(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に従って本発明のMRI装置の好ましい実施形態について詳説する。なお、発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0014】
最初に、本発明に係るMRI装置の一例の全体概要を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るMRI装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。このMRI装置は、NMR現象を利用して被検体101の断層画像を得るもので、
図1に示すように、静磁場発生磁石102と、傾斜磁場コイル103及び傾斜磁場電源109と、送信RFコイル104及びRF送信部110と、受信RFコイル105及び信号検出部106と、信号処理部107と、計測制御部111と、全体制御部108と、表示・操作部113と、被検体101を搭載してその被検体101を静磁場発生磁石102の内部に出し入れするベッド112と、を備えて構成される。
【0015】
静磁場発生磁石102は、垂直磁場方式であれば被検体101の体軸と直交する方向に、水平磁場方式であれば体軸方向に、それぞれ均一な静磁場を発生させるもので、被検体101の周りに永久磁石方式、常電導方式あるいは超電導方式の静磁場発生源が配置されている。なお、静磁場発生磁石102には、その不均一補正のために、シムコイル又はシム部材が配置されている。
【0016】
傾斜磁場コイル103は、MRI装置の座標系(静止座標系)であるX,Y,Zの3軸方向に巻かれたコイルであり、それぞれの傾斜磁場コイルは、それを駆動する傾斜磁場電源109に接続され電流が供給される。具体的には、各傾斜磁場コイルの傾斜磁場電源109は、それぞれ後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、それぞれの傾斜磁場コイルに電流を供給する。これにより、X,Y,Zの3軸方向に傾斜磁場Gx,Gy,Gzが発生する。撮像時には、スライス面(撮像断面)に直交する方向にスライス傾斜磁場パルス(Gs)が印加されて被検体101に対するスライス面が設定され、そのスライス面に直交して且つ互いに直交する残りの2つの方向に位相エンコード傾斜磁場パルス(Gp)と周波数エンコード傾斜磁場パルス(Gf)が印加されて、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0017】
また、事前に検出された、傾斜磁場の印加に起因する渦電流の空間的かつ時間的な情報に基づいて、その渦電流が発生する磁場を補償するために、傾斜磁場コイル103および/または前述のシムコイルに補償電流が印加される。
【0018】
送信RFコイル104は、被検体101に高周波磁場(以下、RFという)パルスを照射するコイルであり、RF送信部110に接続され高周波パルス電流が供給される。これにより、被検体101の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴が誘起される。具体的には、RF送信部110が、後述の計測制御部111からの命令に従って駆動されて、高周波パルスを振幅変調し、増幅した後に被検体101に近接して配置された送信RFコイル104に供給することにより、RFパルスが被検体101に照射される。
【0019】
受信RFコイル105は、被検体101の生体組織を構成する原子核スピンのNMR現象により放出されるエコー信号(NMR信号)を受信するコイルであり、信号検出部106に接続されて受信したエコー信号を信号検出部106に送る。信号検出部106は、受信RFコイル105で受信したエコー信号の検出処理を行う。具体的には、RF送信コイル104から照射されたRFパルスによって誘起された被検体101の応答のエコー信号が被検体101に近接して配置された受信RFコイル105で受信され、後述の計測制御部111からの命令に従って、信号検出部106が、受信したエコー信号を増幅し、直交位相検波により直交する二系統の信号に分割し、それぞれを所定数(例えば128,256,512等)サンプリングし、各サンプリング信号をA/D変換してディジタル量に変換し、後述の信号処理部107に送る。従って、エコー信号は所定数のサンプリングデータからなる時系列のデジタルデータ(以下、エコーデータという)として得られる。
【0020】
計測制御部111は、被検体101の断層画像の再構成に必要
なデータ収集のための種々の命令を、主に、傾斜磁場電源109と、RF送信部110と、信号検出部106に送信してこれらを制御する制御部である。具体的には、計測制御部111は、後述する全体制御部108の制御で動作し、ある所定のパルスシーケンスに基づいて、傾斜磁場電源109、RF送信部110及び信号検出部106を制御して、被検体101へのRFパルスと傾斜磁場パルスの印加及び被検体101からのエコー信号の検出を繰り返し実行し、被検体101の断層画像の再構成に必要なエコーデータを収集する。
【0021】
なお、本発明に係るMRI装置は、パルスシーケンスとして、通常の撮像シーケンスの他に、傾斜磁場に起因する渦電流磁場を計測するための較正パルスシーケンスを含んでいる。撮像シーケンスおよび較正パルスシーケンスは、プログラムとして記憶部内に予め格納されている。CPUは、これらのパルスシーケンスのプログラムを読み込んで計測制御部111に指令を出力し、パルスシーケンスを実行させる。
【0022】
全体制御部108は、計測制御部111の制御、及び、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等の制御を行うものであってCPU及びメモリを内部に有する演算処理部と、光ディスク、磁気ディスク等の記憶部とを有して成る。具体的には、計測制御部111を制御してエコーデータの収集を実行させ、信号処理部107からのエコーデータが入力されると、演算処理部が信号処理、フーリエ変換による画像再構成等の処理を実行し、その結果である被検体101の断層画像を、後述の表示・操作部
113に表示させると共に記憶部に記録する。
【0023】
表示・操作部113は、被検体101の断層画像を表示するディスプレイと、MRI装置の各種制御情報や上記全体制御部108で行う処理の制御情報を入力するトラックボール又はマウス及びキーボード等の操作部と、から成る。この操作部はディスプレイに近接して配置され、操作者がディスプレイを見ながら操作部を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0024】
なお、
図1において、送信側のRF送信コイル104と傾斜磁場コイル103は、被検体101が挿入される静磁場発生磁石102の静磁場空間内に、垂直磁場方式であれば被検体101に対向して、水平磁場方式であれば被検体101を取り囲むようにして設置されている。また、受信側の受信RFコイル105は、被検体101に対向して、或いは取り囲むように設置されている。
【0025】
現在のMRI装置の撮像対象核種は、臨床で普及しているものとしては、被検体の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体頭部、腹部、四肢等の形態または、機能を2次元もしくは3次元的に撮像する。
【0026】
なお、本発明に係る傾斜磁場発生部は、計測制御部111と傾斜磁場コイル103と傾斜磁場電源109とが主に関連する。また、渦電流磁場計測部は、計測制御部111と演算処理部とが主に関連する。また、補償磁場算出部は、演算処理部が主に関連する。
【0027】
(渦電流と補償磁場の効果)
次に、渦電流と、渦電流に基づく磁場を補償する補償磁場とを、
図2を用いて簡単に説明する。
図2は、左側((a)、(c)図)に示した計測制御部111からの傾斜磁場波形の出力例と、右側((b)、(d)図)に示した実際に被検体の撮像領域に印加される傾斜磁場波形との関係を示す。また、
図2の上段((a),(b)図)に補償磁場を発生させない場合を、下段((c),(d)図)に補償磁場を発生させる場合を示す。
【0028】
補償磁場を発生させない場合、計測制御部111から出力される傾斜磁場波形((a)図)は理想的な矩形波である。この矩形波を有する電流が傾斜磁場電源で増幅され傾斜磁場コイルに印加されることにより、被検体の撮像領域に傾斜磁場が印加される。その際、傾斜磁場コイル周辺の様々な構造体に渦電流が誘起されてしまうので、実際に撮像領域に印加される傾斜磁場は、傾斜磁場コイルによって出力される矩形状傾斜磁場と、渦電流による磁場が重ね合わさり、(b)図のような歪んだ傾斜磁場波形となって、画質が劣化してしまう。
【0029】
これに対して、補償磁場を発生させる場合は、上記渦電流磁場を打ち消すように、計測制御部111は、予め補償磁場分を含んだ傾斜磁場波形((c)図)を出力する。この場合、(a)に示した矩形波の立ち上がり部にオーバーシュートが、立下り部にアンダーシュートが、それぞれ追加された波形となる。この様な波形の傾斜磁場が傾斜磁場コイルを介して被検体の撮像領域に印加されると、(a)図の場合と同じように渦電流による磁場が発生するが、このオーバーシュート部及びアンダーシュート部と渦電流磁場とが相殺して、(d)に示す様に、理想的な矩形状の傾斜磁場波形が撮像領域に印加されることになる。これにより画質が改善される。
【0030】
(渦電流磁場のクロスタームについて)
次に、渦電流磁場のクロスタームについて
図3A,
図3B、及び
図3Cに基づいて説明する。
図3Aは、X軸方向のみに矩形波形の傾斜磁場301を傾斜磁場コイルから出力した場合に、実際に被検体の撮像領域に印加される傾斜磁場波形を示す。この場合は、撮像領域に実際に印加される傾斜磁場のX方向成分は、
図2と同様に、歪んだ波形302となる。さらに、傾斜磁場が印加されなかったY軸方向とZ軸方向にも、主に、印加された傾斜磁場の立ち上がり部と立下り部の近傍で、即ち、印加された傾斜磁場が時間的に大きく変化する時点の近傍で、それぞれ僅かに渦電流磁場303、304が誘起される。これらが渦電流磁場のクロスタームである。即ち、傾斜磁場の各方向への印加が相互に独立でなくカップリングしていると、一つの軸方向への傾斜磁場の印加が、同じ軸方向の渦電流磁場の誘起のみならず、他の軸方向への渦電流磁場を誘起することになる。カップリングの主原因は、傾斜磁場コイル周辺の様々な構造体に誘起される渦電流が、印加された傾斜磁場方向と異なる方向の成分を有して、該成分電流が印加された傾斜磁場方向と異なる方向の磁場を発生するためである。
【0031】
同様に、
図3Bは、Y軸方向のみに矩形波形の傾斜磁場311を傾斜磁場コイルから出力した場合に、実際に被検体の撮像領域に印加される傾斜磁場波形を示す。この場合は、撮像領域に実際に印加される傾斜磁場のY方向成分313は、
図2と同様に、歪んだ波形となる。さらに、傾斜磁場が印加されなかったZ軸方向とX軸方向にも、それぞれ僅かに渦電流磁場312,314が誘起される。
【0032】
同様に、
図3Cは、Z軸方向のみに矩形波形の傾斜磁場321を傾斜磁場コイルから出力した場合に、実際に被検体の撮像領域に印加される傾斜磁場波形を示す。この場合は、撮像領域に実際に印加される傾斜磁場のZ方向成分324は、
図2と同様に、歪んだ波形となる。さらに、傾斜磁場が印加されなかったX軸方向とY軸方向にも、それぞれ僅かに渦電流磁場322,323が誘起される。
【0033】
(渦電流計測)
次に、傾斜磁場に起因する渦電流磁場を計測するための較正パルスシーケンスについて説明する。
【0034】
初めに操作者は、静磁場中にファントムを配置し、不図示の操作部を介して、CPUに較正パルスシーケンスの実行を指示する。操作者からの指示に従い、CPUは、較正パルスシーケンスを記憶部から読み込んで計測制御部111に実行させる。
【0035】
この較正パルスシーケンスは、所定の印加時間と強度を有したテスト傾斜磁場を所定の軸方向(i方向)に印加した後、所定の周波数エンコード方向(j方向)についてエコー信号を読み出すことにより、そのテスト傾斜磁場により生じた渦電流に起因して所定のj方向に発生した渦電流磁場による位相変化(Фji)を検出できるシーケンスであればどのようなシーケンスであってもよい。
【0036】
ただし、本実施例では、従来のように、テスト傾斜磁場の印加方向(i方向)と同じ方向とした周波数エンコード方向(j方向)に生じた渦電流磁場による位相変化量(Фxx、Фyy、Фzz)のみならず、直交する方向に生じるクロスタームの渦電流磁場による位相変化量(Фxy、Фyx、Фyz、Фzy、Фzx、Фxz)についても計測を行う。このため、テスト傾斜磁場の印加方向および周波数エンコード方向をXYZ軸のそれぞれに設定可能なシーケンスである必要がある。
【0037】
例えば、
図4に示した、特許文献2で開示された、較正パルスシーケンスを用いることができる。このシーケンスは、グラディエントエコー法による短TRパルスシーケンスを繰り返し行うものであり、テスト傾斜磁場1051を印加するユニット(
図4のグループ1)と、テスト傾斜磁場を印加しないユニット(グループ2)から構成される。
図4のグループ1およびグループ2ではいずれも、RFパルス1101を照射すると同時に、Gs方向にスライス選択傾斜磁場1102を印加して、ファントムの任意断面を励起し、Gp方向の位相エンコード傾斜磁場1103を印加して位相エンコードした後、Gf方向の周波数エンコード傾斜磁場1104を印加し、エコー信号1106を発生させる。これを所定の時間TRで所定回数繰り返し行う。
【0038】
このとき、グループ1では、所定のi方向(
図2ではi方向=Gf方向)に所定の強度および時間のテスト傾斜磁場1051〜105nをTRごとに印加する。グループ1では、発生したエコー信号1106は取得せず、グループ2では、時間1107でエコー信号1106を取得する。これにより、テスト傾斜磁場1051〜105nによって発生した渦電流1202に起因する磁場の変化をエコー信号1106によって計測することができる。位相エンコード量は、グループ1とグループ2とで同じ値とし、位相エンコード量を変化させながら、グループ1とグループ2とを繰り返し行い、グループ2の各TRにおいて、それぞれ画像再構成に必要な数のエコー信号が取得されるまで継続する。つぎに、テスト傾斜磁場1051〜105nの極性を反転させて同様に、グループ2の各TRにおいて、それぞれ画像再構成に必要な数のエコー信号を取得する。
【0039】
図4のグループ1では、発生したエコー信号1106は取得せず、グループ2では、時間1107でエコー信号1106を取得している。これは、特許文献2にも記載されているように、グループ1において、RFパルス1101を繰り返し印加することにより、核スピンを定常歳差運動状態にし、グループ2において信号強度レベルを維持しながらエコー信号1106を繰り返し取得するためである。また、テスト傾斜磁場1051〜105nについても、短時間パルス磁場を繰り返し印加することにより、大きな磁場を長時間印加するのと同じ効果が得られ、傾斜磁場コイルの負担が小さくするためである。また、
図4のシーケンスの場合、傾斜磁場の立ち上がり時に発生する渦電流1201が継続している間、グループ1を継続して行うことにより、グループ2において立ち下がり時に発生する渦電流1202の変化をエコー信号1106により選択的に計測することができるという作用も得られる。逆に、立ち上がり時に発生する渦電流1201の変化を計測する場合には、グループ2においてエコー信号1106を計測せず、グループ1においてエコー信号を計測する。ただし、これは一例であり、Gs、Gp、GfとX、Y、Z軸との対応関係、および、テスト傾斜磁場1051等の印加軸を変化させて位相画像を取得することもできる。
【0040】
以下、本発明のMRI装置及び渦電流補償方法についての各実施例を説明する。本発明の概要は、テスト傾斜磁場を印加して、テスト傾斜磁場の印加方向と、該印加方向と異なる方向とに、それぞれ発生する渦電流磁場を計測する。次に、計測された各方向の渦電流磁場に基づいて、任意の傾斜磁場の印加に伴う渦電流磁場を該方向毎に補償する補償磁場をそれぞれ求める。最後に、任意の傾斜磁場と共に、求めた方向毎の補償磁場をそれぞれ発生する。好ましくは、所定の一方向に垂直な一対のスライス位置でそれぞれ計測したエコー信号に基づいて、所定の一方向と該所定の一方向に垂直な方向についての渦電流磁場を計測する。
【0041】
これにより、傾斜磁場により発生する渦電流による磁場を、傾斜磁場印加方向のみならずクロスタームも含めて計測することができる。そして、この計測結果を用いて、傾斜磁場の印加により発生する渦電流による磁場を、傾斜磁場の印加方向のみならず傾斜磁場の印加方向と異なる方向についても補正することができるようになる。その結果、画質が向上する。
【実施例1】
【0042】
次に、本発明のMRI装置及び渦電流補償方法についての実施例1を説明する。
本実施例は、テスト傾斜磁場を印加して取得した位相画像を用いて、該テスト傾斜磁場の印加方向に発生する渦電流磁場に基づく位相変化のみならず、該印加方向と異なる方向に発生する渦電流磁場に基づく位相変化をそれぞれ取得する。より具体的には、所定の一方向にテスト傾斜磁場を印加してエコー信号を計測し、エコー信号に基づいてテスト傾斜磁場の印加により生じた位相変化を示す位相画像をスライス位置毎にそれぞれ再構成し、一対の位相画像上で所定の一方向と該所定の一方向に垂直な方向についての位相変化量をそれぞれ取得する。このような位相変化量の取得を介して、テスト傾斜磁場の印加に伴って、所定の一方向と該所定の一方向に垂直な方向に発生する渦電流磁場をそれぞれ計測するものである。この位相変化量の取得を介した渦電流磁場の計測は、以下に説明する各実施例において同様である。
【0043】
そして、これら位相変化量から各方向の渦電流磁場を補償するための補償磁場を規定する補償パラメータを求め、該補償パラメータを用いて各方向の渦電流磁場を補償する。この位相変化量から補償パラメータを求めることを介して、渦電流磁場を補償するための補償磁場を求めることも、以下に説明する各実施例において同様である 位相画像を取得するスライス位置は、所定の一方向で、原点又はその方向に垂直な座標面に関して対称な位置関係にある一対のスライス位置とする。そして、具体的な位相値を取得する点又は領域を、これらの一対のスライス位置において、所定の方向で、原点又はその方向に垂直な座標面に関して互いに対称な位置関係にある長方形の各頂点又は該頂点を含む領域の位相値を取得する。これにより、所定の一方向で一対のスライス位置を撮像するだけで、直交3軸方向の各方向でテスト傾斜磁場の印加に基づく位相変化、及び、該各軸方向の位相変化から直交3軸方向の渦電流磁場を補償するための補償磁場を規定する補償パラメータを求める。
【0044】
最初に、本実施例の渦電流計測及び近似方法の概要を説明する。
前述した較正パルスシーケンスを用いて、i方向にテスト傾斜磁場1051等を印加して、j方向を周波数エンコード方向として、それぞれ取得時間の異なる複数の位相画像を取得する。次に、i方向に極性を反転させたテスト傾斜磁場1051等を印加して、j方向を周波数エンコード方向として、それぞれ取得時間の異なる複数の位相画像を取得する。そして、同じ取得時間同士の位相画像を差分して、取得時間の異なる複数の位相差分画像を取得する。このようにして取得された取得時間の異なる各位相差分画像上の同じ位置(例えば原点)の位相値は、その位置における渦電流磁場の時間変化を表している。
【0045】
そこで、これら取得時間の異なる複数の位相値を非線形関数にフィッティングする。例えば、渦電流磁場の時間変化を求める方向における原点から等距離の2点間についての位相差を求めて、その位相差をLevenberg-Marquardt法などを用い非線形近似を行う。
【0046】
測定データ(t
i)=A
0+A
1Exp(-t
i/τ
g1)+A
2Exp(-t
i/τ
g2)+.....+A
mExp(-t
i/τ
gm) (1)
このように複数組の振幅(A)と時定数(τ)に分解して、これらの複数組の振幅(A)と時定数(τ)とを補償パラメータとする。
【0047】
これら補償パラメータは記憶部に記憶されると共に、以後の任意のパルスシーケンスの実行時には、これらの補償パラメータをCPUが記憶部より読み出して、計測制御部111に通知する。計測制御部111は、これらの補償パラメータと、パルスシーケンスで規定された傾斜磁場とに基づいて、この傾斜磁場に基づく渦電流磁場を補償するための補償磁場分を(1)式と同様の近似式を用いて求め、補償磁場分を追加した傾斜磁場を発生するように傾斜磁場電源を制御する。
図5に位相値の時間変化とその非線形近似の一例を示す。点線が実測データを示し、実線が非線形近似を示す。
【0048】
次に、本実施例の渦電流磁場のクロスタームを求める計測方法について、
図6、
図7を用いて説明する。
図6は、本実施例の動作フローを表すフローチャートである。(a)は較正パルスシーケンスを用いて較正用のデータを取得する動作フローであり、(b)は、取得された較正用データの処理フローである。これらの動作フローはプログラムとして予め磁気ディスク等の記憶部に記憶されており、CPUが必要に応じてメモリに読み込んで実行することにより実施される。
図7は、位相差分画像の位相値を取得する点又は領域の位置関係を示す図である。以下、
図6の各ステップを詳細に説明する。
【0049】
ステップ601で、計測制御部111は、
図4のシーケンスにおいて、操作者の事前設定に基づいて、スライス方向(Gs)をZ軸、位相エンコード方向(Gp)をY軸、周波数エンコード方向(Gf)をX軸に設定し、X軸に正極性のテスト傾斜磁場1051等を印加して、所定のスライス位置からのエコー信号を計測する。そのスライス位置は、
図7(a)に示すように、原点又はXY面に関して対称に、Z軸方向に所定の距離離れて、XY平面に平行な一対のスライス位置である。計測制御部111は、所定の時間間隔(TR)毎にこの一対のスライス位置の各画像を取得するために、それぞれエコー信号を計測し、正極性テスト傾斜磁場のデータセットとする。さらに、必要に応じて、Z軸方向の所定距離を異ならせてN対のスライス位置の画像や原点を含むXY平面の画像を取得して良い。つまり2枚以上の画像を取得することになる。
【0050】
このように、一つの方向(この場合はZ軸方向)の一対又は2枚以上のスライス位置の画像を取得することにより、これらの画像からこの一つの方向のみならず、他の方向についての渦電流磁場の補償パラメータをそれぞれ求める。なお、XY面に平行な一対のスライス位置でなく、
図7(b)に示すYZ平面、又は、
図7(c)に示すZX平面に平行な一対のスライス位置であっても良い。
【0051】
ステップ602で、計測制御部111は、テスト傾斜磁場1051等を負極性に印加して、ステップ601と同様にエコー信号を計測して、負極性テスト傾斜磁場のデータセットを取得する。
【0052】
ステップ603,604で、計測制御部111は、テスト傾斜磁場1051等の印加軸をY軸に変更して、ステップ601,602と同様にエコー信号を計測して、正・負極性テスト傾斜磁場のデータセットをそれぞれ取得する。
【0053】
ステップ605,606で、計測制御部111は、テスト傾斜磁場1051等の印加軸をZ軸に変更して、ステップ601,602と同様にエコー信号を計測して、正・負極性テスト傾斜磁場のデータセットをそれぞれ取得する。
【0054】
次に、得られたデータセットを
図6(b)のように処理する。
図4の較正パルスシーケンスにより、ステップ601〜606において取得されたデータセット(エコー信号1106)は、テスト傾斜磁場1051等により生じた渦電流に起因する磁場による位相情報の他に、静磁場不均一による影響や位相エンコード傾斜磁場1103や周波数エンコード傾斜磁場1104による渦電流による影響も受けている。よって、これらを
図6(b)のように、正負それぞれのテスト傾斜磁場を印加して求めた同じスライス位置の位相画像同士を差分処理することにより、テスト傾斜磁場により生じた渦電流磁場のみを含んだ位相差分画像データセットを得る。
【0055】
以下、
図6(a)のステップ601,602でテスト傾斜磁場をX軸方向に印加して取得したデータセットを対象とした処理フローを説明する。ステップ603,604でテスト傾斜磁場をY軸方向に印加して取得したデータセットを対象とした処理フローと、ステップ605,606でテスト傾斜磁場をZ軸方向に印加して取得したデータセットを対象とした処理フローも、同様の処理となる。
【0056】
ステップ611で、CPUは、ステップ601で、正極性のテスト傾斜磁場1051等をX軸方向に印加して取得されたエコー信号1106のデータセットを、所定の時間間隔(TR)毎に2次元フーリエ変換して、時間分解された2次元複素画像(実数画像および虚数画像)データを再構成する。このエコー信号は、スライス方向(Gs)をZ軸、位相方向(Gp)をY軸、周波数エンコード方向(Gf)をX軸に設定し、X軸方向に正極性のテスト傾斜磁場1051等を印加して計測されたものであるので、再構成された2次元複素画像は、
図7(a)に示す様に、XY平面の画像である。
【0057】
ステップ612で、CPUは、ステップ611で求めた複素画像の各点の実部と虚部との比のアークタンジェントから位相を求め、原点又はXY面に関して対称に、Z方向の所定の距離離れてXY平面に平行な一対又は2枚以上の位相画像データを得る。
【0058】
ステップ621で、ステップ611と同様に、CPUは、ステップ601で負極性のテスト傾斜磁場1051等をX軸方向に印加して取得されたエコー信号1106のデータセットを、所定の時間間隔(TR)毎に2次元フーリエ変換して、時間分解された2次元複素画像(実数画像および虚数画像)データを再構成する。
【0059】
ステップ622で、ステップ612と同様に、CPUは、ステップ621で求めた複素画像の各点の実部と虚部との比のアークタンジェントから位相を求め、原点に関して対称に、Z方向の所定の距離離れてXY平面に平行な一対又は2枚以上の位相画像データを得る。
【0060】
ステップ631で、CPUは、ステップ612で取得した一対又は2枚以上の位相画像と、ステップ622で取得した一対又は2枚以上の位相画像との位相差分を求め、原点又はXY面に関して対称に、Z方向の所定の距離離れてXY平面に平行な一対又は2枚以上の位相差分画像データを取得する。
図7(a)には2枚の位相差分画像を取得した場合を示す。得られた位相差分画像データは、静磁場不均一による影響や位相エンコード傾斜磁場1103や周波数エンコード傾斜磁場1104による渦電流による影響が除去され、テスト傾斜磁場1051等により生じた渦電流の影響のみを含んだ位相画像となる。
【0061】
ステップ601,602におけるテスト傾斜磁場1051の印加方向(i方向)は、X軸である。よって、
図7(a)の位相差分画像上で、X軸方向に所定の距離だけ離れた予め定めた2点又は2領域(例えば、(#1と#5)、(#2と#6)、(#3と#7)、(#4と#8))の位相データは、それぞれX軸(i方向)に印加したテスト傾斜磁場1051による渦電流磁場によりX軸方向(j=i方向)に生じた位相成分を示している。よって、これら2点又は2領域の位相データの差分を取ることによって、X軸方向にテスト傾斜磁場を印加したときのX軸方向の位相変化量Фxxを所定の時間間隔(TR)毎に得ることができる。更に、求めた位相変化量Фxxを2点または2領域間の距離ΔXで割って、単位長さあたりの位相変化量Фxxとしても良い。複数の2点又は2領域間の位相差分を求める場合は、それらの平均を位相変化量Фxxとしても良い。以降の計算においても同様である。
【0062】
同様に、
図7(a)の位相差分画像上で、Y軸方向に所定の距離だけ離れた予め定めた2点又は2領域(例えば、(#1と#2)、(#3と#4)、(#5と#6)、(#7と#8))の位相データは、X軸(i方向)に印加したテスト傾斜磁場1051による渦電流磁場によりY軸方向(j方向)に生じた位相成分をそれぞれ示している。よって、これら2点又は2領域の位相データの差分を取ることにより、位相変化量Фji=Фyxを所定の時間間隔(TR)毎に得ることができる。更に、求めた位相変化量Фxxを2点または2領域間の距離ΔYで割って、単位長さあたりの位相変化量Фyxとしても良い。
【0063】
同様に、
図7(a)の位相差分画像上で、Z軸方向に所定の距離だけ離れた予め定めた2点又は2領域(例えば、(#1と#3)、(#2と#4)、(#5と#7)、(#6と#8))の位相データは、X軸(i方向)に印加したテスト傾斜磁場1051による渦電流磁場によりZ軸方向(j方向)に生じた位相成分をそれぞれ示している。よって、これら2点又は2領域の位相データの差分を取ることにより、位相変化量Фji=Фzxを所定の時間間隔(TR)毎に得ることができる。更に求めた位相変化量Фzxを2点または2領域間の距離ΔZで割って、単位長さあたりの位相変化量Фzxとしても良い。
【0064】
ステップ632で、CPUは、位相変化量Фxx、Фyx、Фzx毎に、所定の時間間隔(TR)毎の変化を、前述したように、Levenberg-Marquardt法などを用い非線形近似を行って、(1)式のように複数組の振幅(A)と時定数(τ)に分解して補償パラメータとして求める。即ち、所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量Фxxから、X軸方向に印加される傾斜磁場によりX軸方向に発生する渦電流磁場を補償する補償パラメータを求め、所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量Фyxから、X軸方向に印加される傾斜磁場によりY軸方向に発生する渦電流磁場を補償する補償パラメータを求め、所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量Фzxから、X軸方向に印加される傾斜磁場によりZ軸方向に発生する渦電流磁場を補償する補償パラメータを求める。そしてCPUは、これらの補償パラメータを記憶部に記憶させる。
【0065】
ステップ633で、X軸方向に傾斜磁場を印加する際には、ステップ632で求めた補償パラメータをCPUが記憶部より読み出して、計測制御部111に通知する。計測制御部111は、これらの補償パラメータに基づいて、各軸方向傾斜磁場に、このX軸方向傾斜磁場の印加に基づく渦電流磁場を補償するための補償磁場分をそれぞれ追加した傾斜磁場を発生するように傾斜磁場電源を制御する。この場合は、X軸方向傾斜磁場にはX軸方向の補償磁場分が追加されて出力されるが、Y,Z軸方向傾斜磁場は、補償磁場分のみの出力となる。
【0066】
以上までが、X軸方向にテスト傾斜磁場を印加して取得したデータセットを対象とした処理フローの説明である。
【0067】
Y軸方向にテスト傾斜磁場を印加して補償パラメータを取得する場合も上記処理フローと同様である。即ち、ステップ603,604により、計測制御部111は、Y軸方向にテスト傾斜磁場を印加してデータセットを取得する。そして、CPUは、ステップ611-632に相当する処理として、Y軸方向の渦電流磁場による位相変化量Фyy、及び、クロスタームであるX軸方向の渦電流磁場による位相変化量ФxyとZ軸方向の渦電流磁場による位相変化量Фzyを、それぞれ所定の時間間隔(TR)毎に取得し、これらの位相変化量を非線形近似して、(1)式のように複数組の振幅(A)と時定数(τ)に分解してそれらを補償パラメータとする。以後、計測制御部111は、ステップ633に相当する処理として、Y軸方向に傾斜磁場を印加する際には、これらの補償パラメータに基づいて、各軸方向傾斜磁場に、このY軸方向傾斜磁場に基づく渦電流磁場を補償するための補償磁場分をそれぞれ追加して、該各方向傾斜磁場を発生するように傾斜磁場電源を制御する。この場合は、Y軸方向傾斜磁場にはY軸方向の補償磁場分か追加されて出力されるが、Z,X軸方向傾斜磁場は、補償磁場分のみの出力となる。
【0068】
また、同様に、ステップ605,606により、計測制御部111は、Z軸方向にテスト傾斜磁場を印加して補償パラメータを取得する。そして、CPUは、ステップ611-632に相当する処理として、Z軸方向の渦電流磁場による位相変化量Фzz、及び、クロスタームであるX軸方向の渦電流磁場による位相変化量ФxzとY軸方向の渦電流磁場による位相変化量Фyzを、それぞれ所定の時間間隔(TR)毎に取得し、これらの位相変化量を非線形近似して、(1)式のように複数組の振幅(A)と時定数(τ)に分解してそれらを補償パラメータとする。以後、計測制御部111は、ステップ633に相当する処理として、傾斜磁場をZ軸方向に印加する際には、これらの補償パラメータに基づいて、各軸方向傾斜磁場に、このZ軸方向傾斜磁場に基づく渦電流磁場を補償するための補償磁場分をそれぞれ追加して、該各軸方向傾斜磁場を発生するように傾斜磁場電源を制御する。この場合は、Z軸方向傾斜磁場にはZ軸方向の補償磁場分か追加されて出力されるが、X,Y軸方向傾斜磁場は、補償磁場分のみの出力となる。
以上までが本実施例の動作フローの説明である。
【0069】
なお、更に次の処理を追加しても良い。即ち、磁場中心を含むスライス面を撮像して、そのスライス位置の位相差分画像を取得して、磁場中心(0ポジション)の位相データを取得し、この磁場中心の位相データをリファレンス位相とする。そして、磁場中心以外の点又は領域で取得した位相データとリファレンス位相とを比較する。これにより、磁場中心から離れた点又は領域で取得した位相データが適正なものか否かを判定し、適正と判定された場合のみ、補償パラメータを求める演算を行っても良い。これにより、補償パラメータの精度と信頼性を向上できる。
【0070】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及び渦電流補償方法によれば、傾斜磁場の印加方向に発生する渦電流磁場のみならず、該印加方向と異なる方向にも発生する渦電流磁場のクロスタームの時間変化を計測することが可能になるので、これらの計測結果に基づいて、傾斜磁場の印加方向のみならず、これと異なる方向に発生する渦電流磁場を補償することができるようになる。その結果、傾斜磁場の印加方向の渦電流磁場のみならずクロスタームも含めて、これらの影響が除去された、高画質の画像を取得することが可能になる。
【実施例2】
【0071】
次に、本発明のMRI装置及び渦電流補償方法についての実施例2を説明する。
本実施例は、所定の一方向に垂直な複数対のスライス位置でそれぞれ取得した位相差分画像上で、それぞれ異なる大きさの長方形を設定し、長方形の各頂点又は該頂点を含む領域の位相を用いて位相変化量を取得する。より具体的には、所定の一方向に垂直な複数対の位相差分画像上の複数の点又は領域の位相データを求めて、各軸方向の位相変化量を求める。その際、各対の位相差分画像毎に位相データを取得する点又は領域の面内位置を異ならせる。そして、方向毎に複数の位相変化量の平均を求めて、最終的な位相変化量とする。
【0072】
以下、
図7(a)に示したように、Z軸方向をスライス方向としてX軸方向にテスト傾斜磁場を印加する場合を例にして、前述の実施例1と異なる箇所を説明する。
【0073】
最初に、本実施例における、位相差分画像とその位相差分画像上における位相データを取得する点又は領域の位置関係の概要を
図8に基づいて説明する。本実施例は、原点又はXY面に関して対称に、Z方向に所定の距離離れて、XY平面に平行な一対の位相差分画像を、Z軸方向の所定距離を異ならせてM(例えばM=2)対取得する。各位相差分画像の取得方法は前述の実施例1と同様なので詳細な説明は省略する。そして、各一対の位相差分画像上でXY面に関して対称な点又は領域の位相データをそれぞれ求める。
【0074】
例えば、
図8におけるZ軸方向外側の一対の位相差分画像801,802では、XY面に関して対称に点又は領域(#1,#2,#5,#6)及び(#3,#4,#7,#8)の位相データを取得する。その際に、(#1→#2)、(#3→#4)、(#5→#6)、(#7→#8)はそれぞれY軸に平行であり、(#1→#5)、(#2→#6)、(#3→#7)、(#4→#8)はそれぞれX軸に平行であり、(#1→#3)、(#2→#4)、(#5→#7)、(#6→#8)はそれぞれZ軸に平行な位置関係となるように各点又は領域が設定される。
【0075】
一方、Z軸方向内側の一対の位相差分画像803,804における位相データを取得する点又は領域(#9,#10,#13,#14)及び(#11,#12,#15,#16)のXY面内位置を、一対の位相差分画像801,802における(#1,#2,#5,#6)及び(#3,#4,#7,#8)と異ならせる。
図8では、一対の位相差分画像801,802で設定された位相データ取得点又は領域(#1,#2,#5,#6)及び(#3,#4,#7,#8)よりも、XY面において内側に、一対の位相差分画像803,804における位相データ取得点又は領域が設定される。なお、内側でなくXY面において外側に設定してもよい。そして、(#1,#2,#5,#6)及び(#3,#4,#7,#8)と同様に、(#9→#10)、(#13→#14)、(#11→#12)、(#15→#16)はそれぞれY軸に平行であり、(#9→#13)、(#10→#14)、(#11→#15)、(#12→#16)はそれぞれX軸に平行であり、(#9→#11)、(#10→#12)、(#13→#15)、(#14→#16)はそれぞれZ軸に平行な位置関係となるように各点又は領域が設定される。
【0076】
そして、X軸(i)方向にテスト傾斜磁場を印加して取得された各点又は領域の位相データから、各軸(j)方向に平行な2つの点又は領域の位相差を求めて、位相変化量(Фji)を複数求める。更に、求めた位相変化量(Фji)を、j方向に平行な2点又は2領域間の距離Δjで割って、単位長さあたりの位相変化量Фjiとしても良い。異なる点又は領域の位相データから同じ位相変化量(Фji)を求める場合は、それらの平均を最終的な位相変化量(Фji)とする。以後は前述の実施例1と同様であり、この位相変化量(Фji)を所定の時間間隔(TR)毎に得て、それらの非線形近似を行って、(1)式のように複数組の振幅(A)と時定数(τ)に分解してそれらを補償パラメータとする。
【0077】
次に、本実施例の動作フローについて、
図6に示すフローチャートに基づいて、前述の実施例1と異なる処理のみを説明する。
【0078】
本実施例におけるステップ601〜606では、計測制御部111は、
図4の較正パルスシーケンスを用いて、テスト傾斜磁場を印加して、所定のスライス位置からのエコー信号を計測する。そのスライス位置は、
図8に示すように、原点又はXY面に関して対称に、Z方向に所定の距離離れて、XY平面に平行な一対のスライス位置を、Z軸方向の所定距離を異ならせてM(例えばM=2)対としたスライス位置である。計測制御部111は、所定の時間間隔(TR)毎に、これらのM対のスライス位置の各画像を取得するために、それぞれエコー信号を計測してデータセットとする。なお、前述した様に、リファレンスとして磁場中心(0ポジション)の位相データを取得しても良い。
【0079】
次に、本実施例におけるステップ611〜632では、CPUは、ステップ601〜606で取得されたデータセットを用いて、原点又はXY面に関して対称に、Z方向に所定の距離離れて、XY平面に平行な一対のスライス位置の位相差分画像データを、Z軸方向の所定距離を異ならせてM(例えばM=2)対、所定の時間間隔(TR)毎に取得する。そして、CPUは、各軸方向に所定の距離だけ離れた2点又は2領域の位相データの差分を求めて、位相変化量(Фji)を求める。その際、CPUは、2点又は2領域のXY面内位置を一対の位相差分画像毎に異ならせて複数の位相変化量(Фji)を求める。この際、求めた位相変化量(Фji)を、これを求めた2点又は2領域間の距離で割って単位長さあたりの位相変化量としても良い。そして、複数の位相変化量(Фji)の平均を最終的な位相変化量(Фji)とする。最後に、CPUは、所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量(Фji)を用い非線形近似を行って補償パラメータを求め、記憶部に記憶させる。渦電流傾斜磁場の補正ステップ633については実施例1と同様である。
【0080】
以上までが本実施例の動作フローの説明である。
以上説明したように、本実施例のMRI装置及び渦電流補償方法によれば、複数対の位相差分画像を求めて各軸方向で複数の位相変化量を求めてそれらの平均を最終的な位相変化量とするので、補償パラメータ及びこのようにして求められた補償パラメータに基づく渦電流磁場の補償をより高精度に行うことが可能になる。
【実施例3】
【0081】
次に、本発明のMRI装置及び渦電流補償方法についての実施例3を説明する。
本実施例は、操作者が、渦電流磁場の補償方向を選択可能とする。そして、選択された渦電流磁場を補償する方向についての渦電流磁場を計測し、選択された渦電流磁場を補償する方向の渦電流磁場を補償する補償磁場を求め、傾斜磁場と共に選択された渦電流磁場を補償する方向の補償磁場を発生する。
【0082】
以下、前述の各実施例と異なる箇所のみを説明し、同一箇所の説明を省略する。
本実施例の動作ブローを
図9の示すフローチャートに基づいて説明する。
ステップ901で、操作者は、不図示のGUIより、渦電流磁場を補償する軸方向(j)を選択する。
【0083】
ステップ902で、操作者は、不図示のGUIより、位相変化量の取得方向数(N)を設定する。
【0084】
ステップ903で、計測制御部111は、テスト傾斜磁場をi(iは、X又はY又はZ)軸方向に印加して、前述の実施例1又は実施例2に基づいて、位相差分画像を取得する。
【0085】
ステップ904で、CPUは、ステップ903で取得された位相差分画像上で、ステップ901で設定された渦電流磁場を補償する軸方向(j)の異なる2つの点又は領域で位相データを取得し、この方向の所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量(Фji)を求める。
【0086】
ステップ905で、ステップ902で設定された位相変化量の取得方向数(N)が1より大きい場合は、CPUは、位相変化量を取得する軸方向を変えて、その方向にも所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量(Ф*i)を取得する。なお、位相変化量を取得する軸方向は、既に位相変化量を取得した方向に直交する方向とする。そして、位相変化量の取得方向数が、ステップ902で設定されたNと等しくなるまで、CPUはこの操作を繰り返す。
【0087】
ステップ906で、全方向について、テスト傾斜磁場を印加して、ステップ901で設定された渦電流磁場を補償する軸方向(j)についての、位相変化量を求めるまで、テスト傾斜磁場の印加軸方向を変えて、ステップ903から905を繰り返す。
【0088】
ステップ907で、CPUは、所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量を求めた軸方向に関して、所定の時間間隔(TR)毎の位相変化量を、前述したように、Levenberg-Marquardt法などを用い非線形近似を行って、(1)式のように複数組の振幅(A)と時定数(τ)に分解して、この軸方向の補償パラメータとして求める。
【0089】
ステップ908で、以降の任意のパルスシーケンスの実行において、計測制御部111は、ステップ907で求められた各軸方向の補償パラメータを用いて、各軸方向に印加される傾斜磁場に、各軸方向の傾斜磁場に基づく渦電流磁場を補償するための補償磁場分をそれぞれ追加した傾斜磁場を発生するように傾斜磁場電源を制御する。この場合は、傾斜磁場が印加された方向には補償磁場分が追加されて出力されるが、傾斜磁場が印加されない方向には、補償磁場分のみの出力となる。
以上までが本実施例の処理フローの説明である。
【0090】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及び渦電流補償方法によれば、操作者の所望する軸方向について、渦電流磁場の補償を行うことが可能になるので、所望の方向に特に精度よく渦電流磁場を補償することが可能になる。例えば、特定の方向を有する血管の画像を公知のPC-MRA法で撮像する場合や、特定の方向に走行する神経線維等を描出する公知の拡散テンソル撮像等を行う場合には、その特定方向の渦電流磁場の影響を特に排除することが必要になるので、本実施例の渦電流磁場の補償は有効となる。
【実施例4】
【0091】
次に、本発明のMRI装置及び渦電流補償方法についての実施例4を説明する。
本実施例は、位相差分画像データを、3次元ボリュームデータとして取得することで、あらゆる方向での位相変化量を取得可能とし、任意の方向に発生する渦電流磁場を補償可能とする。より具体的には、テスト傾斜磁場の極性を変えて計測したエコー信号からそれぞれ3次元画像を再構成し、2つの3次元画像の位相画像を差分して3次元位相差分画像を求め、いずれかの画像上で指定された点又は領域の位相に基づいて渦電流磁場を計測し、計測された渦電流磁場を補償する補償磁場を求め、該求めた補償磁場を傾斜磁場の印加方向毎に配分し、傾斜磁場と共に、該傾斜磁場の印加方向毎に配分された補償磁場をそれぞれ発生する。
【0092】
以下、前述の各実施例と異なる箇所のみを説明し、同一箇所の説明を省略する。 最初に、位相差分画像データを3次元ボリュームデータとして取得することについて
図10に基づいて説明する。
図4に示した較正パルスシーケンスは2次元用のパルスシーケンスであるが、スライス方向(Gs)にも、公知のスライスエンコード傾斜磁場を挿入して3次元パルスシーケンスとすることにより、任意の3次元画像を撮像することが可能になる。
【0093】
そこで、1つの軸方向に正極性又は負極性のテスト傾斜磁場を印加して、それぞれ3次元画像を撮像することにより、この軸方向にテスト傾斜磁場を印加した場合の位相差分画像データを3次元ボリュームデータとして取得する。そして、テスト傾斜磁場の印加軸方向をX,Y,Z軸方向としてそれぞれ3次元画像を撮像して、テスト傾斜磁場を印加した軸方向についての位相差分画像データを3次元ボリュームデータとしてそれぞれ取得する。
【0094】
次に、取得された3次元位相差分画像で、渦電流磁場を補償する方向にある任意の2つの点又は領域の操作者による指定を受けて、これらの点又は領域間の位相変化量を求め、好ましくは、該位相変化量を、2点又は2領域間の距離で割って、単位長さあたりの位相変化量とすることにより、これらの点又は領域間を結ぶ方向に発生する渦電流磁場を補償するための補償パラメータを求める。或いは、平面を規定するための3点又は3領域の操作者による指定を受けて、該平面と対となる平面を求めて、これら一対の平面における各頂点又は該頂点を含む領域間の位相変化量を求めることにより、この一対の平面の各頂点で規定される直交3軸方向の渦電流磁場を補償するための補償パラメータを求める。
図10の○印は、操作者が指定する点又は領域、或いは、これら操作者の指定に応じてCPUが設定する補助的点又は領域を表す。
【0095】
そして、傾斜磁場印加時には、この補償パラメータを用いて、その方向に発生する渦電流磁場を補償するための補償磁場を印加する傾斜磁場に重ね合わせて発生させる。その際、任意の方向の補償磁場は、X,Y,Z軸方向成分に分解されて、X,Y,Z軸方向に印加される傾斜磁場にそれぞれ重ね合わせる。
【0096】
次に、本実施例の動作フローを
図11に示すフローチャートに基づいて説明する。この動作フローはプログラムとして予め磁気ディスク等の記憶部に記憶されており、CPUが必要に応じてメモリに読み込んで実行することにより実施される。以下、各ステップを詳細に説明する。
【0097】
ステップ1101で、X,Y,Z軸方向にテスト傾斜磁場を印加して、それぞれ位相差分画像データが3次元ボリュームデータとして取得される。具体的には、計測制御部111は、前述の3次元較正パルスシーケンスを用いて、X軸方向に正極性又は負極性のテスト傾斜磁場を印加して、それぞれ3次元画像を撮像する。同様に、Y軸方向に正極性又は負極性のテスト傾斜磁場を印加した3次元撮像と、Z軸方向に正極性又は負極性のテスト傾斜磁場を印加した3次元撮像と、を行う。そして、CPUは、X軸方向にテスト傾斜磁場が印加されて取得された2つの3次元画像から、X軸方向にテスト傾斜磁場が印加された場合の3次元位相差分画像データを取得する。同様に、CPUは、Y軸方向にテスト傾斜磁場が印加されて取得された2つの3次元画像から、Y軸方向にテスト傾斜磁場が印加された場合の3次元位相差分画像データを取得し、Z軸方向にテスト傾斜磁場が印加されて取得された2つの3次元画像から、Z軸方向にテスト傾斜磁場が印加された場合の3次元位相差分画像データを取得する。
【0098】
ステップ1102で、操作者は、任意のテスト傾斜磁場印加方向(i)(i=X,Y,Z)についての3次元画像又は3次元位相差分画像上で、マウス等を用いて渦電流磁場を補償する方向を指定する。具体的には、操作者が、渦電流磁場を補償する方向を示す2点又は2領域を3次元画像又は3次元位相差分画像上でマウス等を用いて指定する。
【0099】
ステップ1103で、CPUは、ステップ1102で指定された方向に基づいて、該方向に垂直であって、原点に関して対称な2つの長方形平面を設定し、各長方形平面の4つの頂点位置をそれぞれ位相データを取得する点又は領域として設定する。これにより、8つの位相データを取得する点又は領域が設定される。また、CPUは、これらの8つの点又は領域を他の3次元位相差分画像にも同様に設定する。
図12に渦電流磁場を補償する方向(1201)と、この方向に基づく2つの長方形平面(1202,1203)とその頂点の8点の例を示す。
【0100】
ステップ1104で、CPUは、ステップ1103で設定した8つの点又は領域における位相データを3次元位相差分画像データから取得して、長方形平面に垂直な方向(a)と、長方形平面に平行であって互いに垂直な2方向(b,c)についての、位相変化量(Фai、Фbi、Фci)を求める。さらに、
CPUは、各テスト傾斜磁場印加方向(X,Y,Z)についての3次元位相差分画像毎に、これら3方向(a,b,c)の位相変化量を求める。従って、X軸方向にテスト傾斜磁場を印加して取得された3次元位相差分画像データから位相変化量(Фax、Фbx、Фcx)が、Y軸方向にテスト傾斜磁場を印加して取得された3次元位相差分画像データから位相変化量(Фay、Фby、Фcy)が、Z軸方向にテスト傾斜磁場を印加して取得された3次元位相差分画像データから位相変化量(Фaz、Фbz、Фcz)が、それぞれ求められる。
【0101】
ステップ1105で、CPUは、ステップ1104で求めた位相変化量を用いて、3方向(a,b,c)の補償パラメータをそれぞれ求める。さらに、CPUは、補償パラメータの内で傾斜磁場座標系である(X,Y,Z)座標系に変換すべき補償パラメータに関しては、その補償パラメータを(X,Y,Z)座標系に変換して、座標変換された値を(X,Y,Z)方向毎に加算する。例えば、(1)式の振幅(A)に対応する補償パラメータは(X,Y,Z)座標系に変換すべき補償パラメータであるが、時定数(τ)はそのままの値を(X,Y,Z)座標系に変換された振幅(A)に対してそのまま用いる。最後にCPUは時定数(τ)と(X,Y,Z)座標系に変換された振幅(A)とを含む補償パラメータを記憶部に記憶させる。
【0102】
ステップ1106で、計測制御部111は、傾斜磁場を印加する際には、ステップ1105で求めた補償パラメータをCPUが記憶部より読み出して、計測制御部111に通知する。計測制御部111は、これらの補償パラメータに基づいて、この傾斜磁場に基づく渦電流磁場を補償するための補償磁場分を追加した傾斜磁場を発生するように傾斜磁場電源を制御する。
以上迄が本実施例の動作フローの説明である。
【0103】
以上説明したように、本実施例のMRI装置及び渦電流補償方法によれば、任意の方向の渦電流磁場を補償することが可能になる。その結果、操作者の選択により、所望の方向に特に精度よく渦電流磁場を補償することが可能になる。具体的有用性については、実施例3と同様である。