【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度第3次補正戦略的基盤技術高度化支援事業「炭素繊維強化プラスチック用三次元形状のプレス切断金型および成形/切断金型の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記物性値取得部は、前記入力手段での前記素材の情報の入力時に硬化度50%付近の前記素材の物性値の入力を促すことを特徴とする請求項4に記載の炭素繊維強化プラスチックの成形時の解析装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る炭素繊維強化プラスチックの成形時の解析方法、及び解析装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0015】
〔実施形態〕
図1〜
図4は、実施形態に係る解析方法を用いて解析を行う炭素繊維強化プラスチックの成形のプロセスを示す概略図であり、
図1は、成形をするCFRP材を金型に投入する状態を示す説明図、
図2は、CFRP材に熱が伝達する状態を示す説明図、
図3は、CFRP材の成形中の状態を示す説明図、
図4は、CFRP材の賦形が完了した状態を示す説明図である。ここで、賦形とはCFRP材全体が上型と下型の成形面形状に沿った形状となった状態を呼ぶ。同図に示す金型40は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)からなる被加工物の素材であるCFRP材30を成形することができるように構成されており、特に、熱硬化性樹脂からなるCFRP材30を適切に成形することができるように構成されている。詳しくは、金型40は、相対的に上側に配設される上型41と、上型41の下方に配設される下型45とを有している。
【0016】
これらの上型41と下型45とにおける互いに対向する面は、CFRP材30の成形時に共にCFRP材30に接触し、CFRP材30を成形する成形面として形成されている。詳しくは、上型41における下型45に対向する面は上型成形面62として形成されており、下型45における上型41に対向する面は下型成形面46として形成されている。
【0017】
これらの上型成形面42と下型成形面46とは、双方でCFRP材30を挟み込むことにより、CFRP材30を所望の形状に成形することができる形状になっている。例えば、下型成形面46に凹状の部分が形成されている場合には、上型成形面42において下型成形面46の凹状部分に対向する部分は、CFRP材30を介在させた状態で下型成形面46の凹状部分に入り込む凸状に形成されている。これにより、金型40は、CFRP材30の成形時には、上型成形面42の凸状部分と下型成形面46に凹状部分とでCFRP材30を変形させてCFRP材30を所望の形状の成形することが可能になっている。
【0018】
また、下型45の内部には、CFRP材30を加熱する加熱手段であるヒータ(図示省略)が設けられている。このヒータは、高温の機械油が内部を循環可能に構成されており、機械油の熱を伝達することにより、CFRP材30の成形時に、CFRP材30を加熱することができるようになっている。なお、ヒータは、高温の機械油を用いて加熱するもの以外でもよく、例えば、通電で温度が上昇することによって加熱するものであってもよい。また、ヒータは、下型45のみでなく、上型41にも配設してもよい。
【0019】
このように構成される金型40でCFRP材30の成形を行う場合には、上型41と下型45とを離間させた状態で、まず、ヒータによって下型45の温度を上昇させる。具体的には、下型45の温度がCFRP材30に伝達されることによりCFRP材30が変形し易くなる温度まで、下型45を昇温させる。
【0020】
金型40で成形するCFRP材30としては、炭素繊維に熱硬化性樹脂をあらかじめ含浸させ、半硬化の状態にした、シート状の素材、いわゆるプリプレグ形態のものを使用する。このプリプレグを積層したCFRP材30は、昇温した下型45の下型成形面46上に配置する(
図1)。この場合、昇温した下型45に対して、常温の状態のCFRP材30を配置する。
【0021】
下型成形面46上に配置されたCFRP材30は、下型45よりもプリプレグ温度50(
図5参照)が低いため、下型45の熱は、CFRP材30に伝達される(
図2)。即ち、CFRP材30には、下型45に接触している部分から下型45の熱が伝達され、CFRP材30における熱が伝達された部分は、プリプレグ温度50が高くなる。このようにCFRP材30に伝達された熱は、伝導によってCFRP材30における他の部分に伝達され、熱が伝達された部分から順次プリプレグ温度50が上昇する。このため、CFRP材30には、下型45の熱が伝達されることにより比較的プリプレグ温度50が高くなった部分である高温部31と、CFRP材30における下型45との接触部分から離れていることによりプリプレグ温度50が上昇し難く、比較的プリプレグ温度50が低い部分である低温部32とが発生する。
【0022】
また、下型45の熱が伝達されることにより温度が上昇したCFRP材30は、プリプレグ温度50が高くなった高温部31からプリプレグ粘度51が低下し、順次変形し易くなる。つまり、CFRP材30は、温度上昇によって変形し易くなった部分と、変形しづらい部分とが混在する状態となる。
【0023】
下型45の熱がCFRP材30に伝達されることにより高温部31の領域が広がり、変形し易くなった部分がある程度広がったら、上型41を下型45の方向に移動させることによって賦形を開始する(
図3)。上型41は、油圧発生装置や、ガススプリングやコイルスプリング等の押圧力発生手段によって下型45の方向に移動し、下型45の方向への押圧力を発生することができるように構成されている。
【0024】
CFRP材30を賦形する際には、CFRP材30が載置されている下型45の方向に上型41を移動させ、上型41の上型成形面42をCFRP材30に接触させる。これにより、CFRP材30は、上型41と下型45とに挟まれた状態になる。CFRP材30の成形時は、上型成形面42がCFRP材30に接触している状態で、上型41をさらに下型45の方向に移動させ、CFRP材30に対して押圧力を付与する。
【0025】
CFRP材30は、下型45に接触している部分から伝達された熱によって変形し易い部分を有しており、上型41を移動させて押圧力を加え、CFRP材30を変形させることで、新たに下型45に接触する部分を増やし、変形し易い部分を更に拡大する。即ち、上型41と下型45とに挟まれているCFRP材30は、上型41からの押圧力によって、上型成形面42と下型成形面46とに沿った形状に変形する。このようにCFRP材30が変形し、押圧力を付与される以前に下型45に接触していなかった部分も下型45に接触することにより、CFRP材30には、新たに接触した部分の下型45から熱が伝達される。これにより、CFRP材30は、順次昇温して高温部31が広がり、昇温部分から順次変形し易くなる。
【0026】
上型成形面42と下型成形面46とに沿った形状に変形することによって賦形が完了したCFRP材30は、硬化開始する(
図4)。詳しくは、熱硬化性樹脂からなるCFRP材30は、金型40から伝達された熱によって一旦粘度が低下して変形し易くなり、そこから更にプリプレグ温度50が上昇し、樹脂の化学反応が進行することにより樹脂の硬化が開始し、CFRP材30の硬化が開始する。この硬化反応は、CFRP材30中の投入直後に下型45に接触していた部分より開始するため、CFRP材30には、高硬化度領域35と、低硬化度領域36が混在することになる。
【0027】
つまり、CFRP材30の賦形開始時にCFRP材30を下型45の下型成形面46上に配置した際に、下型45に接触して熱が伝達されることによりプリプレグ温度50が上昇し始めた部分から、CFRP材30の硬化が開始する。CFRP材30は、このようにプリプレグ温度50が上昇し始めた部分より硬化が開始し、温度上昇、時間経過するとともにCFRP材30全体が硬化していく。これにより、CFRP材30は、上型成形面42と下型成形面46とによって賦形された形状で硬化する。
【0028】
次に、CFRP材30の成形過程の特性について説明する。
図5は、プリプレグ積層体の成形過程におけるプリプレグ温度と成形時間、プリプレグ粘度についての説明図である。熱硬化性樹脂からなり、プリプレグ積層体であるCFRP材30の成形は、プリプレグ温度50を上昇させてCFRP材30を硬化させることにより行うが、
図5に示すようにプリプレグ粘度51はプリプレグ温度50と成形時間によって変化する。プリプレグ粘度51は、プリプレグ積層体の変形のし易さと高い相関を示す。つまり、CFRP30の変形のし易さは、成形過程中に
図5に似た形で変化する。
【0029】
具体的には、プリプレグ粘度51は、常温ではある程度高い値を示す。そして、プリプレグ積層体を成形型へ投入した成形初期段階では、下型45より伝達された熱による温度上昇によってプリプレグ粘度51が急速に低下し、変形のし易さは急速に向上する。この、プリプレグ粘度51が急速に低下するプリプレグ温度50を、急軟化温度Tsと呼ぶ。
【0030】
次に、温度上昇、時間経過につれてプリプレグ積層体の化学反応が進行し、一度低下したプリプレグ粘度51は、軟化終了温度Teまで急速に増加する。軟化終了温度Teを超えると、プリプレグ粘度51の変化率は小さくなり、徐々に硬化が進行し、ある時間が経過した後に最終的に硬化を完了する。なお、ここでいう軟化終了温度Teは、プリプレグ積層体の温度の上昇時において、急激に上昇したプリプレグ粘度51の変化率が変わる点をいう。
【0031】
CFRP材30は、これらの特性を有しているため、成形型に投入されてプリプレグ温度50が上昇したCFRP材30の各部はプリプレグ温度50と成形時間に応じたプリプレグ粘度51に応じた変形のし易さをもち、金型40から付与される力によって各部で異なる量の変形をする。
【0032】
ここで、成形型投入時におけるCFRP材30は、金型40から伝達される熱によりプリプレグ温度50が上昇するが、熱はまず型表面に触れた箇所から多く伝達されるため、CFRP材30の各部において等しいプリプレグ温度50とはならない。そのため、CFRP材30の各部でプリプレグ粘度51は不均一であり、変形のし易さも不均一である。また、CFRP材30の各部での化学反応の状態も、プリプレグ温度50と熱が伝達されている時間によって異なるため、最初にプリプレグ温度50が上昇した部位とそれ以外の部位では異なる。これらのように、成形型へCFRP材30を投入してからしばらくの間は、CFRP材30の各部の変形のし易さは部位によって異なる。
【0033】
一方、CFRP材30を成形する際に、例えば、板状のCFRP材30を折り曲げる際における曲率半径が小さい部分付近では、完全には目的の形状にはならずに、シワ等が発生する場合がある。このように、目的の形状とは若干異なるCFRP材30の成形後の形状は、CFRP材30の成形時の変形状態を、解析装置を用いて解析することにより導出することができる。次に、この解析装置について説明する。
【0034】
図6は、実施形態に係る解析方法を用いて解析を行う装置の模式図である。
図6に示す解析装置1は、処理部2と記憶部4、及び入出力部8を有しており、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。このうち、入出力部8には、入出力装置10が接続されている。この入出力装置10としては、キーボード、マウス等、解析装置1に対して入力を行う入力デバイスである入力手段11と、解析装置1での演算処理の結果を表示するディスプレイ等の出力デバイスである表示手段12と、が用いられている。CFRP材30の成形時の解析を行う際における種々の情報は、入力手段11によって入力可能になっており、入力した情報や解析結果は、表示手段12によって出力可能になっている。
【0035】
また、処理部2は、CPU(Central Processing Unit)等を有しており、各種の演算処理が可能になっている。また、記憶部4には、CFRP材30の成形時の解析をすることができるコンピュータプログラム、即ち、本実施形態に係る解析方法で用いるコンピュータプログラムが格納されている。このコンピュータプログラムは、解析をするモデルのデータと、モデルに対して付与する外力の情報を入力し、外力によって変形するモデルの状態を有限要素法によって解析することのできる公知のコンピュータプログラムが用いられている。
【0036】
コンピュータプログラムが格納されている記憶部4は、HDD(Hard Disk Drive)や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、或いはこれらの組み合わせにより構成されている。
【0037】
また、上記コンピュータプログラムは、コンピュータシステムにすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、CFRP材30の成形時の解析を実現できるものであってもよい。また、処理部2の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、CFRP材30の成形時の解析を実行してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0038】
次に、CFRP材30の成形時の変形状態を解析装置1で解析する際における手法について説明する。
図7は、実施形態に係る解析方法でCFRP材の成形時の解析を行う際の処理手順を示すフロー図である。CFRP材30を成形する際の解析を行う場合には、記憶部4に格納され、CFRP材30の成形時の解析が可能なコンピュータプログラムを、記憶部4の作業領域に読み出し、実行する。本実施形態に係る解析方法で用いるコンピュータプログラムは、使用者との間で対話型処理を行いながら、解析処理を行う。即ち、解析処理時の過程ごとに表示手段12で、情報の入力を促す指示や、解析処理の経過情報を表示し、入力手段11によって、解析に必要な各種の情報を入力する。
【0039】
この解析処理では、まず、解析を行う素材の種類を入力する(ステップST101)。CFRP材30は、炭素繊維と合成樹脂とからなる複合材料であるため、解析を行う素材は複合材であるとの情報を解析装置1に入力する。
【0040】
次に、形状の取り込みを行う(ステップST102)。具体的には、CFRP材30の成形後の形状のデータ、即ち、CFRP材30の成形をする際における目標となる形状のデータを入力する。この形状のデータとしては、例えば、CAD(Computer Aided Design)で作成した成形後のデータを使用し、CADで作成したデータを取り込むことにより、CFRP材30の成形後の形状のデータを解析装置1に取り込む。
【0041】
次に、モデルの確認を行う(ステップST103)。つまり、CADで作成したデータ等を用いて取り込んだ、CFRP材30の成形後の形状のデータに基づく、成形後のモデルデータを確認し、解析に用いるモデルデータが、適切なデータになるように調節する。例えば、CFRP材30の板厚、即ち、成形後の形状の板厚を適切な値にしたり、CFRP材30の成形前の素材の向きに対する成形後のモデルの向きを、成形時における素材と生成物との相対的な向きに合わせたりするなどの調節を行う。
【0042】
次に、被成形素材の面の情報を入力する(ステップST104)。具体的には、被成形素材であるCFRP材30の物性値や、厚さ、繊維の方向等の、成形を行うCFRP材30についての詳細な情報を入力する。このうち、物性値としては、密度(kg/mm
3)、ヤング率(GPa)、せん断弾性係数(GPa)、ポアソン比を用いる。熱硬化性樹脂からなるCFRP材30の場合には、それぞれ密度ρ=1.8×10
−6kg/mm
3、ヤング率(繊維方向)E1=130GPa、ヤング率(繊維直交方向)E2=5GPa、せん断弾性係数G=2GPa、ポアソン比ν=0.3を用いる。つまり、炭素繊維強化プラスチックでは、炭素繊維の方向と、炭素繊維の方向に対して直交する方向とで強度が異なるため、ヤング率は、繊維方向のヤング率E1=130GPaと、繊維直交方向のヤング率E2=5GPaとの2種類の値を用いる。
【0043】
次に、解析条件の設定を行う(ステップST105)。詳しくは、解析条件として、CFRP材30の成形時におけるCFRP材30の動きについて設定し、CFRP材30の成形時にCFRP材30に付与される力とCFRP材30の動きとを含むこの解析条件を入力する。具体的には、成形時に金型40が移動する方向、即ち、金型40からCFRP材30に付与する押圧力の方向、CFRP材30に押圧力を付与した際におけるCFRP材30の可動部分や可動タイミング、停止タイミング等の、成形時のCFRP材30の動きについて設定する。つまり、CFRP材30の成形時に、押圧力が付与される箇所とその方向、及びCFRP材30において押圧力によって動く部分とその動き方の設定を行う。また、この解析条件の設定では、解析時における計算ピッチ等の解析の詳細設定も行う。
【0044】
次に、解析を開始する(ステップST106)。即ち、入力した素材の種類(ステップST101)、成形時の目標となる形状(ステップST102)と、モデルデータを解析に用いるデータとして適切に調節したデータ(ステップST103)、素材の面の情報(ステップST104)に基づいて、設定された解析条件に従って(ステップST105)、CFRP材30の成形時の解析を行う。
【0045】
即ち、記憶部4に記憶され、CFRP材30の成形時の解析をすることができるコンピュータプログラムと、入力手段11によって入力された各データに基づいて、処理部2によって演算処理を行い、CFRP材30の成形時の解析を行う。処理部2で演算処理を行うことにより導出した解析結果は、表示手段12によって出力する。表示手段12によって出力する際には、解析によって得られた成形後の形状を、可視化できる形状モデルとして出力したり、数値データとして出力したりする。これにより、CFRP材30の成形時における解析結果を得ることができる。
【0046】
しかし、CFRP材30の成形時には、上述したように部位ごとに変形のし易さが異なっている。このため、単に成形後の形状データや、成形する素材の情報、CFRP材30の成形時における押圧力によるCFRP材30の動き方を用い解析を行っても、CFRP材30の成形前に、シワ等の細かな形状も含めて成形後の正確な形状を解析して予測することは、困難なものとなっている。そこで、発明者らは、CFRP材30の成形時の形状を精度よく予測するために、成形後の形状を精度よく解析して予測することができる条件について、試験を行った。次に、この試験について説明する。
【0047】
試験は、CFRP材30を実際に成形した結果と、CFRP材30の成形時の状態を解析装置1で解析した際の解析結果とを比較する。試験の条件としては、成形するCFRP材30は、320mm×250mmで、厚さが0.7mm(0.14mm×5層)のプリプレグ積層体を用いる。
【0048】
図8は、試験用金型の斜視図である。試験に用いる金型である試験用金型60は、CFRP材30の通常の成形時に用いる金型40と同様に、上型61と下型65とを有しており、上型61が下方に移動することにより、CFRP材30を成形することが可能になっている。この試験用金型60は、略矩形状の凸状部を形成するように成形することができるように構成されている。
【0049】
詳しくは、上型61は、下型65に対向する上型成形面62に、略矩形状の形状で下型65の方向に突出した凸部63が形成されている。なお、
図8では、便宜上、上型61は上下方向を反対にして図示している。下型65は、上型61に対向する下型成形面66に、略矩形状の形状で凹んだ凹部67が形成されている。この凹部67は、上下方向に見た場合における形状が上型61の凸部63に近似し、凸部63よりも若干大きい略矩形状になっており、深さが、凸部63の高さと同程度の深さになっている。試験用金型60は、上型成形面62と下型成形面66とを対向させ、上型61と下型65との間にCFRP材30を介在させた状態で上型61と下型65とを近づけてCFRP材30に対して押圧力を付与することにより、CFRP材30の成形を行う。
【0050】
図9は、試験用金型の凸部と凹部の平面視の模式図である。平面視において略矩形状の形状で形成される凸部63と凹部67とは、4つの角部の大きさが全て異なっている。詳しくは、4つの角部のうちの1つの角部である第1角部71は、半径が10mmになっており、同様に第2角部72は半径が20mm、第3角部73は半径が30mm、第4角部74は半径が40mmになっている。
【0051】
試験は、この試験用金型60で、成形速度を10mm/sec、加圧力を150ton、加圧時間を15分の条件でCFRP材30の成形を行う。また、解析装置1では、この条件は同一にし、さらに物性値を異ならせて複数解析を行い、それぞれの解析結果と実際の成形の状態とを比較することにより行った。
【0052】
ここで、発明者らは、成形時におけるCFRP材30の状態について考察し、成形時のCFRP材30は変形のし易さが均一ではないため、成形時における1つの状態の物性値を用いて解析を行なっても、解析によって得られた形状は、実際に成形した形状と異なるものになることが考えられた。このため、発明者らは、成形時の解析は、常温時の硬化前のCFRP材30の物性値や、硬化が完了した状態の物性値でもない、ある硬化度の際の値を用いて行うことが最適であると仮定した。なお、硬化度とは、母材となる高分子樹脂の架橋の度合い、即ち硬化反応の度合いを示す値であり、一般に0〜100%の値で示される。このため、成形後の形状を精度よく予測することができる条件についての試験は、硬化度のパーセントの値をいくつにした場合の物性値が、解析条件として適切であるか、検証することを目的として行った。
【0053】
試験では、硬化度50%、軟化終了温度Te(
図5参照)以上の温度でのCFRP材30の物性値を、解析に用いるのに適切な仮定値とする。即ち、試験では、解析に用いるのに適切な仮定値として、密度ρ=1.8×10
−6kg/mm
3、ヤング率(繊維方向)E1=130GPa、ヤング率(繊維直交方向)E2=5GPa、せん断弾性係数G=2GPa、ポアソン比ν12=0.3の値を用いる。
【0054】
これに対し、仮定値での解析結果と比較する解析用の物性値として、4種類の設定値を用いる。これらの設定値は、仮定値を、半分、または倍にしたものの組み合わせである。具体的には、4種類の設定値のうちの2種類である設定値1と設定値2とは、繊維直交方向のヤング率E2を仮定値から変更し、仮定値の繊維直交方向のヤング率E2=5GPaに対して、それぞれ2.5GPa(設定値1)、10GPa(設定値2)にする。また、4種類の設定値のうち残りの設定値である設定値3と設定値4とは、せん断弾性係数Gを仮定値から変更し、仮定値のせん断弾性係数G=2GPaに対して、それぞれ1GPa(設定値3)、4GPa(設定値4)にする。
【0055】
この試験では、これらの仮定値や設定値1〜4を用いて解析装置1によって解析を行った結果と、CFRP材30を試験用金型60で実際に成形することにより取得した取得品との形状を比較することにより、解析に用いる物性値として仮定値が適切であるか否かを検証した。
【0056】
図10は、解析条件を検証時に行う観察についての説明図である。解析条件の検証は、成形時に発生するシワの数に基づいて行う。具体的には、CFRP材30の成形を行う場合には、素材からの変形が多い箇所にシワが発生し易くなるため、成形後における角部付近に発生するシワの数を比較することにより、解析条件の検証を行う。つまり、試験用金型60で成形した取得品80の第1角部81、第2角部82、第3角部83、第4角部84のそれぞれの近傍に発生したシワ85と、解析装置1で仮定値や設定値1〜4を用いて解析した解析形状20の第1角部21、第2角部22、第3角部23、第4角部24のそれぞれの近傍に発生したシワ25とを比較する。なお、これらのシワ25、85の数は、角部において湾曲している部分にかかるシワの数を用いる。
【0057】
このように、仮定値や設定値1〜4を用いて解析したそれぞれの解析形状20の角部のシワ25を、試験用金型60で成形した取得品80の角部のシワ85と比較することにより、仮定値及び設定値1〜4のうち、CFRP材30を実際に成形した取得品80に最も近くなる解析条件を導出する。
【0058】
図11は、解析に用いる物性値を検証する試験の結果を示す図である。試験を行った結果、実際にCFRP材30を成形した取得品80では、シワ85の数は、第1角部81が3本、第2角部82が4本、第3角部83及び第4角部84は6本になった。これに対し、仮定値とは異なる物性値である設定値1〜4を用いて解析を行った解析形状20では、4つの角部のうちのいずれか、または4つの角部の全てのシワ25の数が、対応する取得品80の角部のシワ85の数と異なるものになった。このように、取得品80と設定値1〜4とでは、シワの数が一致せず、解析形状20は、取得品80とは細部が異なる結果が得られた。
【0059】
一方、硬化度50%、軟化終了温度Te以上の温度でのCFRP材30の物性値である仮定値を用いて解析を行った解析形状20では、シワ25の数は、第1角部21が3本、第2角部22が4本、第3角部23及び第4角部24は6本になった。このように、取得品80と仮定値とでは、シワの数が一致し、解析形状20は、取得品80とは細部まで一致する結果が得られた。つまり、CFRP材30の成形時の解析を、硬化度50%のCFRP材30の物性値を用いて行うことにより、高い精度で取得品80に対して近似した解析形状20を得ることができる。
【0060】
CFRP材30の成形時の解析の試験として、これらの結果を得ることができたため、解析装置1には、この解析を実現できる機能を搭載するのが好ましい。具体的には、解析装置1には、CFRP材30の温度が上昇して硬化が進展している際の硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を取得する物性値取得部を備えるのが好ましい。この物性値取得部としては、例えば処理部2を用いる。この解析装置1でCFRP材30の成形時の解析を行う際には、まず、CFRP材30を成形する際の目標となる形状(ステップST102)や、CFRP材30の情報(ステップST104)、CFRP材30の成形時にCFRP材30に付与される力とCFRP材30の動きとを含む解析条件(ステップST105)を、入力手段11によって入力する。
【0061】
また、処理部2では、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を取得する。このような物性値を取得する手法としては、例えば、硬化度100%のCFRP材30の物性値に基づいて硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を導出する硬化度導出部を解析装置1に備えることによって実現する。硬化度導出部は、記憶部4に、硬化度100%のCFRP材30の物性値に対する硬化度50%のCFRP材30の物性値を、予めデータベースとして記憶することによって構成される。この場合、CFRP材30の情報の入力時においてCFRP材30の物性値を入力する際には、硬化度100%のCFRP材30の物性値を入力する。
【0062】
処理部2は、入力手段11で入力された硬化度100%のCFRP材30の物性値に基づき、記憶部4に記憶されたデータベースを用いて、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を導出することによって取得する。さらに処理部2は、このように取得した硬化度50%付近のCFRP材30の物性値含むCFRP材30の情報と、成形時の目標となる形状と、解析条件とに基づいて、CFRP材30の成形時の解析を行う。これにより、高い精度で取得品80に対して近似した解析形状20を得ることができる。
【0063】
以上の本実施形態に係るCFRP材30の成形時の解析方法では、CFRP材30の成形時の解析を行う際に、硬化度50%、軟化終了温度Te以上の温度でのCFRP材30の物性値を用いて解析を行うことにより、実際に成形をした際における形状に対して高い精度で近似した解析形状20を得ることができる。つまり、成形時に部位によってプリプレグ温度50や変形のし易さが不均一になるCFRP材30の成形に対して、硬化度50%、軟化終了温度Te以上の温度でのCFRP材30の物性値を用いて解析することにより、プリプレグ温度50や変形のし易さを均一と仮定した状態で簡便に精度よく解析することができる。これにより、解析によって導出した解析形状20と、CFRP材30を実際に成形した際における取得品80との整合性を高めることができる。この結果、成形時の形状を高い精度で解析して予測し、成形型の設計精度向上に寄与することができる。
【0064】
また、CFRP材30を成形する際の目標となる形状と、CFRP材30の情報と、解析条件とは、コンピュータプログラムによって解析処理を行う解析装置1に対して入力し、CFRP材30の成形時の解析は、解析装置1によって行うため、容易に、高い精度で解析を行うことができる。この結果、成形時の形状を、より確実に高い精度で解析して予測することができる。
【0065】
また、本実施形態に係るCFRP材30の成形時の解析装置1では、CFRP材30の成形時の解析を行う際に、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を取得し、この物性値を用いて解析するため、解析によって導出した解析形状20と、CFRP材30を実際に成形した際における取得品80との整合性を高めることができる。この結果、成形時の形状を高い精度で解析して予測し、成形型の設計精度向上に寄与することができる。
【0066】
〔変形例〕
なお、上述した解析装置1では、硬化度導出部を構成する記憶部4には、硬化度100%のCFRP材30の物性値に対する硬化度50%のCFRP材30の物性値をデータベースとして記憶しているが、硬化度導出部は、これ以外で構成してもよい。例えば、記憶部4には、硬化度100%のCFRP材30の物性値より、硬化度50%のCFRP材30の物性値を算出する関数を記憶し、入力手段10で入力された硬化度100%の物性値とこの関数を用いて、硬化度50%の物性値を算出してもよい。硬化度50%のCFRP材30の物性値を導出する手法は、入力手段11で入力された、硬化度100%のCFRP材30の物性値を用いて導出することができれば、その手法は問わない。
【0067】
また、処理部2で硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を取得する際には、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を直接取得するようにしてもよい。例えば、入力手段11でのCFRP材30の情報の入力時に、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値の入力を促すような表示を表示手段12で行い、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値の入力後に、解析を行うようにしてもよい。このように、硬化度50%付近のCFRP材30の物性値を直接取得することにより、物性値を導出する必要がなくなるので、解析を容易に行うことが可能になる。
【0068】
また、記憶部4に記憶される物性値のデータベースは、適宜追加されるようにするのが好ましい。つまり、解析を行おうとしているCFRP材30の硬化度50%の物性値がデータベース上に存在しない場合には、硬化度50%の物性値と硬化度100%の物性値との入力を促し、入力されたこれらの物性値をデータベースに追加するようにしてもよい。これにより、解析を繰り返し行うことにより、データベースのデータ量が蓄積され、成形時の形状を、より確実に高い精度で解析して予測することができる。
【0069】
また、CFPR材30を成形する金型40は、上述した形態以外でもよく、CFPR材30を成形する形状も、上述した形状以外のものでもよい。成形する形状に関わらず、CFPR材30を成形時における解析を行う際に、CFPR材30の硬化度50%付近の物性値を用いることにより、実際のCFPR材30の成形に対して、高い精度の解析を行うことができる。
【0070】
また、CFPR材30の成形時の形状の解析は、係数を用いた補正を行って解析してもよい。つまり、また、CFRP材30を構成するプリプレグは、同じ程度のグレードであっても、プリプレグを製造するメーカーによって微妙に物性値が異なることがある。また、同じプリプレグを使用したとしても、温度や湿度、圧力、時間等の条件によって、成形の結果が微妙に異なることがある。これらのような場合を考慮し、解析結果の精度向上のために、解析時には、解析に用いる物性値の硬化度や物性値に対して、係数によって補正を行ってもよい。具体的には、メーカーや、温度、湿度等の条件に応じた係数を予め設定し、成形の解析時には、実際の成形時の条件に応じた係数を用いて、物性値を用いる硬化度、または、50%の硬化度の物性値の補正を行い、成形の解析を行ってもよい。これにより、実際の成形時の条件に適した解析を行うことができ、設計時の形状を、より高い精度で予測することができる。
【0071】
また、上述した解析方法で用いる物性値は、上記実施形態で用いられている値以外でもよい。解析方法で用いる物性値は、熱硬化性樹脂の炭素繊維強化プラスチックからなる素材の成形時に、素材の温度が上昇して硬化度が50%付近となった素材の物性値であれば、上述した値以外でもよい。硬化度50%付近の素材の物性値を用いて解析を行うことにより、成形時の形状を高い精度で予測することができる。