(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718337
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】タービンエンジンのブレード先端間隙の制御
(51)【国際特許分類】
F01D 11/08 20060101AFI20150423BHJP
F02C 7/28 20060101ALI20150423BHJP
F02C 7/18 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
F01D11/08
F02C7/28 A
F02C7/18 E
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-528421(P2012-528421)
(86)(22)【出願日】2010年9月7日
(65)【公表番号】特表2013-504011(P2013-504011A)
(43)【公表日】2013年2月4日
(86)【国際出願番号】FR2010051855
(87)【国際公開番号】WO2011030051
(87)【国際公開日】20110317
【審査請求日】2013年8月14日
(31)【優先権主張番号】09/04275
(32)【優先日】2009年9月8日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505277691
【氏名又は名称】スネクマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フイリポ,バンサン
【審査官】
寺町 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭58−027803(JP,A)
【文献】
特開平04−301102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 11/00−10
F01D 25/24
F02C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タービンの可動ブレード(16)の先端とブレード(16)を取り囲む外側ケーシング(12)との間の間隙を制御する手段を含み、制御手段(48、46)がエンジンの高圧圧縮機から取り込まれた空気の衝突によって外側ケーシングを冷却するための空気衝突冷却手段を備えるタービンエンジンであって、外側ケーシング(12)の上部を加熱するための第1の電気ヒータ手段(60)と外側ケーシング(12)の底部を加熱するための第2の電気ヒータ手段と共に、空気衝突冷却手段(48、61、46)を制御するためのオンオフ制御手段(63)と第1および第2の電気ヒータ手段(60)を制御するための独立した手段とをさらに含むことを特徴とするタービンエンジン。
【請求項2】
空気衝突冷却手段(48、46)が、外側ケーシング(12)によって担持され、高圧圧縮機から取り込まれた空気を送るために多孔ストリップ(46)が間に設置されて互いに軸方向に離間した突起部(44)を含むリング(28)を備えることを特徴とする、請求項1に記載のタービンエンジン。
【請求項3】
高圧圧縮機から空気を取り込む手段(48)が、外側ケーシング(12)への空気の送達を開閉するための弁(61)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のタービンエンジン。
【請求項4】
冷却空気が、高圧圧縮機の第4段から、圧縮機を通る全空気流量の0.7%の割合で取り込まれることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のタービンエンジン。
【請求項5】
電気ヒータ手段(60)が、外側ケーシング(12)の上部および底部で担持される抵抗回路を備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のタービンエンジン。
【請求項6】
抵抗回路が、外側ケーシング(12)によって担持されるリング(28)の突起部(44)の近くに取り付けられることを特徴とする、請求項5に記載のタービンエンジン。
【請求項7】
請求項1から6のうちのいずれかに記載のタービンエンジンの高圧タービンブレードの先端の間隙を制御する方法であって、高温の間にタービンエンジンを再始動させる時に、外側ケーシング(12)の底部を加熱するための第2の電気ヒータ手段(60)を最大電力で作動させるステップと、外側ケーシングの上部を加熱するための第1の電気ヒータ手段(60)を停止するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
高温での再始動の後のタービンエンジン速度を増加させる段階の始めに、第2の電気ヒータ手段(60)に対する電力が、一時的に最大電力の50%まで低下し、その後、電力が最大電力の75%になるまで上昇することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
タービンエンジンの低温での始動時に、最大電力の50%の電力で外側ケーシング(12)の底部を加熱するための第2の電気ヒータ手段(60)を作動させるステップを含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
低温での始動の後のタービンエンジン速度を増加させる段階の始めに、第2の電気ヒータ手段(60)が、一時的に停止され、その後、最大電力の75%の電力で再作動されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
外側ケーシングの底部を加熱するための第2の電気ヒータ手段(60)が、巡航段階でのタービンエンジンの速度の低減の前に最大電力で作動されることを特徴とする、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
巡航段階で、外側ケーシングの電気ヒータ手段の全てを停止するステップと、空気衝突冷却手段を作動させるステップとを含むことを特徴とする、請求項7から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機ターボプロップまたはターボジェットなどのタービンエンジンであって、ブレード先端間隙を制御する手段を備えたエンジンに関し、さらにはその間隙の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の形では、タービンエンジンを通過する空気は、低圧圧縮機と高圧圧縮機とを通って上流側から下流側に流れ、その後、燃焼室に入り、燃焼室の出口から高圧圧縮機のロータを駆動するロータを有する高圧タービンに送り込まれ、その後、低圧圧縮機のロータを駆動するロータを有する低圧タービンへと送り込まれる。
【0003】
一般に、高圧タービンは、外側ケーシングによって担持される上流側列および下流側列の2列のステータ翼間に位置するブレード付きロータホイールを備え、可動ブレードの先端と外側ケーシングとの間に少しの半径方向間隙が設けられる。ロータホイールは、ブレードを担持し高圧タービンのシャフトに接続されたディスクを備える。
【0004】
タービンエンジンの動作時に、空気の漏れを防ぐために、またエンジンの最大性能を保証するために、ブレード先端における半径方向間隙を最小にすることが重要である。
【0005】
しかしながら、動作時の固定部品の寸法変化は回転部品の寸法変化と異なるので、この半径方向間隙の調整は難しいことがわかる。部品の全ては燃焼ガスの温度変化を受けるので、エンジン速度に応じて連続的に膨張や収縮が生じるが、高圧タービンのロータディスクを構成する質量体の熱慣性のために、回転部品の温度変化および対応する寸法変化は固定部品の場合よりもゆっくりと生じる。さらに、動作時の遠心力によるタービンブレードの寸法変化も考慮しなければならない。
【0006】
ブレード先端の間隙を制御する装置はすでに提案されており、該装置は、高圧圧縮機の上流側部分、例えば、圧縮機の第4段から空気を取り込む手段と圧縮機の下流側部分、例えば、圧縮機の第9段から空気を取り込む手段とを備える。空気を取り込むためのそれぞれの回路は、制御システムによって開閉が制御される弁を含む。このようにして取り込まれた空気は、外側ケーシングに送られて冷却または加熱され、それによって高圧タービンの可動ブレードの先端の間隙を調節することができる(本出願人による仏国特許出願公開第2828908号明細書を参照)。
【0007】
制御システムは、エンジン速度、外側ケーシングの温度、高圧圧縮機の出口の温度に関する情報と共に、エンジンの動作(地上でのアイドリング状態、高温または低温での始動、一時的な加速または減速など)に関する情報を受信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2828908号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
知られている装置は、高圧圧縮機の上流側部分および下流側部分から空気を取り込むために、別々の弁および回路が設置されなければならないので複雑である。外側ケーシングに影響を与える空気の温度を完全に制御するために弁が開放される程度を制御する必要があるが、これも同じく複雑である。さらに、このタイプの装置は、特に重くて大きいことがわかる。最後に、高圧圧縮機の下流側部分から空気を取り込むのは不利である。それは、このことが非常に高圧下で空気を消費し、ひいてはエンジン効率に不利益をもたらすためである。
【0010】
高温の間にエンジンを再始動させると、すなわち、エンジンが停止されてエンジンの温度、特に、高圧タービンのロータディスクの温度が大気温度に戻るには不十分な時間しか経過せずにタービンエンジンを再始動させた場合に、別の問題が生じる。エンジンが停止した後、エンジンの底部(6時位置)は上部(12時位置)よりも速く冷えるが、そのことが高圧タービンのロータが外側ケーシング内で偏心位置になることにつながると思われる。したがって、底部位置におけるブレード先端の間隙は小さくなり、高圧タービンのロータブレードに遠心力がかかると、底部位置で外側ケーシングを擦り付ける可能性がある。
【0011】
外側ケーシングを電気的に加熱することで間隙を制御し、ひいては加速度を調整し、高温での再始動による悪影響を避けることができるようにする装置も提案されているが、この装置では、巡航飛行の時に間隙を低減するためにケーシングを冷却することができない。
【0012】
本発明の特定の目的は、上述した先行技術の問題に対する簡単で効果的で低コストの解決策を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明は、高圧タービンの可動ブレードの先端とブレードを取り囲む外側ケーシングと間の間隙を制御する手段を含み、制御手段はエンジンの高圧圧縮段から取り込まれた空気の衝突によって外側ケーシングを冷却するための空気衝突冷却手段を備えるタービンエンジンであって、外側ケーシングの上部を加熱するための第1の電気ヒータ手段と外側ケーシングの底部を加熱するための第2の電気ヒータ手段と共に、空気衝突冷却手段を制御するためのオンオフ制御手段と第1および第2の電気ヒータ手段を制御するための独立した手段とをさらに含むことを特徴とするタービンエンジンを提供する。
【0014】
本発明は、空気衝突によってケーシングを冷却する手段とケーシングを電気加熱する手段とを組み合わせることで、両方のシステムの利点の利益を享受することができると共に、それぞれの欠点を避けることができる。
【0015】
外側ケーシング用の電気ヒータ手段を組み込むことで、高圧圧縮機の下流側部分から高温空気を取り込むための回路を不要にすることができ、ひいてはタービンエンジンの性能を向上させることができる。
【0016】
空気衝突冷却手段をオンオフモードで操作することにより、先行技術のように、弁が開放する程度まで制御する必要がなくなるので、間隙制御手段の設計が簡略化される。
【0017】
さらに、ケーシングの上部と底部とで電気ヒータ手段が独立して動作することによって、具体的には、外側ケーシングの底部のみが加熱されて高圧タービンロータのブレードの先端部との接触を避けることによって、高温でのタービンエンジンの再始動の問題に対する解決策が得られる。
【0018】
本発明の別の特徴によれば、空気衝突冷却手段はリングを備え、リングは外側ケーシングによって担持され、高圧圧縮機から取り込まれた空気を送るために多孔ストリップが間に設置されて互いに軸方向に離間した突起部を含む。
【0019】
高圧圧縮機から空気を取り込む手段は、外側ケーシングへの空気の送達を開閉するための手段を含んでもよい。
【0020】
本発明の特定の実施形態では、冷却空気は、高圧圧縮機の第4段から、圧縮機を通る全空気流量の約0.7%の割合で取り込まれる。
【0021】
本発明の一実施形態では、電気ヒータ手段は、外側ケーシングの上部および底部で担持される抵抗回路を備える。
【0022】
有利には、抵抗回路は、外側ケーシングによって担持されるリングの突起部の近くに取り付けられる。
【0023】
本発明はさらに、上述したタービンエンジンの高圧タービンブレードの先端の間隙を制御する方法であって、高温の間にタービンエンジンを再始動させる時に、高圧タービンケーシングの底部のための電気ヒータ手段を最大電力で作動させるステップと、ケーシングの上部を加熱するための加熱手段を停止するステップとを含む方法を提供する。
【0024】
したがって、底部の電気ヒータ手段は、高温での再始動の間に作動して、ブレード先端の間隙が増大してタービンの効率を低下させるのを避ける。
【0025】
方法はさらに、タービンエンジンの低温での始動時に、最大電力の50%の電力で外側ケーシングの底部を加熱するための電気ヒータ手段を作動させるステップを含む。
【0026】
高温での再始動の後のタービンエンジン速度を増加させる段階の始めに、底部の電気ヒータ手段に対する電力は、一時的に上述の最大電力の約50%まで低下し、その後、電力は最大電力の約75%になるまで上昇する。
【0027】
同様に、低温での始動の後のタービンエンジン速度を増加させる段階の始めに、底部の電気ヒータ手段は、一時的に停止され、その後、最大電力の75%の電力になるように再作動される。
【0028】
速度増加の段階の始めに、このように高温での始動または低温での始動時に加熱を低減することにより、外側ケーシングが高圧タービンロータに比べてあまりにも速く膨張するのを避けることができ、ひいては、タービンエンジンの速度増加の始めに、ブレード先端を通り過ぎる空気の漏れを悪化させる間隙の増大を避けることができる。
【0029】
本発明の方法の別の特徴によれば、外側ケーシングの底部を加熱するための電気ヒータ手段は、巡航段階でのタービンエンジンの速度の低減の前に全電力で作動されて、一次流路の温度の低下により外側ケーシングがあまりにも速く収縮するのを避け、ブレード先端との接触を避けることができる。
【0030】
有利には、巡航段階では、外側ケーシングの電気ヒータ手段の全ては停止され、空気衝突冷却手段が作動される。
【0031】
非限定的な例として添付図面を参照して考察された以下の説明を読めば、本発明はより良く理解され、本発明の他の詳細、利点、特徴が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】高圧タービンおよび先行技術のブレード先端の間隙を制御するための装置の軸方向部分断面図である。
【
図2A】低温での再始動時のターボ機械の図である。
【
図2B】高温での再始動時のターボ機械の図である。
【
図3】高圧タービンおよび本発明のブレード先端の間隙を制御するための装置の軸方向部分断面図である。
【
図4】本発明のタービンエンジンの底部を加熱するための電気ヒータ手段の電力変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
最初に
図1を参照すると、
図1は、燃焼室の出口および低圧タービンから上流側に配置される高圧タービンの上部を示しており、高圧タービンは、外側ケーシング12と、内側でブレード付きロータホイール16が回転する一次空気流路の外側を画定する壁14とを備え、ロータホイール16は2列の固定羽根、つまり上流側列の羽根18と下流側列の羽根20との間に取り付けられる。壁14は、固定羽根18、20を担持する環状セグメント22、24と、環状セグメント22、24間に配置され、半径方向は高圧タービン(図示せず)のロータディスクによって担持される可動ブレード16の外端に面する環状セグメント26とから成る。
【0034】
リング28は、外側ケーシング12と壁14との間に介挿され、上流側端部には、外側ケーシング12の肩部32へのボルト締めによって固定される半径方向フランジ30を含み、下流側端部には、外側ケーシング12の下流側端部の半径方向フランジ36と下流側の低圧タービンのケーシング40の上流側端部の半径方向フランジ38との間で締め付けられる半径方向フランジ34を含む。リング28は、可動ブレード16を取り囲む環状セグメント26をスペーサ42を介して担持し、リング28はさらに、軸方向に互いに離間する複数の突起部44を含み、突起部44間に多孔ストリップ46が設置される。
【0035】
ブレード16の先端と環状セグメント26との間の間隙を制御する手段は、圧縮機の上流側部分から、例えば、第4の圧縮段から低温空気を取り込むための回路48と、圧縮機の下流側部分、例えば、第9の圧縮段から高温空気を取り込むための回路50とを備える。低温空気および高温空気をそれぞれ取り込むための回路48、50の各々は、低温空気および高温空気が取り込まれる割合を制御するそれぞれの弁52、54に接続される出口を有する。弁の出口に接続されるダクト56は、高圧圧縮機に取り込まれた空気の混合物を多孔ストリップ46に注入する働きをし、空気は多孔ストリップ46から排出されてリング28に衝突してリングを冷却または加熱する。
【0036】
低圧タービンを冷却するために、高圧圧縮機の第4段から空気を取り込むための第3の回路57が配設される。このために、取り込まれた低温空気は、外側ケーシング12を介して一次空気流路の内部に直接注入され、リング28のオリフィス58を通過して固定羽根20の列に至る。この冷却空気の流量は、高圧圧縮機を通る空気の全流量の約2%である。
【0037】
一般に、高圧圧縮機から取り込まれた空気の衝突によってリングを冷却または加熱することで、それぞれ外側ケーシング12およびリング28の冷却または加熱が生じることは容易に理解できる。この加熱または冷却が、可動ブレード16に面する環状セグメント26の半径方向位置を制御し、ひいては可動ブレード16の先端の間隙を制御する働きをする。
【0038】
リング28に衝突させるための低温空気と高温空気との混合は、FADEC(フルオーソリティデジタルエンジンコントローラ)システムを使用して制御される。FADECは、タービンエンジンを制御し、さまざまな種類の情報、例えば、エンジンの動作モード、外側ケーシング12の温度、次の作動までのエンジンが停止している時間の長さなどの情報を考慮して、弁54、52を開放してブレード16の先端の間隙を最小限に抑えるための適切な設定を決定する。
【0039】
例えば、エンジンが低温で開始され地上でのアイドリング状態にある時、外側ケーシング12および高圧タービンのロータディスクは平衡温度にある(
図2A)。したがって、高圧タービン59は、外側ケーシング12内の中心に配置される。高圧タービンのロータディスクの熱慣性のために、また外側ケーシング12の方が速く膨張するために、この配置では、ブレード先端の間隙が増大するのを避けるために外側ケーシング12を冷却する必要がある。したがって、制御システムは、第4の圧縮段から低温空気を取り込むための弁52を開放して、第9の圧縮段から高温空気を取り込むための弁54を閉鎖する。その後、取り込まれた空気は、多孔ストリップ46に送られて、リング28の突起部44に衝突してリング28および外側ケーシングを冷却するために多孔ストリップから出る。
【0040】
しかしながら、外側ケーシング12に空気を衝突させることによって冷却および加熱するための手段は、高圧タービンの全周囲で均一になるように、すなわち、リング28の全周囲に高圧圧縮機からの同じ空気の混合物が衝突するように動作するので、タービンエンジンが高温時に再始動される場合には十分でない。
【0041】
外側ケーシング12は高圧タービンのロータディスクよりも速く冷える(ディスクが冷えるのに約5時間かかる)ので、また、タービンエンジンはその底部がその上部よりも速く冷えるので、高圧タービン59のロータはケーシング12内で偏心位置に動かされる(
図2B)。高温での再始動の場合、底部位置でのブレード先端の間隙は非常に小さく、高圧タービンのロータへの遠心力の影響により、可動ブレード16の半径方向寸法は大きくなり、ひいては、底部位置で可動ブレード16の半径方向外側端部とそれに面する環状セグメント26との接触が生じる。
【0042】
上述したような空気衝突によって動作する間隙制御手段を使用することで、外側ケーシング12の全周囲が均一に膨張され、ひいては、タービンエンジンの上部におけるブレード先端の間隙が過度に大きくなる。
【0043】
本発明は、高圧圧縮機から高温空気を取り込む手段50を省いて、外側ケーシング12の上部を加熱するための第1の電気ヒータ手段と差し替えることで、この問題や上述した問題に対する解決策を提供する。第1の電気ヒータ手段は、外側ケーシング12の底部を加熱するための第2の電気ヒータ手段とは独立して制御される。外側ケーシング12の電気加熱は、高温空気衝突による加熱よりも速く加熱されるので反応も早いことが認められており、タービンエンジンの高圧圧縮機の性能を損なわない。
【0044】
外側ケーシング12の上部および底部を加熱するための第1および第2の電気ヒータ手段60は、
図3に示されるように、リング28の突起部44の近くに取り付けられ、これらの電気ヒータ手段は、抵抗型回路で構成されてもよい。
【0045】
第1および第2の電気ヒータ手段60には独立した制御手段が設けられ、これらの制御手段はFADECシステムに接続されて外側ケーシング12の底部および上部の加熱を独立して制御し、そのことによって高温でのタービンエンジンの再始動の問題に対処することができる。これについては、以下で詳細に説明する。
【0046】
外側ケーシング12は、上述したような空気衝突冷却手段によって、すなわち、第4の高圧圧縮段から空気を取り込むための回路48を介して冷却される。この空気は多孔ストリップ46に送られて、リング28の突起部44に向かって注入される。先行技術とは異なり、冷却手段は、FADECシステムに接続される制御手段63によってオンオフ制御される弁61を含むことができる。
【0047】
図4は、タービンエンジンの底部の電気ヒータ手段に印加される電力の変化を示したグラフであり、低温での再始動の場合を破線で、高温での再始動の場合を実線で示している。
【0048】
高温での再始動の時にタービンエンジンの底部におけるブレード先端の接触を避けるために、リング28の底部の電気ヒータ手段は62で示されるように全電力で作動され、そのことによりリングが膨張して、この底部におけるブレード先端の間隙が大きくなる。同様に、リング28の上部の電気ヒータ手段は、この位置でのブレード16の先端の間隙が十分であるので停止され、上述されるように、上部におけるブレード先端の間隙の増大を避けることができる。この場合、この間隙の増大はタービンエンジンの性能を低下させてしまう。
【0049】
再始動の後のエンジン速度を増加させる段階の始めに、底部を加熱するための電気ヒータ手段は、64で示されるように一時的に最大電力の約50%の電力が供給され、電気加熱の効果と速度増加による一次流路のガスの温度上昇の効果との複合効果により外側ケーシング12が急激に膨張した結果、間隙が増大するのを避けることができる。
【0050】
その後、電力は、再度、68で示される最大電力の約75%に達するまで、66で示されるように再び徐々に増加して、高圧タービンロータディスクのロータディスクが徐々に膨張することで生じるブレード先端の間隙を再調節する。
【0051】
本発明は、タービンエンジンの低温での始動時にも使用可能である(
図4)。この状況では、底部を加熱するための電気ヒータ手段は、70で示されるように、地上でのアイドリング速度が達成されるまで全電力で短時間(一般に、3秒間)作動され、その後、供給された電力は、72で示されるように、最大電力の50%まで低減される。地上でのアイドリングの間、高圧タービンのロータは外側ケーシング12内で偏心位置にないので、外側ケーシングの底部を大幅に膨張させる必要はない。
【0052】
低温での始動の後、エンジン速度が増加し始めると、底部を加熱するための電気ヒータ手段は、高温での再始動の後の速度増加に関して上述されるように、外側ケーシングが速く膨張するのを避けるために、74で示されるように一時的に停止される。
【0053】
その後、電力は、再度、68で示される最大電力の約75%に達するまで、76で示されるように再度徐々に増加して、高圧タービンロータディスクが徐々に膨張することで生じるブレード先端の間隙を再調節する。
【0054】
外側ケーシング12の底部を加熱するための電気ヒータ手段は、エンジンの再始動が低温で行われるか高温で行われるかに関係なく、巡航段階でエンジン速度を落とす前に、78で示されるように全電力で作動される。このことにより、外側ケーシングがあまりにも速く収縮するのを避けることができ、減速による温度低下のために可動ブレードの半径方向寸法を低減するのに必要な時間の間、十分な温度を維持することができる。
【0055】
巡航段階では、80で示されるように、電気ヒータ手段は停止され、空気衝突冷却手段のみが作動されて、弁が開放位置にされる。
【0056】
したがって、本発明により、巡航段階の間のみ動作する空気衝突冷却手段を備えることができる。巡航段階では、空気衝突冷却手段は非常に実行しやすいオンオフモードで動作する。