(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基板を少なくとも2種の気相反応物に順に又は交互に接触させてポリマー鎖を形成させる工程から成る、基板上に有機ポリマー又は有機−無機ポリマーの超薄層を形成させるための分子層堆積法であって、
a)各気相反応物は、自己重合せず、ポリマー鎖上に形成された官能基と単官能性のみで反応し、該ポリマー鎖上に形成された官能基は、別の気相反応物がポリマー鎖に結合を形成する反応後に、ポリマー鎖上に形成され、該各気相反応物は、該ポリマー鎖と結合して、新規な官能基又は新規な官能基の前駆体を生成し、
b)気相反応物が過剰な場合、次の気相反応物が導入される前に過剰な気相反応物が除去され、かつ
c)該ポリマー鎖が、有機ポリマー又は有機−無機ポリマーである、
分子層堆積法。
各気相反応物が気体であるか、又はこのような気相反応物の反応が行われる温度において、少なくとも100ミリトル(13.3Pa)の蒸気圧を有する請求項1に記載の分子層堆積法。
少なくとも一つの気相反応物が、二つの異なる反応基を持ち、そのうちの一つが、ブロックされ、マスクされ、又は保護され、このブロック、マスク又は保護が解除されるまでは反応できず、基板に別の気相反応物が接触する前に、このブロック、マスク又は保護基が除去される化合物である請求項1〜4のいずれか一項に記載の分子層堆積法。
少なくとも一つの気相反応物が、第1の官能基及び官能基の前駆体を持ち、これらが更なる反応を行なって第2の官能基を生成することができ、かつ基板に別の気相反応物が接触する前に、この官能基の前駆体が官能基に変換される請求項1〜7のいずれか一項に記載の分子層堆積法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
A.分子層堆積方法
本発明によれば、分子層堆積法によって、基板材料を一つ又はそれ以上の気相反応物に曝露させることにより、有機ポリマー又は有機−無機ポリマーが作製される。
この分子層堆積法は、いくつかの特徴を持つ。全ての試薬(反応物)は、気相で使用される。複数の反応物が用いられる場合、その試薬は基板に、同時ではなく、連続して、即ち、代わる代わるに、塗布される。過剰な試薬があった場合には、次の試薬が導入される前に、反応域から除去される。このことは典型的には、各反応物の投与後、この反応域を高真空で吸引すること及び/又は不活性なパージガスでパージすることにより行なわれる。過剰な試薬をこのようにして除去することは、基板の表面以外の場所で、たとえば気相中で、反応が起こることを防止する。気相で反応が起こることは、それによりポリマー粒子や液滴が形成し、基板(及反応容器の表面)上に濃縮し沈殿するので、望ましいことではない。この濃縮により、堆積するポリマーの厚さ不均一になるなどの避けるべき問題が引き起こされる。試薬を連続して添加し、次の試薬を反応域に導入する前に過剰な試薬を除去することは、望ましくない気相反応を最小限にする又は防止することができる。
【0017】
分子層堆積法で生成する全ての副生成物は、この方法が行なわれる温度において、気相であるか、又はその蒸気圧が少なくとも1ミリトル(0.133Pa)、好ましくは100ミリトル(13.3Pa)、より好ましくは1トル(133Pa)であることが望ましい。このことは、反応域から副生成物が除去され、かつ副生成物が基板や反応容器の表面上に濃縮することを防止又は最小化することを促進する。反応の副生成物は、上記の方法により、次の試薬が反応域に導入される前に除去される。
【0018】
分子層堆積法が行なわれる温度は、反応物と基板による。反応物の蒸気圧が少なくとも1ミリトル(0.133Pa)、好ましくは100ミリトル(13.3Pa)、より好ましくは1トル(133Pa)であれば、温度は十分に高い。反応物が基板上の表面種と反応すれば、温度はまた十分に高い。基板上の反応物が熱的に劣化するほど温度は高くてはいけない。分子層堆積法の間に基板が湾曲しないように温度は十分に低くなければならない。適当な温度範囲は、273°K〜1000°K、好ましくは273°K〜500°K、より好ましくは300°K〜450°Kの範囲である。
用いられる気相反応物は、反応が行なわれる温度において、気相であるか、又はその蒸気圧が少なくとも1ミリトル(0.133Pa)である。気相反応物は、この温度において、その蒸気圧が、好ましくは100ミリトル(13.3Pa)、より好ましくは1トル(133Pa)である。
【0019】
この分子層堆積法の第2の特徴は、気相反応物が、基板の表面上の官能基又は成長するポリマー鎖の官能基に反応して、基板又は成長するポリマー鎖に結合することができることである。第3の特徴は、気相反応物が、基板又は成長するポリマー鎖に反応する際に、(1)他の気相反応物が反応してポリマー鎖を伸ばすことのできる官能基(ブロック、マスク又は保護されていてもよい)、又は(2)このような官能基の前駆体、を形成することである。
ほとんどのケースにおいて、第4の特徴は、気相反応物が、基板又は成長するポリマー鎖に単官能性でのみ反応することである。即ち、気相反応物上のただ一つの基又は部分が、反応条件下において、基板又は成長するポリマー鎖と反応する。このことは、気相反応物が、多官能性で反応する場合に起こる可能性のある、望ましくない架橋反応や鎖停反応を防止する。反応の最中に反応物が唯一つのポリマー鎖を形成し、かつ反応条件下で自己重合しない場合に、気相反応物は単官能性に反応すると考えられる。後に詳しく説明するが、本発明のある実施態様において、気相反応物が少なくとも一つの追加官能基を含んでいる場合に限り、基板又は成長するポリマー鎖と二能性で反応することのできる気相反応物を用いることができる。本発明に実施においては、ほぼ同じ反応性を持つちょうど二つの官能基を持つ反応物は避けることが好ましい。
【0020】
適当な気相反応物の第1のクラスとして、二つの異なる反応基を持つ化合物であって、このうちの一つの反応基が、基板又はポリマー鎖上の官能基と反応し、もう一方の反応基が、基板又はポリマー鎖上の官能基とは反応しないが、異なる気相反応物が供給した官能基と反応する化合物が挙げられる。このクラスの反応物の例として次のものが挙げられる:
a)ビニル又はアリル不飽和基を有するヒドロキシル化合物。この化合物は、カルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、又はシロキサン基と反応して、エステル又はケイ素−酸素結合を形成し、ポリマー鎖にビニル又はアリル不飽和基を導入することができる。一方、この不飽和基は、1級アミノ基とマイケル反応を起こして、ポリマー鎖を延長し、この鎖に水酸基を導入することができる。
b)アミノアルコール化合物。このアミノ基は、カルボキシル基、カルボン酸塩化物、ビニル基若しくはアリル基、又はイソシアネート基と反応し、たとえば、ポリマー鎖を延長し、この鎖に水酸基を導入することができる。一方、この水酸基は、シロキサン種と反応して、ケイ素−酸素結合を形成し、遊離の1級又は2級のアミノ基を導入することができる。
【0021】
適当な気相反応物の第2のクラスとして、開環反応を起こすことのできる様々な環状化合物が挙げられる。この開環反応により、新規な官能基が生成し、この官能基はこの環状化合物とは直ちに反応しない。この環状化合物の例として次のものが挙げられる:
a)環状アザシラン。この化合物は水酸基と反応して、ケイ素−酸素結合を形成し、遊離の1級又は2級のアミノ基を生成することができる。
b)環状カーボネート、ラクトン及びラクタム。カーボネートは1級又は2級のアミノ基と反応して、ウレタン結合を形成し、遊離水酸基を生成することができる。ラクトンとラクタムは1級又は2級のアミノ基と反応して、アミド結合を形成し、それぞれ遊離水酸基又は遊離アミノ基を生成することができる。
【0022】
気相反応物の第3のクラスとして、2つの異なる反応基を有する化合物であって、この両方の反応基がポリマー鎖上の官能基と反応するが、この2つの反応基のうちの一方がこの官能基とより反応する化合物が挙げられる。このことにより、より反応性の基はポリマー鎖上の官能基と反応し、より反応性でない基は反応しないままになって、別の気相反応物と反応することができることになる。
【0023】
気相反応物の第4のクラスとして、2つの反応基を有する化合物であって、この2つの反応基のうちの一方がブロックされ、マスクされ、又は保護され、このブロック、マスク又は保護が解除されるまでは反応することのできない化合物が挙げられる。このブロックする基又は保護基を、いくつかのケースでは化学的に除去することができ、他のケースではブロックしていた反応基を生成させるために熱的にブロックする基を分解し、又は可視光や紫外光でその基を照射し、又は光化学反応により、除去することができる。保護されていない基は、例えば、アミノ基、無水物基、水酸基、カルボン酸基、無水カルボン酸基、カルボン酸エステル基、イソシアネート基などであってもよい。保護された基は、保護基が除去された後で、上記に挙げたタイプのいずれかの官能基を生じるような基であってもよい。
【0024】
この第4のクラスの気相反応物は、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、−CH
2OCH
3又は同様の基などで保護されている水酸基を有していてもよい。これらの場合、この水酸基は様々な方法で、例えば、HCl、エタノール又はいくつかのケースでは光照射により、脱保護されることができる。カルボキシル基は、−CH
2SCH
3、t−ブチル基、ベンジル基、ジメチルアミノ基、又は同様の基などで保護されていてもよい。これらの基は、トリフロロ酢酸、蟻酸、メタノール又は水のような化合物で処理することにより脱保護することができる。アミノ基はR−OOC−のような基で保護することができ、これはトリフロロ酢酸、ヒドラジン又はアンモニアと反応することにより除去することができる。イソシアネート基は、蟻酸や酢酸のようなカルボキシル化合物で保護することができる。
【0025】
第5のクラスの気相反応物は、第1の官能基と、第2の官能基を生成するために更なる反応が行なわれる前駆体基を含む。このようなケースでは、第1の官能基は反応してポリマー鎖に結合し、次に前駆体基で反応が起きて第2の官能基を生成する。この第1の官能基は、前に記した如何なるタイプのものであってもよく、シロキサン基、アミノ基、無水物基、水酸基、カルボン酸基、無水カルボン酸基、カルボン酸エステル基、イソシアネート基などであってもよい。広範囲の前駆体基が、このタイプの反応物上に存在する。
【0026】
この前駆体基は、それ自体ではポリマー鎖とは反応しないが、別の気相反応物と反応してこのポリマー鎖を延長することのできる官能基に変換されることができる。2つの顕著な前駆体基として、ビニル及び/又はアリル不飽和基とハロゲン置換体、特に塩素又は臭素とがある。ビニル及びアリル不飽和基は、様々な反応により、官能基に変換される。これらはオゾン又は過酸化物と反応して、カルボン酸又はアルデヒドを形成することができる。またこれらはアンモニア又は1級アミンと反応して、アミン又はイミンを生成することができる。ハロゲン類は、種々の官能基と置換されることができる。これらは、アンモニア又は1級アミンと反応して、アミノ基を導入することができ、望むのであれば、これは更にホスゲンと反応してイソシアネート基を生成することができる。
【0027】
前駆体基を官能基に変換するためや、官能基を脱マスク又は脱保護するために用いられる反応物は、気相で導入され、かつ上記で他の反応物について記載されたような蒸気圧を有するべきである。このような他の反応物が分子層堆積法で反応して生成する反応生成物もまた、ここで記した蒸気圧を有するべきである。以前と同様に、過剰なこのタイプの反応物は、典型的には、反応域を高度に真空にして、若しくはパージガスで容器をパージして、又はこれら両方により、次の反応物を導入する前に除去される。反応副生成物は、次の反応物を反応域に導入する前に、同様の方法で除去される。
【0028】
この他の多数の気相反応物を同様の方法で用いることができるが、以下これらを単に例証する。
本発明の方法は、ホモポリマー(即ち、-(A)
a-の形のポリマー)又は、例えば、-(A-B)-、-(A-B-C)-、-(A-B-C-D)-、-(A-B)
x-(E-B)
y-、-(A)
a-(B)
b-又は-(A-B)
x-(C-D)
y-(式中、A、B、C、D及びEは異なる繰り返し単位を表し、xとyは正数を表し、aとbは少なくとも2の数を表す。)のいずれかの形であるポリマーを生成するため用いることができる。
【0029】
ホモポリマーは、上記の第4クラス又は第5クラスの気相反応物を用いて本発明に従って作製することができる。このタイプの反応物は、基板上又は成長するポリマー鎖上の官能基と反応して、結合を生成し、ポリマー鎖を伸ばす。同時に、このポリマー鎖上に、官能基の前駆体又はマスクされた若しくは保護された官能基が導入される。引き続いて起きる反応により、このポリマー鎖上に新規な官能基が形成され、この新規な官能基は他の加えられた気相反応物と反応することができ、更にこのポリマー鎖を伸ばす。このプロセスは、下記の反応機構によって例証される。
【化1】
【0030】
ここで、段階IBとICは所望のポリマーの分子量が得られるまで繰り返される。
反応IA〜ICにおいて、Sは基板表面を表し、ZとWは、それぞれ離脱する基を表す。Prは官能基の前駆体又はマスクされた若しくはブロックされた官能基を表し、これらは変換又は脱マスク若しくは脱ブロックした後、離脱する基Zを含む官能基を形成する。
*は反応座を表す。段階IAにおいて、W−A−Pr分子のPr基でなくW基は、基板の表面のZ部分を追い出して、それと結合を形成する。ZWは、反応副生成物として形成され、次の反応段階が行われる前に除去される。段階IBにおいて、Pr基は、他のW−A−Pr分子と反応することのできる官能基に変換される。段階IBは、W−A−Pr分子の性質によって様々な方法で行なうことができる。前と同様に、いかなる反応副生成物も、次の段階が行われる前に除去される。段階ICにおいて、他のW−A−Pr分子が導入され、これはポリマー鎖と反応して、このポリマー鎖を伸ばし、再びZ部分を追い出して、反応副生成物としてZWを形成する。
【0031】
-(A)
a-(B)
b-タイプのコポリマーは、同様の方法で合成することができる。W−A−Prで表される気相反応物を用いて、予め決められた反応サイクルを行なった後で、W−B−Prで表される気相反応物を用いて、引き続き反応を行なう。ここでWとPrは上記で定義したとおりである。このプロセスは、同様の方法で延長することができ、2,3,4又はそれ以上のタイプの繰り返し単位を用いてマルチブロックコポリマーを形成することができる。
【0032】
-(A-B)-タイプのポリマーは、以下の反応順序で合成することができる。
【化2】
ここで、段階IIBとIICは所望のポリマーの分子量が得られるまで繰り返される。
反応IIAとIICにおいて、W基(X基ではない)は、表面種であるS−Z
*又はB−Z
*と反応して、A−X基を導入する。段階IIBにおいて、Y基(Z基ではない)は、表面種であるS−A−X
*と反応して、B−Z
*表面種を残す。
反応IIA〜IICにおいては、第1から第4クラスまでの反応物のいかなるメンバーをも用いることができる。反応IIA〜IICにおいて用いられるW−A−X反応物又はY−B−Z反応物のいずれか又は両方が、上記第4又は第5クラスの反応物である場合には、場合によっては、前駆体基又はマスクされた若しくはブロックされた官能基を、反応性の官能基に変換するための1又はそれ以上の中間段階を導入することが必要になるであろう。
【0033】
-(A-B)
x-(E-B)
y-タイプのコポリマーは、同様の方法で合成することができる。W−A−X及びW−B−Xで表される気相反応物を用いて、予め決められた反応サイクルを行なった後で、W−A−Xの代わりにW−E−Xで表される反応物を用いて、引き続き1又はそれ以上の反応サイクルを行なう。再び、同じコンセプトを同様に続けてより複雑なタイプのコポリマーを製造できる。
【0034】
-(A-B-C)-タイプのポリマーは、3つの異なる気相反応物を用いて、本発明に従って、3段階の反応サイクルを行なうことにより合成することができる。この反応機構は、下記の反応機構によって例証される。
【化3】
【0035】
ここで、段階IIIB、IIIC及びIIIDは所望のポリマーの分子量が得られるまで繰り返される。
反応IIIA〜Dにおいて、Z、T、V、W、X、Y及びZはすべて離脱する基を表し、A、B及びCはポリマー鎖の繰り返し単位を表し、Sは基板表面上の原子又は基を表し、
*は反応座を表す。段階IIIAとIIIDにおいて、T基(V基ではない)は、表面種であるS−Z
*又はC−Z
*と反応して、A−V基を残して、ポリマー鎖を伸ばす。段階IIIBにおいて、W基(X基ではない)は、表面種であるS−A−V
*と反応して、B−X
*表面種を残す。段階IIICにおいて、Y基(Z基ではない)は、表面種であるB−X
*と反応して、C−Z表面種を残す。反応IIIA〜Dにおいて、第1から第5クラスまでの反応物のいかなるメンバーをも用いることができる。反応IIIA〜Dにおいて用いられるT−A−V、W−B−X又はY−C−X反応物にいずれかが、上記第4又は第5クラスの反応物である場合には、場合によっては、前駆体基又はマスクされた若しくはブロックされた官能基を、反応性の官能基に変換するための1又はそれ以上の中間段階を導入することが必要になるであろう。
【0036】
驚くべきことに、少なくとも3つの異なる気相反応物を含む一つの反応サイクルにおいて、これらの気相反応物のうちの一つが第6クラスの材料であってもよいことがわかった。この第6クラスの材料とは、(a)成長するポリマー鎖に同様に反応することのできる2つの官能基を有し、かつ(b)少なくとも1つの追加の官能基(前記の官能基と同じであってもよい)、官能基の前駆体、又はマスクされ若しくは保護された官能基を有する。この第6クラスの反応物には、3つ又はそれ以上の同じ官能基を持つもの(トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウムなど)、又は少なくとも2つの同じ官能基を持ち、かつ少なくとも1つの他の官能基、官能基の前駆体、又はマスクされ若しくは保護された官能基を有するものなどがある。反応サイクルが少なくとも3つの異なる気相反応物を含み、多くともこのうちの一つが上記第6クラスの反応物である限り、このタイプの反応物は重合反応を停止又は減速させる傾向がほとんど無いことがわかってきた。
【0037】
上記第6クラスの反応物を一つ含む反応の例として下記の反応を挙げることができる:
【化4】
【0038】
上記と同様に、段階IVB、IVC及びIVDは所望のポリマーの分子量が得られるまで繰り返される。
反応IVA〜Dにおいて、Z、T、W、X、Y及びZはすべて離脱する基を表し、A、B及びCはポリマー鎖の繰り返し単位を表し、Sは基板表面上の原子又は基を表し、
*は反応座を表す。段階IVAとIVDにおいて、1つ又は2つのT基は、表面種であるS−Z
*又はC−Z
*と反応して、A−T
*表面種を残して、ポリマー鎖を伸ばす。段階IVBにおいて、W基(X基ではない)は、表面種であるS−A−T
*と反応して、B−X
*表面種を残す。段階IVCにおいて、Y基(Z基ではない)は、表面種であるB−X
*と反応して、C−Z
*表面種を残す。
これまで記載したものに加えて、気相反応物と添加の順序を変えることにより、他のポリマータイプもまた可能である。
【0039】
本発明のMLD反応の例を
図1に模式的に示す。この反応は、上記の反応IIA〜IIBで示す反応サイクルをたどるものである。ここで、両方の前駆体は上記第2クラスの気相反応物、即ち、開環反応を起こすものである。この例において、2,2−ジメトキシ−1,6−ジアザ−2−シラシクロオクタン(環状アザシラン、以下「AZ」という。)はエチレンカーボネートと反応し、ポリウレタン結合を形成する。第1段階で、AZは水酸基官能性の表面と反応して、ケイ素−酸素結合を形成する。更に、AZは開環して1級アミン表面種を残す。第2段階では、エチレンカーボネートが、この1級アミンと反応して、ポリウレタン結合を形成する。このエチレンカーボネートは引き続いて開環して、表面に水酸基を残す。
【0040】
この反応はFTIRを用いて追跡することができる。出発物質であるSiO
2パウダーのスペクトルは、表面上で孤立する水酸基のO−H伸縮振動による3745cm
−1の鋭いピークを示す。AZの反応後、この孤立する水酸基の振動ピークは消え、窒素−水素伸縮(〜3745cm
−1)、炭素−水素伸縮(〜2880cm
−1)及びアミン変形(〜1450cm
−1)による強い吸収を示す。これらの赤外域の特徴はAZの反応後に予想されたものである。エチレンカーボネートの反応により、窒素−水素伸縮と炭素−水素伸縮のピークが強まり、アミン変形のピークがシフトする。さらに、エチレンカーボネート分子のカルボキシル基に由来して〜1715cm
−1に強いピークが観察される。再度引き続くAZとの反応により、窒素−水素伸縮、炭素−水素伸縮及びアミン変形の増加が観察される。
【0041】
本発明のMLD反応の別の例を
図2に模式的に示す。ここでは、上記の反応IIIA〜IIIDで示した反応サイクルが採用されている。この反応物は、トリメチルアンモニウム(TMA, Al(CH
3)
3)、エタノールアミン(EA, HO-CH
2CH
2-NH
2)及び無水マレイン酸(MA, C
4H
2O
3)である。TMA、EA及びMAは、それぞれ第6、第3及び第2クラスに属する気相反応物である。この反応順序において、A反応でTMAは水酸基と反応してAl−CH
3表面種を形成する。次に、B反応でEAがAl−CH
3表面基と反応してAl−O−CH
2CH
2−NH
2表面種を形成する。次に、C反応でMAがアミン−NH
2表面基と反応して表面に水酸基を再生する。このABC---順序はTMA、EA及びMAに曝露することにより繰り返される。
【0042】
この反応順序は、FTIR振動分光法を用いて観察することもできる。C−H及びN−H伸縮振動とアミドIとアミドIIの振動は、ABCサイクルを繰り返す間に成長することが観察される。例えば、2800〜3000cm
−1の間のC−H伸縮振動の全体吸収はABCサイクルの数に一次に比例して増加する。ABC順序の間の各表面反応もまたFTIRを用いて観察することができる。TMA−MAのFTIRの差スペクトルは、Al−CH
3表面種に由来するC−H伸縮振動の予想された増加とA反応後のOH伸縮振動の減少を示す。EA−TMAのFTIRの差スペクトルは、B反応後のN−H伸縮振動と新規CH
2表面種に由来するC−H伸縮振動の増加を示す。MA−EAのFTIRの差スペクトルは、C反応後のO−H伸縮振動とアミドIとアミドIIの振動の増加を示す。
【0043】
MLD反応の別の例を
図3に示す。この例において、両方の前駆体は上記第4クラスに属する。即ち、これらはマスクされた又は保護された官能基を有する。しかし、各分子上に存在するマスク基又は保護基は異なる方法により除去される。第一段階において、水酸基を有する表面は、3(1,3−ジメチルブチリデン)アミノプロピルトリエトクシシラン(PS)に曝露される。このPSは、シロキサン結合により表面に結合する。保護基は、除去されるまで、−NH
2官能基を隠している。PS表面が水に曝露されると、保護基は除去される。水はイミン部分と反応して、4−メチル−2−ペンタノンを放出する。この反応の結果、表面に1級アミンが残る。
次に、この表面は、1−(o−ニトロベンジル)−3−オキシヘプタノイルクロライドのような酸塩化物に曝露される。この酸塩化物前駆体はアミド結合を介して表面に結合する。この結合の結果、表面はニトロベンジル基により保護される。このニトロベンジル基は、水酸基を隠している。320nmの紫外線照射により、この水酸基は脱保護される。
この紫外線はニトロベンジル基を除去し、隠されていた水酸基が現れる。次に、PSに曝露することにより反応が進む。
【0044】
-A-B-型の無機−有機ポリマーの例として、
図4に示すトリメチルアンモニウム(TMA)と前駆体として3−ブテン−1−オルを用いて形成されるものが挙げられる。この例において、3−ブテン−1−オルは、第5クラスの前駆体であり、水酸基とビニル基を含む。この水酸基は表面上のTMA前駆体と反応する。このビニル基は、この反応機構において、官能基前駆体であり、オゾンによる酸化により官能基(カルボキシル基又はアルデヒド基)に変換される。
この反応は、
図4に示す水酸基を有する表面から始まる。次に、
図4のBにおいて、TMAを用いてアルミニウム層が堆積する。次に、
図4のCにおいて、表面が3−ブテン−1−オルに曝露される。この分子末端の水酸基がTMAのアルミニウム原子と反応してA−O結合を形成する。この反応によりメタンは追い出される。この反応の間に、3−ブテン−1−オルの他端の二重結合は表面から離れる方向に向く。3−ブテン−1−オルと反応した結果、FTIR振動スペクトルは、末端二重結合のC−H伸縮振動に相当する3084cm
−1の特徴あるピークを示す。炭素−炭素二重結合の伸縮に相当する別のピークが1642cm
−1に観察される。
【0045】
末端二重結合は、
図4のDに示すように、オゾンに曝露されることにより活性化されて、カルボン酸基を形成する。この二重結合が反応し、カルボン酸基が形成されるに従って、3084と1642cm
−1の両ピークは消滅し、新規な振動が〜1550cm
−1に観察される。
次に、このカルボン酸基中の水酸基は再びTMAと反応することができる。前に述べたように、この反応はFTIRを用いて追跡することができる。TMAによりメチル基が導入されたことは、1217cm
−1のメチル基の炭素-水素変形と2933cm
−1のメチル基の炭素-水素伸縮により示される。このAl−O伸縮はまた、差スペクトルにおいて、906〜833cm
−1のブロードなピークとして観察される。表面にTMAが堆積するにつれて、3689cm
−1の水酸基を有する表面のO−H伸縮振動が減少する。
【0046】
B.有機−無機ナノコンポジット
本発明を別の観点からみると、ポリマー堆積についてのMLDのアプローチを、無機材料を成長させるためにADL法と組み合わせることにより、有機−無機複合材料を作ることができる。これらの複合材料は、無機材料のブロックが有機ポリマーのブロックから分離しているブロック又は多ブロックコポリマーに似ている。これらは、無機層を多層に堆積し、続いて有機材料の多層を堆積することにより形成される。このコンポジットフィルムの機械的性質、熱的性質、電気的性質、光学的性質及び化学的性質は、異なる有機/無機組成や異なる有機及び無機層の厚さを組み合わせることにより調整することができる。
【0047】
上記の有機反応物を、従来のALD反応物と一緒に使用して、無機−有機ナノコンポジットを形成することができる。このような従来のALD反応物の例として、トリメチルアンモニウム(Al
2O
3aを形成するため)、四塩化ハフニウム(HfO
2を形成するため)、四塩化ケイ素(SiO
2を形成するため)、四塩化チタン(TiO
2を形成するため)、ジエチル亜鉛(ZnOを形成するため)、テトラ(ジエチルアミノ)ジルコニウム(ZrO
2を形成するため)などが挙げられる。この有機反応物は、無機層の表面の官能基を反応できるものである必要があり、更に無機反応物が反応して有機層の表面に共有結合を形成できるような官能基を(直接又は間接に)提供できるものでなければならない。
【0048】
このタイプの有機−無機コンポジットの特定例を、ABCポリマー層とアルミニウムの層を交互に堆積することにより作製することができる。このABCポリマー層は、
図2に示すように、トリメチルアルミニウム(TMA, Al(CH
3)
3)、エタノールアミン(EA, HO-CH
2CH
2-NH
2)及び無水マレイン酸(MA, C
4H
2O
3)を用いて作ることができる。このABCポリマー層を堆積した後で、トリメチルアルミニウム(TMA)と水に順に曝露することにより、アルミニウム層が堆積される。アルミニウム層を堆積した後で、更に必要に応じてABCポリマー層を堆積することができる。更に必要に応じてアルミニウム層を堆積して、多層のABCポリマー/Al
2O
3を形成することができる。
【0049】
以前述べたように、これらの多層の形成を、FTIR分光法でモニターすることができる。Al
2O
3のバルク振動特性の吸収は、FTIRスペクトルの600〜1000cm
-1に現れる。各Al
2O
3ALD層の成長と共に、この領域の吸収は増える。ABCポリマーの形成は、2800〜3000cm
-1のC-H伸長振動特性と1650及び1560cm
-1のアミド振動特性により明らかになる。各ABCポリマー層の成長と共に、この領域の吸収は増える。
【0050】
ABCポリマー/Al
2O
3ナノアルミン酸塩のようなハイブリッド多層構造は、H
2OやO
2の透過を防ぐためのガス拡散障壁として有用である。高性能のガス拡散障壁は、柔軟性有機発光ダイオードを開発するために重要である。またこの有機−無機コンポジットは、非常に望ましい機械的特性を示す。無機層は硬く、有機層は柔軟性がある。有機−無機多層は、軟体動物の殻の真珠光沢のようであり、自然界の最強の構造物の一つである。また、この有機−無機コンポジットは、ポリマー特性を調整するために用いることができる。この2層の相対比を変えることにより、ポリマー特性を、"混合物の法則"に従って、望むように調整することができる。
【0051】
C.リアクターのデザイン
また本願発明は、MLD反応を行うための反応容器である。この反応容器は、反応域、2又はそれ以上のMLD前駆体をこの反応域に別々に導入するための複数の入口、過剰なMLD前駆体をこの反応域から別々に除くための複数の出口、及びこの反応域の壁を加熱するための手段を含む。
このような反応容器の一具体例を
図5に示す。リアクター1は、ヒーター4に囲まれた反応域2を有する。ヒーター4は、反応域2の壁を、その壁やこの反応容器のその他の内面に反応物が堆積するのを防止するために十分に高い温度に保つ。種々の導管や下記の出口の内面のような、その他の内面もまた、反応物が堆積するのを防止するために十分に高い温度に保たれねばならない。任意に圧力センサー17を反応域2内に置いてもよい。
【0052】
塗布されるべき基板を、例えば、位置3(光学的FTIR装置で観察することのできる場所)又は位置18に保持することができる。
図5に示すように、この反応容器は、二重のポンプ/反応物除去システムを有する。出口5Aは、一つの過剰反応物を外に排出する。ポンプ6Aは、出口5Aを真空に吸引して、過剰な反応物を反応容器から排出する。出口5Aにはバルブ7Aが備わっており、このバルブ7Aは出口5Aを開閉する。同様に、出口6Bは、第2の過剰反応物を外に排出する。ポンプ6B及びバルブ7Bは、ポンプ6A及びバルブ7Aと同様の働きをする。前駆体がポンプに侵入する前にこの前駆体を除去するために、各ポンプに、冷却された真空トラップを備えることが好ましい。バルブ7A及び7B並びにポンプ6A及び6Bは、一つのタイプの過剰な反応物が出口5Aから排出され、別のタイプの過剰な反応物が出口5Bから排出されるように、操作される。反応の間、これらのポンプは、一つの前駆体が各ポンプから排出されるように、交互に開閉する。このようにして、重合反応は、リアクターの表面に限定されて起こる。これらのポンプをこのように分離したことにより、ポンプやそのラインの中で反応が起こることを防止し、その結果、ポンプの故障や、リアクターでの不純物の混合を防ぐことができる。
【0053】
各ポリマーの前駆体を別々のポンプに流すことに加えて、ゲートバルブ7A及び7Bにより、リアクターをフロー法又は静置法の両方で操作することが可能になる。蒸気圧が高い前駆体や反応性が高い前駆体を使用する場合、基板がこの前駆体に曝露されている間、このゲートバルブを開放する。そうすると、この前駆体はリアクターを通過して直ちに排出される。蒸気圧が低い前駆体や反応性が低い前駆体を使用する場合、基板がこの前駆体に曝露されている間、このゲートバルブを閉じる。このようにゲートバルブを閉じることにより、容器は閉じられて、前駆体は表面に反応することができる。このゲートバルブを開けると、前駆体は排出される。このようなデザインは、様々な蒸気圧や反応性を有する前駆体に応じて要求される反応条件を扱う柔軟性を付与する。
【0054】
複数の反応物が、8A、8B及び8Cの別々の源から供給され、これらはそれぞれ11A、11B及び11Cの導管を経由して反応域2に連結する。各導管は、それぞれバルブ13,14及び15で制御され、種々の前駆体が個別に反応域に導入される。
パージガスは、容器9からゲートバルブ12を経由して導管10に供給され、導管11A、11B及び11Cを経由して流れる。リアクターと前駆体が通る配管をキャリアーガスを用いてパージすることは、反応サイクルタイムを短縮してCVD条件を避けるために極めて有効である。このパージガスは通常N
2やArなどの不活性ガスである。このパージガスは、次の前駆体が堆積する前に、残留前駆体を反応室から一緒に除去するように働く。このパージガスは、マスフローコントローラーで制御するか、又は簡単にはバルブを用いて制御することができる。このパージガスは、静置法で堆積している間は、止められ、フロー法で堆積している間は、流されている。バルブ12を設けることにより、キャリアーガスを用いたフロー法又は静置法のいずれでも操作することができる。