(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
研磨断面において、観察視野の面積に対し、針状粒子の平均長径の5倍以上の長径を有する粗大気孔の面積の総和の割合が0.07以下である請求項1ないし3のいずれか一項に記載のムライトセラミックス。
アルミナ、シリカ、及び平均粒径0.1〜10μmであるSi又はSi含有化合物(ただしシリカ及びシリケートを除く)を湿式混合によってスラリー化し、得られたスラリーを鋳込成形するか、又は該スラリーを噴霧乾燥して得られた顆粒をプレス成形又はCIP成形した後に反応焼成する請求項5又は6に記載の製造方法。
アルミナ、シリカ、及び平均粒径0.1〜10μmであるSi又はSi含有化合物(ただしシリカ及びシリケートを除く)を半湿式で混練し、得られた混練物を可塑成形した後に反応焼成する請求項5又は6に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のムライトセラミックスは、該セラミックスを構成する粒子の形状に特徴の一つを有する。詳細には、ムライトセラミックスは、その研磨断面を顕微鏡で拡大すると、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)の球状粒子とムライトの針状粒子とが混在している状態が観察される。球状粒子と針状粒子とは均一に混在している。球状粒子と針状粒子とが混在したムライトセラミックスは、耐熱衝撃性が高くなり、かつ耐クリープ性に優れることが本発明者らの検討の結果判明した。ここで球状粒子とは、ムライトセラミックスの研磨断面を観察したときに、アスペクト比が1以上2以下である粒子のことをいい、真球であることを要しない(以下、「球状」というときの意味はこれに同じである。)。一方、針状粒子とは、ムライトセラミックスの研磨断面を観察したときに、アスペクト比が2超10以下である粒子のことを言う。また、後述する粗大針状粒子とは、ムライトセラミックスの研磨断面を観察したときに、アスペクト比が10超である粒子のことをいう。
【0012】
なお、針状粒子及び後述する粗大針状粒子に関しては、ムライトセラミックスの研磨断面の調製のしかたによっては、実際は針状粒子であるにもかかわらず、球状粒子のように認識してしまう場合がある。そのような見かけ上球状粒子に認識される針状粒子は、本発明においては便宜的に球状粒子とみなすこととする。
【0013】
球状粒子と針状粒子との大きさの関係は、ムライトセラミックスの性能に影響を及ぼす。本発明者らの検討の結果、球状粒子の平均粒径をrとしたとき、針状粒子の平均長径が2r〜10rの範囲であることで、上述した耐熱衝撃性や耐クリープ性を有するムライトセラミックスが得られることが判明した。針状粒子の平均長径が2rに満たないと、該針状粒子のアスペクト比が大きい場合であっても、針状粒子が球状粒子間に入り込む「筋交い効果」が十分に発現せず、耐クリープ性が向上しない。一方、針状粒子の長径が10rを超えると、ムライトセラミックスにおける粒子間に粗大欠陥が生じやすくなる。この粗大欠陥は耐熱衝撃性の低下の一因となる。針状粒子の長径の範囲が特に3r〜6rであると、ムライトセラミックスの耐熱衝撃性や耐クリープ性が一層向上するので好ましい。
【0014】
球状粒子と針状粒子との相対的な大きさは上述のとおりであるところ、球状粒子の大きさそのものは、平均粒径が5〜10μm、特に6〜9μmであることが好ましい。一方、針状粒子の大きさそのものは、上述した2r〜10rの範囲を満たすことを条件として、長径が10〜100μm、特に12〜90μmであることが好ましい。一方、短径は、上述したアスペクト比(2超10以下)であることを条件として、1〜50μm、特に1〜10μmであることが好ましい。
【0015】
針状粒子に関しては、上述のとおり、そのアスペクト比は2超であるところ、その上限は10以下とすることが必要である。換言すれば、10超のアスペクト比を有する針状粒子(以下、このような針状粒子を「粗大針状粒子」という)が過剰に含まれていないことが好ましい。このような粗大針状粒子の存在は、ムライトセラミックスにおける粒子間に粗大欠陥を生じさせる原因となる。この粗大欠陥は耐熱衝撃性の低下の一因となるものである。また針状粒子は耐クリープ性を向上させる効果があるが、アスペクト比が10を超える針状粒子にはその効果がない。この観点から、ムライトセラミックスの研磨断面におけるアスペクト比10超の粗大針状粒子の面積/全粒子の面積の比を0.2以下、特に0.1以下とすることが好ましい。
【0016】
球状粒子と針状粒子との相対的な大きさに加えて、ムライトセラミックス中における球状粒子と針状粒子との存在割合も、ムライトセラミックスの性能に影響を及ぼす。球状粒子間に針状粒子が入り込むことで、「筋交い効果」が生じて耐クリープ性が向上するが、針状粒子の粒成長によって強度が低下し、耐熱衝撃性が低下する傾向にある。これに対し、検討の結果、ムライトセラミックスの研磨断面における針状粒子/全粒子の面積比が0.03〜0.3の範囲内となるように、球状粒子と針状粒子との存在割合を調整することで、耐熱衝撃性と耐クリープ性が両立するムライトセラミックスが得られることが判明した。この面積比がこの範囲が特に0.05〜0.25であると、ムライトセラミックスの耐熱衝撃性や耐クリープ性が一層向上するので好ましい。
【0017】
上述の説明におけるムライトセラミックスの研磨断面は、例えばダイヤモンドスラリーを噴霧した円板砥石を回転させ、その面にムライトセラミックスを押しつけて研磨することで得られる。
【0018】
上述のようにして得られたムライトセラミックスの研磨断面を観察する場合には、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた拡大観察を行う。球状粒子の平均粒径測定、並びに針状粒子及び粗大針状粒子の平均長径及び平均短径の測定は、次のようにして行う。研磨断面はその大きさを少なくとも10mm×2mmとし、その研磨断面における200μm×200μmの観察視野で任意の部位のSEM像を数カ所撮影する。撮影された像にそれぞれ任意の直線を描き、該直線を横切る100個の粒子を選択する。100個に満たない場合は、この操作を繰り返して、横切る粒子が100個になるまで行う。選択された各粒子の長径及び短径を測定して、アスペクト比を計算する。具体的には、対象とする粒子を楕円形に近似し、その楕円形の長軸の長さを測定し、これを長径とするとともに、長軸と直交する方向を短軸とし、その長さを短径とする。このようにして求められた長軸及び短軸に基づき、アスペクト比が1以上2以下である粒子を球状粒子、2超10以下である粒子を針状粒子、10超である粒子を粗大針状粒子と分類する。球状粒子の場合、長径と短径の平均値を平均粒径とする。針状粒子及び粗大針状粒子の場合は、長径と短径をそれぞれ別個に平均することで平均長径と平均短径を求める。
【0019】
研磨断面における球状粒子の面積は、上述の方法で求められた平均粒径を円相当直径とみなして計算する。針状粒子の面積は、上述の方法で求められた針状粒子の平均長径a及び平均短径bを楕円の長径及び短径とみなし、楕円の面積πabから算出する。
【0020】
ムライトセラミックスの研磨断面を観察したときに、該研磨断面に、上述の球状粒子及び針状粒子のみしか観察されてないことが好ましいが、これらの形状以外の形状を有する粒子が観察されてもよい。そのような形状の粒子としては、角のとがった形状を有する粒子等が挙げられる。該粒子の具体例としては、原料の一つとして用いられる粒子である、後述する電融ムライト粒子が挙げられる。電融ムライト粒子は、電融ムライト塊を粉砕することによって製造される。この粉砕によって、角のとがった形状を有する電融ムライト粒子が生じる。
【0021】
ムライトセラミックスには、ある一定の気孔が含まれることが好ましい。その見掛け気孔率は5〜27%、特に9〜20%の範囲が好ましい。この範囲の見掛け気孔率とすることで、耐クリープ性と耐熱衝撃性を効果的にバランスよく両立させることができる。見掛け気孔率は、JIS−R2205に準じ真空法によって測定される。
【0022】
また、ムライトセラミックスには粗大気孔が含まれないことが好ましい。粗大気孔とは、研磨断面において観察される気孔の中で、前記の針状粒子の平均長径の5倍以上の長径を有する気孔を言う。このような粗大気孔の存在は、ムライトセラミックスの強度、耐熱衝撃性及び耐クリープ性を低下させる原因となる場合がある。この観点から、ムライトセラミックスの研磨断面において、観察視野の面積に対する粗大気孔の面積の総和の割合(すなわち、粗大気孔の面積の総和/観察視野の面積)を、好ましくは0.07以下、更に好ましくは0.05以下にする。粗大気孔の形成を抑制するためには、後述するムライトセラミックスの製造方法において、原料成分の粒径及び焼成条件を調整すればよい。粗大気孔の長径とは、該粗大気孔のアスペクト比が1以上2以下である場合は、長径と短径との平均値のことであり、該粗大気孔のアスペクト比が2超である場合は、当該長径のことである。
【0023】
粗大気孔の面積は、研磨断面はその大きさを少なくとも10mm×2mmとし、その研磨断面における200μm×200μmの観察視野で任意の部位のSEM像を撮影し、撮影された観察視野に存在するすべての粗大気孔の面積を、先に述べた針状粒子の面積及び球状粒子の面積の算出と同様の方法で算出することで求める。
【0024】
ムライトセラミックスには不純物として、例えばNa
2Oを始めとするアルカリ金属の酸化物やアルカリ土類金属の酸化物等の網目修飾酸化物が含有されることがある。これらの不純物は、粒界のガラスの粘性を下げて耐クリープ性の低下に影響を及ぼすため、高純度の原料を用いて、それらの総量を、ムライトセラミックスに対して0.01〜0.3重量%、特に0.03〜0.25重量%とすることが好ましい。ムライトセラミックスに含まれる網目修飾酸化物の割合は、蛍光X線分析装置によって測定することができる。また、Fe
2O
3、TiO
2、ZrO
2、CoO、NiOなどの中間酸化物は、ガラスの網目骨格を安定化させてガラスの粘性低下を抑制し、耐クリープ性向上に寄与するため、それらの総量が、ムライトセラミックスに対して0.01〜0.3重量%となるように含有されることが好ましい。
【0025】
次に、本発明のムライトセラミックスの好適な方法について説明する。ムライトセラミックスは、アルミナ及びシリカを含む原料を酸素雰囲気下に反応焼成してムライトを生成させることによって好適に製造することができる。特に、目的とするムライトセラミックス中に、球状粒子及び針状粒子を生成させるためには、アルミナ及びシリカに加え、Si又はSi含有化合物(ただしシリカ及びシリケートを除く。)を用いることが有効であることが、本発明者らの検討の結果判明した(以下の説明では、簡便のためSi又はSi含有化合物を総称して、単にSi含有化合物という。)。詳細には、アルミナとシリカの反応焼結において、シリカの一部をSi含有化合物で置き換えることで、ムライトの生成速度に差を設け、それによって針状粒子を容易に生成させ得ることが判明した。詳細には、シリカの一部をSi含有化合物で置き換えると、反応焼結時に、ムライトの針状粒子が局所的に成長する一方、該針状粒子の周囲に位置する球状粒子は粒成長の程度が低くなる。その結果、耐クリープ性や耐熱衝撃性の高いムライトセラミックスが容易に得られる。Si含有化合物を用いず、アルミナとシリカのみで反応焼結を行うと、針状粒子の成長よりも、球状粒子の粗大化が優先して生じてしまう。その結果、得られるムライトセラミックスは強度低下を招き、耐熱衝撃性に劣るものとなってしまう。また、針状粒子の成長が少ないため、「筋交い効果」が生じにくくなり、耐クリープ性が低下する。
【0026】
Si含有化合物は、上述のとおり、ムライトセラミックスの製造における反応焼結時に、ムライトの針状粒子を生成させるために用いられるものである。Si含有化合物としては、セラミックス材料として知られているものが用いられる。その例としては、無機Si含有化合物が挙げられる。無機Si含有化合物としては、Si含有非酸化物化合物が挙げられる。具体的には、SiCや、Si
3N
4、Si
2ON
2及びサイアロンなどのSi
3N
4系材料などが挙げられる。サイアロンは、Si
3N
4にAl
2O
3及びSiO
2を固溶させて得られるSi
3N
4系材料の一つである。Si含有化合物は、ムライトセラミックスの製造における焼成中に酸化膨張するので、アルミナやシリカの焼成収縮を補完する効果がある。その結果、収縮の際に生ずる気孔の粗大化や、セラミックスに生じることのある亀裂の進展が抑制され、ひいては耐熱衝撃性の低下も抑制される。
【0027】
原料における各成分の比率は、目的とするムライトセラミックスにおけるアルミナとシリカとの量論比を考慮して決定される。具体的には、原料における各成分を、Alを含有する化合物であるアルミナと、Siを含有する化合物であるシリカ及びSi含有化合物とに分類したとき、アルミナと、シリカ及びSi含有化合物との比率を、アルミナとシリカのモル比に換算して、3:2〜3.5:1.5、特に3.1:1.9〜3.4:1.6とすることが好ましい。
【0028】
原料中におけるシリカとSi含有化合物との比率は、Siのモル比に換算して、シリカ:Si含有化合物=0.1:1.9〜1.9:0.1、特に0.5:1.5〜1.5:0.5とすることが好ましい。この比率でシリカとSi含有化合物とを併用することで、球状粒子の粗大化を防止しつつ、針状粒子を成長させることができる。また、Si含有化合物の有する耐熱性によって組織の結晶性が低下することや、それに起因する気孔の増大及び耐クリープ性の低下を、効果的に防止することができる。
【0029】
原料の一つであるアルミナとしては、α−アルミナやγ−アルミナが好適に用いられる。これらの混合物を用いることも差し支えない。アルミナの粒子の形状に特に制限はなく、当該技術分野で知られている様々な形状のものを用いることができる。特に好ましく用いられる形状は球状である。形状にかかわらず、アルミナはその平均粒径が、0.1〜20μm、特に1〜10μmであることが好ましい。アルミナは、NaやK等のアルカリ成分を極力含まないことが望ましい。
【0030】
シリカもその粒子の形状に特に制限はなく、当該技術分野で知られている様々な形状のものを用いることができる。特に好ましく用いられる形状は球状である。形状にかかわらず、シリカはその平均粒径が、0.05〜30μm、特に0.1〜20μmであることが好ましい。
【0031】
アルミナ及びシリカの平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される(以下に述べるSi含有化合物及び以下に述べるムライト粒子についても同様である)。
【0032】
Si含有化合物の粒子の粒径は、目的とするムライトセラミックスの性能に影響を及ぼす。詳細には、Si含有化合物の粒子の粒径が大きすぎると、得られるムライトセラミックスの組織に粗大欠陥が生じやすくなる。また十分に酸化できず、単一ムライト組成になりにくく耐クリープ性が悪化することがある。更に、強度低下や耐熱衝撃性の低下が起こりやすくなる。逆にSi含有化合物の粒子の粒径が小さすぎると、低温域でSi含有化合物の酸化が始まる傾向にあり、針状のムライト粒子の生成が促進されづらくなる。これらの観点から、Si含有化合物の粒子の平均粒径を0.1〜10μmとし、好ましくは1〜10μmとする。この有利な効果は、Si含有化合物として特にSiCを用いた場合に顕著である。Si含有化合物の粒子の形状に関しては、球状のものを用いることが好ましい。
【0033】
また、上述の原料はムライト粒子を骨材として含有していてもよい。原料中にムライト粒子を含有させることにより、熱衝撃によって生じることのある亀裂の進展を、迂回効果により遅らせることができるので、ムライトセラミックスをより長く使用できるという有利な効果が奏される。原料に含まれるムライト粒子の粒径が大きすぎると、ムライトセラミックスに粗大気孔が生じやすくなるので、ムライトセラミックスの強度及び耐熱衝撃性が低下するおそれがある。そこで、原料中に含有されるムライト粒子の平均粒径は20〜100μm、特に20〜50μmであることが好ましい。原料がムライト粒子を含有する場合、その含有量は、原料中に15重量%以下、特に10重量%以下とすることが、強度及び耐熱衝撃性の向上の点から好ましい。
【0034】
上述の各成分を含む原料を混合し、反応焼成することで、目的とするムライトセラミックスが得られる。各成分の混合には、湿式混合、半湿式混合、乾式混合など、当該技術分野において公知の混合法を用いることができる。反応焼結を確実に生じさせる観点からは、乾式混合を行うよりも、湿式混合や半湿式混合を行うことが有利である。
【0035】
湿式混合を行う場合には、アルミナ、シリカ及びSi含有化合物を、液媒体を用いて湿式混合してスラリー化する。得られたスラリーは、これを鋳込成形するか、又は該スラリーを噴霧乾燥して得られた顆粒をプレス成形又はCIP成形した後に反応焼成を行う。湿式混合に用いる装置としては、公知の混練装置、例えばボールミル等のメディアミルを用いることができる。スラリー中の固形分濃度は、好ましくは35〜45重量%程度とすることができる。スラリー中にはバインダを添加することもできる。バインダとしては、例えばポリビニルアルコール(PVA)やカルボキシメチルセルロース(CMC)など、当該技術分野において通常用いられているものを、特に制限なく用いることができる。プレス成形やCIP成形を行う場合の成形圧は、好ましくは70〜150MPa程度に設定する。
【0036】
半湿式混合を行う場合には、アルミナ、シリカ及びSi含有化合物を、液媒体を用いて半流動体となし、これを混練して混練物を得る。混練物中の固形分濃度は好ましくは10〜15重量%程度とすることができる。混練物は押し出し成形等の可塑成形によって所望の形状に成形される。
【0037】
上述のいずれの成形法を用いた場合においても、反応焼成の雰囲気は大気等の酸素含有雰囲気とする。反応焼成の温度は1700〜1800℃、特に1730〜1790℃に設定することが好ましい。この範囲の温度で焼成することで、この焼成温度を保持する時間は1〜8時間、特に2〜7時間とすることが好ましい。この条件で反応焼成を行うことで、セラミックス中における気孔の増大を防止して、耐クリープ性の良好なムライトセラミックスを首尾良く得ることができる。
【0038】
上述の焼成温度に昇温するときの平均昇温速度は、900〜1700℃の温度範囲において、25〜300℃/hに設定し、好ましくは30〜200℃/hに設定する。平均昇温速度をこの範囲に設定することで、セラミックス中における気孔の増大を防止して、耐クリープ性の良好なムライトセラミックスを首尾良く得ることができる。昇温速度が25℃/hに満たないと、焼結が開始する前に酸化膨張が完了してしまい、粒子間距離が増大し、焼結性が低下し、気孔が増大してしまう。一方、昇温速度が300℃/h超であると、酸化が完了する前に焼結が完了してしまい、焼結体内部に非酸化物質が残留しやすく、ムライトセラミックスの耐クリープ性を低下させる一因となる。
【0039】
焼成の雰囲気は上述のとおり大気、すなわち酸素濃度が約20%の酸素含有雰囲気とすることができるが、雰囲気の温度が900℃以上になるとSi及びSi含有化合物の酸化が顕著となるので、昇温によって雰囲気の温度が900℃以上となった場合には、酸素含有雰囲気中の酸素濃度を3%以下に低下させることが好ましい。酸素濃度を3%以下に低下させることで、焼結が開始する前に酸化膨張が完了することを防止でき、それによって、粒子間距離の増大、焼結性の低下及び気孔の増大を効果的に防止できる。一方、酸素含有雰囲気中の酸素濃度の下限値は、雰囲気の温度によらず0.5%超とすることが好ましい。このようにすることで、酸化が完了する前に焼結が完了することを防止でき、それによって、焼結体内部に非酸化物質が残留することや、ムライトセラミックスの耐クリープ性が低下することを効果的に防止することができる。
【0040】
このようにして得られたムライトセラミックスは、例えば高温窯炉及び雰囲気炉の窯道具、側壁、アーチ、炉床;内張煉瓦等電子部品焼成用セッター、匣鉢、台板;ガス発生炉を含む種々の化学反応装置内張;セラミック基板;カーバイド炉用内張;カーボンブラック炉用内張;ガラス溶解炉用内張;セラミックス焼成用窯道具などとして好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0042】
〔実施例1〕
アルミナ(平均粒径8μm、球状)、SiC(平均粒径4μm、球状)及びシリカ(平均粒径0.5μm、球状)を、酸化後のモル比が3:0.5:1.5となるように秤量した。これらの成分の比率を重量比で表すと、以下の表4に示すとおりとなる。これらの成分を湿式混合してスラリー(固形分濃度:40%)を得た。湿式混合の液媒体には、PVA水溶液を用いた。このスラリーを噴霧乾燥して、平均粒径50μmの顆粒を得た。この顆粒をプレス成形して、板状の成形体を得た。プレス圧は100MPaとした。この成形体を、大気雰囲気下に、1750℃で4時間反応焼成した。このときの昇温速度は40℃/hとした。焼成終了後、自然冷却して、目的とするムライトセラミックスを得た。得られたムライトセラミックスの研磨断面の走査型電子顕微鏡像を
図1に示す。得られたセラミックスはムライト単一相であり、原料として仕込んだSiCは完全に酸化してムライト化しており、特に高い耐クリープ性に優れた焼結体であった。また、薄肉化で満足できる強度を有しており、耐熱衝撃性も優れていた。
【0043】
〔評価〕
得られたムライトセラミックスについて、XRD測定を行い、それに含まれる化合物を同定した。また、上述の方法でムライトセラミックスの研磨断面を調製し、該断面をSEM観察した。更に、上述の方法で見掛け気孔率を測定した。また、上述の方法で網目修飾酸化物の含有量を測定した。更に、常温三点曲げ強度S、耐クリープ性及び耐熱衝撃性を、以下の方法でそれぞれ測定した。それらの結果を表1に示す。
【0044】
〔常温三点曲げ強度S〕
JIS R1601に準じ、三点曲げ試験によって測定した。
【0045】
〔耐クリープ性〕
100mm×30mm×2mmに加工した試験体をスパン90mmになるように支柱上に載せ、中央に300gの荷重をかけた。1400℃で12時間にわたって加熱した後のたわみ量を、デプスゲージによって測定し、この値を耐クリープ性の指標とした。
【0046】
〔耐熱衝撃性〕
□90mm×2.5mmに加工した試験体を4枚作製した。これとは別に、長さ10mm×幅5mm×高さ5mmの支柱を用意し、該支柱をセラミックス台板上に配置した。支柱配置位置は、□90mmの四隅の位置とした。支柱の上に、前記の試験体を4段積みに重ねた。その各試験体間に、同様に4隅に支柱をはさみ配した。次に電気炉を所定の温度まで昇温して30分保持した後、前記の試験体を台板ごと炉内に入れた。その温度で60分保持後、試験体を台板ごと炉から取り出し放冷した。試験体の割れや切裂が生じていないかどうかを目視で確認した。以上の操作を500℃から50℃ずつ温度を昇温させて行い、割れの生じない温度の上限を測定し、その値を耐熱衝撃性の指標とした。
【0047】
〔実施例2〜4〕
実施例2〜4においては、以下の表1に示す条件を用いる以外は、実施例1と同様にしてムライトセラミックスを得た。実施例1と同様に行った評価の結果を表1に示す。実施例2では、実施例1と異なる配合比でSiCとシリカを混合し、針状結晶を成長させ、実施例1と同様の高い耐クリープ性が得られた。また、耐熱衝撃性についても、実施例1と同様に高くなった。実施例3では、SiCの原料粒径を実施例1に比べて小さくした。実施例3は実施例1に比べると、耐クリープ性及び耐熱衝撃性は劣るが、実用に耐えうる特性であると判断した。また、後述する比較例5に比べると、高い耐クリープ性、高耐熱衝撃性及び高強度を示した。実施例4では、SiCの原料粒径を実施例1に比べて大きくした。実施例4は実施例1に比べると、後述する比較例4と同様に気孔径が大きくなるので、耐熱衝撃性は劣るが、実用に耐えうる耐熱衝撃性であると判断した。
【0048】
〔実施例5〕
以下の表1に示す原料を用い、湿式混合によってスラリー(固形分濃度:42%)を得た。湿式混合の液媒体には、CMC水溶液を用いた。このスラリーを鋳込成形して板状の成形体を得た。この成形体を、大気雰囲気下に、1750℃で4時間反応焼成した。このときの昇温速度は40℃/hとした。焼成終了後、自然冷却して、高い耐クリープ性及び高耐熱衝撃性を有すムライトセラミックスを得た。実施例1と同様に行った評価の結果を表1に示す。
【0049】
〔実施例6〜9〕
以下の表1に示す条件を用いる以外は実施例1と同様にしてムライトセラミックスを得た。実施例1と同様に行った評価の結果を表1に示す。実施例6では、実施例1に比べ、焼成温度を下げて1700℃とした。実施例6は実施例1に比べると、耐熱衝撃性は劣るが、実用に耐えうる特性であると判断した。また、比較例6に比べると、高い耐クリープ性、高耐熱衝撃性及び高強度を示す。実施例7では、実施例1に比べ、焼成温度を上げて1800℃とした。実施例7は実施例1に比べると、耐熱衝撃性は劣るが、実用に耐えうる特性であると判断した。実施例8では、実施例1に比べ、昇温速度を遅くした。実施例8は実施例1に比べると、耐熱衝撃性は下がるが、実用に耐えうる特性であると判断した。また、後述する比較例7に比べると、気孔率が低くなったため、高強度、高い耐クリープ性を示し、また気孔率の低減によって気孔径が小さくなり、高耐熱衝撃性を示した。実施例9では、実施例1に比べ、昇温速度を早くした。すべての実施例の中で、耐熱衝撃性と耐クリープ性の両面で高特性を示す結果となった。
【0050】
〔実施例10〕
以下の表1に示す原料を用い、CMC水溶液によって、固形分濃度13%の混練物を得た。混練物の調製には混合攪拌機を用いた。この混練物を押し出し成形して、板状の成形体を得た。この成形体を、大気雰囲気下に、1750℃で4時間反応焼成した。このときの昇温速度は40℃/hとした。焼成終了後、自然冷却して、実用に耐え得る耐熱衝撃性と耐クリープ性を有したムライトセラミックスを得た。実施例1と同様に行った評価の結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例11〜14〕
以下の表2に示す条件を用いる以外は、実施例1と同様にしてムライトセラミックスを得た。具体的には、実施例11では、プレス成形圧を70MPaに低下させた。実施例12では、プレス成形圧を30MPaに低下させ、かつ焼成温度を1800℃まで上昇させた。実施例13では、表4の組成の原料、すなわち220メッシュの電融ムライト粒子を10%含有する原料を用いた。実施例14においては、ムライトセラミックスの原料としてNa
2Oを始めとするアルカリ金属の酸化物の含有量の低い高純度の原料を用いた。実施例11〜14について、実施例1と同様に行った評価の結果を表2に示す。同表に示すとおり、実施例11では、実施例1に比べて見掛け気孔率が低くなったため、耐クリープ性と耐熱衝撃性が低下したものの、該耐クリープ性及び耐熱衝撃性は実用に耐えうる値である。実施例12では、プレス成形圧を低くしたため、原料顆粒がつぶれにくくなり、その結果、顆粒間に生ずる粗大気孔が残留した。そのため、耐熱衝撃性が低下したものの、該耐熱衝撃性は実用に耐えうる値である。実施例13では、原料に電融ムライト粒子が添加されたために強度は低下したが、耐熱衝撃性及び耐クリープ性については、実施例1と同様の値を示した。実施例14では、実施例1に比べて、不純物である網目修飾酸化物の含有量を低減させたので、耐クリープ性が一層向上した。なお、実施例13において、表2に示す球状粒子及び針状粒子の粒径アスペクト比の測定は、電融ムライト粒子は除外して測定した。研磨断面の観察において、電融ムライト粒子は、球状粒子及び針状粒子とは、形状の点において明確に区別される。
【0052】
〔比較例1〜9〕
以下の表3に示す条件を用いる以外は実施例1と同様にしてムライトセラミックスを得た。実施例1と同様に行った評価の結果を表3に示す。また、比較例2で得られたムライトセラミックスの研磨断面の走査型電子顕微鏡像を
図1に示す。比較例1では、実施例1に比べて1810℃と高い焼成温度で焼成している。そのため、針状粒子が異常に粒成長し、粗大針状粒子が研磨断面積比で全粒子の30%と多くなっているため、粒子間の粗大欠陥が生じ、耐熱衝撃性が低下した。また、高い焼成温度で焼成したため、結晶状態が不安定になり、耐クリープ性が低下した。比較例2では、実施例1及び2と異なり、原料にSi含有化合物を含んでいないことに起因して、ムライトの生成速度に差が出ないため針状粒子が成長せず、耐クリープ性が低下した。比較例3では、実施例1及び2と異なり、原料にシリカを含んでいないため、比較例2と同様に、ムライトの生成速度に差が出ないため針状粒子が成長せず、耐クリープ性が低下した。比較例4では、実施例1に比べて粗大なSiCを用いたので、SiCの酸化が進みにくくなる。その結果、SiCの酸化とムライトの反応焼結とが同時進行して、酸化膨張による焼結性の低下を招くことなく焼結を進めることができる。しかしその反面、SiCの酸化膨張とムライトの反応焼結によって、SiCが存在していた場所が焼結後に気孔となる。このことに起因して、粗大なSiCを用いた本比較例においては、粗大気孔が形成され、強度低下、耐熱衝撃性の低下及び耐クリープ性の低下が観察された。比較例5では、比較例4とは逆に、SiCの原料粒子を極小化させた。この場合はSiCの酸化が進みやすいので、ムライトの反応焼結が進む前にSiCの酸化が完了する。その結果、粒子間の距離増大による焼結性の低下が、気孔率増加及び強度低下の原因となる。このことに起因して、実施例1に比べて耐クリープ性の低下及び耐熱衝撃性が低下する。比較例6では、実施例1に比べて焼成温度を低くして焼成を行った。その結果、ムライト単一相とならず、耐クリープ性が低下した。比較例7では、実施例1に比べて昇温速度を遅くして焼成を行った。この場合にはSiCの酸化が完了した後にムライト反応焼結が進むので、粒子間距離増大による焼結性の低下が、気孔率増加及び強度低下の原因となる。このことに起因して、実施例1に比べて耐クリープ性の低下及び耐熱衝撃性が低下した。比較例8では、実施例1に比べて昇温速度を早くして焼成を行った。この場合にはSiCの酸化が完了する前に焼結が完了するので、内部にSiCが残留してしまう。その結果、アルミナ、SiC及びムライトが混在する組織となり、耐クリープ性が低下する。比較例9では、実施例14に比べてプレス成形圧を30MPaに下げた。本比較例は、網目修飾酸化物が実施例14と同じであるにもかかわらず、耐クリープ性が実施例14よりも低下した。この理由は、プレス成形圧を下げたことに起因して見掛け気孔率が増大したため、各粒子の連結性が低下しためであると考えられる。更に、見掛け気孔率が増大したため、耐熱衝撃性も実施例14よりも低下した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】