特許第5717801号(P5717801)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717801
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】コーストストップ車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20150423BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20150423BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   F16H61/04
   F16H61/02
   F16H59/42
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-139107(P2013-139107)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-10710(P2015-10710A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2014年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】松本 太輔
(72)【発明者】
【氏名】若山 英史
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−057759(JP,A)
【文献】 特開2012−057758(JP,A)
【文献】 特開2012−082847(JP,A)
【文献】 特開2006−161684(JP,A)
【文献】 特開平10−324177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
F16D 48/00−48/12
B60W 10/00−50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行中にエンジンを自動停止させるコーストストップ車両の制御装置であって、
前記エンジンと駆動輪との間に介装されて動力を断接可能なクラッチと、
前記エンジンにより駆動されるメカオイルポンプ及び電動オイルポンプを備えた油圧源と、
前記油圧源から前記クラッチの油室に供給する作動油の油圧を司令圧に基づいて制御するクラッチ圧制御手段と、
前記エンジンの逆転を判定する逆転判定手段と、を備え、
前記クラッチ圧制御手段は、前記逆転判定手段により前記コーストストップ中に前記エンジンの逆転の開始が判定されたら前記逆転の終了が判定されるまで、前記司令圧を、締結用油圧よりも低い低司令圧に一時的に低下させ、その後、予め設定された充填時間だけ前記締結用油圧よりも高い充填用司令圧に上昇させてから前記締結用油圧よりも低く前記低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させる司令圧設定手段を有し、前記充填用司令圧及び前記待機用司令圧に基づいて前記油室に前記作動油を充填する
ことを特徴とする、コーストストップ車両の制御装置。
【請求項2】
前記司令圧設定手段は、前記作動油の温度及び前記車両の減速度に基づいて前記充填用司令圧を設定する
ことを特徴とする、請求項1記載のコーストストップ車両の制御装置。
【請求項3】
前記エンジンのアクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段を備え、
前記クラッチ圧制御手段は、前記コーストストップ中に前記アクセル操作量検出手段によりアクセル操作が検出されると、前記アクセル操作量検出手段により検出されたアクセル操作量に基づいて前記待機用司令圧から前記締結用油圧に向かう指令圧増加量(傾き)を設定して、前記作動油の充填の完了後に前記指令圧増加量に基づいて前記油室内の油圧を上昇させて前記クラッチを締結する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載のコーストストップ車両の制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を備え、
前記逆転判定手段は、前記コーストップ中に前記エンジン回転速度検出手段により検出されたエンジン回転速度が0又は0近傍まで低下した後に上昇したら、前記エンジンの逆転が開始したと判定し、その後、前記エンジン回転速度が予め設定された設定回転速度を超えるか或いは逆転開始判定から予め設定された時間が経過したら、前記エンジンの逆転が終了したと判定する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーストストップ車両の制御装置。
【請求項5】
前記エンジンと駆動輪との間に、無段変速機構及び副変速機構とからなる変速機が介装され、前記クラッチは、前記副変速機構に装備されている
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーストストップ車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行中にエンジンを自動停止させるコーストストップ車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料消費量低減を目的として、車両走行中にコーストストップ開始条件(例えば、アクセルオフ、ブレーキオン、かつ、車速が低車速域)が成立したらエンジンを自動で停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制し、その後、コーストストップ解除条件が成立したらエンジンを自動で再始動させるコーストストップ技術が、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−138426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の動力伝達系に装備されるクラッチやブレーキといったクラッチ類(以下、単に、クラッチと言う)を締結させるために、エンジンによって駆動されるメカオイルポンプによる油圧を利用するが、コーストストップを実施すると、エンジンの停止と共にメカオイルポンプの作動も停止するため、電動オイルポンプを追加して、メカオイルポンプの停止時に対応している。
【0005】
クラッチの中には、コーストストップ時にも締結状態を保つようにするものがある。例えば、動力伝達系にCVT(無段変速機構)及びハイ,ロー2段の副変速機構を直列に装備したものがあり、副変速機構が2速の状態で車速が低車速域に達してコーストストップ開始条件が成立した場合には、コーストストップによるエンジン停止を実施するが、2速状態を達成する2速クラッチ(ハイクラッチ)は、通常、電動オイルポンプによる油圧を利用して締結状態に保持する。これにより、その後のコーストストップ解除時に速やかに動力伝達できるようにしている。
【0006】
しかしながら、このようなコーストストップの開始後の車両の減速時に、車両にトルクショックが発生する場合があることが判明した。このトルクショックは、コーストストップの開始直後に、ブレーキがオフにされてコーストストップ解除によってエンジンが再始動される際に発生することも判明した。こうしたトルクショックは、車両のドライバ等に違和感を与えるので、その発生を抑制することができるようにしたい。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑み創案されたもので、エンジン駆動のメカオイルポンプ及び電動オイルポンプによる油圧によって締結させるクラッチを動力伝達系にそなえたものにおいて、必要な動力伝達状態を確保できるようにしながら、コーストストップの開始後に発生する車両のトルクショックを抑制することができるようにした、コーストストップ車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明者は、コーストストップの開始後に車両にトルクショックが発生する原因を究明した。
図9は、動力伝達系にCVT(無段変速機構)及びハイ,ロー2段の副変速機構を直列に装備し、この副変速機構のクラッチをエンジン駆動のメカオイルポンプ及び電動オイルポンプによる油圧によって締結するコーストストップ車両において、コーストストップを実施した際の各パラメータの変遷データを示すタイムチャートである。パラメータとしては、ブレーキスイッチ状態、セカンダリプーリ圧、2速クラッチ圧(ハイクラッチ圧)、2速クラッチ指令圧(ハイクラッチ指令圧)、エンジン回転数、セカンダリプーリ回転数、出力回転数、ドライブシャフトトルクを、それぞれ示す。なお、各回転数は、単位時間当たり回転数、即ち、回転速度である。
【0009】
副変速機構が2速の状態で車速が低車速域に達していて、時点t1で、ブレーキが操作されてブレーキスイッチがオフからオンに切り替わることによって、コーストストップ開始条件が成立し、コーストストップが実施される。コーストストップ時には、副変速機構の2速状態を達成する2速クラッチ(ハイクラッチ)は、通常、電動オイルポンプによる油圧を利用して締結状態に保持するようにハイクラッチ指令圧が設定される。これにより、その後のコーストストップ解除時に速やかに動力伝達できるようにしている。
【0010】
つまり、コーストストップによるエンジン停止でメカオイルポンプも停止するので、コーストストップの開始と共に電動オイルポンプが起動されて、油圧系統の油圧が確保される。コーストストップ開始直後は、まだエンジンも回転しているためエンジン回転数に応じてメカオイルポンプからも油圧が発生し、これに電動オイルポンプの油圧が加わるので、セカンダリプーリ圧(即ち、ライン圧)は一時的に増大する。そして、エンジン回転数の低下と共にメカオイルポンプからも油圧が低下し、セカンダリプーリ圧も低下する。
【0011】
しかし、時点t2付近で、エンジン回転数が停止状態近くまで低下すると、セカンダリプーリ圧はハイクラッチ指令圧よりも低下し、それまで、ハイクラッチ指令圧に対応した圧力値を維持していたハイクラッチ圧もセカンダリプーリ圧の低下に伴ってハイクラッチ指令圧よりも大きく低下していく。その後、セカンダリプーリ圧は回復し、ハイクラッチ圧もハイクラッチ指令圧に近づくように回復する。その後、ハイクラッチ圧の回復途中で、ドライブシャフトトルクが、一瞬大きく負の方向(逆回転方向)へ変化している(領域A5照)。これが、車両にトルクショックが発生している状況と考えられる。
【0012】
エンジン回転数に着目すると、時点t2付近から時点t3付近にかけて、一旦0付近まで落ち込んだエンジン回転数が一時的に増大しその後再び0付近まで落ち込んでいる(領域A1参照)。このエンジン回転数が一時的に増大するのに対応するように、セカンダリプーリ圧がハイクラッチ指令圧よりも大きく低下している。この状況を考察すると、時点t2付近から時点t3付近にかけて、一旦0付近になったエンジン回転数が一時的に増大する状況は、エンジンが停止する際に筒内圧のバランスで、エンジン回転が逆回転する(揺り戻される)ものと考えられる。一般的なエンジン回転数センサは逆転を検出できないので、この逆転は、データ上にはエンジン回転数の一時的な増大回復のように表れてしまう。
【0013】
エンジンが逆回転すると、その際にエンジンの出力軸に直結されたメカオイルポンプも逆転するため、メカオイルポンプ内にオイルが吸出される。この結果、エンジン停車時に油圧系のオイルが不足して、副変速機構のハイクラッチの油圧も足りなくなり(領域A2参照)、締結状態を保てなくなる。セカンダリプーリ回転数と出力回転数とを見ると、時点t2付近以降からセカンダリプーリ回転数と出力回転数とが一時的に乖離しており(領域A3参照)、ハイクラッチが滑っていることがわかる。
【0014】
その後、エンジンの逆回転(オイルポンプの逆転)が終了すると、電動オイルポンプの作動により油圧が回復する。また、エンジンの逆回転が終了する際や終了するまでのタイミングで、直ぐにエンジンが再始動されればメカオイルポンプの作動により油圧が回復する。このように油圧が回復する際に、ハイクラッチの指令圧は締結状態を保てる値となっているため、この指令圧に近づくように油圧が急復帰する(領域A4参照)。この油圧が急復帰したことにより、ハイクラッチが急締結となり、トルクショックが発生する(領域A5参照)ものと考えられる。
【0015】
本発明はこのような知見に基づいて創案されたものであり、本発明のコーストストップ車両の制御装置は、車両の走行中にエンジンを自動停止させるコーストストップ車両の制御装置であって、前記エンジンと駆動輪との間に介装されて動力を断接可能なクラッチと、前記エンジンにより駆動されるメカオイルポンプ及び電動オイルポンプを備えた油圧源と、前記油圧源から前記クラッチの油室に供給する作動油の油圧を司令圧に基づいて制御するクラッチ圧制御手段と、前記エンジンの逆転を判定する逆転判定手段と、を備え、前記クラッチ圧制御手段は、前記逆転判定手段により前記コーストストップ中に前記エンジンの逆転の開始が判定されたら前記逆転の終了が判定されるまで、前記司令圧を、締結用油圧よりも低い低司令圧に一時的に低下させ、その後、予め設定された充填時間だけ前記締結用油圧よりも高い充填用司令圧に上昇させてから前記締結用油圧よりも低く前記低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させる司令圧設定手段を有し、前記充填用司令圧及び前記待機用司令圧に基づいて前記油室に前記作動油を充填することを特徴としている。
【0016】
前記司令圧設定手段は、前記作動油の温度及び前記車両の減速度に基づいて前記充填用司令圧を設定することが好ましい。
【0017】
前記エンジンのアクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段を備え、前記クラッチ圧制御手段は、前記コーストストップ中に前記アクセル操作量検出手段によりアクセル操作が検出されると、前記アクセル操作量検出手段により検出されたアクセル操作量に基づいて前記待機用司令圧から前記締結用油圧に向かう指令圧増加量(傾き)を設定して、前記作動油の充填の完了後に前記指令圧増加量に基づいて前記油室内の油圧を上昇させて前記クラッチを締結することが好ましい。
【0018】
前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出手段を備え、前記逆転判定手段は、前記コーストップ中に前記エンジン回転速度検出手段により検出されたエンジン回転速度が0又は0近傍まで低下した後に上昇したら、前記エンジンの逆転が開始したと判定し、その後、前記エンジン回転速度が予め設定された設定回転速度を超えるか或いは逆転開始判定から予め設定された時間が経過したら、前記エンジンの逆転が終了したと判定することが好ましい。
【0019】
前記エンジンと駆動輪との間に、無段変速機構及び副変速機構とからなる変速機が介装され、前記クラッチは、前記副変速機構に装備されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコーストストップ車両の制御装置によれば、コーストストップ中にエンジンの逆転の開始が判定されたら逆転の終了が判定されるまで、司令圧を、締結用油圧よりも低い低司令圧に一時的に低下させ、その後、予め設定された充填時間だけ締結用油圧よりも高い充填用司令圧に上昇させてから締結用油圧よりも低く低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させ、これらの充填用司令圧及び待機用司令圧に基づいてクラッチの油室に作動油を充填する。このような指令圧の操作によって、ライン圧の回復時におけるハイクラッチの油圧の急激な復帰を未然に防ぐと共に、クラッチの油室に作動油を過不足なく充填することが可能になる。これにより、必要な動力伝達状態を確保できるようにしながら、コーストストップの開始後に発生する車両のトルクショックを回避又は抑制することができる。
【0021】
また、コーストストップ中にアクセル操作が検出されると、アクセル操作量に基づいて待機用司令圧から締結用油圧に向かう指令圧増加量を設定して、作動油の充填の完了後に指令圧増加量に基づいて油室内の油圧を上昇させてクラッチを締結することにより、車両のトルクショックの発生を回避又は抑制しながら、アクセル操作に応じて要求される動力伝達状態を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るコーストストップ車両の駆動系の概略構成図である。
図2】コーストストップ車両にかかるコントローラとその周辺の入出力要素を示すブロック図である。
図3】コーストストップ車両にかかる変速マップの一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図5】制御装置による制御の特徴を説明するタイムチャートである。
図6】制御装置による制御を説明するタイムチャートである。
図7】制御装置による制御を説明するフローチャートである。
図8】制御装置による効果を説明するタイムチャートである。
図9】本発明の課題及び課題解決の着目点を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。また、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最ロー変速比」は当該変速機構の最大変速比、「最ハイ変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0024】
〔コーストストップ車両の駆動系の構成〕
図1は本発明の一実施形態に係るコーストストップ車両の駆動系の概略構成図である。図1に示すように、この車両は、駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2aを有するトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5,終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0025】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ(メカOP又はMOPとも略記する。)10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ(電動OP又はEOPとも略記する。)10eとが油圧源として設けられている。電動オイルポンプ10eは、詳細は図示しないが、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧PL」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。なお、図1では、メカオイルポンプ10mを2か所に記載しているが、これは同一のポンプを便宜上各部に記載しているものである。
【0026】
ロックアップクラッチ2aは、車速がロックアップ開始車速を超えた時に締結され、車速がロックアップ解除車速を下回った時に解放される。例えば、ロックアップ開始車速は6km/h、ロックアップ解除車速は12km/hに設定される。
【0027】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0028】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の相互間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、詳細は図示しないが、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0029】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34の油室への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0030】
例えば、ローブレーキ32を締結し、ハイクラッチ(H/Cとも略記する。)33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。ハイクラッチ33を締結し、ローブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、ローブレーキ32とハイクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0031】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれも締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0032】
また、ローブレーキ32の油室に油圧を供給する油路の途中にはアキュムレータ(蓄圧器)35が接続されている。アキュムレータ35は、ローブレーキ32への油圧の供給,排出に遅れを持たせるもので、N−Dセレクト時に油圧を蓄えることによってローブレーキ32への供給油圧が急上昇するのを抑え、ローブレーキ32が急締結してショックが発生するのを防止する。
【0033】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、ECU(Electronic Control Unit)とも言う。図2は、コントローラ12と、その周辺の入出力要素を示すブロック図である。図2に示すように、コントローラ12は、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0034】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ(アクセル操作量検出手段)41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧PLを検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号、エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度センサ(エンジン回転速度検出手段)47の検出する出力信号変速機の作動油(ATF)の温度を検出する油温センサ(油温検出手段)48の検出する出力信号等が入力される。なお、各回転速度については回転数(単位時間当たりの回転数)とも言う。
【0035】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0036】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調整し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行なわれる。
【0037】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO)に応じて、バリエータ20,副変速機構30を制御する。
【0038】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行なわれる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8の場合の変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0039】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最ロー変速比にして得られる低速モード最ロー線とバリエータ20の変速比を最ハイ変速比にして得られる低速モード最ハイ線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最ロー変速比にして得られる高速モード最ロー線とバリエータ20の変速比を最ハイ変速比にして得られる高速モード最ハイ線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。なお、図3中には、最ローを最Lowと、最ハイを最Highと表記する。
【0040】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最ハイ線に対応する変速比(低速モード最ハイ変速比)が高速モード最ロー線に対応する変速比(高速モード最ロー変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図3中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図3中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最ロー線と低速モード最ハイ線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0041】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行なうモード切換変速線が低速モード最ハイ線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最ハイ変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0042】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行ない、高速モード−低速モード間の切換えを行なう。
【0043】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行なうとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比が変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0044】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをロー側からハイ側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速、アップシフト)するとともに、バリエータ20の変速比をロー側に変更する。
【0045】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをハイ側からロー側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速、ダウンシフト)するとともに、バリエータ20の変速比をハイ側に変更する。
【0046】
ただし、このようなダウンシフトを行なうのは、アクセルペダルが踏み込まれた場合、又は、アクセル開度APOが所定の低開度(例えば、アクセル開度APO=1/8)よりも大きい状態で車両が減速した場合である。
【0047】
アクセル開度APOが所定の低開度よりも小さい状態で車両が減速し、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをハイ側からロー側に跨いで変化した場合は、副変速機構30のダウンシフトは行なわず、副変速機構30の変速段は2速段のままでバリエータ20の変速比をロー側に変化させる。
【0048】
そして、副変速機構30のダウンシフトは、アクセルペダルが踏み込まれた時(アクセル開度APOが所定の低開度よりも大きくなった時)、セレクトレバーがDレンジからLレンジに操作された等の加速要求があった時、又は、車両が停車した後に行なうようにし、これによってイナーシャ変化による変速ショックを抑制する。
【0049】
〔コーストストップ制御及び付随する油圧制御〕
また、エンジン1の燃料消費量を抑制して燃費を向上させるために、コントローラ12は、以下に説明するようにコーストストップ(C/Sとも略記する。)を行なう。
なお、図4はコントローラ12のコーストストップ制御に関連する構成を示すブロック図であり、これを参照して説明する。
【0050】
図4に示すように、コントローラ12は、上述のように、エンジンを制御する機能(エンジン制御部)12aと、油圧回路11を通じて変速機4の各部を制御する機能(油圧回路制御部)12bと、を備えるのに加えて、コーストストップの開始を判定するコーストストップ開始判定部12cと、コーストストップの実施中にコーストストップの終了を判定するコーストストップ終了判定部12dとを機能要素として備えている。エンジン制御部12aは、コーストストップ開始判定手段12cによりコーストストップの開始が判定されたらエンジン1を自動停止し、コーストストップ終了判定手段12dによりコーストストップの終了が判定されたらエンジン1を自動始動するように制御する。
【0051】
また、コントローラ12は、コーストストップ開始時に、油圧源をメカオイルポンプ10mから電動オイルポンプ10eに切り替え、コーストストップ終了時に、油圧源を電動オイルポンプ10eからメカオイルポンプ10mに切り替えるポンプ切替制御部12eを機能要素として備えている。
【0052】
さらに、コントローラ12は、エンジン1の逆転を判定する逆転判定部(逆転判定手段)12fを機能要素として備えている。この逆転判定部12fは、コーストップ中にエンジン回転速度センサ47により検出されたエンジン回転数が0又は0近傍まで低下した後に上昇したら、エンジン1の逆転が開始したと判定し、その後、エンジン回転数が予め設定された設定回転数を超えるか或いは逆転開始判定から予め設定された時間が経過したら、エンジン1の逆転が終了したと判定する。
【0053】
油圧回路制御部12bは、このポンプ切替制御部12eによって、コーストストップ開始時に油圧源をメカオイルポンプ10mから電動オイルポンプ10eに切り替える際に発生する車両のトルクショックの抑制を考慮して、副変速機構30のローブレーキ32、ハイクラッチ33、Revブレーキ34といった摩擦締結要素(いわゆる、クラッチ)に供給する油圧(クラッチ圧)の司令圧を、逆転判定部12fの判定結果に基づき設定する指令圧設定部(指令圧設定手段)12hを有するクラッチ圧制御部(クラッチ圧制御手段)12gを機能要素として備えている。
【0054】
コーストストップは、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する技術である。アクセルオフ時に実行される燃料カットとは、エンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、コーストストップでは、ロックアップクラッチLCが解放されている(∵ロックアップ解除車速≧後述するコーストストップ許可車速)のでエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路が遮断され、エンジン1の回転が完全に停止する点において相違する。
【0055】
コーストストップを実行するにあたっては、コントローラ12は、まず、コーストストップ開始判定部12cにより、以下に示す条件a1〜a4:
a1:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)
a2:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)
a3:車速がコーストストップ許可車速(例えば、9km/h)以下
a4:ロックアップクラッチLCが解放されている
を判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0056】
コントローラ12のコーストストップ開始判定部12cは、これらの条件a1〜a4が全て成立した場合にコーストストップ開始条件成立と判断する。
【0057】
そして、コントローラ12のエンジン制御部12aは、コーストストップ開始条件成立と判断したら、エンジン1への燃料供給を停止してエンジン1を停止させ、ポンプ切替制御部12eは、電動オイルポンプ10eの駆動を開始する。
【0058】
また、コントローラ12のコーストストップ終了判定部12dは、コーストストップ中も上記条件a1〜a4がそれぞれ継続して成立しているか、及び、セレクトレバー位置を判定する。そして、上記条件a1〜a4のうち一つでも成立しなくなる、セレクトレバーがDレンジからLレンジに操作される、又は、セレクトレバーによってマニュアルモードが選択されダウンシフト操作が行なわれると、コントローラ12は、コーストストップ解除条件成立と判定し、エンジン制御部12aは、コーストストップを終了、すなわち、エンジン1への燃料供給を再開してエンジン1を始動する。そして、コントローラ12のポンプ切替制御部12eは、メカオイルポンプ10mが十分な油圧を発生するようになった時点で、電動オイルポンプ10eを停止させる。
【0059】
特に、アクセルペダルが踏み込まれたこと(条件a1)、所定のセレクトレバー操作があったことでコーストストップ解除条件が成立した場合は、運転者からの加速要求があるので、コントローラ12は、エンジン1を始動するだけでなく、駆動力を増大させて加速性能を確保するために、副変速機構30をダウンシフトさせる。
【0060】
ところで、コーストストップの実施時には、副変速機構30のダウンシフトは行なわず、副変速機構30の変速段は基本的に2速段のままを保持するが、コントローラ12のクラッチ圧制御部12gは、コーストストップのエンジン停止に伴って発生するトルクショックを回避又は抑制するために、本制御装置に特有の2速クラッチの油圧制御を行なう。
【0061】
クラッチ圧制御部12gは、指令圧設定部12hによって、副変速機構30の各クラッチ(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、Revブレーキ34)の油室に供給するクラッチ圧の司令圧を設定するが、コーストストップの実施時には、通常は、2速段を保持しうるように、ハイクラッチ33の油室に所要の締結用油圧に応じた一定の指令圧を与えて、ハイクラッチ33を締結させる。ただし、本装置では、前記トルクショックが生じうる状況下では、これを回避又は抑制するために、指令圧を変化させる油圧制御を行なう。
【0062】
図5のタイムチャートを参照して、この油圧制御を説明する。図5には、ブレーキスイッチ,アクセル開度,車速,コーストストップ許可フラグ(CS許可フラグ),エンジン回転逆転フラグ,エンジン回転数,メカオイルポンプ(メカO/P),電動オイルポンプ(電動O/P),ハイクラッチ指令圧(H/C指令圧)の各状態の変遷を示す。この図5には、コーストストップ中にアクセル操作がなされた場合の例を実線で、コーストストップ中にアクセル操作がなされない場合の例を破線で、それぞれ示している。なお、各フラグは1がオン、0がオフを示す。
【0063】
ここでは、ブレーキが操作された状態で(ブレーキスイッチオン)、時点t01で、車速がコーストストップ許可車速まで低下して、コーストストップ許可フラグがオンに立ち上げられて(フラグが1となる)、コーストストップによってエンジン1の作動が停止される。これに伴いエンジン回転数は急低下し、この途中の時点t02で、油圧源が、メカオイルポンプ10mから電動オイルポンプ10eに切り替えられる。時点t03で、エンジン回転数は0となるが、その後、エンジン回転は逆転状態となる。
【0064】
この逆転状態はすぐに収まるが、コーストストップ中の時点t04で、アクセル操作が行なわれる(ブレーキ操作からアクセル操作に切り替えられる)と、コーストストップ許可フラグがオフ(即ち、0)となり、エンジンが自動始動され、この自動始動が完了すると、油圧源が、電動オイルポンプ10eからメカオイルポンプ10mに切り替えられる。その後は、アクセル操作量に応じてエンジン回転数が上昇していく。
【0065】
一方、図5中に破線で示すように、コーストストップ中に、アクセル操作が行なわれずに、ブレーキ操作が継続されると、コーストストップ許可フラグがオン(即ち、1)に保持され、やがて車両が停止し、コーストストップは終了し、停車時アイドルストップに移行する。電動オイルポンプ10eの作動状態が維持される。
このような状況を例に、ハイクラッチ33への指令圧の設定を説明する。
【0066】
前述のように、コーストストップによるエンジン1の停止時に、エンジン1の回転が逆転(逆回転)することがある。エンジンの逆転によりエンジン1の出力軸に直結されたメカオイルポンプ10mも逆転して、メカオイルポンプ10m内にオイルが吸出され、この結果、エンジン1の停車時に油圧系のオイルが不足して、副変速機構30のハイクラッチ33の油圧も足りなくなり、締結状態を保てなくなる。
【0067】
エンジン1の逆転(メカオイルポンプ10mの逆転)の終了が判定されて(時点t05)、電動オイルポンプ10eの作動により、あるいは、直ぐにエンジン1が再始動されればメカオイルポンプ10mの作動により油圧が回復する。この際、ハイクラッチ33の指令圧は締結状態を保つ値となっていると、この指令圧に近づくように油圧が急復帰し、ハイクラッチ33が急締結となり、トルクショックが発生する。この様な知見から、油圧の急復帰を回避するために、指令圧を操作する。
【0068】
具体的には、図5図6に示すように、指令圧設定部12hは、逆転判定部12fによりコーストストップ中にエンジン1の逆転の開始が判定されたら(時点t03)、この逆転の終了が判定される(時点t05)まで、司令圧を締結用油圧よりも低い低司令圧に一時的に低下させる。その後、つまり、逆転の終了判定(時点t05)後、司令圧を、締結用油圧よりも高い充填用司令圧に予め設定された充填時間だけ(時点t06まで)上昇させる。その後、少なくとも所定期間(時点t07まで)締結用油圧よりも低く低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させる。指令圧設定部12hは、このような充填用司令圧及び待機用司令圧に基づいてクラッチ(ここでは、ハイクラッチ33)の油室に作動油を充填する(充填フェーズ)。
【0069】
このような指令圧の操作のうち、エンジン1の逆転検出時に行なう低司令圧の設定は、この期間に指令圧を低下させることにより、ライン圧の回復時にハイクラッチ33の油圧の急激な復帰を未然に防ぐと共に、油室内の油圧を低下させ、これによって、作動油を排除することにより、その後の充填フェーズにおいて、クラッチ33の油室に作動油を過不足なく充填するための準備である(準備フェーズ)。
【0070】
充填用司令圧及び待機用司令圧の設定は、クラッチの油室に作動油を過不足なく確実に充填するためである。充填用司令圧の締結用油圧からの増大量(あるいは、締結用油圧の大きさ)A及び待機用司令圧の大きさBは、作動油の温度及び車両の減速度に基づいて設定する。車両の減速度は、車速センサ43で検出される車速に基づいて算出され、作動油の温度は、油温センサ48の検出値として得られる。
【0071】
例えば、作動油の温度が低いほど作動油の粘性が高いので、油室に作動油を充填するには充填用司令圧及び待機用司令圧を高圧にする必要があり、逆に、作動油の温度が高いほど作動油の粘性が低いので、油室に作動油を充填するには充填用司令圧及び待機用司令圧を低圧にする必要がある。
【0072】
また、車両の減速度が大きいほど逆転時のメカオイルポンプ10m内へのオイルの吸出は強いものと考えられ、油室に作動油を充填するには充填用司令圧及び待機用司令圧を高圧にする必要があり、逆に、車両の減速度が小さいほど逆転時のメカオイルポンプ10m内へのオイルの吸出は弱いものと考えられ、油室に作動油を充填するには充填用司令圧及び待機用司令圧を低圧にする必要がある。
【0073】
このような準備フェーズ及び充填フェーズの処理によって、ハイクラッチ33の油室には作動油が充填されるが、ハイクラッチ33の締結圧はほぼ0となるため、エンジン1の逆転に起因した油圧の急復帰によるハイクラッチ33の急締結が回避され、車両のトルクショックが回避される。
【0074】
そして、このコーストストップ中に、アクセル開度センサ41によってアクセル操作が検出されると、アクセル開度センサ41の検出情報からアクセル開度(アクセル操作量)の増加量(単位時間当たりの増加量、即ち、傾き)αを求めて、この増加量αと比例するように充填フェーズ後の指令圧の増加量(単位時間当たりの増加量、即ち、傾き)θを設定する。つまり、充填フェーズが完了したら、実線で示すように増加量θに従って指令圧を増加させて、ハイクラッチ33を締結させると共にハイクラッチ33の締結圧を強めていく(締結フェーズ)。この締結フェーズにより、ハイクラッチ33を介して伝達しうる車両の駆動トルクがドライバの要求に応じて円滑に増大し、車両に要求される加速性能を得ることができる。
【0075】
一方、このコーストストップから車両が停止して停止時アイドルストップに移行するまで、アクセル開度センサ41によるアクセル操作が検出されない場合の増加量θ′は0に設定され、破線で示すように待機用司令圧が保持される。この待機用司令圧の保持によっても、ハイクラッチ33はやがて締結する(締結フェーズ)。この場合、充填フェーズ後の増加量θ′を0よりも大きい微小値に設定し、アクセル操作がなくてもハイクラッチの締結圧を徐々に復帰させていくこともが有効である。
【0076】
なお、図示しないが、停止時アイドルストップに移行すると、コーストストップ制御は終了して停止時アイドルストップ制御に移行するが、この移行後、アクセル操作によって停止時アイドルストップが解除された場合にも、上記と同様に、アクセル開度の増加量αを求めて、この増加量αと比例するように充填フェーズ後の指令圧の増加量θ″を設定することも有効である。
【0077】
〔作用及び効果〕
本発明のコーストストップ車両の制御装置は、上述のように構成されるので、コーストストップ時のハイクラッチ33の油圧制御は、例えば、図7のフローチャートに示すように実施することができる。
【0078】
図7に示すように、まず、コーストストップ開始条件が成立したかを判定し(ステップS10)、コーストストップ開始条件が成立したら、コーストストップ作動領域において副変速機構30が2速(ハイ)を維持するか、即ち、ハイクラッチ33の締結を維持するかを判定する(ステップS20)。2速を維持しない場合には、本油圧制御は実施せず、2速を維持する場合は、本油圧制御を実施する。
【0079】
つまり、コーストストップ開始により、油圧源が、メカオイルポンプ10mから電動オイルポンプ10eに切り替えられる(ステップS30)。ここで、エンジン1の回転が逆転しているかを判定する(ステップS40)。エンジン回転逆転検知フラグがオン(=1)であれば逆転していると判定することができる。逆転が判定されなければ、第1タイマを作動させて、第1タイマ値T1をインクリメントし(ステップS46)、第1タイマ値T1が所定値Tに達したかを判定し(ステップS48)、エンジン1の逆転が判定されなければ、第1タイマの値T1が所定値Tに達するまで、即ち、所定の監視時間だけ判定を実施する。
【0080】
所定の監視時間に、エンジン1の逆転が判定されなければ、エンジン1の逆転は発生しなかったものとして、制御を終了する。なお、所定の監視時間は、試験結果に基づいて、予め一定値に設定しても良く、エンジン1の減速状態に応じて設定しても良い。
所定の監視時間内に、エンジン1の逆転が判定されたら、第1タイマ値T1を0にリセットし(ステップS42)、第2タイマを作動させて、第2タイマ値T2をインクリメントする(ステップS44)。
【0081】
エンジン1の逆転が判定されたら、エンジン1の逆転時の回転数(逆回転量)を検出し(ステップS50)、ハイクラッチ指令圧を最低圧(低指令圧)に設定し(ステップS60)、このハイクラッチ指令圧を出力して、ハイクラッチ33の油圧を最低圧(低指令圧)に下げる(ステップS70、準備フェーズ)。そして、エンジン1の逆転時の回転数が予め設定された設定回転数を超えたかを判定し(ステップS72)、逆転時の回転数が設定回転数を超えなければ、第1タイマ値T2が所定値Tに達したかを判定する(ステップS74)。
【0082】
逆転時の回転数が設定回転数を超えるか、或いは、第2タイマ値T2が所定値2に達したら、エンジン1の逆転は終了したものと判定し、第2タイマ値T2を0にリセットし(ステップS76)、エンジン回転逆転検知フラグをオフ(=0)とする(ステップS80)。そして、コーストストップが終了しているかを判定する(ステップS90)。
【0083】
コーストストップが終了していれば、エンジン1を始動させ(ステップS100)、ハイクラッチ33の指令圧を設定し(ステップS110)、ハイクラッチ33を締結させる(ステップS120)。
【0084】
このステップS110の設定は、例えば図6に実線で示すように、コーストストップ中にエンジン1の逆転の開始が判定されたら(時点t03)、この逆転の終了が判定される(時点t05)まで、司令圧を締結用油圧よりも低い低司令圧に一時的に低下させた後、つまり、逆転の終了判定(時点t05)後の充填フェーズ及び締結フェーズの設定である。
【0085】
まず、充填フェーズ段階で、司令圧を、締結用油圧よりも高い充填用司令圧に予め設定された充填時間だけ(時点t06まで)上昇させ、その後、少なくとも所定期間(時点t07まで)締結用油圧よりも低く低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させる。指令圧設定部12hは、このような充填用司令圧及び待機用司令圧に基づいてクラッチ(ここでは、ハイクラッチ33)の油室に作動油を充填する。
【0086】
次に、締結フェーズとして、このコーストストップ中に、アクセル開度センサ41によってアクセル操作が検出されたかを判定し、アクセル操作が検出されると、アクセル開度センサ41の検出情報からアクセル開度(アクセル操作量)の増加量(単位時間当たりの増加量、即ち、傾き)αを求めて、この増加量αと比例するように充填フェーズ後の指令圧の増加量(単位時間当たりの増加量、即ち、傾き)θを設定する。つまり、充填フェーズが完了したら、増加量θに従って指令圧を増加させて、ハイクラッチ33を締結させると共にハイクラッチ33の締結圧を強めていく。
【0087】
一方、ステップS90の判定で、コーストストップが終了していなければ、コーストストップが継続され(ステップS130)、エンジン1を停止状態に保持する(ステップS140).そして、ハイクラッチ33の指令圧を設定し(ステップS150)、ハイクラッチ33を締結させる(ステップS160)。
【0088】
このステップS150の設定は、充填フェーズ段階では、例えば図6に実線で示すように、まず、司令圧を、締結用油圧よりも高い充填用司令圧に予め設定された充填時間だけ(時点t06まで)上昇させ、その後、少なくとも所定期間(時点t07まで)締結用油圧よりも低く低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させる。指令圧設定部12hは、このような充填用司令圧及び待機用司令圧に基づいてクラッチ(ここでは、ハイクラッチ33)の油室に作動油を充填する。
【0089】
次に、締結フェーズとして、例えば図6に破線で示すように、コーストストップから車両が停止して停止時アイドルストップに移行するまで、アクセル開度センサ41によるアクセル操作が検出されない場合の増加量θ′は0に設定され、待機用司令圧が保持される。この待機用司令圧の保持によっても、ハイクラッチ33はやがて締結する。
【0090】
図8は、既に説明した図9と対応する条件で、本装置の制御を加えた場合の各パラメータの変遷データを示すタイムチャートである。パラメータとしては、ブレーキスイッチ状態、セカンダリプーリ圧、2速クラッチ圧(ハイクラッチ圧)、2速クラッチ指令圧(ハイクラッチ指令圧)、エンジン回転数、セカンダリプーリ回転数、出力回転数、ドライブシャフトトルクを、それぞれ示す。なお、各回転数は、単位時間当たり回転数、即ち、回転速度である。
【0091】
副変速機構30が2速の状態で車速が低車速域に達していて、時点t11で、サービスブレーキが操作されてブレーキスイッチがオフからオンに切り替わることによって、コーストストップ開始条件が成立し、コーストストップが実施される。コーストストップ時には、副変速機構30の2速状態を達成する2速クラッチ(ハイクラッチ)33は、通常、メカオイルポンプによる油圧を利用して締結状態に保持するようにハイクラッチ指令圧が設定されるが、本制御装置によれば、エンジンの逆転の判定と共に、司令圧を低指令圧(最低圧)に一時的に低下させる準備フェーズを実施し、その後、指令圧を、締結用油圧よりも高い充填用司令圧に上昇させてから、締結用油圧よりも低く低司令圧よりも高い待機用司令圧に低下させる充填フェーズを実施する(領域A2参照)。
【0092】
エンジン回転数が停止状態近くまで低下した後、時点t12付近から時点t13付近にかけて、エンジン回転が逆回転(揺り戻される)する(領域A11参照)。エンジンが逆回転すると、その際にエンジンの出力軸に直結されたメカオイルポンプも逆転するため、メカオイルポンプ内にオイルが吸出され、エンジン停車時に油圧系のオイルが不足して、副変速機構30のハイクラッチ33の油圧も足りなくなり(領域A12参照)、時点t12付近以降から時点t14付近にかけて、セカンダリプーリ回転数と出力回転数とが一時的に乖離しており(領域A13参照)、ハイクラッチが滑る。
【0093】
エンジン1の逆回転(オイルポンプの逆転)が終了すると、油圧が回復するが、油圧が回復する際に、ハイクラッチ33の指令圧は締結状態を保てる値となっていると、指令圧に近づくように油圧が急復帰する(図9の領域A4参照)が、本装置の制御では、準備フェーズ及び充填フェーズによって、指令圧が調整されるので、油圧が急復帰することはなく(領域A14参照)、ハイクラッチ33の急締結が回避され、トルクショックが回避される(領域A15参照)ことがわかる。
【0094】
このように、本発明の制御装置によれば、司令圧の特有な設定によってハイクラッチ33の油圧を制御するので、ライン圧の回復時におけるハイクラッチ33の油圧の急激な復帰を回避すると共に、ハイクラッチ33の油室に作動油を過不足なく充填することが可能になる。これにより、必要な動力伝達状態を確保できるようにしながら、コーストストップの開始後に発生する車両のトルクショックを回避又は抑制することができる。
【0095】
特に、コーストストップ中にアクセル操作が検出されると、アクセル操作量に基づいて待機用司令圧から締結用油圧に向かう指令圧増加量を設定して、作動油の充填の完了後に締結フェーズが実施されるので、車両のトルクショックの発生を回避又は抑制しながら、アクセル操作に応じて要求される動力伝達状態を確保できる効果もある。
【0096】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、かかる実施形態を部分的に適用したり、一部を変更して適用したりすることもできる。
【0097】
例えば、本実施形態では、エンジン1と駆動輪7との間に介装されて動力を断接可能なクラッチとして、無段変速機構20及び副変速機構30とからなる変速機4の副変速機構30におけるハイクラッチを例示したが、本発明の適用対象のクラッチは、これに限るものではない。コーストストップに伴うエンジンの逆転によるクラッチの急締結が車両のトルクショックを招く場合には、広くて適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 エンジン
4 変速機
12 コントローラ(ECU)
12f 逆転判定部(逆転判定手段)
12h 指令圧設定部(指令圧設定手段)
12g クラッチ圧制御部(クラッチ圧制御手段)
20 無段変速機構
30 副変速機構
33 ハイクラッチ
41 アクセル開度センサ(アクセル操作量検出手段)
47 エンジン回転速度センサ(エンジン回転速度検出手段)
48 油温センサ(油温検出手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9