(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718343
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】シリンダスリーブ及び機械的デバイス
(51)【国際特許分類】
F02B 75/22 20060101AFI20150423BHJP
F02B 75/32 20060101ALI20150423BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20150423BHJP
F02F 1/00 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
F02B75/22 B
F02B75/32 D
F02F1/10 A
F02F1/00 P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-534514(P2012-534514)
(86)(22)【出願日】2010年8月31日
(65)【公表番号】特表2013-508602(P2013-508602A)
(43)【公表日】2013年3月7日
(86)【国際出願番号】CN2010001324
(87)【国際公開番号】WO2011047526
(87)【国際公開日】20110428
【審査請求日】2013年7月23日
(31)【優先権主張番号】200910236200.6
(32)【優先日】2009年10月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】511312540
【氏名又は名称】北京中清能発動機技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100140246
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 康重
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】黎 明
(72)【発明者】
【氏名】黎 正中
(72)【発明者】
【氏名】譚 智民
(72)【発明者】
【氏名】繆 会元
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳坤
【審査官】
見目 省二
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04270395(US,A)
【文献】
米国特許第05934229(US,A)
【文献】
中国特許出願公開第101761359(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第101761409(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第1429981(CN,A)
【文献】
特許第2872811(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/22
F02B 75/32
F02F 1/00
F02F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクピンが貫通する偏心丸穴を備えた、円筒形状の受入れ部材と、該受入れ部材を配置するための受入れ穴と、を有するピストンを備え、
主要軸穴を有するとともに、該主要軸穴の位置で交差するV字形に配置されて隣接したシリンダの群を備え、
前記隣接したシリンダの群を構成するそれぞれのシリンダは前記主要軸穴を通って延在する、V形ブロックであって、
それぞれの前記シリンダは前記主要軸穴を越える該シリンダの軸方向の長さを有し、前記主要軸穴を通って延在しており、
前記シリンダの軸方向の長さは、前記受入れ部材の前記受入れ穴の下に位置する前記ピストンの部分の往復運動に必要な往復運動範囲を提供するのに十分な長さである、V形ブロックに使用されるシリンダスリーブにおいて、
前記シリンダスリーブが、前記ピストンの往復運動の全体を受け入れるように前記シリンダの軸方向の長さがサイズ決めされた薄壁シリンダ本体であり、
前記シリンダスリーブが、前記薄壁シリンダ本体の中心軸と垂直に交差する軸線を有する貫通穴を備え、
前記貫通穴が軸方向で前記シリンダスリーブ内に位置することによって、前記シリンダスリーブが前記シリンダに嵌合した後は前記貫通穴が前記主要軸穴に直面することが可能になり、
前記貫通穴は、クランクシャフトのクランクピンを通過させるのに使用されるとともにクランクシャフト通過穴であり、
前記シリンダスリーブの軸線に平行であり、且つ前記クランクシャフト通過穴の軸線に垂直である面で切断することによって回避開口部が得られ、
前記回避開口部は、前記シリンダスリーブの末端に達することなく、前記シリンダスリーブの軸方向に沿った前記シリンダスリーブの中間部の凹状部の形態であり、
前記シリンダスリーブの第1の端面から前記回避開口部の第1の側面が位置する面まで延在する、前記ピストンのクラウンの軸方向移動に対する要件を満たす長さを有する第1の部分と、
軸方向で前記回避開口部によってカバーされる第2の部分と、
前記回避開口部の第2の側面が位置する面から前記シリンダスリーブの他方の端面まで延在する第3の部分と、の三つの部分に前記シリンダスリーブが分割されるようにして、前記回避開口部が前記シリンダスリーブの軸方向で位置し、
前記回避開口部の前記第2の側面が前記回避開口部の底線と交差する境界線で始まるとともに、前記回避開口部の前記底線の自然に延びる線に沿って延在するような位置で、軸方向に沿った前記シリンダスリーブの前記第3の部分が独立した円弧部分になるように部分的に切断されることを特徴とする、シリンダスリーブ。
【請求項2】
前記シリンダの底部にある開口部が内側リムを備えることを特徴とする、請求項1に記載のシリンダスリーブ。
【請求項3】
前記隣接したシリンダが交点で部分的に重なり合い、二つの隣接した前記受入れ部材が該交点に位置できるようにしてシリンダの食い違いギャップである該隣接したシリンダのそれぞれの中心軸間の距離が配置されることを特徴とする、請求項1に記載のシリンダスリーブ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシリンダスリーブを備えたV形ブロックを使用した内燃機関又は圧縮機であることを特徴とする機械設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク円形スライダ機構に関し、特に、クランク円形スライダ機構のV形ブロックに関する。本発明はまた、V形ブロックを備えたシリンダに使用されるシリンダライナーとシリンダライナー群を提供する。本発明はまた、V形ブロック、シリンダライナー、およびシリンダライナー群を利用する機械設備を提供する。
【背景技術】
【0002】
往復動内燃機関は、ピストンの往復運動をクランクシャフトの円運動に変換する必要がある。現在の一般的技術では、変換プロセスにはクランクリンク機構を使用する必要がある。クランクリンク機構にリンクロッドが存在しているため、機械は嵩高で重量があり、且つバランス性能に乏しい。
【0003】
これらの問題に取り組むため、中国特許CN85100358Bは「クランク円形スライダ往復動ピストン内燃機関(Crank circular slider reciprocating piston internal combustion engine)」を開示し、中国特許CN1067741Cは「クランク二重円形スライダ往復動ピストン内燃機関(Crank double circular slider reciprocating piston internal combustion engine)」を開示し、中国特許CN1144880Aは「クランク多重円形スライダ往復動ピストン内燃機関(Crank multi-circular slider reciprocating piston internal combustion engine)」を開示している。内燃機関の共通の特徴は、リンクロッドを交換するための偏心丸穴を備えた円形スライダを使用することによって、一般的技術の下で内燃機関のクランクリンク機構が徹底的に改善されている点である。偏心円形スライダは円筒形状を有するとともに、円形スライダの軸線に平行な偏心丸穴を有し、偏心丸穴は、クランクシャフトのクランクピン
が貫通するように設計される。内燃機関のピストンは、その両端にあるクラウンと、二つのクラウンを接続する案内部分とを備え、案内部分はその上に丸穴を有する。丸穴の内側ラジアル面は円形スライダの外側ラジアル面と噛合し、円形スライダは、ピストンの案内部分上にある丸穴内に位置し、円形スライダの外側ラジアル面と協働する。シリンダ内の燃焼ガスによって引き起こされる押しによって、ピストンがシリンダ内で往復移動すると、偏心的な円形スライダがそれ自体の中心の周りで回転し、次いでクランクシャフトの逆回転をもたらし、その結果、ピストンの往復運動がクランクシャフトの回転運動に転換され、次にクランクシャフトと接続された回転部品によって動力が外部に伝達される。上記特許の教示を、圧縮機又はバキューマイザにも適用して、クランク円形スライダ圧縮機又はクランク円形スライダバキューマイザを得ることもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載されているクランク円形スライダ機構では、そのピストンは、近年広く使用されているクランクリンク機構の内燃機関のピストンとは異なる機能を有する。このピストンは、可燃性混合ガスの爆発圧に耐え、それを線運動に転換するだけではなく、クランクシャフトが円形スライダの偏心穴を貫通している、円形スライダの受入れ穴を備えた円形スライダを提供し、したがって、円形スライダが円形スライダの受入れ穴に配置されることによって、クランク円形スライダ機構のピストンがクランクシャフトを間接的に支持するように機能する。
【0005】
ピストンの機能の変化に適合するため、クランク円形スライダ機構のピストンの構造はそれに相応して適合される。
図1を参照すると、この図は、クランク円形スライダ機構のピストンの斜視図とされる、中国特許CN85100358Bの明細書の
図4である。この図に示されるように、クランク円形スライダ機構のピストンは、案内部分2と、従来の内燃機関のピストンヘッドと同じ機能を有し、その頂面が燃焼室の一体部品として使用されるピストン頂部とも呼ばれ、シリンダのハーメチックシールを実現するオイルリングであるエアリングを配置するのに使用される複数のピストンリング溝を周囲に備える、クラウン1とを備える。この図では、クラウンは案内部分2をその下に備え、そのブロックは、ブロックの滑動トラックと一致することができる案内面と呼ばれる二つの面を有する薄いブロックであり、円形スライダの外径と一致する内径を有する丸穴は、薄いブロックの平面の中心線に設けられ、円形スライダの受入れ穴とも呼ばれる。
【0006】
上述のピストンの構造的変更に適合するため、クランク円形スライダ機構を使用する機器は、シリンダの配置の点で、クランクリンク機構を使用する機器とは明らかに異なる。クランク円形スライダ機構を使用する機器の本体では、ピストンは、円形スライダを受け入れる受入れ穴を備えていなければならず、クランクシャフトのクランクピンが円形スライダの偏心穴を貫通するので、クランクシャフトを取り付けるブロックの主要軸穴は、ピストントラックを提供するブロックシリンダと交差する必要があるが、既存のクランクリンク機構では、シリンダは主要軸穴と交差しない。それにより、クランク円形スライダ機構を使用する場合、シリンダを横断するように主要軸穴を配置した上で、ピストンが往復運動するのに十分なシリンダの軸方向長さを提供できるような形で、シリンダをどのように配置するかというのが解決すべき問題となる。特に、ブロックがV形構造を適用するという状況では、隣接したシリンダはV字形に配置されるが、クランク円形スライダ機構のシリンダは比較的長く、それに加えて各シリンダが主要軸穴と交差する必要があるという事実により、ブロックの空間的配置はより複雑になる。従来技術では、上述の問題を解決する解決策は得られていない。
【0007】
V形構造を備えたブロックを使用する際、外形寸法を最小限に抑えるという目的を達成するため、隣接したシリンダ内に配置された円形スライダは可能な限り近接している必要がある一方で、隣接したスライダ間の距離は、円形スライダ間の距離に大きな影響を与える。円形スライダ間の距離が大きくなる程、外形寸法が増加し、そのことがブロックのコンパクト性を損なう。それを解決するようにクランク円形スライダ機構のブロックを設計するのは困難である。
【0008】
別の問題は、V形構造を備えた上述のブロックを内燃機関のブロックとして使用するので、シリンダスリーブは通常必要であり、隣接したシリンダと主要軸穴との間の空間的関係が複雑であるという状況で、シリンダスリーブの追加によってシリンダ間の距離を増加させる必要性を生じさせることなくシリンダ構造を設計するという要件を満たすように、適切なシリンダスリーブをどのように設計するかということである。更に、隣接したシリンダスリーブ間にそれらの組立てを困難にする障害が何ら起こることなく、上述のシリンダスリーブをシリンダに容易に取り付けることも必要である。
【0009】
V形構造を備えたブロックに配置されたクランク円形スライダ機構は、通常、
図1に見られるようにクラウンがピストンの一方の側のみに設けられることを意味する、単動ピストンによって実現されるが、特定の例では、V形構造を備えたブロックは、クラウンがピストンの両側に設けられることを意味する、複動ピストンを有するクランク円形スライダ機構にも使用される。これは、クランク円形スライダ機構のみが有するピストンの形態である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の問題に取り組むため、本発明は、クランク円形スライダ機構に使用されるV形ブロックであって、シリンダが十分な往復運動長さを有するピストンを提供できるように、クランク円形スライダ機構がシリンダに対して必要とする特別な要件を満たすV形ブロックを提供する。
【0011】
本発明の更に有利な解決策では、シリンダの構造的にコンパクトな設計が提案され、V形ブロックを使用するクランク円形スライダ機構の構造は非常にコンパクトである。
【0012】
本発明はまた、上述のV形ブロックに適合する、その好ましい解決策によって取付けが簡単になるシリンダスリーブを提供する。
【0013】
特に、本発明は、円形スライダの受入れ穴と受入れ穴に受け入れられた円形スライダとを有するピストンを備え、主要軸穴を有するとともに、主要軸穴の位置で交差するV字形に配置されて隣接したシリンダの群を備え、この群を構成するそれぞれのシリンダは主要軸穴を貫通している、クランク円形スライダ機構のV形ブロックであって、それぞれの前記シリンダは主要軸穴を越える軸方向長さを有し、主要軸穴を貫通しており、その長さは、円形スライダの受入れ穴の下に位置するピストンの部分の往復運動に必要な往復運動範囲を提供するのに十分な長さである、クランク円形スライダ機構のV形ブロックを提案する。
【0014】
好ましくは、シリンダの底部にある開口部は内側リムを備える。
【0015】
好ましくは、隣接したシリンダは交点で部分的に重なり合い、二つの隣接した円形スライダが交点に位置できるようにして食い違いギャップ(staggering gap)が配置される。
【0016】
本発明はまた、上述のクランク円形スライダ機構のV形ブロックに使用されるシリンダスリーブであって、シリンダスリーブが、クランク円形スライダ機構のピストンの往復運動全体を受け入れるように軸方向長さがサイズ決めされた薄壁シリンダ本体であり、シリンダスリーブが、薄壁シリンダ本体の中心軸と垂直に交差する軸線を有する貫通穴を備え、貫通穴が軸方向でシリンダスリーブ内に位置することによって、シリンダスリーブがシリンダに嵌合した後は貫通穴が主要軸穴に直面することが可能になり、貫通穴が、クランクシャフトのクランクピンを通過させるのに使用されるとともに、クランクシャフト通過穴(crankshaft passage hole)とも呼ばれ、シリンダスリーブの側壁の一部が切り取られて、クランクシャフト通過穴がシリンダスリーブと交差する二つの円の一方を回避開口部(avoidance opening)が貫通し、他方の円が回避開口部に直面するように位置する回避開口部を形成し、回避開口部が位置するシリンダスリーブの軸方向部では、回避開口部及び円が切り取られた後のシリンダスリーブが、シリンダスリーブに嵌合されたピストンの案内部分の案内面を提供するのに十分な幅で二つの面上に残されることを特徴とする、シリンダスリーブを提案する。
【0017】
好ましくは、回避開口部は、シリンダスリーブの軸線に平行であり、且つクランクシャフト通過穴の軸線に垂直である面で切断することによって得られる。
【0018】
好ましくは、回避開口部は、シリンダスリーブの末端に達しない、シリンダスリーブの軸方向に沿ったシリンダスリーブの中間部上の凹状部の形態である。
【0019】
好ましくは、回避開口部は、シリンダスリーブの第1の端面から回避開口部の第1の側面が位置する面まで延在する、ピストンのクラウンの軸方向移動に対する要件を満たす長さを有する第1の部分と、軸方向で回避開口部によってカバーされる第2の部分と、回避開口部の第2の側面から他方の端面まで延在する第3の部分との三つの部分にシリンダスリーブが分割されるように位置し、軸方向に沿ったシリンダスリーブの第3の部分は、回避開口部の第2の側面が回避開口部の底線と交差する境界線で始まるとともに、回避開口部の底線の自然に延びる線(naturally extending line)に沿って延在するような位置で、独立した円弧部分になるように部分的に切断される。
【0020】
好ましくは、回避開口部がシリンダスリーブの軸方向に沿ってシリンダスリーブ内にどの程度位置するかによって、シリンダスリーブの第1の端面から回避開口部の第1の側面が位置する面まで延在する、ピストンのクラウンの軸方向移動に対する要件を満たす長さを有する第1の部分と、軸方向に沿った回避開口部によってカバーされる第2の部分と、回避開口部の第2の側面が位置する面からシリンダスリーブの他方の端面まで延在する第3の部分との三つの部分に、シリンダスリーブがその軸方向に沿って分割され、シリンダスリーブの軸方向での第3の部分は、回避開口部の第2の側面が回避開口部の底線と交差する境界線で始まり、シリンダスリーブの中心軸線に接近する角度が付いた方向でシリンダスリーブの下側端面までの位置で、独立した円弧部分になるように部分的に切断される。
【0021】
本発明はまた、第1及び第2のシリンダスリーブを含むシリンダスリーブ群であって、第1のシリンダスリーブが上述したようなものであり、第1のシリンダの第3の部分が切り取られておらず、第2のシリンダスリーブが上述したようなものであり、組み立てるとき、最初に、第1のシリンダスリーブの回避開口部が第2のシリンダスリーブの取付け位置に面するようにして第1のシリンダスリーブが取り付けられ、次に、第2のシリンダスリーブの切り取られた円弧部分がその取付け場所に取り付けられ、次に第2のシリンダスリーブの本体が部分的に取り付けられ、組立ての最後には、二つのシリンダスリーブの回避開口部の底線が相互に接することを特徴とする、シリンダスリーブ群を提供する。
【0022】
本発明はまた、クランク円形スライダ機構のV形ブロックを使用することを特徴とする機械設備であって、内燃機関又は圧縮機であり得る機械設備を提供する。
【0023】
好ましくは、機械設備のシリンダは上述のシリンダスリーブ群を備える。
【0024】
本発明のクランク円形スライダ機構のV形ブロックは主要軸穴の下に設けられ、シリンダの伸長は、円形スライダの受入れ穴の下でピストンの部品を受け入れるとともに、その部品に往復移動の軌道を提供するようなものであり、したがって、クランクスライダ機構のピストンに対する移動軌道の要件を満たし、総軸方向長さ及び部品それぞれの長さは、ピストンが往復する軌道の長さの要件を満たす。
【0025】
本発明の好ましい解決策では、二つの隣接したシリンダはそれらの交点で部分的に重なり合う。重なり合う部分のキャビティは、相互に接する二つの円形スライダを受け入れることができるようにサイズ決めされる。隣接したシリンダの重なり合いのそのような設計により、隣接したシリンダは、それらの間により小さな食い違いギャップを有することが可能になり、結果として、クランク円形スライダ機構及びブロックの容積が有効に減少し、エンジンを製造するための材料が低減される。
【0026】
本発明のシリンダスリーブは、クランク通過穴及び回避開口部を具備する。これらの構造により、シリンダスリーブが、V形ブロックを備えた隣接したシリンダと主要軸穴との間の複雑な位置関係に適合するとともに、シリンダにぴったり収まって取り付けられることが可能になる。このシリンダスリーブの好ましい解決策では、一つのシリンダスリーブ群を隣接したシリンダ内に容易に取り付けられるように、シリンダに収まるときに、シリンダスリーブが既に隣接したシリンダに取り付けられているのを回避することができる、二つの部品で作られたシリンダスリーブが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】従来技術によるクランク円形スライダ機構のピストンを示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態のV形ブロックを示す第1の斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態のV形ブロックを示す第2の斜視図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態のV形ブロックを示す第3の斜視図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態によるシリンダスリーブを示す斜視図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態による別のシリンダスリーブを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本出願の第1の実施形態は、単動ピストンを使用するクランク円形スライダ機構を取り付けるように設計された、クランク円形スライダ機構に使用されるV形ブロックを提供する。
【0029】
図2を参照すると、この図は、フライホイールを取り付けるブロックIの後端面側にある側面下部に向かって見た、本出願の第1の実施形態によるV形ブロックIの斜視図である。同時に
図3を参照すると、この図は、V形ブロックの取付けギアボックスの前端面の側面図である。一方、
図4を参照すると、この図は、V形ブロックの取付けギアボックスのカバーの前端面の下面図である。
【0030】
図から分かるように、ブロックIは、V字の形態で相互に向き合って配置された第1のシリンダ11及び第2のシリンダ12という二つのシリンダを備える、二重シリンダブロックを備えたV形ブロックである。二つのシリンダは相互に隣接し交差する。
図4から分かるように、交差位置は主要軸穴13内に位置し、主要軸穴13は、第1のシリンダ11及び第2のシリンダ12の軸線に垂直であり、それらの交点を貫通する。主要軸穴13が前記第1及び第2のシリンダを越える位置は、クランク円形スライダ機構の円形スライダを取り付けるための空間である。第1のシリンダ11及び第2のシリンダ12は主要軸穴13で交差し、次に、主要軸穴13の下側部分まで、つまり主要軸穴13と比較してオイルパンのブロック部により近いところまで延在する。延長部は、シリンダ内に取り付けられるピストンのクランク受入れ穴の下方の軸方向長さと一致するとともに、ピストン往復運動長と一致し、ピストンに続く円形スライダの受入れ穴の下でピストンの部品の往復運動全体を十分に受け入れるようにサイズ決めされる。円形スライダの受入れ穴の下の部分は、ブロック内に取り付けた後のブロックのオイルパンにより近いピストンの部分である。
【0031】
第1のシリンダ11及び第2のシリンダ12が主要軸穴13の下で延在する部分の端面、つまりシリンダの端部は、オイルパンと嵌合するブロックの底部に面する、内側縁部14を備えた底部開口部を有する。
【0032】
第1のシリンダ11及び第2のシリンダ12は交点で重なり合い、つまりそれらの円筒状形態は交点で合致する。二つの隣接したシリンダを食い違わせるギャップは、シリンダのいずれか一方の直径よりも小さいが、ギャップは、二つのシリンダが相互に食い違う部分が二つの隣接した円形スライダの幅を受け入れられるようにサイズ決めされ、つまり、シリンダを食い違わせる空間に取り付けられた二つの円形スライダのいずれか一方は、シリンダの円筒状表面が空間内に延在する境界を越えないことになる。取付け後、二つの隣接した円形スライダは、シリンダを食い違わせる空間に相互にぴったり収まり、一体となる。シリンダを食い違わせるギャップは、二つのシリンダの中心軸の間の距離である。
【0033】
V形ブロックは、クランク円形スライダ機構において、スライダの長さが顕著であるためにV形ブロックを配置するのが困難であるという課題をより良好に解決する。したがって、V形ブロック自体がクランク円形スライダ機構に使用されることになり、よって構造上のコンパクト性という利点が得られる。
【0034】
上述のV形機構が内燃機関に使用された後、シリンダスリーブは従来シリンダに取り付けられる。かかる構造により、シリンダスリーブの取付けに関する多くの困難がもたらされる。二つの隣接したシリンダは重なり合う部分を有するので、第2のシリンダのシリンダスリーブは、第1のシリンダがシリンダスリーブに搭載された後で底部に達しないようにして、第1のシリンダに取り付けられたシリンダスリーブによって妨げられる。したがって、特定のシリンダスリーブを設計することが必要である。
【0035】
図5を参照すると、この図は、本出願の第2の実施形態のシリンダスリーブの斜視図を示す。
図5から分かるように、シリンダスリーブIIは、その軸方向長さがシリンダスリーブ内に取り付けられるシリンダに一致する薄壁シリンダであり、シリンダスリーブIIの軸方向長さは、クランクリンク機構を使用する内燃機関のシリンダよりもはるかに長い。その長さによって、クランク円形スライダ機構のピストン全体が軸方向に沿って往復運動することができる。シリンダスリーブIIは、シリンダスリーブIIの軸方向の向きを提供するように、その一端にある外径面上に、シリンダスリーブIIがシリンダ内に取り付けられるとシリンダの上端によって抑えることができる突出したリングを備える。したがって、突出したリングは支承肩部23とも呼ばれる。支承肩部23を備える端面は、シリンダスリーブの下側端面と呼ばれる別の端面が対向するシリンダスリーブの上端面である。薄壁シリンダ本体の側面がシリンダスリーブの下側端面と交差する面によって形成される縁部は、シリンダスリーブIIをシリンダに容易に挿入できるようにする案内食付き部(guiding chamfer)24を備える。
【0036】
シリンダスリーブIIは、その軸線が薄壁シリンダ本体の中心軸と直交する貫通穴を備える。貫通穴は、シリンダスリーブがシリンダ内に取り付けられた後、主要軸穴13に直面するようになる。シリンダスリーブIIを円周方向に適切に調節することによってのみ、貫通穴は主要軸穴13と同軸になる。上述のシリンダスリーブIIの貫通穴は、クランクシャフトのクランクピンを通過させるのに使用され、クランクシャフト通過穴21とも呼ばれる。シリンダスリーブIIの側壁の一部は、シリンダスリーブIIの軸線に平行であり、且つクランクシャフト通過穴21の軸線に垂直である面によって回避開口部22を形成するように、必要な切取り位置及び切取り深さで次のように切断される。クランクシャフト通過穴21がシリンダスリーブと交差する二つの切取り円の一方は、回避開口部22によって切り取られ、他方はそれに直面し、回避開口部22が位置するシリンダスリーブIIの軸方向断面は、二つの側面によって形成される幅を有して、回避開口部22及び切取り円によってシリンダスリーブIIの側壁が除去された後に、シリンダスリーブIIに取り付けられたピストンの案内部分の案内軌道面を提供する。
【0037】
回避開口部22は、シリンダスリーブの末端に達することなく、軸方向でシリンダスリーブIIの中間部に置かれる。したがって、回避開口部22は、第1の側面22-1、第2の側面22-3、及び底面22-2を備えるU字形部分である。それは、シリンダスリーブIIの軸方向で三つの区画に、つまり、支持肩部23を備えたシリンダスリーブの第1の端面から回避開口部の第1の側面が位置する面までで制限される、ピストンのクラウンの軸方向移動に必要な長さを満たす長さを有する第1の区画と、回避開口部22によってカバーされる軸方向範囲である第2の区画と、回避開口部22の第2の側面22-2が位置する面からシリンダスリーブの他方の端面までの軸方向範囲である第3の区画とに分割される。ここで、第3の区画は最も短い区画である。
【0038】
上述の実施形態のシリンダスリーブIIによって、シリンダスリーブIIがV形ブロックに使用されたとき、隣接したシリンダスリーブの回避開口部が相互に接近するか、又は更には底面22-2によって相互に接触することができる。その結果、二つのシリンダスリーブIIの交点は、シリンダのより小さな食い違いギャップと協働する相互に埋め込まれたギャップを備える。したがって、このタイプの二つのシリンダスリーブIIが共同すると、シリンダスリーブ群が得られる。
【0039】
第2の実施形態のシリンダスリーブは、静止取付け位置でその機能を実現することができるが、どのようにしてシリンダ内に固定されるかは考慮されない。実際には、第3の区画は完全円なので、第1のシリンダスリーブIIがシリンダ内に固定された後、且つ隣接したシリンダ内に固定すべきシリンダスリーブIIをシリンダに挿入する必要があるとき、第3の区画は、既に固定されたシリンダスリーブIIの回避開口部22と部分的に干渉することになるので、シリンダスリーブIIはほとんど取り付けられない。上述の取付けの問題は、次のようにしてブロックIを設計することによって解決できる。取外し可能なカバーを、ブロックIを構成する部品として個々の場所に位置させることができ、後で固定されるシリンダスリーブIIを次いでカバーを取り付ける前に取り付け、それによって第2の実施例のシリンダスリーブ群を使用できる。明らかに、この解決策により、ブロックを設計し製造することの困難性が増大し、そのためこれは不合理な解決策である。
【0040】
本出願の第3の実施形態は、取付け中の干渉に関する問題をより良好に解決する、第2の実施形態と協働するシリンダスリーブを提案する。
【0041】
図6を参照すると、図中のシリンダスリーブIIIは第2の実施形態のものとほぼ類似しているが、回避開口部22の第2の側面22-3が回避開口部の底面22-2と交差する交差線からシリンダスリーブの下側端面まで、シリンダスリーブIIIの中心軸に接近する角度が付いた方向で切取り位置が延在する別個の円弧25を形成するように、シリンダスリーブIIIの第2の区画が、換言すれば回避開口部22の第2の側面22-3から支持肩部23を有さない端面までの区画が切断されている。円弧25はシリンダスリーブIII全体から分離可能なので、V形ブロックでは、最初に第2の実施形態のシリンダスリーブIIIがシリンダ内に取り付けられ、次に回避開口部22を、本実施形態のシリンダスリーブIIIが取り付けられた隣接したシリンダに向かって向き付ける。特定の取付けプロセスは次の通りである。最初に、内側面14を円弧25の配置面として使用して、シリンダスリーブ内に取り付けられるシリンダの下端開口部に円弧25を入れる。次に、シリンダスリーブIIIの第3の区画の回避開口部22の上方にある部分は既に切り取られているので、シリンダスリーブIIIの第3の区画がシリンダスリーブIIの回避開口部と干渉しないようにして、シリンダスリーブIIIの本体をシリンダに挿入する。したがって、二つのシリンダスリーブの二つの回避開口部が最終取付け位置で相互に近接するか又は接触し、それによって前記シリンダスリーブ間の距離が最小になって本体のサイズを低減するという要件を満たすまで、シリンダスリーブIIIの回避開口部22が、既に固定されたシリンダスリーブIIの回避開口部22に滑らかに接近しそこを通過することができる。シリンダスリーブIIIの挿入後、その第3の区画はシリンダの底部に既に取り付けられた円弧24を補完するので、完全なシリンダスリーブが形成される。円弧25とシリンダIII本体との間の境界線の角度は、それら両方の取付け及び協働が円滑であるように、案内の役割を果たす。実際には、境界線は直線であることができ、換言すれば、底面22-2の自然な延長は境界線として直接使用される。その際、より多くの問題が明らかに生じることになり、円弧25の取付け位置のいかなるずれによっても、シリンダスリーブIII本体がシリンダの底部に達することが困難になる。
【0042】
第2の実施形態及び第3の実施形態のシリンダスリーブは、シリンダスリーブ群の実施形態が得られるように対にして組み合わされる。
【0043】
本出願の内燃機関及び圧縮機の実施形態は、第1の実施形態の本体をクランクスライダ機構を備えた内燃機関又は圧縮機に利用することによって得ることができる。
【0044】
本出願の上述の実施形態はそれぞれ、V字形に配置されたシリンダ対のV形ブロックを有する。実際には、V字の形態に配置されたシリンダの二つ又は複数の対を備えたものであることができ、例えば、複数のV形シリンダをクランクシャフトの軸線の延長に沿って配置することができる。当然ながら、他のあらゆる従来技術又は将来可能な技術を使用して、V形シリンダの二つ以上の対を配置することができ、これも上述の実施形態によって定義される範囲内である。
【0045】
上述の実施形態では、V形シリンダに取り付けられたピストンは単動ピストンであると仮定されるが、上述のシリンダの構造は複動ピストンシリンダにも当てはまる。一方、その構造は、シリンダが主要軸穴の下側部を超えて延在する軸方向長さを、例えば主要軸穴の上方でのシリンダの配置に従って、燃焼室を設計する必要に応じて設計することが求められる点を除いて、上述の実施形態と同じである。同時に、主要軸穴の下のシリンダの部分も燃焼室の一部として設計する必要がある。
【0046】
上記は単に本発明の好ましい実施形態であり、当業者であれば、本発明の基本的理論から逸脱することなく多くの改善及び修正を行うことも可能であり、それらの改善及び修正も本発明の保護範囲として見なされることに留意されたい。