(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態につき、
図1〜
図11を参照しつつ説明する。本実施の形態は、手持式の電動工具として充電式のスクリュドライバを例にして説明する。本実施の形態に係るスクリュドライバ101は、
図1に示すように、概括的に見て、スクリュドライバ101の外郭を構成する本体部103と、本体部103に一体状に連接されたハンドグリップ(ハンドル)109を主体として構成される。本体部103の先端領域(図示左側であって、ハンドグリップ109の反対側)において、スクリュビット119がビット保持器117を介してスピンドル115の先端に着脱自在に取付けられる。本体部103によって「工具本体」が構成される。スクリュビット119は、本発明における「先端工具」に対応する。なお本実施の形態では、説明の便宜上、スクリュビット119側を前側とし、その反対側を後側とする。
【0028】
本体部103は、駆動モータ111を収容するモータハウジング105と、当該駆動モータ111の前方(
図1及び
図2の左側)に配置された減速機構としての遊星歯車機構113及び出力軸としてのスピンドル115等を収容するギアハウジング107とを主体として構成される。駆動モータ111は、本発明における「モータ」及び「デュアルロータモータ」に対応する。なお、ハンドグリップ109は、本体部103の長軸方向(スクリュビット119の長軸方向)と交差する下方へと延在され、その延在端部には駆動モータ111の電源となるバッテリが収容されたバッテリパック110が着脱自在に装着されている。
【0029】
図2にはスクリュドライバ101の主要部の構成が示される。図示のように、駆動モータ111は、インナロータ121(第1の回転子)と、アウタロータ123(第2の回転子)と、インナロータ121を駆動するためのインナロータ駆動コイル125aが巻かれたインナロータ用ステータ(以下、インナステータという)125A(固定子)と、アウタロータ123を駆動するためのアウタロータ駆動コイル125bが巻かれたアウタロータ用ステータ(以下、アウタステータという)125B(固定子)と、を有し、インナステータ125Aの内側にインナロータ121が、アウタステータ125Bの外側にアウタロータ123が、互いに同軸で配置されたデュアルロータモータとして構成されている。インナステータ125Aが、本発明における「第1ステータ」に対応し、アウタステータ125Bが、本発明における「第2ステータ」に対応する。また、インナロータ駆動コイル125aとアウタロータ駆動コイル125bにより「駆動コイル機構部」が構成されている。
【0030】
図5〜
図8に示すように、インナステータ125A及びアウタステータ125Bは、共に略ドーナッツ状に形成されている。インナステータ125Aは、環状のヨーク部125A1と、ヨーク部125A1の内周面の離間した位置から内径方向に突出され、インナロータ駆動コイル(
図5〜
図8では便宜上図示を省略する)が巻かれる複数のティース部125A2と、複数のスロットとを有する。アウタステータ125Bは、リング状のステータ本体部125B1と、ステータ本体部125B1の外周面の離間した位置から外径方向に突出され、アウタロータ駆動コイル(
図5〜
図8では便宜上図示を省略する)が巻かれる複数のティース部125B2と、複数のスロットとを有する。
【0031】
本実施の形態においては、
図10に示すように、外周面に4個の磁石121bが固定されたインナロータ121と、6個のスロットを有するインナステータ125Aとによって4極6スロットのインナモータが構成される。また、
図11に示すように、内周面に8個の磁石123bが固定されたアウタロータ123と、8個のスロットを有するアウタステータ125Bとにより8極6スロットのアウタモータが構成される。そして、インナモータとアウタモータは、
図2及び
図9に示すように、長軸方向にずらした状態、具体的にはアウタモータが前方、インナモータが後方に位置するようにモータハウジング105内に配置された構成とされる。
【0032】
インナステータ125Aのヨーク部125A1と、アウタステータ125Bのヨーク部125B1は、互いに内径及び外形が概ね同径に形成されるとともに、インナステータ125Aのヨーク部125A1の前面にアウタステータ125Bのヨーク部125B1の後面が重ね合せられた状態で結合されている(
図6及び
図9参照)。すなわち、インナステータ125Aとアウタステータ125Bとは、互いに重なり合う領域としてのヨーク部125A1,125B1が、周方向に所定の間隔で配置される結合部材としての複数のピン125c(
図9参照)により互いに結合される。なお、インナステータ125Aとアウタステータ125Bの結合手段については、上記のピン125c以外の、例えば複数のネジを利用した機械的結合が可能なほか、樹脂成型による樹脂層を介しての結合構造、あるいは接着剤による結合が可能である。
【0033】
図2及び
図9に示すように、インナモータ及びアウタモータが、モータハウジング105内に配置された状態では、上記のように、インナステータ125Aとアウタステータ125Bとを互いに長軸方向にずらして結合したことにより、インナステータ125Aのヨーク部125A1の外周領域には、モータハウジング105の内壁面との間に環状の空間が形成される。本実施の形態では、この空間を利用して保持部材126を介してヨーク部125A1の外周領域をモータハウジング105で外側から保持する構成としている。保持部材126は、例えばモータハウジング105とは別部材として形成される環状部材として、あるいはモータハウジング105の内壁に内側に向かって張り出し状に一体に形成される環状部材として備えられ、外周側がモータハウジング105に固定され、内周側がインナステータ125Aのヨーク部125A1に固定される。
【0034】
インナロータ121は、インナステータ125Aの内側に配置されている。インナロータ121は、前側においてはアウタステータ125Bの内周に配置された軸受ハウジング部127Aに軸受127を介して回転自在に支持され、後側においてはモータハウジング105に軸受128を介して回転自在に支持されている。アウタロータ123は、略円筒形に形成されるとともに、アウタステータ125Bの外側に配置されており、モータハウジング105に前後の軸受129を介して外周を回転自在に支持されている。インナロータ121及びアウタロータ123は、独立して個々に駆動及び停止されるように構成されている。なお、インナロータ121とインナステータ125A間、及びアウタロータ123とアウタステータ125B間には、それぞれ所定のエアギャップが形成されている。
【0035】
図2に示すように、上記のように構成される駆動モータ111の前方には、遊星歯車機構113が配置されており、駆動モータ111の回転出力は、遊星歯車機構113により減速されてスピンドル115に伝達され、当該スピンドル115にビット保持器117を介して保持されたスクリュビット119に伝達される。遊星歯車機構は、本発明における「減速機構」に対応する。
【0036】
遊星歯車機構113は、第1太陽ギア131、第1インターナルギア(リングギア)133、複数の第1遊星ギア135、第1キャリア137、第2太陽ギア139、第2インターナルギア141、複数の第2遊星ギア143、及び第2キャリア145によって構成され、インナロータ軸121aの回転出力を減速してスピンドル115に伝達する。
【0037】
第1太陽ギア131は、インナロータ121のインナロータ軸121aに結合されて一体に回転する。第1インターナルギア(リングギア)133は、外面がギアハウジング107に回転自在に支持されるとともに、内側に歯が形成されたリング状部材であり、アウタロータ123によって後述する両方向ワンウェイクラッチ151を介して回転駆動される。複数の第1遊星ギア135は、第1太陽ギア131と第1インターナルギア133との双方に噛み合い係合して第1太陽ギア131の回転軸線周りに周回する(公転する)。第1キャリア137は、複数の第1遊星ギア135を回転自在に支持するとともに、第1太陽ギア131と同軸上で回転する。第2太陽ギア139は、第1キャリア137の長軸方向一端(前端)側外周面に一体に形成されている。第2インターナルギア141は、ギアハウジング107に固定され、常時に停止状態に保持されている。複数の第2遊星ギア143は、第2太陽ギア139と第2インターナルギア141との双方に噛み合い係合して第2太陽ギア139の回転軸線周りに周回する(公転する)。第2キャリア145は、第2遊星ギア143を回転自在に支持するとともに、過負荷クラッチ147を介してスピンドル115に連結されている。
【0038】
なお、過負荷クラッチ147は、スピンドル115に過大な負荷が作用した場合に第2キャリア145からスピンドル115への回転力の伝達を遮断するべく備えられる公知の機械要素であるため、詳細な説明については省略する。また、本実施の形態における遊星歯車機構113は、第1遊星ギア135を支持する第1第1キャリア137と、第2遊星ギア143を支持する第2キャリア145が長軸方向に2段連接された構成とされているが、必ずしも2段である必要はない。
【0039】
アウタロータ123は、両方向ワンウェイクラッチ151を介して遊星歯車機構113の第1インターナルギア133と連結されている。両方向ワンウェイクラッチ151は、本発明における「クラッチ」に対応する。
図3及び
図4に示すように、両方向ワンウェイクラッチ151は、当該両方向ワンウェイクラッチ151の外郭を形成するとともに、ギアハウジング107に一体状に形成されたリング状の固定外輪部158、入力軸としてのアウタロータ123に一体に形成された動力伝達部153、第1インターナルギア133に接合された動力受部材157、及び動力伝達部153と動力受部材157との間に介在状に配置され、出力側である第1インターナルギア133から入力側であるアウタロータ123へ回転力が入力された場合に、当該第1インターナルギア133の回転をロックする円柱状のロックピン159を主体として構成されている。
【0040】
動力伝達部153は、アウタロータ123の前側領域において周方向に所定間隔を置いて長軸方向に所定長さで延在された複数(本実施形態の場合は、90度間隔で4個)の断面円弧状部材によって構成されるとともに、固定外輪部158の内側に相対回転可能に配置されている。動力受部材157は、第1太陽ギア131が遊嵌状に貫通可能な円形孔を有する円盤状に形成されるとともに、動力伝達部153の内側に相対回転可能に配置されている。動力受部材157は、外面に180度の位相差で外径方向に突出する2個の動力受部155を有し、当該動力受部155が、隣り合う動力伝達部153相互間の空間のうち180度の位相差を有する2個の空間に周方向に所定の隙間を置いて配置されている。ロックピン159は、隣り合う動力伝達部153相互間の空間のうちの180度の位相差を有する他の2個の空間に配置されている。
【0041】
アウタロータ123が時計回りに回転駆動された場合には、動力受部材157の動力受部155を挟んで対向する一方の動力伝達部153が当該動力受部155に周方向に接触して第1インターナルギア133に時計回りに回転力を伝達し、反時計回りに回転駆動された場合には、動力受部155を挟んで他方の動力伝達部153が当該動力受部155に周方向に接触して第1インターナルギア133に反時計回りに回転力を伝達する。アウタロータ123が反時計回りに回転駆動された場合が
図3に示される。
【0042】
ロックピン159は、隣り合う動力伝達部153の空間において、動力受部材157の外面と固定外輪部158の内面間に配置されており、当該ロックピン159が配置される空間の動力受部材157の外面には、接線方向の平面領域157aが形成されている。このため、
図3に示すように、アウタロータ123が回転駆動された場合、ロックピン159は、動力受部材157と固定外輪部158との相対回転差で当該動力受部材157の外面と固定外輪部158の内面との間の楔状空間に入り込んで噛み付こうとするが、動力伝達部153の回転方向先端側端面によって押されることで平面領域157aに保持される。従って、ロックピン159が噛み付かず、アウタロータ123の回転力が動力受部材157を介して第1インターナルギア133に伝達される。
【0043】
一方、出力側から入力側へ回転力が入力された場合、例えば第1インターナルギア133(スピンドル115)側に負荷が作用し、
図4に示す状態で動力受部材157が動力伝達部153に対し相対回転しようとした場合には、動力受部材157は、ロックピン159を介して固定外輪部158の内面に接触して噛み付く。すなわち、ロックピン159が動力受部材157の外面と固定外輪部158の内面間の楔状空間に入り込んで噛み付き、これにより動力受部材157が固定外輪部158に固定(ロック)される。
【0044】
このように、両方向ワンウェイクラッチ151は、入力側(駆動側)のアウタロータ123の回転力を、時計回りと反時計回りの両方向について、出力側(被動側)の第1インターナルギア133(スピンドル115)に伝達することが可能、かつ、出力側に負荷が作用することにより出力側から入力側へ回転力が逆入力しようとした場合には、時計回りと反時計回りの両方向について、ロックして出力側から入力側への回転力を遮断する機械要素として備えられる。
【0045】
本実施の形態において、第1インターナルギア133が固定された状態で、駆動モータ111のインナロータ121が通電駆動された場合、スピンドル115は、遊星歯車機構113において予め定められた所定の減速比で回転される。この状態において、アウタロータ123がインナロータ121の回転方向と同方向に回転された場合には、反力受部材である第1インターナルギア133が第1太陽ギア131と同方向に回転され、これにより第1遊星ギア135の第1太陽ギア131周りの回転数(公転数)が当該第1インターナルギア133の回転分だけ増加するので、スピンドル115の回転数が増える。一方、アウタロータ123が上記と逆方向に回転されたときは、第1遊星ギア135の公転数が第1インターナルギア133の回転分だけ減少することになるので、スピンドル115の回転速度が減る。
【0046】
このように、本実施の形態によれば、インナロータ121を常時に連続的に駆動した状態で、アウタロータ123を、停止状態と、インナロータ121と同方向又は逆方向への駆動状態との間で切替えることにより、第1遊星ギア135の公転数(第1キャリア137の回転数)を変化させ、遊星歯車機構113の減速比を切替えることができる。すなわち、遊星歯車機構113の減速比の切替えにより、スピンドル115に出力される出力トルク及び回転速度を変えることができる。なお、減速比の切替えは、スピンドル115に作用する負荷、例えば、駆動モータ111の駆動電流、トルク、回転数、温度等に応じて行うように構成される。インナロータ121を常時に駆動した状態において、アウタロータ123を停止状態に切替えたときの減速比と、アウタロータ123を駆動状態に切替えたときの減速比が、本発明における「第1及び第2の減速比」に対応する。
【0047】
さて、スクリュドライバ101によって、固定具としてのネジやボルト(以下、ネジ等という)の締付け作業を行う場合には、スクリュビット119を介してネジ等を作業対象物としての被加工材に押し付けた状態でハンドグリップ109に配置されたトリガ109aを引き操作し、駆動モータ111を通電駆動する。これにより、遊星歯車機構113を介してスピンドル115が回転駆動され、当該スピンドル115とともに回転するスクリュビット119によりネジ等の締付作業を行うことができる。
【0048】
この場合において、本実施の形態では、駆動モータ111のインナロータ121で第1太陽ギア131を常時に駆動し、アウタロータ123で第1インターナルギア133を可変とする構成としている。
【0049】
具体的には、インナロータ121を常時に駆動してのスクリュビット119の駆動中において、アウタロータ123を間欠的に駆動、すなわち駆動と停止を繰り返すことで、インナロータ121が出力する出力トルクで駆動中のスクリュビット119に対し、さらにアウタロータ123が出力する出力トルクを間欠的に付加(加算)する構成とし、これによりスクリュビット119を駆動するためのトルクを間欠的に変化させることができる。以下の説明では、トルクを間欠的に変化させることをトルクリップルともいう。
【0050】
このように、本実施の形態によれば、アウタロータ123を間欠的に駆動することで、スクリュビット119に出力される出力トルクを一時的に大きくした後、すぐに元の状態に戻すという動作を繰り返すことができる。これにより、スクリュドライバ101を保持するために必要な反力が少なくて済むことになり、通常の締付トルクよりも大トルクでネジ締め作業を行いえるにも拘らず、人が保持し易いスクリュドライバ101を提供できる。
【0051】
なお、アウタロータ123の間欠的な駆動によるトルクリップルの発生は、スクリュビット119のインナロータ121による常時駆動でのネジ締め作業の開始から完了までの全体にわたって行うようにしてもよいし、一部で行うようにしてもよい。一部で行う態様としては、例えばインナロータ121によって駆動されるスクリュビット119によるネジ締め作業中において、ネジが被加工材に着座して負荷(締付トルク)が増大した場合に、アウタロータ123を間欠的に駆動することでトルクリップルを発生させる態様が好適である。
【0052】
従って、本実施の形態によれば、スクリュビット119に対して回転方向に間欠的に打撃力を加える機械式の回転打撃機構を用いることなく、当該回転打撃機構を備えた場合と同様なインパクト式のスクリュドライバ101を構築することが可能となる。なお、インナロータ121によるスクリュビット119の駆動中において、当該駆動中の一部でアウタロータ123の間欠的な駆動を行なう場合、例えば常時に駆動されるインナロータ121の駆動電流、トルク、回転数、温度の少なくともいずれかを検知器により検知し、当該検知器で検知された検知値が予め指定された指定値に達したときに、アウタロータ123の間欠的な駆動が開始されるように、便宜上図示を省略するモータ制御装置(コントローラ)を用いて制御する構成することが可能である。
【0053】
第1インターナルギア133は、インナロータ121によりスクリュビット119が回転駆動される際に反力を受ける。このため、アウタロータ123の駆動によりトルクリップルを発生するためには、アウタロータ123がインナロータ121よりも大きいトルクを発生することが必要である。トルクリップルを発生させない間、つまりインナロータ121の駆動のみでスクリュビット119を駆動している間は、第1インターナルギア133を固定状態に維持することが必要である。第1インターナルギア133の固定状態の維持をアウタロータ123のトルクのみで行うとすれば、当該アウタロータ123をロック状態で使用することになり、モータ焼損の可能性がある。しかるに、本実施の形態によれば、アウタロータ123と遊星歯車機構113の第1インターナルギア133との間に設けた両方向ワンウェイクラッチ151によって、被動側の第1インターナルギア133から入力側のアウタロータ123への動力の逆入力を遮断し、第1インターナルギア133を固定状態に維持できる。これによりアウタロータ123を焼損から保護することが可能となる。
【0054】
また、本実施の形態では、駆動モータ111を構成するデュアルロータモータは、その回転軸線がスクリュビット119を駆動するスピンドル115と同軸で配置されているため、例えば二台のモータを並列状に配置する場合に比べて機体を外側に出っ張らせずに済み、コンパクトなスクリュドライバ101が提供される。
【0055】
また、本実施の形態では、インナロータ121とインナステータ125Aとによってインナモータが構成され、アウタロータ123とアウタステータ125Bとによってアウタロータが構成されている。そして、インナモータとアウタモータは、長軸方向にずらした状態でモータハウジング105内に配置され、これによりインナモータ(具体的にはインナステータ125A)の外周領域、とモータハウジング105の内壁面との間に空間が形成された構成とされている。このため、当該空間を利用して保持部材126を設置し、当該保持部材126を介してインナモータのインナステータ125Aの外周領域をモータハウジング105で保持(固定)することができる。このため、例えばステータの長軸方向の端面(側面)を保持する構成に比べてステータを簡素な構造で強固に保持することができる。
【0056】
また、本実施の形態では、インナステータ125Aとアウタステータ125Bとは、互いのヨーク部125A1,125B1が接触した状態で前後に重なり合う構成とし、当該重なり合う領域において互いにピン125cで結合する構成としたことにより、インナステータ125Aとアウタステータ125Bとを合理的に結合することができる。
【0057】
また、本実施の形態は、常時に駆動されるインナロータ121にモータ冷却用の冷却ファン161(
図2参照)を設けている。冷却ファン161は、インナロータ121における、第1太陽ギア131と反対側の長軸方向端部(後端部)に配置されており、モータハウジング105の後端部に形成された吸気口(便宜上図示を省略する)から外気をモータハウジング内空間に取り込んで長軸方向前方へと流通させるとともに、モータハウジング前方の排気口(便宜上図示を省略する)から外部へ排出することで駆動モータ111を冷却することができる。
【0058】
次に第1の実施形態に係る駆動モータ111の変形例につき、
図12を参照しつつ説明する。この変形例に係る駆動モータ111は、インナロータ121(第1の回転子)と、アウタロータ123(第2の回転子)と、インナロータ121を駆動するためのインナロータ駆動コイル125aが巻かれたインナロータ用ステータ(以下、インナステータという)125A(固定子)と、アウタロータ123を駆動するためのアウタロータ駆動コイル125bが巻かれたアウタロータ用ステータ(以下、アウタステータという)125B(固定子)と、を有する。そしてインナステータ125Aの内側にインナロータ121が配置され、アウタステータ125Bの前面にアウタロータ123が対向状に配置されるとともに、インナロータ121とアウタロータ123が互いに同軸で配置されたデュアルロータモータとして構成されている。
【0059】
すなわち、変形例のデュアルロータモータは、インナロータ121とインナステータ125Aにより構成されるインナモータは、インナロータ121とインナステータ125Aが径方向において互いに対向するラジアルモータとして構成されるが、アウタロータ123とアウタステータ125Bにより構成されるアウタモータが、アウタロータ123とアウタステータ125Bが長軸方向において互いに対向するように配置されたアキシャルギャップモータとして構成されている点で前述した第1の実施形態と相違する。
【0060】
インナロータ121とインナステータ125Aにより構成されるインナモータと、アウタモータは、図示のように、長軸方向においてずらした状態、具体的にはアウタモータが前方、インナモータが後方に位置するように前後に配置される。そして、インナモータにおけるインナステータ125Aのヨーク部125A1の前端部外周と、アウタモータにおけるアウタステータ125Bのヨーク部125B1の内周が長軸方向において互いに重なり合う領域として設定され、当該領域においてヨーク部125A1,125B1が、例えば樹脂成形による樹脂層を介してあるいは接着剤によって互いに結合されている。
【0061】
変形例の場合、アウタモータにつき、アウタロータ123とアウタステータ125Bが長軸方向において互いに対向するアキシャルギャップモータとしたことで、アウタステータ125Bの外周面とモータハウジング105の内壁面との間に空間が形成されるため、この空間を利用して、例えばアウタステータ125Bをモータハウジング105の内壁に一体に形成された環状の保持部105A(あるいはモータハウジング105とは別部材で形成された環状部材)で外側から保持する構成としている。すなわち、変形例によれば、インナモータのインナステータ125Aの外周領域を外側から保持部材126を介してモータハウジング105で保持する構成に加え、さらにアウタステータ125Bの外周領域を外側からモータハウジング105の保持部105Aで外側から保持する構成としたので、ステータに関する一層の強固な保持が可能となる。
【0062】
また、変形例によれば、アウタモータのアウタステータ125Bをインナステータ125Aの外側に配置される。このため、当該インナステータ125Aのヨーク部125A1の前面を図示の如く当該ヨーク部125A1に向かって延在する軸受ハウジング127Aの一部127aによって保持することも可能となる。これによりステータの保持をより一層強固にすることができる。
【0063】
(本発明の第2の実施形態)
次に第2の実施形態につき、
図13〜
図16を参照しつつ説明する。この実施形態は、
図13及び
図14に示すように、アウタロータ123で第1インターナルギア133を常時に駆動し、インナロータ121で第1太陽ギア131を可変としたものである。このために、アウタロータ123が第1インターナルギア133と直結する構成とする一方、インナロータ121のインナロータ軸121aと第1太陽ギア131との間に両方向ワンウェイクラッチ151を介在状に配置した構成としている。以上の構成以外については、インナステータ125Aの外周領域を保持部材126によって保持する構成を含んで前述した第1の実施形態と同様に構成される。従って、同一構成部材については、同一符号が付されている。
【0064】
両方向ワンウェイクラッチ151については、
図15及び
図16に示すように、基本的には第1の実施形態で説明した両方向ワンウェイクラッチ151と同様の構成及び機能を有する。ただし、インナロータ軸121aと第1太陽ギア131との間に介在される関係で、両方向ワンウェイクラッチ151の外郭を構成する固定外輪部158は、駆動モータ111のインナステータ125Aの前方において、アウタステータ125Bの内側に接合されるとともに、中央部に第1太陽ギア131が遊嵌状に貫通する円形孔が開口された略カップ状に形成されている。また、周方向に所定間隔で配置される4個の動力伝達部153は、インナロータ軸121aに接合されて当該インナロータ軸121aと共に回転する円板状の動力伝達部材152に一体に形成されている。また、動力受部155を有する動力受部材157は、第1太陽ギア131に接合されて当該第1太陽ギア131と共に回転する構成とされる。それ以外の構成については、第1の実施形態で説明した両方向ワンウェイクラッチ151と同様である。
【0065】
従って、インナロータ121が駆動された場合には、
図15に示すように、ロックピン159が動力伝達部153の回転方向先端側端面によって押されることで動力受部材157の外面と固定外輪部158の内面間の楔状空間に入り込まない。このため、動力伝達部153が当該動力受部155に周方向に接触して第1太陽ギア131に回転力を伝達する。一方、
図16に示す状態において、出力側から入力側へ回転力が入力された場合、すなわち第1太陽ギア131(スピンドル115)側に負荷が作用し、動力受部材157が動力伝達部材152に対して相対回転しようとした場合には、ロックピン159が動力受部材157の外面と固定外輪部158の内面間の楔状空間に入り込んで噛み付き、これにより動力受部材157が固定外輪部158に固定(ロック)される。
【0066】
つまり、両方向ワンウェイクラッチ151は、入力側(駆動側)のインナロータ121が駆動された場合には、当該インナロータ121の回転力を、時計回りと反時計回りの両方向について出力側(被動側)の第1太陽ギア131(スピンドル115)に伝達することが可能であり、出力側に負荷が作用することにより出力側から入力側へ回転力が逆入力しようとした場合には、時計回りと反時計回りの両方向についてロックして出力側から入力側への回転力を遮断する。
【0067】
さて、本実施の形態では、駆動モータ111のアウタロータ123で第1インターナルギア133を常時に駆動し、インナロータ121で第1太陽ギア131を可変とする構成としている。従って、アウタロータ123を駆動してのスピンドル115(スクリュビット119)の駆動中において、インナロータ121を間欠的に駆動する、すなわち駆動と停止を繰り返すことで、アウタロータ123が出力する出力トルクで駆動中のスクリュビット119に対し、さらにインナロータ121が出力する出力トルクを間欠的に付加する構成としている。すなわち、本実施の形態によれば、スクリュビット119を駆動するトルクを間欠的に変動させることができる。
【0068】
このように、本実施の形態によれば、インナロータ121を間欠的に駆動することで、スクリュビット119に出力される出力トルクを一時的に大きくした後、すぐに元の状態に戻すという動作を繰り返すことができる。このため、ネジ締め作業時において、例えばネジが被加工材に着座して負荷(締付トルク)が増大した場合に、インナロータ121を間欠的に駆動することで、トルクリップルを発生させ、通常の締付トルクよりも大きい締付トルクでネジ締め作業を遂行することができる。
【0069】
なお、本実施の形態の場合、第1太陽ギア131は、アウタロータ123によりスクリュビット119が回転駆動されるときに反力を受ける。このため、インナロータ121の間欠駆動でトルクリップルを発生するためには、当該インナロータ121がアウタロータ123よりも大きいトルクを発生することが必要である。トルクリップルを発生させない間は、インナロータ121の通電駆動を止めて第1太陽ギア131を固定状態に維持する必要があり、当該維持をインナロータ121のトルクのみで行うとすれば、モータ焼損の可能性がある。本実施の形態では、インナロータ121と第1太陽ギア131との間に設けた両方向ワンウェイクラッチ151によって、被動側の第1太陽ギア131から入力側のインナロータ121への動力の逆入力を遮断し、第1インターナルギア133を固定状態に維持できる。これによりアウタロータ123を焼損から保護することができる。
【0070】
また、本実施の形態は、常時に駆動されるアウタロータ123にモータ冷却用の冷却ファン163を設けている。冷却ファン163は、アウタロータ123における、第1インターナルギア133と反対側の軸方向端部(後端部)の内周面に配置され、モータハウジング105の後端部に形成された吸気口から外気をモータハウジン内空間に取り込んで長軸方向前方へと流通させることで駆動モータ111を冷却する。モータハウジング内空間に流入された外気は、アウタステータ125Bとアウタロータ123との間、インナステータ125Aとインナロータ121との間等の隙間を通してモータ内部へと流れることで駆動モータ111を冷却した後、アウタロータ123の前側領域に形成された径方向に貫通する連通窓123a(
図14参照)を通してモータ外部へ流出し、さらにはモータハウジング105とギアハウジング107の間を経由後、排気口から外部へ放出される。この場合、インナステータ125Aを保持する保持部材126は、冷却風をアウタステータ125Bとアウタロータ123との間へ誘導するための前後方向に貫通する通風孔を設けることが好ましい。
【0071】
本実施の形態によれば、上記の作用効果のみならず、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を奏するが、重複説明を避ける意味で記載を省略する。
【0072】
(本発明の第3の実施形態)
次に本発明の第3の実施形態につき、
図1〜
図4を参照しつつ説明する。この実施形態は、駆動モータ111の一方のロータを用いてスクリュビット119を常時に駆動した状態で、他方のロータを用いてスクリュビット119(スピンドル115)に作用する負荷(締付トルク)に応じて遊星歯車機構113の減速比を切替え、当該スクリュビット119の回転速度(ネジ締め速度)を自動変速できるようにしたものである。
【0073】
スクリュドライバ101の全体構成については、前述した第1の実施形態と同様に構成されているため、その説明は省略する。この実施形態では、トリガ109aが引き操作されたときに、インナロータ121及びアウタロータ123が同時に駆動されるように構成される。
【0074】
例えば、ネジ締め作業を開始してからネジが被加工材に着座(ネジの頭部が被加工材に接触)するまでの負荷が小さい状態では、第1インターナルギア133が受ける回転駆動力の反力が小さい。この状態では、インナロータ121によって第1太陽ギア131が回転駆動されるとともに、アウタロータ123によって第1インターナルギア133が第1太陽ギア131の回転方向と同方向に回転駆動される。このため、スピンドル115と共にスクリュビット119が、第1太陽ギア131と第1インターナルギア133が共に回転する場合の減速比で高速回転される。
【0075】
一方、ネジが被加工材に着座し、負荷が増大すると、第1インターナルギア133が受ける回転駆動力の反力が大きくなる。すると、アウタロータ123の駆動力が小さいので、当該アウタロータ123による回転力が当該反力に負けてしまい、第1インターナルギア133が逆方向に回されようとする。これにより、両方向ワンウェイクラッチ151が作動し、第1インターナルギア133を固定外輪部158に対してロックする。このため、スピンドル115と共にスクリュビット119が、第1太陽ギア131のみが回転するときの減速比で低速回転される。スピンドル115の低速回転状態は、例えば電流値で検知する。すなわち、アウタロータ123の駆動電流値が指定電流値に達したことを電流検知器で検知する。この検知信号を受けたモータ制御装置(コントローラ)によってアウタロータ123を駆動するための通電が止められ、これにより焼損から保護できる。第1太陽ギア131と第1インターナルギア133が共に回転する場合の減速比と、第1太陽ギア131のみが回転するときの減速比が、本発明における「第1及び第2の減速比」に対応する。
【0076】
本実施の形態によれば、締付トルクの小さい低負荷状態では、スピンドル115を高速で回転させ、締付トルクが増大した高負荷状態ではスピンドル115を低速で回転させることができる。これにより、ネジ締め作業の短縮化と、高精度化を実現できる。また、本実施の形態によれば、アウタロータ123が出力するトルクをインナロータ121が出力するトルクよりも低くできるので、アウタロータ123を小型化できる。
【0077】
(本発明の第4の実施形態)
次に本発明の第4の実施形態につき、
図17及び18を参照しつつ説明する。この実施形態は、充電式のスクリュドライバ101において、インナロータ121で遊星歯車機構113の第1太陽ギア131を駆動し、これにより遊星歯車機構113を介してスピンドル115(スクリュビット119)を回転駆動させる構成とする一方、アウタロータ123で冷却ファン165を駆動する構成としたものである。上記以外については、両方向ワンウェイクラッチ151が省略されている点、及び遊星歯車機構113において、第1インターナルギア133と第2インターナルギア141が一体に形成されるとともに、ギアハウジング107側に固定されている点、更にはインナステータ125Aの外周領域を保持部材126によって保持する点を除いては第1の実施形態と概ね同様に構成されるため、同一符号を付してその説明は省略する。
【0078】
アウタロータ123の長軸方向の一端部(前端部)には、アウタステータ125B及びインナロータ121の前端部よりも前方(遊星歯車機構113側)に延在する筒状のファン収容部124が形成され、このファン収容部124内にモータ冷却用の冷却ファン165が収容されて固定されている。ファン収容部124は、本発明における「延在領域」に対応する。冷却ファン165は、本発明における「先端工具以外の作動部材」及び「ファン」に対応する。
【0079】
本実施の形態では、駆動モータ111の電流値等をモニターし、無負荷時等、駆動モータ111の発熱が少ないときは、冷却ファン165を停止させ、実稼動時などのように駆動モータ111の発熱が多くなるような場合に、アウタロータ123を駆動させて冷却ファン165を駆動させる構成としている。
【0080】
本実施の形態によれば、インナモータ121によるスピンドル115の駆動とは別に独立した形でアウタロータ123により冷却ファン165を駆動できるため、スピンドル115(スクリュビット119)の作業状態の如何を問わず、冷却ファン165を常時に最高回転数で駆動することができる。このため、駆動モータ111の冷却作用が向上し、焼損から保護できる。
また、インナロータ121がスピンドル115の駆動専用となるので、冷却ファン165を駆動しない分、インナロータ121の出力が向上する。また、駆動モータ111の発熱が少ないときには、冷却ファン165を停止させ、騒音の発生を抑えることができる。
【0081】
また、本実施の形態によれば、出力軸であるスピンドル115と同軸上にモータを配置したことにより、インナロータ121、インナ及びアウタステータ125A,125B、アウタロータ123の各部材を1つの冷却ファン165で同時に冷却することができるとともに、本機形状を大きくすることなく、比較的大型の冷却ファンを搭載することが可能となり、冷却効果を得易い。
【0082】
(本発明の第5の実施形態)
次に本発明の第5の実施形態につき、
図19を参照しつつ説明する。この実施形態は、第4の実施形態の変形例であり、アウタロータ123にモータ冷却用の冷却ファン165を搭載することに加え、インナロータ121にもモータ冷却用の冷却ファン167を搭載した点で第4の実施形態と相違し、それ以外については、第4の実施形態と同様に構成される。インナロータ121で駆動される冷却ファン167は、当該インナロータ121の後端部においてインナステータ125Aの後端面よりも後方位置に配置されている。冷却ファン165,167は、本発明における「先端工具以外の作動部材」及び「ファン」に対応する。
【0083】
従って、第5の実施形態によれば、インナロータ121の駆動によるスピンドル115を回転駆動しての通常作業中にも冷却ファン167によるモータ冷却作用が行われるため、アウタロータ123の駆動期間を減らすことができる。
また、駆動モータ111の電流値等をモニターし、高負荷時など、モータが焼損し易い状況のときに、アウタロータ123により冷却ファン165を駆動し、冷却能力を上げることができるため、比較的高負荷状態で作業を行うような締付工具に好適に適用できる。また、アウタロータ123で駆動される冷却ファン165は、高負荷状態でのみ使用するので、1充電あたりのネジ締め作業量が確保し易い。
【0084】
また、出力軸であるスピンドル115と同軸上にモータを配置したことにより、第4の実施形態の場合と同様、本機形状を大きくすることなく、比較的大型の冷却ファンを搭載することが可能となり、冷却効果を得易い。
【0085】
なお、便宜上図示を省略するが、インナロータ121又はアウタロータ123のいずれか一方あるいは双方により吸塵用ファンを駆動する構成とすることが可能である。例えば、スピンドル115にドリルビットを取付けて被加工材に穴開け作業を行った際に発生する粉塵を集塵するための集塵装置を備える場合がある。吸塵用ファンは、穴開け加工によって発生した粉塵を吸引するための吸引力発生手段として備えられる。従って、この吸引力発生手段としての吸塵用ファンをインナロータ121又はアウタロータ123のいずれか一方あるいは双方により駆動する構成とすることで、集塵装置付き電動工具を合理的に構築することが可能となる。
【0086】
なお、上述した各実施形態は、電動工具としてスクリュドライバを例にとって説明したが、ネジ等の締付け作業に用いられる締付け工具のみならず、穴開け作業に用いられるドリル、ハツリ作業や穴開け作業に用いられるハンマ、ハンマドリル、切断作業に用いられる木工用あるいは金工用の丸鋸や電動カッター等に適用してもよい。