(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717945
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】注入材料、注入材及び注入工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/02 20060101AFI20150423BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20150423BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20150423BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20150423BHJP
C09K 17/06 20060101ALI20150423BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20150423BHJP
C09K 17/22 20060101ALI20150423BHJP
C09K 17/42 20060101ALI20150423BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20150423BHJP
C04B 28/18 20060101ALI20150423BHJP
C09K 103/00 20060101ALN20150423BHJP
【FI】
C09K17/02 P
C04B22/06 A
C04B22/10
C04B24/26 E
C09K17/06 P
C09K17/14 P
C09K17/22 P
C09K17/42 P
E02D3/12 101
C04B28/18
C09K103:00
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2008-301741(P2008-301741)
(22)【出願日】2008年11月26日
(65)【公開番号】特開2010-126610(P2010-126610A)
(43)【公開日】2010年6月10日
【審査請求日】2011年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石田 秀朗
(72)【発明者】
【氏名】入内島 克明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀弘
(72)【発明者】
【氏名】吉野 亮悦
【審査官】
福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−097381(JP,A)
【文献】
特開平01−188581(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/057510(WO,A1)
【文献】
特開平07−330416(JP,A)
【文献】
特開昭63−015882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00−17/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素と組成式が2CaCO3・xCa(OH)2・nH2Oである(xは((Ca(OH)2のモル数)/(CaCO3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であり、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムを含有してなり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmである注入材料。
【請求項2】
分散剤を含有してなる請求項1に記載の注入材料。
【請求項3】
二酸化ケイ素、組成式が2CaCO3・xCa(OH)2・nH2Oである(xは((Ca(OH)2のモル数)/(CaCO3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であり、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウム及び水を含有してなり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmである注入材。
【請求項4】
二酸化ケイ素と水を含有してなる懸濁液と、組成式が2CaCO3・xCa(OH)2・nH2Oである(xは((Ca(OH)2のモル数)/(CaCO3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であり、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムと水を含有してなる懸濁液とを含有してなり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmである注入材。
【請求項5】
分散剤を含有してなる請求項4に記載の注入材。
【請求項6】
二酸化ケイ素と水を含有してなる懸濁液1と、組成式が2CaCO3・xCa(OH)2・nH2Oである(xは((Ca(OH)2のモル数)/(CaCO3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であり、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムと水を含有してなる懸濁液2とを混合し、注入してなることを特徴とする注入工法であり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmであることを特徴とする注入工法。
【請求項7】
二酸化ケイ素と水と分散剤を含有してなる懸濁液1と、組成式が2CaCO3・xCa(OH)2・nH2Oである(xは((Ca(OH)2のモル数)/(CaCO3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であり、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムと水を含有してなる懸濁液2とを混合し、注入してなることを特徴とする注入工法であり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmであることを特徴とする注入工法。
【請求項8】
塩基性炭酸カルシウムの使用量が二酸化ケイ素100部に対して3〜300部であり、懸濁液1の水量が二酸化ケイ素100部に対して50〜1000部であり、懸濁液2の水量が塩基性炭酸カルシウム100部に対して50〜1000部であり、分散剤の使用量が二酸化ケイ素100部に対して、固形分量で0.01〜10部であることを特徴とする請求項7に記載の注入工法。
【請求項9】
懸濁液1と懸濁液2の混合比率が容積比で5:1〜1:5であることを特徴とする請求項7又は8に記載の注入工法。
【請求項10】
湿式粉砕機を使用して懸濁液を調製することを特徴とする請求項6〜9のうちの1項に記載の注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入材料、注入材及び注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントやスラグを微粉砕して水に分散させた懸濁液型注入材で地盤の補強や止水を行なう注入工法が用いられている(特許文献1〜5)。しかしながら、地盤が細砂、シルト、あるいは岩盤に生じている極めて小さな亀裂部では、高い浸透性能が要求されるため、上記を微粉砕した懸濁液型注入材を用いても浸透性が小さく、注入が困難となる場合があった。
【0003】
【特許文献1】特開平6−33057号公報
【特許文献2】特開平11−116316号公報
【特許文献3】特開2001−98269号公報
【特許文献4】特開2003−119464号公報
【特許文献5】特開2004−231884号公報
【0004】
そこで、高い浸透性能が要求される地盤では、水ガラスやシリカゾルを主体とする溶液型注入材が使用されている(特許文献6〜9)。しかしながら、溶液型注入材は、細砂に対しては、浸透による地盤の改良が期待できるが、シルトや岩盤に生じている極めて小さな亀裂部については、溶液型注入材自体の圧縮強度(ホモゲル強度)が小さいため、地盤の改良が期待通りに出来なかったり、アルカリやシリカが徐々に溶出し、耐久性や環境汚染が問題となったりする場合がある。
【0005】
【特許文献6】特開平6−101400号公報
【特許文献7】特開平7−173469号公報
【特許文献8】特開2004−196922号公報
【特許文献9】特開2005−282193号公報
【0006】
そこで、懸濁液型注入材より微細なシリカフュームを主体とする超微粒子型の注入材が提案されている。その場合、シリカフュームは単独で硬化しない。シリカフュームを硬化させるためには、硬化剤が必要である。アルミン酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムを硬化剤とするもの(特許文献10)、水酸化カルシウムを硬化剤とするもの(特許文献11)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムを硬化剤とするもの(特許文献12)、セメント、スラグ等を硬化剤とするもの(特許文献13)等が提案されている。
【0007】
しかしながら、上記硬化剤は強アルカリ性であるため、シリカフュームと混合直後に瞬結し、十分な浸透性が期待できない。又、強アルカリ性であるため、地下水を汚染し、環境への影響が懸念される。
【0008】
【特許文献10】特開平5−98257号公報
【特許文献11】特開平8−41455号公報
【特許文献12】特開平2003−306368号公報
【特許文献13】特開平2006−117887号公報
【0009】
超微粒子シリカ、炭酸カルシウム及び無機化合物(KCl、NaHSO
4・H
2O)又は水ガラスを含有する注入材(特許文献14)が提案されている。しかしながら、特許文献14は、超微粒子シリカはコロイダルシリカであり、炭酸カルシウムは重質炭酸カルシウムであって塩基性炭酸カルシウムでない。特許文献14は、無機化合物(KCl、NaHSO
4・H
2O)又は水ガラスを併用しても、強度発現性が悪く、耐久性も不十分である。
【0010】
【特許文献14】特開平4−298598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
シリカフュームを含む二酸化ケイ素及び水を主体とする注入材は、従来の強アルカリを主体とした硬化剤では瞬結するため浸透性が劣ることが課題であった。
【0012】
本発明は、硬化剤として塩基性炭酸カルシウムを用いることにより、十分な硬化時間が確保でき、浸透性と強度発現性を兼ね備えた、注入材を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、二酸化ケイ素と組成式が2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2Oである(xは((Ca(OH)
2のモル数)/(CaCO
3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であ
り、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムを含有してなり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmである注入材料であり、分散剤を含有してなる該注入材料であり、二酸化ケイ素、組成式が2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2Oである(xは((Ca(OH)
2のモル数)/(CaCO
3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であ
り、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウム及び水を含有してなり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmである注入材であり、二酸化ケイ素と水を含有してなる懸濁液と、組成式が2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2Oである(xは((Ca(OH)
2のモル数)/(CaCO
3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であ
り、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムと水を含有してなり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmである懸濁液とを含有してなる注入材であり、分散剤を含有してなる該注入材であり、二酸化ケイ素と水を含有してなる懸濁液1と、組成式が2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2Oである(xは((Ca(OH)
2のモル数)/(CaCO
3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であ
り、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムと水を含有してなる懸濁液2とを混合し、注入してなることを特徴とする注入工法であり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmであることを特徴とする注入工法であり、二酸化ケイ素と水と分散剤を含有してなる懸濁液1と、組成式が2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2Oである(xは((Ca(OH)
2のモル数)/(CaCO
3のモル数))×2で示される数であり、かつ、xは0.2〜2であ
り、nは0.5〜3である)塩基性炭酸カルシウムと水を含有してなる懸濁液2とを混合し、注入してなることを特徴とする注入工法であり、二酸化ケイ素の平均粒径が0.1〜1μmであることを特徴とする注入工法であり、塩基性炭酸カルシウムの使用量が二酸化ケイ素100部に対して3〜300部であり、懸濁液1の水量が二酸化ケイ素100部に対して50〜1000部であり、懸濁液2の水量が塩基性炭酸カルシウム100部に対して50〜1000部であり、分散剤の使用量が二酸化ケイ素100部に対して、固形分量で0.01〜10部であることを特徴とする該注入工法であり、懸濁液1と懸濁液2の混合比率が容積比で5:1〜1:5であることを特徴とする該注入工法であり、湿式粉砕機を使用して懸濁液を調製することを特徴とする該注入工法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の注入材は、十分な硬化時間が確保できる、浸透性と強度発現性を兼ね備えている、といった効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
なお、本発明では、二酸化ケイ素と塩基性炭酸カルシウムを含有する粉末状の材料を注入材料、さらに水を加えて懸濁状としたものを注入材、その注入材を用いて地盤等に注入する方法を注入工法と定義する。
【0017】
本発明で使用する二酸化ケイ素としては、金属シリコン、フェロシリコン、又はジルコニアを製造する過程で電気炉から発生するフューム(シリカフューム)を捕集する方法により製造したシリカ粉末が挙げられる。例えば、金属シリコン粉末を分散させたスラリーを高温場に噴射し燃焼、酸化させる方法、四塩化ケイ素等のハロゲン化物のように、ガス化したケイ素化合物を火炎中に送り製造する方法等の、いわゆる、乾式法により製造したシリカ粉末、ケイ酸塩水溶液からゾルゲル法により沈降生成させて製造する方法等の、いわゆる湿式法より製造したシリカ粉末が挙げられる。シリカ粉末の製造方法は、特に限定するものでない。これらの中では、特に乾式法により製造したシリカ粉末が、凝集(ストラクチャー)が少ない点から、好ましい。
【0018】
二酸化ケイ素のSiO
2成分の含有率は、浸透性の点から、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましい。
【0019】
本発明の塩基性炭酸カルシウムとは、水酸化カルシウムの懸濁液と炭酸ガスを反応させることによって化学法で製造される中間生成物等をいう。塩基性炭酸カルシウムは、非特許文献1〜3に示した方法で製造することができる。
【0020】
【非特許文献1】Gypsum & Lime No.196、p3-12 (1985)
【非特許文献2】Gypsum & Lime No.196、p12-22 (1985)
【非特許文献3】Gypsum & Lime No.203、p25-32 (1986)
【0021】
本発明の塩基性炭酸カルシウムの組成式は、例えば、2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2Oで示される。xは((CaCO
3のモル数)/(xCa(OH)
2のモル数))×2で示される数である。xは0.2〜2が好ましく、0.5〜1がより好ましい。xが0.2未満ではpH値が低く注入材が硬化しない恐れがあり、2を超えるとpH値が高く注入材が瞬結する恐れがある。結晶水であるnは一般に、0.5〜3の間にあるが、特に限定されるものではない。
【0022】
二酸化ケイ素及び塩基性炭酸カルシウムの一次粒子の平均粒径は地盤への浸透性の点から1μm以下が好ましく、0.1〜0.5μmがより好ましい。1μmを超えると浸透性や強度が小さくなる恐れがある。
【0023】
二酸化ケイ素と塩基性炭酸カルシウムの混合割合は、二酸化ケイ素100部に対して、塩基性炭酸カルシウム3〜300部が好ましく、10〜100部がより好ましい。塩基性炭酸カルシウム量が3部未満だと注入材の強度が小さくなる恐れがあり、300部を超えると注入材が瞬結する恐れがある。
【0024】
本発明の注入材とは、二酸化ケイ素、塩基性炭酸カルシウム、及び、水を含有する懸濁液をいう。水の割合は、必要とする強度によって決定される。二酸化ケイ素、塩基性炭酸カルシウムと水を一緒に混合して注入材としても良いが、比較的硬化時間の短い注入材では、ミキサーやホースに注入材が付着、硬化する恐れがある。本発明は、事前に二酸化ケイ素と水からなる懸濁液1と、塩基性炭酸カルシウムと水をからなる懸濁液2をそれぞれ作製し、2つの懸濁液を合流することで比較的硬化時間が短い注入材でも問題なく地盤に注入することができる。
【0025】
懸濁液1の水量は、二酸化ケイ素100部に対して、50〜1000部が好ましく、100〜300部がより好ましい。懸濁液2の水量は、塩基性炭酸カルシウム100部に対して、50〜1000部が好ましく、100〜300部がより好ましい。水量が50部未満だと浸透性が小さくなる恐れがあり、1000部を超えると注入材の強度が小さくなる恐れがある。
【0026】
懸濁液1と懸濁液2の混合比率は、二酸化ケイ素と塩基性炭酸カルシウムの混合割合が、二酸化ケイ素100部に対して、塩基性炭酸カルシウム3〜300部となるように調整すれば本発明を達成できる。例えば、懸濁液1と懸濁液2の混合比率は、容積比で5:1〜1:5が好ましく、2:1〜1:2がより好ましく、1:1が、最もより好ましい。
【0027】
本注入材は、分散剤を使用しても良い。分散剤としては、リグニンスルホン酸塩、オキシカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、及び、ポリアクリル酸塩からなる群のうちの1種以上が浸透性を向上させる点で好ましく、ポリアクリル酸塩がより好ましい。
【0028】
分散剤の使用量は、二酸化ケイ素100部に対して、固形分量で0.01〜10部が好ましく、0.1〜3部がより好ましい。
【0029】
さらに、硬化時間調整剤を使用できる。
【0030】
二酸化ケイ素と塩基性炭酸カルシウム及び水、あるいは二酸化ケイ素と水、塩基性炭酸カルシウムと水を合わせて懸濁液とする場合、通常のグラウトミキサーが使用できるが、さらに地盤への浸透性を向上するため、各種の湿式粉砕機を使用することが好ましい。
【0031】
湿式粉砕機としては、攪拌ミル、ボールミル、高圧水を使用した粉砕機等が挙げられる。
【0032】
本注入材の注入工法としては、単管ロット工法、単管ストレーナー工法、二重管単相工法、二重管複相工法、及び二重管ダブルパッカー工法等、現在使用されている工法が適用できる。単管注入工法では、ミキサーで二酸化ケイ素、塩基性炭酸カルシウム、水を一緒に混合して注入材としても良い。単管注入工法では、比較的硬化時間の短い注入材を使用する場合、二酸化ケイ素と水を含有する懸濁液1と、塩基性炭酸カルシウムと水を含有する懸濁液2をそれぞれ作製し、2つの懸濁液を単管の直前で合流する、いわゆる1.5ショットで注入することが好ましい。二重管注入工法では、二酸化ケイ素と水を含有する懸濁液1と、塩基性炭酸カルシウムと水を含有する懸濁液2をそれぞれ作製し、二重管にそれぞれの懸濁液を送り、注入管の先端部分で合流させる。
【実施例】
【0033】
以下実験例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実験例に限定されるものではない。
【0034】
実験例1
二酸化ケイ素100部、分散剤1部及び水200部を攪拌ミルで混合し懸濁液1とした。塩基性炭酸カルシウム100部と、水200部を、攪拌ミルにて混合し懸濁液2とした。懸濁液1と懸濁液2を、二酸化ケイ素100部に対して表1に示す量の塩基性炭酸カルシウムとなるように混合し、注入材を作製した。硬化時間、浸透性、ホモゲル強度、pH値の結果を表1に示す。実験No.1−13は、塩基性炭酸カルシウムの代わりに、炭酸カルシウムを使用した。実験No.1−14は、塩基性炭酸カルシウムの代わりに、水酸化カルシウムを使用した。
【0035】
<使用材料>
二酸化ケイ素a:電気化学工業製、球状シリカ、SiO
2成分95%以上、一次粒子の平均粒子径0.40μm
塩基性炭酸カルシウムA:市販品、x=0.1、一次粒子の平均粒子径0.43μm
塩基性炭酸カルシウムB:市販品、x=0.2、一次粒子の平均粒子径0.44μm
塩基性炭酸カルシウムC:市販品、x=0.5、一次粒子の平均粒子径0.44μm
塩基性炭酸カルシウムD:市販品、x=0.8、一次粒子の平均粒子径0.44μm
塩基性炭酸カルシウムE:市販品、x=1.0、一次粒子の平均粒子径0.45μm
塩基性炭酸カルシウムF:市販品、x=2.0、一次粒子の平均粒子径0.45μm
塩基性炭酸カルシウムG:市販品、x=3.0、一次粒子の平均粒子径0.46μm
炭酸カルシウムH:市販品、重質炭酸カルシウム、x=0、一次粒子の平均粒子径0.30μm、比較例
水酸化カルシウムI:市販品、一次粒子の平均粒子径0.48μm、比較例
分散剤α:市販品、ポリアクリル酸塩系、固形分45%
水:水道水
【0036】
<測定方法>
x(2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2O中のx):化学分析により、CaOとC(炭素量)の分析値を測定し、xを算出した。
一次粒子径の平均粒子径:レーザー回折散乱式粒度分布測定装置にて測定。試料に超音波をかけて測定した。
硬化時間:注入材をビニル袋に入れ、流動性が無くなるまでの時間を測定した。
浸透性:直径5cmの土木学会基準ビニル袋に豊浦硅砂を20cmになるように充填し、作製した注入材1リットルを上部面より静かに注ぎ入れ自然浸透させ、浸透長さを測定した。
ホモゲル強度:注入材を4×4×16cmの型枠に流し込み、20℃で所定期間湿空養生し、JISR 5201に準じ、圧縮強さを測定した。
pH値:材齢28日後の4×4×16cm供試体を1mm以下に粉砕し、粉砕した供試体100gを1リットルの水に入れ、20℃で3日間経過後の水のpH値を測定した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、塩基性炭酸カルシウムの2CaCO
3・xCa(OH)
2・nH
2O中のx及び使用量には最適値があり、最適値で硬化時間、浸透性、ホモゲル強度、pH値が総合的に良好となる。炭酸カルシウムを使用した場合、注入材は硬化せず、強度が小さい。
水酸化カルシウムを使用した場合、瞬結し、浸透性を示さない。
【0039】
実験例2
塩基性炭酸カルシウムDを二酸化ケイ素100部に対して50部としたこと、二酸化ケイ素100部に対して表2の水量として懸濁液1としたこと、塩基性炭酸カルシウム100部に対して表2の水量として懸濁液2としたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。硬化時間、浸透性、ホモゲル強度、pH値の結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2より、水量が大きくなるにつれて硬化時間が長くなり浸透性が良好となるが、ホモゲル強度が低下する傾向が認められる。
【0042】
実験例3
塩基性炭酸カルシウムDを二酸化ケイ素100部に対して50部としたこと、表3の二酸化ケイ素を用いたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。硬化時間、浸透性、ホモゲル強度、pH値の結果を表3に示す。
【0043】
<使用材料>
二酸化ケイ素b:電気化学工業製、球状シリカ、SiO
2成分99%、一次粒子の平均粒子径0.10μm
二酸化ケイ素c:電気化学工業製、球状シリカ、SiO
2成分99%、一次粒子の平均粒子径0.50μm
二酸化ケイ素d:電気化学工業製、球状シリカ、SiO
2成分99%、一次粒子の平均粒子径1.0μm
二酸化ケイ素e:電気化学工業製、球状シリカ、SiO
2成分99%、一次粒子の平均粒子径3.5μm
二酸化ケイ素f:市販品、シリカフューム、SiO
2成分92%、一次粒子の平均粒子径0.50μm
シリカゾルg:市販品、SiO
2成分95%以上、一次粒子の平均粒子径0.01μm
【0044】
【表3】
【0045】
表3より、二酸化ケイ素の種類、平均粒子径に最適値があり、最適値で硬化時間、浸透性、ホモゲル強度、pH値が総合的に良好となる。
【0046】
実験例4
二酸化ケイ素a100部と水200部を攪拌ミルで混合し懸濁液1とし、塩基性炭酸カルシウムD100部と水200部を湿式粉砕機(ホソカワミクロン社ディスパミル)にて混合し懸濁液2とした。懸濁液1と懸濁液2を1:1の容積比で二重管ダブルパッカー工法にて透水係数10
-3cm/sの細砂土壌に注入した。7日後に注入した改良体を直径5cm×長さ10cmに切り出し、圧縮強度を測定した。改良前の細砂土壌の圧縮強度が0.0N/mm
2であったのに対し、改良後の圧縮強度は5.6 N/mm
2と高い値を示した。さらに、供試体を1mm以下に粉砕し、粉砕した供試体100gを1リットルの水に3日間入れた後の水のpH値は、改良前の細砂土壌が7.4であったのに対し、改良後のpH値は7.9と同等の値を示した。
一方、比較例として、溶液型である水ガラス系注入材を同様に細砂土壌に注入した。圧縮強度は、0.8 N/mm
2と低く、pH値は12.8と高い値を示した。
【0047】
本発明は、例えば、ダム、トンネル、都市土木等の基礎地盤の遮水性、変形性及び耐久性等の改良を行うための低アルカリ型の注入材に使用できる。
【0048】
本発明は、従来の懸濁型注入材よりも良好な浸透性を有し、ホモゲル強度は従来の溶液型よりも高い強さを示し、耐久性に優れる等の効果が得られる。さらに、低アルカリ型であるため、環境への負荷が低減される。
【0049】
本発明の注入材は、従来の溶液型注入材にはない耐久性を備えた注入材である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により、従来懸濁型注入材が不得意とした細砂やシルト、あるいは岩盤に生じている極めて小さな亀裂部にも浸透可能で、高耐久の注入材を提供することができる。又、水ガラス系注入材に比べpH値が低いことから、環境への負荷が小さく、広い範囲への展開が図られる。