(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5718377
(24)【登録日】2015年3月27日
(45)【発行日】2015年5月13日
(54)【発明の名称】パルボウイルスをHDAC阻害剤と併用して使用する癌治療
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20150423BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20150423BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20150423BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20150423BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20150423BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20150423BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20150423BHJP
【FI】
A61K35/76
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/19
A61K31/185
A61K31/196
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-557446(P2012-557446)
(86)(22)【出願日】2011年3月17日
(65)【公表番号】特表2013-522251(P2013-522251A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】EP2011001328
(87)【国際公開番号】WO2011113600
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2013年1月21日
(31)【優先権主張番号】10002829.9
(32)【優先日】2010年3月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505033721
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュングスツェントルム
【氏名又は名称原語表記】Deutsches Krebsforschungszentrum
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】230105223
【弁護士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】マルチーニ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ロメラエレ,ジーン
(72)【発明者】
【氏名】エル−アンダロウシ,ナジム
(72)【発明者】
【氏名】フリストフ,ゲオルギ
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジユンウエイ
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/075165(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/083232(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0220124(US,A1)
【文献】
特表2009−507914(JP,A)
【文献】
特表2007−524650(JP,A)
【文献】
特開2004−043390(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/108755(WO,A1)
【文献】
国際公開第2004/064727(WO,A1)
【文献】
Clinical Cancer Research,2009年,Vol.15, No.2,p.511-519
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−76
A61K 31/00−33/44
A61K 45/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)H−1パルボウイルス(H−1PV)および(b)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)を含む、子宮頸癌または膵癌の治療のための医薬組成物。
【請求項2】
(a)H−1パルボウイルスおよび(b)HDACIを別々の容器内に含む、子宮頸癌または膵癌の治療のためのキット。
【請求項3】
(a)パルボウイルスH−1および(b)HDACIが、順次投与される、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
パルボウイルス(a)が、HDACI(b)よりも前に投与される、請求項3に記載のキット。
【請求項5】
パルボウイルスが、腫瘍内投与により投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
パルボウイルスが、腫瘍内投与により投与される、請求項2乃至4のいずれかに記載のキット。
【請求項7】
HDACIが、酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)またはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)である、請求項1または5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
HDACIが、酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)またはスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)である、請求項2乃至4および6のいずれかに記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)パルボウイルスおよび(b)ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)を含む医薬組成物、ならびに、癌、例えば、脳腫瘍、子宮頸癌、または膵癌の治療のための前記組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌は、世界で2番目に多い女性の悪性腫瘍であり、毎年270,000人を超える死亡と500,000の新規症例の原因である。ある種のヒトパピローマウイルス(HPV)、いわゆる高リスク型(例えば16および18型)が、子宮頚部発癌の原因物質である。高リスクHPVからの2つのウイルス癌遺伝子、E6およびE7は、細胞の悪性化を担い、それらの継続的発現は、通常遺伝毒性物質または可溶性のデスリガンドにより活性化される細胞死経路の不活性化に関連する。放射線療法、化学療法および外科手術による従来の治療は、HPVに関連する癌腫に対して大部分は効果のないままであり、新しい治療戦略が緊急に必要である。最近開始された予防ワクチンは、ワクチン接種を通して感染の効果的な予防を達成する見込みは得られるが、子宮頸癌発生率の低下となるまでには数十年を必要とするであろう。
【0003】
膵管腺癌(PDAC)は、最も致死的な胃腸悪性腫瘍の1つである。PDACは、北米において癌関連死亡例の4番目に多い原因であり、ヨーロッパでは6位、英国では5位である。この疾患は、現在利用できる治療に高度耐性化している。外科的切除が長期の生存に最も可能性をもたらすが、少数の患者においてのみ実現可能であり、リスクがないわけではない。外科手術が選択肢でない進行した疾患では、特にゲムシタビンまたは5−FU(5−フルオロウラシル)を用いる化学療法が作用し始めるが、効果はそれでも中程度であり、常に高い一般毒性を伴う。ゲムシタビンは、局所進行性または転移性膵癌の患者のための一次治療としてFDAに認可された。この薬物は、代謝拮抗剤クラスの細胞周期依存性のデオキシ−シチジン類似体であり、ヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体(hENT)によって細胞へ輸送され、デオキシシチジンキナーゼ(dCK)によってその活性三リン酸塩形態へリン酸化される。ゲムシタビン治療の重要な懸念は、この化学療法薬に対する耐性の発現にある。この耐性は、薬物の取り込み/リン酸化の低下、ならびに/またはABC輸送体ファミリーメンバーMDRおよびMRP1/2による細胞からの放出の増強に起因し得、活性化したゲムシタビンの細胞内プールの枯渇をもたらす。ゲムシタビンとその他の治療計画の併用が、耐性変異株を絶滅させることにより制癌効果を向上させるため、または化学療法の用量およびその後に続いて起こる毒性の低下を可能にするために調査されている。
【0004】
ラットパルボウイルスH−1PVおよびそのマウス相同体マウス微小ウイルス(MVM)を含む、げっ歯類パルボウイルスグループのいくつかのメンバーが、その制癌能で高い注目を集めている。実際に、これらのウイルスは、ヒトに対して非病原性であり、固有の腫瘍溶解特性および腫瘍抑制(oncosuppressive)特性を有する。その上、ヒト集団がいまだにH−1PV感染に曝されていない(pre−exposed)という事実は、ウイルスに基づく治療の有効性が低いことの一般的な理由である、既存の抗ウイルス免疫の問題が、H−1PVの場合には存在しないことを示す。そのために、ウイルスは投与後に患者の免疫系により直ちに除去されず、治療の実効時間を増加させる。
【0005】
パルボウイルスゲノムは、非構造(NS1およびNS2)タンパク質およびキャプシッド(VP1およびVP2)タンパク質の発現をそれぞれ調節する2つのプロモーター、P4およびP38を含有する、約5100塩基の一本鎖DNAからなる。げっ歯類パルボウイルスは、いくつかの細胞死経路を活性化することが示されている。特に、細胞種および成長条件にもよるが、H−1PVは、アポトーシス、壊死またはカテプシンB依存性細胞死を誘導する能力がある。
【0006】
パルボウイルス複製および腫瘍崩壊は、悪性形質転換に付随する細胞変化によって刺激される。H−1PVは、天然に、細胞培養と動物モデルの両方で、ヒト子宮頸癌由来の細胞株に対して抗悪性腫瘍活性を提示することを示すことができた。これらの結果は、癌腫に対するH−1PVの治療可能性を明示する。しかし、パルボウイルスが、特定の例では、腫瘍を完全に根絶することができないか、その増殖を停止することができないことも述べるべきである。しばしば、耐性細胞が発生し、腫瘍再発の可能性をもたらす。さらに、ウイルスは腫瘍細胞において選択的に複製するが、正常細胞に侵入することもでき、治療に適したウイルスの量を減少させる。そのために、その腫瘍溶解活性を強化して、癌細胞を死滅させる際にパルボウイルスと協力して作用することのでき得るその他の物質を見出すことが大いに有利であろう。
【0007】
要約すれば、残念ながら、ヒトにおいて試験した腫瘍溶解性ウイルスは、単剤療法プロトコールで使用された場合、単独で完全かつ永久的な腫瘍の根絶を誘導することに限られた成功を示した。腫瘍細胞の破片(fraction)は、ウイルス治療を逃れ、腫瘍再発のリスクが増加する。パルボウイルスが増殖する腫瘍から単離されたという事実は、単独で、これらのウイルスもまた、必ずしも増殖を停止させるかまたは腫瘍性病変の完全な退縮を引き起こすのに十分なほど強力でないことを示す。そのために、さらなる有害な副作用なしに、癌細胞を効率的に死滅させる際にウイルスと作用することのでき得る薬物を見出すことが非常に望ましい。これらの薬剤は、(i)その他の手段によってパルボウイルス耐性細胞を死滅させること、(ii)癌細胞をパルボウイルス細胞毒性に対してより高感受性にし、それによって効力を得るために必要なウイルス用量の低下を可能にすること、および/または(iii)薬物をより低い濃度で使用できるようにし、それにより安全性を向上させることによって治療の成果を改善することができ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、改良されたパルボウイルスに基づく治療法のための手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、これは、特許請求の範囲において定義される主題により実現される。本発明は、パルボウイルスとヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACI)の併用治療により、治療効果が相乗的に改善され得るという出願人の知見に基づく。HDACIsは、構造上不均一な分子の群である。HDACIs、すなわち酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)、バルプロ酸(VPA)およびスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)の致死未満量は、パルボウイルスの抗悪性腫瘍活性を、癌、例えば子宮頸癌由来のHeLa(HPV−18陽性)、CaSkiおよびSiHa(HPV−16陽性)および原発子宮頸癌細胞ならびに膵管腺癌(PDAC)由来のAsPC−1およびCapan−1細胞株において相乗的な方法で強化することが見出された。HDACIsは、癌において発現停止している複数の遺伝子の転写を再活性化し、このようにしてそれらは癌細胞の増殖抑制、分化およびアポトーシスを誘導することができる。HDACIで処理した子宮頸癌細胞ならびに膵管腺癌細胞は、E2F−標的遺伝子p73のアポトーシス促進性イソ型の強い誘導と相関するが、p53の再活性化に依存しないE2Fに媒介されるプロセスによってアポトーシスを受ける。さらに、パルボウイルスの非構造タンパク質(NS−1)は、HDACIsによりアセチル化され、結果的にパルボウイルスの複製および細胞殺傷活性は高度に改善される。
【0010】
よって、パルボウイルスは、癌、例えば前立腺腫瘍、肺腫瘍、腎腫瘍、肝腫瘍、リンパ腫、乳腺腫瘍、肝細胞腫または黒色腫および特に脳腫瘍、子宮頸癌、または膵癌を、HDCA阻害剤と併用して、好ましくは2段階プロトコールで治療するのに多大な治療可能性を有する。
【0011】
要約すれば、パルボウイルスH−1PVおよびHDAC阻害剤は、癌、例えば子宮頸癌由来細胞株(HeLa、CaSki、SiHa)および原発腫瘍細胞ならびに膵管腺癌(PDAC)由来細胞株(AsPC−1およびCapan−1)を死滅させる際に相乗的に作用することが実証され得る。これら2種類の薬剤間の協同作用は、致死未満量のHDAC阻害剤を用いて起こり、それは正常な組織に対する望ましくない副作用のリスクを低下させる。併用療法は、H−1PV(およびその他の腫瘍溶解性パルボウイルス)を低い濃度で、その有効性に影響を及ぼすことなく使用することを可能にし得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】H−1PVおよびHDAC阻害剤の子宮頸癌由来細胞株の相乗的死滅 HeLa(HPV18陽性細胞株)およびSiHa(HPV16陽性)を、示されるMOIでH−1PVに感染させ、その後、HDACIsの存在下(黒色バー)または不在下(灰色バー)で増殖させた。試験したHDACIsは、HeLa細胞に関してNaB(1mM)、TSA(50nM)およびSAHA(50nM)であり、SiHa細胞に関してNaB(2mM)、TSA(100nM)およびSAHA(500nM)であった。インキュベーション後、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定することにより細胞溶解を評価した。バーの上の値(%で表示)は、得られる相互作用を示す。1つの代表的な実験の結果を示す。
【
図2】H−1PVおよびHDAC阻害剤の子宮頸癌由来細胞の相乗的死滅 原発子宮頸癌細胞を、示されるMOIでH−1PVに感染させ、その後、HDACIsの存在下(黒色バー)または不在下(灰色バー)で増殖させた。試験したHDACIsは、NaB(1mM)、TSA(100nM)およびSAHA(200nM)であった。インキュベーション後、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定することにより細胞溶解を評価した。値(%)は、得られる相互作用を示す。1つの代表的な実験の結果を示す。
【
図3】HDAC阻害剤によるH−1PV細胞毒性の増強 (A)mock処理またはH−1PV(MOI:1pfu/細胞)感染HeLa細胞のいずれかを、NaB(1mM)の存在下または不在下で増殖させた。48時間後、フローサイトメトリーによるsub−G1細胞集団の分析のために細胞を回収した。NaBとの併用治療(co−treatment)は、H−1PVにより誘導されるsub−G1細胞集団を増加させ、該化合物が癌細胞を死滅させる際にウイルスと相乗的に作用することを示す。
【0013】
(B)各々三重反復で実施された3つの独立した実験の概要を示す。バーは、平均値+/−相対標準偏差を表す。P<0.05、対応のあるスチューデントのt検定が示される(
***)。
【
図4】H−1PV/HDAC阻害剤の併用治療による、アポトーシスを受けている細胞の破片の増加 青色の線としてラベルされ、数字で示される、sub−G1細胞集団の増加は、HDAC阻害剤がH−1PV細胞毒性を増強することを示す。
【
図5】H−1PVおよびHDAC阻害剤による子宮頸癌由来細胞株の相乗的死滅。 子宮頸癌由来細胞株(HeLa、CaSki、SiHa)および確立されていない子宮頸癌細胞培養(CxCa)を、示されるMOI(pfu/細胞)でH−1PVに感染させ、VPA(1mM)の存在下(灰色のバー)または不在下(白色のバー)で72時間増殖させた。インキュベーション後、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を測定することにより細胞溶解を評価した。各々の図表の右手側の斜線のバーは、単剤療法として癌細胞の90〜100%を死滅させることのできるH−1PVの最小用量を示す。同様の細胞毒性は、それよりも低いウイルスMOIで、H−1PVと致死未満量のVPA(1mM)を組み合わせることにより得られ、両方の薬剤が癌細胞を死滅させる際に相乗的に協働することが示される。
【
図6】H−1PV/VPA併用治療によりもたらされるHeLa定着腫瘍の完全な退縮。 5×10
6HeLa細胞を、5週齢の雌ヌードラットの右側腹に皮下注射した。5日後(腫瘍が200〜400mm
3の量に到達した時)、腫瘍を有する動物を4つの群に無作為化した(n=8)。群を、DMEM(対照)、VPA(100mk/kg)、H−1PV(総用量1.25 109pfu/動物、移植後5日、9日、16日および23日の4回の腫瘍内投与に分割)か、または両方の薬剤の組合せのいずれかで処理した。腫瘍容積を、示された日にデジタル式カリパスで測定し、次式に従って計算した:容積(cm
3)=L×W×H(長さL、cm;幅W、cm、高さH、cm)。示したデータは、平均値を標準偏差バーとともに表す。
【
図7】H−1PVおよびHDAC阻害剤によるPDAC由来細胞の相乗的死滅。 APC−1およびCapan−1細胞を、96ウェルプレート(2000細胞/ウェル)に播種した。16時間後、細胞を、示されるMOIでH−1PVに感染させ、VPAの存在下または不在下でさらに72時間増殖させた。細胞溶解をLDHアッセイにより測定した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、(a)パルボウイルスおよび(b)HDCA阻害剤を、好ましくは別々の実体として、例えば別々の容器中に含有する医薬組成物を提供する。
【0015】
好ましくは、前記医薬組成物中に、パルボウイルスおよびHDCA阻害剤は、有効量で存在し、製薬上許容される担体と組み合わされている。「製薬上許容される」は、有効成分の生物活性の有効性を妨げない、かつ、それを投与する患者に対して毒性のないあらゆる担体を包含することを意味する。適した製薬担体の例は、当技術分野で周知であり、それには、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、乳濁液、例えば油/水乳濁液など、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液などが含まれる。かかる担体は、従来法により処方されてよく、有効量で被験体に投与され得る。
【0016】
用語「パルボウイルス」は、本明細書において、その野生型または修飾された自己複製能をもつ誘導体、ならびに関連するウイルスあるいは、かかるウイルスまたは誘導体に基づくベクターを含む。適したパルボウイルス、誘導体など、ならびに前記パルボウイルスを活発に産生するために使用される細胞および治療に有用な細胞は、過度の実験労力なしに、本明細書中の開示に基づいて当分野の技術の範囲内で容易に決定できる。
【0017】
「有効量」とは、疾患の経過および重篤度に影響を及ぼし、かかる病態の減少または緩解をもたらすために十分な有効成分の量をさす。これらの疾患または障害を治療および/または予防するために有用な「有効量」は、当業者に公知の方法を用いて決定することができる(例えば、Fingl et al.,The Pharmocological Basis of Therapeutics,Goodman and Gilman,eds.Macmillan Publishing Co.,New York,pp.1−46((1975)参照)。
【0018】
さらなる製薬上適合する担体には、ゲル、生体吸収性マトリックス剤、治療薬を含有する移植エレメント、または任意のその他の適したビヒクル、送達または分配手段または材料(類)を挙げることができる。
【0019】
化合物の投与は、様々な方法、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所または皮内投与により達成することができる。投与経路は、当然、治療の種類および医薬組成物中に含まれる化合物の種類に依存する。好ましい投与経路は、静脈内投与である。パルボウイルスおよびHDACIの投与計画は、当分野の技術の範囲内で、主治医により、例えば患者のサイズ、体表面積、年齢、性別、投与する特定のパルボウイルス、HDACIなど、投与の時間および経路、腫瘍の種類および特徴、患者の全体的健康、ならびに患者が受けているその他の薬物治療を含む、患者データ、所見およびその他の臨床要因に基づいて容易に決定できる。
【0020】
本発明に従うHDACIsと併用したパルボウイルスが、血液脳関門を通過する能力をもつ感染性ウイルス粒子を含む場合、治療は、ウイルス、例えばH1ウイルスの静脈注射によって実施するか、少なくとも開始することができる。好ましい投与経路は、腫瘍内投与である。
【0021】
長期の静脈治療は、ウイルスに対する中和抗体の形成の結果として非効率的となることに影響を受けやすいため、初期投与計画の静脈内ウイルス投与の後に様々な投与方法を採用してもよく、またはそのような異なる投与技法、例えば、頭蓋内または腫瘍内ウイルス投与を、パルボウイルス治療の全過程を通じて代わりに用いてもよい。
【0022】
別の具体的な投与技法として、パルボウイルス(ウイルス、ベクターおよび/または細胞薬剤)を、患者に移植された放出源から患者に投与することができる。例として、例えば、シリコーンまたはその他の生体適合性材料のカテーテルを、腫瘍除去の間に、または別個の手順により患者に導入した小型の皮下リザーバ(Rickhamリザーバ)に接続して、さらなる外科的介入を行わずにパルボウイルス組成物を様々な回数で局所的に注入することができる。パルボウイルスまたは由来ベクターはまた、定位手術法によるかまたはニューロナビゲーションターゲッティング技法により腫瘍に注入することもできる。
【0023】
パルボウイルスの投与は、埋め込まれたカテーテルを通じて低流速で、適したポンプ系、例えば、蠕動式輸液ポンプまたは対流増加送達(CED)ポンプを用いて、ウイルス粒子またはウイルス粒子を含有する流体の持続注入により実施することもできる。
【0024】
パルボウイルス組成物のさらに別の投与方法は、パルボウイルスを所望の癌組織に分配するよう構築および配置された埋め込み物品からの投与方法である。例えば、パルボウイルス、例えば、パルボウイルスH1を含浸させたウエハを用いることができ、該ウエハは外科的腫瘍切除の終わりに切除腔の端部に取り付けられる。複数のウエハをそのような治療的介入に用いることができる。パルボウイルス、例えば、パルボウイルスH1、またはH1ベクターを活発に産生する細胞を、腫瘍切除後に腫瘍または腫瘍腔に注入することができる。
【0025】
本発明に従う併用療法は、癌、例えば前立腺腫瘍、肺腫瘍、腎腫瘍、肝腫瘍、リンパ腫、乳腺腫瘍、肝細胞腫または黒色腫、特に脳腫瘍、子宮頸癌、または膵癌の治療に有用であり、前記疾患の予後を著しく改善することができる。パルボウイルスH1感染は、腫瘍細胞の死滅をもたらすが、正常細胞に害を与えるものでなく、そのような感染は、有害な神経学的作用またはその他の副作用なく、腫瘍特異的治療を達成するために、例えば、適したパルボウイルス、例えば、パルボウイルスH1、または関連ウイルスまたはかかるウイルスに基づくベクターの大脳内使用により行うことができる。
【0026】
また、本発明は、癌の治療のための(a)医薬組成物(類)の調製のための、(a)パルボウイルスおよび(b)HDACIの使用に関し、この際、好ましくは、(a)および(b)は、順次に(または別々に)投与される。
【0027】
本発明の1つの好ましい実施形態では、薬剤の併用は、神経膠腫、髄芽細胞腫および髄膜腫などの脳腫瘍、子宮頸癌、または膵癌の治療において利用される。好ましい神経膠腫は、悪性ヒト神経膠芽腫である。
【0028】
本発明のもう一つの好ましい実施形態では、組成物のパルボウイルスには、パルボウイルスH1(H−1PV)または関連パルボウイルス、例えば、LuIII、マウス微小ウイルス(MMV)、マウスパルボウイルス(MPV)、ラット微小ウイルス(RMV)、ラットパルボウイルス(RPV)またはラットウイルス(RV)が含まれる。
【0029】
本発明に従う薬剤の併用により治療可能な患者としては、ヒトならびに非ヒト動物が挙げられる。後者の例としては、それに限定されないが、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、およびネコなどの動物が挙げられる。
【0030】
本発明の目的に有用なHDACIsには、腫瘍増殖の阻害に効果的なすべてのHDACIsが含まれる。HDACIの投与は、非経口および腸経路による全身投与を含む、多様な方法(上記参照)で達成することができる。好ましくは、パルボウイルスおよびHDACIは、別々の化合物として投与する。HDACIおよびパルボウイルスの好ましい投与間隔は、−30日(パルボウイルスでの治療の前のHDACIの投与)からパルボウイルスでの治療後60日である。2つの薬剤の同時処置も可能である。
【0031】
併用療法に適したHDCAIsの特定の例としては、酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)またはバルプロ酸(VPA)が挙げられる。
【実施例】
【0032】
下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
材料および方法
(A)HDAC阻害剤
酪酸ナトリウム(NaB)およびトリコスタチンA(TSA)は、SIGMA−Aldrich(ミュンヘン、ドイツ国)より購入し、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)およびバルプロ酸(VPA)は、Alexis Bio−chemicals(Enzo Life Science,レラハ、ドイツ国)より購入した。
【0034】
(B)乳酸デヒドロゲナーゼアッセイ(LDH)
パルボウイルス細胞毒性は、Promega(マンハイム、ドイツ国)製のCytoTox96キットを用いて培地中の乳酸デヒドロゲナーゼの放出を評価することにより測定した。感染前日、50μlの培地中の96ウェルプレートに、ウェル当たり2000個の細胞を播種した。24時間後、細胞を、1条件当たり7反復で、50μlのH−1PVを含有する血清フリー培地に感染させるか、またはHDAC阻害剤で処理した。測定当日、7のうちの3つのウェルを、溶解バッファーで30分間インキュベートして、100%溶解の条件下での最大LDH放出を見積もった。その後、プレートを遠心し、50μlの上清を基質ミックス(substrate mix)と混合した。LDH酵素は、培地中で放出された酵素の量を示す比色反応を触媒する。30分後、反応を停止させ、ElisaリーダーMultiScanを492nmで用いて分析した。
【0035】
(C)sub−G1細胞集団の測定
ウイルス感染細胞または薬物処理細胞を、0.05%トリプシン−EDTA溶液で培養皿から収集し、ファルコンチューブに回収した後、PBSで2回洗浄した。次に、細胞を260μlのPBSに再懸濁し、ボルテックス下で滴下した700μlの冷100%エタノールで固定し、4℃で一晩貯蔵した。PBS中で2回洗浄した後、20μg/mlのRNアーゼおよび10μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)を含有するPBS溶液に細胞ペレットを再懸濁した。細胞懸濁液を濾過し、FACSortフローサイトメーター(Becton−Dickinson)によって分析した。最小限の20,000イベントを獲得した後、CellQuestソフトウェア(Becton−Dickinson)(San Jose,California)で分析した。
【実施例2】
【0036】
パルボウイルスH−1PVおよびHDAC阻害剤は、子宮頸癌由来細胞株(HeLa、CaSki、SiHa)および原発腫瘍細胞を死滅させる際に相乗的に作用する。
【0037】
致死未満量のHDACIs、すなわち酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)およびスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)は、子宮頸癌由来HeLa(HPV−18陽性)、CaSkiおよびSiHa(HPV−16陽性)および原発子宮頸癌細胞においてPV細胞毒性を相乗的に増加させることが見出された。
【0038】
図1は、試験した3種類のHDACIsと組み合わせた様々なH−1PV感染多重度(MOI=pfu/細胞)を用いる、HeLaおよびSiHa細胞でのLDHアッセイから得た結果を示す。同様の結果は、CaSki細胞(データは示さず)および原発子宮頸癌細胞(CxCa)(
図2)においても得られ、約80%の細胞死をもたらす最大94%の相乗作用が、SAHA(200nM)とH−1PV(MOI=100pfu/細胞)を組み合わせることによって実現された。上述の癌細胞を死滅させる際の相乗作用は、パルボウイルスを別のHDACI、すなわちVPAと併用しても観察された(データは示さず)。
【0039】
癌細胞を死滅させる際のH−1PVとHDACIsとの間の相乗作用を、HeLaおよびCxCaにおいてフローサイトメトリーにより確認し、2N未満のDNA量を含有する細胞の画分(sub−G1細胞集団)を、アポトーシスを受けている細胞の共通する特徴である、DNA断片化のマーカーとして分析した。
図3は、HeLa細胞で得られた結果を示す。H−1PV感染は、アポトーシスsub−G1細胞集団の増加に関連し、それはNaBの添加によりさらに増強される(18%から32%)。
【0040】
図4は、原発子宮頸癌細胞で得られた結果を示す。H−1PVおよびHDAC阻害剤は、アポトーシスの増加(26から37%)により実証されるように、CxCa細胞を死滅させる際に相乗的に作用する。H−1PV/HDACIsの併用が子宮頸癌由来細胞を死滅させる際に最大の相乗作用をもたらす条件を、表1に要約する。
【0041】
【表1】
【実施例3】
【0042】
パルボウイルスH−1PVおよびHDAC阻害剤は、インビトロ(a)およびインビボ(b)で子宮頸癌由来細胞株および原発腫瘍細胞を死滅させる際に相乗的に作用する。
【0043】
(a)インビトロ相乗作用。
【0044】
致死未満量のHDACIs、すなわちバルプロ酸(VPA)、酪酸ナトリウム(NaB)、トリコスタチンA(TSA)およびスベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)は、子宮頸癌細胞株HeLa(HPV−18陽性)、CaSkiおよびSiHa(HPV−16により形質転換)および低継代子宮頸癌細胞培養においてH−1PV細胞毒性を相乗的に増強することが見出された。
【0045】
図5は、1mM VPAと併用した、様々な感染多重度(MOI、細胞あたりのプラーク形成単位[pfu]で表す)のH−1PVを用いる、LDHアッセイ(細胞溶解の指標として、培地中の乳酸デヒドロゲナーゼの放出を測定)から得た結果を示す。単独で適用した場合、VPAは、使用した濃度での細胞増殖にあまり効果がなかったが、パルボウイルスは、MOI依存的な様式ですべての子宮頸癌細胞培養を死滅させた。致死未満量のVPAは、パルボウイルス誘導性の細胞殺傷を相乗的に後押しし、50〜100%まで増加させた。これらの結果の確認は、アポトーシスsub−G1細胞集団のフローサイトメトリーによる測定(データは示さず)により得た。同様の結果は、H−1PVをNaB、TSAまたはSaHaと組み合わせることによっても得られた(表2)。
【0046】
【表2】
(b)インビボ相乗作用
H−1PV/HDACIs相乗作用をインビボで検証するために、HeLa異種移植ヌードラットモデルを使用した。H−1PV単独は、高いウイルス用量を投与した場合に(2.5×10
9pfu/動物、1週間間隔で4回の腫瘍内投与に分割)、確立された腫瘍の完全な退縮を実現することができた(データは示さず)。それよりも低いウイルス用量の1.25×10
9(pfu/動物、上記と同様に分割)では、腫瘍増殖は鈍化し、退縮は起こらなかった、これは、治療効果を得るためには、臨界用量のウイルスが必要であることを示す。100mg/kgの濃度で、VPAは、腫瘍増殖を損なうことができず、これはmock処理対照に匹敵した(ラットは腫瘍が最大許容サイズの5cm
3に達した時に犠牲にした)。対照的に、動物にそれよりも低い量のウイルスを注入しVPAと併用処置した(co−treated)場合には、腫瘍増殖は著しく低下し、最終的に1〜3.2cm
3のサイズで停止した。最も顕著なことに、すべての併用処置した動物において、この安定化の後に急速な退縮が続き、結果として既存の腫瘍の完全な消失がもたらされた(
図6)。処置動物のいずれにおいても、体重減少またはその他の有害な副作用は記録されなかった。これらの結果は、子宮頸癌の治療のためにH−1PVとHDACIsを併用するという考えをさらに強化する。
【実施例4】
【0047】
パルボウイルスH−1PVおよびHDAC阻害剤は、膵管腺癌(PDAC)由来細胞株(APC−1およびCapan−1)を死滅させる際に相乗的に作用する。
【0048】
インビトロ相乗作用。
【0049】
致死未満量のHDACIs、すなわちバルプロ酸(VPA)は、膵管腺癌(PDAC)由来AP−1およびCapan−1細胞株においてPV細胞毒性を相乗的に増加させることが見出された。
【0050】
図7は、PV細胞毒性に対して非常に抵抗性であることが記載されている(Dempe et al.,2010)AP−1およびCapan−1細胞株での、LDHアッセイから得た結果を示す。細胞を96ウェルプレートに播種し、次に様々な濃度のH−1PVをHDACIバルプロ酸(VPA)の存在下または不在下で感染させた。72時間後、LDHアッセイによって細胞溶解を測定した。
図7に示されるように、実験に使用した濃度での、VPAによる単独処置は、両方の細胞株の増殖に効果がなかった。以前の結果に一致して、H−1PVは、高い多重度で感染した後でさえ、これらの培養に対して限られた細胞毒性しか示さなかった。H−1PVの細胞障害活性は、VPAにより著しく増強された。これらの結果により、様々な腫瘍実体の治療のためにHDACIsとH−1PVを併用することがさらに支持される。