(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717852
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】糸または縫い糸、および糸または縫い糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/46 20060101AFI20150423BHJP
D02G 3/16 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
D02G3/46
D02G3/16
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-517167(P2013-517167)
(86)(22)【出願日】2011年6月21日
(65)【公表番号】特表2013-533930(P2013-533930A)
(43)【公表日】2013年8月29日
(86)【国際出願番号】EP2011060290
(87)【国際公開番号】WO2012000827
(87)【国際公開日】20120105
【審査請求日】2012年12月26日
(31)【優先権主張番号】102010030773.4
(32)【優先日】2010年6月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512298708
【氏名又は名称】エスゲーエル カーボン ソシエタス ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】SGL Carbon SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ハイデ ゴメル
(72)【発明者】
【氏名】ビアギート ライター
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ゴイニー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ボーデ
【審査官】
中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3021280(JP,U)
【文献】
特開平01−225538(JP,A)
【文献】
特開2004−346175(JP,A)
【文献】
特開2005−096749(JP,A)
【文献】
特開2009−143218(JP,A)
【文献】
再公表特許第2004/016844(JP,A1)
【文献】
特表2012−511450(JP,A)
【文献】
特開平11−036172(JP,A)
【文献】
特開2009−084726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J 1/00−13/00
D02G 1/00− 3/48
D04H 1/00−18/04
B29B11/16
B29B15/08−15/14
C08J 5/04− 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステープルファイバー(20)を含むかまたはステープルファイバー(20)からなるステープルファイバー材料からなる紡績糸として構成されるとともに、
カーボンファイバー材料(20’)を含むか、またはカーボンファイバー材料(20’)からなる縫い糸(10)であって、
上記ステープルファイバー(20)の一部または全体が、単繊維(20)として、単繊維(20)の群(25)として、またはその全部が、全体的にまた部分的に、1または複数の被覆材料(30’)、および/または含浸材料(40’)で被覆または含浸されている、前記縫い糸(10)。
【請求項2】
上記紡績糸は、全体的にまたは部分的に、マルチフィラメント糸から得られたものである、請求項1に記載の縫い糸(10)。
【請求項3】
上記紡績糸は、全体的にまたは部分的に、牽切および/またはカットされているマルチフィラメント糸から得られたものである、請求項1または2に記載の縫い糸(10)。
【請求項4】
上記紡績糸は、全体的にまたは部分的に、繊維製品である平面構造物、不織布、織物、組み物、緯編の編物、経編の編物および/またはその組み合わせから、得られたものである、請求項1から3のいずれか1項に記載の縫い糸(10)。
【請求項5】
上記紡績糸は、長さが約10mmから約250mmまでの範囲である、フィラメントまたはフィラメント部分を含み、または、長さが約10mmから約250mmまでの範囲である、フィラメントまたはフィラメント部分からなる、請求項1から4のいずれか1項に記載の縫い糸(10)。
【請求項6】
被覆材料(30’)または含浸材料(40’)による被覆(30)および/または含浸(40)は、サイジングとして行われる、請求項1から5のいずれか1項に記載の縫い糸(10)。
【請求項7】
縫い糸(10)の製造方法であって、
上記縫い糸(10)は、ステープルファイバー(20)を含むかまたはステープルファイバー(20)からなるステープルファイバー材料からなる紡績糸として構成されるとともに、
上記縫い糸(10)は、カーボンファイバー材料を含むか、またはカーボンファイバー材料からなり、
上記ステープルファイバー(20)の一部または全体が、単繊維(20)として、単繊維(20)の群(25)として、またはその全部が、全体的にまた部分的に、1または複数の被覆材料(30’)、および/または含浸材料(40’)で被覆または含浸される、前記製造方法。
【請求項8】
上記紡績糸は、長さが約10mmから約250mmまでの範囲である、フィラメント(20)またはフィラメント部分(20)からなる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
縫い糸(10)を含んで、または縫い糸(10)から繊維製品である構造物が形成され、該繊維製品である構造物は、平面的な繊維製品として、または平面的な繊維製品の形で、織物、不織布、組み物、緯編の編物、経編の編物、および/または、これらの組み合わせとして、または織物、不織布、組み物、緯編の編物、経編の編物、および/または、これらの組み合わせの形で形成される、請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸または縫い糸、および糸または縫い糸の製造方法に関する。本発明は、特に、カーボンからなるステープルファイバー糸に類する縫い糸、およびその製造方法に関する。さらに、本発明はCF‐粗糸およびCF‐ステープルファイバー糸の物性の向上のための方策、特に、エラストマー、熱可塑性材料、および/または熱硬化性材料、例えばフェノール樹脂への埋め込みに使用するためのCF‐粗糸およびCF‐ステープルファイバー糸の物性向上の方策に関する。
【背景技術】
【0002】
糸および、特に縫い糸、すなわち縫製に採用および使用される糸の製造、加工、および使用において、しばしば、出発原料およびその物性によって、許容できない制限および他の面倒な状況が生じうる。
【0003】
これは、静的耐荷力および/または動的耐荷力、ならびに内部摩擦および外部摩擦とこれに関連して起こる現象、例えば内部摩擦および外部摩擦によって生じる糸または縫い糸の構造および物性自体への影響の局面、さらには、摩擦に関連する、砕片などによる糸または使用環境の汚染の局面に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、簡易かつ信頼性の高い方法で、およびとりわけ容易な加工性でもって、糸または縫い糸の可能な限り一定な物性プロフィールを担保することができる、糸、縫い糸、またはステープルファイバー糸一般、およびこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題は、縫い糸については、独立請求項1に係る発明の特徴により、糸および、特に、縫い糸については、独立請求項3に係る発明の特徴により、縫い糸の製造方法については、独立請求項11に係る発明の特徴により、さらに糸および、特に、縫い糸の製造方法については、独立請求項13に係る発明の特徴により解決される。有利なさらなる実施形態はそれぞれ従属請求項に規定される。
【0006】
上記発明の第1の局面では、糸および、特に、縫い糸が提供され、これはステープルファイバー糸またはこれに類する糸として‐特に、ステープルファイバーを含むかまたはステープルファイバーからなるステープルファイバー材料からなる紡績糸として‐構成され、および1または複数のカーボンファイバー材料を含むか、または1または複数のカーボンファイバー材料から構成されている。
【0007】
従って、本発明の第1の局面は、糸および、特に、縫い糸がステープルファイバー糸またはこれに類する糸に基づいて構成され、当該ステープルファイバー糸、および最終的には糸または縫い糸自体が、1または複数のカーボンファイバー材料を含んで、または1または複数のカーボンファイバー材料から、形成されている、または形成されることにより、特に一定した物性プロフィールを確立することである。
【0008】
カーボンファイバーは、物性プロフィールを、特に適切、且つ、一定の方法により調整可能であり、そのようなものとして、その機械的、熱的、化学的、および電気的性質の点で、多くの使用分野においてとりわけ有利であるため、化学的および物理学的プロセス工学、および多くの技術的な応用分野においてとりわけ有利であることが実証されている。
【0009】
代替的な態様では、本発明は、ステープルファイバー糸またはこれに類する糸として‐特に、ステープルファイバーを含むか、またはステープルファイバーからなるステープルファイバー材料からなる紡績糸として‐構成され、1または複数の繊維材料を含んで、または1または複数の繊維材料から構成され、および、上記1または複数の繊維材料の繊維の一部または全部が、単繊維として、単繊維の群として、またはその全部が、全体的にまた部分的に、1または複数の被覆材料、および/または含浸材料で被覆または含浸されている、糸および、特に、縫い糸を提供する。
【0010】
従って、上記代替的な局面でも、糸または、特に、縫い糸の構成において、ステープルファイバー糸またはそれに類するものを使用対象とし、ステープルファイバー糸またはこれに類するものおよびこれに伴い糸あるいは縫い糸自体が、1または複数の繊維材料を含み、または1または複数の繊維材料から、形成されているか、または形成される。まず、ここでは、繊維材料はカーボンファイバー材料に限定されるものではない。それに対して、特に静的耐荷力および/または動的耐荷力、および/または内部摩擦および外部摩擦に関し、物性プロフィールを向上および安定化するために、加えて、被覆材料または含浸材料により被覆および/または含浸されている、またはされることをめざす。被膜および/または含浸のためのそれぞれの材料の選択により、モノフィラメントの物性、モノフィラメント相互間の相互作用、およびこれに伴う最終製品、すなわち糸または縫い糸の特性は、繊維相互間の内部相互作用に関しても、繊維の束相互間、すなわち糸または縫い糸の部分相互間の外部相互作用に関しても、周囲との相互作用に関しても、有利に構成され、調整され、および一定に保たれる。
【0011】
本発明の上記2つの局面は、勿論相互に組み合わせることができる。
【0012】
このことは、一方では、縫い糸用のカーボンファイバー材料をベースとするステープルファイバー糸との関連においても、すなわちモノフィラメントまたはモノフィラメントの部分、それらの群、または全体の構造物、糸あるいは粗糸において、部分的または全体的な被覆および/または含浸が採用されうることを意味する。
【0013】
このことは、他方では、1または複数の繊維材料に基づく通常の糸あるいは縫い糸が、被覆および/または含浸との関連で、カーボンファイバー材料に基づいて構成されていてもよいことを意味する。
【0014】
上記ステープルファイバー糸は、全体的にまたは部分的にマルチフィラメント糸またはマルチフィラメント粗糸、特にマルチフィラメントカーボン粗糸から得られたものであるか、または得られてもよい。
【0015】
ここで、上記ステープルファイバー糸は、特に全体的にまたは部分的に牽切および/またはカットされているマルチフィラメント糸またはマルチフィラメント粗糸、特に牽切されたマルチフィラメントカーボン粗糸から得られたものであるか、または得られてもよい。
【0016】
さらに、上記ステープルファイバー糸は、全体的にまたは部分的に、繊維製品である平面構造物、すなわち不織布、特にカーボン不織布、織物、特にカーボン織物、および/またはその組み合わせから得られたものであるか、または得られてもよい。
【0017】
この場合、特にリサイクル材料の利用が挙げられる。
【0018】
さらに、上記ステープルファイバー糸は、約10mmから約250mmの範囲の長さを有する、フィラメントまたはフィラメント部分を含むか、またはフィラメントまたはフィラメント部分からなるものでもよい。
【0019】
従って、本発明の糸または縫い糸に用いられるステープルファイバー糸を、それに基づいてさらに発展させることができる種々の可能性がある。
【0020】
局面のすべては、勿論マルチフィラメント糸またはマルチフィラメント粗糸、およびこれらの改質、例えばこれらを、例えばエラストマー、熱可塑性材料、および/または熱硬化性材料、例えばフェノール樹脂からなる周囲のマトリックス材料に埋め込むことに使用することができる。そのとき、特に、含浸および/または被覆、例えばサイジングまたはこれと類似の方法は、静的耐荷力および/または動的耐荷力、内部摩擦および/または外部摩擦、ならびに/あるいはマトリックス材料の中への埋め込みおよびマトリックス材料との相互作用、およびこれらに伴う力、推力、および圧力の伝達の点で有利に働くため適切である。
【0021】
上記ステープルファイバー糸は、ガラス繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、玄武岩繊維、および/または、これらの組み合わせに基づくフィラメントまたはフィラメント部分を含むか、またはこれらから形成されているか、または形成される。特に、ハイブリッドとしてまたはハイブリッドの形で構成され、とりわけカーボンファイバー成分を、10%を超える範囲で含むことが好ましい。
【0022】
被覆材料および/または含浸材料による被覆および/または含浸は、サイジングにより、特にサイジングとして、形成されているか、または形成される。
【0023】
本発明の基本原理は、カーボンファイバーおよびステープルファイバー以外の、他の種類の繊維にも、特に被覆および/または含浸において、適用可能である。
【0024】
本発明のさらなる局面では、本発明の基本原理が相応する製造方法にも有利に用いられる。
【0025】
本発明は、一方では、糸または縫い糸が、ステープルファイバー糸としてまたはステープルファイバー糸に類する糸として‐特に、ステープルファイバーを含むかまたはステープルファイバーからなるステープルファイバー材料から構成された紡績糸として‐構成され、その糸または縫い糸が、1または複数のカーボンファイバー材料を含み、または1または複数のカーボンファイバー材料から構成されている、糸または縫い糸の製造方法をも提供する。
【0026】
上記の製造方法においては、1または複数のカーボンファイバー材料の繊維の一部またはそのすべてが、単繊維として、単繊維の群として、または繊維の全体で、全体的にまたは部分的に、1または複数の被覆材料および/または含浸材料により被覆または含浸されうる。
【0027】
本発明の他の局面では、糸または縫い糸が、ステープルファイバー糸としてまたステープルファイバー糸に類する糸として‐特に、ステープルファイバーを含みまたはステープルファイバーからなるステープルファイバー材料から構成された紡績糸として‐構成され、その縫い糸が、1または複数の繊維材料を含んで、または複数の繊維材料から構成され、1また複数の繊維材料の繊維の一部またはそのすべてが、単繊維として、単繊維の群として、または繊維の全体で、全体的にまたは部分的に、1または複数の被覆材料および/または含浸材料により被覆または含浸されうる、糸または縫い糸の製造方法が提供される。
【0028】
上記の製造方法においては、1または複数の繊維材料が、1または複数のカーボンファイバー材料を含んで、または1または複数のカーボンファイバー材料から、例えばハイブリッドの形で、製造されうる。
【0029】
上記ステープルファイバー糸は、製造方法としては、全体的にまたは部分的にマルチフィラメント糸またはマルチフィラメント粗糸、特に、マルチフィラメントカーボン粗糸から製造されうる。
【0030】
この場合、上記ステープルファイバー糸は、全体的にまたは部分的に、牽切および/またはカットされているマルチフィラメント糸またはマルチフィラメント粗糸、特に牽切および/またはカットされたマルチフィラメントカーボン粗糸により製造されうる。このとき、上記牽切の工程および/またはカットの工程は、特に上記製造方法に組み込まれていてもよい。
【0031】
上記ステープルファイバー糸は、他方では、全体的にまたは部分的に、繊維製品である平面構造物、すなわち不織布、特にカーボン不織布、織物、特にカーボン織物、および/またはその組み合わせから、例えばリサイクリング処理の枠組みにおいても、製造されうる。
【0032】
上記ステープルファイバー糸用のフィラメントまたはフィラメント部分は、長さが約10mmから約250mmまでの範囲でありうる。
【0033】
上記ステープルファイバー糸は、‐カーボンをベースにした材料の他に‐ガラス繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、玄武岩繊維、および/または、これらの組み合わせに基づくフィラメントまたはフィラメント部分を含むか、またはこれらから形成されうる。特に、ハイブリッドとしてまたはハイブリッドの形で構成され、とりわけカーボンファイバー成分を、10%以上を超える範囲で含むことが好ましい。
【0034】
製造方法としては、被覆材料および/または含浸材料による被覆および/または含浸が、サイジングにより、特にサイジングとして、行われてもよい。
【0035】
このおよびさらなる局面については、一例として、添付の図面に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1A‐Dは、本発明の糸または縫い糸の異なる実施形態を、模式的な横断面図により示す。
【
図2】
図2は、本発明に係る糸または縫い糸の製造方法の一実施形態を模式的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る糸または縫い糸の製造方法の実施形態の詳細局面を模式的に説明するブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る糸または縫い糸の製造方法の実施形態の詳細局面を模式的に説明するブロック図である。
【0037】
実施形態の詳細な説明
以下に、本発明の実施形態について説明する。本発明のすべての実施形態およびその技術的な特徴と性質とは、個々に分離され、または自由に選択されて相互に任意に編成されて制限無く組み合わされうる。
【0038】
構造的および/または機能的に同一、類似または同様の効果を奏する特徴または構成要素は、以下、図面との関連において、同一の符号により示される。すべての場合に、これらの特徴または構成要素の詳細な説明を繰り返すことは行わない。
【0039】
まず、図に基づいて説明する。
【0040】
本発明は、特に、カーボンからなるステープルファイバー糸、およびその製造、さらにCF‐粗糸およびCF‐ステープルファイバー糸の物性の向上、特にエラストマー、熱可塑性材料、および熱硬化性材料、例えばフェノール樹脂中において使用する場合の物性の向上のための方法および可能性に関する。
【0041】
このことは、工程において、結果として、最終製品に好ましくない影響を与えうる牽引力となる。負荷により、フィラメント20は損傷され、それに伴い機械的強度が低下しうる。さらに、例えば糸切れなどとの関連において、工程の障害が発生しうる。
【0042】
糸10の撚りにより表面積を拡大することができる。かかる撚りは糸の結合の保護に役立つ。しかしながら、その場合にも、加工は限定的にのみ可能である。上記フィラメント糸は、強度が非常に大きいが、伸びが小さい。これに対して、ステープルファイバー糸の製造により、すなわち限定された長さのステープルファイバー糸20から紡績糸10を製造することにより、より大きい伸びを示す糸10を製造することができる。
【0043】
牽切されたステープルファイバー糸の原料として、フィラメントの数が多いカーボン粗糸を使用することができる。これに対して、フィラメントの直径が6μm以下の1K‐粗糸の製造は非常に費用がかかる。
【0044】
カーボンファイバーは強度が大きいが、残念ながら、伸度は小さい。それ故に、カーボンファイバーの加工は、繊維製品の製造工程において、比較的遅く行われ、および比較的難しい。
【0045】
カーボンファイバー20、牽切された繊維20またはPanox20からなる糸10、さらに他の加工しにくい繊維のために、加工性を向上させる被覆を行うことも、特に本発明の目的の1つである。
【0046】
上記加工性の向上は、繊維の摩擦による砕片、糸切れの数、および加工速度などにより測定することができる。ここで、上記被覆により、その結果として縫製工程および編物製造工程においても加工性の向上が達成される。このように被覆された糸は、より効率よく織ることができ、結果としてより高い生産性が実現される。
【0047】
本発明の製造方法の一実施形態は、以下のステップを含む:
1. マルチフィラメント粗糸、例えば48Kを超える粗糸、あるいは繊維製品である平面構造物、例えばカーボン不織布またはカーボン織物を長さ10‐250mmのフィラメントに牽切および/またはカットする。
2. カードにおいて、ほどき、平行状態にする。
3. 練条機において、スライバーを製造する。
4. 場合によって、および使用すべき紡績方法に応じて、さらにフライヤー粗糸に加工する。
5. 例えばリング精紡機、ローター式精紡機、またはフリクション精紡機を用いて紡績により、糸を製造する。
6. 撚糸、例えば双糸を製造する。
7. 粘着性/滑り性の向上、静止摩擦の低減、運動摩擦の向上、熱的保護、さらに繊維摩擦特性の向上、および延びの向上のために、繊維助剤を用いて、任意のつや出し加工を行う。
【0048】
本発明における、表面処理の一実施形態は以下の局面に基づくことが可能である:
【0049】
繊維20および糸10の被覆のための、ガラス転移温度の低い伸縮性のサイズ剤の使用により、加工性が向上した好適な表面を得ることができる。
【0050】
とりわけ、加熱乾燥の工程において架橋する自己架橋型のカルボキシル化されたスチレン‐ブタジエン‐コポリマーを好適に用いることができる。
【0051】
平滑な表面の他に、特に繊維の電気的接続可能性は興味深い特性である。これにより、上記繊維は、コンベヤー装置の発熱導体、管、ベルトコンベヤー、加熱可能な平面構造物などとして、または、管、ベルトコンベヤー、加熱されうる平表面構造物などにおいて使用することができる。
【0052】
柔軟性により、繊維20の間に、滑らかな推力伝達、およびこれに伴い、束10全体または糸10全体に力の解放が担保される。
【0053】
これらの措置は、同様に、すべての種類の繊維、特に炭素繊維およびセラミック繊維の処理に適している。
【0054】
さらにこれによって、エラストマーマトリックスとのよい適合性が担保されうる。
【0055】
とりわけエラストマーおよび熱可塑性材料中における使用のための、CF‐粗糸およびCF‐ステープルファイバー糸の物性の向上において、特に砕片の低減および/または砕片の回避によるプロセス特性の向上が、とりわけ編むこと、縫うこと、織ること等により形成される構造において実現される。
【0056】
内部摩擦とも称される、モノフィラメント間の摩擦の回避は、熱可塑性材料または他の摩擦を低減する材料によるモノフィラメントまたはモノフィラメントの部分の部分的または全体的な被覆、含浸および/または包み込みにより可能である。これにより、特に動荷重下における、強度の向上が可能である。上記強度の向上は、使用に関して、例えばエレベーター用ロープ、駆動ベルト、コンベヤーベルトなどに適用することができる。
【0057】
さらには、被覆、含浸および/または包み込みにより、CF‐粗糸、CF‐ステープルファイバー糸、またはそれぞれのモノフィラメントの、例えばゴム、熱可塑性材料および/または熱硬化性材料からなるマトリックス構造への組み入れをも改善することができる。さらに、上記被覆、含浸および/または包み込みなどの方法により、力、推力、および/または圧力の伝達の向上を達成することもできる。
【0058】
本発明においては、加えて、エンドレス粗糸またはフィラメント糸に、熱可塑性繊維20および/または熱可塑性材料を組み入れる方法が含まれる。かかる方法は、加熱下で行うことができるので、このような実施形態においては、熱可塑性材料が溶けて、CF‐フィラメントを完全に組み入れることができる。完全な組み入れおよびフィラメント20またはフィラメントの部分20の保護は、相互の内部摩擦を低減し、従って製品の動的強度を向上することができる。
【0059】
繊維20、繊維の群25、または糸10の全体の含浸40および/または被覆30は、一方では砕片による塵の発生、さらに他方では、繊維20、繊維の群25、または糸10の全体への、発生した塵または存在する塵の付着を低減または回避することができる。
【0060】
次に、図について詳細に説明する。
【0061】
図1Aから1Dは、本発明に係る糸10または縫い糸10の異なる実施形態を、模式的な横断面図により説明する。
【0062】
図1Aの実施形態では、模式的な横断面図により、繊維材料20’からなる単独のフィラメント20または繊維20の群25または束25が示されている。上記繊維20の群25または束25は、群25または束25として、その紡績の工程の後、糸10および特に縫い糸10を形成する。
【0063】
ここで、本発明の重要な点は、本来の繊維20がステープルファイバーであること、すなわち有限の長さを有する繊維またはフィラメントの部分であることである。上記部分は、紡績の工程により、相互に紡いで糸にされているか、または紡いで糸にされる。ベースとなる繊維20またはフィラメント20の材料20’は、好ましくは炭素材料またはカーボン材料である。それ故に、フィラメント20または繊維20は、狭義または広義において、炭素繊維またはカーボンファイバーと称されてもよい。
【0064】
図1Bの実施形態では、単独の繊維またはフィラメント20は、その表面20a、すなわち繊維20またはフィラメント20の柱面20aにおいて、被覆材料30’により被覆30が行われている。
【0065】
図1Cの実施形態では、単独の繊維またはフィラメント20は、その表面20a、すなわち柱面20aを通って、含浸材料40’による含浸40が行われている。このことは、含浸材料40’が繊維20またはフィラメント20の表面20aに浸透するか、または浸透していることにより、表面改質を起こさせることを意味する。
【0066】
被覆30を示す
図1B、および含浸40を示す
図1Cの表現は、現実に予測される状況の極端な見方を表す。通常は、いかなる繊維20、またはフィラメント20においても、被覆材料30’または含浸材料40’を、表面20aに塗布すれば、両者を混ぜ合わせた現象が起こる。そのことは、塗布された材料30’、40’が、一方では被覆30、さらに他方では含浸40をも実現することまたは生じさせることを意味する。
【0067】
図1Dの実施形態では、複数の繊維20または繊維の部分20の、群25または束25が、埋め込み材料50’を含むか、または埋め込み材料50’からなる埋め込み層50に埋め込まれている。それ故に、繊維20または繊維の部分20は、もはや個別に、または単独では、それぞれの表面20aが現れることはない。
【0068】
勿論、
図1Bおよび1Cの実施形態に関して説明された局面は、埋め込み層50とも組み合わせることができる。その場合、例えば被覆30または含浸40により加工された繊維20または繊維の部分20が、群25として、全体的に埋め込み層50に埋め込まれる。
【0069】
図2は、模式的なフローチャートの形で、本発明に係る、糸10または縫い糸10の製造方法の一実施形態を示す。
【0070】
準備のステップS0の後、次のステップS1において、ステープルファイバーまたはステープルファイバー材料を用意する。
【0071】
中間加工のステップS2においては、用意されたステープルファイバー材料が、例えばステープルファイバーの特定の配列状態をほどき、または整えるために、あるいは表面処理などを行うために、任意的に中間加工される。当該中間加工のステップS2は任意のステップであって、本発明の製造方法の特定の実施形態においてのみ行われる。すなわち、本ステップは、本発明のすべての実施形態に必要とはされない。
【0072】
次に、糸10または縫い糸10の本来の製造のステップ、すなわち用意された、および、場合によって、中間加工または中間処理されたステープルファイバーの紡績工程S3が続く。
【0073】
その後、引き続いて後加工のステップが続いてもよい。当該ステップでは、得られた製品が粗糸として用いられ、例えば表面処理および/または埋め込み層50への埋め込みが行われる。
【0074】
最終ステップS5により工程は完結する。
【0075】
図3は、ステープルファイバーまたはステープルファイバー材料を用意するステップS1の部分局面を示す。
【0076】
上記図に表示されている実施形態では、まず、粗糸、例えばマルチフィラメント粗糸の意味における粗糸であって、好ましくは炭素繊維材料またはカーボンファイバー材料に基づき、しかし、場合によって他の繊維材料に基づく粗糸が、第1の部分ステップT1において用意される。
【0077】
次に、いわゆる牽切および/またはカットのプロセスT2が続く。上記T2では、粗糸のそれ自体エンドレスの長さを有するモノフィラメントが、多かれ少なかれ規定された方法で、繊維またはフィラメントの、部分または断片に分割されている。次いで、上記分割された材料は、さらなる加工工程の出発原料となる。
【0078】
上記分割された材料の代わりに、例えばすでに存在する繊維部分材料、例えばリサイクリング処理で得られた材料、および繊維材料の廃棄物を例えばフェルトの形で使用する材料を用いることができる。
【0079】
図4は、任意の中間加工のステップS2の部分局面を示す。
【0080】
図4の実施形態では、第1の部分ステップU1において、供給されたベースとなるステープルファイバー材料が、いわゆるカードを用いて、ほどかれおよび/または平行状態とされる。
【0081】
その後には、練条機において、スライバーを製造する第2の部分ステップU2が続く。
【0082】
次に、第3の部分ステップU3として、いわゆる粗糸またはフライヤー粗糸に加工する中間加工が続く。
【0083】
上述したように、糸10または縫い糸10の本来の製造は、ベースとなるステープルファイバー材料の紡績工程の枠組みにおいて、例えばリング精紡機、ローター式精紡機、またはフリクション精紡機を用いて、行われる。
【0084】
糸10または縫い糸10の物性の向上および、特に、安定性の向上のために、得られた糸を、粗糸として用いて、双糸などを製造するために、撚り工程に供してもよい。
【0085】
その前後において、被覆、サイジング、含浸、および/または埋め込みの意味での、つや出し加工を行ってもよい。
【0086】
以下の表は、本発明の実施形態に基づいて製造された糸10または縫い糸10の物性を示す。
【0087】
実施例1
【表1】
【0088】
実施例2
【表2】
【0089】
本発明の方法のさらなる展開において、繊維製品である構造物が、糸10または縫い糸10を含み、または糸10または縫い糸10から形成される。上記繊維製品である構造物は、特に織布プロセスにより、好ましくは平面的な繊維製品として、または平面的な繊維製品の形で、織物、不織布、組み物、
緯編の編物、経編の編物、および/または、これらの組み合わせとして、または織物、不織布、組み物、
緯編の編物、経編の編物、および/または、これらの組み合わせの形で形成される。