(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸化物層の一部が、0.5〜10nmの厚さを有し、互いに離間するように設けられる複数の薄厚部で構成され、残部が10nmより大きい厚さを有する肉厚部で構成されている請求項3又は4に記載のカーボンナノファイバ形成用構造体。
前記カーボンナノファイバ形成用構造体に、酸素分子を含有するガスを前記金属触媒とは反対側の面から供給してカーボンナノファイバを成長させることにより得られる請求項8に記載のカーボンナノファイバ構造体。
前記準備工程において、前記カーボンナノファイバ形成用構造体における前記穴が、前記基材の前記一面に開口部を形成し、前記基材の前記一面のうち前記開口部を除く領域上に前記金属触媒を形成することによって得られる、請求項14に記載のカーボンナノファイバ構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のカーボンナノチューブの製造方法では、カーボンナノチューブを十分に成長させることができなかった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カーボンナノチューブ等のカーボンナノファイバを十分に成長させることができるカーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体、及びカーボンナノファイバ構造体の製造方法並びにカーボンナノファイバ電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、上記特許文献1に記載の製造方法でカーボンナノチューブを十分に成長させることができない理由について以下のように考えた。すなわち、上記特許文献1に記載の製造方法では、カーボンナノチューブを成長させる際に酸化性ガスを使用するため、カーボンナノチューブが成長するにつれて酸化性ガスが徐々に触媒に届きにくくなる。その結果、触媒が徐々に失活してカーボンナノチューブを十分に成長させることができなくなるのではないかと本発明者は考えた。そこで、本発明者はさらに鋭意研究を重ねた結果、カーボンナノチューブを成長させる際、基材に酸素イオン伝導性酸化物を含ませることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、酸素イオン伝導性酸化物を含む基材と、前記基材の一面側に設けられる金属触媒と
、前記基材の前記一面と前記金属触媒との間に設けられ、金属酸化物からなる金属酸化物層とを備えるカーボンナノファイバ形成用構造体である。
【0011】
このカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上に化学気相成長法(以下、「CVD法」と呼ぶことがある)によりカーボンナノファイバを成長させる際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材は通常、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達する。その結果、カーボンナノファイバが成長しても、金属触媒に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒の失活を十分に抑制できる。このため、本発明のカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、カーボンナノファイバを十分に成長させることができる。
【0012】
またこのカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上にCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、基材を、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱すると、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達する。さらに、酸素分子を含有するガスを、基材のうち金属触媒とは反対側の面から供給すると、酸素分子を含有するガスに含まれる酸素分子が、基材を通して金属触媒に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、金属触媒における浸炭や炭素物質の堆積を十分に抑制することができ、カーボンナノファイバを十分に成長させることができる。加えて、基材中の酸素欠損が十分に抑制されるため、基材中の著しい酸素欠損による基材の強度の低下を抑制することもできる。
【0014】
またこのカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上にCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材は通常、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属酸化物層に到達する。このため、炭素を含有する原料ガスによって金属酸化物層に浸炭が起こったり、原料ガスの副次的な反応物によって金属酸化物層の表面に炭素物質が堆積したりしようとしても、金属酸化物層に到達した酸素イオンがこれらの炭素と反応し、CO
2等になることで、浸炭や、炭素物質の堆積を十分に抑制することができる。従って、金属酸化物層の触媒担持機能の低下を十分に抑制することが可能となり、カーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。
【0015】
またこのカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上にCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、基材を、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱すると、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属酸化物層に到達する。さらに酸素分子を含有するガスを、基材のうち金属酸化物層とは反対側の面から供給すると、酸素分子を含有するガスに含まれる酸素分子が、基材を通して金属酸化物層に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、金属酸化物層における浸炭や炭素物質の堆積を十分に抑制することができる。従って、金属酸化物層の触媒担持機能の低下をより十分に抑制することが可能となり、カーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。
【0016】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体においては、前記金属酸化物が酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0017】
この場合、金属酸化物が酸化アルミニウム以外の金属酸化物である場合に比べてより十分にカーボンナノファイバを成長させることができる。
【0018】
上記金属酸化物層をさらに備えるカーボンナノファイバ形成用構造体において、前記金属酸化物層の少なくとも一部の厚さが0.5〜10nmであることが好ましい。
【0019】
このカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上にCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、金属酸化物層のうち厚さが0.5〜10nmの部分に、カーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。
【0020】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体において、前記金属酸化物層の少なくとも一部の厚さが1〜8nmであることが好ましい。
【0021】
この場合、金属酸化物層の少なくとも一部の厚さが上記範囲を外れる場合に比べて、金属酸化物層のうち厚さが1〜8nmの部分に、カーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。
【0022】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体においては、前記金属酸化物層の一部が、0.5〜10nmの厚さを有し、互いに離間するように設けられる複数の薄厚部で構成され、残部が10nmより大きい厚さを有する肉厚部で構成されていてもよい。
【0023】
この場合、薄厚部では肉厚部よりもカーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。このため、複数の薄厚部の各々に設けられた金属触媒上において、肉厚部上に設けられた金属触媒上よりもカーボンナノファイバを突出させることが可能となる。この場合、複数の薄厚部の各々に設けられた金属触媒上で成長したカーボンナノファイバ同士の間には隙間が形成されるため、カーボンナノファイバの成長のために原料ガスを供給する際、原料ガスがその隙間に入り込むことが可能となる。このため、複数の薄厚部が寄り集まって1つになっている場合(複数の薄厚部が互いに離間していない場合)に比べて、原料ガスを複数の薄厚部の各々の上に設けられた金属触媒に対してより十分に供給することが可能となる。その結果、複数の薄厚部の各々におけるカーボンナノファイバの長さムラを十分に小さくすることができる。また、複数の薄厚部の各々においてカーボンナノファイバを1本引き出すとそれに他のカーボンナノファイバが直列に接続されて引き出される傾向がある。このため、複数の薄厚部の各々から引き出したカーボンナノファイバを撚り合わせることで、1本の高強度ファイバを容易に形成することが可能となる。
【0024】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体において、前記金属触媒が前記基材の一面上に直接設けられていることが好ましい。
【0025】
この場合、カーボンナノファイバ形成用構造体の金属触媒上にCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、基材中の酸素イオンが基材を伝導して金属触媒に到達しやすくなる。その結果、カーボンナノファイバが成長しても、金属触媒に対しより十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒の失活をより十分に抑制できる。このため、本発明のカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、カーボンナノファイバをより十分に成長させることができる。
【0026】
上記カーボンナノファイバ形成用構造体において、前記金属触媒は、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
この場合、カーボンナノファイバの生産性がより高くなる。すなわち、カーボンナノファイバをより効果的に成長させることができる。
【0028】
本発明は、上記カーボンナノファイバ形成用構造体に、CVD法により、炭素を含む原料ガスを供給してカーボンナノファイバを成長させることにより得られるカーボンナノファイバ構造体である。
【0029】
このカーボンナノファイバ構造体は、十分に成長したカーボンナノファイバを有するため、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極や電線を形成するのに有用である。
【0030】
また上記カーボンナノファイバ構造体は、前記カーボンナノファイバ形成用構造体に、酸素分子を含有するガスを、前記基材のうち、前記金属触媒とは反対側の面から供給してカーボンナノファイバを成長させることにより得られるカーボンナノファイバ構造体であることが好ましい。
【0031】
このカーボンナノファイバ構造体は、より十分に成長したカーボンナノファイバを有するため、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極や電線を形成するのに極めて有用である。
【0032】
さらに本発明は、
酸素イオン伝導性酸化物を含む基材、及び、前記基材の一面側に設けられる金属触媒を備えるカーボンナノファイバ形成用構造体と、前記カーボンナノファイバ形成用構造体の前記基材の前記一面側に前記一面との間に少なくとも前記金属触媒を介在させるように設けられ、前記一面から離れる方向に沿って配向する複数本のカーボンナノファイバを集合させてなるカーボンナノファイバ集合層とを備え、前記複数本のカーボンナノファイバに包囲されることによって0.3〜7μmの孔径を有する孔が形成されており、前記カーボンナノファイバ集合層において、前記孔の総面積が前記カーボンナノファイバ集合層のうち前記基材と反対側の端面の見かけの面積に対して1%以上40%未満である、カーボンナノファイバ構造体である。
【0033】
このカーボンナノファイバ構造体によれば、基材の一面側に設けられるカーボンナノファイバ集合層において、0.3〜7μmの孔径を有する孔が複数本のカーボンナノファイバに包囲されることによって適度に形成されている。このため、例えば当該カーボンナノファイバ構造体から、電解質を含む電気化学素子の電極を形成した場合に、電解質を、孔を通してカーボンナノファイバ集合層内部まで容易にかつ効果的に輸送させることが可能となる。従って、本発明のカーボンナノファイバ構造体は、電気化学素子に対して優れた電気化学性能を付与することが可能なカーボンナノファイバ電極を形成できる。また本発明のカーボンナノファイバ構造体は、複数本のカーボンナノファイバが集合してなるカーボンナノファイバ集合層を基材の一面側に有し、このカーボンナノファイバ集合層において、複数本のカーボンナノファイバに包囲されることによって孔が形成されている。すなわち、この孔は、カーボンナノファイバ集合層を分離するものとはなっていない。このため、カーボンナノファイバ集合層から、複数本のカーボンナノファイバを連続に結合してなるカーボン糸を引き出すと、より長いカーボン糸を得ることができる。
【0034】
上記カーボンナノファイバ構造体は、前記孔の前記孔径の最大値よりも前記カーボンナノファイバの長さが大きい場合に有用である。
【0035】
これは、カーボンナノファイバの配向方向に沿った長さが、孔の孔径の最大値よりも大きいほど、電気化学素子の電気化学性能を向上させるために、電解質をカーボンナノファイバ集合層の内部まで輸送させる必要性が高まるためである。
【0036】
上記カーボンナノファイバ構造体においては、前記孔が貫通孔であることが好ましい。この場合、本発明のカーボンナノファイバ構造体を電気化学素子の電極に適用した場合に、孔が貫通孔でない場合に比べて、電解質をより十分にカーボンナノファイバ集合層の内部まで輸送させることが可能となる。その結果、本発明のカーボンナノファイバ構造体は、電気化学素子に対してより優れた電気化学性能を付与することが可能となる。
【0037】
また本発明は、上述したカーボンナノファイバ構造体の前記カーボンナノファイバ集合層を導電性基板に転写することにより得られるカーボンナノファイバ電極である。
【0038】
このカーボンナノファイバ電極によれば、当該カーボンナノファイバ電極を、電解質を含む電気化学素子の電極として使用した場合に、電解質を、孔を通してカーボンナノファイバ集合層内部まで容易にかつ効果的に輸送させることが可能となる。従って、本発明のカーボンナノファイバ電極は、電気化学素子の電極に適用した場合に、電気化学素子に対して優れた電気化学性能を付与することが可能となる。
【0045】
また本発明は、
酸素イオン伝導性酸化物を含む基材、及び、前記基材の一面側に設けられる金属触媒を備えるカーボンナノファイバ形成用構造体を準備する準備工程と、前記カーボンナノファイバ形成用構造体の前記金属触媒の上に、CVD法により、炭素を含む原料ガスを前記金属触媒に供給し、前記基材の一面から離れる方向に沿って複数本のカーボンナノファイバを配向させて、前記複数本のカーボンナノファイバを集合させてなるカーボンナノファイバ集合層を有するカーボンナノファイバ構造体を形成するカーボンナノファイバ成長工程とを含み、前記カーボンナノファイバ形成用構造体のうち前記金属触媒側に形成され、0.3〜7μmの穴径を有する穴の総面積が、前記金属触媒を設けた触媒担持面の面積に対して1%以上40%未満で形成されている、カーボンナノファイバ構造体の製造方法である。
【0046】
この製造方法によれば、カーボンナノファイバ成長工程においてCVD法によりカーボンナノファイバを成長させる際、炭素を含有する原料ガスが金属触媒に供給される。このとき、原料ガスが金属触媒中に拡散して金属触媒の表面からカーボンナノファイバが析出する。金属触媒の活性が維持されている間は、この拡散と析出が連続で起きてカーボンナノファイバが成長する。このとき、一般には、カーボンナノチューブが成長するにつれて、基材の一面側に設けられた金属触媒上に成長するカーボンナノファイバがガスの拡散を阻害し、金属触媒へのガス供給を困難にする。その結果、金属触媒のうち、原料ガスに対して露出している露出部分と、カーボンナノファイバによって被覆された被覆部分とでは原料ガスの供給量に差が生じる。すなわち金属触媒に対するガス供給量の点で不均一が生じる。このため、露出部分と被覆部分とでカーボンナノファイバの成長速度に差が生じる。このことは、カーボンナノファイバ集合層の体積が大型化するにつれて顕著になる。
【0047】
その点、本発明の製造方法では、カーボンナノファイバ形成用構造体のうち金属触媒側に形成され、0.3〜7μmの穴径を有する穴の総面積が、金属触媒を設けた触媒担持面の面積に対して1%以上40%未満の面積比率で形成されている。その結果、以下の作用効果が奏される。
【0048】
すなわち、まずカーボンナノファイバは金属触媒上で基材の一面から離れる方向に向かって成長する。別言すると、カーボンナノファイバは、基材の一面のうち金属触媒が形成されていない領域を除く領域上に、基材の一面から離れる方向に向かって成長する。こうして、成長する複数本のカーボンナノファイバを集合させてなるカーボンナノファイバ集合層が形成される。このとき、複数本のカーボンナノファイバに包囲されることによって孔径0.3〜7μmの孔が、カーボンナノファイバ形成用構造体のうち金属触媒側に形成された穴の面積比率と同じ面積比率で形成される。すなわち、カーボンナノファイバ集合層において0.3〜7μmの孔径を有する孔の総面積が、カーボンナノファイバ集合層のうち基材と反対側の端面の見かけの面積に対して1%以上40%未満で形成される。そして、原料ガスは、上記孔を通ってカーボンナノファイバ集合層の内部に拡散することが可能となり、金属触媒に到達しやすくなる。その結果、金属触媒のうち、露出部分と被覆部分とで原料ガスの供給量の差を小さくすることが可能となり、両部分でカーボンナノファイバの成長速度の差を小さくすることが可能となる。
【0049】
こうしてカーボンナノファイバを成長させると、カーボンナノファイバが長尺状に成長しても、カーボンナノファイバが湾曲することを十分に抑制することが可能となる。また成長する複数のカーボンナノファイバ同士が互いの成長を阻害することも十分に抑制されるため、カーボンナノファイバの生産性を十分に向上させることができる。
【0050】
さらに、本発明の製造方法によって得られるカーボンナノファイバ構造体は、基材の一面側に設けられるカーボンナノファイバ集合層において、0.3〜7μmの孔径を有する孔が複数本のカーボンナノファイバに包囲されることによって適度に形成されることになる。このため、例えば当該カーボンナノファイバ構造体から、電解質を含む電気化学素子の電極を形成した場合に、電解質を、孔を通してカーボンナノファイバ集合層内部まで容易にかつ効果的に輸送させることが可能となる。従って、本発明の製造方法により得られるカーボンナノファイバ構造体は、電気化学素子に対して優れた電気化学性能を付与することが可能なカーボンナノファイバ電極を形成できる。
【0051】
さらに本発明の製造方法によって得られるカーボンナノファイバ構造体は、複数本のカーボンナノファイバが集合してなるカーボンナノファイバ集合層を基材の一面側に有し、このカーボンナノファイバ集合層において、複数本のカーボンナノファイバに包囲されることによって孔が形成されている。すなわち、この孔は、カーボンナノファイバ集合層を分離するものとはなっていない。このため、カーボンナノファイバ集合層から、複数本のカーボンナノファイバを連続に結合してなるカーボン糸を引き出すと、より長いカーボン糸を得ることができる。
【0052】
上記カーボンナノファイバ構造体の製造方法においては、前記準備工程において、前記カーボンナノファイバ形成用構造体における前記穴が、前記基材の前記一面に開口部を形成し、前記基材の前記一面のうち前記開口部を除く領域上に前記金属触媒を形成することによって得られてもよい。
【0053】
なお、本発明において、「カーボンナノファイバ」とは、カーボンで構成され、太さが50nm以下である中空状又は中実状のものを言う。ここで、「太さ」とは、カーボンナノファイバの端面のうち基材とは反対側の端面の外周上の2点を結ぶ線の長さが最大となる線の長さを言うものとする。
【0054】
また本発明において、「孔径」又は「穴径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で孔又は穴を観察したときのその孔又は穴の2次元画像の面積Sを求め、その面積Sを円の面積に等しいと考え、その面積から下記式:
R=2×(S/π)
1/2
に基づいて算出したRの値を言うものとする。
【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、カーボンナノファイバを十分に成長させることができるカーボンナノファイバ形成用構造体、カーボンナノファイバ構造体及びその製造方法並びにカーボンナノファイバ電極が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0058】
<第1実施形態>
まず本発明のカーボンナノファイバ構造体の第1実施形態について
図1および
図2を参照して説明する。
図1は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第1実施形態を示す断面図、
図2は、
図1のカーボンナノファイバ形成用構造体を示す断面図である。
図1に示すように、カーボンナノファイバ構造体100は、カーボンナノファイバ形成用構造体40と、カーボンナノファイバ形成用構造体40の上に設けられるカーボンナノファイバ50とを備えている。
図1および
図2に示すように、カーボンナノファイバ形成用構造体40は、基材10と、基材10の一面10a上に全面にわたって設けられ、金属酸化物からなる金属酸化物層20と、金属酸化物層20の一面20aに担持され、カーボンナノファイバ50を形成する際に触媒として作用する金属触媒30とを備えており、カーボンナノファイバ50は、金属触媒30から基材10と反対方向Bに向かって延びている。基材10は酸素イオン伝導性酸化物を含む。
【0059】
<製造方法の第1態様>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第1態様について説明する。
【0060】
カーボンナノファイバ構造体100の製造方法は、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30の上に、CVD法によりカーボンナノファイバ50を成長させてカーボンナノファイバ構造体100を得るカーボンナノファイバ成長工程を含む。カーボンナノファイバ成長工程は、炭素を含有する原料ガスを供給して行われる。第1態様では、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30に、酸素を含有するガスは供給されない。
【0061】
この場合でも、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30上にCVD法によりカーボンナノファイバ50を形成する際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材10が、酸素イオンが移動できる程度に加熱される。このため、基材10中の酸素イオンが基材10および金属酸化物層20を伝導して金属触媒30に到達する。その結果、カーボンナノファイバ50が成長しても、金属触媒30に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒30の失活を十分に抑制できる。また基材10中の酸素イオンは、基材10を伝導して金属酸化物層20にも到達する。このため、炭素を含有する原料ガスによって金属酸化物層20に浸炭が起こったり、原料ガスの副次的な反応物によって金属酸化物層20の表面に炭素物質が堆積したりしようとしても、金属酸化物層20に到達した酸素イオンがこれらの炭素と反応し、CO
2等になることで、浸炭や、炭素物質の堆積を十分に抑制することができる。従って、金属酸化物層20の触媒担持機能の低下を十分に抑制することが可能となる。
【0062】
以上のことから、カーボンナノファイバ形成用構造体40を用いると、カーボンナノファイバ50を十分に成長させることができる。
【0063】
以下、上述したカーボンナノファイバ構造体100の製造方法について詳細に説明する。
【0064】
まずカーボンナノファイバ形成用構造体40を準備する。カーボンナノファイバ形成用構造体40は以下のようにして製造される。
【0065】
(基材準備工程)
はじめに基材10を準備する(
図3参照)。
【0066】
基材10としては、酸素イオン伝導性酸化物を含むものが用いられる。酸素イオン伝導性酸化物は、酸素イオンを伝導させることができる酸化物であればよいが、CVD法では通常、基材10が500℃以上の高温に加熱される。このため、酸素イオン伝導性酸化物は、500℃以上の高温で酸素イオンを伝導することが可能な高温酸素イオン伝導性酸化物であることが好ましい。高温酸素イオン伝導性酸化物としては、例えばジルコニアを酸化物によって安定化させてなる安定化ジルコニアが使用可能である。ジルコニア等の高温酸素イオン伝導性酸化物の全部または一部を安定化する酸化物としては、例えばスカンジア、イットリア、ランタニア、セリア、カルシア及びマグネシアなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの酸化物は、高温酸素イオン伝導性酸化物中に2〜13モル%の範囲の濃度で含有されていることが好ましい。また、高温酸素イオン伝導性酸化物としては、酸素欠陥を有するペロブスカイト型酸化物も使用可能である。ペロブスカイト型酸化物としては、例えばチタン酸ストロンチウムおよび鉄酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
基材10の厚さは通常は100〜10000μmであるが、500〜5000μmであることが好ましい。この場合、500〜5000μmの範囲を外れた場合に比べて、基材10に、より十分な強度が備わり、酸素イオンの伝導制御がしやすくなる。
【0068】
(金属酸化物層形成工程)
次に、基材10の一面10aの上に金属酸化物層20を形成する(
図4参照)。金属酸化物層20は金属酸化物からなる。金属酸化物は、金属の酸化物であればよいが、II族又はIII族の金属の酸化物であることが、還元雰囲気下での熱力学安定性の点から好ましい。中でも、III族の金属の酸化物であることが触媒担持機能の点からより好ましい。III族の金属の酸化物としては、例えば酸化アルミニウム、アルミン酸マグネシウムおよび酸化セリウムなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、酸化アルミニウムが最も好ましい。この場合、金属酸化物が酸化アルミニウム以外の金属酸化物である場合に比べてより十分にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0069】
金属酸化物層20の厚さは通常は0.1〜100nmであるが、0.5〜10nmであることが好ましい。この場合、金属酸化物層20の厚さが上記範囲を外れる場合に比べてカーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。
【0070】
金属酸化物層20の厚さは1〜8nmであることがより好ましい。この場合、金属酸化物層20の厚さが1〜8nmの範囲を外れる場合に比べてカーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。
【0071】
金属酸化物層20は、例えばスパッタリング法によって形成することができる。このとき、ターゲットは金属単体でも金属酸化物でもどちらでも良いが、ターゲットの種類によって適切な濃度の酸素ガスを供給する必要がある。このとき、基材10の温度は、基材10と金属酸化物層20との密着性を向上させるという理由から、20〜300℃とすることが好ましい。
【0072】
(触媒担持工程)
次に、金属酸化物層20の一面20a上に金属触媒30を担持させる(
図2参照)。金属触媒30は、例えば金属酸化物層20の一面20a上にスパッタリング法によって形成した金属触媒膜を還元雰囲気下で加熱することによって形成することができる。
【0073】
金属触媒30としては、カーボンナノファイバ50を成長させるのに使用される公知の金属触媒が使用可能である。このような金属触媒30としては、例えばV、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、W、Al、AuおよびTiなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能である。中でも、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができることから、V、Mo、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、Ru、W又はこれらの2種以上の組合せが好ましい。
【0074】
金属触媒30の形状は特に限定されるものではないが、通常は粒子状である。粒子状の金属触媒30の平均粒径は通常は1〜50nmであるが、2〜25nmであることが好ましい。この場合、金属触媒30の平均粒径が2〜25nmの範囲を外れた場合に比べてカーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。
【0075】
こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体40が得られる。
【0076】
(カーボンナノファイバ成長工程)
次に、CVD法により、炭素を含む原料ガスを用いてカーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30の上にカーボンナノファイバ50を成長させる。
【0077】
ここで、炭素を含有する原料ガスは、適当な触媒の存在下で、カーボンナノファイバ50を生じさせるものであればいかなるものでも良い。このような原料ガスとしては、例えば、メタン、エタン、プロパンなどの飽和炭化水素化合物、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素化合物などが挙げられる。これらのうち、メタン、エチレン、プロピレン、アセチレンが好ましい。原料ガス(炭素含有化合物)は、ガス状のまま導入しても良いし、アルゴンのような不活性ガスと混合して導入しても良いし、水素ガスと混合して導入しても良いし、あるいは不活性ガス中の飽和蒸気として導入しても良い。
【0078】
またCVD法においては、エネルギー源として、熱又はプラズマ等が用いられる。
【0079】
このとき、カーボンナノファイバ50を成長させる際の雰囲気の圧力は通常、100〜150000Paであり、好ましくは1000〜122000Paである。またカーボンナノファイバ50を成長させる際の雰囲気の温度は通常、500〜900℃であり、好ましくは550〜800℃である。
【0080】
また既に述べたように、第1態様の製造方法では、基材10の中の酸素イオンが金属酸化物層20および金属触媒30へ供給される。このため、第1態様の製造方法では、
図5に示すように、基材10のうち金属酸化物層20が設けられた一面10aを除いた面10Rにはこれを覆うコーティング11が施されることが好ましい。これは、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることが、コーティング11によってより十分に抑制され、酸素イオンの放出面が一面10aに限定され、金属酸化物層20および金属触媒30に効果的に酸素イオンが供給されるためである。このため、基材10のうち金属酸化物層20が設けられた一面10aを除いた面10Rにコーティング11が施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から放出されないことで、カーボンナノファイバ50の品質に悪影響が出ることも十分に抑制される。さらに、長時間にわたってカーボンナノファイバ50を成長させる際に、過度の酸素ガス放出による酸素欠損によって、基材10の端部の強度が低下することを防止することができる。このため、長時間にわたるカーボンナノファイバ50の成長を安定的に行うことができるようになる。
【0081】
コーティング11を構成するコーティング材料は、酸素イオンを実質的に伝導しない材料であればよく、このようなコーティング材料としては、例えばガラス、チタニア及び金属が挙げられる。
【0082】
こうしてカーボンナノファイバ構造体100が得られる。
【0083】
こうして得られるカーボンナノファイバ構造体100は、十分に成長したカーボンナノファイバ50を有している。このため、カーボンナノファイバ構造体100を用いて形成したカーボンナノファイバ電極は、色素増感太陽電池、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ、燃料電池などの電極として有用である。なお、
図6に示すように、カーボンナノファイバ電極160は通常、電極用の基板170に、カーボンナノファイバ構造体100のカーボンナノファイバ50を転写することにより得ることができる。電極用の基板170へのカーボンナノファイバ50の転写は、例えば、電極用基板170とカーボンナノファイバ構造体100のカーボンナノファイバ50との間に、導電性粘着フィルム171を挟んで圧着するようにして行えばよい。電極用の基板170は、電極の用途により異なる。例えばカーボンナノファイバ電極を色素増感太陽電池に使用する場合には、電極用の基板170は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン等の耐食性の金属材料や、ガラス基板にITO、FTO等の導電性酸化物を形成したもので構成される。
【0084】
<製造方法の第2態様>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第2態様について説明する。
【0085】
第2態様の製造方法は、カーボンナノファイバ50を成長させる際に、酸素を含有するガスを基材10のうち金属酸化物層20が設けられている一面10a側から供給する点で第1態様の製造方法と相違する。
【0086】
この場合でも、第1態様と同様に、カーボンナノファイバ形成用構造体40の金属触媒30上にCVD法によりカーボンナノファイバ50を形成する際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材10が、酸素イオンが移動できる程度に加熱されるため、基材10中の酸素イオンが基材10および金属酸化物層20を伝導して金属触媒30に到達する。その結果、カーボンナノファイバ50が成長しても、金属触媒30に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒30の失活を十分に抑制できる。また基材10中の酸素イオンは、基材10を伝導して金属酸化物層20にも到達する。このため、炭素を含有する原料ガスによって金属酸化物層20に浸炭が起こったり、原料ガスの副次的な反応物によって金属酸化物層20の表面に炭素物質が堆積したりしようとしても、金属酸化物層20に到達した酸素イオンがこれらの炭素と反応し、CO
2等になることで、浸炭や、炭素物質の堆積を抑制することができる。さらに酸素を含有するガスを基材10のうち金属酸化物層20が設けられている一面10a側から供給することで、より効果的に浸炭や炭素物質の堆積を抑制することが可能となる。
【0087】
ここで、酸素を含有する酸素含有ガスは、適当な温度で、金属酸化物層20および金属触媒30へ酸素を供給できるものであればいかなるものでも良く、このような酸素含有ガスとしては、例えば、純酸素ガス、大気などの酸素分子含有ガスが挙げられる。あるいは、酸素含有ガスとして、水や、一酸化炭素や、メタノール、エタノール、アセトンなどの含酸素炭化水素化合物からなる酸素分子非含有ガスを用いることもできる。これらのうち、含酸素炭化水素化合物は、原料ガスを兼ねることができる。
【0088】
該酸素含有ガスは、それ単独で供給しても良いし、アルゴンのような不活性ガスと混合して供給しても良いし、あるいは不活性ガス中の飽和蒸気として供給しても良い。なお、カーボンナノファイバ50を形成する際の酸素含有ガスを供給した雰囲気中の酸素濃度は酸素分子濃度に換算して、好ましくは0.003〜0.03体積%である。酸素分子濃度が上記範囲内にあると、上記範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0089】
なお、本態様においても基材10の中の酸素イオンが金属酸化物層20および金属触媒30へ供給される。このため、基材10のうち金属酸化物層20および金属触媒30が設けられた一面10aを除いた面10Rにはこれを覆うコーティング11が施されることが好ましい。これは、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることが、コーティング11によってより十分に抑制され、酸素イオンの放出面が一面10aに限定され、金属酸化物層20および金属触媒30に効果的に酸素イオンが供給されるためである。このため、基材10のうち金属酸化物層20および金属触媒30が設けられた一面10aを除いた面10Rにコーティング11が施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から余剰に放出されることで、カーボンナノファイバ50の成長に最適な条件から酸素濃度が逸脱し、成長に悪影響が出ることも十分に抑制される。さらに、長時間にわたってカーボンナノファイバ50を成長させる際に、過度の酸素ガス放出による酸素欠損によって、基材10の端部の強度が低下することを防止することができる。このため、長時間にわたるカーボンナノファイバ50の成長を安定的に行うことができるようになる。
【0090】
<製造方法の第3態様>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第3態様について説明する。
【0091】
第3態様の製造方法は、カーボンナノファイバ50を成長させる際に、酸素分子を含有する酸素分子含有ガスを、基材10のうち金属酸化物層20とは反対側の面10b側から供給する点で第1態様の製造方法と相違する。
【0092】
酸素分子含有ガスを金属酸化物層20とは反対側の面10bから適宜供給することで、酸素分子含有ガスに含まれる酸素分子が、基材10を通して金属酸化物層20に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、金属酸化物層20への酸素イオン供給量を制御することができ、金属酸化物層20の触媒担持機能の低下をより抑制することが可能となり、カーボンナノファイバ50をより十分に成長させることができる。加えて、基材10中の酸素欠損が十分に抑制されるため、基材10中の著しい酸素欠損による基材強度の低下を防止することもできる。
【0093】
特に第3態様では、
図7に示すように、筒状体60の一端側の開口をカーボンナノファイバ形成用構造体40の基材10の面10bで塞いだ状態で、基材10の面10bに向かって、すなわち
図7の矢印A方向に向かって酸素分子含有ガスを供給することが好ましい。このとき、酸素分子含有ガスが筒状体60とカーボンナノファイバ形成用構造体40との継ぎ目から漏れないようにする。この場合、基材10に供給した原料ガスが筒状体60の内部に混入して酸素分子含有ガスと反応して酸素分子濃度が変化することを十分に抑制し、筒状体60の内部に供給した酸素分子含有ガスを、安定的に基材10の面10bに向かって供給することができる。さらに、基材10のうち面10b側で酸素分子含有ガスを使用し、基材10のうち一面10a側で酸素含有ガスを使用していない。このため、基材10のうち一面10a側のカーボンナノファイバ50が酸素含有ガスによって酸化されることが十分に抑制され、カーボンナノファイバ50の導電性の低下や強度の低下を十分に抑制することができる。すなわち、カーボンナノファイバ50の品質の低下をより十分に抑制することができる。
【0094】
また第3態様の製造方法においても基材10の中の酸素イオンが金属酸化物層20および金属触媒30へ供給される。このため、
図8に示すように、基材10のうち、金属酸化物層20および金属触媒30が設けられた一面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面10Pには、コーティング12が施されていることが好ましい。
【0095】
この場合、基材10において表面に到達した酸素イオンが酸素ガスとなって基材10から放出されることがコーティング12によって十分に抑制され、酸素イオンの放出面が一面10aに限定され、金属酸化物層20に効果的に酸素イオンが供給される。このため、基材10のうち金属酸化物層20が設けられた一面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面にコーティング12が施されていない場合に比べて、カーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。また酸素ガスが基材10から放出されないことで、カーボンナノファイバ50の品質に悪影響が出ることも十分に抑制される。コーティング12を構成するコーティング材料としては、第1態様で述べたコーティング11を構成するコーティング材料と同様のものを用いることができる。
【0096】
なお、酸素分子含有ガス中の酸素分子濃度は好ましくは0.01〜5体積%であり、より好ましくは0.1〜2.5体積%である。酸素分子濃度が0.01〜5体積%の範囲内にあると、上記範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0097】
<製造方法の第4態様>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第4態様について説明する。
【0098】
第4態様の製造方法は、酸素分子を含有する酸素分子含有ガスを、基材10のうち金属酸化物層20および金属触媒30とは反対側の面10b側から供給する点で第2態様の製造方法と相違する。
【0099】
酸素分子含有ガスを、基材10のうち金属酸化物層20および金属触媒30とは反対側の面10bから適宜供給することで、酸素分子含有ガスに含まれる酸素分子が、基材10を通して金属酸化物層20および金属触媒30に、酸素イオンとしてより効果的に供給される。このため、金属酸化物層20への酸素イオン供給量を制御することができ、金属酸化物層20の触媒担持機能の低下をより抑制することが可能となり、カーボンナノファイバ50をより十分に成長させることができる。加えて、基材10中の著しい酸素欠損による基材10の強度の低下を防止することもできる。さらに酸素を含有するガスを基材10のうち金属酸化物層20および金属触媒30が設けられている一面10a側から供給することで、より効果的に金属酸化物層20における浸炭や炭素物質の堆積を抑制することが可能となり、カーボンナノファイバ50をより十分に成長させることができる。
【0100】
特に第4態様では、第3態様と同様、
図7に示すように、筒状体60の一端側の開口をカーボンナノファイバ形成用構造体40の基材10の面10bで塞いだ状態で、基材10の面10bに向かって酸素分子含有ガスを供給することが好ましい。このとき、酸素分子含有ガスが筒状体60とカーボンナノファイバ形成用構造体40との継ぎ目から漏れないようにする。この場合、基材10に供給した原料ガスが筒状体60の内部に漏れることで酸素分子含有ガスと反応して酸素分子濃度が変化することを十分に抑制し、筒状体60の内部に供給した酸素分子含有ガスを、安定的に基材10の面10bに向かって供給することができる。さらに、基材10のうち面10b側で酸素分子含有ガスを使用し、基材10のうち一面10a側で酸素含有ガスを使用している。このため、酸素分子含有ガスに含まれる酸素ガスが継ぎ目から余剰に放出されることで、基材10のうち一面10a側のカーボンナノファイバ50の成長に最適な条件から酸素濃度が逸脱し、成長に悪影響が出ることも十分に抑制される。
【0101】
また第4態様の製造方法においても基材10の中の酸素イオンが金属酸化物層20および金属触媒30へ供給される。このため、第3態様で述べた理由と同様の理由から、金属酸化物層20および金属触媒30が設けられた一面10aと酸素分子含有ガスを供給する面10bを除いた面10Pには、コーティング12が施されていることが好ましい。
【0102】
なお、面10b側の酸素分子含有ガス中の酸素分子濃度は好ましくは0.01〜5体積%であり、より好ましくは0.1〜2.5体積%である。酸素分子濃度が0.01〜5体積%の範囲内にあると、その範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。また、一面10a側の酸素含有ガスの酸素濃度は酸素分子濃度に換算して、好ましくは0.003〜0.03体積%であり、より好ましくは0.01〜0.02体積%である。酸素濃度が0.003〜0.03体積%の範囲内にあると、その範囲を外れた場合に比べて、より効果的にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0103】
<第2実施形態>
次に、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第2実施形態について
図9を参照して説明する。
図9は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第2実施形態を示す部分断面図である。
【0104】
図9に示すように、本実施形態のカーボンナノファイバ構造体200は、カーボンナノファイバ形成用構造体として、金属酸化物層20の一部が、0.5〜10nmの厚さを有し、互いに離間するように設けられる複数の薄厚部20Aで構成され、残部が10nmより大きい厚さを有する肉厚部20Bで構成されるカーボンナノファイバ形成用構造体240を有する点で第1実施形態のカーボンナノファイバ構造体100と相違する。
【0105】
この場合、薄厚部20Aでは、肉厚部20Bよりも、カーボンナノファイバ集合層201をより十分に成長させることができる。このため、複数の薄厚部20Aの各々に設けられた金属触媒30上において、肉厚部20B上に設けられた金属触媒30上よりもカーボンナノファイバ集合層201を突出させることが可能となる。この場合、複数の薄厚部20Aの各々に設けられた金属触媒30上で成長したカーボンナノファイバ集合層201同士の間には隙間Gが形成されるため、カーボンナノファイバ集合層201の成長のために原料ガスを供給する際、原料ガスがその隙間Gに入り込むことが可能となる。このため、複数の薄厚部20Aが寄り集まって1つになっている場合(複数の薄厚部20Aが離間していない場合)に比べて、原料ガスを複数の薄厚部20Aの各々の上に設けられた金属触媒30に対してより十分に供給することが可能となる。その結果、複数の薄厚部20Aの各々におけるカーボンナノファイバ集合層201を構成するカーボンナノファイバの長さムラを十分に小さくすることができる。また、複数の薄厚部20Aの各々においてカーボンナノファイバ集合層201を構成するカーボンナノファイバを1本引き出すと、その引き出されたカーボンナノファイバに他のカーボンナノファイバが直列に接続されて引き出される傾向がある。このため、複数の薄厚部20Aの各々から引き出したカーボンナノファイバを撚り合わせることで、1本の高強度ファイバを容易に形成することが可能となる。
【0106】
<第3実施形態>
次に、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第3実施形態について
図10および
図11を参照して説明する。
図10は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第3実施形態を示す断面図、
図11は、
図10のカーボンナノファイバ形成用構造体を示す断面図である。
図10に示すように、本実施形態のカーボンナノファイバ構造体300は、カーボンナノファイバ形成用構造体340と、カーボンナノファイバ形成用構造体340の上に設けられるカーボンナノファイバ50とを備えている。
図11に示すように、カーボンナノファイバ形成用構造体340は、基材10と、基材10の一面10a上に担持され、カーボンナノファイバ50を形成する際に触媒として作用する金属触媒30とを備えており、カーボンナノファイバ50は、金属触媒30から基材10と反対方向Bに向かって延びている。基材10は酸素イオン伝導性酸化物を含む。
【0107】
すなわち、本実施形態のカーボンナノファイバ構造体300におけるカーボンナノファイバ形成用構造体340は、金属触媒30が基材10の一面10a上に直接設けられている点で第1実施形態のカーボンナノファイバ形成用構造体40と相違する。言い換えると、本実施形態のカーボンナノファイバ構造体300におけるカーボンナノファイバ形成用構造体340は、金属触媒30と基材10の一面10aとの間に金属酸化物層20を有していない点で第1実施形態のカーボンナノファイバ形成用構造体40と相違する。
【0108】
<製造方法の第1態様>
次に、カーボンナノファイバ構造体300の製造方法の第1態様について説明する。
【0109】
カーボンナノファイバ構造体300の製造方法は、カーボンナノファイバ形成用構造体340の金属触媒30の上に、CVD法によりカーボンナノファイバ50を成長させてカーボンナノファイバ構造体300を得るカーボンナノファイバ成長工程を含む。カーボンナノファイバ成長工程は、炭素を含有する原料ガスを供給して行われる。本態様では、カーボンナノファイバ形成用構造体340の金属触媒30に、酸素を含有するガスは供給されない。
【0110】
この場合でも、カーボンナノファイバ形成用構造体340の金属触媒30上にCVD法によりカーボンナノファイバ50を形成する際、炭素を含有する原料ガスが使用される。このとき、基材10が、酸素イオンが移動できる程度の温度に加熱されるため、基材10中の酸素イオンが基材10を伝導して金属触媒30に到達する。その結果、カーボンナノファイバ50が成長しても、金属触媒30に十分な酸素を供給することが可能となり、金属触媒30の失活を十分に抑制できるため、カーボンナノファイバ50を十分に成長させることができる。
【0111】
以下、上述したカーボンナノファイバ構造体300の製造方法について詳細に説明する。
【0112】
まずカーボンナノファイバ形成用構造体340を準備する。カーボンナノファイバ形成用構造体340は以下のようにして製造される。
【0113】
(基材準備工程)
はじめに基材10を準備する(
図3参照)。
【0114】
(触媒担持工程)
次に、基材10の一面10a上に金属触媒30を担持させる(
図2参照)。金属触媒30は、例えば基材10の一面10a上にスパッタリング法によって形成した膜を還元雰囲気下で加熱することによって形成することができる。
【0115】
こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体340が得られる。
【0116】
<カーボンナノファイバ成長工程>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第1〜第4態様と同様にして、CVD法により、炭素を含む原料ガスを用いてカーボンナノファイバ形成用構造体340の金属触媒30の上にカーボンナノファイバ50を成長させる。
【0117】
<第4実施形態>
次に、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第4実施形態について
図12よび
図13を参照して説明する。
図12は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第4実施形態を示す切断面端面図、
図13は、
図12のカーボンナノファイバ構造体を示す部分平面図である。
図12に示すように、カーボンナノファイバ構造体400は、カーボンナノファイバ形成用構造体440と、カーボンナノファイバ形成用構造体440の上に設けられるカーボンナノファイバ集合層451とを備えている。カーボンナノファイバ集合層451は、複数本のカーボンナノファイバ50を集合させてなるものである。
【0118】
カーボンナノファイバ形成用構造体440は、基材10と、基材10の一面10aに担持され、カーボンナノファイバ50を形成する際に触媒として作用する粒状の金属触媒30とを備えている。またカーボンナノファイバ形成用構造体440は、粒状の金属触媒30の間に形成される穴411を有している。
【0119】
カーボンナノファイバ集合層451において、カーボンナノファイバ50は、金属触媒30から基材10と離れる方向Bに沿って配向している。カーボンナノファイバ50は単層カーボンナノファイバでも多層カーボンナノファイバでもよい。
【0120】
カーボンナノファイバ集合層451は、
図13にも示すように、孔452を有しており、孔452は、複数本のカーボンナノファイバ50に包囲されることによって形成されている。カーボンナノファイバ集合層451において、孔452は貫通孔となっており、粒状の金属触媒30同士間に形成される穴411と連通している。孔452は、0.3〜7μmの孔径を有しており、カーボンナノファイバ集合層451において、孔452の総面積は、カーボンナノファイバ集合層451のうち基材10と反対側の端面(以下、「上端面」と呼ぶ)451aの見かけの面積に対して1%以上40%未満となっている。ここで、孔452の総面積は、基材10の一面10aに直交する方向からカーボンナノファイバ集合層451の孔452を観察して算出されるものである。また上端面451aの見かけの面積は、基材10の一面10aに直交する方向からカーボンナノファイバ集合層451の上端面451aを観察して算出されるものである。なお、見かけの面積とは、孔452のみならず、孔452以外の部分をも含む面積を言うものとする。
【0121】
このカーボンナノファイバ構造体400によれば、基材10の一面10a側に設けられるカーボンナノファイバ集合層451において、0.3〜7μmの孔径を有する孔452が複数本のカーボンナノファイバ50に包囲されることによって適度に形成されている。このため、例えば当該カーボンナノファイバ構造体400から、電解質を含む電気化学素子の電極を形成した場合に、電解質を、孔452を通してカーボンナノファイバ集合層451内部まで容易にかつ効果的に輸送させることが可能となる。従って、カーボンナノファイバ構造体400は、電気化学素子に対して優れた電気化学性能を付与することが可能なカーボンナノファイバ電極を形成できる。またカーボンナノファイバ構造体400は、複数本のカーボンナノファイバ50が集合してなるカーボンナノファイバ集合層451を基材10の一面10a側に有し、このカーボンナノファイバ集合層451において、孔452が複数本のカーボンナノファイバ50に包囲されることによって形成されている。すなわち、この孔452は、カーボンナノファイバ集合層451を分離するものとはなっていない。このため、カーボンナノファイバ集合層451から、複数本のカーボンナノファイバ50を連続に結合してなるカーボン糸を引き出すと、より長いカーボン糸を得ることができる。
【0122】
また本実施形態では、孔452が貫通孔となっているため、カーボンナノファイバ構造体400を電気化学素子の電極に適用した場合に、孔452が貫通孔でない場合に比べて、電解質をより十分にカーボンナノファイバ集合層451の内部まで輸送させることが可能となる。その結果、電気化学素子に対してより優れた電気化学性能を付与することが可能となる。
【0123】
ここで、カーボンナノファイバ集合層451について詳細に説明する。
【0124】
カーボンナノファイバ集合層451において、孔452の孔径は0.3〜7μmとすればよいが、好ましくは0.3〜6μmであり、より好ましくは0.3〜5μmである。
【0125】
また孔452の総面積は、カーボンナノファイバ集合層451の上端面451aの見かけの面積に対して1%以上40%未満とすればよいが、好ましくは1%以上30%未満であり、より好ましくは1%以上20%未満である。
【0126】
カーボンナノファイバ50の配向方向に沿った長さは孔452の孔径の最大値以下であっても孔径の最大値より大きくてもよいが、本実施形態のカーボンナノファイバ構造体400は、カーボンナノファイバ50の配向方向に沿った長さが孔452の孔径の最大値よりも大きい場合に有用である。これは、カーボンナノファイバ50の配向方向に沿った長さが孔452の孔径の最大値よりも大きいほど、電気化学素子の電気化学性能を向上させるために、電解質をカーボンナノファイバ集合層451に輸送させる必要性が高まるためである。具体的には、カーボンナノファイバ50の配向方向に沿った長さが孔452の孔径の最大値の10〜100倍である場合に、カーボンナノファイバ構造体400が特に有用である。
【0127】
次に、カーボンナノファイバ構造体400の製造方法について説明する。
【0128】
<準備工程>
まず基材10の一面10a上に金属触媒30を設けてなるカーボンナノファイバ形成用構造体440を準備する(
図14参照)。カーボンナノファイバ形成用構造体440は、例えば以下のようにして形成される。
【0129】
はじめに、
図3に示すように、基材10を準備する。
【0130】
次に、
図15に示すように、例えばアルミナ粒子等のマスクとなるマスク粒子520を基材10の一面10a上に配置する。このとき、マスク粒子520の平均粒径は、形成しようとする穴411の穴径に応じて適宜調整される。例えば0.3〜7μmの穴径を有する穴411を形成しようとする場合には、マスク粒子520の粒径は例えば1μm程度とし、マスク粒子520は、これらが適度に凝集する濃度で配置すればよい。マスク粒子としては、例えばアルミナ粒子、ジルコニア粒子、又はこれらの2種以上の組合せなどの無機物を使用することが可能である。
【0131】
(触媒担持工程)
次に、
図16に示すように、基材10の一面10aに金属触媒膜30Aを担持させる。
【0132】
金属触媒膜30Aを構成する金属触媒としては、カーボンナノファイバ50を成長させるのに使用される公知の金属触媒が使用可能である。このような金属触媒としては、金属触媒30と同様のものが用いられる。
【0133】
金属触媒膜30Aの厚さは、例えば0.5〜10nmとすればよい。
【0134】
次に、マスク粒子520を除去する。マスク粒子520の除去は、例えばアルコールを供給することによって行うことができる。
【0135】
その後、金属触媒膜30Aを還元雰囲気下で加熱することによって粒子状の金属触媒30を形成する。
【0136】
粒子状の金属触媒30の平均粒径は通常は1〜50nmであるが、2〜25nmであることが好ましい。この場合、2〜25nmの範囲を外れた場合に比べてカーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。
【0137】
こうして、金属触媒30側の一面に穴411が形成されたカーボンナノファイバ形成用構造体440が得られる。
【0138】
ここで、穴411の穴径は0.3〜7μmとすればよいが、好ましくは0.3〜6μmであり、より好ましくは0.3〜5μmである。
【0139】
また穴411の総面積は、基材10の一面10aのうち金属触媒30を設けた触媒担持面の面積に対して1%以上40%未満とすればよいが、好ましくは1%以上30%未満であり、より好ましくは1%以上20%未満である。
【0140】
<カーボンナノファイバ成長工程>
次に、カーボンナノファイバ構造体100の製造方法の第1〜第4態様と同様にして、CVD法により、炭素を含む原料ガスを金属触媒30に供給し、カーボンナノファイバ形成用構造体440の金属触媒30の上にカーボンナノファイバ50を成長させる。
【0141】
こうして、0.3〜7μmの孔径を有する孔452が形成され、孔452の総面積は、カーボンナノファイバ集合層451の上端面451aの見かけの面積に対して1%以上40%未満であるカーボンナノファイバ集合層451を備えたカーボンナノファイバ構造体400が得られる(
図12)。ここで、上端面451aの見かけの面積は、基材10の一面10aのうち、触媒担持面の面積と同一となる。
【0142】
上記のようにしてカーボンナノファイバ構造体400を製造すると、カーボンナノファイバ成長工程においてCVD法によりカーボンナノファイバ50を成長させる際、炭素を含有する原料ガスが金属触媒30に供給される。このとき、原料ガスが金属触媒30中に拡散して金属触媒30の表面からカーボンナノファイバ50が析出する。金属触媒30の活性が維持されている間は、この拡散と析出が連続で起きてカーボンナノファイバ50が成長する。このとき、一般には、カーボンナノファイバ50が成長するにつれて、基材10の一面10a側に設けられた金属触媒30上に成長するカーボンナノファイバ50がガスの拡散を阻害し、金属触媒30へのガス供給を困難にする。その結果、金属触媒30のうち、原料ガスに対して露出している露出部分と、カーボンナノファイバ50によって被覆された被覆部分とでは原料ガスの供給量に差が生じる。すなわち金属触媒30に対するガス供給量の点で不均一が生じる。このため、露出部分と被覆部分とでカーボンナノファイバ50の成長速度に差が生じる。このことは、カーボンナノファイバ集合層451の表面積が大型化するにつれて顕著になる。
【0143】
その点、上述したカーボンナノファイバ構造体400の製造方法では、カーボンナノファイバ形成用構造体440の金属触媒30側に形成され、0.3〜7μmの穴径を有する穴の総面積は、基材10の一面10aのうち金属触媒30を設けた触媒担持面の面積に対して1%以上40%未満の面積比率で形成されている。その結果、以下の作用効果が奏される。
【0144】
すなわち、まずカーボンナノファイバ50は金属触媒30上で基材10の一面10aから離れる方向Bに向かって成長する。別言すると、カーボンナノファイバ50は、基材10の一面10aのうち金属触媒30が形成されていない領域を除く領域上に、基材10の一面10aから離れる方向Bに向かって成長する。そして、成長する複数本のカーボンナノファイバ50を集合させてなるカーボンナノファイバ集合層451が形成される。このとき、複数本のカーボンナノファイバ50によって孔径0.0.3〜7μmの孔452が、カーボンナノファイバ形成用構造体440の金属触媒30側に形成された穴411の面積比率と同じ面積比率で形成される。すなわち、カーボンナノファイバ集合層451において0.3〜7μmの孔径を有する孔452の総面積が、カーボンナノファイバ集合層451の上端面451aの見かけの面積に対して1%以上40%未満となるように形成される。そして、原料ガスは、上記孔452を通ってカーボンナノファイバ集合層451の内部に拡散することが可能となり、金属触媒30に到達しやすくなる。その結果、金属触媒30のうち、露出部分と被覆部分とで原料ガスの供給量の差を小さくすることが可能となり、両部分でカーボンナノファイバ50の成長速度の差を小さくすることが可能となる。
【0145】
このため、カーボンナノファイバ50が長尺に成長しても、カーボンナノファイバ50が湾曲することを十分に抑制することが可能となる。また成長する複数のカーボンナノファイバ50同士が互いの成長を阻害することも十分に抑制されるため、カーボンナノファイバ50の生産性を十分に向上させることができる。
【0146】
さらに、得られるカーボンナノファイバ構造体400は、基材10の一面10a側に設けられるカーボンナノファイバ集合層451において、0.3〜7μmの孔径を有する孔452が複数本のカーボンナノファイバ50に包囲されることによって適度に形成されることになる。このため、例えば当該カーボンナノファイバ構造体400から、電解質を含む電気化学素子の電極を形成した場合に、電解質を、孔452を通してカーボンナノファイバ集合層451内部まで容易にかつ効果的に輸送させることが可能となる。従って、上記のようにして得られるカーボンナノファイバ構造体400は、電気化学素子に対して優れた電気化学性能を付与することが可能なカーボンナノファイバ電極を形成できる。
【0147】
さらに上記のようにして得られるカーボンナノファイバ構造体400は、複数本のカーボンナノファイバ50を集合してなるカーボンナノファイバ集合層451を基材10の一面10a側に有し、このカーボンナノファイバ集合層451において、孔452が複数本のカーボンナノファイバ50に包囲されることによって形成されている。すなわち、この孔452は、カーボンナノファイバ集合層451を分離するものとはなっていない。このため、カーボンナノファイバ集合層451から、複数本のカーボンナノファイバ50を連続に結合してなるカーボン糸を引き出すと、より長いカーボン糸を得ることができる。
【0148】
こうして形成されたカーボンナノファイバ構造体400を用いてカーボンナノファイバ電極を形成する場合、カーボンナノファイバ電極は、電極用の導電性基板に、カーボンナノファイバ構造体400のカーボンナノファイバ集合層451を転写することによって形成することができる。電極用の導電性基板へのカーボンナノファイバ集合層451の転写は、例えば、電極用の導電性基板との間に、導電性粘着フィルムを挟んで圧着するようにして行えばよい。電極用の導電性基板としては、例えばチタン基板などが挙げられる。なお、基材10として、導電性材料を使用する場合には、カーボンナノファイバ構造体400によりそのままカーボンナノファイバ電極が形成される。
【0149】
<第5実施形態>
次に、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第5実施形態について
図18を参照して説明する。
図18は、本発明のカーボンナノファイバ構造体の第5実施形態を示す切断面端面図である。
図18に示すように、本実施形態のカーボンナノファイバ構造体500は、基材10の一面10aと金属触媒30との間にさらに金属酸化物層520を有し、金属酸化物層520が0.5〜10nmの厚さを有する点で第4実施形態のカーボンナノファイバ構造体400と相違する。
【0150】
本実施形態のカーボンナノファイバ構造体500によれば、当該カーボンナノファイバ形成用構造体540の金属触媒30上にCVD法によりカーボンナノファイバ50を成長させる際、金属酸化物層520に、カーボンナノファイバ50を十分に成長させることができる。
【0151】
金属酸化物層520は金属酸化物からなる。金属酸化物は、金属酸化物層20を構成する金属の酸化物と同様のものであればよいが、II族又はIII族の金属の酸化物であることが、還元雰囲気下での熱力学安定性の点から好ましい。中でも、III族の金属の酸化物であることが触媒担持機能の点からより好ましい。III族の金属の酸化物としては、例えば酸化アルミニウム、アルミン酸マグネシウム、酸化セリウムなどが挙げられるが、酸化アルミニウムが最も好ましい。この場合、金属酸化物が酸化アルミニウム以外の金属酸化物である場合に比べてより十分にカーボンナノファイバ50を成長させることができる。
【0152】
本実施形態では、金属酸化物層520の厚さは1〜8nmであることが好ましい。この場合、金属酸化物層520の厚さが1〜8nmの範囲を外れる場合に比べてカーボンナノファイバ50をより効果的に成長させることができる。
【0153】
金属酸化物層520は、例えばスパッタリング法によって形成することができる。このとき、ターゲットは金属単体でも金属酸化物でもどちらでも良いが、ターゲットの種類によって適当な濃度の酸素ガスを供給する必要がある。このとき、基材10の温度は、基材10と金属酸化物層520との密着性を向上させるという理由から、20〜300℃とすることが好ましい。
【0154】
本発明は、上述した第1〜第5実施形態に限定されるものではない。例えば上記第4実施形態では、カーボンナノファイバ形成用構造体440の金属触媒30側の一面10aに穴411を形成する方法として、基材10の一面10a上にマスク粒子520を配置し、金属触媒膜30Aを形成した後、マスク粒子520を除去することにより穴411を形成しているが、穴411は他の方法によって形成することも可能である。すなわち、リソグラフィーで基材10の一面10a上にマスクを形成してから、金属触媒30を担持した後、マスクを除去する方法、担持した金属触媒30の一部をレーザで除去することにより穴411を形成する方法、担持した金属触媒30の一部を、超音波のキャビテーションで除去する方法、および、焼結体の表面を研磨して凹部を形成した後、凹部が形成されていない領域上に金属触媒30を担持させることによって穴411を形成する方法が挙げられる。あるいは、
図19に示すように、基材10の一面10aに開口部10cを形成し、基材10の一面10aのうちこの開口部10cを除く領域上に金属触媒30を形成することによって穴411を形成してもよい。
【0155】
さらに上記第4及び第5実施形態では、孔452がカーボンナノファイバ集合層451において貫通孔となっているが、孔452は必ずしもカーボンナノファイバ集合層451において貫通孔となっていなくてもよい。
【実施例】
【0156】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0157】
(実施例1)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基材(イットリア10モル%含有)を準備した。そして、この基材に対し、スパッタリングによって厚さ2nmの酸化アルミニウム層(AlO
X)を形成した。このとき、ターゲットはアルミニウム(99.99%)単体とし、スパッタリングはアルゴンを17sccm、酸素を3sccmの流量で供給し、圧力0.007Torrで行った。
【0158】
次いで、酸化アルミニウム層の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材、酸化アルミニウム層及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0159】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。また積層体の背面からガスを供給するための酸化アルミニウムからなる筒状体の一端側の開口を基材が塞ぐように配置した。そして、大気圧のアルゴンガスを250sccmの流量で筒状体の内部に供給した。
【0160】
そして、基材の温度が安定した後、アルゴンガス中に2.5体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元して酸化アルミニウム層上に平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0161】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0162】
こうしてカーボンナノファイバを触媒粒子上に10分間にわたって成長させ、カーボンナノファイバ構造体を得た。
【0163】
(実施例2)
酸化アルミニウム層を、厚さが4nmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0164】
(実施例3)
酸化アルミニウム層を、厚さが8nmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0165】
(実施例4)
酸化アルミニウム層を、厚さが10nmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0166】
(実施例5)
酸化アルミニウム層を、厚さが20nmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0167】
(実施例6)
酸化アルミニウム層を、厚さが0.5nmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0168】
(実施例7)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基材(イットリア10モル%含有)を準備した。そして、この基材に対し、スパッタリングによって厚さ2nmの酸化アルミニウム層(AlO
X)を形成した。このとき、ターゲットはアルミニウム(99.99%)単体とし、スパッタリングはアルゴンを17sccm、酸素を3sccmの流量で供給し、圧力0.007Torrで行った。
【0169】
次いで、酸化アルミニウム層の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材、酸化アルミニウム層及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0170】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。また積層体の背面(裏面)からガスを供給するための酸化アルミニウムからなる筒状体の一端側の開口を基材が塞ぐように配置した。そして、大気圧のアルゴンガスを100sccmの流量で筒状体の内部に供給した。
【0171】
そして、基材の温度が安定した後、電気炉内に供給するアルゴンガス中に2.5体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元して酸化アルミニウム層上に平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0172】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した後、上記筒状体の内側に供給するアルゴンガス中に、酸素濃度が2体積%となるように調整して大気を供給した。
【0173】
こうしてカーボンナノファイバを触媒粒子上に10分間にわたって成長させ、カーボンナノファイバ構造体を得た。
【0174】
(実施例8)
酸化アルミニウム層を、厚さが4nmとなるように形成したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0175】
(実施例9)
酸化アルミニウム層を、厚さが8nmとなるように形成したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0176】
(実施例10)
酸化アルミニウム層を、厚さが10nmとなるように形成したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0177】
(実施例11)
酸化アルミニウム層を、厚さが20nmとなるように形成したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0178】
(実施例12)
酸化アルミニウム層を、厚さが0.5nmとなるように形成したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0179】
(実施例13)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアからチタン酸ストロンチウムに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0180】
(実施例14)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアからカルシア安定化ジルコニア(カルシア11モル%含有)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0181】
(実施例15)
カーボンナノファイバ形成用構造体を得た後、電気炉内に供給するアルゴンガス(雰囲気)中に0.012体積%の濃度となるように酸素ガスを混合して供給したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0182】
(実施例16)
カーボンナノファイバ形成用構造体を得た後、電気炉内に供給するアルゴンガス(雰囲気)中に0.012体積%の濃度となるように酸素ガスを混合して供給したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0183】
(実施例17)
金属触媒を構成する材料を、鉄からニッケルに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0184】
(実施例18)
金属触媒を構成する材料を、鉄からコバルトに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0185】
(実施例19)
金属触媒を構成する材料を、鉄から鉄モリブデン合金に変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0186】
(実施例20)
金属酸化物層を構成する材料を、酸化アルミニウムからアルミン酸マグネシウムに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0187】
(実施例21)
金属酸化物層を構成する材料を、酸化アルミニウムから酸化マグネシウムに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0188】
(実施例22)
金属酸化物層を構成する材料を、酸化アルミニウムから酸化セリウムに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0189】
(実施例23)
酸化アルミニウム層を、厚さが1nmとなるように形成したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0190】
(比較例1)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから厚さ500μmの板状のシリコンに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0191】
(比較例2)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから厚さ100μmの板状のチタンに変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0192】
(比較例3)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから緻密質アルミナ(酸化アルミニウム)に変更したこと以外は実施例1と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0193】
(比較例4)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから緻密質アルミナ(酸化アルミニウム)に変更したこと以外は実施例7と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0194】
(比較例5)
基材となる厚さ100μmの板状のチタン基材を準備した。そして、この基材に対し、スパッタリング法によって厚さ0.3nmの酸化アルミニウム層(AlO
X)を形成した。このとき、ターゲットはアルミニウム(99.99%)単体とし、スパッタリングはアルゴンを17sccm、酸素を3sccmの流量で供給し、圧力0.007Torrで行った。
【0195】
次いで、酸化アルミニウム層の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材、酸化アルミニウム層及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0196】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。
【0197】
そして、基材の温度が安定した後、アルゴンガス中に10体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元して酸化アルミニウム層上に平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0198】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0199】
しかし、疎らにカーボンナノファイバが基材に横たわって成長し、カーボンナノファイバ構造体を得ることができなかった。基材の表面を走査型電子顕微鏡で観察すると、水素脆化により表面に亀裂が生じて凸凹になっていた。また基材の表面についてX線による組成分析を行うと、基材と触媒が合金化していた。このために、カーボンナノファイバの成長が阻害されたと考えられる。
【0200】
(比較例6)
基材となる厚さ500μmの板状のシリコン基材を準備した。そして、この基材に対し、スパッタリング法によって厚さ0.3nmの酸化アルミニウム層(AlO
X)を形成した。このとき、ターゲットはアルミニウム(99.99%)単体とし、スパッタリングはアルゴンを17sccm、酸素を3sccmの流量で供給し、圧力0.007Torrで行った。
【0201】
次いで、酸化アルミニウム層の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材、酸化アルミニウム層及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0202】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。
【0203】
そして、基材の温度が安定した後、アルゴンガス中に10体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元して酸化アルミニウム層上に平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0204】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0205】
しかし、疎らにカーボンナノファイバが基材に横たわって成長し、カーボンナノファイバ構造体を得ることができなかった。基材の表面についてX線による組成分析を行うと、基材と触媒が合金化していた。このために、カーボンナノファイバの成長が阻害されたと考えられる。
【0206】
(実施例24)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基材(イットリア17モル%含有)を準備した。
【0207】
次いで、基材の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0208】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。また積層体は、ガスを供給するための酸化アルミニウムからなる筒状体の一端側の開口を基材が塞ぐように配置した。そして、大気圧のアルゴンガスを100sccmの流量で筒状体の内部に供給した。
【0209】
そして、基材の温度が安定した後、電気炉内に供給するアルゴンガス中に2.5体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元して平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0210】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0211】
こうしてカーボンナノファイバを触媒粒子上に10分間にわたって成長させ、カーボンナノファイバ構造体を得た。
【0212】
(実施例25)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアからチタン酸ストロンチウムに変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0213】
(実施例26)
酸素を0.1体積%含むアルゴンガスの供給を、筒状体を通して、基材の触媒と反対側の面(裏面)からさらに行ったこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0214】
(実施例27)
金属触媒を構成する材料を、鉄からニッケルに変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0215】
(実施例28)
金属触媒を構成する材料を、鉄からコバルトに変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0216】
(実施例29)
金属触媒を構成する材料を、鉄から鉄モリブデン合金に変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0217】
(比較例7)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから厚さ500μmの板状のシリコンに変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得ようとした。しかし、疎らにカーボンナノファイバが基材に横たわって成長し、カーボンナノファイバ構造体を得ることができなかった。基材の表面についてX線による組成分析を行うと、基材と触媒が合金化していた。このために、カーボンナノファイバの成長が阻害されたと考えられる。
【0218】
(比較例8)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから厚さ100μmの板状のチタンに変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得ようとした。しかし、疎らにカーボンナノファイバが基材に横たわって成長し、カーボンナノファイバ構造体を得ることができなかった。基材の表面を走査型電子顕微鏡で観察すると、水素脆化により表面に亀裂が生じて凸凹になっていた。また基材の表面についてX線による組成分析を行うと基材と触媒が合金化していた。このために、カーボンナノファイバの成長が阻害されたと考えられる。
【0219】
(比較例9)
基材を構成する材料を、イットリア安定化ジルコニアから緻密質アルミナ(酸化アルミニウム)に変更したこと以外は実施例24と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。
【0220】
(実施例30)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基材(イットリア10モル%含有)を準備した。そして、基材の表面に、直径1μmのアルミナ微粒子を分散させた。そして、このイットリア安定化ジルコニア基板の表面に、スパッタリング法を用いて、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。その後、アルコールでアルミナ微粒子を除去し、イットリア安定化ジルコニア基板を乾燥させた。こうして、イットリア安定化ジルコニア基板及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。このとき、鉄薄膜には、穴径0.7〜5μmの分布を持った穴が分散して形成されていた。
【0221】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。
【0222】
そして、イットリア安定化ジルコニア基板の温度が安定した後、アルゴンガス中に2.5体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元してイットリア安定化ジルコニア基板の表面上に平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。このとき、実施例38の触媒の担持面積を基準とした触媒の担持面積の比は0.92であった。
【0223】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0224】
こうしてカーボンナノファイバを触媒粒子から離れる方向に向かって10分間にわたって成長させ、カーボンナノファイバ集合層を形成した。こうしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.7〜5μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の上端の見かけの面積(以下、「見かけの上端面積」と呼ぶ)の8%であった。またカーボンナノファイバ(CNF)の長さは130μmであった。
【0225】
(実施例31)
イットリア安定化ジルコニア基板の表面に、直径1μmのアルミナ微粒子を分散させ、鉄薄膜に、穴径0.7〜3μmの分布を持った穴を分散して形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例30と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.7〜3μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の1%であった。またカーボンナノファイバの長さは130μmであった。
【0226】
(実施例32)
イットリア安定化ジルコニア基板の表面に、直径1μmのアルミナ微粒子を分散させ、鉄薄膜に、穴径2〜7μmの分布を持った穴を分散して形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例30と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径2〜7μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の39%であった。またカーボンナノファイバの長さは140μmであった。
【0227】
(実施例33)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基材(イットリア10モル%含有)を準備した。そして、基材表面を研磨して穴径0.3〜4μmの分布を持った凹部を形成した後、スパッタリングによって厚さ2nmの酸化アルミニウム層(AlO
X)を形成した。このとき、ターゲットは酸化アルミニウム(99.99%)単体とし、スパッタリングはアルゴンを19sccm、酸素を1sccmの流量で供給し、圧力0.007Torrで行った。
【0228】
次いで、酸化アルミニウム層の表面に、スパッタリング法によって、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、基材、酸化アルミニウム層及び鉄薄膜で構成される積層体に穴径0.3〜4μmの分布を持った穴を分散して形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例30と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.3〜4μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の10%であった。またカーボンナノファイバの長さは1250μmであった。
【0229】
(実施例34)
酸化アルミニウム層を、厚さが4nmとなるように形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例33と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.3〜4μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の12%であった。またカーボンナノファイバの長さは1400μmであった。
【0230】
(実施例35)
酸化アルミニウム層を、厚さが8nmとなるように形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例33と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.3〜4μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の11%であった。またカーボンナノファイバの長さは1000μmであった。
【0231】
(実施例36)
酸化アルミニウム層を、厚さが12nmとなるように形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例33と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.3〜4μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の10%であった。またカーボンナノファイバの長さは140μmであった。
【0232】
(実施例37)
酸化アルミニウム層を、厚さが0.3nmとなるように形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例33と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径0.3〜4μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の10%であった。またカーボンナノファイバの長さは140μmであった。
【0233】
(実施例38)
基材となる厚さ1000μmの板状のイットリア安定化ジルコニア基板を準備した。そして、イットリア安定化ジルコニア基板の表面に、アルミナ微粒子を分散させず、スパッタリング法を用いて、触媒となる厚さ2nmの鉄の薄膜を形成した。こうして、イットリア安定化ジルコニア基板及び鉄薄膜で構成される積層体を得た。
【0234】
次に、この積層体を、800℃の温度に設定した電気炉に収容した。このとき、電気炉には大気圧のアルゴンガスを500sccmの流量で供給した。
【0235】
そして、イットリア安定化ジルコニア基板の温度が安定した後、電気炉内に供給するアルゴンガス中に2.5体積%となるように水素ガスを混合し、鉄の薄膜を還元してイットリア安定化ジルコニア基板の表面上に平均粒径5nmの触媒粒子を形成した。こうしてカーボンナノファイバ形成用構造体を得た。
【0236】
次に、電気炉内に供給するアルゴンガス中に、2.5体積%となるようにアセチレンガスを供給した。
【0237】
こうしてカーボンナノファイバを触媒粒子から離れる方向に向かって10分間にわたって成長させ、カーボンナノファイバ集合層を形成した。こうしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔は形成されていなかった。カーボンナノファイバの長さは120μmであった。
【0238】
(実施例39)
イットリア安定化ジルコニア基板の表面に、鉄の薄膜を形成する前に、直径1μmのアルミナ微粒子を分散させ、鉄薄膜に、穴径5〜12μmの分布を持った穴を分散して形成すると共に、実施例38の触媒担持面積を基準とした触媒担持面積の比を表6に示す通りとしたこと以外は実施例38と同様にしてカーボンナノファイバ構造体を得た。得られたカーボンナノファイバ構造体では、カーボンナノファイバ集合層に、孔径5〜12μmの分布を持った孔が分散して形成されていた。このとき、孔の総面積はカーボンナノファイバ構造体の見かけの上端面積の55%であった。またカーボンナノファイバの長さは130μmであった。
【0239】
[評価]
(カーボンナノファイバの長さ)
実施例1〜39及び比較例1〜14のカーボンナノファイバ構造体について、カーボンナノファイバ(CNF:Carbon Nano Fiber)の長さをカーボンナノファイバ構造体の断面のSEM観察によって調べた。カーボンナノファイバが多数存在しても、カーボンナノファイバが集合して構造体を形成していない場合は、カーボンナノファイバの長さは0とした。結果を表1〜5に示す。
【0240】
(カーボンナノファイバの品質)
共鳴ラマン分光法によってカーボンナノファイバの品質について評価することができる。ラマンスペクトルにおいて1590cm
−1付近に見られるラマンシフトはグラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm
−1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いほどグラファイト化度が高く、高品質なカーボンナノファイバを意味する。そこで、実施例1〜39並びに比較例1〜4および9のカーボンナノファイバ構造体のカーボンナノファイバ(CNF)について、ラマン測定を行いカーボンの構造に由来するGバンドとDバンドのピークのG/D比を求めた。結果を表1〜5に示す。
【0241】
(電気化学特性1−還元特性)
実施例30〜39 のカーボンナノチューブ構造体をチタンメッシュで挟んで作用極とし、白金線を対極とし、アセトニトリル中の銀/硝酸銀対を参照電極として用いた電気化学特性測定用セルを作製した。また電解液として、5mMのヨウ化1,2−ジメチル−3−n−プロピルイミダゾリウム、2mMのヨウ素、100mMのテトラフルオロホウ酸テトラ−n−ブチルアンモニウムを3−メトキシプロピオニトリルに溶かしたものを用意し、この電解液をセルに満たした。そして、上記電気化学特性測定用セルについて、室温大気条件の下でヨウ化物イオンのサイクリックボルタンメトリーの測定を行い、還元特性を評価した。具体的には、ヨウ化物イオン還元ピーク電流量を測定した。結果を表6に示す。なお、表6においては、カーボンナノファイバ(CNF)の重量あたりのヨウ化物イオン還元ピーク電流量を、実施例38のCNFの重量あたりのヨウ化物イオン還元ピーク電流量を1とした相対値として表示した。
【0242】
(電気化学特性2−静電容量)
実施例30〜39の2枚のカーボンナノチューブ構造体でセパレータを挟んで積層体とし、この積層体をチタンメッシュで挟んだものをさらに2枚のガラス板で挟んで固定し、電気二重層容量測定用の二極式セルを作製した。そして、このセルを、プロピレンカーボネート(PC)中に四フッ化ホウ酸テトラエチルアンモニウム(Et
4NBF
4)を溶解させてなる1mol/Lの脱水電解液(商品名:キャパソルブ−CPG−00005、キシダ化学社製)に浸し、静電容量を測定した。結果を表6に示す。なお、表6においては、カーボンナノファイバ(CNF)の重量あたりの静電容量を、実施例38のCNFの重量あたりの静電容量を1とした相対値として表示した。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0243】
表1〜3に示す結果より、実施例1、13、14のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバが、比較例1、2、3のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバに比べて十分に長くなっていることが分かった。このことから、基材の上に金属酸化物層を介して金属触媒を担持させる場合には、基材に、酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有させることが、カーボンナノファイバの十分な成長に寄与したものと考えられる。
【0244】
表1〜3に示す結果より、実施例1、7のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバが、比較例3、4のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバに比べて十分に長くなっていることが分かった。このことから、基材の上に金属酸化物層を介して金属触媒を担持させる場合には、酸素を含むガスを供給する方法にかかわらず、基材に、酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有させることが、カーボンナノファイバの十分な成長に寄与したものと考えられる。
【0245】
表1〜3に示す結果より、実施例1〜6のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバは、金属酸化物層の厚さによって大きく変わり、厚さが0.5〜10nmであると、CNFの長さが100μmより大きくなって十分に長くなっていることが分かった。このことから、酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有した基材の上に金属酸化物層を介して金属触媒を担持させる場合には、金属酸化物層の厚さが上記範囲内にあると、酸素イオン伝導性を有する基材からの酸素イオンの影響がより伝わりやすくなると考えられる。そのため、基材に酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有させた時に、ある範囲の厚さを有する金属酸化物層を設けることが、カーボンナノファイバのより十分な成長に寄与したものと考えられる。
【0246】
表1〜3に示す結果より、実施例7〜12のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバは、実施例1〜6よりも、さらに長くなることが多いことが分かった。このことから、酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有した基材の上に金属酸化物層を介して金属触媒を担持させる場合には、酸素イオン伝導性を有する基材に設けた金属酸化物層と反対側の面からの酸素供給量をコントロールすることが、カーボンナノファイバのより十分な成長に寄与したものと考えられる。
【0247】
表4に示す結果より、実施例24〜29のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバが、比較例7〜9のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバに比べて、十分に長くなっていることが分かった。このことから、基材の上に金属触媒を直接担持させる場合には、基材に、酸素イオン伝導性を有する酸化物を含有させることが、カーボンナノチューブの十分な成長に寄与するものと考えられる。
【0248】
表5に示す結果より、実施例30〜37および39のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバが、実施例38のカーボンナノファイバ構造体におけるカーボンナノファイバに比べて、十分に長くなっていることが分かった。このことから、基材の上に金属触媒を担持させる場合には、基材に、適度な孔を分散させて設けることが、カーボンナノチューブの十分な成長に寄与するものと考えられる。
【0249】
表6に示す結果より、実施例30〜37に係る電気化学特性測定用セルは、実施例38に係る電気化学特性測定用セルに比べて、還元電位に大きな変化は見られなかったものの、使用したカーボンナノファイバの重量あたりの還元ピーク電流量が十分に増加することが分かった。
【0250】
これは、カーボンナノファイバ集合層に孔を適度に形成したことによって電解液のカーボンナノファイバ集合層内部への輸送が改善され、カーボンナノファイバ集合層の表層だけでなく内部まで還元反応が起こりやすくなり還元ピーク電流が改善したためではないかと考えられる。なお、実施例39のように、孔の効果によりカーボンナノファイバが長くなっても、大きい孔径を有する孔を形成すると、カーボンナノファイバの重量あたりの還元ピーク電流量は低くなり、電解液の内部拡散がかえって悪くなるという結果が得られた。これは、カーボンナノファイバの密度が低下し、カーボンナノファイバ集合層の強度が電気化学特性測定用セルを構成するためには不十分となり、カーボンナノファイバがつぶれたためではないかと推察される。
【0251】
また実施例30〜37に係る電気二重層容量測定用の二極式セルは、実施例38に係る電気二重層容量測定用の二極式セルに比べて、カーボンナノファイバの重量あたりの静電容量が十分に大きくなることが分かった。
【0252】
これは、カーボンナノファイバ集合層に孔を適度に形成したことによって電解液の層内部への輸送が改善されたことによって、カーボンナノファイバ集合層の最外層だけでなく内部まで有効利用できるようになったためではないかと考えられる。
【0253】
以上より、本発明のカーボンナノファイバ形成用構造体によれば、カーボンナノファイバを十分に成長させることができることが確認された。