【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第一の目的は、歯科バリア用の新規な前駆体組成物に関し、該前駆体組成物は、少なくとも1種のメタクリレート系モノマー又はメタクリル酸誘導体モノマーと、少なくとも1種の増粘剤と、重合の光化学的開始手段と、該重合反応をモニタリングするための少なくとも1種の呈色指示薬とを含む。
【0014】
従って、この組成物は、該組成物を光重合すると歯科バリアを得ることができる前駆体を構成する。
【0015】
好ましい実施形態によれば、本発明に係る組成物は、
・少なくとも1種のメタクリレート系モノマー又はメタクリル酸誘導体モノマーを50〜90重量%、
・少なくとも1種の増粘剤を10〜49重量%、
・重合の光化学的開始手段を2重量%以下、
・該重合反応をモニタリングするための呈色指示薬を5重量%以下
の量で含む。
上記割合(%)は、組成物の総重量に基づいて表されている。
【0016】
一方で、本発明に係る組成物は、上記少なくとも1種のモノマーが、メタクリル系モノマーであってもよい。
【0017】
好ましくは、上記モノマーは、アルキルメタクリレート誘導体、アルキルヒドロキシメタクリレート誘導体、及び、アルキルアミノメタクリレート誘導体から選択することができる。
【0018】
特に好ましくは、上記モノマーは、ジウレタンジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、メタクリル酸メチル、及び、それらの混合物、特に、ジウレタンジメタクリレートとトリエチレングリコールジメタクリレートからなる混合物から選択することができる。
【0019】
他方で、本発明に係る組成物において、上記少なくとも1種の増粘剤は、セチルアルコール、無水コロイダルシリカ、グリセリンジベヘネート、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウム、プロパン−1,2−ジオールのアルギン酸エステル、寒天、カラゲニン、フルセララン、カロブガム、オートガム、グアーガム、トラガカントガム、アラビアガム、キサンタンガム、カラヤガム、ジェランガム、ソルビトール、マンニトール、グリセロール、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレン−20−ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン−20−ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン−20−ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン−20−ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン−20−ソルビタントリステアレート、ペクチン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、脂肪酸塩、脂肪酸モノグリセリド及びジグリセリド、モノグリセリド及びジグリセリドのエステル、糖脂肪酸エステル、糖グリセリド、脂肪酸のポリグリセロールエステル、ポリグリセリンポリリシノレート、脂肪酸のプロピレングリコールエステル;乳酸及び脂肪酸のグリセロールエステル及びプロピレングリコールエステルの混合物;エステル化大豆油、ソルビタンステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、並びに、それらの混合物から選択することができる。
【0020】
好ましくは、上記増粘剤は、セチルアルコール、無水コロイダルシリカ、グリセリンジベヘネート、及び、それらの混合物から選択することができる。
【0021】
特に、本発明によれば、上記増粘剤は、本質的に上記材料の1種以上からなる市販品から選択することができる。例えば、本質的に無水コロイダルシリカからなるAerosil200(登録商標)を無水コロイダルシリカとして用いることができる。
【0022】
本発明によれば、上記感光性接着組成物は光化学的開始剤を含み、該開始剤の組成は様々である。複数の開始剤を用いることができ、その場合、多成分開始系と呼ばれ、ハイブリッド若しくはデュアル重合、又は、連鎖架橋を起こすことができる。
【0023】
示した例は本発明の範囲を何ら制限するものではなく、とりわけ本発明に係る組成物の望ましい用途に関して、調製者が入手可能な化合物から選択する際の助けとなるものである。
【0024】
上記開始剤は、波長λの架橋放射線の作用下で重合機構を開始させることができる少なくとも1種の光開始剤から構成されていてもよい。本願明細書において、λは、単一波長の放射、及び、示した値を中心とした波長範囲の放射の両方を意味する。また、上記「架橋放射線」という表現は、フリーラジカルの生成を促進することができる電磁放射線を意味する。
【0025】
上記開始剤の第一の態様によれば、上記開始剤は光開始剤である。
【0026】
この態様の第一の変形例によれば、上記光開始剤は、ホモリティックな光開裂機構によってフリーラジカルを生成できる種類のものである。このようなプロセスを引き起こす光開始剤は様々なファミリーに属し、本発明における光開始剤は、ベンジルジアルキルケタール、ベンゾインエーテル、α−ヒドロキシ−α−アルキルフェニルケトン、ベンゾイルシクロヘキサノール;トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、より一般的にはビスアシルホスフィンオキシド;α−アミノチオアルキルフェニルケトン、α−アミノモルフォリノ−フェニルケトン、α−ヒドロキシメチルベンゾインのスルホン酸エステル、及び、それらの誘導体から選択することができる。また、他に、一連の連続したホモリティックな開裂のプロセスの後でラジカルを生成させる多くの光開裂可能な開始剤がある。当業者に公知の主な例としては、ベンゾイルオキシムエステル、アリールスルフィド、過酸化物、ベンゾフェノン又は任意のアルキルフェノン等の発色団を含有する過酸化物、ジスルフィド、ケトスルフィド、並びに、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)及びアゾベンゾイン等のアゾ化合物が挙げられる。
【0027】
上記態様の第二の変形例によれば、上記光開始剤は、原子引き抜き機構によってフリーラジカルを生成できる種類のものである。これらの光開始剤の最も一般的なクラスは、光開始剤のnπ
*三重項状態の光還元の過程で、プロトンが基質から引き抜かれるものであり、主な例としては、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体、ベンジル誘導体、カンファーキノン等の1,2−ジケトン誘導体、及び、ケトクマリン誘導体が挙げられる。調製者は、他の感光性化合物であるオニウム塩、特にトリアリールスルホニウム塩、アルキルアリールスルホニウム塩、及び、ジアリールハロニウム塩などを自由に使用することができる。これらの化合物は、一般的に、カチオン重合の光開始剤として多用されているが、三重項状態とプロトン供与体の相互作用によってフリーラジカルを生成させ、ラジカルプロセスを開始させることもできる。
【0028】
上記態様の第三の変形例によれば、上記光開始剤は、光還元可能な種類のものである。フリーラジカルは電子移動後に生成される。このように機能する化合物のファミリーは、ジアリールケトン、カンファーキノン、ケトクマリン等の発色団、又は、キサンテン、フルオロン、チオキサントン、チアジン、アクリジン、アントラキノン、シアニン、メロシアニン、ベンゾピラン等の芳香族染料である。上記ファミリーの光還元性芳香族染料は、これら光還元性芳香族化合物が可視波長で励起可能であるため、歯科用樹脂の調製者にとってはとりわけ興味を引くものであろう。
【0029】
上記開始剤の第二の態様によれば、上記開始系は、二成分系(光開始剤+共開始剤)であってもよい。本発明の範囲においては、この態様の説明は、上記二成分が波長λの照射下、それらの間で電子移動を起こすラジカル連鎖重合の場合に限られているが、これは、二成分光開始系の概念の特定の場合にすぎない。
【0030】
考えられるものの一つとして、感光性電子受容体種と電子供与体種の組み合わせがある。この組み合わせは、一般的に最もよく記載されているものであり、多数の組み合わせが想定できる。よって、上記感光性電子受容体種には、光還元性光開始剤に関して以前に開示されているファミリーがすべて含まれる。この戦略では、上記電子供与体種は、二段階プロセス、すなわち、電子移動の後にプロトン移動が起こることでラジカル重合を促進する。上記光還元性種と相互作用可能な種は非常に多くあり、特に、トリエタノールアミン、第三級アミン、又は、第三級アリールアミン、特に、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン、N,N−ジメチル−sym−m−キシリジン、3,5−ジ−tert−ブチルアニリン、又は、N,N−ジメチル−p−アミノ安息香酸エチル等の活性化窒素原子を含む化合物;チアゾール誘導体、特にメルカプトベンゾチアゾール等の活性化窒素原子及び活性化硫黄原子を含む化合物;テトラフェニルボレート誘導体、より好ましくはブチルトリフェニルボレート誘導体等のホウ素塩(ホウ酸塩)が挙げられる。300nmより短い波長を強く吸収し、400nmより長い波長、さらに場合によっては430nmより長い波長の可視領域のスペクトルがテーリングするため、これらの化合物は、UV領域及び可視領域の両方で感光性である。
【0031】
上記開始剤の第三の態様によれば、上記開始系は、厳密に言えば光開始剤に加えて、活性部位(フリーラジカル)を生成させて1種又は複数種の上記開始剤に感光性を付与することができる少なくとも1種の光増感剤というものも含む光開始系である。この場合、ある励起状態の光増感剤と光開始剤との間の相互作用は、主として、ただし以下に限定されないが、2種類であってもよい。光増感は、一重項状態−一重項状態、若しくは、三重項状態−三重項状態のエネルギー移動によって、又は、光増感剤による光誘起電子移動によって、又は、両者が同時に起こることによって起こる。
【0032】
上記光開始剤の少なくとも1つが、ホモリティックな光開裂の機構によってフリーラジカルを生成できる種類のものである場合、このプロセスを促進することができる系がいくつか文献に記載されている。よって、これらの開始剤の重要なクラスには過酸化物が含まれるが、光増感の機構は非常に多様である。例えば、ベンゾイルペルオキシド及びデカノイルペルオキシドは、アントラセン、アセトフェノン、メトキシ−及びシアノ−ベンゾフェノン等の化合物の三重項状態からのエネルギー移動と、電荷移動錯体の形成との併用によって感光性が付与される。他の場合では、例えば、チオキサンテンと3,3’,4,4’−テトラ−(t−ブチルペルオキシカルボニル)−1−ベンゾフェノンとの間での電子移動の問題である。これらの例は、作用条件及び関係する化学種によって異なる増感機構の可変性を考慮しつつ、参考程度に挙げたものである。
【0033】
他の重要な例は、α−モルフォリノチオメチルフェニルケトン等のα−アミノアセトフェノンとチオキサントン系光増感剤との間で生じる相互作用に関する。この系に特有の特徴は、チオキサントンの三重項状態からのエネルギー移動と電子移動の両方によって機能が発揮されることである。
【0034】
また、電子供与体と電子受容体とを組み合わせたある二成分系に感光性を付与することもできる。特に、オニウム塩、「中間体」光還元性増感剤、及び、電子供与体の三重系は、アクリル系の調製を開始するのに非常に有効である。特に、以下の組み合わせを用いることができる:
・ジアリールヨードニウム塩類及びトリアリールスフホニウム塩類から選択されるオニウム塩、
・ジアミノアリールケトン、ケトクマリン、チオキサントン、キサンテン、フルオロン、チアジン、アクリジン、アントラキノン、シアニン、メロシアニン、及び、ベンゾピラン、及び、それらの誘導体等の感光性及び光還元性中間体種、並びに、
・例えば、第三級アミン及び第三級アリールアミン、特に、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール−p−トルイジン、N,N−ジメチル−sym−m−キシリジン、3,5−ジ−tert−ブチルアニリン、又は、N,N−ジメチル−p−アミノ安息香酸エチル等の活性化窒素原子を含む化合物;チアゾール誘導体、特にメルカプトベンゾチアゾール等の活性化窒素原子及び活性化硫黄原子を含む化合物;例えば、テトラフェニルボレート、又は、ブチルトリフェニルボレート等のホウ素塩(ホウ酸塩);並びに、テトラアルキルアンモニウムテトラオルガニルボレート系の他の塩類等の電子供与体。
「中間体」種とみなすか、又は、光増感剤としてのオニウム塩とみなすかによって、異なる系とみなすことができる。
【0035】
さらに、本発明の範囲内で適用可能な他の一連の例は、第三級アミン系又はホウ酸塩系の電子供与体及び必要により適当なプロトン供与体と組み合わせるか、組み合わせることなく使用するトリアリールスルホニウム塩系又はジアリールハロゲニウム塩系のオニウム塩の光増感に関するものである。
【0036】
この場合、必要に応じて、調製者は、アセトン、1−インドン、アセトフェノン、3−トリフルオロメチル−アセトフェノン、及び、キサントンから選択される、三重項状態−三重項状態エネルギー移動を可能にする感光性化合物を添加することにより、あるいは、アントラセン、ピレン、ペリレン、芳香族ケトン類、例えば、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、キサントン、チオキサントン、ジメチルアミノベンジリデン誘導体、フェナントラキノン、エオジン、ケトクマリン、アクリジン、及び、ベンゾフランから選択される、オニウム塩を用いた電子移動を可能にする感光性化合物を配合することにより、光増感剤を選択できる。
【0037】
上記重合反応の開始剤の最後の態様によれば、該開始剤は、効果を増強する目的で、及び/又は、電磁放射線の吸収範囲を変える目的で、その組成が、少なくとも1種の光開始剤、少なくとも1種の共開始剤、少なくとも1種の光増感剤、又は、より一般的には、上述した光開始系の考えられる各種成分の任意の適切な組み合わせを含んでいてもよい光化学的開始剤である。
【0038】
本発明に係る組成物では、上記重合の光化学的開始手段は、カンファーキノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、ビスアシルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、及び、カンファーキノン/4−ジメチルアミノ安息香酸エチル系から選択されるのが好ましい。
【0039】
本発明によれば、重合をモニタリングするための系は、組成物に含まれる呈色指示薬の呈色変化に基づいた視覚系である。この指示薬は、媒質の変化、例えば、pHの変化やレドックス反応の変化など、又は、相変化を示すことができる。本願明細書では、重合反応は、媒質の変化、すなわち、レドックス反応の指示薬の場合は電位の変化、pH指示薬の場合はpHの変化を引き起こし、該変化は呈色指示薬を調べることで確認できる。
【0040】
本発明に係る組成物は、少なくとも1種の呈色指示薬を含み、該指示薬は当業者であれば容易に選択することができる。
【0041】
特に、上記呈色指示薬は、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、メチレンブルー、及び、メチルレッドから選択することができる。
【0042】
一実施形態によれば、本発明の組成物は、UVフィルター、好ましくは、UVAを吸収させるために化粧品に用いられる種類のUVフィルターをさらに含んでいてもよい。
【0043】
異なる実施形態によれば、上記組成物はさらに、上記UVフィルターを5%以下の量で含んでいてもよい。
【0044】
特に、上記UVフィルターは、エトキシ化4−アミノ安息香酸エチル、3−ベンジリデンカンファー、及び、それらの混合物から選択することができる。
【0045】
本発明の第二の目的は、歯科バリアを形成する方法であって、
a)先に定義した組成物を、保護する歯系組織、特に歯肉組織に塗布ノズルによって塗布する工程、及び、
b)上記歯系組織の上記組成物で覆われた領域を、重合が完了したことを示す上記組成物の呈色変化が認められるまで、光重合ランプにより照射する工程
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0046】
従って、本発明は、本発明に係る組成物を塗布した場所にその場(in situ)で歯科バリアが形成されるように該組成物を使用することに関する。
【0047】
本発明の第三の目的は、先に定義した方法に従って得られること、又は、先に定義した前駆体組成物を出発物質として得られることを特徴とする歯科バリアに関する。
【0048】
本発明によって得られる歯科バリアは、塗布された歯系組織、特に歯肉組織に対する歯科バリアの接着性が優れており、口腔の保護領域を最適に保護することができる。
【0049】
さらに、本発明によって得られる歯科バリアは、処置終了時にピンセットを用いて歯茎から容易に取り除くことができるため、非常に使いやすい。
【0050】
本発明の最後の目的は、とりわけ歯科医院での処置中、特にオフィスブリーチング又はオフィスホワイトニング処置中に歯系組織、特に歯茎を保護することができることを特徴とする、先に定義した歯科バリアの使用に関する。
【0051】
特に、本発明によれば、一方で、上記バリアは、歯科医院での処置中、特にオフィスブリーチング処置中に歯系組織、特に歯茎を電気的に隔離することができる。
例えば、仏国特許発明第2844719号明細書に記載の電気泳動によるホワイトニング処置が挙げられる。この場合、上記バリアは、歯肉保護として用いられ、電流が歯に確実に流れるように歯に対して歯茎を隔離する機能を有している。
【0052】
特に、本発明によれば、他方では、上記バリアは、とりわけ歯科医院での処置中、特にオフィスブリーチング処置中に歯系組織、特に歯茎を化学的に隔離することができる。
実際、歯のホワイトニング処置では、一般的に、熱傷を引き起こし得る強力な酸化剤である過酸化水素を高濃度で用いる。
【0053】
また、特に、本発明によれば、上記バリアは、とりわけ歯科医院での処置中、特にオフィスブリーチング処置中に歯系組織、特に歯茎を熱的に隔離することができる。
実際、歯のホワイトニング処置では、一般的に、かなりの熱を発生し得る強力な光源を用いる。
【0054】
また本発明によれば、上記バリアは、とりわけ歯科医院での処置中、特にオフィスブリーチング処置中に歯系組織、特に歯茎を、長時間の曝露で有害となり得るUVAへの曝露から隔離することができる。
【0055】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、本発明の適用の様々な実施例を参照しつつ、以下の説明から明らかになるであろう。実施例は、単に説明のために示したものであり、従って、本発明の範囲を何ら制限するものではない。実施例において、特に記載のない限り、示されたパーセント(%)はすべて重量パーセント(%)であり、温度は摂氏度であり、圧力は気圧である。