(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
磁気共鳴イメージングを用いて、被検体に、傾斜磁場を印加すると共に、第1のスライスを励起する第1の励起パルスと、第2のスライスを励起する第2の励起パルスとを合成した合成励起パルスと、前記第1のスライスと前記第2のスライスを共に励起する再収束パルスとを印加するDual Slice計測を行うDual Slice計測方法であって、
前記傾斜磁場の印加に伴う渦電流によって発生する不正磁場のB0成分に応じて、前記第1の励起パルスと前記第2の励起パルスの周波数、若しくは、前記再収束パルスの周波数、の少なくとも一方の周波数の周波数オフセット量を算出する周波数オフセット演算ステップを備え、
前記周波数オフセット演算ステップは、
前記第1のスライスからの信号と前記第2のスライスからの信号との信号差がゼロ又は最小となるように、前記周波数オフセット量を求めるか、或いは、
前記合成励起パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度と、前記再収束パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度と、の違いに対応して、前記周波数オフセット量を求めるか、或いは、
前記Dual Slice計測において位相エンコードをゼロにし、探索用の周波数オフセット量を変えて複数回の前計測を行って取得した複数のエコーデータに基づいて、前記第1のスライスの信号と前記第2のスライスの信号との信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量を求めるか、
のいずれかを行い、
前記第1の励起パルスと前記第2の励起パルスの周波数、若しくは、前記再収束パルスの周波数、の少なくとも一方に前記周波数オフセット量を付加して、前記Dual Slice計測を行うステップと、
を有することを特徴とするDual Slice計測方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体の断層画像を得るもので、
図1に示すように、MRI装置は静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、送信系5と、受信系6と、信号処理系7と、シーケンサ4と、中央処理装置(CPU)8とを備えて構成される。
【0017】
静磁場発生系2は、垂直磁場方式であれば、被検体1の周りの空間にその体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させるもので、被検体1の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。
【0018】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に巻かれた傾斜磁場コイル9と、それぞれの傾斜磁場コイルを駆動する傾斜磁場電源10とから成り、後述のシ−ケンサ4からの命令に従ってそれぞれのコイルの傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzを印加する。撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルス(Gs)を印加して被検体1に対するスライス面を設定し、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード方向傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード方向傾斜磁場パルス(Gf)を印加して、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報をエンコードする。
【0019】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段で、CPU8の制御で動作し、被検体1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3、および受信系6に送る。
【0020】
送信系5は、被検体1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検体1にRFパルスを照射するもので、高周波発振器11と変調器12と高周波増幅器13と送信側の高周波コイル(送信コイル)14aとから成る。高周波発振器11から出力された高周波パルスをシーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器12により振幅変調し、この振幅変調された高周波パルスを高周波増幅器13で増幅した後に被検体1に近接して配置された高周波コイル14aに供給することにより、RFパルスが被検体1に照射される。
【0021】
受信系6は、被検体1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル(受信コイル)14bと信号増幅器15と直交位相検波器16と、A/D変換器17とから成る。送信側の高周波コイル14aから照射された電磁波によって誘起された被検体1の応答のNMR信号が被検体1に近接して配置された高周波コイル14bで検出され、信号増幅器15で増幅された後、シーケンサ4からの指令によるタイミングで直交位相検波器16により直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器17でディジタル量に変換されて(デジタル量に変換されたエコー信号をエコーデータともいう)、信号処理系7に送られる。
【0022】
信号処理系7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行うもので、光ディスク19、磁気ディスク18等の外部記憶装置と、CRT等からなるディスプレイ20とを有し、受信系6からのエコーデータがCPU8に入力されると、CPU8が信号処理、画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体1の断層画像をディスプレイ20に表示すると共に、外部記憶装置の磁気ディスク18等に記録する。
【0023】
操作部25は、MRI装置の各種制御情報や上記信号処理系7で行う処理の制御情報を入力するもので、トラックボール又はマウス23、及び、キーボード24から成る。この操作部25はディスプレイ20に近接して配置され、操作者がディスプレイ20を見ながら操作部25を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0024】
なお、
図1において、送信側の高周波コイル14aと傾斜磁場コイル9は、被検体1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体1に対向して、水平磁場方式であれば被検体1を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の高周波コイル14bは、被検体1に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0025】
現在MRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0026】
(スピンエコー系のDual Slice計測シーケンス)
次に、本発明に係るスピンエコー系のDual Slice計測シーケンスを
図2に基づいて説明する。
図2は、スピンエコー系のDual Slice計測のパルスシーケンスの一例のタイミングチャートで、上から順に、高周波磁場パルスであるRFパルス:201、スライス選択用のスライス選択傾斜磁場パルスGs:202、位相エンコーディング用の位相エンコード傾斜磁場パルスGp:203、周波数エンコーディング用の周波数エンコード傾斜磁場パルスGf:204の形状を、それぞれ表している。
【0027】
Dual Slice計測では、前述したように、90度(合成)励起パルス:205は2つの隣接スライスを別々に励起するが、180再収束パルス:206は、2つの隣接スライスを含む領域を励起する。このため、90度励起パルスのスライス選択傾斜磁場強度:207よりも、180度再収束パルスのスライス選択傾斜磁場強度:208の方が、傾斜磁場強度が弱くなる。
【0028】
スライス選択傾斜磁場の印加に伴う渦電流によって発生する不正磁場のB0成分に寄与する該渦電流のB0成分の様子を
図3に示す。
図3においては、簡略化のために、スライス方向のみ傾斜磁場を印加した場合の渦電流のB0成分301の様子を示している。前述のスライス選択傾斜磁場の強度に応じて、発生する渦電流の大きさが異なるため、そのB0成分301の大きさも異なる。90度励起パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度が、180度再収束パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度よりも大きいため、90度励起パルス印加時の渦電流のB0成分302は、180度再収束パルス印加時の渦電流のB0成分303よりも大きいことが理解される。従って、B0コイルを搭載していない、或いは、渦電流のB0成分の補正を行わないMRI装置では、渦電流のB0成分の影響を抑制できないことになり、スライス選択傾斜磁場の強度に応じて、渦電流による不正磁場のB0成分が残り、この不正磁場のB0成分によって静磁場強度がずれてしまうことになる。
【0029】
以上のことを踏まえて、B0コイルを搭載していない、或いは、B0成分補正を行わないMRI装置におけるスピンエコー系のDual Slice計測において、スライス画像間で輝度差が発生する理由を、
図4を用いて説明する。渦電流によって発生する不正磁場のB0成分のB0コイルによる補正有り:401の場合、操作者が設定した撮像スライス位置:403に対して、90度励起パルスの励起位置:404と、180度再収束パルスの励起位置405は、ずれが発生しない。しかし、渦電流によって発生する不正磁場のB0コイルによるB0成分補正無し:402の場合、撮像スライス位置:403に対して、B0成分補正ができないことにより、励起位置がずれてしまう。さらに、90度励起パルス印加時と180度再収束パルス印加時とで渦電流によって発生する不正磁場のB0成分の大きさが異なることから、90度励起パルス印加時と180度再収束パルス印加時とで、励起位置のずれが異なることになる。このため、撮像スライス位置の一方は、180度再収束パルスにより完全にリフォーカスされるが、もう一方は、不完全にリフォーカスされるため、信号低下を招いてしまう。その結果、スライス画像間で輝度差が生じてしまう。
【0030】
(本発明の概要)
本発明のMRI装置及びDual Slice計測方法は、傾斜磁場の印加に伴う渦電流によって発生する不正磁場のB0成分に応じて、第1のスライスを励起する第1の励起パルス及び第2のスライスを励起する第2の励起パルスの周波数、若しくは、再収束パルスの周波数、の少なくとも一方の周波数の周波数オフセット量を算出し、第1の励起パルスと第2の励起パルスの周波数、若しくは、再収束パルスの周波数、の少なくとも一方に周波数オフセット量を付加してDual Slice計測を行う。
【0031】
周波数オフセット量は、再収束パルスの励起領域が、第1のスライスと第2のスライスを含むように決定される。或いは、第1のスライスからの信号と第2のスライスからの信号との信号差がゼロ又は最小となるように決定される。或いは、合成励起パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度と、再収束パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度と、の違いに対応して、周波数オフセット量が決定される。
【0032】
以下、本発明の各実施形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
最初に、本発明のMRI装置及びDual Slice計測方法についての第1の実施形態を説明する。本実施形態は、Dual Slice計測の本計測の前に、前計測(プリスキャン)を行い、この前計測で得られたエコーデータを用いて、励起位置のずれに基づくスライス間信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量を求め、求めた周波数オフセット量を用いてDual Slice計測の本計測を実施する。以下、
図5を用いて本実施形態を詳細に説明する。
【0033】
最初に、本実施形態のDual Slice計測に係るCPU8の各機能を、
図5に示す機能ブロック図に基づいて説明する。本実施形態に係るCPU8は、撮像パラメータ設定部501と、周波数オフセット量演算部502と、Dual Slice計測設定部508とを有して成る。
【0034】
撮像パラメータ設定部501は、スピンエコー系のDual Slice計測の選択、及び、該Dual Slice計測に必要な撮像パラメータの設定を受け付けるためのGUIをディスプレイ20に表示し、操作者の撮像パラメータの値の設定又は変更入力を受付け、入力された撮像パラメータの値を、周波数オフセット量演算部502と、Dual Slice計測設定部508に通知する。
【0035】
周波数オフセット量演算部502は、Dual Slice計測において、2つのスライスの励起位置ずれをゼロ又は最小にするための励起周波数のオフセット量を求める。具体的には、スライス1用の90度励起パルスの周波数(f1)と、スライス2用の90度励起パルスの周波数(f2) に付加する周波数オフセット量(f
90offset)と、180度再収束パルスの周波数(f
180)に付加する周波数オフセット量(f
180offset)と、の内の少なくとも一方、好ましくは、180度再収束パルスの周波数(f
180)に付加する周波数オフセット量(f
180offset)のみを求め、Dual Slice計測設定部508に通知する。周波数オフセット量を求めるための詳細な機能については後述する。
【0036】
Dual Slice計測設定部508は、周波数オフセット量演算部502で求められた周波数オフセット量をRFパルスの周波数に付加して、Dual Slice計測を実行する。具体的には、90度励起パルスに付加する周波数オフセット量(f
90offset)が求められた場合には、スライス1の90度励起パルスの周波数を(f1+f
90offset)とし、スライス2の90度励起パルスの周波数を(f2+f
90offset)とする。また180度再収束パルスの周波数(f
180)に付加する周波数オフセット量(f
180offset)が求められた場合には、180度再収束パルスの周波数を(f
180+f
180offset)とする。そして、この様に設定した励起周波数と、撮像パラメータ設定部501から通知された撮像パラメータの値を用いて、Dual Slice計測を行うための具体的な制御データを生成して、シーケンサ4に通知して、シーケンサ4にDual Slice計測を実行させる。
【0037】
次に、周波数オフセット量演算部502の詳細な機能を
図5に示す機能ブロック図を用いて説明する。周波数オフセット量演算部502は、探索用周波数オフセット量設定部503と、前計測実行部504と、フーリエ変換部505と、スライス間信号差演算部506と、最適周波数オフセット量演算部507と、を有して成る。
【0038】
探索用周波数オフセット量設定部503は、Dual Slice計測における励起位置のずれ量を調べるための前計測に探索用の周波数オフセット量(Δf)を前計測実行部504に通知する。探索用の周波数オフセット量(Δf)は、90度励起パルスの周波数オフセット量(Δf
90)と、180度再収束パルスの周波数オフセット量(Δf
180)のいずれか一方又は両方を設定することができる。好ましくは、180度再収束パルスの周波数オフセット量(Δf
180)のみを設定する。
【0039】
前計測実行部504は、
図2に示したDual Slice計測シーケンスにおいて位相エンコードをゼロにしたパルスシーケンスを用いて、スライス1とスライス2についてのDual Slice計測における励起周波数調整のための前計測を実行する。その際に、スライス1用の90度励起パルスの周波数を(f1+Δf
90)とし、スライス2用の90度励起パルスの周波数を(f2+Δf
90)として、これら2つの90度励起パルスを合成して、Dual Slice計測における合成励起パルスとする。また、180度再収束パルスの周波数を(f
180+Δf
180)とする。そして、撮像パラメータ設定部501で設定された撮像パラメータの値を用いて、前計測のためのパルスシーケンスの制御データを具体的に生成して、シーケンサ4に通知し、シーケンサ4に前計測を実行させる。そして、シーケンサ4は、スライス2用の90度励起パルスの照射位相(θ2)が180度異なる2回の計測を行い、それぞれエコー信号を計測し、取得したエコーデータを前計測実行部504に通知する。前計測実行部504は、取得した2回の計測のエコーデータをフーリエ変換部505に通知する。
【0040】
フーリエ変換部505は、取得した2回の計測のエコーデータを、スライス方向に1次元フーリエ変換して加減算、又は、2つのエコーデータを直接加減算してそれぞれフーリエ変換することにより、スライス1とスライス2のエコーデータに分離する。そして、スライス毎のエコーデータを、それぞれ周波数エンコード方向にさらに1次元フーリエ変換して、スライス毎に実数部と虚数部の絶対値を加算して、スライス1とスライス2の最大信号強度をそれぞれ求め、スライス間信号差演算部506に通知する。
【0041】
スライス間信号差演算部506は、励起位置毎にスライス1とスライス2の最大信号強度の差を求めて、励起位置毎のスライス間信号差を算出すると共に、全ての励起位置でのスライス間信号差の平均値を算出する。
【0042】
最適周波数オフセット量演算部507は、周波数オフセット量(Δf
90及びΔf
180)毎のスライス間信号差の平均値を用いて線形近似を行い、スライス間信号差が0又は最小となる周波数オフセット量を最適な周波数オフセット量とする。この最適な周波数オフセット量を用いることで、再収束パルスの励起領域が、第1のスライスと第2のスライスを含むようになる。
【0043】
次に、上記CPU8の各機能部が連携して行なう、本実施形態の処理フローを
図6,7に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローチャートはDual Slice計測プログラムとして予め磁気ディスク18に記憶されており、必要に応じてCPU8のメモリにロードされて実行されることで実施される。以下、各ステップの処理を説明する。
【0044】
ステップ601で、受信信号が最適な信号強度となるように、受信ゲイン調整が実施される。
【0045】
ステップ602で、撮像パラメータ設定部501は、スピンエコー系のDual Slice計測の選択、及び、該Dual Slice計測に必要な撮像パラメータの設定を受け付けるGUIをディスプレイ20に表示し、操作者のDual Slice計測の選択と、撮像パラメータの値の設定又は変更入力を受付ける。そして、操作者の選択がスピンエコー系のDual Slice計測か否かを判定し、Dual Slice計測の場合はステップ603に移行し、Dual Slice計測で無い場合は終了する。
【0046】
ステップ603で、周波数オフセット量演算部502は、Dual Slice計測における励起位置のずれに基づくスライス間信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量を求める。詳細は後述する。
【0047】
ステップ604で、Dual Slice計測設定部503は、ステップ603でも求められたスライス間信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量をRFパルスに付加して、Dual Slice計測の本計測を実行する。90度励起パルスの周波数オフセット量(f
90offset)が求められた場合には、スライス1の90度励起パルスの周波数を(f1+f
90offset)とし、スライス2の90度励起パルスの周波数を(f2+f
90offset)として、これら2つの90度励起パルスを合成して、Dual Slice計測における合成励起パルスとする。また、180度再収束パルスの周波数オフセット量(f
180offset)が求められた場合には、180度再収束パルスの周波数を(f
180+f
180offset)とする。このようにRFパルスの周波数を設定して、Dual Slice計測の本計測を行い、スライス1とスライス2の画像を取得する。この周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)を用いることにより、渦電流による不正磁場のB0成分による励起周波数ずれを補正し、スピンエコー系のDual Slice計測において、輝度差の無い2つのスライス画像を得ることが可能となる。
以上までが、本実施形態の処理フローの概要である。
【0048】
次に、ステップ603で実施されるスライス間信号差がゼロ又は最小になる周波数オフセット量を求める処理の詳細を説明する。
【0049】
ステップ611で、探索用周波数オフセット量設定部503は、スピンエコー系のDual Slice計測における励起位置のずれ量を調べるために、探索用の周波数オフセット量(Δf)を設定する。具体的には、90度励起パルスの周波数オフセット量(Δf
90)と、180度再収束パルスの周波数オフセット量(Δf
180)のいずれか一方又は両方を設定する。好ましくは、180度再収束パルスの周波数オフセット量(Δf
180)のみとする。
【0050】
ステップ612で、前計測実行部504は、ステップ611で設定された周波数オフセット量(Δf
90、Δf
180)を用いて、スライス1とスライス2についてのDual Slice励起周波数調整のための前計測を行う。詳細は前述したとおりである。このステップにより、前計測実行部504は、スライス2用の90度励起パルスの照射位相(θ2)が180度異なる2回の計測により、それぞれエコーデータを取得する。
【0051】
ステップ613で、フーリエ変換部505は、ステップ612で計測された2つのエコーデータをスライス方向に1次元フーリエ変換して、スライス1とスライス2のエコーデータに分離する。詳細は前述したとおりである。
【0052】
ステップ614で、フーリエ変換部505は、ステップ613で得られたスライス毎のエコーデータを、それぞれ周波数エンコード方向にさらに1次元フーリエ変換して、スライス1とスライス2の信号強度を求める。詳細は前述したとおりである。
【0053】
ステップ615で、スライス間信号差演算部506は、ステップ614で得られたスライス1とスライス2の信号強度の差を求めることで、スライス間信号差を算出する。
【0054】
ステップ616で、周波数オフセット量演算部502は、励起位置の異なる複数のDual Slice計測の場合には、全ての励起位置のスライス間信号差を算出したか否か確認し、全ての励起位置のスライス間信号差を算出していなければ、ステップ613に戻って、次の励起位置のスライス間信号差の算出処理を繰り返す。算出済みであれば、ステップ617に移行する。なお、1つの励起位置のDual Slice計測の場合には、本ステップと次ステップと次のステップ617は省略されてステップ618に移行する。
【0055】
ステップ617で、スライス間信号差演算部506は、ステップ612〜ステップ616で求めた全ての励起位置でのスライス間信号差の平均値を算出する。
【0056】
ステップ618で、周波数オフセット量演算部502は、全ての探索用周波数オフセット量(Δf
90、Δf
180)でのスライス間信号差の平均値の算出が終了したか否かチェックし、終了していなければ、ステップ611に戻り周波数オフセット量(Δf
90、Δf
180)を変えて、その周波数オフセット量のスライス間信号差の平均値の算出を繰り返す。
【0057】
ステップ619で、最適周波数オフセット量演算部507は、ステップ611〜ステップ618で求めた周波数オフセット量毎のスライス間信号差の平均値を用いて線形近似を行い、スライス間信号差が0又は最小となる最適な周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)を算出する。
【0058】
これらの最適な周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)は、合成励起パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度と、再収束パルス印加時のスライス選択傾斜磁場の強度と、の違いに対応して決定されて、周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)を用いることで、再収束パルスの励起領域が、第1のスライスと第2のスライスを含むようになる。
以上までが、ステップ603の処理の詳細である。
【0059】
なお、上記ステップ603の処理の説明では、ステップ612で、スライス2用の90度励起パルスの照射位相(θ2)が180度異なる2回の計測を行い、スライス1とスライス2のエコーデータを分離して処理する例を説明したが、分離せずにスライス1とスライス2の信号を一体として処理してもよい。この場合のステップ603の処理の概要を以下に説明する。この説明では、各ステップの番号にダッシ(‘)をつけて対応関係を明らかにする。
【0060】
ステップ611‘で、ステップ611と同様に、探索用周波数オフセット量設定部503は、スピンエコー系のDual Slice計測における励起位置のずれ量を調べるために、探索用の周波数オフセット量(Δf)を設定する。
【0061】
ステップ612‘で、前計測実行部504は、ステップ611‘で設定された周波数オフセット量(Δf
90、Δf
180)を用いて、スライス1とスライス2についてのDual Slice励起周波数調整のための前計測を行う。ただし、スライス2用の90度励起パルスの照射位相(θ2)が180度異なる2回の計測を行わずに、1回の計測のみとする。
【0063】
ステップ614‘で、フーリエ変換部505は、ステップ612‘で得られたエコーデータを周波数エンコード方向に1次元フーリエ変換して、スライス1とスライス2とを一体とみなしたデータ(以下、一体データという)を求める。
【0065】
ステップ616‘で、周波数オフセット量演算部502は、励起位置の異なる複数のDual Slice計測の場合には、全ての励起位置の一体データを算出したか否か確認し、全ての励起位置の一体データを算出していなければ、ステップ614‘に戻って、次の励起位置の一体データの算出処理を繰り返す。算出済みであれば、ステップ617‘に移行する。なお、1つの励起位置のDual Slice計測の場合には、本ステップと次のステップ617‘は省略されてステップ618‘に移行する。
【0066】
ステップ617‘で、スライス間信号差演算部506は、ステップ612‘〜ステップ616‘で求めた全ての励起位置での一体データの平均値を算出する。
【0067】
ステップ618‘で、周波数オフセット量演算部502は、全ての探索用周波数オフセット量(Δf
90、Δf
180)での一体データの平均値の算出が終了したか否かチェックし、終了していなければ、ステップ611‘に戻り周波数オフセット量(Δf
90、Δf
180)を変えて、その周波数オフセット量の一体データの平均値の算出を繰り返す。
【0068】
ステップ619‘で、最適周波数オフセット量演算部507は、ステップ611‘〜ステップ618‘で求めた周波数オフセット量毎の一体データの平均値を用いて線形近似を行い、一体データが最大となる最適な周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)を算出する。
【0069】
以上までが、スライス1とスライス2のエコーデータを分離せずにスライス1とスライス2の信号を一体として処理する場合の処理の説明である。
【0070】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及びDual Slice計測方法は、前計測にて励起位置のずれに基づくスライス間信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量を求め、求めた周波数オフセット量をスライス毎の90度励起パルス又は180度再収束パルスの周波数に付加して、Dual Slice計測の本計測を実施する。その結果、渦電流によって発生する不正磁場のB0成分による励起周波数ずれを補正し、スピンエコー系のDual Slice計測において、輝度差の無い2つのスライス画像を得ることが可能となる。
【0071】
(第2の実施形態)
次に、本発明のMRI装置及びDual Slice計測方法の第2の実施形態を説明する。本実施形態は、前述の第1の実施形態で説明した前計測で励起周波数のずれ量を実測するというものではなく、傾斜磁場の印加に伴う渦電流によって発生する不正磁場のB0成分の時間変化を含む渦電流特性データを予め取得しておき、この予め取得した渦電流特性データを用いて、スライス間信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量を算出する。以下、
図8、9を用いて本実施形態を詳細に説明する。
【0072】
なお、本実施形態は、事前に、例えば特許文献1に記載の方法で、MRI装置の据付時に渦電流特性データを測定し、測定された渦電流特性データが磁気ディスク18に格納されているものとする。この渦電流特性データは、単位傾斜磁場パルス(G
0)の印加に伴って発生する渦電流による不正磁場(B0成分を含む)の時間的変化を表すデータであって、当該MRI装置固有の特性データである。この渦電流特性データは、複数の振幅と時定数のセットとで定まる指数関数の和として表される。本発明のMRI装置及びDual Slice計測方法は、B0コイルを前提としないが、このB0コイルに流す補正電流を仮想的に求めることは可能である。
【0073】
最初に、本実施形態のDual Slice計測に係るCPU8の各機能を、
図8に示す機能ブロック図に基づいて説明する。本実施例に係るCPU8は、前述の第1の実施形態と同様に、撮像パラメータ設定部501と、周波数オフセット量演算部502と、Dual Slice計測設定部508とを有して成るが、周波数オフセット量演算部502の具体的機能のみが異なる。そこで、周波数オフセット量演算部502の具体的な機能のみを説明する。周波数オフセット量演算部502は、補正電流算出部801と、励起周波数ずれ量算出部802と、を有して成る。
【0074】
補正電流算出部801は、撮像条件における90度励起パルス印加時のスライス選択傾斜磁場強度(G
90)と180度再収束パルス印加時のスライス選択傾斜磁場強度(G
180)と、予め磁気ディスク18に格納された渦電流特性データの内のB0成分のデータとを用いて、各スライス選択傾斜磁場の印加に伴う渦電流による不正磁場のB0成分を補正するための、仮想的なB0コイルに流す補正電流を算出する。算出した仮想的な補正電流を励起周波数ずれ量算出部802に通知する。
【0075】
ここで、渦電流特性データは、複数の振幅と時定数のセットとで定まる指数関数の和として表されるが、各時定数は、90度励起パルスおよび180度再収束パルス印加時のスライス選択傾斜磁場強度印加時間に比べて十分長い。このため、90度励起パルス印加時の補正電流をI
90[A]、180度再収束パルス印加時の補正電流をI
180[A]、印加する傾斜磁場強度に対する電流換算係数をK
1、K
2、K
3、・・・とすると、以下の式に近似できる。
【0076】
I
90 = K
1×G
90+K
2×G
90+K
3×G
90+・・・・ -----(1)
I
180 = K
1×G
180+K
2×G
180+K
3×G
180+・・・ -----(2)
励起周波数ずれ量算出部802は、補正電流算出部801で求められた補正電流I
90[A]、I
180[A]より、各励起周波数のずれ量δf
90[Hz]、δf
180[Hz]を算出する。このとき、B0コイルに電流値I
B0[A]を流したときに変化する静磁場強度をB
B0[T]とすると、補正電流I
90[A]、I
180[A]を流したときの静磁場強度の変化δB
90[T]、δB
180[T]を表す式は以下となる。
【0077】
式(3)、(4)とラーモア方程式より、求める励起周波数のずれ量δf
90[Hz]、δf
180[Hz]は以下となる。
【0078】
この励起周波数のずれ量を最適な周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)とする。
【0079】
次に、上記CPU8の各機能部が連携して行なう、本実施例の処理フローを
図9に示すフローチャートに基づいて説明する。本フローチャートはDual Slice計測プログラムとして予め磁気ディスク18に記憶されており、必要に応じてCPU8のメモリにロードされて実行されることで実施される。以下、各ステップの処理を説明する。
【0080】
本実施形態の処理フローは、
図6に示した第1の実施形態の処理フローにおけるステップ603の処理内容が異なるのみであり、他のステップは同様なので説明を省略する。以下、本実施形態におけるステップ603の処理フローの詳細を説明する。
【0081】
ステップ901で、補正電流算出部801は、磁気ディスク18に格納された渦電流特性データの内のB0成分のデータを読み出す。そして、このB0成分のデータと、ステップ601で設定された撮像パラメータの値によって定まる撮像条件におけるスライス選択傾斜磁場強度(G
90、G
180)とを用いて、各スライス選択傾斜磁場の印加に伴う渦電流による不正磁場のB0成分を補正するための、仮想的なB0コイルに流す補正電流(I
90[A]、I
180[A])を算出する。詳細は前述したとおりである。
【0082】
ステップ902で、励起周波数ずれ量算出部802は、ステップ901で求められた仮想的なB0コイルに流す補正電流(I
90[A]、I
180[A])を用いて、90度励起パルスの励起周波数のずれ量δf
90[Hz]と180度再収束パルスの励起周波数のずれ量δf
180[Hz]とを算出する。詳細は前述したとおりである。これらの励起周波数のずれ量δf
90[Hz]、δf
180[Hz]が最適な周波数オフセット量(f
90offset、f
180offset)となる。
【0083】
Dual Slice計測における各RFパルスの周波数は、スライス1の90度励起パルスの周波数を(f1+δf
90)に、スライス2の90度励起パルスの周波数を(f2+δf
90)として、これらを合成して、Dual Slice計測における90度励起パルスとする。また、180度再収束パルスの励起周波数を(f
180+δf
180)にする。このように励起周波数をオフセットさせてDual Slice計測を実行する。これにより、渦電流によって発生する不正磁場のB0成分による励起周波数ずれを補正し、輝度差の無い2つのスライス画像を得ることが可能となる。
【0084】
以上までが、本実施例の処理フローの概要である。なお、上記実施形態の説明では、90度励起パルスの周波数オフセット量(f
90offset)と、180度再収束パルスの周波数オフセット量(f
180offset)を求めることを説明したが、いずれか一方の励起パルスの周波数オフセット量のみ求めて、該励起パルスの周波数のみを補正しても良い。
【0085】
以上説明したように、本実施形態のMRI装置及びDual Slice計測方法は、傾斜磁場の印加に伴う渦電流によって発生する不正磁場のB0成分の時間変化を含む渦電流特性データを予め取得しておき、この予め取得した渦電流の特性データを用いて、スライス間信号差がゼロ又は最小となる周波数オフセット量を算出する。その結果、前計測を行うことなく、渦電流によって発生する不正磁場のB0成分による励起周波数ずれを補正するための周波数オフセット量を短時間で求めることができ、スピンエコー系のDual Slice計測において、輝度差の無い2つのスライス画像を得ることが可能となる。
【0086】
なお、上記各実施形態では、励起パルスとして90度励起パルスを、再収束パルスとして180度再収束パルスを、それぞれ用いる例を説明したが、本発明はこれらの角度の限定されることはない。励起パルスとしては90度でなく任意の角度の励起パルスでよく、再収束パルスとして180度でなく任意の角度の再収束パルスでよい。