(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の駆動軸または従動軸の一方とともに回転するハウジングと、前記駆動軸または前記従動軸の他方とともに回転し、前記ハウジング内部を遅角室および進角室に仕切るベーンを有し、前記ハウジングに対して相対回動可能なベーンロータと、前記ベーンロータに形成される収容孔に摺動可能に収容され、前記ハウジングの回転軸方向の一方の内壁に形成された嵌合孔に嵌合することで前記ハウジングに対する前記ベーンロータの相対回動を規制する規制部材と、を備え、前記駆動軸の駆動力を前記従動軸に伝達するとともに前記駆動軸に対する前記従動軸の位相を変更することにより、吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置と、
前記従動軸の回転角度を検出し、前記従動軸の回転角度に応じた信号を出力する従動角検出手段と、
前記駆動軸の回転角度を検出し、前記駆動軸の回転角度に応じた信号を出力する駆動角検出手段と、
作動流体を汲み上げ吐出するポンプと、
前記ポンプの吐出側と前記バルブタイミング調整装置の前記遅角室および進角室との間に設けられ、前記ポンプから吐出された作動流体の流路を前記遅角室または前記進角室に選択的に切換可能な切換弁と、
前記切換弁に供給される作動流体の圧力を調整する圧力調整弁と、
前記駆動軸に対する前記従動軸の目標位相が入力され、入力される前記目標位相に応じた信号を前記切換弁および前記圧力調整弁に出力する第1制御手段と、
前記従動角検出手段が検出する前記従動軸の回転角度および前記駆動角検出手段が検出する前記駆動軸の回転角度に基づいて、前記駆動軸に対する前記従動軸の現在位相と前記目標位相との差が所定の位相差より大きいか否かを判定する位相差判定手段と、
を備え、
前記位相差判定手段により前記現在位相と前記目標位相との差が所定の位相差以上であると判定される場合、前記第1制御手段は前記切換弁に供給する作動流体の圧力を高くする信号を前記圧力調整弁に出力することを特徴とするバルブタイミング調整システム。
前記位相変動幅算出手段は、前記従動角検出手段が検出する前記従動軸の回転角度、および前記駆動角検出手段が検出する前記駆動軸の回転角度に基づいて前記目標位相に対する位相の変動幅を算出することを特徴とする請求項4または5に記載のバルブタイミング調整システム。
前記第1制御手段に前記目標位相が入力される第1タイミングと前記圧力調整弁により作動流体の圧力が調整される第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する時間差判定手段をさらに備え、
前記ロック判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していると判定される場合、前記時間差判定手段は前記第1タイミングと前記第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定することを特徴とする請求項8に記載のバルブタイミング調整システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のオイル供給装置では、作動流体の温度に基づいて電動ポンプを駆動するため、バルブタイミング調整システムにおいて高圧の作動流体を必要としないときでも、作動流体の温度が低温であれば電動ポンプを駆動して高圧の作動流体を供給する。このため、バルブタイミング調整システムを駆動するための作動流体の消費量が多くなり、車両の燃費が悪化する。
【0005】
本発明の目的は、所望の弁開閉タイミングを応答よく的確に調整可能なバルブタイミング調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、吸気弁、及び排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置、ポンプ、切換弁、圧力調整弁、第1制御手段、位相差判定手段などを備える。ポンプが切換弁に向けて吐出する作動流体は、切換弁によってバルブタイミング調整装置のハウジングとベーンロータとにより形成されている進角室または遅角室に選択的に供給される。バルブタイミング調整装置では、切換弁が供給する作動流体によって駆動軸に対する従動軸の回転位相を変更する。ポンプと切換弁との間に設けられている圧力調整弁では、切換弁に供給される作動流体の圧力を調整する。第1制御手段では、駆動軸に対する従動軸の目標位相が入力され、入力される目標位相に応じた信号を切換弁、及び圧力調整弁に出力する。位相差判定手段では、従動角検出手段が検出する従動軸の回転角度、駆動角検出手段が検出する駆動軸の回転角度に基づいて、駆動軸に対する従動軸の現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であるか否かを判定する。バルブタイミング調整システムでは、位相差判定手段により現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であると判定される場合、第1制御手段は切換弁に供給される作動流体の圧力を高くする信号を圧力調整弁に出力する。
【0007】
請求項1に記載のバルブタイミング調整システムは、駆動軸に対する従動軸の現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であるか否かを判定する位相差判定手段を備える。第1制御手段では、位相差判定手段が判定する位相差の大小関係に応じて圧力調整弁を制御する。すなわち、現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であると判定される場合、バルブタイミング調整装置に供給される作動流体の圧力を高圧化する。これにより、内燃機関の回転数や作動流体の温度に応じて作動流体の圧力を調整する従来のバルブタイミング調整システムに比べて、駆動軸に対する従動軸の現在位相と目標位相との位相差に応じて作動流体の圧力を調整することができるため、作動流体の消費量を少なくすることができる。
【0008】
また、現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であると判定される場合、作動流体の圧力を高圧化することにより、駆動軸に対する従動軸の現在位相を迅速に目標位相に到達させることができる。これにより、バルブタイミング調整システムでの吸排気弁の開閉タイミングの応答性を向上させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によると、位相差判定手段は、従動角検出手段が検出する従動軸の回転角度、及び駆動角検出手段が検出する駆動軸の回転角度に基づいて駆動軸に対する従動軸の回転位相が目標位相に到達するまでに必要な目標到達時間を算出する目標到達時間算出手段と、目標到達時間算出手段が算出する目標到達時間、及び所定の目標時間に基づいて現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であるか否かを判定する第1判定手段と、から構成される。請求項2に記載のバルブタイミング調整システムでは、駆動軸に対する従動軸の現在の位相が目標位相に到達するまでに必要な目標到達時間を算出する。算出された目標到達時間が所定の目標時間以上である場合、現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であると判定し、圧力調整弁を制御して切換弁に供給する作動流体を高圧化する。また、算出された目標到達時間が所定の目標時間より小さい場合、現在位相と目標位相との差が所定の位相差より小さいと判定し、圧力調整弁による作動流体の圧力制御を行わない。これにより、駆動軸に対する従動軸の回転位相の状態に応じて作動流体の圧力を調整することができるため、作動流体の消費量を少なくすることができる。
請求項
3に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、従動角検出手段が検出する従動軸の回転角度
および駆動角検出手段が検出する駆動軸の回転角度に基づいて、駆動軸に対する従動軸の回転位相が変更中であるか否かを判定するモード判定手段をさらに備える。バルブタイミング調整システムでは、モード判定手段により駆動軸に対する従動軸の回転位相が変更中であると判定される場合、位相差判定手段は現在位相と目標位相との差が所定の位相差以上であるか否かを判定する。
【0010】
請求項
4に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、駆動軸に対する従動軸の回転位相を保持するとき、目標位相に対する位相の変動幅を算出する位相変動幅算出手段をさらに備える。バルブタイミング調整システムでは、モード判定手段により駆動軸に対する従動軸の回転位相が変更中でないと判定する場合、位相変動幅算出手段は目標位相に対する位相の変動幅を算出する。
請求項
5に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、位相変動幅算出手段により算出される目標位相に対する位相の変動幅が所定の変動幅以上であるか否かを判定する第
2判定手段をさらに備える。第
2判定手段により目標位相に対する位相の変動幅が所定の変動幅以上であると判定される場合、第1制御手段は切換弁に供給する作動流体の圧力を高くする信号を圧力調整弁に出力する
。
【0011】
バルブタイミング調整システムでは、吸排気弁の開閉タイミングを調整するとき、吸排気弁の開閉タイミングを進角、または遅角する場合の他に一定の開閉タイミングで保持する場合がある。このとき、進角室、及び遅角室に供給される作動流体の圧力が低いと、ハウジングに対するベーンロータの位置が安定しないため、目標位相に対する位相の変動幅が大きくなる。そこで、請求項
5に記載のバルブタイミング調整システムでは、位相変動幅算出手段により目標位相に対する位相の変動幅を算出する。次に第
2判定手段により算出された位相の変動幅が所定の変動幅以上であると判定されると、第1制御手段は、圧力調整弁に切換弁に供給される作動流体の圧力を高くする信号を出力する。これにより、進角室、及び遅角室に滞留する作動流体の圧力が高くなるため、ハウジングに対するベーンロータの位置が安定する。したがって、吸排気弁の開閉タイミングを一定の間隔で安定させることができる。
【0012】
請求項
6に記載の発明によると、位相変動幅算出手段は、従動角検出手段が検出する従動軸の回転角度、及び駆動角検出手段が検出する駆動軸の回転角度に基づいて目標位相に対する位相の変動幅を算出する。
また、請求項
7に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、バルブ角度検出手段、作動流体温度検出手段、作動流体圧力検出手段、及び作動流体の圧力と目標位相に対する位相の変動幅との関係を示す第1マップを記憶する第1記憶手段をさらに備える。請求項
7に記載のバルブタイミング調整システムの位相変動幅算出手段は、駆動角検出手段による検出される駆動軸の回転角度、バルブ角度検出手段により検出されるスロットルバルブの回転角度、作動流体温度検出手段により検出される作動流体の温度、作動流体圧力検出手段により検出される作動流体の圧力、及び第1マップに基づいて目標位相に対する位相の変動幅を算出する。
【0014】
請求項8に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロッ
ク判定手段をさらに備える。ロッ
ク判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していないと判定される場合、モード判定手段により駆動軸に対する従動軸の回転位相が変更中であるか否かを判定する。
バルブタイミング調整装置の規制部材は、ハウジングの内壁に形成されている嵌合孔に嵌合することによりベーンロータの相対回動を規制する。ロッ
ク判定手段では、規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定する。ロッ
ク判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していないと判定される場合、ベーンロータはハウジングに対して回動可能であると考えられるため、モード判定手段により位相が変更中であるか否かを判定する。
【0015】
請求項9に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、第1制御手段に駆動軸に対する従動軸の目標位相が入力される第1タイミングと圧力調整弁により作動流体の圧力が調整される第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する時間差判定手段をさらに備える。バルブタイミング調整システムでは、ロッ
ク判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していると判定される場合、時間差判定手段は第1タイミングと第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを算出する。
また、請求項10に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、圧力調整弁が調整する前の作動流体の調整前圧力、及び圧力調整弁が調整した後の作動流体の調整後圧力を算出する圧力算出手段をさらに備える。バルブタイミング調整システムでは、ロッ
ク判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していると判定され、かつ時間差判定手段により第1タイミングと第2タイミングとの差が所定の時間より小さいと判定される場合、圧力算出手段は、調整前圧力、及び調整後圧力を算出する。
【0016】
バルブタイミング調整システムでは、内燃機関の始動直後に吸排気弁の開閉タイミングを進角する際、規制部材の嵌合孔との嵌合を解除するため、バルブタイミング調整装置に作動流体を供給する。このとき、圧力調整弁による作動流体の圧力が調整されると、規制部材の嵌合を解除することができなくなるおそれがある。そこで、請求項9、及び10に記載のバルブタイミング調整システムでは、規制部材の嵌合を解除する際、圧力調整弁による作動流体の圧力調整前、及び圧力調整後の圧力を算出する。
【0017】
請求項11〜13に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、圧力算出手段により算出される調整前圧力に基づいて調整前圧力が所定の第1油圧より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、圧力算出手段により算出される調整後圧力に基づいて調整後圧力が所定の第2油圧より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと第2タイミングとの関係を調整する第2制御制御手段と、をさらに備える。バルブタイミング調整システムでは、調整前圧力判定手段、及び調整後圧力判定手段による判定結果に基づいて、第3タイミングと第2タイミングとの前後関係を調整する。これにより、規制部材の嵌合をスムーズに解除することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態のバルブタイミング調整システムについて図面に基づいて説明する。
【0020】
(第1実施形態)
第1実施形態によるバルブタイミング調整システムを
図1から
図6に示す。本実施形態のバルブタイミング調整システムは、作動流体としてオイルを用いる油圧制御式である。バルブタイミング調整システムは、エンジンのクランクシャフトの回転角度に対するカムシャフトの回転角度(以下、「カムシャフト位相」という)を調整することにより吸排気弁の開閉タイミングを調整する位相調整部と、位相調整部に供給されるオイルの圧力を制御する油圧制御部とを備える。
【0021】
バルブタイミング調整システム10の位相調整部100が設けられる駆動力伝達系では、
図1に示すように、エンジン1の「駆動軸」としてのクランクシャフト2に固定されるギア3と、「従動軸」としてのカムシャフト4、5に固定されるギア191、6にチェーン7が巻き掛けられ、クランクシャフト2からカムシャフト4、5に駆動力が伝達される。一方のカムシャフト4はカム機構を経由して吸気弁8を開閉駆動し、他方のカムシャフト5はカム機構を経由して排気弁9を開閉駆動する。第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ギア191に対する回転位相が変更可能なベーンロータ20(
図2参照)にカムシャフト4が接続しており、ギア191に対するベーンロータ20の回転位相を変更することにより吸気弁8の開閉タイミングを調整する。カムシャフト4にはカムシャフト4の回転角度を検出する「従動角検出手段」としてのカム角センサ41が取り付けられている。また、クランクシャフト2にはクランクシャフト2の回転角度を検出する「駆動角検出手段」としてのクランク角センサ42が取り付けられている。位相調整部100は、特許請求の範囲に記載の「バルブタイミング調整装置」に相当する。
【0022】
図2及び
図3に示すように、位相調整部100は、ハウジング11、ベーンロータ20、及びストッパピン30等を備えている。
ハウジング11は、環状の周壁12、及び仕切り部材としてのシュウ13、14、15、16と一体に形成されたシュウハウジング17、フロントプレート18、並びにスプロケット19等から構成されている。略台形に形成されたシュウ13、14、15、16は、周壁12から径方向内側へ延びており、周壁12の周方向に略等間隔に設けられている。周方向に隣接するシュウ同士の間隙には略扇状の圧力室50が形成されている。
【0023】
スプロケット19は、径外側にギア191を備え、周壁12の回転軸方向の一方に設けられている。スプロケット19は、軸方向にカムシャフト4を通す軸孔192を有している。
【0024】
フロントプレート18は、略円盤状に形成され、周壁12の回転軸方向の他方に設けられている。フロントプレート18は、円盤の中心に板厚方向に通じる円孔181を有している。
【0025】
シュウハウジング17、フロントプレート18、及びスプロケット19は、ボルト111によって同軸上に固定されている。
【0026】
ベーンロータ20は、ハウジング11と略同軸に設けられ、ハウジング11の内側に相対回転可能に収容されている。ベーンロータ20は、略円筒状のロータ21、及びこのロータ21から径外方向に突出する4個のベーン22、23、24、25を有している。ベーンロータ20とカムシャフト4とはボルト26によって固定されている。ベーンロータ20とカムシャフト4とは、ノックピン27によって周方向の位置決めがされている。これにより、ベーンロータ20は、カムシャフト4とともに回転する。各ベーン22、23、24、25は、各圧力室50を、それぞれ遅角室51、52、53、54と進角室55、56、57、58とに仕切っている。
【0027】
遅角室51、52、53、54に油圧を供給する遅角通路61、62は、ベーンロータ20のロータ21に形成されている。進角室55、56、57、58に油圧を供給する進角通路63、64は、ロータ21のスプロケット19側の外壁に形成されている。遅角通路61、62、及び進角通路63、64は、それぞれカムシャフト4に形成された遅角通路65、及び進角通路66に連通している。
【0028】
シール部材28、29は、例えば樹脂で形成されている。各ベーン22、23、24、25の径外方向の外壁に嵌合するシール部材28は、板ばね281の弾性力により周壁12に押し付けられている。各シュウ13、14、15、16の径内方向の内壁に嵌合するシール部材29は、板ばね291の弾性力によりロータ21に押し付けられている。このため、シール部材28、29は、遅角室51、52、53、54と進角室55、56、57、58との間のオイルの漏れを抑制している。
【0029】
ストッパピン30は、有底円筒状に形成され、ベーン22を回転軸方向に通じる収容孔221の軸方向に往復移動可能に収容されている。
図3に示すように、スプロケット19にはベーンロータ20が最遅角に位置している状態でストッパピン30に対応する位置に嵌合孔31が形成されている。この嵌合孔31にはブッシュ32が設けられている。ストッパピン30は、一方の端部にブッシュ32の径内側に嵌合する嵌合部33を有している。
【0030】
ストッパピン30の他方の端部には、嵌合孔31側に凹む凹部34が設けられている。この凹部34には、付勢部材としてのコイルスプリング35が収容されている。コイルスプリング35は、一端が凹部34の内壁に当接し、他端がフロントプレート18の内壁に当接する圧縮コイルスプリングであり、ストッパピン30をスプロケット19側へ付勢している。
【0031】
バルブタイミング調整システム10の油圧制御部200は、
図3に示すように、ポンプ90、油圧制御弁92、圧力調整弁99、ECU91などを備える。
【0032】
ポンプ90は、オイルパン95に貯留されるオイルを吸引、昇圧する。昇圧されたオイルは、ポンプ90から吐出され、油路902を流れる。
【0033】
油路902は、逆止弁901を介して油圧制御弁92に接続する。また、油路902は、ポンプ90と逆止弁901との間で油路903の一端と接続する。油路903の他端は、圧力調整弁99に接続する。
【0034】
圧力調整弁99は、リリーフ部991、及び油圧供給部992を備える。油路903が接続するリリーフ部991では、油圧供給部992が供給する油圧によってリリーフ圧が決定される。リリーフ部991に所定のリリーフ圧以上の圧力が油路903から作用する場合、リリーフ部991は開弁し、油路902を流れるオイルの一部がリリーフ部991を通ってオイルパン95に還流される。油圧供給部992は、リニアソレノイド弁であって、ECU91が出力する電流の大きさに応じてリリーフ部991のリリーフ圧力を決定する。
【0035】
油圧制御弁92は、リニアソレノイド弁であって、電気的に接続するECU91が出力する電流の大きさに応じてポンプ90が吐出するオイルの圧力を調整するとともに、供給されるオイルを進角室55、56、57、58、及び遅角室51、52、53、54を選択して供給する。油圧制御弁92は、油路902と接続する一方、進角室55、56、57、58に接続する進角通路93、及び遅角室51、52、53、54に接続する遅角通路94と接続している。また、図示しない油路を介して、オイルパン95とも接続している。
【0036】
ECU91は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁の燃料噴射量や点火プラグの点火時期を制御する。ECU91には、「作動流体温度検出手段」としての油温センサ96が検出するオイルの温度、「作動流体圧力検出手段」としての油圧センサ97が検出する進角通路93、及び遅角通路94を流通するオイルの圧力、「バルブ角度検出手段」としてのスロットルセンサ98が検出する図示しないスロットルバルブの回転角度が入力される。また、ECU91には、カム角センサ41が検出するカムシャフト4の回転角度、及びクランク角センサ42が検出するクランクシャフト2の回転角度が入力される。ECU91は、特許請求の範囲に記載の「第1制御手段」、「位相差判定手段」、「モード判定手段」、「位相変動幅算出手段」、「第1判定手段」、「第1記憶手段」、「目標到達時間算出手段」、「第2判定手段」に相当する。
【0037】
次に、バルブタイミング調整システム10の作動を説明する。
<エンジン始動時>
エンジン1を始動した直後の状態では、遅角室51、52、53、54、及び進角室55、56、57、58にポンプ90から十分にオイルが供給されない。このとき、
図3に示すようにストッパピン30は嵌合孔31のブッシュ32に嵌合している(以下、ストッパピン30がブッシュ32に嵌合している状態を「ストッパピン30がロックしている」という)。これにより、カムシャフト位相は最遅角位置に保持されたまま、ハウジング11に対するベーンロータ20の相対回動は規制されている。
【0038】
<進角作動時>
位相調整部100を進角制御するとき、ECU91は、油圧制御弁92、及び圧力調整弁99に供給する駆動電流を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と進角通路93とを接続し、遅角通路94とオイルパン95とを接続する。ポンプ90が吐出するオイルは、進角通路93、66、63、64を経由し、進角室55、56、57、58に供給される。一方、遅角室51、52、53、54のオイルは、遅角通路61、62、65、94を経由し、オイルパン95に排出される。進角室55、56、57、58の油圧はベーン22、23、24、25に作用し、ベーンロータ20を進角方向に付勢するトルクを発生する。これにより、ベーンロータ20は、ハウジング11に対して進角方向に回転する。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。油圧制御弁92、及び圧力調整弁99が位相調整部100に供給する油圧の制御処理の詳細は後述する。
【0039】
<遅角作動時>
位相調整部100を遅角制御するとき、ECU91は、油圧制御弁92に供給する駆動電流を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と遅角通路94とを接続し、進角通路93とオイルパン95とを接続する。ポンプ90から吐出されるオイルは、遅角通路94、65、61、62を経由し、遅角室51、52、53、54に供給される。一方、進角室55、56、57、58のオイルは進角通路63、64、66、93を経由し、オイルパン95に排出される。遅角室51、52、53、54の油圧がベーン22、23、24、25に作用し、ベーンロータ20を遅角方向に付勢するトルクを発生する。これにより、ベーンロータ20は、ハウジング11に対して遅角方向に回転する。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。油圧制御弁92、及び圧力調整弁99が位相調整部100に供給する油圧の制御処理の詳細は後述する。
【0040】
<中間保持状態>
ベーンロータ20が目標位相に到達すると、ECU91は油圧制御弁92、及び圧力調整弁99に出力する駆動電流のデューティ比を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と、遅角通路94、及び進角通路93との接続を遮断し、遅角室51、52、53、54、及び進角室55、56、57、58に滞留するオイルがオイルパン95に排出されることを規制する。このため、ベーンロータ20は目標位相に保持される。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。油圧制御弁92、及び圧力調整弁99が位相調整部100に供給する油圧の制御処理の詳細は後述する。
なお、進角作動時、遅角作動時、及び中間保持状態では、ポンプ90から位相調整部100の進角室55、56、57、58、及び遅角室51、52、53、54に供給される油圧はコイルスプリング35がストッパピン30に作用する力よりも大きいので、ストッパピン30のロック状態は解除されている。
【0041】
第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ベーンロータ20のロックが解除されると、油圧制御弁92、及び圧力調整弁99により決定されるオイルの圧力、及び供給量によってベーンロータ20の位相が制御される。このとき、油圧制御弁92、及び圧力調整弁99に駆動電流を通電するECU91は、位相調整部100に供給されるオイルの圧力を最適な圧力に制御する圧力制御処理を実行する。第1実施形態のバルブタイミング調整システム10におけるオイルの油圧制御処理について、
図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0042】
最初のステップ(以下、「ステップ」を省略し、単に記号Sで示す)101において、エンジン1の運転状態を検出する。S101では、ECU91に入力されるカムシャフト4の回転角度、クランクシャフト2の回転角度、オイルの温度、オイルの圧力、及びスロットルバルブの回転角度から、エンジン1の運転状態を検出する。
【0043】
次にS102において、ベーンロータ20が進角作動中または遅角作動中であるか否かを判定する。ECU91には、図示しない外部の電子制御装置からバルブタイミング調整指令が入力される。ECU91ではこのバルブタイミング調整指令に基づいて、ベーンロータ20が進角作動中または遅角作動中であるか、またはいずれでもなく中間保持状態であるか否かを判定する。ベーンロータ20が進角作動中または遅角作動中であると判定される場合、S103に移行する。ベーンロータ20が位相保持状態であると判定される場合、S106に移行する。
【0044】
次にS103において、ベーンロータ20の位相が目標位相に到達するまでに要する時間(以下、「目標到達時間」という)を算出する。ベーンロータ20が進角作動中または遅角作動中である場合、ベーンロータ20は、現在の位相を目標位相に変更するために回転している。そこで、S103では、カム角センサ41が検出するカムシャフト4の回転角度、及びクランク角センサ42が検出するクランクシャフト2の回転角度から算出されるカムシャフト位相の変化速度と、現在のカムシャフト位相と目標とするカムシャフト位相との差から、ECU91は目標到達時間を算出する。
【0045】
次にS104において、S103で算出した目標到達時間が所定時間以上であるか否かを判定する。目標到達時間が所定の時間以上であると判定される場合、S105に移行する。目標到達時間が所定時間より小さいと判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0046】
次にS105において、位相調整部100に供給する油圧を高く設定する。具体的には、ECU91は、圧力調整弁99に対してリリーフ圧を高く設定するように駆動電流を通電する。これにより、油圧制御弁92は高圧のオイルを進角室55、56、57、58、または遅角室51、52、53、54に供給する。
【0047】
次にS102においてベーンロータ20が位相保持状態であると判定される場合、S106において、ベーンロータ20の位相が変動しているか否かを判定する。ここで、位相調整部100に供給される油圧とベーンロータ20の位相変動幅の関係を示す第1マップを
図5に示す。ベーンロータ20の位相変動幅は、位相調整部100の進角室55、56、57、58、及び遅角室51、52、53、54に供給されるオイルの量、及び油圧により決定される。特に、油圧の大きさによってはベーンロータ20が進角方向または遅角方向に揺動する。具体的には、油圧が小さい場合、ベーン22、23、24、25に作用する圧力が小さいため、ベーンロータ20は揺動しやすくなり、ベーンロータ20の位相変動幅が大きくなる。S106では、S101で検出されたエンジン1の運転状態に基づいて、現在の油圧が
図5において設定される位相変動幅の閾値を下回る位相変動幅となる油圧であるか否かを判定する。現在の油圧が当該設定される位相変動幅の閾値に対応する油圧の閾値以下であると判定される場合、S107に移行する。現在の油圧が当該設定される位相変動幅の閾値に対応する油圧の閾値より大きいと判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0048】
次にS107において、位相調整部100に供給する油圧を高く設定する。具体的には、ECU91は、圧力調整弁99に対してリリーフ圧を高く設定するように駆動電流を通電する。これにより、油圧制御弁92は高圧のオイルを進角室55、56、57、58、または遅角室51、52、53、54に供給する。
【0049】
<エンジン停止時作動>
バルブタイミング調整システム10の作動中にエンジン停止が指示されると、上記遅角作動時と同じように、ベーンロータ20はハウジング11に対して遅角方向に回転し、ストッパピン30がロック可能な位相である最遅角位置に位相制御される。また、エンジン停止指示後、エンジン1の回転低下に伴って、バルブタイミング調整システム10に供給される油圧は次第に低くなり、ストッパピン30に印加される進角室55、56、57、58、及び遅角室51、52、53、54の圧力も低下する。
【0050】
(効果)
次に第1実施形態でのバルブタイミング調整システム10の効果について説明する。
(A)バルブタイミング調整システム10では、ベーンロータ20が進角作動または遅角作動をしている場合、ベーンロータ20の目標位相と実際の位相との差が大きいと判定すると、ECU91は位相調整部100に供給する油圧を高圧にする。このように、バルブタイミング調整システム10では、ベーンロータ20の作動状態に応じて位相調整部100に供給する油圧の大きさを切り換える。これにより、油温やエンジンの回転数に応じて一義的に油圧を制御する従来のバルブタイミング調整システムに比べて、オイルの消費量を少なくすることができる。
【0051】
(B)上述したように、ベーンロータ20が進角作動または遅角作動をしている場合、ベーンロータ20の目標位相と実際の位相との差が大きいと、ECU91は位相調整部100に供給する油圧を高圧にする。これにより、
図6に示すようにポンプ90が同じ回転数であっても供給される油圧が高圧となり、カムシャフト位相の変化速度を速くすることができる。したがって、吸気弁8の開閉タイミングの応答性を向上することができる。
【0052】
(C)また、バルブタイミング調整システム10では、ストッパピン30がロックされていない状態でベーンロータ20が進角または遅角作動をしていないとき、吸気弁8の現在の開閉タイミングを保持している。このとき、進角室55、56、57、58、及び遅角室51、52、53、54に供給されるオイルの圧力が過度に低いと、ベーンロータ20が進角方向または遅角方向のいずれにも移動するため、吸気弁8の開閉タイミングが不安定になる。そこで、第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ベーンロータ20の目標位相に対する位相変動幅を算出する。算出された位相変動幅が、所定の位相変動幅以上である場合、ECU91は圧力調整弁99を制御して油圧制御弁92に高圧のオイルを供給する。これにより、進角室55、56、57、58、及び遅角室51、52、53、54に高圧のオイルが供給されるため、ベーンロータ20の位相変動幅は小さくなり、吸気弁8の開閉タイミングを安定させることができる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムを
図7から
図13に基づいて説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して、ストッパピンのロック解除に用いられる油路の形状、及びストッパピンがロックされている状態での油圧制御処理が異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0054】
第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10におけるストッパピン30周辺の拡大断面図を
図7に示す。
ストッパピン30を収容する収容孔221には、スプロケット19に形成されている進角通路193、及びベーン22に形成されている遅角通路222が接続している。ストッパピン30がロックしているとき、ベーンロータ20は、最遅角に位置している。進角室55のオイルの圧力が進角通路193を介してストッパピン30に作用すると、ストッパピン30はコイルスプリング35の付勢力に抗して
図7の上方に移動する。一方、遅角室51のオイルの圧力が遅角通路222を介してストッパピン30に作用すると、ストッパピン30は、進角室55の油圧が作用するときと同じようにコイルスプリング35の付勢力に抗して
図7の上方に移動する。したがって、第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10におけるストッパピン30のロック状態は、進角室55に供給されるオイルの圧力、または遅角室51に供給されるオイルの圧力のいずれによっても解除される。なお、
図7中の矢印は、進角室55から収容孔221に供給されるオイルの流れる方向、及び遅角室51から供給されるオイルの流れる方向を示している。
【0055】
ストッパピン30のロックを解除するとき、進角室55、及び遅角室51に供給されるオイルの油圧の大きさによって次の3つのパターンが予想される。これら3つのパターンにおけるストッパピン30と嵌合孔31に設けられているブッシュ32との関係を
図8に示す。
【0056】
図8(a)は、進角室55に供給される進角油圧によってストッパピン30のロックが解除される様子を示したものである。このときの進角室55、及び遅角室51に供給される油圧は比較的小さく、進角室55に供給される油圧によってストッパピン30のロックは解除される。これにより、ベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われる。
【0057】
図8(b)は、
図8(a)と同様に進角室55に供給される進角油圧によってストッパピン30の嵌合が解除される様子を示したものである。しかしながら、
図8(b)の進角油圧は、
図8(a)の進角油圧に比べて大きい。このとき、進角室55に供給される油圧によってベーン22が進角方向に移動する。これにより、ベーン22の収容孔221に収容されているストッパピン30は進角方向に偏心する。偏心したストッパピン30は、嵌合孔31に設けられているブッシュ32に当接し、ストッパピン30とブッシュ32との間に
図8(b)の矢印に示すような摩擦力が発生する。これにより、
図8(a)に比べて大きい進角油圧が供給される
図8(b)の状態では、ストッパピン30のロックは解除されにくくなる。したがって、
図8(b)の状態ではベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われない。
【0058】
さらに油圧制御弁92に供給される油圧が大きくなると、遅角室51に滞留している油圧によって、ストッパピン30のロックが解除される(
図8(c))。これにより、進角室55にオイルが供給される前にストッパピン30の嵌合は解除されているため、ベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われる。
【0059】
図9(a)に、油圧制御弁92に供給される油圧とストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間との関係を示す。
図8において説明したように、油圧制御弁92に供給される油圧が比較的小さい場合、及び油圧制御弁92に供給される油圧が比較的大きい場合、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間は短い。しかしながら、油圧制御弁92に供給される油圧が中間程度である場合、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間は長くなる。
【0060】
ここで、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間が長くなる領域での油圧の上下限とバルブタイミング調整システム10での油圧の調整前後での油圧との関係を
図9(b)に示す。前述したように、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間が長くなる領域をロック解除不良領域とし、その下限油圧を起動不良下限油圧P1とする。また、ロック解除不良領域の上限油圧を起動不良上限油圧P2とする。
【0061】
第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、油圧の調整前後において油圧制御弁92に供給される油圧がロック解除不良領域の油圧となってしまう場合がある。そこで、第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、起動不良下限油圧P1、及び起動不良上限油圧P2との大小関係の結果に基づいて油圧の制御処理を行う。第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10における圧力制御処理のフローを
図10、及び11に示す。
【0062】
S101における運転条件の検出の次にS201において、ストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。ECU91には、外部の電子制御装置からハウジング11に対するベーンロータ20の位相を目標位相とする信号が入力される。これにより、油圧制御弁92に電流が出力され、ベーンロータ20の位相を変更する。そこで、S201では、ベーンロータ20の位相を目標位相とする信号がECU91に入力されているか否かを判定する。当該信号が入力されていない場合、ストッパピン30はロック状態であり、ベーンロータ20はスプロケット19にロックされていると判定する。一方、当該信号が入力されている場合、ストッパピン30のロック状態は解除されており、ベーンロータ20はスプロケット19に対して相対回動可能であると判定する。ストッパピン30がロック状態であると判定される場合、S202に移行する。ストッパピン30のロック状態は解除されていると判定される場合、S102に移行する。なお、S102以降は、第1実施形態のバルブタイミング調整システム10の圧力制御処理と同じフローである。ECU91は、特許請求の範囲に記載の「ロッ
ク判定手段」、「時間差判定手段」、「圧力算出手段」、「調整前圧力判定手段」、「調整後圧力判定手段」、「第2制御手段」に相当する。
【0063】
次にS202において、ベーンロータ20の位相を目標位相とする信号がECU91に入力された時刻と油圧制御弁92に供給される油圧を圧力調整弁99によって調整する予定の時刻との時間差が所定時間より小さいか否かを判定する(
図11参照)。ECU91は、図示しない外部の電子制御装置からベーンロータ20の位相を目標位相とする信号が入力された第1時刻t1を記憶するとともに、圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を事前に算出する。ECU91では、第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差を算出する。第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差が所定の時間より小さいと判定される場合、S203に移行する。第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差が所定の時間以上であると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。第1時刻t1は、特許請求の範囲に記載の「第1タイミング」に相当する。圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻は、特許請求の範囲に記載の「第2タイミング」に相当する。
【0064】
次にS203において、圧力調整弁99による油圧の調整前後において位相調整部100に供給される油圧を算出する。ECU91は、現時点で位相調整部100に供給されている油圧を調整前油圧として油圧センサ97によって検出するとともに、圧力調整弁99により調整される油圧を事前に記憶しているマップに基づいて調整後油圧として算出する。算出された調整前油圧、及び調整後油圧は、ECU91に記憶される。
【0065】
次にS204において、圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいか否かを判定する。前述したように起動不良下限油圧P1は、ロック解除不良領域の下限油圧である。圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいと判定される場合、S205に移行する。圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1以上であると判定される場合、S208に移行する。
【0066】
次にS205において、圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいか否かを判定する。前述したように起動不良上限油圧P2は、ロック解除不良領域の上限油圧である。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定される場合、S206に移行する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2以上であると判定される場合、S207に移行する。
【0067】
次にS206において、ECU91は圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を変更する。S206では、S204、及びS205での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、かつ調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定されている。
図9(b)に示すように油圧調整後にロック解除不良が発生するおそれがある(
図9(b)パターン1に該当)。そこで、S206では、
図12(a)に示すように第1時刻t1に対して、圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を所定時間遅らせる。具体的には、ECU91が圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。
【0068】
また、S205において圧力調整弁99の調整後油圧が起動不良上限油圧P2以上であると判定された場合、S207において、ECU91は圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を変更するか、または「第3タイミング」としてのベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を変更する。S205では、S204、及びS205での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定されている。この状態であっても、
図8(b)で示したようにストッパピン30が偏心するため、ストッパピン30のロックが解除されないおそれがある。そこで、S207では
図12(a)または(b)に示すように、第1時刻t1に対して圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を所定時間遅らせるか、もしくは第1時刻t1に対してベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。具体的には、圧力調整弁99での油圧の調整時刻を所定時間遅らせる場合、ECU91が圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(
図12(a))。また、ベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる場合、ECU91が油圧制御弁92に対して油圧制御弁92での油路の切換を指示する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(
図12(b))。
【0069】
また、S204において圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1以上であると判定された場合、次にS208において、圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定される場合、S209に移行する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0070】
次にS209において、ECU91はベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を変更する。S209では、S204、及びS205での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より大きく、調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定されているので、油圧調整前にロック解除不良が発生するおそれがある(
図9(b)パターン3参照)。そこで、
図12(b)に示すように、第1時刻t1に対してベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。具体的には、ECU91が油圧制御弁92に対して油圧制御弁92での油路の切換を指示する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(
図12(b))。
【0071】
(実験)
本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムにおいて、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻に対して油圧調整の時刻または吸気弁の進角作動を開始する時刻を遅らせた場合のストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間の変化を実験により確認した。
【0072】
実験結果を示す
図13によると、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻(
図13の横軸における原点)に対して油圧調整を所定時間遅らせると、ストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間が短くなること明らかである(
図13(a))。また、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻に対して、吸気弁の進角作動を開始する時刻を所定時間遅らせると、ストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間が短くなること明らかである(
図13(b))。
【0073】
このように、第2実施形態によるバルブタイミング調整システムでは、第1実施形態の効果(A)〜(C)に加えて、ベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻と圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻とを協調制御することにより、ストッパピン30のロックをスムーズに解除することができる。
【0074】
(他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、ベーンロータが進角作動中または遅角作動中であるか否かを判定するとき、外部の電子制御装置から入力されるバルブタイミング調整指令に基づいて判定するとした。しかしながら、ベーンロータの作動状態を判定する方法はこれに限定されない。カムシャフトの回転速度、及びクランクシャフトの回転速度から算出されるカムシャフト位相の変化速度を算出し、ベーンロータの作動状態を判定してもよい。
【0075】
(イ)上述の実施形態では、ベーンロータの位相変動幅は、事前に有している油圧と位相変動幅との関係を示すマップにおいて油圧から算出するとした。しかしながら、位相変動幅の算出はこれに限定されない。カム角センサによって検出されるカムシャフトの回転角度、及びクランク角センサによって検出されるクランクシャフトの回転角度から算出してもよい。
【0076】
(ウ)上述の実施形態では、油温センサにより検出される油温、及び油圧センサによる検出される油圧からエンジンの運転状態を検出するとした。しかしながら、エンジンの運転状態を検出する方法はこれに限定されない。エンジンを冷却する冷却水の温度から油温、油圧を算出することにより、エンジンの運転状態を検出してもよい。
【0077】
(エ)上述の実施形態では、スロットルセンサからエンジンの運転状態を検出するとした。しかしながら、エンジンの運転状態を検出する方法はこれに限定されない。クランク角センサが検出するクランクシャフトの回転角度からエンジンの運転状態を検出してもよい。
【0078】
(オ)上述の実施形態では、圧力制御弁に供給されるオイルの圧力を調整する圧力調整弁は、リリーフ部、及び油圧供給部から構成されるとした。しかしながら、圧力調整弁の構成はこれに限定されない。油路から供給される圧力の大きさに応じて開弁し、オイルパンにオイルの一部を還流する構成であればよい。
【0079】
(カ)上述の実施形態では、バルブタイミング調整システムでは作動流体としてオイルを用いるとした。しかしながら、作動流体は、オイルに限定されない。バルブタイミング調整システムを作動可能な流体であればよい。
【0080】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。