【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、独立請求項の特徴を備えるMR画像再構成法及び/又はMRI装置によって達成される。本発明の好適な態様は、従属請求項に記載している。
【0012】
本発明の第一の側面によれば、調査対象物の一連のMR画像を再構成する方法を開示する。本方法は、MRI装置の少なくとも一の高周波受信コイルを用いて収集される連続した
画像未処理データのセットを提供する工程と、一連のMR画像を提供するよう該
画像未処理データのセットに非線形逆再構成プロセスを行う工程とを含む。画像未処理データは、再構成されるMR画像の画像コンテンツを有している。各MR画像は、少なくとも一の受信コイルの感度及び画像コンテンツの同時
推定に基づいて形成される。非線形逆再構成プロセスは、反復プロセスである。それぞれの反復工程では、非線形MRI信号方程式の正規化線形化(regularized linearization)が解かれる。この非線形MRI信号方程式の正規化線形化では、測定される未知のスピン密度及びコイル感度が、少なくとも一の受信コイルから取得されたデータにマッピングされる。
【0013】
本発明では、各
画像未処理データのセットは、少なくとも一の高周波受信コイルによって受信されるMRI信号を、非デカルトk空間軌道を用いて空間的に符号化する傾斜エコーシーケンスによって生成される(測定される)複数のデータサンプルを有する。さらに、各
画像未処理データのセットが、等価な空間周波数成分(equivalent spatial frequency content)を有する、k空間における複数のラインのセットを備える。各
画像未処理データのセットの複数のラインは、k空間の中心で交差し、空間周波数の連続的な範囲をカバーしている。各
画像未処理データのセットの複数のラインの位置は、連続するセットにおいて異なる。好ましくは、各
画像未処理データのセットの複数のラインは、k空間において均等に分配されている。連続する
画像未処理データのセットは、それぞれが空間周波数の連続的な範囲をカバーする、異なる非デカルトk空間軌道に沿って収集される。各ラインの空間周波数の連続的な範囲は、低い空間周波数(k空間の中心部における周波数)と、所定の空間分解能のMR画像を得るための高い空間周波数(k空間の外側部における周波数)とを有する。
【0014】
さらに本発明では、非線形逆再構成プロセスは、MR画像が少なくとも一の受信コイル
の感度及び画像コンテンツ
の、現在の
セット(
推定)と以前の
セット(
推定)との差に応じて、反復的に再構成される正規化を含む。いいかえると、以前のMR画像、好ましくは直前のMR画像は、非線形逆方法によって現在のMR画像を反復的に演算するために導入された、正規化のための基準イメージとして用いられる。F.ノール他によって提案された正規化非線形逆方法(2008年)とは異なり、本発明のMR画像(第1画像以外)の再構成において用いられる正規化項は、0でないノンゼロ基準イメージ、特に以前のMR画像に依存する。
【0015】
好ましくは、非線形逆方法は、再構成時間を短縮するGPUでの実装、及び/又はグリッディング技術と比較してGPU実装を大幅に簡単化した、畳み込み(convolution)ベースの反復を含む非デカルトk空間符号化へ拡張された、自動較正パラレルイメージングに対する非線形逆再構成に基づく。好適には、非デカルト・ラジアル軌道への非線形再構成法の拡張は、反復再構成の前に準備ステップにおいて行なわれる単一の補間のみで行うことができる。一方で、続く反復再構成(最適化)は、点拡がり関数(非デカルト・サンプリングパターンのフーリエ変換)による畳み込みに依存する。
【0016】
好適には、本発明は二つの原理を組み合わせて利用する。すなわち(i)空間の符号化に対して非デカルト軌道を用いる顕著なアンダーサンプリングによる傾斜エコーシーケンスMRI技術と、(ii)正規化非線形逆方法によって画像を
推定する画像再構成の、二つである。前者の技術は、オフ共鳴(off-resonance)アーティファクトの影響を受けない、高速かつ連続的で、さらにモーションロバストな画像化を可能にする。一方後者の技術は、ラジアルアンダーサンプリングの程度を、従来予想もできなかったようなファクタ約20にまで向上できると共に、(利用する場合は)複数の受信コイルによってパラレルイメージングの利点を黙示的に利用する。
【0017】
本発明者らは、単一のMR画像の従来の再構成(上記F.ノール他を参照)とは対照的に、異なる非デカルトk空間軌道に沿って収集された、連続した
画像未処理データのセットに適用される非線形逆再構成プロセスによって、画質が根本的に改良されたMR画像列が得られることを見出した。それは、以前の画像の再構成ステップの結果が、MR画像列のそれ以降のMR画像を改良するからである。
【0018】
また本発明の第二の側面によれば、調査対象物の一連のMR画像を形成するよう構成されたMRI装置が、MRIスキャナと、第一の側面に係る方法に従い連続した
画像未処理データのセットを収集し、一連のMR画像を再構成するようにMRIスキャナを制御するよう構成された制御装置とを備える。MRIスキャナは、主磁場装置と、少なくとも一の高周波励起コイルと、少なくとも2つの磁場傾斜コイルと、少なくとも一の高周波受信コイルとを有する。
【0019】
本発明の好ましい態様では、再構成プロセスは、画像アーティファクトを抑制するフィルタリングプロセスを含む。フィルタリングプロセスは、空間フィルタ及び時間フィルタの少なくとも一方を備える。特に好ましい変形例では、時間的中央値(メジアン)フィルタが再構成プロセスに適用される。
【0020】
好適には、k空間におけるラインの形に関して更なる特定の制約はなく、具体的な用途や条件に応じて選択できる。各
画像未処理データのセットの複数のラインが、「ラジアルスポーク」として知られる回転された直線に対応する場合は、1ライン当たりの最小サンプリング時間の面で有利となる。
【0021】
ここで「画像未処理データのセット」とは、所望のFOV内の画像のk空間情報をカバーする画像未処理データを意味する。したがって、各
画像未処理データのセットは、一のフレーム(一連のMR画像における複数のMR画像の内の一)を提供する。本発明は、好適には、単一のスライス又は異なるスライスがフレーム毎に表わされた種々の態様で実行できる。第一の変形例では、一連のMR画像は、対象の時間的に連続した単一断面スライスである。他の変形例では、一連のMR画像は、対象の連続した複数の断面スライスである。
【0022】
さらに本発明の特に好適な態様を表す他の変形例では、一連のMR画像は、対象物の時間的に連続した複数の断面スライスである。異なるスライスがk空間における連続するラインによって生成されるよう(交互配置(interleaved)マルチスライス・データセット)、又は異なるスライスが連続するセットの画像によって生成されるように(シーケンシャルマルチスライス・データセット)、画像未処理データが収集される。
【0023】
交互配置マルチスライス・データセットでは、異なるスライスが、k空間において各ラインで、つまり傾斜エコーシーケンスのそれぞれの反復時間で測定される。このような態様は、好ましくは、ある繰り返し運動の画像列の収集、例えば医療用画像化においては関節の動きを示す連続画像の収集に用いられる。連続マルチスライス・データセットでは、異なるスライスが、各
画像未処理データのセットで測定される。連続マルチスライス・データセットは、例えば造影剤を心臓、肝臓又は乳房組織へ導入した後の灌流測定用の画像列の収集等に、好適に利用できる。
【0024】
正規化は、時間正規化及び空間正規化の少なくとも一方を備える。例として、連続する
画像未処理データのセットが対象内の時間的に連続した単一スライス又はマルチスライスを表す場合、時間的な正規化が行われる。後者のケースにおいて、ある時間的に連続した複数の
画像未処理データのセットが、その画像未処理データの収集後に、各スライスに対して提供され、時間的に連続した複数のセット毎に時間的な正規化が行われる。他の例として、連続する
画像未処理データのセットが、互いに隣接している対象物内の異なるスライスを表す場合には、空間的正規化が行われる。第1スライスの以前の画像は、隣接スライスの現在の画像の、正規化のための基準画像として用いられる。
【0025】
本発明の更なる利点として、一連のMR画像を再構成する方法を、種々の傾斜エコーシーケンスで実現できる。例えばシングルエコーFLASHシーケンス、マルチエコーFLASHシーケンス、リフォーカシング傾斜によるFLASHシーケンス、完全バランス傾斜(fully balanced gradients)によるFLASHシーケンス、又はtrue−FISPシーケンス等の特定の傾斜エコーシーケンスを、画像化タスクに応じて選択できる。
【0026】
本発明の更に好ましい態様では、各
画像未処理データのセットが均等に軸状に分配された奇数のラインを備える。これにより、一の
画像未処理データのセット内のk空間軌道におけるラインが一致する事態(line coincidences)を回避できる。
【0027】
本発明の更なる利点として、(例えば回転された直線に対してはサンプリング定理により)1ライン当たりのデータサンプルの数にπ/2を乗じた数で与えられるアンダーサンプリングの実質的に低減される程度によって、画像未処理データを選択できる。アンダーサンプリングの程度は、少なくともファクタ5、特に少なくともファクタ10とできる。したがって、S.チャン他(上記参照)によって発表された方法と比較して、データ取得を一桁も高速化できる。さらに、各
画像未処理データのセットの、複数のラインの数を低減できる。特に、医療用画像化に対しては、30以下、特に20以下の数のラインとすることで、高品質なMR画像列を得るのに十分であることが判明している。
【0028】
さらに本発明によれば、従来の技術と比較して、各
画像未処理データのセットを収集する時間が根本的に短縮される。取得時間は100ms以下、特に50ms以下、更には30ms以下とできる。したがって本発明は、リアルタイムMRIを達成できる。リアルタイムMRIとは、短い取得時間で画像を連続的に取得することを指す。本発明の適用によって、1s当たり50フレームの動画にも対応する20msと同程度の取得時間で高品質な画像を提供できる。本発明の潜在的な用途としては、医療(例えば心電図と同期しない、自由呼吸の際の心臓血管の画像化)から、自然科学(例えば乱流に関する研究)まで、広範囲の分野に及ぶ。
【0029】
本発明の更に好ましい態様では、各
画像未処理データのセットの複数のラインを、連続する
画像未処理データのセットの複数ラインが互いに対して所定の角変位で回転されるよう選択できる。この結果、このような
画像未処理データのセットの組み合わせによって、所望の画像のk空間情報を均等な有効範囲(homogeneous coverage)で表すことができる。この利点として、このような回転により、画像再構成内のフィルタリングプロセスの効果が改良される。なお、一連の画像のすべての画像を互いに異なるk空間軌道に沿って収集することが、厳密に必要という訳ではない。特に、ラインの位置が異なる、
画像未処理データの連続するセットの数を、2〜15、特に3〜7の範囲から選択できる。
【0030】
一連のMR画像を再構成する本発明の方法は、MRI装置の少なくとも一の高周波受信コイルを用いて画像未処理データを収集する際に、及び/又は直後に、実行することができる。この場合、連続した
画像未処理データのセットの提供は、少なくとも一の受信コイルを有するMRI装置に対象物を配置する工程と、対象物に傾斜エコーシーケンスを行う工程と、少なくとも一の受信コイルを用いて連続した
画像未処理データのセットを収集する工程とを含む。一連のMR画像の再構成は、リアルタイムで、すなわち画像未処理データ収集に対して遅延が無視できる速度で行われる(オンライン再構成)。あるいは、場合によっては再構成には、一連のMR画像を表現する際に、ある程度の遅延を要してもよい(オフライン再構成)。この場合は、従来の方法、例えばS.チャン他の技術によって再構成された画像の、同時オンライン表現を提供できる。
【0031】
他の態様では、本発明の一連のMR画像を再構成する方法は、所定の測定条件による画像未処理データの収集とは独立して行うことができる。この場合、画像未処理データのセットを、データ記憶装置と離れたMRI装置からのデータ通信によって、受信できる。
【0032】
本発明によれば、更に以下のような利点を享受できる。第一に、本発明はリアルタイムMRIに対して、顕著なモーションロバスト性と、画像の高画質化と、他の高速MRI技術で知られているアーティファクトに対する耐性と、柔軟な時間分解能及び空間分解能と、画像コントラストとを達成できる。この達成の鍵は、ラジアルFLASH・MRI取得を、正規化非線形逆方法による画像再構成と組み合わせることにある。これによって、一画像当たりのスポークの数を低減するという、従来予想もできなかった可能性が得られる。実際、本方法によればいくつかの利点が組み合わせられる。すべての時間フレームに対するコイル感度の連続的な更新と、パラレルMRI取得の黙示的データ低減容量と、アンダーサンプリングに対するラジアル符号化の許容範囲と、アンダーサンプリングに対する非線形アルゴリズムの許容範囲の向上と、連続するフレームに対する交互配置符号化スキームと連携した時間的フィルタリング等が挙げられる。これらを総合すると、本発明の方法によればMRIの時間分解能を、従前のグリッディング再構成と比較して一桁大きく改良できる。
【0033】
さらに、ここで説明する本発明のリアルタイムMRI方法は、種々の研究領域において新たな応用例を提供する。例えば、非医療的な応用例として、様々な物理化学系における混合流体の流体力学特性に対してなされる、特に乱流現象の三次元的特性を対象とできる。一方で、臨床MRIシステムの広範囲な有効性により、生物医学的・臨床的画像化シナリオに対する顕著な影響が得られる。さらにこのことは、取得技術の実装の容易化、及び反復再構成の高速化に対する既存のコンピュータハードウェアの予想される進歩によっても支持される。今現在で直ちに影響を与えられることとしては、心臓血管のMRIが挙げられる。これは本発明を適用することで、高時間分解能でリアルタイムに心筋機能を評価できるからである。実際、本願発明者の報告では、心臓弁の機能をモニタする可能性や、さらに心臓及び大きな血管における(乱流の)血液の流れの特性を判定する可能性も示唆している。さらに、本願発明に係る方法によれば、サスセプティビリティー(susceptibility)によって引き起こされる画像アーティファクトを受け難いので、インターベンショナルMRIに応用できる。ここでインターベンショナルMRIとは、低侵襲外科的処置のリアルタイムなモニタリングを意味する。
【0034】
また本発明のリアルタイムMRI方法によれば、関節運動の動的評価や、例えばMRI造影剤の投与後の速い生理的プロセスのオンライン視覚化等、他の可能性も示している。実際、最大の時間分解能を要求しないような特定の用途の場合は、低いフレームレートを使用することで、より高い空間分解能に転換したり、あるいは複数の部位における動画の同時記録等にも転換できる。あるいは、リアルタイムMRIを、追加情報の符号化(例えば位相差顕微鏡の技術を用いた流速に関する追加情報の符号化)と組み合わせることもできる。
【0035】
本発明の更なる詳細及び利点を、以下の添付図面を参照して説明する。