましく、特にカルシウムがより好ましい。
【0081】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400の直鎖もしくは分枝状のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するモノまたはビスコハク酸イミド、炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0082】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、2−6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等のアルキルフェノール類、メチレン−4,4−ビスフェノール(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)等のビスフェノール類、フェニル−α−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、ジアルキルジフェニルアミン類、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛等のジアルキルジチオリン酸亜鉛類、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)あるいは(3−メチル−5−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)脂肪酸(プロピオン酸等)と1価又は多価アルコール、例えばメタノール、オクタノール、オクタデカノール、1,6ヘキサジオール、ネオペンチルグリコール、チオジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール等とのエステル等が挙げられる。
【0083】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、本発明の(D)成分以外に潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化油脂類等が挙げられる。
【0084】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0085】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
【0086】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0087】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0088】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm
2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0089】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、それぞれその含有量は潤滑油組成物全量基準で、0.001〜10質量%であることが好ましい。
【0090】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、イミド化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩等が好ましく用いられる。
アミン化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族モノアミン、直鎖状若しくは分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪族ポリアミン、又はこれら脂肪族アミンのアルキレンオキシド付加物等が例示できる。イミド化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド及び/又はそのカルボン酸、ホウ酸、リン酸、硫酸等による変性化合物等が挙げられる。脂肪酸エステルとしては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸と、脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステル等が例示できる。脂肪酸アミドとしては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸と、脂肪族モノアミン又は脂肪族ポリアミンとのアミド等が例示できる。脂肪酸金属塩としては、炭素数7〜31の直鎖状又は分枝状、好ましくは直鎖状の脂肪酸の、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩等)や亜鉛塩等が挙げられる。
特に手動変速機用摩擦調整剤として、硫化油脂が好ましく使用される。硫化油脂としては、例えば、硫化ラード、硫化なたね油、硫化ひまし油、硫化大豆油、硫化米ぬか油などの油;硫化オレイン酸などの二硫化脂肪酸;及び硫化オレイン酸メチルなどの硫化エステルを挙げることができる。
【0091】
本発明においては、上記摩擦調整剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物全量基準で0.01〜5.0質量%が好ましく、より好ましくは0.03〜3.0質量%である。
【0092】
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、8mm
2/s以下であることが好ましく、好ましくは7.5mm
2/s以下、より好ましくは7.0mm
2/s以下である。また、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは3mm
2/s以上、より好ましくは4mm
2/s以上、さらに好ましくは5mm
2/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が3mm
2/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、8mm
2/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0093】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、130〜250の範囲であることが好ましく、好ましくは140以上、より好ましくは150以上である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が130未満の場合には、省燃費性を向上させることが困難となるおそれがある。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数が250を超える場合には、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【実施例】
【0094】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0095】
(実施例1〜
6および比較例1〜5)
表1に、実施例および比較例で用いる潤滑油基油の性状等を示す。
表2に示す各種の潤滑油基油及び添加剤を配合して、本発明に係る潤滑油組成物(実施例1〜
6)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜5)を調製した。なお、基油の配合量は基油組成物全量基準であり、各添加剤の添加量は潤滑油組成物全量基準である。
得られた各組成物について、疲労寿命を以下の(1)に示す疲労寿命試験により評価した。また、初期および長期間使用後の極圧性を以下の(2)に示す極圧性試験により評価した。なお、初期の極圧性評価には新油を用い、長期間使用後の極圧性評価には、予め(3)に示す超音波せん断試験実施により劣化させた劣化油を用いた。その性能評価の結果を表2に併記した。
【0096】
(1)疲労寿命試験
(a)FZG
FZG試験機を用いて以下の条件で運転を行い、歯車にピッチングが発生するまでのギヤの疲労寿命を評価した。
[条件]荷重ステージ:12、油温:120℃、回転数:620rpm
(b)高温転がり疲労試験
高温転がり疲労試験機を用いて、以下の試験条件でピッチング発生寿命を評価した。また、比較例1の試験結果を基準として、ピッチング発生寿命の比を算出した。
スラストニードルベアリング(面圧:1.9GPa、回転数:1410rpm、油温:120℃)
【0097】
(2)極圧性試験
ASTM D 2596に準拠し、高速四球試験機を用い、各潤滑油組成物の1800回転における最大非焼付き荷重(LNSL)を測定した。
【0098】
(3)酸化安定性
JIS K 2514 4.(内燃機関用潤滑油酸化安定度試験方法)に準拠して実施し、動粘度比を測定した。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】