特許第5717620号(P5717620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717620
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】自動車用熱交換器のファン
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/38 20060101AFI20150423BHJP
【FI】
   F04D29/38 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-279278(P2011-279278)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-130096(P2013-130096A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222484
【氏名又は名称】株式会社ティラド
(74)【代理人】
【識別番号】100082843
【弁理士】
【氏名又は名称】窪田 卓美
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太郎
【審査官】 加藤 一彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−332674(JP,A)
【文献】 特開2004−211675(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/079202(WO,A1)
【文献】 米国特許第5961289(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボス部(1)の外周に複数の翼部(2)が放射状に突出された熱交換器用冷却ファンにおいて、
そのファンの消費動力を減少させるため、各翼部(2)の回転方向の前縁(3)が次の条件を有する熱交換器用冷却ファン。
(1)その前縁(3)の半径方向の先端(B)と、その前縁(3)の付根(A)とを結ぶ直線(D)が、その付根(A)とボス部(1)の中心Oとを結ぶ直線(E)より回転方向の前方にあり、その両直線(D)(E)のなす角αが10度〜25度の範囲にある。
(2)その前縁(3)は、その半径方向の中間部が回転方向前方に凸となる弧状に形成され、その弧状の曲率半径Rとファンの直径であるファン径Dとの比、R/Dが0.18〜0.42である。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器用冷却ファンにおいて、
前記翼部(2)の後縁は、その半径方向の中間部が回転方向前方に凸となる曲線状に形成され且つ、その半径方向の先端部が回転方向の後方に突出され、
その半径方向の先端部の突出端とボス部(1)の中心Oとの半径r1、中間位置と中心Oとの半径r2、付根と中心Oとの半径r3おける各翼幅a,b,cが、中心Oに対する中心角で、次の比率にある。
a:b:c=1:0.92:1.31
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用熱交換器のコアに対向して配置される冷却ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用熱交換器のファンは、熱交換器コアの背面に対向して配置され、電気モータやエンジンの回転軸等によって駆動され、熱交換器コアの前面側から背面側に起風するものである。この冷却ファンは、ボス部の外周に複数の翼部が一体に形成されている。
図9は、従来型冷却ファンの一例(下記特許文献1に記載)を示し、ボス部1の外周に多数の翼部2が放射状に突設されている。そして、矢印の回転方向の前縁3は、その付根Aとボス部1の中心とを結ぶ直線Eと、前縁3の先端Bとボス部1の先端とを結ぶ直線Dとのなす角αが1°程度であり、略両直線E,Dは一致するといえる。なお、より厳密には前縁の先端には、小さな円弧(図1参照)が形成されているので、前縁の先端Bとは翼部2の先端の延長線と前縁の延長線との交点をいう(以下同じ)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−239894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような自動車用熱交換器のファンは、省エネルギーの観点から風量を維持しつつ、消費電力のより少ないものが望まれている。
そこで、本発明はコンピュータシミュレーションから、翼部の前縁の最適形状を見出し、課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、ボス部(1)の外周に複数の翼部(2)が放射状に突出された熱交換器用冷却ファンにおいて、
そのファンの消費動力を減少させるため、各翼部(2)の回転方向の前縁(3)が次の条件を有する熱交換器用冷却ファン。
(1)その前縁(3)の半径方向の先端(B)と、その前縁(3)の付根(A)とを結ぶ直線(D)が、その付根(A)とボス部(1)の中心Oとを結ぶ直線(E)より回転方向の前方にあり、その両直線(D)(E)のなす角αが10度〜25度の範囲にある。
(2)その前縁(3)は、その半径方向の中間部が回転方向前方に凸となる弧状に形成され、その弧状の曲率半径Rとファンの直径であるファン径Dとの比、R/Dが0.18〜0.42である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動車用熱交換器のファンにおいて、
前記翼部(2)の後縁は、その半径方向の中間部が回転方向前方に凸となる曲線状に形成され且つ、その半径方向の先端部が回転方向の後方に突出され、
その半径方向の先端部の突出端とボス部(1)の中心Oとの半径r1、中間位置と中心Oとの半径r2、付根と中心Oとの半径r3おける各翼幅a,b,cが、中心Oに対する中心角で、次の比率にある。
a:b:c=1:0.92:1.31
【0007】
ここに、曲率半径とは、図1において、翼部2の前縁の付根の変曲部の点c2とその前縁3の先端の変曲点a2とを共に通る半径Rをいう。
前縁(3)の付根(A)とは、図1において、曲率半径Rの延長線と、ボス部1の外周との交点をいう。
前縁(3)の半径方向の先端(B)とは、図1において、曲率半径Rの延長線と翼部先端の直径Dの延長線との交点をいう。
【発明の効果】
【0008】
直線DとEのなす角αを10度〜25度とし、その前縁3の弧状の曲率半径Rとファン直径Dとの比、R/Dを0.18〜0.42としたので、ファンの風量、静圧を維持して、消費動力を低減できる。
さらに、その前縁3は、その半径方向の中間部が回転方向前方に凸となる曲率半径Rの 弧状に形成され、その前縁3と翼部先端縁とのなす角が鈍角になるから、この自動車用熱交換器のファンは、冠水した道路の走行中に、水中で回転するファンの翼部の変形を可及的に防止できる。そのため、従来型ファンのように、それが水の存在で変形して、翼部先端が熱交換器コア表面に突き刺さり、コアを損傷することを確実に防止できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の自動車用熱交換器のファンの正面図。
図2図1のII−II矢視断面図。
図3図1のIII−III線矢視図。
図4図1における直線Dと直線Eとのなす角αを各種変えたときのファン効率をそれぞれ示す。
図5図1におけるR/Dを各種変えたときのファン効率を示す。
図6】本発明の冷却ファンおよび従来型冷却ファンの風量に対する静圧、トルク、効率、並びに熱交換器の圧力損失Vを示す。
図7】本発明の翼部の翼端渦wの説明図。
図8】従来型冷却ファンの翼端渦wの説明図。
図9】従来型冷却ファンの正面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の自動車用熱交換器のファンは、熱交換器コアの背面に対向して配置され、その回転によりコアの前面側から背面側に起風するものである。
このファンは図1に示すごとく、ボス部1の外周に複数の翼部2が放射状に突出されたものである。そして、各翼部2の回転方向の前縁3の形状、その他を特定し、コンピュータシミュレーション解析することにより、従来の風量を維持しつつ、ファンの消費電力を減少させたものである。
【0011】
(解析例1)
前縁3における半径方向の先端(B)と、その前縁3の付根(A)とを結ぶ直線(D)と、その付根(A)とボス部(1)の中心Oとを結ぶ直線(E)のなす角αを、+30°〜−30°まで変化させて、そのファン効率ηsを測定し、その結果を図4に示す。
このとき、直線Dが直線Eより回転方向前方にある場合を同図で前進と表示し、逆に直線Dが直線Eよりも後方にある場合を後進とする。そして、図9に示す従来型ファンを基準(0%)にして、それぞれの角度におけるファン効率ηsの向上割合を図4において%で表す。その結果、角αが前進の10°〜25°の範囲において、従来形状のファンよりも1.7〜1.8%ポイント(1.7〜1.8ポイント)だけファン効率ηsが向上した。他の角度においては、ファン効率ηsが前進10°〜25°よりもいずれも劣るものとなっている。
【0012】
(解析例2)
そこで、前進10°〜25°の中間値として、前進22.5°とし、図1における前縁3のRを変化させ、そのRとファンの直径であるファン径Dとの比であるR/Dと、ファン効率の変化を図5に示す。このRは、同図においてA点とB点を通る曲率半径を意味する。なお、Rの中心は、A点とB点を結ぶ直線の直角二等分線上にある。そして、図1のように前縁3側が凸になったものを図5では逆と表示し、前縁3が凹曲線になったものを正と表示し、各R/Dの大きさを変化させたとき、従来型形状に比べて、ファン効率の向上を測定した。
【0013】
その結果、図5に示すとおり、Rとファン径Dとの比、R/Dが0.18〜0.42の範囲で最大値を得た。その範囲は従来のファンに比べて2.1〜2.4%ポイント(2.1〜2.4ポイント)だけファン効率が上昇している。他の曲率半径では、それらよりも低い値となった。
そこで、本発明はその孤状の曲率半径を中央部が凸となる孤状であって、そのR/Dが0.18〜0.42を採用する。
【0014】
次に図6は、αが22.5°で、Rが100mmの本発明のファンと、図9に示す従来型ファンの風量に対する静圧Ps、トルクT、効率ηsを示すとともに、風量に対する熱交換器の圧力損失曲線Vを示したものである。この圧力損失曲線Vと、静圧曲線との交点が動作点である。同図で本発明のファンは×で示し、従来型のファンは■で示す。
動作点において、効率ηsは、本願発明のほうが2.4%ポイント(2.4ポイント)改善され、消費電力は3.7%ポイント(3.7ポイント)低減した。
【0015】
(解析例3)
そこで、ファン周りの空気の流れを可視化(シミュレーション解析によるヘリシティ分布)した。その結果、図7のごとく本発明の場合は翼部2の翼端から生じる渦wが隣接する翼部2の翼端にぶつからず、その内側を通過することがわかった。
これに対して、図9の従来型ファンでは、図8に示すごとく、翼部2の翼端から生じる渦wが隣接する翼部2の翼端に衝突するように流れていることがわかった。
【0016】
このように翼端渦が隣接する翼に干渉する程度が低下すると、消費動力が低減すると推測できる。なお、実験では、ファン径Dは320mmであり、ボス直径は120mmである。また、各翼部2の捩れ角は、図1のa1−a2(半径r1)の位置で12°、b1−b2(半径r2)の中間位置で16°、c1−c2(半径r3)の根元位置で20°である。各部における捩れ角βを図3に図示する。基準直線はファンの軸線に直交する面である。
その翼部の半径方向の先端部の突出端とボス部1の中心Oとの半径r1、中間位置と中心Oとの半径r2、付根と中心Oとの半径r3おける各翼幅a,b,cが、中心Oに対する中心角で、次の範囲比率ある。a:b:c=1:0.92:1.31
【0017】
なお、本発明は四輪の自動車用熱交換器のファンを主に開発したものであるが、自動二輪車用熱交換器のファン、建設機械等の車両用熱交換器のファンにも使用可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 ボス部
2 翼部
3 前縁
4 冷却ファン
ファン径
R 曲率半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9