特許第5717500号(P5717500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717500
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】酸化チタンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20150423BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   C01G23/053
   H01L31/04 112C
【請求項の数】19
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-74851(P2011-74851)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2012-206908(P2012-206908A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2013年11月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 掲載年月日 2011年3月2日 掲載アドレス http://www3.scej.org/meeting/76a/
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221090(JP,A)
【文献】 特開2007−152492(JP,A)
【文献】 特開2005−205584(JP,A)
【文献】 特開平10−152323(JP,A)
【文献】 特開2010−024132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
H01L 51/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状酸化チタン(A)が連なってなる酸化チタンナノチューブの製造方法であって、
(I)チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、チタンフルオロ錯体からの析出反応により、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成し、酸化チタン−ポリアニリン複合体を作製する工程、及び
(II)前記酸化チタン−ポリアニリン複合体を加熱してポリアニリンを除去する工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程(II)において、加熱温度が400〜1000℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(II)において、加熱時の雰囲気の酸素分圧が1kPa以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
チタンフルオロ錯体が(NHTiF、HTiF、NaTiF、KTiF及びTiFよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程(I)が、フッ化物イオン捕捉剤の共存下に行われる、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
工程(I)において、フッ化物イオンのモル濃度が、チタンフルオロ錯体の2倍以上である、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
粒子状酸化チタン(A)が連なってなる酸化チタンナノチューブの製造方法であって、
(I)平均粒子径が20nm以下の粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾルと接触させ、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成し、酸化チタン−ポリアニリン複合体を作製する工程、及び
(II)前記酸化チタン−ポリアニリン複合体を加熱してポリアニリンを除去する工程
を含む、方法。
【請求項8】
工程(II)において、加熱温度が400〜1000℃である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(II)において、加熱時の雰囲気の酸素分圧が1kPa以上である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ポリアニリンの長軸に直交する平均直径が8〜450nmであり、前記ポリアニリンの長軸の平均長さが0.1〜100μmである請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸化チタンナノチューブが、粒子状酸化チタン(A)が連なってなり、
長軸に直交する平均直径が10〜500nmであり、長軸の平均長さが0.1〜100μmである酸化チタンナノチューブである、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法
【請求項12】
前記酸化チタンナノチューブの重金属含有量が1000ppm以下である、請求項1〜11のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項13】
前記酸化チタンナノチューブのナトリウム、カリウム及び鉄の合計含有量が100ppm以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項14】
前記酸化チタンナノチューブの比表面積が30m/g以上である請求項13のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項15】
粒子状酸化チタン(A)が、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン又はアモルファス酸化チタンを含む請求項14のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項16】
粒子状酸化チタン(A)が、アナターゼ型酸化チタンを含む請求項15のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項17】
粒子状酸化チタン(A)の平均粒子径が1〜100nmである請求項16のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項18】
前記酸化チタンナノチューブの10MPa圧力下での粉体抵抗が1×10Ω・m以下である請求項17のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法
【請求項19】
請求項18のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブの製造方法により得られた酸化チタンナノチューブを負極の酸化チタン層に混合することを特徴とする、光電変換素子の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池、光触媒、センサー等に用いられる酸化チタンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンナノチューブは、色素増感太陽電池、光触媒、センサー等の用途に幅広く用いられている。
【0003】
なかでも、色素増感太陽電池は、色素を修飾した二酸化チタン等を活性電極に用いたものであり(特許文献1参照)、安価で容易に製造できる太陽電池として注目を集めている。
【0004】
酸化チタンナノチューブの合成方法としては、例えば、酸化チタンナノ粒子を高濃度の水酸化ナトリウム水溶液中で加熱し、反応生成物を水洗することが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−15097号公報
【特許文献2】特開平10−152323号公報
【特許文献3】特開2010−24132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の方法により得られる酸化チタンナノチューブは、直径が10nm程度であって、凝集しやすい。また、酸化チタンナノチューブ中にナトリウムが残存しやすく、色素増感太陽電池等の光電変換素子の構成材料として使用する場合には、電子のトラップとなる可能性があった。
【0007】
このことを考慮し、導電性が高い高アスペクト比のカーボンを鋳型とし、その表面に粒子状酸化チタンからなる被覆層を形成させた後にカーボンを除去する試みがなされている(特許文献3)。
【0008】
しかし、カーボンのなかでもカーボンナノチューブは、触媒としての重金属成分を含んでおり、カーボンを除去した後も当該重金属成分が残存し続ける可能性がある。また、このような残存する重金属成分を除去するのは容易ではないため、この重金属成分が電子のトラップとなる可能性がある。さらに、カーボンの表面に酸化チタンからなる被覆層を形成することは容易ではなく、過酷な条件下での表面酸化処理(親水化)や分散剤の添加等が必要であった。
【0009】
そこで、本発明は、比表面積が高く、導電性に優れ、活性の高いアナターゼ型の結晶を含み、且つ、重金属含有量が少ない酸化チタンナノチューブの簡易な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的に鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面を酸化チタンナノ粒子が連なってなる被覆層で被覆し、その後当該ポリアニリンを除去することで、上記課題を解決した酸化チタンナノチューブが得られることを見出し、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の項1〜18の酸化チタンナノチューブの製造方法、酸化チタンナノチューブ及び該酸化チタンナノチューブを用いた光電変換素子を包含する。
項1.粒子状酸化チタン(A)が連なってなる酸化チタンナノチューブの製造方法であって、
(I)チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成し、酸化チタン−ポリアニリン複合体を作製する工程、及び
(II)前記酸化チタン−ポリアニリン複合体を加熱してポリアニリンを除去する工程
を含む、方法。
項2.工程(II)において、加熱温度が400〜1000℃である、項1に記載の製造方法。
項3.工程(II)において、加熱時の雰囲気の酸素分圧が1kPa以上である、項1又は2に記載の製造方法。
項4.工程(I)が、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、チタンフルオロ錯体からの析出反応により、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成する工程である、項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5.チタンフルオロ錯体が(NHTiF、HTiF、NaTiF、KTiF及びTiFよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項4に記載の製造方法。
項6.前記工程(I)が、フッ化物イオン捕捉剤の共存下に行われる、項4又は5に記載の製造方法。
項7.工程(I)において、フッ化物イオンのモル濃度が、チタンフルオロ錯体の2倍以上である、項6に記載の製造方法。
項8.工程(I)が、平均粒子径が20nm以下の粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾルと接触させ、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成する工程である、項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項9.前記ポリアニリンの長軸に直行する平均直系が8〜450nmであり、前記ポリアニリンの長軸の平均長さが0.1〜100μmである項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
項10.粒子状酸化チタン(A)が連なってなり、
長軸に直交する平均直径が10〜500nmであり、長軸の平均長さが0.1〜100μmである酸化チタンナノチューブ。
項11.重金属含有量が1000ppm以下である、項10に記載の酸化チタンナノチューブ。
項12.ナトリウム、カリウム及び鉄の合計含有量が100ppm以下である、項10又は11に記載の酸化チタンナノチューブ。
項13.比表面積が30m/g以上である項10〜12のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブ。
項14.粒子状酸化チタン(A)が、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン又はアモルファス酸化チタンを含む項10〜13のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブ。
項15.粒子状酸化チタン(A)が、アナターゼ型酸化チタンを含む項10〜14のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブ。
項16.粒子状酸化チタン(A)の平均粒子径が1〜100nmである項10〜15のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブ。
項17.10MPa圧力下での粉体抵抗が1×10Ω・m以下である項10〜16のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブ。
項18.項10〜17のいずれかに記載の酸化チタンナノチューブを負極内に含有する光電変換素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比表面積が高く、導電性に優れ、活性の高いアナターゼ型の結晶を含み、且つ、重金属含有量が少ない酸化チタンナノチューブを簡易に製造できる。この酸化チタンナノチューブは、特に光電変換素子、光触媒、センサー等に好ましく用いられるものである。また、本発明によれば、重金属含有量を大幅に低下させることができるため、電子のトラップとなる可能性を排除できる。さらに、本発明において、ポリアニリンの表面に、酸化チタンからなる被覆層を形成させる際に、ポリアニリンの親水化処理や分散剤の添加等は必ずしも必要ではなく、簡便な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】粒子状酸化チタン(A)が連なってなる、本発明の酸化チタンナノチューブにおける電子の移動を説明する模式図である。
図2】粒子状酸化チタン(A)を、管状の形状に成形せず、酸化チタンのペーストを基板に塗布した場合における電子の移動を説明する模式図である。
図3】実施例1で作製したチューブ状ポリアニリンの電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】実施例1で作製した酸化チタン−ポリアニリン複合体の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5】実施例1の酸化チタンナノチューブの電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6】実施例1の酸化チタンナノチューブの断面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.酸化チタンナノチューブの製造方法
本発明の酸化チタンナノチューブの製造方法は、
(I)チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成し、酸化チタン−ポリアニリン複合体を作製する工程、
(II)前記酸化チタン−ポリアニリン複合体を加熱してポリアニリンを除去する工程
を含む。
【0014】
本発明において、「チューブ状」とは、その中心部分において長軸方向に空洞を有する略円柱状のことを指す。なお、本発明では、必ずしも端部が開いている、つまり貫通孔を有している必要は無く、端部が閉じている中空状であってもよい。また、「ファイバー状」とは、その中心部分において空洞を有さない略円柱状のことを指す。さらに、本発明において、「連なってなる」とは、微粒子状酸化チタンが、隣接する酸化チタンと密接に接しており、ただ単に混合して得られる状態のものではない。
【0015】
本発明において、「酸化チタン」とは、二酸化チタン(TiO)のみを指すものではなく、三酸化二チタン(Ti);一酸化チタン(TiO);Ti、Ti等に代表される二酸化チタンから酸素欠損した組成のもの等も含むものである。また、末端OH基に代表されるように一部酸化チタンの合成に起因するTi−O−Ti以外の基を含んでいても良い。
【0016】
<チューブ状又はファイバー状のポリアニリン>
本発明で使用するチューブ状又はファイバー状のポリアニリンとしては、特に制限はない。市販のポリアニリンを使用してもよいし、合成してもよい。
【0017】
また、このチューブ状又はファイバー状のポリアニリンは、後にできるだけ微細で表面積が大きく、酸化チタンが長く連続したナノチューブを製造できる点から、長軸に直交する平均直径が8〜450nm程度、長軸の平均長さが0.1〜100μm程度、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)が5〜2000程度が好ましく、長軸に直交する平均直径が20〜300nm程度、長軸の平均長さが1〜10μm程度、平均アスペクト比(長軸の平均長さ/長軸に直交する平均直径)が7〜1000程度がより好ましい。なお、上記のポリアニリンの長軸に直行する平均直径は、本発明の製造方法により酸化チタンナノチューブを製造した際に、そのまま酸化チタンナノチューブの平均内径となる。また、ポリアニリンがチューブ状である場合には、その内径は、平均が3〜300nm程度、好ましくは5〜100nm程度である。なお、長軸に直交する平均直径、長軸の平均長さ、平均アスペクト比及び内径は、例えば、5000倍以上の電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察により測定できる。
【0018】
チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの合成方法
(I)酸化重合法
チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの合成方法は、特に制限されない。例えば、アニリン又はその誘導体を、溶媒に溶解させた後に、当該アニリン又はその誘導体を重合させてもよい。
【0019】
アニリンの誘導体としては、特に制限されないが、例えば、N−メチルアニリン、O−メチルアニリン、O−メトキシアニリン、O−クロロアニリン、フェニルキノンジイミン、エメラルジン、インダミン、アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
本発明では、アニリン及びその誘導体のなかでも、原料コストが安い点から、アニリンが好ましい。
【0021】
アニリン又はその誘導体のモル濃度は、6.4×10−2〜1.7×10−1mol/lが好ましい。このモル濃度は、溶解させる溶媒に対するアニリン又はその誘導体のモル濃度である。アニリン又はその誘導体のモル濃度を前記範囲内とすることで、ナノサイズのチューブ状又はファイバー状(特にチューブ状)のポリアニリンが形成されやすくなる。
【0022】
ここで用いる溶媒としては、最終的にアニリン又はその誘導体が溶解する溶媒であればどのようなものでもよく、水等の極性溶媒等が挙げられる。
【0023】
本発明では、溶媒中に、二環式モノテルペンを含ませてもよい。これにより、アニリンを水に溶解させやすくするとともに、チューブ状のポリアニリンの形成を促進できる。
【0024】
二環式モノテルペンを溶媒中に含ませる場合は、溶媒にアニリン又はその誘導体を添加した後に二環式モノテルペンを添加してもよいし、溶媒にアニリン又はその誘導体を添加する前にあらかじめ二環式モノテルペンを添加してもよい。また、溶媒にアニリン又はその誘導体を添加するのと同時に二環式モノテルペンを添加してもよい。
【0025】
二環式モノテルペンとしては、反応性置換基を有するショウノウ(camphor)の誘導体を用いるのが望ましい。反応性置換基としては、例えば、ハロゲン基、スルホ基、カルボキシル基、水酸基等が挙げられる。二環式モノテルペンとしては、特に、ショウノウスルホン酸が好ましい。このように、反応性置換基を有するショウノウの誘導体を用いれば、チューブ状又はファイバー状(特にチューブ状)のポリアニリンを形成しやすくなる。
【0026】
二環式モノテルペンの添加量は、アニリン又はその誘導体と二環式モノテルペンとのモル比が、1:0.3〜0.7となるように調整することが好ましい。二環式モノテルペンの添加量を前記範囲内とすることで、ナノサイズのチューブ状又はファイバー状(特にチューブ状)のポリアニリンが形成されやすくなる。
【0027】
アニリン又はその誘導体を重合させる方法としては、特に制限されないが、本発明では、酸化剤を使用した酸化重合法が好ましい。酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、重クロム酸カリウム、重クロム酸ナトリウム、重クロム酸アンモニウム、ベンゾキノン、過酸化水素等が挙げられ、過硫酸アンモニウムが好ましい。過硫酸アンモニウムは、市場で比較的安価に入手できるため、製造コストを下げることができる。
【0028】
酸化剤のモル濃度は、3.9×10−2〜1.3×10−1mol/lが好ましい。このモル濃度は、前記の溶媒に対する酸化剤のモル濃度である。過硫酸アンモニウムのモル濃度を前記範囲内とすれば、効率の良い酸化重合を行うことができ、低コストで、ナノサイズのチューブ状又はファイバー状(特にチューブ状)のポリアニリンが形成されやすくなる。
【0029】
アニリンの誘導体としてアニリンスルホン酸を用いた場合、二環式モノテルペンとしてショウノウスルホン酸を用いた場合には、スルホン酸が存在するため、これに加熱処理を施すと、人体に有毒なSOxガスが発生する場合がある。SOxガスの発生を抑制するためには、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンを合成してから、アルカリ溶液で還元する洗浄を行えばよい。アルカリ溶液としては、例えばアンモニア水溶液を用いることができる。これにより、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンからスルホ基又はスルホン酸を除去することができる。
【0030】
なお、SOxガスの発生を抑制する方法としては、SOxガスが排出する部分にSOxガス吸着装置等を設置してもよい。
【0031】
(II)電解重合法
本発明において、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンは、電解重合法で合成してもよい。具体的には、アニリン又はその誘導体を酸性溶液中に溶解させ、電解重合(好ましくは反復酸化的な電解重合)を行えばよい。
【0032】
アニリンの誘導体としては、上記したものが挙げられる。
【0033】
アニリン又はその誘導体のモル濃度は、0.01〜3mol/lが好ましい。このモル濃度は、溶解させる溶媒に対するアニリン又はその誘導体のモル濃度である。アニリン又はその誘導体のモル濃度を前記範囲内とすることで、ナノサイズのチューブ状又はファイバー状(特にチューブ状)のポリアニリンが形成されやすくなる。
【0034】
アニリン又はその誘導体を溶解させる酸性溶液中に含まれる酸としては、特に制限はなく、例えば、ホウフッ化水素酸(HBF)、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、有機スルホン酸(例えばドデシルベンゼンスルホン酸)等が挙げられ、塩酸、硫酸、ホウフッ化水素酸(HBF)が好ましい。
【0035】
酸のモル濃度は、0.01〜1mol/lが好ましい。このモル濃度は、後述の溶媒に対する酸のモル濃度である。酸のモル濃度を前記範囲内とすることで、反応時にアニリンが溶媒中に溶解しやすくなる。
【0036】
溶媒としては、アニリン又はその誘導体を溶解させられるものであればよく、例えば、水、水と有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。この際の有機溶媒としては、特に制限はなく、各種アルコール類、テトラヒドロフラン(THF)等を使用できる。特に、水が好ましい。
【0037】
反復酸化的な電解重合は、例えば、サイクリック・ボルタンメトリー(CV)、直流電圧印加法等により可能である。このような電気化学的重合のためのシステム、装置等は、公知のものを使用することができる。
【0038】
<粒子状酸化チタン(A)>
粒子状酸化チタン(A)の結晶構造としては、とくに制限されるわけではないが、本発明の酸化チタンナノチューブを光電変換素子、光触媒等に使用する場合には、活性が高いアナターゼ型酸化チタンを含むことが好ましい。粒子状酸化チタン(A)としては、アナターゼ型酸化チタンのみに限られることはなく、ルチル型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等も含ませてもよい。また、結晶性の酸化チタンのみならず、アモルファス酸化チタンを含ませてもよい。ただし、粒子状酸化チタン(A)の70重量%以上をアナターゼ型酸化チタンとすることが好ましい。
【0039】
なお、粒子状酸化チタン(A)の結晶構造は、例えば、X線回折法、ラマン分光分析等により測定することができる。
【0040】
粒子状酸化チタン(A)の平均粒子径は、比表面積を大きくしてより多くの色素を吸着し、光を吸収できる点から、1〜100nmが好ましく、1〜50nmがより好ましい。ただし、本発明の酸化チタンナノチューブを光電変換素子の用途に使用する場合には、電池内部への光閉じ込め効果の観点から、光散乱の大きい、つまり平均粒子径が100nmより大きい酸化チタン粒子を併用してもよい。なお、平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡(SEM)観察等により測定することができる。
【0041】
<工程(I):酸化チタン被覆工程>
本発明において、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成する方法は、特に制限されない。例えば、容易な方法として、粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾル、四塩化チタン溶液、硫酸チタン溶液、硫酸チタニル溶液等をチューブ状又はファイバー状のポリアニリンと接触させる湿式法が挙げられる。
【0042】
しかし、これらの方法と比較して、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、チタンフルオロ錯体からの析出反応により、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成する方法が好ましい。その理由は、以下の通りである。
【0043】
(1)被覆層中の粒子状酸化チタン(A)の平均粒子径を数nm程度とすることもでき、最終的に得られる本発明の酸化チタンナノチューブの比表面積を大きくできる。
【0044】
(2)常温常圧でチューブ状又はファイバー状のポリアニリンと、チタンフルオロ錯体を含む反応液とを接触させて静置すればよく、簡便な手法である。
【0045】
(3)チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に形成される被覆層中の粒子状酸化チタン(A)は、常温・常圧における反応を行っても、アナターゼ型結晶を多数有する。つまり、最終的に得られる酸化チタンナノチューブ中の粒子状酸化チタンも、アナターゼ型結晶を多数有する。
【0046】
(4)得られた酸化チタン−ポリアニリン複合体を焼成すれば結晶性を向上させることができる。また、焼成温度は800℃程度までルチル型酸化チタンが生成しないため、光活性の高いアナターゼ型酸化チタンを多数含ませたい場合に特に好ましい。
【0047】
(5)特にチューブ状又はファイバー状のポリアニリンが有する窒素原子に起因して、ポリアニリンの表面のみに粒子状酸化チタン(A)を析出させることが可能であるため、酸化チタンの塊等、不要な生成物の生成を防止することも可能である。
【0048】
なお、結晶性の酸化チタンを含む酸化チタンゾルではなく、チタンアルコキシド又はチタンアルコキシドのエタノール等の溶液にチューブ状又はファイバー状のポリアニリンを浸漬した場合には、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に析出する酸化チタンは、アモルファス酸化チタンのみであり、しかも被覆が不完全である。また、熱処理によりアモルファス酸化チタンを結晶化することができるが、酸化チタン−ポリアニリン複合体の比表面積は小さくなる。また、この場合、酸化チタンがルチル型に変換されやすく、例えば約600℃でルチル型に変換される。
【0049】
また、単に粒子状酸化チタンを分散させた分散液中にチューブ状又はファイバー状のポリアニリンを浸漬した場合には、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面は酸化チタンで被覆されておらず、ポリアニリンと酸化チタンとの単なる混合物が形成される。このため、焼成しても酸化チタンナノチューブは得られない。
【0050】
チタンフルオロ錯体からの析出方法
チタンフルオロ錯体からの析出方法とは、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンを、チタンフルオロ錯体を含む反応液とを接触させ、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成する方法である。具体的には、これに限定されるわけではないが、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの分散液を、チタンフルオロ錯体を含む反応液中に浸漬すればよい。また、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの分散液にチタンフルオロ錯体又はチタンフルオロ錯体の水溶液を添加してもよい。
【0051】
チューブ状又はファイバー状のポリアニリンを分散させる分散媒としては、特に制限はないが、水、又は水とアルコール類の混合溶媒等が挙げられる。
【0052】
チューブ状又はファイバー状のポリアニリンを含む分散液には、後に粒子状酸化チタン(A)を、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に満遍なく被覆させるため、分散操作を加えてもよい。
【0053】
さらに、分散性を向上させるため、界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、陽イオン系、陰イオン系、非イオン系のいずれも使用することができ、公知又は市販のものを使用すればよい。
【0054】
チタンフルオロ錯体としては、特に制限されるわけではないが、例えば、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム((NHTiF)、ヘキサフルオロチタン酸(HTiF)、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム(NaTiF)、ヘキサフルオロチタン酸カリウム(KTiF)、フッ化チタン(IV)(TiF)等が挙げられるが、(NHTiF又はHTiFが好ましい。
【0055】
チタンフルオロ錯体を含む反応液に使用する溶媒としては、チタンフルオロ錯体を溶解させられるものであれば特に制限されないが、例えば、水、水とアルコールとの混合溶媒等が挙げられる。なお、アルコールとしては、公知又は市販のものを使用すればよい。
【0056】
チタンフルオロ錯体のモル濃度は、特に制限はないが、0.01〜0.3mol/lが好ましく、0.03〜0.25mol/lがより好ましい。
【0057】
本発明では、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンと、チタンフルオロ錯体を含む反応液との接触は、フッ化物イオン捕捉剤の共存下に行うことが好ましい。これにより、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面上に、より粒子状酸化チタン(A)が析出しやすくなる。また、フッ化物イオン捕捉剤としては、特に制限はなく、ホウ酸(HBO)、塩化アルミニウム、アルミニウム等を使用できる。
【0058】
フッ化物イオン捕捉剤のモル濃度は、特に制限はないが、0.02〜1.0mol/lが好ましく、0.03〜0.8mol/lがより好ましい。
【0059】
なお、フッ化物イオン捕捉剤のモル濃度は、チタンフルオロ錯体のモル濃度にしたがって変化させることが好ましい。フッ化物イオン捕捉剤のモル濃度は、チタンフルオロ錯体のモル濃度の2倍以上、特に2〜5倍とすることが好ましい。
【0060】
上記のようにすれば、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成させ、酸化チタン−ポリアニリン複合体を製造することができる。
【0061】
ここで得られた酸化チタン−ポリアニリン複合体は、純水、酸若しくはアルカリの水溶液、又はアルコール等の有機溶媒で洗浄してもよい。これにより、未反応原料、反応開始剤等を除去することができる。
【0062】
上記の工程(I)は、特に加熱や加圧等をせずに、常温・常圧下においても進行させることができる。好ましい条件は、20〜50℃、0.05〜0.2MPaである。
【0063】
また、上記の工程(I)は湿式反応である。酸化チタン−ポリアニリン複合体中に残存する溶媒を除去するため、乾燥させることが好ましい。乾燥方法は、熱風乾燥でも真空乾燥でもよいが、例えば、溶媒が水である場合には、好ましい乾燥温度は100℃以上、より好ましくは150℃以上である。
【0064】
粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾルを用いる湿式法
粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾルを用いる湿式法とは、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンを、粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾルと接触させ、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面に、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層を形成する方法である。具体的には、これに限定されるわけではないが、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンを、粒子状酸化チタン(B)を含む酸化チタンゾル中に浸漬すればよい。
【0065】
酸化チタンゾルは塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル等の水溶液から合成してもよく、チタンアルコキシドを酸性溶液中で混合して合成してもよい。チタンアルコキシドとしては、特に制限はなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンn‐ブトキシド、チタンt‐ブトキシド等が挙げられ、チタンイソプロポキシドが好ましい。このようにして酸化チタンゾルを作製すれば、存在する粒子状酸化チタン(B)の平均粒子径を0.5〜20nm、好ましくは1〜10nmとすることができる。
【0066】
チタンアルコキシドを原料とする酸化チタンゾルは、分散媒中に、チタンアルコキシドを滴下させて製造することができる。分散媒としては、特に制限はなく、硝酸水溶液、酢酸水溶液、しゅう酸水溶液、塩酸水溶液もしくはそれらの混合溶液等を使用すればよく、チタンアルコキシドを添加した後加熱すれば、酸化チタンの結晶性を向上させることができる。
【0067】
なお、上記の湿式法の好ましい条件は、10〜90℃、0.05〜0.2MPaである。
【0068】
酸化チタン−ポリアニリン複合体
このようにして得られる酸化チタン−ポリアニリン複合体は、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面が、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層で被覆されてなる構造体である。
【0069】
被覆層の厚みは、酸化チタンを欠陥なく被覆し、チューブ状の酸化チタンナノチューブを得る点から、2〜250nmが好ましく、5〜200nmがより好ましい。この被覆層の厚みは、本発明の酸化チタンナノチューブを製造した際には、そのまま肉厚となる。なお、被覆層の厚みは、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により測定することができる。
【0070】
このようにして得られる酸化チタン−ポリアニリン複合体は、欠陥のない酸化チタンナノチューブを得る点から、チューブ状又はファイバー状のポリアニリンの表面の粒子状酸化チタンの被覆率が、70〜100%、特には85〜100%であることが好ましい。また、カーボン/チタンの表面元素比率は、0/100〜70/30(原子比)が好ましく、0/100〜50/50(原子比)がより好ましい。なお、表面被覆率(ポリアニリンの表面上の、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる被覆層で覆われている箇所の割合)は、例えば、電子顕微鏡(SEM又はTEM)観察等により、また、カーボン/チタンの表面元素比率は、例えば、X線光電子分光分析等により、測定することができる。
【0071】
<工程(II):ポリアニリン除去工程>
工程(II)では、工程(I)で得られた酸化チタン−ポリアニリン複合体を加熱してポリアニリンを除去する。これにより、酸化チタンのアナターゼ型結晶の比率が増すともに酸化チタンナノチューブの導電性が向上する利点がある。
【0072】
なお、工程(II)では、ポリアニリンを除去できればよく、その手法は特に限定されるものではないが、酸化消失させるのが簡便である。例えば、空気中で加熱して酸化消失させる場合には、その加熱温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上である。加熱温度の上限値は特に制限はないが、1000℃程度である。
【0073】
工程(II)における雰囲気としては、熱処理温度によって好ましい酸素分圧は異なるが、1kPa以上、特に50kPa以上が好ましい。
【0074】
具体的には、加熱温度が400℃である場合には、酸素分圧は15kPa以上が好ましく、加熱温度が600℃である場合には、酸素分圧は10kPa以上が好ましく、加熱温度が800℃である場合には、酸素分圧は2kPa以上が好ましく、加熱温度が1000℃である場合には、酸素分圧は0.2kPa以上が好ましい。
【0075】
酸化チタンナノチューブ
このようにして得られる本発明の酸化チタンナノチューブは、粒子状酸化チタン(A)が連なってなる管状構造体である。これにより、本発明の酸化チタンナノチューブの表面には、微細な凹凸が存在している。表面に微細な凹凸を有する酸化チタンナノチューブを色素増感太陽電池等の光電変換素子の用途として使用すれば、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収できる。そして、効率よく電子を発生させ、図1に示すように、隣接する酸化チタン同士が密接に接触しているため、隣接する酸化チタンを通して、電子を効率よく透明電極に運ぶことができる。
【0076】
なお、粒子状酸化チタン(A)を、管状の形状に成形せず、酸化チタンのペーストを基板に塗布した場合は、図2に示すように、粒界の抵抗が大きく、電子の流れが悪くなるうえに、メソポーラス構造での電解液の拡散が悪化する。
【0077】
本発明の酸化チタンナノチューブの抵抗率は、用途によって異なるが、10MPa下での粉体抵抗が10Ω・m以下が好ましく、6×10Ω・m以下がより好ましい。粉体抵抗は、小さいほうが好ましく、下限値は特に制限されないが、1Ω・m程度である。なお、酸化チタンナノチューブの粉体抵抗の測定方法は、特に限定されないが、例えば、10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加して流れる電流値を測ることにより測定できる。
【0078】
本発明の酸化チタンナノチューブは、充分な表面積を有しつつ、効率よく電子を伝達する点から、長軸に直交する平均直径が10〜500nm(特に30〜400nm)、長軸の平均長さが0.1〜100μm(特に、塗工液中に含ませたり、基板上に担持したりする場合には1〜10μm)、平均アスペクト比が5〜2000(特に7〜1000)が好ましい。なお、本発明において、酸化チタンナノチューブの直径とは、外径のことを言う。
【0079】
本発明の酸化チタンナノチューブは、光電変換素子の用途に使用する場合には、表面積を大きくし、色素を多量に担持し、入射した光を効率よく吸収する点から、比表面積は30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。比表面積は、大きいほうが好ましく、上限値は特に制限されないが、1000m/g程度である。なお、比表面積は、BET法等により測定できる。
【0080】
本発明の酸化チタン−ポリアニリン複合体において、重金属含有量は1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。この範囲内とすることにより、色素増感太陽電池等の光電変換素子の構成材料として使用する場合に、電子のトラップとなることを抑制できる。なお、本発明において、上記の重金属含有量中の重金属とは、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液中で加熱して酸化チタンナノチューブを得る場合に混入されるナトリウム、カリウム等の他、カーボンナノチューブを鋳型として酸化チタン層を積層し、カーボンナノチューブを除去した場合に混入される鉄等を意図するものである。また、重金属含有量は、例えば、ICP法等により測定できる。
【0081】
2.用途
本発明の酸化チタンナノチューブは、例えば、色素増感太陽電池等の光電変換素子、光触媒、センサー等に使用できる。本発明の酸化チタンナノチューブを色素増感太陽電池等の光電変換素子に使用する場合は、負極の酸化チタン層に混合することにより、導電補助材として使用することができる。この場合には、導電性向上、光拡散向上、ポアサイズの変化による電解液拡散の向上等が期待できる。
【0082】
本発明の酸化チタンナノチューブを光電変換素子に使用する場合は、具体的には、以下の構成とすることができる。
【0083】
本発明の光電変換素子は、例えば、導電性基板(負極基板)、半導体層、電荷輸送層及び対向電極(正極)から少なくとも構成される。
【0084】
導電性基板は、通常、基板上に電極層を有するものである。基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色又は有色の樹脂でも良い。かかる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。なお、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0085】
また、電極として作用する導電膜の材料は特に限定されないが、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステン、チタン等の金属、金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、錫、亜鉛等の金属酸化物に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))、Antimony doped Tin Oxide(ATO(SnO:Sb))等が好適なものとして用いられる。
【0086】
導電膜の膜厚は、通常100〜10000nm、好ましくは500〜3000nmである。また、表面抵抗(抵抗率)は適宜選択されるところであるが、通常0.5〜500Ω/sq、好ましくは1〜50Ω/sqである。
【0087】
導電膜の形成法は特に限定されるものではなく、用いる金属や金属酸化物の種類により公知の方法を適宜採用することができる。通常、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法又はスパッタリング法等が用いられる。いずれの場合も基板温度が20〜700℃の範囲内で形成されるのが好ましい。
【0088】
本発明の光電変換素子における対向電極(対極)は、導電性材料からなる単層構造でもよいし、導電層と基板とから構成されていてもよい。基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば、金属、無色又は有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、樹脂でも良い。かかる樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテン等が挙げられる。また、電荷輸送層上に直接導電性材料を塗布、メッキ又は蒸着(PVD、CVD)して対極を形成しても良い。
【0089】
導電性材料としては、白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属や、炭素材料、導電性有機物等の比抵抗の小さな材料が用いられる。
【0090】
また、対極の抵抗を下げる目的で金属リードを用いても良い。金属リードは白金、金、ニッケル、チタン、アルミニウム、銅、銀、タングステン等の金属からなるのが好ましく、アルミニウム又は銀からなるのが特に好ましい。
【0091】
半導体層としては、上述した本発明の酸化チタンナノチューブからなるものを使用する。
【0092】
導電性基板上に半導体層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、本発明の酸化チタンナノチューブを含むペーストを調製し、導電性基板上に塗布して焼成する方法等が挙げられる。この際、ペーストの溶媒としては、水、有機溶媒等を用いることができる。
【0093】
有機溶媒としては、本発明の酸化チタンナノチューブを分散できるものであれば、特に限定はない。例えば、エタノール、メタノール、テルピネオール等のアルコール類やエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類等を用いることができる。これらの溶媒は、分散性、揮発性及び粘度を考慮し、通常混合して用いられる。ペースト中の溶媒の割合としては、塗布時に流動性を持たせる点と塗布後の厚みを保持する点、また多孔質の酸化チタンを形成する点から、50〜90重量%が、特に70〜85重量%が好ましい。
【0094】
分散液の成分として、上記の溶媒以外に、増粘剤等を含んでもよい。
【0095】
増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース等が挙げられる。なかでも、アルキルセルロース、特にエチルセルロースを好適に用いることができる。
【0096】
ペースト中の増粘剤の割合としては、塗布時の流動性と塗布後の厚みのバランスをとる点から、2〜20重量%が、特に3〜15重量%が好ましい。
【0097】
ペースト中の固形分の割合としては、上記と同様に塗布時の流動性と塗布後の厚みのバランスの点から、10〜50重量%が、特に15〜30重量%が好ましい。さらにその固形分に対して、本発明の酸化チタンナノチューブを0.1〜90重量%(さらに0.2〜80重量%(特に0.5〜60重量%))含んでいることが好ましい。
【0098】
本発明の光電変換素子においては、半導体層の光吸収効率を向上すること等を目的として、半導体層に色素を担持(吸着、含有等)させたものが用いられる。
【0099】
色素は、可視域や近赤外域に吸収特性を有し、半導体層の光吸収効率を向上(増感)させる色素であれば特に限定されないが、金属錯体色素、有機色素、天然色素、半導体等が好ましい。また、半導体層への吸着性を付与するために、色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ホスホニル基、カルボキシルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルホニルアルキル基、ホスホニルアルキル基等の官能基を有するものが好適に用いられる。
【0100】
金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム、オスミウム、鉄、コバルト、亜鉛又は水銀の錯体(例えば、メリクルクロム等)、金属フタロシアニン、クロロフィル等を用いることができる。また、有機色素としては、例えば、シアニン系色素、ヘミシアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、金属フリーフタロシアニン系色素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。色素として用いることができる半導体としては、i型の光吸収係数が大きなアモルファス半導体、直接遷移型半導体又は量子サイズ効果を示し、可視光を効率よく吸収する微粒子半導体が好ましい。通常、各種の半導体、金属錯体色素及び有機色素の一種、又は光電変換の波長域をできるだけ広くし、かつ変換効率を上げるため、二種類以上の色素を混合することができる。また、目的とする光源の波長域と強度分布に合わせるように、混合する色素とその割合を選ぶことができる。
【0101】
色素を半導体層に吸着させる方法としては、例えば、溶媒に色素を溶解させた溶液を、半導体層上にスプレーコート、スピンコート等により塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱しても良い。また、半導体層を溶液に浸漬して吸着させる方法を用いることもできる。浸漬する時間は色素が充分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは10分〜30時間、より好ましくは1〜20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。溶液にする場合の色素の濃度としては、1〜1000mmol/L、好ましくは10〜500mmol/L程度である。
【0102】
用いる溶媒は特に制限されるものではないが、水及び有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−ブタノン等のケトン類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0103】
色素間の凝集等の相互作用を低減するために、界面活性剤としての性質を持つ無色の化合物を色素吸着液に添加し、半導体層に共吸着させてもよい。このような無色の化合物の例としては、カルボキシル基やスルホ基を有するコール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、タウロデオキシコール酸等のステロイド化合物、スルホン酸塩類等が挙げられる。
【0104】
未吸着の色素は、吸着工程後、速やかに洗浄により除去するのが好ましい。洗浄は湿式洗浄槽中でアセトニトリル、アルコール系溶媒等を用いて行うのが好ましい。
【0105】
色素を吸着させた後、アミン類、4級アンモニウム塩、少なくとも1つのウレイド基を有するウレイド化合物、少なくとも1つのシリル基を有するシリル化合物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等を用いて、半導体層の表面を処理してもよい。好ましいアミン類の例としては、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン等が挙げられる。好ましい4級アンモニウム塩の例としては、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド等が挙げられる。これらは有機溶媒に溶解して用いてもよく、液体の場合はそのまま用いてもよい。
【0106】
電荷輸送層は、色素の酸化体に電子を補充する機能を有する電荷輸送材料を含有する。本発明で用いる電荷輸送材料は、イオンが関わる電荷輸送材料であり、酸化還元対イオンが溶解した溶液、酸化還元対の溶液をポリマーマトリックスのゲルに含浸したゲル電解質組成物、固体電解質組成物等が挙げられる。
【0107】
イオンがかかわる電荷輸送材料としての電解液は、電解質、溶媒及び添加物から構成されることが好ましい。電解液に用いる電解質の例としては、ヨウ素とヨウ化物(LiI、NaI、KI、CsI、CaI等の金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物ヨウ素塩等)の組み合わせ、臭素と臭化物(LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBr、CaBr等の金属臭化物、テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物臭素塩等)の組み合わせ、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩やフェロセン−フェリシニウムイオン等の金属錯体、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド等のイオウ化合物、ビオロゲン色素、ヒドロキノン−キノン等が挙げられる。中でも、IとLiI又はピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物ヨウ素塩とを組み合わせた電解質が好ましい。電解質は混合して用いてもよい。
【0108】
溶媒としては、一般に電気化学セルや電池に用いられる溶媒であればいずれも使用することができる。具体的には、無水酢酸、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、プロピオンニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が使用可能である。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が好ましい。また、常温溶融塩類も用いることができる。ここで、常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示すものである。溶媒はその1種を単独で使用しても良いし、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0109】
また、4−t−ブチルピリジン、2−ピコリン、2,6−ルチジン等の塩基性化合物を前述の溶融塩電解質組成物や電解液に添加することが好ましい。塩基性化合物を電解液に添加する場合の好ましい濃度範囲は0.05〜2mol/Lである。溶融塩電解質組成物に添加する場合、塩基性化合物はイオン性基を有することが好ましい。溶融塩電解質組成物全体に対する塩基性化合物の配合割合は、好ましくは1〜40重量%であり、より好ましくは5〜30重量%である。
【0110】
ポリマーマトリックスとして使用できる材料としては、高分子マトリックス単体で、あるいは可塑剤の添加や、支持電解質の添加、または可塑剤と支持電解質の添加によって固体状態またはゲル状態が形成されれば特に制限は無く、一般的に用いられるいわゆる高分子化合物を用いることができる。
【0111】
上記ポリマーマトリックスとしての特性を示す高分子化合物としては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、フッ化ビニリデン等のモノマーを重合又は共重合して得られる高分子化合物を挙げることができる。また、これらの高分子化合物は単独で用いても良く、また混合して用いても良い。これらの中でも、特にポリフッ化ビニリデン系高分子化合物が好ましい。
【0112】
電荷輸送層は2通りの方法のいずれかにより形成できる。1つ目の方法は半導体層と対極を貼り合わせておき、その間隙に液状の電荷輸送層を挟み込む方法である。2つ目の方法は半導体層上に直接電荷輸送層を付与する方法で、対極はその後付与することになる。
【0113】
前者の方法の場合、電荷輸送層を挟み込む際には、浸漬等による毛管現象を利用する常圧プロセス、又は常圧より低い圧力にして間隙の気相を液相に置換する真空プロセスを利用できる。
【0114】
後者の方法において湿式の電荷輸送層を用いる場合は、通常未乾燥のまま対極を付与し、エッジ部の液漏洩防止措置を施す。また、ゲル電解質組成物を用いる場合には、これを湿式で塗布した後で重合等の方法により固体化してもよい。固体化は対極を付与する前に行っても後に行ってもよい。
【実施例】
【0115】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0116】
実施例1
水500gにアニリン5gを加え、さらに氷冷しながら(±)−しょうのうスルホン酸6.23gを加えて15分撹拌した。過硫酸アンモニウム12.4gを加え、1分撹拌した後25時間静置した(アニリン:0.107mol/l、(±)−しょうのうスルホン酸:0.054mol/l、過硫酸アンモニウム:0.109mol/l)。得られた濃緑色の反応液を減圧ろ過し、1Lの水で3回水洗を行い、200℃で真空乾燥を行うことにより、4.7gの濃緑色固体を得た。この固体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平均外径約200nm、平均長さ約2μm、平均アスペクト比約10、平均内径約10nmのチューブ状のポリアニリンを確認できた。なお、図3は、当該チューブ状ポリアニリンの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0117】
このポリアニリン0.06gを水6gに投入し、超音波分散を行った。この分散液に1Mの(NHTiF水溶液を3g、1MのHBO水溶液を6g加え、室温で24h反応させたところ、濃緑色の沈殿が得られた(ポリアニリン:0.043mol/l、(NHTiF:0.2mol/l)。この沈殿を純水で洗浄し、減圧ろ過、200℃真空乾燥を行ったところ、0.18gの濃緑色の固体が得られた。この固体をSEMで観察し、チューブ状のポリアニリンの表面が、粒子状酸化チタンで被覆された酸化チタン−ポリアニリン構造体が得られていることを確認した。なお、図4は、ここで得られた酸化チタン−ポリアニリン複合体の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0118】
この酸化チタン−ポリアニリン構造体を電気炉を用いて空気中(酸素分圧は19.6kPa)550℃で熱処理したところ、平均粒子径約10nmの粒子状酸化チタンが連なってなり、平均外径約250nm、平均長さ約2μm、平均アスペクト比約8、平均内径約150nmの酸化チタンナノチューブが得られていることを確認した。なお、図5は、ここで得られた酸化チタンナノチューブの電子顕微鏡(SEM)写真、図6はここで得られた酸化チタンナノチューブの断面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0119】
この材料をBET法にて比表面積を測定したところ120m/gと高い比表面積を有していた。また、X線結晶構造解析を行ったところ、アナターゼ型酸化チタンが主成分(約100重量%)であることがわかった。
【0120】
この材料の重金属含有量をICP法で測定したところ、重金属濃度は検出限界以下(5ppm以下)であった。
【0121】
また、この材料を10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗が4×10Ω・mであることを確認した。
【0122】
実施例2
ポリアニリンを除去する際の熱処理の条件を空気中(酸素分圧は19.6kPa)650℃としたこと以外は実施例1と同様にして実験を行った。そして、平均粒子径約13nmの粒子状酸化チタンが連なってなり、平均外径約250nm、平均長さ約2μm、平均アスペクト比約8、平均内径約160nmの酸化チタンナノチューブが得られていることを確認した。
【0123】
この材料をBET法にて比表面積を測定したところ80m/gと高い比表面積を有していた。また、X線結晶構造解析を行ったところ、アナターゼ型酸化チタンが主成分(約100重量%)であることがわかった。
【0124】
この材料の重金属含有量をICP法で測定したところ、重金属濃度は検出限界以下(5ppm以下)であった。
【0125】
また、この材料を10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗が2×10Ω・mであることを確認した。
【0126】
実施例3
水500gにアニリン5gを加え、さらに氷冷しながらS−(+)−しょうのうスルホン酸5.5gを加えて15分撹拌した。過硫酸アンモニウム12.4gを加え、1分撹拌した後15時間静置した(アニリン:0.107mol/l、S−(+)−しょうのうスルホン酸:0.047mol/l、過硫酸アンモニウム:0.109mol/l)。得られた濃緑色の反応液を減圧ろ過し、1Lの水で3回水洗を行い、200℃で真空乾燥を行うことにより、4.8gの濃緑色固体を得た。この固体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、平均外径約250nm、平均長さ約2μm、平均アスペクト比約8、平均内径約10nmのチューブ状のポリアニリンを確認できた。
【0127】
チタンイソプロポキシド56.8g(0.2mol)に酢酸12.0g(0.2mol)を加えて撹拌したところ粘性のある均一で透明な溶液が得られた。この溶液に290gの水と濃硝酸4mlを加え、80℃に加熱したところ、平均粒子径4nm程度の酸化チタンを含む白濁したゾルが得られた(酸化チタン:0.56mol/l)。
【0128】
このゾル100mlに上記のポリアニリン0.1gを浸漬し、さらに撹拌、減圧ろ過、200℃真空乾燥を行った。
【0129】
得られた固体をTEMで観察し、チューブ状のポリアニリンの表面が、平均粒子径約4nmの粒子状酸化チタンが連なってなる被覆層で被覆されており、平均外径約280nm、平均長さ約2μm、平均アスペクト比約7、平均内径約10nmであることを確認した。
【0130】
また、BET法にて比表面積を測定したところ100m/gと高い比表面積を有していた。また、X線結晶構造解析を行ったところ、弱いアナターゼ型の結晶構造を有していることがわかった。
【0131】
この酸化チタン−ポリアニリン構造体を電気炉を用いて空気中(酸素分圧は19.6kPa)600℃で熱処理したところ、平均粒子径約12nmの粒子状酸化チタンが連なってなり、平均外径約280nm、平均長さ約2μm、平均アスペクト比約7、平均内径約160nmの酸化チタンナノチューブが得られていることを確認した。
【0132】
この材料をBET法にて比表面積を測定したところ110m/gと高い比表面積を有していた。また、X線結晶構造解析を行ったところ、アナターゼ型酸化チタンが主成分(80重量%)であることがわかった。
【0133】
この材料の重金属含有量をICP法で測定したところ、重金属濃度は検出限界以下(5ppm以下)であった。
【0134】
また、この材料を10MPaの圧力で厚さ0.3mmの平板状に加工し、ペレット間に電圧1Vを印加したところ、粉体抵抗が3×10Ω・mであることを確認した。
【0135】
比較例1
酸化チタンを含むゾルの代わりに、平均粒子径10nmのアナターゼ型酸化チタンナノ粒子5gを水100mlに分散させた液を用いて、実施例3と同様に行った。得られた固体をSEMで観察したが、酸化チタンナノチューブは得られず、原料の酸化チタンナノ粒子のみが観察された。これは、酸化チタンナノ粒子の分散液を使用した結果、ポリアニリンの表面に酸化チタンナノ粒子を被覆させることができず、単なる混合物になっていたからであると考えられる。
【0136】
比較例2
酸化チタンを含むゾルの代わりに、チタンイソプロポキシド5gをイソプロパノール100gに溶解させた溶液を用いて実施例3と同様に、実験を行った。
【0137】
得られた固体をSEMで観察したところ、チューブ状の酸化チタンは殆ど観察されず、比表面積は10m/gと低く、X線結晶構造解析を行ったところ、ルチル型酸化チタンが主成分であった。
【0138】
比較例3
カーボンナノチューブ(大阪ガス製・直径30nm、長さ10μm)を90℃濃硫酸で6時間処理し、純水でpH5以上まで洗浄し、150℃で真空乾燥を行った。この表面を親水化したカーボンナノチューブ0.4gを60gのポリエチレンオキサイドアルキルアミン5wt%水溶液に加え、5分間超音波分散を行った。その後、1Mの(NHTiF水溶液30gと1Mホウ酸水溶液60gを加え、24時間静置したところ、酸化チタンで被覆されたカーボンナノチューブ(平均外径約125nm、平均長さ約5 μm、平均アスペクト比約40、平均内径約12nm)が1.5g得られた。
【0139】
この材料を200℃で真空乾燥を行った後、電気炉を用いて空気中(酸素分圧は19.6kPa)650℃で熱処理したところ、平均粒子径約14nmの粒子状酸化チタンが連なってなり、平均外径約110nm、平均長さ約2.5μm、平均アスペクト比約22.7、平均内径約40nmの酸化チタンナノチューブが得られていることを確認した。
【0140】
しかし、この物質の金属含有量をICP法で測定したところ、3000ppmの鉄を含有していた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6