特許第5717994号(P5717994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5717994信号抽出器及びこれを用いた信号測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5717994
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】信号抽出器及びこれを用いた信号測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/08 20060101AFI20150423BHJP
   G01R 29/00 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
   G01R29/08 F
   G01R29/00 F
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-170146(P2010-170146)
(22)【出願日】2010年7月29日
(65)【公開番号】特開2012-32202(P2012-32202A)
(43)【公開日】2012年2月16日
【審査請求日】2013年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】305027456
【氏名又は名称】ネッツエスアイ東洋株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博之
(72)【発明者】
【氏名】前多 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】岸部 英人
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−184465(JP,A)
【文献】 特開2007−129721(JP,A)
【文献】 特開2004−032585(JP,A)
【文献】 特開平11−258275(JP,A)
【文献】 特開平09−189723(JP,A)
【文献】 特開平03−274827(JP,A)
【文献】 特開2009−058428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 29/00
G01R 29/08
G01R 19/00−19/32
G01R 15/18
H04B 3/46−3/493
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の通信線上を流れる周波数帯域が100kHz〜15MHzの信号を抽出する信号抽出器であって、
第1及び第2のトロイダルコアと、
前記第1及び第2のトロイダルコアの中空部を交互に貫通するようにループ状に構成された測定用信号線とを備え、
前記一対の通信線の一方は前記第1のトロイダルコアの前記中空部を貫通しており、
前記一対の通信線の他方は前記第2のトロイダルコアの前記中空部を貫通しており、
前記第1及び第2のトロイダルコアの材料がMnFeを主成分とするマンガン系フェライトで、かつ前記測定用信号線のターン数が3ターン以上4ターン以下であり、100kHz〜15MHzの周波数帯域における前記信号抽出器の結合量が−15dB以上−9dB以下とな
とを特徴とする信号抽出器。
【請求項2】
請求項1に記載の信号抽出器と、
前記測定用信号線に流れる信号を観測する測定器とを備える
ことを特徴とする信号測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号抽出器及びこれを用いた信号測定装置に関し、特にメタル通信システムの故障切り分けに適した信号抽出器及び信号測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一対のメタル通信線を用いて差動伝送方式による通信を行うメタル通信システムが知られている。メタル通信システムは、主として構内通信用の自営通信網として用いられるもので、両エンドに設置されたモデム間を、一対の通信線で直接、又は主配線盤を介して接続する通信方式である。一対の通信線には、シールド付きのツイストペアケーブルが用いられる。また、周波数帯域としては、100kHz〜15MHzの低周波数帯域が用いられる。
【0003】
メタル通信システムでは、通信線の芯線が銅等の金属(メタル)で構成されることから、図5に示すように、通信距離が長いほど、或いは周波数が高いほど伝送路損失が大きくなる。そこで従来、上記低周波数帯域の中でも2MHz以下の帯域を積極的に用いることで、通信距離によらず一定以上の通信品質を確保している。低帯域化に伴って通信速度が低下するのはやむを得ないが、変調方式に工夫を重ねることで、ある程度の高速を確保できるようにしている。
【0004】
伝送路損失は、機器の故障により発生するノイズ(モデムや主配線盤で発生するノイズ)、近隣に設置される機器などから伝送路上に重畳される干渉波やノイズ、伝送路自体の劣化などによっても増大する。このような伝送路損失が発生している場合には、通信品質に大きな影響を与えることから、早急に原因を特定し、復旧することが求められる。
【0005】
伝送路損失の原因を特定するにあたっては、まず初めに、その原因となっている部分を切り分ける必要がある。具体的には、一方のモデムの端子付近にオシロスコープやスペクトラムアナライザなどの測定器を設置し、ノイズや受信信号のレベルを観測する。そして、予め測定しておいたメタル通信システム供用開始当初の状態と比較し、その変化の有無を確認する。変化が観測されれば伝送路側若しくは他方のモデム(対向モデム)に原因があると推定されるし、観測されなければ一方のモデム側に原因があると推定される。こうして原因部分を切り分けた後には、その部分の詳細な検査を行う。
【0006】
特許文献1には、電力線に1MHz〜30MHzの通信信号を重畳させて通信を行う電力線通信システムが開示されている。この通信システムでは、通信信号が重畳される一対の電力線と、モデムに接続された一対の通信線とを、一対のフェライトコアを用いて磁気結合させる。具体的には、一方の電力線と一方の通信線とを一方のフェライトコアによって挟み込むとともに、他方の電力線と他方の通信線とを他方のフェライトコアによって挟み込む。一対の通信線は、遠端側(モデムから遠い側の端部)で互いに接続される(折り返される)。この構成により、電力線への高周波信号の重畳を実現させている。
【0007】
特許文献2には、発電所や変電所に設置される電力線通信システムが開示されている。この通信システムでは、一端が送電経路につながる同軸ケーブルの他端に不平衡・平衡トランスが接続される。不平衡・平衡トランスは、同軸ケーブル内に流れる不平衡信号を平衡信号に変換し、フェライトコアにターンさせたツイストペアケーブルの一端に流す。そして、このツイストペアケーブルの他端にデジタル電力線搬送装置が接続される。これらの構成により、電気所内の機器から生ずるサージ雑音がデジタル電力線搬送装置に流入することを防止している。この技術は、コモンモードノイズフィルタとしてフェライトコアを使用するもので、2対の通信線を磁気結合させるためにフェライトコアを用いるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−295247号公報
【特許文献2】特開2008−311810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、メタル通信システムは、簡単には運用停止できない通信用途で利用されることが多い。そのため、上記のような切り分けを行おうとしても運用停止が許されない場合が多く、運用停止せずにノイズや受信信号のレベルを観測できるようにすることが求められる。
【0010】
そこで、本発明の発明者は、特許文献1に開示される磁気結合の仕組みを用いることを検討している。つまり、通信用の一対の導線(ツイストペアケーブル)と、測定器に接続された一対の試験用信号線とを、一対のフェライトコアを用いて磁気結合させることで、ツイストペアケーブルを流れる信号の一部を抽出して測定器に入力させ、そこからノイズや受信信号のレベルを取得することを検討している。こうすれば、非接触でノイズや受信信号のレベルを抽出できるため、運用中の通信にもそれほどの影響を与えることなく、ノイズや受信信号のレベルを観測可能になると考えられる。
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示される仕組みは、同文献の図2にも示されるように、低周波数帯域になるほど、測定器に入力される信号のレベル(観測レベル)が低くなるという性質を有している。特に2MHz以下の周波数帯域では極端に観測レベルが低くなり、実際上観測が不可能である。特許文献1のように電力線への重畳用として用いる分には、低周波数帯域で電力線と通信線の結合が弱くなっても、高周波数帯域でカバーすればよいためあまり支障はないが、上述したように2MHz以下の低周波数帯域を積極的に利用するメタル通信システムの試験用としては、2MHz以下の低周波数帯域の信号が観測できないことは致命的である。また、メタル通信システムの利用帯域が100kHz〜15MHzであることから、試験用としてはこの帯域全体に対応することが求められる。
【0012】
したがって、本発明の目的の一つは、100kHz〜15MHzの周波数帯域で一定の観測レベルが得られる信号抽出器及び信号測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明による信号抽出器は、一対の通信線上を流れる周波数帯域が100kHz〜15MHzの信号を抽出する信号抽出器であって、第1及び第2のトロイダルコアと、前記第1及び第2のトロイダルコアの中空部を交互に貫通するようにループ状に構成された測定用信号線とを備え、前記一対の通信線の一方は前記第1のトロイダルコアの前記中空部を貫通しており、前記一対の通信線の他方は前記第2のトロイダルコアの前記中空部を貫通しており、前記第1及び第2のトロイダルコアの材料がMnFeを主成分とするマンガン系フェライトで、かつ前記測定用信号線のターン数が3ターン以上4ターン以下であり、100kHz〜15MHzの周波数帯域における前記信号抽出器の結合量が−15dB以上−9dB以下となることを特徴とする。
【0014】
(削除)
【0015】
(削除)
【0016】
また、本発明による信号測定装置は、上記信号抽出器と、前記測定用信号線に流れる信号を観測する測定器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、100kHz〜15MHzの周波数帯域で概ね一定の観測レベルを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は、本発明の好ましい実施の形態によるメタル通信システムのシステム構成を示す図である。(b)は、(a)を、本発明の好ましい実施の形態による信号測定装置付近で拡大した図である。
図2】本発明の好ましい実施の形態によるモデムの一部分(接続端子付近)の外観を示す図である。
図3】本発明の好ましい実施の形態において、信号抽出器の結合量と、測定用信号線側にエネルギーを取り出すことによって生ずる一対の通信線側のエネルギー損失(挿入損失)との関係を示す図である。
図4】(a)(b)ともに、結合量の周波数特性を示すグラフである。
図5】メタル通信システムにおける通信距離及び周波数と伝送路損失との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1(a)は、本実施の形態によるメタル通信システム1のシステム構成を示す図である。また、図1(b)は、図1(a)を、本実施の形態による信号測定装置11付近で拡大した図である。また、図2は、本実施の形態によるモデム2aの一部分(接続端子付近)の外観を示す図である。
【0021】
メタル通信システム1は通信所間で一対一通信を行うために設置されるもので、図1(a)に示すように、A通信所内に設置されたモデム2aとB通信所内に設置されたモデム2bとが、A通信所内のMDF(主配線盤)3a及びB通信所内のMDF(主配線盤)3bを介して、一対の通信線4によって接続された構成を有している。
【0022】
一対の通信線4は具体的にはツイストペアケーブルであり、通信線4を構成する個々のケーブルは金属(メタル)線である。一対の通信線4の外側は、図2に示すシールド線12によって覆われている。一対の通信線4の各一端はそれぞれ、図2に示すように、モデム2aの接続端子L,Lに接続される。図示していないが、モデム2aの接続端子Lに接続される通信線4の他端はモデム2bの接続端子Lに接続され、モデム2aの接続端子Lに接続される通信線4の他端はモデム2bの接続端子Lに接続される。シールド線12は、モデム2a,2bの筐体に接続されることによりアースされる。
【0023】
メタル通信システム1の利用帯域は、上述したように100kHz〜15MHzである。したがって、一対の通信線4には、モデム2a,2bから100kHz〜15MHzの周波数を有する通信信号が供給される。
【0024】
メタル通信システム1には、図1(a)に示すように、信号測定装置11が設置される。信号測定装置11は、伝送路損失発生の原因を切り分ける目的で一時的に設置されるもので、切り分けが終了したら取り外される。通常、切り分け作業を行うのは、メタル通信システム1の保守担当者である。切り分け作業は、モデム2a,2bにおいてエラー過多の警報が出されたことなどを契機として開始される。切り分け作業を開始した保守担当者は、まず初めに信号測定装置11を設置し、通信線4上に重畳されたノイズやモデム2aが受信する受信信号のレベルを観測する。そして、観測結果に基づいて、伝送路損失発生原因の切り分けを行う。
【0025】
信号測定装置11は、図1(a)及び(b)に示すように、磁路部材5及び測定用信号線6からなる信号抽出器7と、測定器8と、これらを接続するためのバラン9及び同軸ケーブル10とを備えている。
【0026】
磁路部材5は、図1(b)及び図2に示すように、第1及び第2のトロイダルコア5a,5bからなる。第1及び第2のトロイダルコア5a,5bはいずれも磁性体であり、それぞれ中空部を有している。第1及び第2のトロイダルコア5a,5bの材質は、マンガン系のフェライト材料(MnFeを主成分とするフェライト)としている。マンガン系のフェライト材料を採用するのは、特に2MHz以下の低周波数帯域での観測を好適に行えるようにするためである。この点についての詳細は後述する。
【0027】
第1及び第2のトロイダルコア5a,5bはそれぞれ半円状の2つの部材の組み合わせからなる。これら2つの部材は分解可能に構成されており、一旦分解して中空部にケーブルを挟み、その後組み立て直すことで、既設の通信ケーブルを中空部に貫通させられるように構成されている。保守担当者は、この特徴を利用して、既設の通信ケーブルである一対の通信線4に磁路部材5を設置する。具体的には、一対の通信線4のうちの一方を第1のトロイダルコア5aの中空部に貫通させ、他方を第2のトロイダルコア5bの中空部に貫通させる。
【0028】
測定用信号線6は、第1及び第2のトロイダルコア5a,5bの中空部を交互に貫通するようにループ状に構成されている。測定用信号線6は、ループ状にした後に第1及び第2のトロイダルコア5a,5bを分解することでこれらを貫通させてもよいし、針の穴に糸を通すのと同じ要領で、分解していない状態の第1及び第2のトロイダルコア5a,5bの中空部に測定用信号線6を通すことでこれらを貫通させてもよい。ループ状部分のターン数は3ターン以上4ターン以下とすることが好ましく、3ターンとすることがより好ましい。なお、ターン数は、測定用信号線6が第1及び第2のトロイダルコア5a,5bの中空部を1回ずつ通過する場合に1ターン、2回ずつ通過する場合に2ターン、というように算出する。ターン数をこのように設定することで、100kHz〜15MHzの利用帯域全域で安定した観測を行えるようになる。この点についての詳細も後述する。
【0029】
信号抽出器7を以上のように構成することにより、一対の通信線4と測定用信号線6とが磁気的に結合し、一対の通信線4を流れる信号の一部が測定用信号線6に入力されることになる。磁路部材5は、一対の通信線4から発生する磁界の磁路として機能する。こうして測定用信号線6に入力される信号は、バラン9及び同軸ケーブル10を介して測定器8に入力される。
【0030】
バラン9は、平衡状態の電気信号と不平衡状態の電気信号とを相互に変換するための素子である。信号測定装置11でのバラン9は、測定用信号線6に流れる平衡状態の電気信号を不平衡状態に変換し、同軸ケーブル10に出力する役割を果たしている。同軸ケーブル10は測定器8に接続されており、これにより、測定用信号線6に流れる信号が測定器8に入力される。
【0031】
測定器8は信号レベルを測定可能に構成された測定器であり、具体的にはオシロスコープやスペクトラムアナライザーなどである。保守担当者は、この測定器8を操作して同軸ケーブル10から入力される信号のレベル測定結果を表示させ、表示結果から、通信線4上に重畳されたノイズやモデム2aが受信する受信信号のレベルを把握する。そして、把握したレベルに基づいて、伝送路損失の発生原因となっている部分を切り分ける。
【0032】
信号測定装置11では、信号抽出器7を上記構成とすることにより、100kHz〜15MHzの周波数帯域で概ね一定の観測レベルを得ることが可能になっている。そしてそのことにより、2MHz以下の低周波数帯域を含む100kHz〜15MHzの利用帯域の全域において、安定してノイズや受信信号のレベルを観測することが可能になっている。以下、詳しく説明する。
【0033】
初めに、信号抽出器7の結合量の最適値について説明する。信号抽出器7の結合量は、一対の通信線4から信号抽出器7に入力されるエネルギー量に対する、測定用信号線6側に取り出したエネルギー量の割合で表される。
【0034】
図3は、信号抽出器7の結合量と、測定用信号線6側にエネルギーを取り出すことによって生ずる一対の通信線4側のエネルギー損失(挿入損失)との関係を示すグラフである。なお、図3並びに後述する図4(a)及び(b)には、第1及び第2のトロイダルコア5a,5bとしてトミタ電機株式会社製の型番2H4G−TRB−20×10×10(内径r=10mm、外径r=20mm、高さh=10mm)で示されるトロイダルコアを用い、各特性を実際に測定した結果を示している。測定に際して、測定用信号線6は、ループ状部分の直径rが約4cmとなるように巻回した。
【0035】
図3に示すように、挿入損失と結合量の間には密接な関係があり、具体的には、結合量が大きくなるほど挿入損失が大きくなる。これは、エネルギー保存則によるものである。一般的に、挿入損失が約0.5dBより大きくなると、通信に対する影響が無視できなくなることから、挿入損失は約0.5dBより小さく抑える必要がある。したがって、図3より、結合量は−9dB以下に抑えることが好適である。一方で、結合量が小さすぎると測定器8での観測が困難になるので、結合量は最低でも−15dB以上を確保する必要がある。したがって、結合量の最適範囲は−15dB以上−9dB以下となる。
【0036】
次に、図4(a)は、結合量の周波数特性を示すグラフである。図4(a)には、実施例として信号抽出器7(マンガン系フェライトで構成されたトロイダルコアを用いる信号抽出器)の結合量の変化を実線で示すとともに、比較例として、電力線搬送通信システムで通常用いられるニッケル系フェライト(NiFeを主成分とするフェライト)で構成されたトロイダルコアを用いる信号抽出器の結合量を破線で示している。図4(a)の例では、測定用信号線6のループ状部分のターン数は1ターンとした。また、トロイダルコアの材質以外の点では、実施例と比較例を同一の構成とした。
【0037】
図4(a)に示されるように、トロイダルコアをニッケル系フェライトにより構成した比較例では、周波数が低いほど結合量が小さくなり、周波数が約2MHz以下になると、結合量が上記最適範囲(−15dB〜−9dB)の下限(−15dB)未満になる。したがって、利用帯域が100kHz〜15MHzであるメタル通信システム1においては、信号抽出器7をニッケル系フェライトにより構成すると、ノイズや受信信号のレベルを適切に観測することができないことになる。
【0038】
一方、トロイダルコアをマンガン系フェライトにより構成した実施例では、約2MHzの周波数で結合量が極大となる。また、少なくとも図4(a)の測定範囲内(400kHz〜15.40MHz)では、結合量が上記最適範囲(−15dB〜−9dB)の下限(−15dB)を下回ることはない。したがって、比較例に比べれば、メタル通信システム1においてノイズや受信信号のレベルを観測するのに適している。
【0039】
しかしながら、図4(a)に示した実施例(測定用信号線6のループ状部分のターン数が1ターンである例)によれば、約600kHz以上の周波数で、結合量が上記最適範囲(−15dB〜−9dB)の上限(−9dB)を上回る。また、周波数による結合量の違いが大きく、利用帯域全域で安定した観測を行うことは困難である。これらの点は、測定用信号線6のループ状部分のターン数を3ターン以上とすることで改善できる。以下、詳しく説明する。
【0040】
図4(b)は、本実施の形態による信号抽出器7について、結合量の周波数特性を示すグラフである。図4(b)には、実施例としてターン数が3,4,5の各例を示すとともに、比較例としてターン数が1,2の各例を示している。ターン数1ターンの例は、図4(a)に示した実施例と同一の例である。
【0041】
図4(b)に示されるように、ターン数3,4,5の実施例では、ターン数1,2の場合に見られるような2MHz付近の極大値が消えている。実際のところ、結合量はターン数が大きくなるほど平坦化する傾向を有し、また、ターン数が大きくなるほど、より低周波数帯域まで安定した結合量が得られるようになる。したがって、利用帯域内で一定した結合量を得るという観点からは、ターン数を3ターン以上とすればよい。
【0042】
また、結合量は、図4(b)にも示されるように、ターン数が大きいほど小さくなる。具体的には、ターン数1,2では約1MHz以上の周波数帯域で結合量が上記最適範囲の上限(−9dB)を上回っているのに対し、ターン数3以上ではこの上限(−9dB)を上回ることはなくなっている。したがって、結合量を最適範囲の上限以下に抑えるという観点からも、ターン数は3ターン以上とすることが好適である。
【0043】
一方、ターン数を大きくしすぎると、結合量が上記最適範囲を下回って観測が困難になる。具体的には、ターン数4以下の場合には、結合量が上記最適範囲の下限(−15dB)を下回ることはないのに対し、ターン数5の場合には、約1.5MHz以下の周波数帯域で結合量がこの下限(−15dB)を下回っている。したがって、最適範囲の下限以上の結合量を得るという観点からは、ターン数を4ターン以下とすればよい。
【0044】
以上より、ターン数は3ターン以上4ターン以下であることが好ましく、そうすることで、100kHz〜15MHzの利用帯域全域で安定した観測を行うことが可能となる。また、ターン数を3ターンとすれば、4ターンとする場合に比べて大きな結合量を得ることができるので、ターン数は3ターンとすることがより好ましいと言える。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態による信号測定装置11によれば、第1及び第2のトロイダルコア5a,5bをマンガン系フェライトにより構成し、かつ測定用信号線6のループ状部分のターン数を3ターン以上4ターン以下とすることで、100kHz〜15MHzの周波数帯域で一定の観測レベルを得ることが可能になる。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0047】
1 メタル通信システム
2a,2b モデム
3a,3b MDF
4 一対の通信線
5 磁路部材
5a,5b トロイダルコア
6 測定用信号線
7 信号抽出器
8 測定器
9 バラン
10 同軸ケーブル
11 信号測定装置
12 シールド線
,L 接続端子
図1
図2
図3
図4
図5